第十九話 ラグド兵士団
ザインは彼らを秘密基地まで送迎してくれ、4人でお礼に食事を振る舞った。
ザインは美味しい料理を美味しそうに食べてくれた。
その後、ワタルとハウンが過去の話や現在の話をしている間、ファングは酒を呑んでいた。
やがて夜も更けてくる。仲間とともに過ごす時間が終わることが寂しいのかザインが寂しそうに言った。
そして彼は元気を出すように拳で自分の胸を叩いた。
翌朝、ザインはパーティには加わることはできないが、遠くへ冒険に行く時はいつでも協力すると約束してくれた。
一向はギルドへ依頼達成の報告へ。
ギルドの中へ入るとワタル達を見て、冒険者や受付の職員がざわつき始めた。
どうやら今回の依頼に天泣が関わっていたことは想定外だったらしく、その幹部を倒したパーティであることを、北の村の村長がギルドへ伝えていたようだ。改めて、ワタルは職員に依頼達成の報告をした。
するとこれまでの実績を評価され、長距離移動や手強い魔物の討伐を伴うこともあるCランクの依頼を今後受けることが出来るようになった。
一同は喜びを分かち合い、ギルドを後にした。
街へ向かう馬車に揺られながら、ワタルはこれからのことを思案していた。
評価がされたといっても、他の3人におんぶに抱っこであった。
ファングとスノーは最前線で戦っていたし、ハウンによって救われた命も沢山あった。
ワタルも救助活動に参加はしたが、何か貢献できたという実感はない。もっと強くならなくては……とワタルは拳を握りしめる。
北の村の騒動から二週間、ワタルは資料館や酒場でのアルバイトをしながら、Cランクの依頼リストからパーティで実行する案件を模索する。
転生前に助けられなかったあの子からの手がかりはないかとも気にしたが何も掴めない。
そんな時、秘密基地に一通の封書が届いた。ワタル達パーティに宛てられている。
どうやら兵士団からのものであるようだ。
4人で集まり封書を開封し、中身を確認する。
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謹啓
時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。貴殿ら冒険者パーティが、非常に卓越した業績を達成され、その勇敢かつ献身的なご奉仕に深く感謝いたしております。
この度、貴殿らが本兵士団の本部においていくつかの重要事項についてご協議賜りたく、特にワタル様一人にお越しいただきたく存じます。貴殿の豊富な知識と経験、そして冒険者としての見識が、本兵士団の重要な戦略に貢献することを確信しております。
誠に勝手ながら、貴殿のお忙しいご多忙をお慮り申し上げつつ、是非ともご出席賜りますようお願い申し上げます。詳細につきましては、後日改めてお知らせさせていただきます。
また、お忙しい中誠に恐れ入りますが、日程の調整をさせていただきたく、貴殿のご都合をお聞かせいただきたく存じます。
貴殿のご多幸と、ご健勝を心よりお祈りいたしております。
敬具
ラグド王国兵士団長
ギルベルト・マルカーノ
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兵士団によってギルドが運営されるこのラグド王国も目をかける存在に出世したものだと、ワタルは感心してしまった。
しかし、何故自身1人が呼ばれたのか。その疑問にファングが一つの推測を立てた。
「これは何か裏があるんじゃないか。あまりパーティが名を上げると兵士団の奴らはよく思わないって話も聞くからな。治安維持が機能してないから俺たちがやらなきゃいけないというのに。」と吐き捨てる。彼もまた兵士団に対しては思うところがあるようだ。
まぁまぁ、滅多にない機会だよとスノーは宥める。
ワタルは、ハウンはどうする?と問いかけた。
彼は自身の知り合いに元兵士団がいることを思い出し、意見を聞いた上で判断することを伝えた。
資料館業務での先輩 セレドニオだ。
彼はかつて救護活動を専門にしており、後に団長となるギルベルトとも親交があったとのことだった。
ワタルはセレドニオに相談をしてみることにした。
彼は快く相談に乗ってくれた。
そして、ギルベルトが呼んでいるのは、おそらくこのラグド王国で何かが起きているからではないかという見解を示した。
ファングの推測について真偽を訊ねると、それは分からないと答えつつも、何らかの秘密裏な動きがあることは間違いなさそうである。
ワタルはパーティメンバーに結論を伝えた。
彼らはその呼び出しに応じることに決め、兵士団の本部へ返信をしたためた。
そして、数日後、彼はラグド王国兵士団本部へ赴くこととなった。
