第三十三話 シジュウ共和国
一同はシジュウ共和国へと向かうことを決めた。とはいえワタルはその国へ行ったことがないので、どんなところか全く知らなかった。
山間にひっそりと佇む国で、整備されている国境はラグド王国とシジュウ共和国を繋ぐ一本道しかないらしい。
両親の都合で世界中様々な国を巡ったハウンでさえも、シジュウ共和国については教科書で学んだ以上のことは
知らなかった。
宗教国家であるシジュウ共和国は神を信仰しており、転生を信じている。
転生とは、死後に魂が別の世界へ宿り生まれ変わることを指す言葉である。
シジュウ共和国ではこの転生は神によって定められた運命であり、その運命に従って人々は生きているのだそうだ。そしてシジュウ共和国の国民達は輪廻転生を繰り返すことで永遠に生き続けることが出来ると信じているらしい……
また、この国で信仰されている神は光の女神と呼ばれる存在で、彼女は人々に愛と平和をもたらすとされているのだという。
ワタルは自身が異世界から転生してきた存在であるため、あの子を探すための手がかりに少しでもなればいいと思っていた。
この世界にやってくる時、女神レフレから「元の世界に戻るためには、この世界であの子を探してくる必要があるのだ」と告げられている。
同じ転生者がそこにいるのであれば、尋ね人の探し方…そうでなくともレフレにもう一度出会う方法を教えてもらえるかもしれない。
ワタルは期待に胸を膨らませていた。
他の3人は天泣についての情報も得たいと考えていたため、ワタルの提案に賛成してくれた。
そして彼らはシジュウ共和国へ向かうことにしたのだった……
「もしも、元の世界に戻れるとなったらワタルは帰りたいの?」
とスノーが聞いてきた。
ワタルはうーんと考え込んでしまう……
正直言って、この世界での生活も悪くないと思い始めていたところだったからだ。
この数ヶ月で様々な出来事を経験して、自分の実力や仲間の存在に気づけたことは大きかった。そして何よりファングやスノー、ハウンという信頼できる人物と出会うことができたのは大きな収穫だったと言えるだろう。
しかし元の世界には家族もいるし友達だっている。彼らに会いたいという気持ちもあるのだ……
そんな複雑な心境を察してくれたのか、彼女は優しく微笑んでくれたのだった。
「まぁ、いずれにせよその子供はこの世界に迷い込んでるんだから探さなきゃいけないんだろう?」とファングが言う。
確かにその通りだ。まずはあの子を探すことが最優先事項である。そして、もし元の世界に戻る方法があったとしても……今はその時ではないのだと自分に言い聞かせたのだった。
シジュウ共和国へは国境の関所で入国手続きを行えばよいらしい。ワタル達はその国へ向かうために旅支度を整え始めたのだった……
***
国境の関所では厳重な警備が行われていた。検問所の前には長い行列ができており、審査を受けるまでかなり時間がかかっていそうだった。
どうやら騒動が明けて間もないため、警戒を強めているらしい。
ワタル達は列の最後尾に並んだ。
しばらく待っていると、検問所の兵士が近づいてきた。彼は身分証を提示するように求めてきたので、ハウンが手続きを行った。
兵士は書類を確認すると、入国の目的について質問してきた。
ワタル達はシジュウ共和国へ観光に来たことを伝える。彼はワタル達の手荷物を検査した後入国を許可してくれたのだった。
入国するにあたってハウンが情報を調べてきてくれていた。
シジュウ共和国は山間の小さな国であり、国民の大半が聖職者であるという特徴があるらしい。
また宗教国家だけあって教会が多く建てられており、そこには神の像や絵画が飾られているのだという。
シジュウ共和国では転生を信じているため、生まれ変わりや輪廻転生をテーマにした宗教画が多く制作されているらしい。
ワタル達はハウンの説明を聞きながら入国したのだった……
シジュウ共和国の街並みは美しく調和の取れたものだった。建物は全て白塗りで統一されており、屋根には十字架が掲げられていた。そして街の中心にある大きな広場には巨大な女神像が建てられていた。この像こそが光の女神と呼ばれる存在なのだろうとワタルは思った。
国民達は皆穏やかな表情を浮かべており、穏やかな雰囲気が漂っていた。
ワタル達は早速教会へと向かった。そこではシジュウ共和国の人々が祈りを捧げていた。
礼拝堂に入ると、祭壇には女神像が飾られていた。彼女は慈愛に満ちた表情を浮かべており、人々に安らぎを与えてくれる存在に見えた。
ワタルはその姿を見て思わず見惚れてしまうほどだった……
「おお、旅の人とは珍しい……」
ふと声をかけられたので振り向くと、そこには初老の男性が立っており、ワタル達に話しかけてきたのだった。
彼はこの教会の神父であり、シジュウ共和国では転生の神として信仰されている光の女神を崇めているという。
「女神レフレ様の御加護がありますように……」
神父はそう祈りの言葉を口にしながらワタル達の旅の無事を祈ってくれた。そして、女神像について説明してくれたのだった……
光の女神レフレは人々に愛と平和をもたらす存在として信仰されているのだという。彼女は人々を愛しており、常に見守っているのだそうだ。また、レフレには不思議な力があり、死後その力を授かった者は第二の人生を歩めるのだという。
ワタルは興味深く話を聞いていた。
そして神父にシジュウ共和国に来た目的を尋ねられたので、ワタルは転生してきた旨を打ち明け事情を説明した。
加えて天泣の手がかりを探していることも。
