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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
分岐ルート(俺様・チャラ男)
30/32

チャラ男ルート5




一応のお泊りセットを持参して再び訪れた鳳巳宅。

預かった鍵で部屋に上がり持ち込んだ仕事をしつつ寝落ちした。

眼前に鳳巳がいて、寝てた事に気付いたわけです。

「起きて。風邪ひいちゃうよ」

テーブルに突っ伏してたのか、額が地味に痛い。

撫でながら鳳巳をじっと眺める。

未だに外出着。

疲労が滲んで儚さと艶が倍増だ。

実にエロい。

「遅くなってごめん」

肩を落とす様が可愛いのは欲目ではありません。

間違いなく、ネジゆるゆる崩壊状態が改善してないせいだ。

ちゅうっとリップ音ともに啄むキスをされましたから!

はにかみスマイルまで近距離お見舞いされましたから!

「ふふっ。幸せ」

萌える!尊い!エモすぎる!

ふにゃふにゃ鳳巳が居座っててまずい。

このままでは冷静に話が出来ない。

残念思考の己もだけど、鳳巳の末路が恐ろしくていけない。

一先ず彼を風呂に押し込んだ。




「少しは落ち着きました?」

部屋着ではあるものの身嗜みは整えて戻った鳳巳。

瞳に陰りの気配がして少しばかり恐い。

隣に腰掛けずふかふかカーペット、つまりは床に座る時点でヤバい。

足にぴったり体を押し付けてジッと見上げられる・・・コレはご褒美か。

いや、違う、落ち着け、馬鹿者。

「お見合いの話、炬兎から聞いたの?」

「職場で会いまして。先輩の事を凄く心配されてました」

「ふーん」

面白いくらい取り乱していた専務様にデレデレしたのは黙っていよう。

「どう思った?」

鳳巳にしては漠然とした問いだ。

真っ先に「可愛かったです」と言わない知性があって良かったよ。

「まあ、有り得る話だなと」

「腹が立たなかったの?隠し事して平然と佐藤さんに逢って」

不自然に言葉を切った鳳巳は短い時間葛藤して、ゆっくり口を開いた。

「終わりにしたいって、思ったんじゃない」

苦し気な表情で胸を押さえ吐き出された言葉。

視線を彷徨わせている所からも彼の心情が伝わってくる。

「鳳巳先輩は私に捨てられるのが怖いんですか」

「怖いよ。だって二度目は耐えられない」

「・・・ごめんなさい、先輩」

足に縋り付かれて驚いた。

真っ青で頭を振る鳳巳が今にも失神しそうだけど、何故だ。

あぁ、言葉のタイミングを間違えた。

いやいや、待った。

耐えられないと懇願する相手を真っ向拒絶する鬼畜だとお思いか。

そんな酷い振る舞いしてきたのかと落ち込むんですが。

「私には別れる気はありません」

冷たい!

触ったほっぺが冷え切って心配になる。

え、もしかして水風呂だったのかな。

掌に頬をすりすりされて萌えてしまう。

謝ったのは自分の意思を伝えてなかった事に関してで。

鳳巳が何故黙っていたのかは専務様との会話で捕捉しつつも理解しているつもりだと告げた。

「でも・・・巻き込まれるのは嫌だって」

少しだけ赤みを取り戻した鳳巳。

熱を分けるべく、頬を撫でつつもう一方で首も撫でよう。

「愛憎劇はトラウマなんです。身を置くことに嫌悪してます」

観ているのは構わない。

寧ろ滾るぜ、もっと魅せてくれとも思う。

巻き込まないでーとか何様だよ、分不相応だと解ってもいる。

「チャラ王子様を好きになった時点で諦めました」

「なに、を?」

「先輩に纏わる色々に巻き込まれるのを」

「それって・・・」

「だから、捨てられるのは私です」

浮上してきたはずが一瞬で絶望に染まった。

いや、何で?

