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第二十五話 フラハイトの暴動

タクトの両親と顔を合わせてから数日。兵士団から手紙が届いた。


******


平素より、ラグド王国の平和と繁栄を守るために尽力いただきまして、誠にありがとうございます。


貴殿におかれましては、先般の戦いにおいて天泣の幹部であるゼフィルを討伐し、王国の安全を確保するという重要な任務を果たされましたこと、誠に心よりお喜び申し上げます。


また、貴殿をはじめとするパーティの皆様方の勇気と献身に心より感謝申し上げます。貴殿方の勇気ある行動は、王国の平和と安全を守る上で不可欠なものであり、我が国民全てが貴殿方の活躍に感謝しております。


さて、この度の戦いにより、天泣の脅威は一時的には鎮まったものの、依然として我が王国には彼らの残党やその他の悪質な勢力が潜伏している恐れがあります。そのため、今後も常に警戒を怠らず、王国の安全を確保するための努力を続けていただきたく存じます。


また、天泣の幹部として名乗る者はゼフィルだけではなく、合計で7名の存在が確認されております。兵士団は現在、彼らの動向を精密に監視し、その活動を封じるための対策を講じておりますが、貴殿方におかれましても、引き続き情報の収集と対処に尽力いただきたくお願い申し上げます。


最後に、再度の戦いにおける貴殿方のご活躍を称え、王国の平和と繁栄を祈念するとともに、今後の活動においても貴殿方のご健闘を心よりお祈り申し上げます。


敬具


ラグド王国兵士団長 ギルベルト・マルカーノ


******


「天泣の幹部は7人…のうち2人は俺たちが倒したんだよな……兵士団の連中が本来はやらなきゃいけねぇことなんだけどな」とファングは手紙を読みながら呟いた。

彼の兵士団に対する不満が垣間見えた瞬間だった。

ファングは、その手紙をクシャッと丸めてゴミ箱に投げ入れた。


「何も捨てることないのに……」とワタルが言うと、 彼は言った。

お前だってそう思うだろ?と。

確かにその通りだと思った。ファングは続けて言う。


「この手の危険な相手は奴らがなんとかするべきなんだ。俺たちパーティに任せているようでは、兵士団の存在意義が問われるぜ。」と深くため息をついた。


「でも、天泣を倒せるくらいに強くなって、みんなを守れるようになりたい。」とスノーが言う。

ファングは、そんな彼女を見て言った。

そうだな……と。そしてワタル達に向き直って続ける。

俺たちだって強くならなきゃいけねぇんだ。と。

ワタルは、その言葉に深く頷いたのだった。

それからというもの、ワタル達は以前にも増して訓練に励むようになった。

ギルベルトの言うように、天泣がまた現れるかもしれないからだ。そして何よりタクトの無念を晴らすためにも……

そんな日々の中で、サヤからの手紙が届いた。

***

***

ワタルへ 。私は今、タクトのお兄さんを探して旅を始めたよ。学院で力をつけるべきって周りからは反対されたけど、私は私のやり方で強くなるって決めたの。

ワタルはタクトのお兄さんがどこにいるか知ってる?もし知ってたら教えてね。

また会える日を楽しみにしてるね! サヤ ***

***


「あら、サヤさんから?随分嬉しそうね」とハウンが声をかけてきた。ワタルは彼女に手紙を見せた。


ワタルは手紙をハウンに見せながら微笑んだ。「そうだね、サヤが元気そうで良かった」と言った。彼女はワタルにつられて笑顔になった。


そんな時だった。窓をバンバンと叩く音が聞こえる。


何事かとワタル達が外に出ると、そこにいたのは馬車の男ザインだった。

