第三十四話 夢の中
教会の奥の空きのふた部屋を貸してもらえることとなったのだ。
「それで…それで…転生するときってどんな感じなんですか?」
ワタルはかれこれ一時間以上質問攻めにされている。
シスターは目を輝かせて転生者について聞いてくる。ワタルが答えても、また次の質問が飛んでくるといった具合でなかなか解放してくれそうにないのだ。
ワタルは困った表情を浮かべながらもなんとか答えていく。
しかし、流石に疲れてきた。ワタルは助けを求めるように他の仲間に目を向けるが、皆苦笑いをしているだけだった。
「そろそろうちの子を返してもらってもいいですかね?」
とファングが助け舟を出してくれた。そしてシスターは渋々といった感じで引き下がってくれたのだった……
ワタルはホッと息をつくと、疲れからか突如睡魔に襲われた。
「ワタル、大丈夫?」とスノーが心配してくれたので大丈夫だと答えたのだが……どうやら自分でも気づかないうちに疲れていたようだ。
「少し休んできて」というハウンの言葉に甘えてワタルはシャワーを浴び、ベッドに入ったのだった……
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ワタルは気がつくと真っ暗な空間に1人いた。
あの時と同じだ。最初に転生した時の光景そのものだったのだ。ワタルは戸惑いつつも周りを見渡す。すると目の前に小さな光が浮かび上がってきた。
その光はだんだんと大きくなり、人の形を成していった。そして光が収まるとそこには一人の女性が立っていたのだった……
「久しぶりね。」
そう話しかけてきたのはあの時に出会った女神レフレだった。ワタルは驚きつつも挨拶を交わす。
「ここから見ていたわ。天泣の幹部を4人もやっつけちゃうなんて凄いじゃない」とレフレは感心したように言った。
「いや…俺は何も。ただ良い仲間に出会えたんだ…レフレ様には感謝しているよ」とワタルは答える。
「まぁこれからも苦難はあるでしょうけど、頑張ってね」レフレは笑顔で言う。
ワタルはその笑顔に思わず見惚れてしまった。
そんな場合ではない。何故レフレが目の前に現れたのは理解が追いつかないが、聞きたいことがあったのだ。
残る天泣幹部やボスと呼ばれる人物の手がかりに、この世界に同じく転生したあの子の居場所だ。
「レフレ様…!聞きたいことが…!」
んっ…?とレフレは首を傾げる。
ワタルが言葉を発しようとした瞬間、突然目の前が真っ白になった……
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ワタル…めし…飯だよ……ワタル!
ファングに体を揺さぶられていた。
どうやら夢を見ていたようである。
レフレからの答えを聞けず覚めてしまった。
ワタルは残念に思いながらも、眠い目を擦り、ファング達に急かされて夕食を摂ったのだった……
夢とは自分の脳が作り出した記憶の整理だという。冷静に考えれば、そこに答えなどあるはずがない。
ワタルはそう自分に言い聞かせて、これからのことについて考えを巡らせるのだった……
雑談のネタくらいの認識で、そのことについて一同に話す。
「あのシスターに聞かせたら、『えっ!詳しく聞かせてください!レフレ様の天啓ですよ!』なんていうに違いないぜ。」とファングが裏声を交えて言った。
素っ頓狂な声真似をするようなキャラではないのに、ファングがふざけて見せることで場を和ませようとしてくれたのだろう。
ワタルはその様子を見て思わず笑ってしまった。
「でも本当にそうだとしたら?」とハウンが尋ねる。
「スノーならともかく真面目なお前がそんな現実味のねえこと言うのかよ」とファングが茶化すように言う。
スノーは頬を膨らませて怒っているようでテーブルの下で足を小突いている。
食器がカタカタを揺れ、悪い悪いと行ったそぶりでファングは首を横に振っている。