何が拙かったのか判らん。

「別れる気は無いのに、捨てられるの・・・?」

「まあ、別問題ですから」

鳳巳の瞳が虚ろですけど、大丈夫でしょうか。

「俺が好きだから身を置いてくれるんでしょ」

「はい。先輩を好きなのでリスクは甘んじて受け入れます」

「なのに・・・俺が望めば別れるの?」

「まあ、そうなりますね」

傷付くし惜しいと思う。

それくらいに彼を想ってるんだなぁと感慨深くもある。

「何で?俺なら惨めに縋り付いてでも放さない。許さない」

両足を腕で抱え込まれた。

病みが色濃くなってるのは気のせいじゃない。

「何でそうしてくれないの?」

いやいや、何でそうしなきゃならんのか。

「意味無いので」

「俺を好きでいる事が?」

違う。

あぁ、面倒な鳳巳が出てきた。

「先輩、婚約まで話が進んでるんでしょ」

ぐっと唇を噛んだのは否定できないからだ。

「私が縋り付いてどうなるんですか」

このまま結婚するだろうに。

「愛人として囲うつもりですか」

「佐藤さんをそんな風に扱わない!」

いやいや、そんな未来しか見えてこない。

「じゃあ、先輩が私を捨てるしか無いでしょう」

「・・・俺と一緒になって」

「いや、無理です」

現実を見ろ。

だから婚約まで話は進んでいるし、鳳巳にはどうすることも出来ないんだろう。

「どうして・・・泣いて縋ってくれないの」

それは、まあ、弁えてますから。

口にしたつもりはなかったけれど、しまったと思うのも遅過ぎた。

力付くでソファに押し倒された後は抵抗もままなら無かった。

理性が飛ばされる程にぐずぐずに溶かされて。

いつの間にベッドヘ移動したのか判らないまま、喉が潰れるまで啼かされ続けた。

結果、残念ながら翌日は出勤不可能となりました。




あれ、これ、軟禁されてるのでは?

食事しながら唐突に思った。

抱き潰されて目覚めると食事して、またもや貪られて気を失うのを繰り返した後で。

「どうしたの」

甲斐甲斐しく食事の世話までさせてる事に疑問を抱けよ。

入浴は一緒。

バスローブは許されても基本全裸。

記憶の殆んどがベッドと、異常事態に気付くのが遅ぇよ!