彼はワタル達に、一緒にフラハイトの街に来て欲しいと言った。そしてそのまま馬車に乗せようとする。

突然のことに驚きながらも、彼は落ち着かない様子で、ワタル達に助けを求めてきた。


そして彼の話によると、街へククリと観光に来ていたのだが突然暴徒が暴れ出したのだという。


ザイン自身は戦闘面でも中々の実力者なのだが、暴徒の数が多すぎて手が回らないのだという。

ククリとも騒動の中で離れ離れになってしまい、彼女を探すためにも力を貸して欲しいというのだ。

ワタル達はザインの頼みを聞き入れ、共に街へ向かうことにしたのだった。


フラハイトの街に着くと、そこには異様な光景が広がっていた。

街の至る所で暴徒達が暴れ回り、それを兵士団が鎮圧しようとしているのだが、数が多くて対応しきれていないようだった。


そして何より目を引いたのは、その暴徒達だった。皆一様に虚ろな目をして口から涎を垂らしながら奇声を上げている。


まるでゾンビのような様相を呈している。


そんな暴徒達の中に、ククリの姿があった。

ワタル達はすぐに集団の間を縫い、彼女のもとに駆けつける。そしてザインは彼女に声をかけるが、彼女は正気を失っているようで反応がない。しかしそれでも諦めずに声をかけ続けると、やがて彼女の目に光が戻ってきたのだった。


ククリはザインに気がつくと、泣きながら彼に抱きつき言った。

「あの人達なんだか様子が変なの。鍛えているはずの兵士団が1人1人倒すのにも苦労しているの」と。

そして、ワタル達にも気づき、さらに涙を流しながら感謝の言葉を述べたのだった。


ほっとしたのも束の間。今度は暴徒達の様子がさらにおかしくなっていく。

目が赤く光り出し、動きがより激しくなっていくのだ。そして、その目はワタル達をじっと見つめていた。

ザインはそれを見て言った「まずいな……」と一同が身構えたその時、目の前の暴徒達は苦しそうに胸や頭を掻きむしり始める。

大きく息を切らす者もいれば、そのまま倒れ込んでしまう者もいた。

やがて暴徒達は次々と意識を失っていく。そして皆一様に電池が切れたようにその場に倒れたまま動かなくなってしまったのだ。


恐る恐るその中の1人にワタルは近づいた。先ほどまでの暴れ具合から考えられないほど穏やかな表情を眠っているのだった。


どこかで見たことのある人のような気がした。ワタルは記憶を巡らせてみる。


資料館で働いている時の同僚だった。


そこまで交流があったわけではないが、このような悪事を働く人物ではなかったはずだ。


「おい。無事だったか」と騒ぎを聞きつけ、自主的に怪我人の救護をしていたセレドニオが走ってこちらへやってきた。


「この街のどこもこんな状況みたいだ。ひとしきり暴れ回った後、こんな風に人がバタバタと倒れてる…」とセレドニオは言った。


「一体何が…」と一同が困惑していると、倒れていた者達がゆっくりと体を起こし始めていた。


「セレドニオさん!ああ!俺はなんてことを!」と暴徒と化していた同僚は正気を戻したのか、セレドニオにすがりついて泣き始めた。


先ほど暴れていた者達はキョロキョロと周りを見渡し、状況をようやく飲み込めたようだった。


そして皆一様に謝罪の言葉を述べた。

どうやら彼らは正気を失っていただけで、その間の記憶はぼんやりと残っているようだった。

ワタル達は彼らに事情を聞くことにした。

すると彼らは口々に語り始めたのだった。

***

***


俺は仕事終わりにフラハイトの街で朝まで飲み歩いていたんだ。そしたら突然変な奴が現れてさ、そいつが何か言った後急に意識が遠くなって……変な物を飲まされたんだと思う。

