第四十話 新たなる冒険
レイジが去った秘密基地からは未だ緊張感は抜けきらなかった。
何か恐ろしい事態が進行している。
吸い込まれそうな夜と緊張。
「とにかく明日、兵士団には伝えに行った方が良いわ。ワタル、頼めるかしら?」とハウンが言った。
「ギルベルトさんに伝えに行ってくるよ。任せて。」とワタルが返す。
「しかし妙だな…俺たちに計画を教えようものなら、兵士団に伝わることくらいわかりそうなもんだがな…天泣は俺たちを舐めているか、よっぽどバカなのか…だ。」とファング。
「幹部も減って苦戦も強いられる中で戦況は厳しくなるはず…よね。」とハウンが言った。
「戦力が足りなかったから、脅して仲間として脅して仲間として引き込もうとしたっていうだけなのかな」とサヤも腑に落ちなさそうな顔をしている。
「何かが引っかかるわね」とハウンが同意する。
「裏があるにしても何も知らせないまま国が滅ぶようなことがあればそれが一番最悪だ。」とファングは武器を手入れしながら言う。
「だからこそ、今のうちに兵士団に情報を渡して対策を練ってもらう必要があるのよ」とハウンが真剣な表情で続けた。
そのやり取りの間、スノーは黙っていたが、その表情には明らかな動揺が見て取れた。普段は明るく元気な彼女も、レイジの冷酷な言葉と不気味な笑顔に心を揺さぶられていた。彼女の手は微かに震え、目には不安の色が浮かんでいた。
ハウンはその様子に気付き、スノーの肩に手を置いて優しく声をかけた。「大丈夫よ、スノー。私たちは一緒に戦って、必ず勝つわ。」
スノーは無理に微笑みを浮かべ、頷いた。「うん…ありがとう、ハウン。でも、やっぱり怖い…」
レイジに対する怒りに震えながらも、ミヤビをも殺害してしまった彼のそこ知れぬ実力への恐怖が、彼女の中には渦巻いていた。
翌朝、ワタルは兵士団の本部に向かった。建物の前に着くと、衛兵が立っている。
「用件は?」と衛兵が尋ねた。
「ギルベルト団長に緊急の報告があるんです。昨夜、天泣の幹部が…」とワタルが説明を始めると、衛兵が手を挙げて制止した。
衛兵の顔には一瞬の驚きが走り、その後すぐに理解の表情が浮かんだ。「君は…ホリックを倒した時に一緒にいたワタルか?」と衛兵が尋ねた。
ワタルは頷き、「そうです。今度はもっと大きな危機が迫っています。すぐに団長に会わせてください」と真剣な表情で訴えた。
衛兵は一瞬考え込んだが、その後、頷いて言った。「わかった、君の言葉を信じよう。しかし、団長は今会議中だ。すぐに会うのは難しいかもしれないが、伝言を預かるか、しばらく待ってもらうことになる。」と衛兵は言った。
ワタルは焦りを感じながらも、冷静に答えた。「できるだけ早く会いたいんです。本当に緊急なんです。」
「分かった。とにかく中で待ってくれ。会議が終わり次第、団長に伝える。」と衛兵は促し、ワタルを兵士団の待機室へと案内した。
待機室で時間が過ぎるのを感じながら、ワタルは心の中で仲間たちのことを思い浮かべた。「早く伝えなければ…」彼の心臓は緊張で早鐘を打つように鼓動していた。
数十分後、ようやく会議が終わり、兵士団の副団長であるアルトが待機室に現れた。彼はワタルに笑みを浮かべて近づいた。
「お待たせしました、ワタルさん。急な対応で申し訳ありません。ギルベルト団長は今日、急な別件で手が離せず、代わりに私が話を伺います。何か重要な情報があると聞いていますが、どうぞお聞かせください。」とアルトは丁寧に言った。
一通り事情を説明する。
アルトはそのまま軽く頷き、「わかりました。情報提供、ありがとうございます。こちらでも対応を検討いたします。」と、さばさばとした口調で答えました。
ワタルはその反応に少し困惑し、思わず一瞬言葉に詰まりました。「えっと…本当にそれだけで大丈夫なんですか?」
アルトは微笑を浮かべながら、「問題ありません。我々もやるべきことをいたします。君たちも準備を進めておいてください。」と言った。
「でも……」と戸惑うワタル。
「ギルベルト団長からメッセージを預かっていますので、伝えます。『君たちに感謝し、約束することを誓う。現状でははっきりとした見通しを立てることはできないが、この国の未来を決める戦いに備えよ』とのことでした。」アルトの言葉には確かな真剣味が感じられた。
「何を悠長な…と思いましたか?」とアルトは軽く微笑んだ。
「いえ…その…。ただ、色々と不確定な部分が多い今、すぐに何か対策を取った方がいいのではないかと……」とワタルは強く訴えた。