「いえ、今日は何日かと」

しかも欠勤連絡以降、携帯に触ってもいない。

日時が一切判らないとはヤバさ増し増しです。

「知る必要ある?」

あるに決まってんだろーよ。

鳳巳の病み具合が恐くて曖昧に笑うしかなかった。

「不自由させてないはずだけど」

正に。気付かない原因のひとつです。

爛れた行為を除けば過去に経験があった為でもある。

恐らくは休日だろう。

問題はこのまま軟禁が続くことにある。

「気が済めば開放されます?」

鼻で笑われた。

「いやいや、現実逃避は迷惑です」

心の声がうっかり堂々洩れた。

餌付け最中はご機嫌だったのに今は露骨に苛々されてますねー。

「貴重な体験が出来て感謝してますけど、囲われる趣味はないです」

「分かってんだよ!」

でしょうね。

啖呵きってたし、彼はよくよく私を理解してると知っている。

「アンタには何をしても上滑りしてるようにしか感じない」

「・・・ちゃんと鳳巳先輩を好きですよ」

「分かってるよっ・・・佐藤さんの気持ちを疑ってない」

物凄く傷付いてるようにしか見えない落ち込み方だ。

関係無いと放置しないのは、やっぱり鳳巳を想ってるからなんだろう。

こんな難儀で複雑な感情、持て余して当然。

そりゃまあ、愛憎渦巻くはずですよ。

お互いのために話し合いが必要だ。

提案がひとつ。

まずは服を着させて下さい。お願いします。




現状を整理するとこう。

好き同士です。

別れる気はありません。

問題は鳳巳の婚約。

お家事情なので行く行くは結婚する。

愛人断固拒否。

となれば、お別れ一択の現実です。

踏まえて今後を話しましょう。

「佐藤さんは俺と別れて平気なの」

長い沈黙後がそれかよ。

思わず舌打ちしてしまったじゃないか。

いやいや、怯えるなら言うなよ。

「貴方の自尊心を満足させる為に縋って欲しいならお応えしましょうか?」

「ごめん」

腹立たしさは溜息で消化させた。

「私を選べと迫ったらどうするつもりです」

「そうしたい」

左様で。

勝手にしろと言わない己を褒めてやる。

「言いませんよ。私は先輩のために人生捨てる気はありません。解ってるから何もしないんでしょ」

全てを捨てたから同じようにしてくれと望まれても知らんがなと一蹴する。

貴方の選択とこちらの意思は別物ですと。

「佐藤さんは酷いね。俺の望みに気付いてるくせにしてくれない」

こちらのセリフだ。

鳳巳が傷付くと解ってる発言をさせる気なんだから。

「竜崎じゃなくて俺を選んで」

いや、もう、既に声が弱々しく諦めが滲んでる。

何故解っていることを言わせたがるのか。

やめて欲しい。彼を泣かせたくない。

「無理です。生きてけません」

「・・・知ってる・・・」

掠れた笑い声に胸が締め付けられる。

鳳巳先輩を傷付けている己の存在が久し振りに疎ましくなった。






鳳巳と逢わなくなって3ヶ月。

自然消滅とはこーゆー事か。

こちらから連絡しないので自業自得とも言う。

俺様親切専務様の情報で生存確認は出来ているので、大変感謝しています。

「ありがとうございます」

「急に何だ」

本日も仕事合間の雑談中。

「鳳巳とは連絡をとってるのか」

いいえと答えたら怒りそうだ。

「お前、まさか連絡してないのか」

秒でバレた。

「しろと言っただろう」

はい、言われました。

するとは言ってませんけど。

「手遅れになってからじゃ、どうにも出来ないぞ」

生返事で聞き流したのがいけなかった。

この時は気付かなかったけれど、手遅れの意味をしっかり確認しておくべきだった。




「もう一度お願いします」

社長室で頬杖つく社長に詰め寄った。

「だから、鳳巳千斗世が跡目相続を辞退したわよ」

呆れた眼差しが妖艶さに拍車をかけている。

流石、犯罪誘発妖艶美女。

女装してないのが、また滾りますね。

「現実逃避しないの」

「つい先日、専務様に忠告されてた事を思い出しました」

「へぇ、何て?」

「鳳巳先輩に連絡をしろ、手遅れになるぞと」

「見事に手遅れね」

「ですよねー」

破局を心配しているかと思っていたから、まさかの事態に動揺が隠せない。

何故だと問うほど鈍感ではない。

彼を選ばないと言った自分といる為に、人生の多くを諦めたのだ。

「プレッシャーが凄いんですけど」

「そうね。こんなはずじゃなかった、後悔してると言われて惨めに捨てられてきなさい」

流石、竜崎の親友。

「それまでは愉しめばいいわよ。貴方らしくね」

言うことが一緒。

大人しく聞き入れている己もどうかと思う。

自己嫌悪している所へ件の方から連絡が来た。

会いたいとの事でそのまま社長へ教えると部屋を追い出された。

退勤して今すぐ行けとのお達しに従って数か月振りにお茶会へと赴いた。

「佐藤さん、来てくれた」

数ヶ月前と変わらず疲労が色濃いのに晴れやかさを感じる。

「行くって返事しましたけど」

「疲労と願望からくる妄想じゃなくて安心した」

鳳巳の心情が気になったものの、スルーしよう。

跡目云々の話が最優先事項だ。

「もしかして、聞いてる?」

そわそわし過ぎで見抜かれた。

頷き待てば鳳巳は苦笑しつつ説明を始めた。

実家の後継ぎを辞退したのは事実。

代わりを用意したからお家事情の婚約は破談になっていないので不都合は無いとの事だ。

いやいや、突っ込み所しかない。

「過程で多少揉めはしたけど些末な事だよ」

いやいやいやいや、何言ってんの、この人。

些末さなんて微塵も無いわ!

「佐藤さんといる為だから」

事も無げに言われると余計に辛い。

プレッシャーが。

「天秤が釣り合ってません」

「だから佐藤さんを選んだんでしょ」

そうなんだけど、そうじゃない!

何故、貴方の人生と佐藤楓を天秤に掛けたんだ!

