第三十六話 再会
天泣の幹部 レイジに遭遇し、手も足も出なかった一同。気がついた時には教会のベットに寝かされていた。ワタル、ファング、ハウンは無事を確認するが、スノーの姿だけない。
ファングが駆け寄って仲間たちに声をかけると「それが……」といって窓の外から飛び出したような痕跡があった。
玄関から出てはシスターに止められると思ったのだろう。
彼女は教会裏の林に佇み、ただ呆然としていた。その目は虚ろであり、生気を感じ取ることはできない。
ワタル達は彼女の側に駆け寄った。
「スノー!大丈夫?」とハウンが声をかけるも反応はない。
「スノー?」とハウンは彼女の手を取った。
すると彼女はビクッと身体を震わせたかと思うと、ゆっくりとこちらを振り返った。その瞳には涙が浮かんでいた。
「ごめん……なさい」と彼女は呟いた。
その姿を見て、みんなは何と言って慰めれば良いのか分からなくて戸惑っていた。
「ここは私に任せて。ちょっと込み入った話しがしたいの。」とハウンが2人に耳打ちをする。
「ほらここからは男子禁制よ?」と声をかけられてしまった2人は仕方なく部屋へ戻っていくことした。
長年の友達同士であるから、慰める方法の一つや二つ心得ているのかもしれない。現在のスノーはとても寂しさというか闇のようなものを覗せていて、今までの明るい彼女の面影を残してはいなかった。
ひとまず教会へ戻ったワタルは、レイジと出会ったことをサヤに手紙で報告することとした。
タクトの両親へは事実は一先ず伏せておこうと考えた。あまりにもショックが大きいであろうからだ。
1時間ほどかけて、手紙を投函する。
時間は遡って、ハウンたちがスノーの元へ向かった頃 教会裏の林の中で、スノーは1人佇んでいた。
彼女はレイジとの戦闘で受けた傷や痛みは既に癒えていた。ただ、心に大きな穴が開いたような気持ちになっていたのだ。
ふと気づくと、足元に小さな花が咲いていた。スノーはその花を見て思わず笑みが溢れた。
(この花……ミヤビさんと一緒に見つけた花だ!)と思い出すと同時に涙が流れてきた。
その涙は止まらなかった……止めようとする気もなかったのかもしれない。
スノーはその場にしゃがみ込み、泣き続けた。
どれくらい時間が経っただろうか……ふと気づくと隣に誰か座っていたようだ。彼女は顔を見ずともその気配で誰なのかすぐに分かった。
ハウンだ! スノーは慌てて涙を拭うと、何事もなかったかのような表情を作って立ち上がり、彼女の顔を見た。するとそこにはいつもの優しい笑顔があった。
ハウンはゆっくりと口を開いた。
彼女はスノーの肩に手を置いて、優しく語りかけた。
スノーは無言で俯いたまま聞いているようだったが、やがて絞り出すような声で話し始めた。
レイジとの戦闘で受けた傷や痛みは既に癒えているはずなのに、胸の奥底に疼くような痛みを感じていたからだ。その痛みに耐えきれず、涙が止まらなかったのだ……と。そしてミヤビさんのことを思い出してしまったことも相まって感情が抑えられなくなってしまったのだと告白したのだった。
ハウンは何も言わずにただ黙って彼女の話を聞いてくれただけだったが、それだけでもスノーにとっては救いとなった。
彼女はハウンの優しさに感謝しながら、少しずつ落ち着きを取り戻していったのだった。
そして、最後に一言だけ呟いた……ありがとうと。
その後2人は教会へ戻り、仲間たちの元へ戻った。
そこには心配そうな表情を浮かべて待っているワタルの姿があったが、スノーは努めて明るく振る舞った。それが自分にできる唯一のことだと考えたからだ。
そんな様子にファングやハウンも安堵し、笑顔を見せたのだった。しかし同時に彼女の中にある悲しみを垣間見てしまったような気がしてならなかったのである。
そして、スノーは決意した。必ずレイジを倒すことを心に誓ったのだ。
その日から彼女はより一層訓練に励み始めた。自分の魔法を最大限に活かすため、そして仲間を守るために……
しかしその一方で、彼女の心の闇は深くなるばかりであった。
それから数日以前のようにからかってくることや、冗談を言うことはなくなった。
その代わり、彼女はいつも寂しげな表情を浮かべるようになったのである。
きっとレイジを倒すことでしか気持ちは晴れないのであろう。いや、もしかしたらそれさえも叶わぬ願いなのかもしれない。
「ここのところ様子がおかしかったからな…更に追い討ちをかけられちまったか……」とファングは心配そうに呟いた。
窓の外で鍛錬を繰り返すスノーを見て彼は呟く。
「俺ちょっと話しをしてくるよ。」
「うん。お願いね?」ハウンがワタルに目配せをして言った。
「スノー!ちょっといいかな?近くで美味しいお菓子を買ったんだ!」とワタルは声をかけた。
スノーは汗を拭いながら、「お菓子?うん!食べたい!」
「良かった。じゃあ、こっちに来てよ!」とワタルは手招きをした。
スノーは素直に従って付いてきたが、足取りはあまり軽くないようだ。それでもなんとか笑顔を作ってくれているのを見ると胸が締め付けられる思いになるのだった。
教会の裏手にある小高い丘に2人はやってきた。