アルトは肩をすくめながら答えた。「確かにあなたたちの言うとおりです。しかし私たちも天泣の情報を追っており、足取りを掴めています。天泣のボス、ルシアスの動向も把握しているつもりです。」
「それなら……」
「我々は全体を把握しながら行動したいと思っています。我々にも計画についての全貌が見えていませんから……何か見通しが立てばすぐに皆さんに相談します」
アルトの冷静な対応に、ワタルは少し安堵しつつも、まだ完全には安心できなかった。「わかりました。でも、し何かあったらすぐに連絡をください。僕たちも全力でサポートしますから。」
アルトは微笑を浮かべて頷いた。「もちろんです。あなたたちの協力は非常に貴重です。お互いに連携を強めて、天泣の計画を阻止しましょう。」
ワタルは兵士団から戻ると、秘密基地で待っている仲間たちに報告を始めた。
「ギルベルト団長には会えなかったけど、副団長のアルトさんに話を聞いてもらったよ。」ワタルは一息ついてから続けた。「天泣の動向は把握しているらしい。けど、今すぐ具体的な対策を取ることはできないって…」
「それって、本当に大丈夫なの?」スノーは不安げに聞いた。
「アルトさんは、我々にも計画の全貌が見えていないから、準備を進めるようにって言ってた。」ワタルは肩をすくめた。「お互いに連携を強めて、天泣の計画を阻止しましょうとも言われたけど…」
「なんとも煮え切らない話だな。」ファングが呆れた様子で言った。「あいつら、ほんとに信じていいのか?」
「アルト…アルトか…」ファングは考え込むようにその名を呟いた。
「でも、副団長って言ってたから、重要な人物なんでしょう?」ハウンが確認した。
「そうだと思う。でも、実際にどう動くかはまだ分からない。」ワタルは困惑した表情で続けた。
「とにかく、俺たちも準備を進めておくしかないね。」
「うーん…なんだかスッキリしない。」サヤは腕を組みながら言った。
「油断は禁物だ。兵士団も大して信用出来たもんじゃねぇからな。」と相変わらずファングは彼らに対する懐疑心を露わにした。
ワタルたちは、兵士団から得た情報や自身の考えをもとに、次の行動を決めるために再び話し合いを始めた。
「ところで、サヤが加わったことで食費や新たな武具を揃えるための資金も心許ないよね。」ハウンは優しい声で指摘した。「見た目に反して大食いだから、予算がすぐにオーバーしちゃうの。それに、つまみ食いも多いしね。」とサヤの方に目を向ける。
サヤは悪びれた様子もなく笑いながら言い訳を始めた。「ごめんね、みんな。でも、あまりに魔力を使うから、すごく空腹になっちゃうの。たくさん食べないと力が出ないんだ。それに、魔力を使えば太らないしね。」
「だったら、仕方ないよねー。じゃあ私ももっと食べちゃおー」とスノー
「おい、真に受けるな」とファングが逸る二人を静止しようとする。
その場をしきり直すようにハウンは咳払いをして、ギルドへと向かうことを提案した。
一同は目的地につき、受注できる依頼の一覧を目にする。それは驚くべきものだった。
相当手慣れなパーティでないと実行できないAランクの依頼までも舞い込んできたのだ。
駆け出しの頃からは想像もつかないような段階に自分たちがやってきたことを実感した。
そして彼らは、互いの顔を見合わせ、頷き合い、この新しい挑戦に立ち向かう覚悟を決めた。
どうやら天泣の幹部の討伐が大きく評価されているらしい。このままAランクの依頼もいくつかこなしていけば最高位であるSランクも夢ではないだろう。
報酬が高いものを選ぶか、それとも難易度の高くないものをいくつも実行するか。
人助けをするために結成したパーティだが緊急時なので、報酬を優先するのも仕方がないだろうとワタルは自分を説得した。
【エムルート島の悪魔の討伐】
報酬が300万Gと破格だ。
不親切にも悪魔が何者であるかという説明が一切ない。
エムルート島という場所もワタルにとってほとんど聞き馴染みがない。他のメンバーにとってもラグド王国の南の港から出航する船で行くことのできる孤島だという程度の知識しかなかった。
「確かに、それに今の状況では資金が必要だ。これだけの報酬があれば、かなり助かる。」ワタルが頷く。
「そうだな。装備を整えないと、次の戦いでは苦戦するかもしれないし。」ファングが目を輝かせながら言った。
「確かにね。でも、このエムルート島の悪魔の討伐って、詳細がほとんどないのが気になるわ。」ハウンが少し心配そうに言った。
「よーし!やってみよう!」スノーが意気揚々に言った。
こうして、ワタルたちは新たな冒険に向けて準備を整え、エムルート島へと旅立つ決意を固めた。





