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第二十一話 砂の少女

結局その日に行われる試合を全て見てしまったワタル達であったが、砂の少女と水の青年の戦い以上の興奮はなかった。


アイリの自宅へ向かう道中もその話題で持ちきりであった。


そんな時、ハウンが何かに気づいたように声を上げた。

そして、その方向を見ると……そこには先ほどの砂の少女の姿があった。


「あの、お疲れ様です! 試合、すごかったですね」とワタルが声をかけると、少女は少し驚いたような視線を向けた。


「どうも。そんなに感動するようなものでもないけど。」と、冷たくそっけない言葉で答えた。突然話しかけたから驚かせてしまったかな……と心配していると少女は続けて、貴方達も試合を見にきていたの?と答えた。

ワタルがそうですと答えると彼女はまじまじと見渡してきた。

何かを見ているのかと思ったらこちらの顔に目線を向けていた。


少し間が空いたあと…「そう。」

とまた素っ気なく答えて、くるりと背を向けると建物の中に入って行ってしまった。


話しかけるべきではなかったかなと反省しつつ、ワタルは前を向いた。

しばらく歩くとアイリの家へ辿り着いた。

街の一等地であるにも関わらず、庭付きの立派な家であった。これがもともと別荘であったとは恐ろしいものだ。


「いらっしゃい。たっぷり観光できたかしら?」とアイリが出迎えてくれた。彼女は在宅で仕事を進めるとのことで、宅配でも好きなものを勝手に頼んでくつろいで良いとのことだった。


さて、旅の疲れもあるので観光は切り上げてお暇したいと思っていたところだしアイリの誘いはとても有難いものだった。お言葉に甘えてワタル達は食事とお風呂を済ませてしまうことにしたのだった。


1日の最後にホッとしてソファーでくつろぎながら1人部屋に戻り窓から月を眺めてながら眠りにつくのであった。


次の朝、目が覚めるとハウンが朝食を作っていたようでアイリも食卓に座っていた。


パーティ4人が全員揃ったところで、魔術学院へ短期合宿についての説明がなされた。日にちは約三週間。

学院生に混じりながら基礎的な魔法を身につけることを目指すという。学内見学、図書館やその他施設の閲覧、実技授業への出席などを行い様々な教員と顔合わせをする機会があるという。


闘技場で戦うことが出来るまでに成長するにはそれ以上の期間が必要であるし、現実的ではないそうだが、実践的な魔法が身につくため、かなり評判は良く他国からも参加希望者が殺到するらしい。魔術が浸透していない国の人間は魔術に触れようと切望するあまり、その手の留学にあえて何千キロもの困難な旅をする者までいるという。


それだけ魔法都市の魔法教育は優れており、この合宿を強く所望する者は多いということである。そして参加人数も多くはないため選考にはかなり苦労をさせられたとのことだが、大きな影響力を持つアイリが妹を可愛がるあまり無理やり推薦したのだという。


それにくわえ、ハウンの仲間の分まで通してしまうのだからすごい。


そして明日にも合宿に参加ができるらしい。

というわけで説明は終わり、旅の話など雑談をしながら朝食を食べ終えて、魔法都市見学に励み翌日に備えるのであった。


明くる日、朝早くに目が覚めてしまったワタル。

習慣というものだろう。寝るのももったいなく感じてしまうほどの晴天だった。他の3人も同じ気持ちだったようで、合宿に向けて食事を済ませ早めに出発することにした。


サエナ王国立魔術学院と門には表記されてあった。魔術学院と略したり、魔法学校という呼称が主流らしい。そんな正門から一行は中へと足を踏み入れた。


外観は白で統一されておりとても清潔感が溢れている。学院生が行き交い、活気がある。

クラスごとに講義を行う場所が異なるのだというので案内板に従うように各々の教室へと向かった。


三週間、講義を受け続けるようだ。午前は座学や基礎体力作りなどについての講義を行いそれが終わると昼休みを挟んで午後からは実技科目と4〜6コマを土日休みを除いてこなすそうだ。


座学は基礎中の基礎からのスタートとなる。

「魔術や魔法とはつまらなき人生を面白く生き、人々を守り続ける為に使っていく技術です。そして世界は大きく動きました」と老齢の教授は語った。


混同されがちだが、魔術と魔法には厳密には違いがあり、占いや宗教的儀式を持って人々の心の安寧に寄与する力を前者とし、後者は自然界に干渉し、物理法則や現象そのものをねじ曲げる力である。まぁ結局のところ似たようなものですけれどねと教授は続けた。


魔術学院と称してはいるが、昨今の世界情勢からか魔法を専攻する者の方が多くなっているらしい。


先日の闘技場に参戦できるということもあり、魔法の方が華があるという見方が現時点では強いのだという。


そうした座学の中で魔法は攻撃・回復・補助系等、それぞれの系統に分類されてあり基礎魔法から区分されているらしい。


次に実技科目へと移る。

1日目は体力作りの為のランニングだった。外周を周回するようにコースが組み立てられており、出来るだけ自分のペースで完走するよう心がけると良いと説明された。


ワタルは長距離を走ることはファングとの鍛錬でもう慣れている。学院生も混ざっていたが、中団よりも先をキープし完走することができた。

ボルダリングや水泳など一見魔法とは関係のなさそうな実技がその後一週間続くのだった。

そろそろ魔法の使い方を教えてほしいと思い始めたが、今日この日もひたすらプールを泳ぐのだという。


ハードな運動でぐったりとしつつ、何秒かのインターバルが癒しに感じた。

ふとワタルはプールサイドを見上げると闘技場で戦っていた獣人の少女がベンチに座っていた。

彼女はワタルの視線に気がつくと、ぷいとそっぽを向いてしまった。


ワタルが気分を悪くしたかとハラハラしていると……そのまま立ち去ってしまった。


そんなであっという間の5日目だった。2日間の休日を挟んで次の週はいよいよ魔法を使った実践的な授業となるらしい。

これまでの体力を使う実戦については脱落者も少なからず出てくる中でついてくることができていたし、もしかしたら魔法もすぐに使えるのではないかとこの時は思っていた。間違いなく慢心していた。


