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第二十六話 ホリック

怪しげな建物に入ろうとした刹那、後ろの茂みからガサガサと音が聞こえた。その後はだんだんと大きくなり、周りの木々をなぎ倒しながらこちらに向かってくる。

ワタル達は身を構え、武器を構えた。するとそこから出てきたのは大猪だった。以前倒した個体より心なしか大きい気がする。


スノーが学院で磨き上げた氷塊魔法を大猪に向かって叩きつける。

メキっという音と共に氷塊が崩壊する中、大猪の骨が砕ける音が森の中に響き渡った。


大猪は凄まじい悲鳴を上げながら体を倒し、苦痛にうめき声を上げた。その巨体が震える中、ワタル達はチャンスを逃さず、一斉に攻撃を仕掛けた。


ファングが肉を切り裂き、ワタルは身体強化で筋力を上げ、脳天に剣を突き立てる。


スノーは氷の矢を放ち、ハウンがレイピアで心臓を一突きにした。

大猪は断末魔を上げながらしばらく暴れていたが、やがて力尽き動かなくなったのだった。


兵士団はその手際の良さに驚きつつも拍手をし、ワタル達を褒め称えた。


ワタル達はこれほどの大猪を痛手を負うことなく討伐することが出来たことに対して成長を実感し、喜び合った。


先程まで悶え苦しんでいた猛獣の口元には吐瀉物が広がっていた。その中に錠剤のようなものが大量に混じっているのが見えた。


街の人たちが飲まされたものと同じだろうか。


それを兵士団員に伝えると、彼らはすぐに回収し調べるとのことだった。


大猪の討伐が済んだところで兵士団は小屋に突入した。中には数十人の男達がおり、拘束され皆虚ろな目をしていた。


そして彼らを拘束し尋問を行ったところ、やはり彼らも薬を飲まされ操られていたことが判明したのだ。

兵士団の1人が薬の成分を分析したところ、どうやらこの薬には理性を奪い人の力を増幅させ、凶暴化させる作用があることがわかった。

ひとたび効果が切れると強烈な疲労感に襲われ、しばらく動けなくなってしまうようだ。


ワタルは小屋の奥にもう1つ部屋があることに気がついた。その部屋には小さな机があり、その上にも書類が乱雑に置かれていた。

ワタル達は小屋を出てその書類を読み漁ることにしたのだった。

そこには内容についてはちんぷんかんぷんだったが薬の製造方法や流通経路について書かれているようだった。


兵士団の1人はこの書類を持ち帰り、国へ提出すると言った。

そして、大猪の討伐と小屋に捕らえられていた者達の保護は完了し、撤退しようとした時、拘束されていた男が壁に向かって指を差した。


「ここに何があるかはわからないが、俺たちをこんな目に合わせた奴…天泣幹部のホリックはここを出入りしている。仲間である俺たちをモルモットか何かだと思ってやがるんだ。」


なんと彼らも天泣の一員で、フラハイトの街での一件にも関わっていたのだと白状してきたのだ。

しかしながら哀れにも天泣の幹部ホリックとしては捨て駒や実験体でしかなかったのだ。


男達の処遇については兵士団が決めることになり、彼らには今は一旦休んでもらうことにした。


壁に何か秘密があるというのだろうか。この男の話を信じるとするならば、何か重要なものがあるのかもしれない。


ワタルは壁を探ることにした。するとそこにレバーがあることに気がついたのだった。

押してみるとゴゴゴと音を立てながら壁がゆっくりと動き始めたのだ。そしてその先には地下へと続く階段が現れた。


一同はこの先に何があるのかわからなかったが、ホリックが出入りしているという情報があった以上、このまま放置することもできなかったので慎重に降りていくことに決めたのだった。


階段を降りて広い空間に出ると、奥の方の曲がり角より光が漏れているのが見えた。


そこからは何やら異音が聞こえてくる。


その音を頼りに進んでいくと、そこには怪しげなローブを深くかぶった人物がいた。そしてその周りには様々な植物や小動物がいたのだ。

これらも実験体なのだろうか。


「我々はラグド王国兵士団だ。貴様がホリックだな。フラハイトの街での一件について聞かせてもらおうか!」と兵士団が詰め寄る。


ローブの男は明らかに動揺した様子で机の上にあった資料を一つにまとめ、しらをきるような態度をとる。


「もう無理だろ誤魔化せねぇよ。そこにある薬。例の騒動のやつだろ?」とファングが言う。


「ならばなんなのだ。儂を捕えるつもりか?そうはさせんぞ。ふむ…儂が手を下すまでもないわ。手下どもが貴様らを片付けるのだからな!」とホリックは動揺を振り払うように一転、声を張り上げて言った。