「ワタル、これまでにその女神様が夢に出てきたことはあったの?」とハウンが聞いてきた。
ワタルは首を横に振る。
「レフレ様にお祈りしたから、出てくるようになったとか?」とスノー
が聞いてくる。
ワタルはまさかと思った。
「にわかには信じられねぇが、そうだとしたらあのシスターに聞かせたら、また質問攻めにあうだろうな」とファングが笑いながら言った。
ワタルは苦笑いしながらそれに同意し、ひとまずは話はこのメンバーのうちに留めておくこととした。
夕食を終え、部屋に戻ることにした。
男部屋ではファングが30分もしないうちに布団をひいて眠ってしまっていた。
ストイックなこの男は早寝早起き、3食はきちんととるという生活を徹底している。秘密基地にいるときは個室があるので気を使わなくてよいが、同部屋の場合は話が別。それに合わせて早く寝ようにもワタルは目が冴えてしまっていた。
ワタルはファングを起こさないように静かに起き上がり、部屋を出る。
そして宿の外に出て空を見上げた。
満点の星空だ。シジュウ共和国は標高が高いため空気が澄んでいるのだろう。星々がいつもより綺麗に見える気がした。
ワタルはベンチに腰をかけしばらく空を眺めていた。すると突然後ろから、異様に冷たい風が首筋の一点を撫でた。
ひぃん。と情けない声をあげ、驚きのあまりワタルはベンチごと後ろに倒れてしまった。
世界が反転している。幸い頭を打つことはなかった。そして視線は見慣れた少女を見上げていた。
それは紛れもなくスノーだった。
彼女の得意な氷の魔法を使ったいたずらにいつも引っかかってしまうため、格好の餌食なのだ。
いつものようにけらけらと笑いながら
手を差し伸べ、ベンチを元の位置に戻すのであった。
やられっぱなしでは済ませたくないと感じ、苦し紛れにワタルは彼女に仕返しをすることにした。
「さっき、倒れたときに見えたよ」とワタルは言った。
スノーは首を傾げている。
そしてはっと気がついたような表情をした後、顔を赤らめてそっぽを向いてしまったのだった。
してやったと思ったが、すぐさま冷たい風が首筋を撫でた。心なしかさっきよりも冷たい。
そんな応酬を続けたあと、「隣に座ってもいい?眠れなくって」と真剣な口調でスノーが尋ねてきた。
ワタルは無言で頷き、ベンチのスペースを空けた。
そして2人で星を眺めたのだった……
「ねぇ…ワタルは私たちとパーティを組んだことを後悔していない?」
静寂をスノーが破った。
突然の質問に驚き、ワタルは彼女の顔を見た。しかし彼女は空を見上げたままで、その横顔から感情を読み取ることはできなかった。
少しの沈黙の後、再び彼女が口を開いた。
それはとても寂しそうな声だった……
「本当はすぐにでも元の世界に帰りたいんじゃないの?あのときは迷っているって言っていたけれど、本当は……」
ワタルはスノーの言わんとしていることが理解できた。
何度だって命の危機があった。その度にワタルは死にたくないと強く願った。
しかしそれは、元の世界に帰りたいからなのか?それともこの世界で仲間と共に生きたいからなのかはわからない。
今は彼女を安心させたい。その思いでワタルはこう答えた。
「後悔なんてしていないよ。今はみんながずっと笑顔でいられる世界を見たい。」
「そっか……なら良いんだ。」とスノーは笑った。
しかし、その笑顔にはどこか影があるような気がしたのだった……
「ねぇワタル、1つだけお願いがあるんだけれど……」とスノーが切り出した。
ワタルは無言で頷いた。
するとスノーは立ち上がり、両手を広げた。
そして……
ぎゅっ……とワタルを抱きしめたのだった……
「なんでもないよ!ドキドキした?」とスノーはおどけて言った。
ワタルは顔を真っ赤にしながら、言葉がうまく出なかった。
「じゃあ、また明日ね!」とスノーは手を振りながら宿に戻っていった。
ワタルも手を振って見送るが、心臓の鼓動がおさまるまでにしばらく時間がかかってしまったのだった……
続く





