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異世界転移デザイナーの魔法陣 〜魔法陣をデザインし直したら、可愛い弟子たちに囲まれて救世主扱いされました〜  作者: 藍墨兄@リアクト
不良少年編

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第五話

 逆上して突っ込んでくるプラム少年は、俺が〝計量(スケール)〟を使って弾き出した最適な強度、距離、そしてタイミングで出した足に引っかかり、気持ちいいくらいのスピードですっ飛んでいく。そのまま壁に激突すれば大怪我必至の勢いだったが、俺も別に、彼を病院送りにしたいわけではない。

 突っ込ませた先は、格技棟内に擬似的に作られた水たまり、というか沼だ。もちろん底なしの訳はない。

 無傷とはいかないだろうが、それほど大した怪我はしない。それも〝計量〟で確認済みだ。


 さっき脳内に現れたゼファーの意識と会話して以降、俺のスキルはめちゃくちゃにパワーアップしている。

 これまでは対象を見つめることで数値が現れ、欲しい情報に集中することで詳細が判る、という使い方だった。ところがあの時から、その情報を元に自分がどうすれば望んだ結果が得られるかを〝身体的な感覚でも〟理解出来るようになったのだ。


 結果、さっきのような、一見人間離れした行動を取ることが出来るようになった。

 その副産物として感情が表に出やすくなり、中々にエキセントリックな部分が出ちゃったりもするわけだが。

 ともあれ、今はプラム少年だ。……溺れてねえよな?

 彼が突っ込んだ沼を振り返った時、後ろから俺に話しかける声がした。


「そんな使い方があったんですね」

「レストン先生……」

「今のはスキルの応用、そうでしょう?」

「……なんですかね。正直俺にもよく分かってないんですよ。ただ、最初にぶっ飛ばされた時、頭の中にゼファー女史の声がして」

「ほう」

「感情の強さでスキルの能力が強化される、みたいなことを言われて、結果こうなったって感じです」

「興味深いですね。転移者のスキル覚醒は知っているつもりでしたが、スキル光まで会得したとは……」


 スキル光?