「て、転生者様とな…!まさかお会い出来ましょうとは…!」
「疑わないんですか?」とワタルが聞くと、神父は笑顔で答えた。
「ああ!天泣を討伐して下さった英雄である貴方が転生者様でないはずがない!それにレフレ様から授かったというそのお力を見れば一目瞭然ですとも!」
神父は興奮気味にまくし立てた。ワタルは苦笑いしながら答えるしかなかった。
どうやらこの国では転生者がとても尊敬されているらしい。ワタルはなんだか気恥ずかしくなった。
「ではでは。是非レフレ様にお祈りをなさってください」
神父はそう言って礼拝堂の奥にある扉を指差した。どうやらその奥が女神像の安置されている場所らしい。ワタルはお礼を言って、ハウン達と共にそちらへ向かうことにしたのだった……
「転生者様!お待ちしておりました!」と突然声をかけられたので振り返ると、そこには白いローブを纏った女性が立っていた。彼女は目を輝かせてこちらを見つめている。
「あ、あの……」困惑しているワタルに構わず女性は続ける。
「私はこの教会でシスターを務めている者です!是非とも転生者様のお話を聞かせてください!」
「え?いや、その……」とワタルが戸惑っている間にもシスターは詰め寄ってくる。どうやら彼女は転生者に対して並々ならぬ興味を持っているようだ。
「さあこちらへ!是非ともお話を聞かせてください!!」
結局押し切られる形でワタル達は礼拝堂の奥にある女神像の安置されている部屋へ案内されたのだった……
中に入るとそこには大きな女神像が置かれていた。美しい女性の姿を象っており、慈愛に満ちた表情を浮かべている。この像こそが光の女神レフレなのだろう。
転生前に見た本物よりも大人びていている。それがこの国の人にとってのイメージなのだろう。
ワタルは女神像を見上げながらそんなことを思った。
「さあ転生者様!お話を聞かせてください!」とシスターが催促してくるので、ワタルはとりあえず自己紹介をする事にした。
「僕はワタルと言います」と名乗ると彼女は目を輝かせた。そして興奮気味に話し始めたのだった……
「おお!やはり貴方が転生者様なのですね!!お会いできて光栄です!!」と言って握手を求めてきた。その勢いに圧倒されつつもワタルはその手を握り返した。
「すっかり有名人だな。どうだ気分はいいか?」とファングが茶化してくるのでワタルは苦笑いするしかなかった。
シスターは転生者様達の冒険譚を是非聞かせてください!と懇願してきたため、仕方なく話すことにしたのだった……
「なるほど……では天泣の手がかりと子供を探している…と」シスターはメモを取りながら話を聞いている。
「後にわかったことですが、貴方方が倒したナハトという少女。事を起こす前に確かにこの国、この場所を訪れていたんです。山間のこの国では観光客というのも珍しいもので、それに深くフードを被った女性1人という様子でしたから、印象に残っていたんです。」
シスターはそう説明した。彼女の話によると、レフレ像に祈りを捧げた後、教会を後にし、あの場所に現れたのだという。
「この国では何か悪事を働いたというわけではないですね。」とハウンが言うと、「私とその周囲の知る限りではありますが」とシスターは付け加えた。
「でもきっと何か理由があるんじゃないかな」とスノーが言うと、ワタルも頷いた。
シスターは顎に手を当てて考え込んでいる様子だったが、やはり思い当たることはない様子。
「まぁ、よく聞き取れはしなかったが奴の最期の言葉…」
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「ボスの名前は…ルシ…」
「幹部の……………………まほ……………みず…………しじゅ…こく…………」
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と、ファングは呟いた。
シスターは聞き慣れない言葉に首を傾げつつもメモをとっている。
その日は結論が出なかったが、天泣が攻めてくるという最悪の事態の想定はしておくこと、とはいえいたずらに国民の混乱を招かぬようにとまずはこの教会内で情報の共有を始めることを約束してくれた。
ワタル達はシスターにお礼を言って、教会を後にする前に女神像へお祈りをさせてもらえることとなった。
ワタルは女神像の前に跪き、手を合わせて祈りを捧げた。そして心の中で語りかける……
(レフレ様、もう一度会えるのであれば力を貸してください…)
ワタルはそう願った後、シスターと共に教会を後にしたのだった……
教会を後にしたワタル達は、とりあえず宿を探すことにした。
シジュウ共和国は山間にある国であり、標高が高いため夜になると肌寒くなってくるのだという。そのため早めに宿を取る必要があったのだ。
幸いにもラグド王国とも通貨が共通であるため、お金の心配をする必要はなかったのだが……
「おい、宿ねぇぞ」とファングが不機嫌そうに言った。
街を見渡して見ても営業していそうな宿はあまりなかった。
どうしようかと思っていると、シスターが話しかけてきた。
彼女は困っている様子のワタル達を見かねたようで、教会に泊めてくれるという提案をしてくれたのだった。
しかし流石にそこまで世話になるのは気が引けたため断ろうとしたのだが、シスターは笑顔でこう続けた。
「光の女神レフレ様から授かった力を使ってこの国を救ってくれた貴方方ですもの!これくらいのことはさせて下さい!」
そう言って彼女はワタル達を案内してくれたのだった。