恐れ多くて悦びも感じない。

「佐藤さんが考えてるほど、俺は純粋じゃないよ」

鳳巳を純粋なんて思った事ありませんけど。

計算高くて我儘で病んでる人。

そう告げると至極嬉しそうに笑うから、そーゆー所がヤバいんだよと心で呟いた。

「佐藤さんが気にしてるだろう俺の社会的地位はあんまり変わらないよ」

曰く、今後も後継ぎとしてするべき仕事は鳳巳が行うらしい。

新しい後継者が担うのは表舞台の行事とお家事情諸々。

利害の一致だそうで、将来揉めたり裏切られたりはないと断言された。

よくそんな都合のいい相手がいたものだ。

「異母兄弟の変わり者だからね」

さらりとぶっこまないで頂きたい。スルー一択だ。

「佐藤さんも知ってる相手」

愉しんで意地悪するのは止めて下さい。

それ以上は聞きたくないので無言の無視を決め込んだ。

察しの良い鳳巳は引き下がってくれたので、内心安堵しまくりだ。

「これで俺と佐藤さんが別れる理由は無くなったね」

「・・・そうですね」

「俺を選んでなんて二度と言わないから安心して」

それは駄目だろう。

抑は自分に問題があるからだ。

「正直、このまま自然消滅するんだと思ってました」

「だろうね。連絡一つないんだから」

「あの日、凄く嫌でした。先輩が傷付くのも傷付ける自分も、言わせる先輩も全部が凄く嫌で苦しかったです」

諦めた鳳巳の姿が痛々しくて。そうさせた己を今でも嫌悪している。

「先輩と関わり続ける限り、ずっと自分を嫌悪しなきゃならないのはしんどいです」

「へぇ・・・かえでちゃんは俺と別れたいんだ」

怖い怖い、空気が一変した。

しかも解釈が間違っています。

いや、まあ、そのまま終われば心安らぐなぁと下心で連絡断ちしたけども。

「わ、別れたいとは・・・積極的に考えてません」

「そうなってもいいなぁとは考えるけど?ふざけんなよ?」

あぁ、晴れやかさが消えていく。

声のトーンが変わらないのがより怖い。

「別れないし放さない。かえでちゃんは俺のもの」

「いえ、あの、言いたかったのは鳳巳先輩を好きな分だけ自分が大嫌いだと言う事で・・・これからずっと先輩を傷付け続けるけど、一緒にいたいと思ってしまう己が疎ましいとの告白です」

鳳巳が微笑むと同時に尋常じゃないフェロモンが放出された。

直視直撃した身としては酩酊状態だ。

向かい合わせから隣に移動してきた鳳巳の気配にビクンと震えるくらい過敏にもなっている。

「俺の為に苦しんでくれるの?」

感度過多で頬を撫でられただけで声を上げそうになりました。

痴女まっしぐらは嫌です。

「竜崎なんて障害にならないって証明しただけだったのに。かえでちゃんが俺を想って傷付いてくれるなんて想像してなかったな」

髪が耳に掛かり、晒された耳朶に鳳巳の唇が触れる。

「俺は傷付いたりしないよ。代わりにかえでちゃんが傷付いてくれるから」

耳元で囁かれる毎に身体が反応してしまう。

両拳を痛いくらいに握って歯を食いしばり声を漏らさないよう努めるしか出来ない。

痛覚が蘇って、漸く鳳巳が囁くのを止めていたと気付きホッとした。

「嫌いになった分、俺が好きって伝え続けてあげる」

幸せな表情とは裏腹に鳳巳の瞳はどろりと澱む。

「苛まれて壊れても俺といようね」

そうなる事を望んでる狂気に青ざめ慄いた。

そうなっても鳳巳といられるなら、まあ、いいか。

と思ってしまったので、真っ青な顔でうっかり頷いてしまった。



ヤンデレ覚醒したチャラ男先輩に手酷く捨てられるまでは、何度もうっかり受け入れてしまうんだろうなぁ。

到底明るくない未来に溜息が出る。

いや、それまでは存分に愉しもう。骨は拾ってもらえる。

これぞまさに英才教育の賜物ですよ。






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― 新着の感想 ―
[一言] 最新話更新されてるのみて声あげて喜びました。 ありがとうございます。先輩…よかったね(?) とても面白かったです。本当に。
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