 そう尋ねようとした時、沼からプラム少年が這い出てきた。


「ぐ……かはっ、げほっ、おええええっ」


 途中で口に入ってしまったらしい水を吐き出しながら、ずるずると這ってくる少年。ちょっとホラー感あるな。

 それを見たデイジーがてててっと駆け寄り、声をかけた。


「プラム、ほらしっかりしなさい! 立てる? おっけ?」

「……」


 取り合う余裕もない様子のプラム少年だったが、やがてゆっくりと身体を起こし、地面に手をつきながら座り込む。

 大きく肩で息をしながら、心ここに在らずといった風だった。


「これは、決まりましたかな」

「レストン先生」


 ジェントルマッチョ氏はプラム少年に近づき、座り込んで何事かを確認すると、その場で立ち上がり宣言する。


「――プラムの戦意喪失により勝者、ヨシアキ先生!」

「すっげ……」

「なに、今の動き……」

「スキルって言ってたよな、あれ魔法じゃねえのか?」

「魔法とスキルは違うって習ったじゃん」

「でもよ……」


 ざわつくギャラリー。いや、引くなよ頼むから。


「決闘前の取り決めにより、明日からヨシアキ先生の報酬、〝卒業までちゃんと授業を受ける〟を実行する! 解散!」


 レストン先生の宣言で、観覧席の生徒たちが移動し始めた。やれやれ。


――あとは、例のストーカーの件だけ、だな。


 そんなことを考えながら、俺は目を閉じて〝計量(スケール)〟を止めた。

 その瞬間。


「いぃっ……!?」


 俺の左腕に、凄まじい痛みが走る。


「い゛っっって゛え゛え゛え゛え゛え゛えええぇぇぇ……っ!!!!」


 それが、プラム少年からもらった最初の攻撃のせいだと気づいたのは、俺が痛みで気絶する直前だった。



――――



 事故や病気で眠ったキャラクターがよく言う第一声、「知らない天井だ……」を言うチャンスだったかもしれない。

 が、現実というのは往々にして、地味で無情でしょぼくれているものだ。

 俺が目覚めた時、それはたしかに見たことのない天井だったが、口をついて出たのはよく分からない言葉だった。


「んが……」

「あ、起きた」

「デ、イジー……?」

「おはー、今お医者さん呼んでくるねー!」


 たたたたっとデイジーが軽やかに走り去る。

 入れ替わりに、アヤメ嬢が泣きそうな顔で部屋に飛び込んで来た。

 いやあの、君たちここ病院なんじゃ……。


「先生、ヨシュア先生っ!」

「おぉう、アヤメ嬢、あんまり騒ぐとここ病院……」

「そんなことはどーでもいいんですっ!」

「は、はい、すみません!」


 いかん、若い勢いに負けるなヨシアキ。


「どーして!」

「え?」

「どーして私が診ている時に目を覚まさないんですかっ!!」


 え、そこ?


「い、いや、別に図ってそうしてるわけじゃ」

「私だってデイジーみたいにお医者さん呼びに行きたかったのに!」

「……すまんよ?」


 どーもこのアヤメ嬢、ちょいちょいポンのコツになる。

 言われて悪い気はしないが、こればっかりはしょうがないじゃないか。


「……なんで疑問系なんですか」

「いや、えーと」

「大体、先生があんな決闘受けちゃうからこんなことになるんじゃないですか!」

「やーその、ちょっと血が騒いで」

「静かにさせてくださいよ! 血!」


 えええ……。

 デイジー、助けて……。


「ただいまー、先生呼んで来たよー……え、どうしたのアヤメちゃん」

「だって! ヨシュア先生が騒いで!」

「今騒いでるのはあなた(アヤメ)なのよ……」


 そっとため息をついたところで、この病院の院長が現れた。

 なんかすっげぇホクホクしてんだけど。嫌な予感しかしねえ……。


「お、なんだ修羅場か!?」

「……言うと思ったよ、ゴシップ大好きジジイめ」


 実はこの爺さんと俺は面識がある。

 俺がこの世界に転移したばかりの頃に世話になったことがあったのだ。

 あの時も気絶して運ばれたんだったな……。


「そんで、俺はどうなってるんだ。なんかあちこちすっげぇ痛えんだけど」

「おう、左前腕部にあばらが数本、ぽっきりいってるぞ。他にも全身、めんどくさいから数えちゃいないが、そこら中を打撲してるな。今のあんたなら、よちよち歩きの赤ん坊にも泣かされるなぁ」


 あっはっは、じゃねーんだよマジで。

 しかしそうか、腕はやっぱり逝ってたか。

 スキルが覚醒したおかげで勝てはしたが、代償がここまでとなると……。


「やっぱ鍛えねえといかんなぁ……」

「ねーねー先生、ちょっと聞いてもいい?」


 独り言を呟く俺に、デイジーが身を乗り出して聞いてきた。


「いててててっ、ちょ、おま、ベッドに体重かけんなよっ」

「あ、ごめん。……で、いい?」

「……なんだ?」

「今回、プラムに勝ってこんなんなってるけどさ。……ヨシュア先生って、うちのおとーちゃんと引き分けたんじゃなかったっけ、ずっと前に」

「えっ!? あのデイジーのお父様と!?」

「……まあな」

「確かにプラムも学生としては強い方だけどさ、ゆーてもおとーちゃん、世界有数の大冒険者なんだよ? それと引き分けるくらいの実力があるんなら、プラムくらいちょちょいのぽーんじゃないの?」

「最後放り投げるなよ。……まあ、あの時とは状況が違う。俺の実力は本来、スキルが覚醒しても今回程度だよ」


 そう。本来の俺はこんなもんだ。あの時――転移して間もない頃とは色々と違う。


「しかし困ったな。せめて腕が治らないと、次元時計の件もあるし……」

「あ、あの、先生」


 そう言っておずおずと手を挙げたのはアヤメ嬢だ。遠慮がちな上目遣いを俺に向けてきていた。


「ん、どした?」

「あの、私に先生のお手伝いをさせてもらえませんか?」

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