そこからは体が勝手に動いて、気分が悪くてこんな有様だったよ…と1人の男が語った。


他の者達も同じように状況を語り、嘘をついているようには見えなかった。


兵士団を苦戦させるほど力強くなったのもその薬の影響だろうか。無関係の人を暴れさせて騒ぎを起こすことが目的なのであれば許せない話だ


ワタルは彼らに、その変な人物に心当たりがあるかどうか聞いた。

すると彼らは一様に、ローブを深くかぶった男で顔は見えなかったと皆口々に言ったのだ。


ワタルは皆の話を聞いた後、冷静に考えた。「ローブを深くかぶった男…」彼はその言葉に集中し、記憶の中でそのような姿を思い出そうとした。


しかし、そんな兆候は彼の頭に浮かんでこない。彼は薬物を使った首謀者が誰なのかを特定するのは容易ではないと理解した。


「まずは被害者たちの安全を確保しなければならないわ。そして、この薬物に関する情報を収集し、それを元に捜査を進めていきましょう」とハウンは言った。


セレドニオも同意し、「俺は被害者たちは兵士団と共に一旦安全な場所に避難させてくる。何かわかったら知らせる」と駆け出していった。


兵士団は暴れていた者達から事情を聞き、彼らも保護して連れて行く。



ワタル達は、まず街の混乱を収めつつ、首謀者の手がかりを探すことにした。


***

ワタルは被害者たちを避難させているセレドニオと兵士団に合流した。そして彼らから情報を聞き出すことにする。

彼らは皆一様に不安げな表情を浮かべていたが、特に怪我などはなく無事なようだった。

まずはこの薬物について何か知っていることはないか聞いてみたが、やはり何も知らないと言うのだった。ただ1人を除いて……

彼は他の者と違い、どこか落ち着きがない様子でそわそわしていた。


話を聞こうとセレドニオや兵士団員が声をかけると、彼は突然震えだし話し始めた。


彼の話では、この薬は最近フラハイトの街に裏で流通し始めた物で、もともとアウトローに憧れていた彼がこの薬を知ることなったのは、少し前に酒場で知らない男に声をかけられたことがきっかけだったと言うのだ。


男は彼に近づき、話しかけた。

その男はフードを深くかぶっていて顔は見えなかったが、声から察するに老人のようだったという。

高い報酬を持ちかけられ、これを流通させるように頼まれたのだという。


彼はすぐにこの薬が危険な物だと直感し断ったが、男はしつこく食い下がり、最終的には強引に薬の入った小さな瓶を握らせてきたのだった。

そして去り際に彼は言ったのだ。

この薬を流通させれば金と名声が手に入る……と。


そうして男は何人もの人を同じように誘い込み、無関係な人を暴徒化させる薬を流通させることに彼もそれに加担してしまったのだという。


良心の呵責に耐え切れず素直に白状することとしたとのことだった。


兵士団は司法取引を条件に、その薬の流通ルートや首謀者の情報を聞き出そうと試みると、彼は身を震わせながら「天泣の奴らだ。場所なら教える」と呟いた。

そして、彼は自分が知っていることは全て話したから、どうか身の安全を守って欲しいと懇願した。


兵士団は、彼を拘束し、他の被害者達にも同様に事情聴取を行うことにしたのだった。


彼の証言からフラハイトの街から東にある森に薬を精製している場所があると判明した。


ワタルたちが大猪の討伐にもいったことのある森だ。


兵士団も同行し、ワタル達は、準備を整え向かうことにした。森の入り口に到着すると、そこには見張りをしている者がいた。

彼らは皆虚ろな目をして佇んでいるだけで、こちらの呼びかけにも反応しない状態だった。

兵士団の1人が話しかけるがやはり反応はなく、ただそこに立ち尽くしているだけだった。

そして次の瞬間には急に動き出し襲い掛かってきたのだ! ワタルはすかさず新調した剣を抜き構える。

ゼフィルとの戦いで折れてしまったものよりも高価で使いやすいものを、ハウンが用意してくれたのだ。


兵士団の1人が、その剣で応戦する。しかし相手も訓練を積んだ兵士達であり、簡単には倒せない。

他の兵士団員達も加勢し、何とか取り押さえることができた。

そして見張りの者達を拘束して尋問を行うがやはり何も答えない。

彼らは薬に操られているのか、それとも何者かによって洗脳されているのか……それすらもわからない状況だった。


そんな時、森の奥からガサガサと足音が聞こえたかと思うと1人の男が現れたのだ! 男はワタル達を見ると、鬼の形相となり、言った。


「ココカラ、サキニイカセナイ…オマエタチハココデ、シヌノダ」と。

そして男は、背中に背負っていた斧を振りかざし襲い掛かってきたのだった。


なんとかやり過ごしたいが、この人物も薬を無理に飲まされている可能性がある以上、怪我をさせるのは躊躇われる。


ワタルは、彼の攻撃をギリギリのところでかわし、男の懐に入り込むと剣の柄で鳩尾を打ち気絶させた。

そして拘束して兵士団と共に連行することにしたのだった。


森の奥に進むとそこには小さな小屋があった。男が言っていた場所に違いないだろう。


見るからに怪しげな雰囲気を纏っていたそれに意を決して突入するのであった。



続く




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