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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
分岐ルート(俺様・チャラ男)
19/32

16




好きなだけ食べていていいから付き合えと専務様から連絡が来た。

詳細を聞けば身内主催のパーティーがあるらしい。

女除けに丁度良いからと言われたが、前回の姿を見てそりゃないだろうと思った。

仮にそうだとしたら見劣りしないよう着飾る必要がある。

いやいや、無理だ。

どれだけ金をかけても専務様と並んで歩くなど不可能です。

きっぱりはっきり言い切ると長い沈黙後に「そうか」とだけ返された。

同情が色濃過ぎて心にダメージを負った。

この人、フォローって物を知らないね、流石俺様専務様。

哀れんでもらっただけ良しとした。


翌日、今度は鳳巳から連絡があった。

「パーティーですか」

『そう。親族の集まりみたいなものだけど、是非、俺と一緒に行こう』

何故だろう、拒否出来ない気がするのは。

『埋め合わせしてくれるんでしょ』

やはり拒否権無しか。

ついでに面倒の予感しかしない。

「それって、桐山さんも来たりします?」

『何それ。俺と話してるのに他の男の名前出す?よりによって炬兎かよ』

炬兎きょう

あぁ、専務様の名前か。

いい加減、フルネームを覚えておこう。

『彼奴が来たら都合悪いんだ』

「まあ。昨日お誘いを丁重にお断りしたので」

『はあ?!何やってんだ、あの野郎・・・断ったって何で』

「貴方と同じく面倒事な気がしたので」

『正解。さっすが佐藤さん』

実に楽しそうな笑い声だ。

『ま、あれだよ、佐藤さんは気兼ねなく俺の傍にいてくれれば良いから』

無理です。行きたくありません。

当然相手は見透かしてるんだろう。

日時を告げて迎えに行くからと電話を切ってしまった。

ならばすべき事はひとつ。


パーティーに鳳巳先輩と出席します。


簡潔なメールを桐山に送った。




日付が変わる時刻に桐山から着信があった。

思わず溜息が漏れる。

『いい度胸だな、おい』

地を這う低音ボイスの第一声に恐怖する。

正座で身を正した程に激怒が伝わって来る。

「じ、事情が、あ、有りまして」

あれやこれやのやり取りは省いて借りがあり断れないと説明した。

しどろもどろで挙動不審もいいとこだが、あの迫力ある綺麗な目に睨まれていると思うと恐ろしくてどうにも出来なかった。

最後まで黙って聞いてくれた桐山には感謝した。

『脅されているのか』

「いえいえ、違います。以前、約束を反故にしたので埋め合わせにと」

『そうか』

「はい」

相手から安堵を感じ取る。

この人は昔から真っ直ぐで優しかったよなぁ。

今振り返るとより強く思う。

「気まずい思いをしたくないので報告しました」

『お前の発言に俺への配慮が一切感じられないんだが』

「それはすみません」

『心がこもって無いな』

込めてませんからね。

口にしなかったのに再び低音ボイスで凄まれた。

いい度胸だなと。

『まあ、いい。お前が来るなら問題ないしな』

誰にとってなのか聞いても良いだろうか。

溜息が電話相手に聞こえたようだ。

声を殺した笑い声が返ってきた。

『安心して食事に集中しろ』

「そうしたいです」

桐山の御機嫌を損ねなかっただけ良し。

この件は当日まで忘れよう。




迎えに来た鳳巳は全身隈なく眺めて一言。

「綺麗だよ」

身の丈に合ったパーティードレスと精一杯背伸びした靴やアクセサリー。

結果、それなりに普通だ。

そんな女に淀みなく褒め言葉をよこせる彼を尊敬する。

「俺の為にお洒落してくれたの、凄く嬉しいよ」

自分の為です。

烏滸がましい考えをしていいスペックは持ってません。

黙っていたのに見透かした鳳巳はもう一度「嬉しい」と伝えて来た。

いい男だよなぁ、この人。

車までエスコートされ、途中で嫌な記憶が蘇る。

助手席を開けて待っている鳳巳は気付いて嫣然とした。

「今日はしないから安心して」

耳元で囁いて肩を抱く動作にあの日を忘れるなと言われている気がする。

さっきまでは紳士な王子様だったのに、一瞬で色気を漂わせるチャラ男になるとは。

「すみません、お願いですから翻弄しないで下さい」

懇願は額に口付けされた後に聞き入れられた。




人里離れた山奥に現れた洋館。

どこぞの貴族様がお住まいですか?

異国へタイムスリップでもしたのかい?

と、突っ込むくらい異質で煌びやかな豪邸だ。

引き返そうとしたら鳳巳に腰を抱かれた。

「駄目でしょー、佐藤さん」

チュッと音を立てて米神に口付けされて鳥肌が立つ。

チャラ男様、再び降臨!

「埋め合わせはきっちりしてもらうから」

「せ、節度っ」

「無いってそんなの。俺達、恋人なんだし」

頬に鼻を擦り寄せ甘く囁く声音にゴクリと喉が鳴る。

僅かに逡巡して溜息。

「精一杯務めさせて頂きます」

本日は恋人役を仰せつかったのでボロが出ないように気をつけよう。

でなければ埋め合わせの埋め合わせをする羽目になる。




何処を向いても顔面ハイスペックな方々ばかりで感覚が麻痺して来た。

ついでに言えば、鳳巳のモテっぷりには感心するけれど隣にいるのは疲れ果てた。

嫌味や嘲笑は全てスルーしても気力は根こそぎ奪われる。

嫉妬は何より恐ろしい。

会場となっている大広間から離れ、鳳巳に案内された一室のソファで溜息を吐く。

彼等は皆、それぞれに面識があるようで聞いていた通り“身内”の集まりなんだろう。

自分だけが場違いで来ている理由も解らない。

「そんな所で何をしてる」

聞き覚えのある声。

振り向き仰ぎ見れば桐山が傍らに立っていた。

「こんにちは」

「あ、あぁ・・・」

戸惑った相手と暫く見つめ合い、首が疲れたので前を向き直す。

「楓」

行き成りの名前呼びに鳥肌が立った。

「随分着飾ってるな」

正面に回り込んで来て無遠慮な視線をぶつけて来る。

ちょっと凹むので止めて頂きたい。

「奴と一緒だからか」

当然だと頷けば眉間に皺が寄る。

お綺麗な顔が歪んでいる原因はワタクシでしょうか?