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兵士団本部は、ラグド王国の城下町の中央に位置する。
長い歴史のある石造りの建物で、城下町では一際目を引く建造物である。
ワタル達はその敷地に足を踏み入れた。
白い漆喰の壁の続く先には、緑豊かな庭が広がっている。手入れされた芝生や花壇があり、綺麗な花が咲いている。その庭園の中央には大きな噴水があり、水しぶきが太陽の光を浴びて煌めいている。
兵士団の本部というからもっと無骨なイメージだったが、この美しい庭園はワタルの想像とは大きく異なっていた。
庭園の先には、3階建ての建物がそびえ立っている。その入り口には兵士が2人立っており、来訪者をチェックしているようだった。ワタル達が兵士団本部へ来た旨を伝えると、中へ案内される。
建物の中は広々としたロビーになっており、正面に受付がある。
受付の女性が要件を聞いてくる。ワタルは、ギルベルトとの面会を希望していることを伝えると、彼女は手元の資料を見ながら何やら確認している様子だった。
やがて、受付嬢は手元の資料を閉じるとワタルたちに向き直った。
そして丁寧にお辞儀をすると、こちらにどうぞと言った。
彼女について行くと会議室のような場所に通された。部屋の中には4人掛けの大きなテーブルが一つ置かれており、椅子が4つ用意されていた。その一つに座るように促される。
しばらく待っていると、部屋の扉が開き、一人の男性が部屋に入ってきた。
精悍な顔立ちにグレーの短髪が特徴的な人物で、鍛え上げられた筋肉が服の上からでも見て取れる。
彼がギルベルトのようだ。彼はワタルをジッと観察するように見つめると口を開いた。
「私が兵士団長のギルベルトだ。君がワタル君だな?わざわざ出向いて
もらって済まない。」
彼はそう言うと、対面の椅子へ腰を下ろした。
ワタルは挨拶を返すと、そして彼に今回の呼び出しの目的について説明を始めた。
「天泣幹部の討伐に尽力頂いた功績を称えて、是非とも一度ゆっくり話がしたいと思っていたんだ。そこで、兵士団本部へ来てもらったという訳だ。是非今後もこの国のために力を貸してほしい。」
そう言って、彼は手を差し出した。
ワタルは握手を交わしつつ、その感謝の言葉に恐縮しつつ答えた。そして彼自身も、兵士団との連携がより密であればこの国の平和は保たれると感じていると伝えた。
「そこでだ。君の実力はどれほどのものなのか。1人の剣客として、率直に 聞きたい。」とギルベルトは言うと、腰の剣をゆっくりと引き抜いた。
そして鞘を床に置くと、ワタルに向き直り剣を構える。
「俺をどうするつもりなんですか…!?」
1人のみを、自分を呼び出した理由とはこれか。ハウンから武器を携帯していると怪しまれかねないと言われていたため、丸腰のままここまで来たのが裏目に出てしまったのか。
「何も君を殺してやろうという気があるわけではない。望むなら剣技を鍛えてやろうと言っているのだ。」
そう言って、ギルベルトはニヤリと笑った。
場所を訓練場に移し、兵士の剣が手渡された。
「これで俺に向かって剣を振るってみろ。そしてひたすら俺はそれを受け止める。こちらからは攻撃せんよ。」
ワタルは剣を握りしめた。この人相手にどこまで通じるだろうか。
そして、ギルベルトと向かい合い、剣を構えた。
鋭い目つきでこちらを見つめてくる。
「これほどの武器を使ってはあなたの身が万一危ないのではないですか。やっぱり俺には…」とワタルが口にした瞬間、目にも止まらぬ速さで刺突が襲っていた。
反応が出来ない。だが剣は数十センチ後ろの壁に突き刺さっていた。初めからそちらを狙っていたのだろう。
「この剣は兵士団の訓練用に作成されたものでな。特殊な魔法が組み込まれていて、人が死ぬ程の衝撃が加わらないようになっているんだ。」と彼は言った。
ワタルは冷や汗をかいた。
彼が本気であれば、今の一撃で死んでいただろう。
「『あなたの身が万一危ない』…?それはこちらの台詞だ。私はそれほど弱くない。君の実力を見せてくれ、さあ 来い!」
兵士団長は構えを解き、両手を下げた。
ワタルは息を大きく吸い込むと、気合を入れてギルベルトに斬りかかった。
しかし、その剣はあっさりと弾かれてしまう。彼は再び剣を構えたがワタルの攻撃を全て弾き返してみせると、最後に剣をワタルの喉元に突きつけた。
まるで刃が首に当たった感触がない。冷や汗をかいた。これが本物の剣技かと、ワタルは身震いした。
ギルベルトは剣を降ろすと、再び構えた。
ワタルにかかってくるように促す。ワタルは再び斬りかかる。先ほどより力を込めて剣を振ったが、やはり弾かれてしまう。今度は彼の剣はワタルの鼻先で寸止めされた。
