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第三十一話 やまぬのは

「くそっ…ここまでかぁ…」と力なく笑うナハト。


「ナハト、俺たちはこれ以上お前と戦いたくない。」とファングは剣を収める。


「ふぅん…情けをかけるつもりかい?私は君たちを本気で殺そうとしていたんだよ?」

ファングは首を横に振る。そしてナハトの側に座り込む。


「復讐のために生きた人生…もう疲れたんだよ。だから終わりにしてくれよ。私のやったことは悪…でもこの世界は変わらなかった。」

ナハトの頬に一筋の涙が落ちる……


ファングはそれを静かに見守るしかなかった。


「教えて欲しいことがある。どうして君たちは人間を恨んでいないんだい?どうして仲良くしていられる?」

と彼女は尋ねた。

その問いにファングはしばらく黙っていたが、やがてこう答えた……


「俺だってそう思う時があったさ。

ハウンやスノーだってきっとそうだ。傷つくことだってあった。でもそれ以上に助けられてもきた。」


ハウンとスノーと頷く。


「獣人になってできるようになったことで私は困っている人達を助けられるようになったの。」とスノーが言った。

「それが世界を良い方向に変えるんだって私達は信じているわ」とハウンは語りかける。


「ふふっ…そうかい。良い仲間たちに

巡り会えたようだね……私もそうなれていたら別の人生があったのかな……」

そう言って彼女はゆっくりと目を閉じた……


「さぁ…止めを刺すといい……私の復讐はもう終わったのだから」

ファングは躊躇いつつも、剣を振りかぶった。そして勢いよく振り下ろす! ナハトの心臓に直撃する寸前で刃を止めた。彼女は驚いた表情をしている。「どうして…?」


「どうやらやられたふりじゃねぇみたいだな…いずれにせよ命まで奪うつもりはない。天泣について教えてくれ。これ以上悪行をやめさせることは出来ないのか?」とファング。


「やめさせる…?無理だね。私を含めて幹部が4人やられたが、残りの3人は比べ物にならないくらい強いよ。しかも思考があまりに過激だ。君達が襲われたらひとたまりもないだろうね。」とナハトは答える。


一向の表情は暗くなる。彼女よりも

強い人間が何人もいるのか……


「それとだ…私は君たちに毒を持ったと話したね。解毒薬が宿の厨房の戸棚に入っているから探しにいくと良いよ」とナハトは続ける。


「どうして…?敵である俺たちが弱いままの方が都合が良いんじゃないか?」とワタルが尋ねた。


「いいえ…罠…かもしれないわ」とハウンが警戒する。

だがナハトは力無く首を振った。そしてこう答えたのだった。

「私は君たちに負けた……もうどうでも良くなったのさ。これ以上罪は重ねたく無い……それだけの ことさ」と。

その言葉を聞くと、ファング達はハルク達3人を残して宿へ向かって駆け出すのだった……。


「罪を償ってもらう為にも兵士団に身柄は引渡させてもらう。天泣についての情報もそこで話すんだぞ」とハルクは厳しい眼差しでナハトを見つめた。

ナハトは下を向いて黙っている。

そして万一にも抵抗できぬよう拘束を始めたのだった。


***

ハウンの案内によって宿の部屋までたどり着くことができたワタル達だが、安堵する間も無くナハトの言っていた通り厨房の戸棚を調べた。そこには解毒薬が入っていた。


説明書のようなものが一緒に置かれておりすぐにわかったのだ。それでも服用するのに躊躇したが、ワタルは意を決して薬を飲み込んだ。

するとすぐに効果が現れた! 身体の怠さが消え去り、自由に動くことができるようになったのだ。


スノーは喜びのあまり飛び回っていた。

ハルク達の元へ一向は戻るとナハトの拘束を終え、大きな荷車に乗せていたところだった。


「おーい帰るぞ」とボンゾウがこちらに手を振っているのが見えた。

彼らも回復したらしい。


力自慢のボンゾウが荷車を引き、一向は山をゆっくりと下り始める。

そんな時だった。

ナハトは突如呻き声を上げて胸のあたりを抑えた! そして、突然口から血を吐き始めた。

ボンゾウが荷車を止めて驚き駆け寄ると彼女は外へと転げ落ちてしまった。


「うぐっ…これは… の…」と苦しそうに声を上げる。


「どうしたの?しっかりして!」とスノーは彼女を抱きかかえた。

その身体は熱く熱を帯びていた。血にまみれた彼女の目は焦点が合っていない……


「この…私を…苦しめている…チカラ…魔法は…天泣の……どうして……

私は……のに!…尽くしたのに……

切り捨て…られた…」とナハトはうわ言のように呟いた。

彼女から天泣についての情報を得る為にも死なせてはならない。

ハウンが側に駆け寄り、手をかざすと彼女の身体から緑のオーラが立ち上ってきた。

少し彼女の表情は和らいだが「無駄だよ」とナハトは力なく言った。


ハウンの治癒魔法は優れているはずだが、何故かナハトの苦しみに対しては気休めにしかならなかったようだ。

それでもまだ呼吸はしているし、彼女の身体を流れる血も収まっていた。


「少しは楽になったよ…ありがとう…でも…どうやら…私は死ぬようだ…仲間に捨てられてね…」とナハトは自嘲気味に笑った。

それでも彼女は言葉を発し続ける。

その口から発せられる言葉は途切れがちだったが、ワタル達に伝えたいことがあるようだった……


「裏切れたんだ…君たちに有益な…情報を遺そう…私を…苦しめたのは…ボスの魔法…安心して…天泣の…成員を…支配するため…のものだから…君たちに…及ぶもの…ではないよ…」


「ボスの名前は…ルシ…」ところどころ聞き取れなくなってきた。


「幹部の……………………まほ……………みず…………しじゅ…こく…………」とナハトの瞼は重たくなり、ゆっくりと閉じていく。


回復に努めていたハウンは肩を落として首を振る。もう手遅れだと悟ったようだ。

ワタル達は思わず息を飲んだ……

ナハトは息絶えたのだ……


「魔法…?最近兵士団が捕らえたという幹部のホリックが獄中で変死したのも……もしかしてその魔法の仕業だというのか…」とハルクが言う。


そんな事実を知り、驚きを隠せないワタル達一向だったが、ナハトの最期の言葉についても思考を巡らせていた。彼女は自分のボスである「ルシ…」と口にしていた。


どんな魔法を使ってナハトを命を奪ったのか……謎は深まるばかりだった。

近くにいるのではないかと気配を一同は探っていたが、感じられなかった。


とりあえずは天泣幹部の討伐の報告とナハトの遺体を兵士団へと引き渡すために一向は 山を下りていく。そして1日かけてスノーの魔法で低温を保ちながら再びフラハイトの街へ戻ってくることが出来たのだった。


続く



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