ここは見晴らしがよく景色もいいため、気分転換にはもってこいの場所である。
2人はベンチに腰掛けると、スノーは早速包みを開けて中のお菓子を食べ始めた
「美味しい!ありがとう!」と嬉しそうに笑う彼女の姿を見て、ワタルはホッとした気持ちになった。
「うん!良かったよ」と言って自分もお菓子を口に運ぶ。
スノーが美味しそうに食べる姿を見ていると自然と笑みが溢れてくる。彼女は本当に幸せそうに食べるので見ているこっちまで幸せな気分になるのだ。
しばらく沈黙が続いた後、スノーは口を開いた。
「ごめんね……心配かけて……」と申し訳なさそうに言う彼女に、「仲間なんだから当然だよ!」とワタルは笑顔で答えた。
「ありがとう……」スノーは俯きながら言う。
「悔しいよな…あんな奴がいるなんてさ……」とワタルが呟くように語りかけた。
「うん……そうだね」とスノーは力なく答えた。
「俺だってあんな奴ぶっ潰してやりたい。焦る気持ちもあるよな。でも俺は今のスノーは無理をしてるように見えるよ。」
「無理しなきゃダメじゃん! だって次はいつ出てくるか分かんないんだよ?次こそはレイジを倒さなきゃ!」とスノーは声を荒げた。
「確かにそうだけど、スノーが無理して壊れていくところなんて見たくない。」とワタルは真剣な眼差しで言った。
「私が壊れる……?」とスノーは不思議そうに言った。
「うん。今のスノーは無理して明るく振る舞っているように見えるよ……本当は辛いはずなのに、それを隠してるじゃないか?」
「そんなことないもん!私は大丈夫だよ!」と言って彼女は立ち上がったが、その拍子にバランスを崩して倒れそうになってしまった。ワタルは慌てて駆け寄り抱き抱えるようにして彼女を支えた。
「ほらやっぱり…」とワタルは言ったが、彼女は黙ったまま俯いているだけだった。そしてゆっくりと口を開いたかと思うと、小さな声で呟いたのだ。
「……もう……どうしたらいいかわかんないよ……」
その声は震えていた。ワタルはそんな彼女を優しく抱き寄せると背中をポンポンと叩いてあげた。すると彼女は堰を切ったように泣き出してしまったのだ。
「しばらく休もう…気持ちの整理が着くまでさ……」とワタルは優しく囁いた。
「うん……ありがとう……」スノーは泣きながらも、小さく頷いたのだった。
その時、後ろから肩を何者かに叩かれた。振り向くと砂の少女サヤがそこにはいた。
教会の場所を手紙で教えてはいたが、わざわざこちらへやってきてくれるとは思っていなかった。
「久しぶり。元気にしてた?ワタル。手紙を見てたらいてもたってもいられなくて。」
「サヤ!久しぶり。わざわざ来てくれてありがとう。」とワタルは笑顔で答えた。
「そちらの子はスノーだよね?あの時はどうもありがとう。」
とサヤはスノーに向き直って頭を下げた。
「貴方のことも書いてあったから、無性にどうにかしてあげたいって思って…飛んできた。」と身体を宙に浮かせてみせた。
『飛んできた。』とは、文字通り空を飛んできたという意味であるようだ。
「すごい!それどうやってやるの??」とスノーは興味津々といった様子でサヤに詰め寄った。
やっと彼女に明るい兆しが見えた気がした。
「私も成長したんだよ。ええっとね」とサヤが得意げ説明をしようとする。
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ミヤビ「あら、スノー。今日は遅かったわね。空を飛ぶ魔法を今日は見せ…」
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スノーの心に突然、ミヤビの優しい声が蘇った。記憶の中で、ミヤビが微笑みながら手を広げ、空を飛ぶ魔法を見せてくれる瞬間が鮮明にフラッシュバックした。
「ええっと…やっぱり、今はいいかな…」とスノーは急に視線を逸らし、心ここにあらずといった様子で答えた。
その様子に、サヤとワタルは顔を見合わせた。
「わ、私はちょっと休んでくるね!またね!」と言ってスノーは教会の中に入って行ってしまった。
少しの間沈黙が流れる。
「…いつの間に空を飛べるようになったんだね。」とワタルがサヤに尋ねると、「練習の成果だね。あれから周りも驚くくらい色んな魔法を覚えたよ。ねえ…ワタル。私もパーティに入れてもらえないかな?レイジを倒せるように、スノーが元気になれるように協力したいの。」とサヤは真剣な眼差しで言った。
願ってもない申し出であった。彼女の力があれば、レイジを倒せる可能性はグッと上がるだろう。
ワタルは二つ返事で了承した。
3人もサヤを歓迎し、気を利かせたシスターはその日のうちからもう1人分食事を用意してくれた。
ワタル自身が転生者だからというのもあるかもしれないが、いつまでいてくれても良いと優しく接してくれる。サヤは、シスターや教会内の子供たちとすぐに打ち解けることができた。
群れることが好きではないと言っていた彼女だが、ここでは楽しそうにしている。
サヤは魔法や歴史の話など、様々な知識を披露して子供たちを楽しませてくれた。
スノーもそんなサヤに少しずつ心を開いていったのか、笑顔を見せる回数が増えてきたように思える。
つづく





