第三十九話 来客
日記の一件から帰宅したファングは晴れやかな表情をしていた。
サヤが魔法を使ってノートを乾かしてくれている。なんでも出来てしまうのかと思うほど彼女の能力は多種多様だ。
食事の場で、ワタルはレフレにまた会ったことを報告した。
一同の注目が彼に集まり、静かに話を聞いていた。
「サヤ、手首を見せてくれないか?」とワタルが尋ねた。
「えっち」とサヤは手首を隠している。
「違う!お前な!なんてこと言うんだよ」とワタル。
慌てるワタルがおかしかったのか、少女は一瞬吹き出したあと、ごそごそと服の中から痣の刻まれた小さな手をワタルの前に出す。
「実は俺にもあるんだ…転生者であることの証らしい」とワタルは手首を差し出す。
「形も全く同じだね。ワタルの方がはっきりしてるけど」とスノーは痣を指でなぞっている。
ファング、ハウン、スノーの3人にも手首を見せてもらったが何もなかった。
サヤが小さな声で言った。「ワタルには転生する前の記憶があるんだよね?どうして私は忘れちゃったんだろう…。」
「転生者はこの世界で果たすべき役割があって、それに近づくほど痣がはっきりしてくるって…」とワタルは言う。
「サヤの使命については全くわかんねぇけど、痣の変化はよく見ておくってことだな。それが無くした記憶に繋がるかもしれない…そういうわけだな?
」とファングは冷静にまとめた。
「うん、その通りだ。ありがとうファング」とワタル。
「ワタルのはサヤのものより随分濃いのね」とハウンが痣をまじまじと覗き込んできた。
「探しているあの子の手がかりなんて全くないんだけれど、近づいてはいるってことだよな」とワタル。
「みんなで頑張ったからだね。感謝するんだよ。」とスノー。
「そうだね」とワタルは微笑んだ。「みんなのおかげで、少しずつだけど前に進んでいる気がするよ。」
サヤはワタルの言葉を聞いて、少しだけ元気を取り戻した。「ありがとう、みんな。私も頑張るよ。きっと記憶が戻る日が来るって信じてる。」
その瞬間、秘密基地の入り口が大きな音を立てて開いた。全員が驚き、入口に目を向けると、そこには宿敵であるレイジが立っていた。彼の目は鋭く、しかし表情は冷静だった。
レイジが現れると、一同は一斉に臨戦態勢に入った。ファングは素早く双剣を、ハウンはレイピアを抜き、サヤは手のひらに魔力を集中させ始めた。スノーは身体をこわばらせながらも構えている。
しかし、レイジは全く動じることなく、ニコニコと笑顔を浮かべていた。「本当に、戦う気はないんだよ」と彼は穏やかに言った。
「信じられるとでも?」ファングが鋭く問い詰める。
「まあ、信じなくてもいいさ」とレイジは笑顔を崩さずに言った。「でも、君たちも分かっているだろう。今の君たちでは俺に勝てないってことを。」
ワタルは冷静に状況を見極めようとして、深呼吸をした。「それで、何が目的だ?どうしてここが?」
「とある情報筋からさ。今日はちょっとした挨拶とそれと提案さ!」レイジは相変わらずの笑顔で答えた。
「提案…?」震えた声でスノーは訊ねた。
「我々天泣は近々大きな作戦を展開する予定だ。でも誰かさんたちのおかげで幹部が4人もやられちゃったからその準備に手間取ってるんだ」とレイジは言い、ニコニコとした笑顔を崩さなかった。
ファングが剣を握りしめ、さらに一歩前に出た。「だから何だって言うんだ?俺たちに何をさせたいんだ?」
レイジは軽く肩をすくめ、「簡単な話だよ。君たちにその作戦を邪魔しないでほしいんだ。まぁ最も協力してくれるって言うならそれが最高にありがたいんだよね。」とファングをにらみながら笑う。
「随分身勝手だな」ワタルはレイジをまっすぐ見つめながら言った。
「こっちだって厳しいからね。いろいろ考えてきてるさ。」レイジの笑顔に一瞬影が差したように見えた。
「でも、君たちは天泣どんな作戦を展開するのか、全く知らないだろう?それはフェアじゃないよね?」とレイジは続ける。「だから今日はそれを説明しに来たんだ。」
「端的に言えば、この国を再編成するための作戦さ」とレイジは冷静に言った。「現在の腐敗した国を打倒し、新しい秩序を築くための大規模な行動だ。」とレイジは言い放った。彼の笑顔は依然として変わらなかったが、その言葉には冷たい決意が感じられた。
「そんなこと、許せるわけがない!」ファングが剣を構え直した。
「まあまあ、焦らないで」とレイジは軽く手を振って制止した。「今の君たちでは、まだその力がないんだ。だからこそ、君たちには時間をあげる。私たちが動き出すまでに、君たちがどれだけ強くなれるか見せてほしい。」
「選択肢は君たちにある」とレイジは肩をすくめた。「戦いを避けるために力をつけるか、無力なまま挑むか。どちらにせよ、俺たちは計画を進めるだけだ。」
「そんなこと…!」とワタルが言いかけたところでレイジは口の前で指をばつ印に交差させた。
「すぐすぐにってわけじゃないよ。少なくとも一月くらいはね…それまでによく考えておいて。」
レイジは初めてサヤに目を留め、微笑みながら近づいた。「初めてお目にかかるね、はじめまして。君は強力な魔法使いとみた。そこ知らぬ実力をひしひしと感じるよ。」
サヤは一瞬身構えたが、レイジの穏やかな表情に戸惑いながらも返答した。「…あなたには関係ないわ。」
レイジは笑みを浮かべたまま続けた。「いやいや、大いに関係あるさ。魔法使いは潰しがいがあるからね。我が師匠のようにね…」
スノーは拳を握り締め、震える声で言った。「ふざけないで!」
ハウンがスノーを制止しようと手を伸ばしたが、スノーはそれを振り払った。「レイジ、私たちは絶対に負けない!そして、あなたの計画も絶対に阻止してみせる!」
「威勢がいいね、お嬢さん」と彼は微笑んだまま言った。「楽しみにしてるよ。ではまたね」とレイジは手を振って秘密基地を去っていった。