「その手下って大猪とか森の入り口にいた人達のこと?」とスノーが聞く。


するとホリックは不気味な笑い声を部屋に響かせながら、そうだと言った。

しかしながら、その笑みもハウンの一言であっさりと打ち消されるのである。


「それなら倒したわ。貴方の仲間だった人たちも居場所を教えてくれてね」


ホリックの顔は青ざめ地べたに跪き、手を組み祈るような格好となった。

ローブの袖から見える肌にはシワが目立ち、手足もか細い。ひ弱な印象を受ける。


彼はぼそぼそと早口で謝罪の言葉を呟き始めたが、それを遮り兵士団の1人が彼を取り囲んだ。


追い込まれた観念したかのように見えたが、ホリックは服のポケットに仕込んでおいた例の錠剤を口の中にありったけを詰め込んだのだ。


そして彼は地面に転がると、飲み込んだ錠剤を兵士団は吐き出させようとしたが、彼の体はみるみる大きくなり、化け物と化してしまったのだ。


ワタル達は武器を構えて戦闘態勢をとるが、兵士団は狼狽し、尻餅をついたまま動けなくなってしまっていた。


「こんな地下の狭いとこで!崩れたら

どうすんだよ!逃げ道もないのによぉ」とファングは大声をあげる。

化け物化したホリックが丸太のように太い腕を振り上げて、こちらに襲い掛かる。幸い動きは遅かったため、難なく避けることが出来るが、建物が持ち堪えるかは別問題だ。


ワタルはホリックの攻撃をかわしつつ、彼の弱点を探ろうとした。しかし、ホリックの化け物と化した姿は驚異的な力を持ち、容易には倒せないことがわかった。


「あの薬を飲んだのなら、正攻法で倒すよりも…」とハウンが言う。


「逃げて自滅を待つってことか?ただ薬についても聞きださねぇとな…」とファングが返す。


「これなら!」とスノーが氷を魔法で作り出す。


「待て!建物が!」とファングが遮ろうとしたが時すでに遅し。


「大丈夫だって!見ててよ!」とスノーは自信ありげだ。

そしてそれをホリックの四肢めがけてぶつけたのだった。


氷は彼の手足を壁や床に固定し、身動きを取れなくさせた。


この隙にホリックの口に詰まっている錠剤を吐き出させることにする。しかし今度はなかなか吐こうとしない。

そして化け物と化し強靭になった筋肉を使い氷の拘束を解いてしまったのだった。


当たらない攻撃に痺れを切らしたホリックは薬を再び取り出して先程以上の量を摂取し始めた。


化け物ホリックは力を取り戻したかのように、また暴れ始めた。

もう建物が崩れるのを待つしかないのか……そんなとき、スノーが一歩前に出ると魔法を発動する準備をし始めた。

そして鋭い氷の槍を作り上げるとそれを化け物と化したホリックの顔に向かって発射したのだった。

寸分狂わずそれは彼の喉元に命中する。発達した筋肉を前にそれは弾かれてしまうが、衝撃がくわわったことによりホリックはえずき始めた。そしてついに、彼は薬を吐き出したのだった。

化け物は元の姿に戻り、その場に倒れこんだ。


「そんな…」元に戻った彼にもう立ち上がる力もないようだった。


「こいつを拘束して、建物内にある残薬と資料は全て持ち帰るぞ!崩壊する前にな!」と兵士団が声を上げる。


ワタル達は急いで拘束し、建物から脱出したのだった。


「流石は天泣の幹部を2人も倒した実力だ。報酬は上と掛け合って後日必ず渡すようにする。」と兵士団はワタル達を褒め称えたのだった。


しかし、彼はそれを何が目的で作成していたのだろうか……この一連の騒動はこれで終わりだとは思えなかったのだった。


「これらの薬は世に出回って良い代物ではない。全て我々が預からせてもらおう。責任を持って処分する。」と兵士団は国へ持ち帰り、すぐに事の顛末について調査し報告すると約束した。


「間違っても流出させるなよ」とファングが念を押す。


兵士達は頷き、ホリックが担いでいたものや彼らが保管していた資料を持ち帰る作業に取り掛かったのだった。


ワタル達はフラハイトの街へと戻ることになった。

ザインとククリの2人は街で騒動が収まった後、北の村に帰ったのだとセレドニオから聞かされた。ククリは相当ショックが大きかったらしく、挨拶せずに帰って申し訳ないと伝えて欲しいとザインからは言伝を頼まれていた。


街は壊されたものが散見されるものの、特に何事もなかったようにいつもの日常を取り戻そうとしていた。


住人達は、皆無事に事件が収束したことに安堵し、互いに肩を叩き合って喜んでいた。中にはワタル達にお礼を言う者も多くいたのだった。

そんな街の様子を眺めながら、ワタルは今回の騒動を解決できたことを改めて嬉しく思ったのだった。


*******

ラグド王国兵士団本部内


「ギルベルト団長!報告があります!」


団長室の扉がノックされ、一人の兵士団員が入ってきた。ギルベルトは重要な書類に目を落としていたが、兵士団員の入室に顔を上げた。


「例の薬の件か」とギルベルトは冷静な口調で返答した。


兵士団員は団長に薬の効果や製造方法について詳細を報告した。その間、ギルベルトは深く考え込み、「了解した。薬の処分は私が行う。その薬、俺に任せてくれ」と言った。


兵士団員は団長の言葉に従い、薬をギルベルトの手に委ねた。彼らは団長の決定に疑問を持たず、その場を去った。


ギルベルトは薬を手に取り、その容器を静かに眺めた。


彼らにはただ、国の平和と安全を守るために薬を処分すると告げるだけである。


続く




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