即座にワタルはその剣を叩くように弾いた。ギルベルトが体制を崩した一瞬の隙を見逃さず、ワタルは剣を彼の頭上へと振り上げると、脇腹に蹴りを入れられてしまう。
床を転がりながら体制を整えると、ワタルは再び斬りかかった。
しかし、その剣もあっけなく弾き返されてしまい、彼はそのままワタルの顎に肘打ちをした。
ワタルは後ろに吹き飛ばされると仰向けに倒れてしまった。
攻撃しないんじゃなかったのか…。
ワタルは荒い呼吸をしながら天井を見つめた。
立つよう促され、また剣を振う。
それから30分ほどたっただろうか。
結局一撃でも与えられていない。
兵士団長は涼しい顔でワタルの剣を捌いていた。
「ここまで」
という言葉とともに、ギルベルトは剣を床に置いた。
ワタルの息が切れている。対するギルベルトには全く疲れが見られない。
本当にこれが実力の差なのだと思い知らされる。
ワタルは膝をつくと、荒くなった息を整えた。汗が止まらない。
「なかなかの実力だ。どうだ?兵士団に入る気はないか?荒削りだが、鍛えさえすれば…かなりの実力者になれるはずだ」
ギルベルトはワタルに手を差し出しながらそう言った。
その言葉に、ワタルは自分自身の実力を試すつもりだったのだが、まさか勧誘されるとはと驚いたが、その提案には乗らないことにした。
「せっかくの誘いですが、俺には仲間がいるので。それに、俺には目的があるので。」とワタルは返した。
自身が異世界より転生してきたこと、救うことのできなかった子供も同じくこの世界に来ており、それを探すことが目的であると細かに説明した。
「それは兵士団にいても出来ることだろう。現にギルドへの依頼は我々が精査しているのだから、それ以上に情報が集まるのだ。」
ギルベルトはそう言って食い下がった。確かにその通りである。
しかし、ワタルは言い返した。
「仲間達のことが好きだから、今の仲間と一緒に行動したいんです。」
「獣人たちのことか?」
ワタルは頷いた。
この人は純粋に自分を評価して、そして誘ってくれているのだ。それは良く分かったし嬉しいことなのだが……。
ギルベルトは一瞬、口元に微笑みを浮かべたが、その後で彼の視線には何かが変わった。彼は再び言葉を続けた。「君が自らの選択を大切にするのは理解できる。だが、この世界は時折厳しい現実を突きつけることがある。君の仲間たちもそのことを理解しているだろうか?」
ワタルは真剣な表情で返す。「私たちはお互いを信じ、支え合っています。困難があろうとも、それを一緒に乗り越えていく覚悟です。」
「そうか。今後とも活躍を期待しているぞ」
そう言ってギルベルトは退室を促した。
ワタルはお辞儀をすると、踵を返して部屋から出ていった。
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ワタルの退出後、兵士団の幹部がギルベルトに話しかける。
「その様子だと勧誘には失敗したんですね」
彼は他の兵士団長たちのような体格の良い大男というわけではなく、寧ろ細身で中性的な雰囲気の男だ。
しかし、ギルベルトには彼の外見からでは想像もつかないような強さを秘めていることを良く知っていた。
名をアルト=アルバインという。元々別の国の兵士であったが、ギルベルトと親交があり、この度は兵士団にスカウトされて異動してきたのだ。
そしてアルトもまたワタルに興味を持っていた。彼がどんな人物なのか知りたいと思っていたのだ。
そのアルトの問いかけに、ギルベルトは答える。
「何も奴を必要としたわけではない。
転生者だとかよくわからないことを言っていたが、とにかくそばにいる獣人どもに力をつけられると厄介だからな。奴が兵士団に加わればパーティとして活動が出来なくなる…そういうわけだったんだがな」
「獣人どもは信用にならないですからね」とアルトは呟く。
権力者や実力者と呼ばれる者たちの中でも、獣人族に対して差別的・非人道的な目を向けているものは少なくない。彼らもその中の1人だった。
ギルベルトに至っては獣人への差別をなくそうと動く社会は生ぬるいとすら感じている。
ラグド内戦では生身の人間でありながら、獣人3人をまとめて1人で殺害する程の実力を見せつけたギルベルト。彼は自らが先頭に立ち、ラグド王国を生まれ変わらせると心に決めていた。
アルトはそんなギルベルトに絶対的な忠誠を誓っている。彼が何を望んでいるのか、何をしようとしているのか。その為に自分が何をするべきかを知るためなら、どんな労力も惜しまないとある兵士団員は彼を評する。
アルトはギルベルトに進言する。
それはラグド王国を獣人のいない、真に平和で崇高な国へと作り変える計画についてであった。
続く