クラスが異なるファングたちも順調に来週からの魔法の実践に移ることが出来るそうで一同は安堵した。


休日もほどほどに体を動かし、魔法について勉強をすることであっという間に時間は過ぎ、いよいよ本格的に魔法の使い方を学ぶ講義となった。


もっとも誰でもどんな魔法も撃てるというわけではなく、適正によって扱える魔法が変わってくる。

ただし、どんな魔法に適正があるか測る方法は「やってみるしかない」と言われるほど確立されたものではないらしく、どんなに強力な魔法を撃つ才能があったとしても埋もれてしまったり、それに気がつく機会がなく、魔法に関わらない道に進んでしまうことが多いらしい。


風と火その2つから学ぶこととなった。

教授がお手本として火の玉を繰り出したり水球を出したりと手慣れた様子で講義を進めていった。そして、その魔法を実際に使ってみることになったのだ。

初めて使う魔法に緊張しつつもワクワクして杖を構えて精神を集中させる……のだが何も起こらなかった。他の生徒には何人かは成功させている者もいた。


何度もやって出来ないのであれば適正がないと見做して他の魔法を試していくらしい。ワタルはそれから何度も試してみたが一向に魔法が発動する気配はなかった。

他の生徒と見比べてみても明らかに劣っているのは明らかであった。


講義の終了後も居残りで教授に教えてもらった方法を試した。それでもダメだった。


今までやってきたことは何だったのかと……。講義の終了後も居残りで特訓を続けるが心は折れかけていた。

そんな時だ。ふとワタルの目に1人の少女が目に入ったのだ。砂の魔法の少女だった。

誰かと一緒にいる様子はない。ダメ元で声をかけてみることにした。

彼女はワタルに気がつくと、何?と冷たく言い放った。

ワタルは彼女から何かコツのようなものを教えてもらえないかと尋ねたが彼女は無視をしたまま立ち去ってしまった。

ダメか……と落胆したその時だった。ふと自分の周りに砂が集まり始めたのだ。

砂は人のような形に固まり輝きを放つとそこに先ほど立ち去ったはずの少女が現れた。


こんなことも出来るのかと驚いた。ワッ!と声をあげてひっくり返ってしまった。砂の少女はそんなワタルを見ても表情を変えない。


「ちょっとだけ時間あるから見てあげる。手を出してみて」と彼女は言った。


ワタルは言われるがまま、手を差し出すと彼女はその手に触れた。すると眩い光があたりを包み込んだかと思うと…手のひらが燃えるように熱くなる。あまりの苦しさについ手を振り払おうとしてしまったが、握力で負けてしまっている。


10秒ほどたっただろうか、ようやく解放され、手を見ると……そこには小さな光球が浮かんでいた。


「これは一体…?」とワタルが尋ねると「私の砂の魔法をイメージして、撃ちたい方向に手のひらを向けて」


言われるがままにすると彼の手から砂塵が吹き荒れた。



「おお!これで俺も砂の魔法が使えるってこと…?」と目を輝かせて少女の方を向く。


「調子に乗らない。私の力を分けて撃てるようになっただけ。使ったらもう出ないから。」と彼女は冷めた目つきでいう。


それでもワタルは嬉しかった。つい、はしゃいでしまい彼女に何度もお礼を言った。


「これでわかったのは、魔法の力を保持できる力はあるってこと。何かしらの魔法はできるようになる。」

と彼女は言う。


「おい!何の騒ぎだ!」と烈火の如く教授が駆け込んできた。

建物の窓は空いたままであり、大量の砂が入ってきたのだという。


ワタルは何とか弁明しようとしたが、少女の姿はなかった。何と走って逃げている。


確かに撃ったのは自分だが、逃げるなんて…と思考を巡らせていると、教授は魔法で彼女を拘束し、現場へ戻らせたのだった。


少女も観念したのか、それ以上抵抗することはなく、2人してこっぴどく叱られてしまった。除籍や出席停止にされるまでには至らなかったものの、一週間罰として学院内の掃除を命じられてしまった。



「ここを箒で履いてくれれば、俺は雑巾をかけるから手分けしてやろう!」と声をかけると「うん…」とそれだけ返事をして、掃除を始めた。


一時間ほどして2人とも解放されると彼女も帰路に着くようだった。


「今日は教えてくれてありがとう。教授の『年上の貴方がしっかりしてなきゃダメだろ』って返す言葉がなかったよ。窓が空いてたとか注意力に欠けてた。ごめんなさい。」

とワタルは頭を下げた。

彼女は何も言わず、ワタルの横を通り過ぎていった。

ふと彼女が立ち止まると振り向いてこう告げた。

「また明日…」と言って少し微笑んだような気がした。ワタルは、うん!また明日と元気よく返事をして手を振り彼女を見送った。


その夜、ファングやハウンに今日の出来事を話したが、教授から説教を受けたことを聞いて笑われてしまった。


でも今日は何かを掴めたかもしれない。


続く



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