「嫌がっていただろう」

「・・・着飾ってる事が御不快ですか?」

「奴の為に着飾ってるのが気に入らないと言ってる」

おぉ、ストレートに来た。

彼を知っていなければ勘違いして嫉妬に喜んでいただろう。

恋愛要素は含まれていない独占欲だと解っていても、ときめくのだから危険だ。

「コレは自衛の為です」

更なる説明を求める桐山に何度目かの溜息の後、簡潔に述べた。

鳳巳の怒りを買いたくない。

劣る自分が隣に立って被る被害を最小限にしたい。

だからだと告げれば納得して引き下がってもらえた。

若干の哀れみを感じたけれど気のせいで片付けた。

「隣いいか?」

応じて端へ移動する。

ソファに深く腰掛け、背凭れに首を乗せ目を閉じた桐山から疲労が伝わる。

どうやら彼も同じ理由で此処へ来たらしい。

同じく疲労回復に努める事とした。




「何してんの」

呆れたと言わんばかりの問いに桐山と揃って洋書から顔を上げる。

部屋に入って来た事すら気付かない程、二人とも読書に集中していたようだ。

「密室にいてする事が読書とは恐れ入るね」

時間を確認すれば、かれこれ30分は経っている。

鳳巳の呆れも納得だ。

素直に謝罪をしたが、鳳巳は特に気にした様子もない。

「佐藤さん、洋書なんて読めるんだ」

「まあ、それなりに」

「それは俺も驚いた」

「・・・左様で」

人生の半分以上を学業に費やしたのだ。

当たり前だと声を大にして言いたいが、オツムの出来は良くないので彼等の反応は尤もだ。

「爺様に挨拶した?」

「ああ。着いて直ぐにな。お前は?」

「さっき済ませた。いい加減身を固めろとさ」

この会話を聞く必要はないだろうから読書を再開する。


「連れて行かなかったのか」

「婚約者ですとでも紹介しろって?」

桐山が眉を顰める。

対して鳳巳は鼻で笑い一蹴する。

「同伴で嫌な顔されてるのに、そんな真似してみろ。バッサリ切り捨てられるね」

彼女がどれだけ不本意なのか重々承知だ。

自分達は生身で現実だと認識させたからと言って、元来の性格は変わっていない。

平穏維持が第一な彼女を面倒に巻き込んだ瞬間、別れも告げずに去るのは明らかだ。

その程度の存在で絆と呼べる何かすら築けていない。

鳳巳はよくよく理解している。

「だから炬兎も止めとけ」

「・・・後輩だと言うだけだ」

「結婚急かされてる奴が、ただの後輩を爺様に紹介する気か。お前、頭大丈夫かよ?事実じゃなかろうが相手として認識されるに決まってる」

「好都合だろう」

「お前にはな」

舌打ちをし苛立ちを隠さない鳳巳に桐山は納得出来ず睨み返す。

鳳巳とてそのつもりで彼女を連れて来たはずだ。

非難される謂れは無い。

「俺は連れて来ただけ」

何が違うと言いたげな視線に鳳巳の苛立ちが増す。

この阿呆の所為で切り捨てられるのは御免だ。

「佐藤さんを矢面に立たせて、それで?お前はどうするつもり?」

「・・・・・」

「どうせ昔を引きずってるだけだろ。拒絶されて傷付いた過去をやり直したいだけなら、中途半端な真似は止めろ。俺が迷惑だ」


俺様とチャラ男が睨み合っている。

それはもう、読書に集中出来なくなるくらいに感情剥き出しで。


「面倒事に巻き込んで引き受けてくれるとでも思ってるなら考えを改めろ。そんな価値は無いんだよ、俺もお前にも。彼女にとっては再会した“生徒会の先輩”でしかない」


自分が話題なのは嬉しくないが、鳳巳の認識が的確で意外だ。


「そんな奴が原因で不愉快な目にあったら迷わず関係を断つね、佐藤さんじゃなくても」

「・・・お前は何故連れて来た」

「俺を知って欲しいから。今回は埋め合わせでもあるから、ちょっとばかり無理言ったけど。怒ってないでしょ、佐藤さん」

唐突に話を振られて頷くまで数秒掛かった。

「婚約者ですって紹介してもいい?」

「はあ、病院で検査された方がよろしいかと」

「至って正常」

だから答えろと促され溜息。

先程のやり取りを聞いていたのだ、鳳巳が正しく答えを知っているのは明らか。

ならば聞かせたい相手は桐山か。

「すみません。面倒は嫌いです」

特に愛憎劇みたいなドロドロした物は避けて通りたい。

あらゆる思惑が絡み付いて回るなら、彼等に深く関わりたくはない。

はっきり告げた事で桐山は酷くショックを受けたと表情を歪ませたが、いやいや、そんな顔をされてもこちらが困る。

寧ろ何故なのか聞きたい。

「私が喜ぶとでもお思いで?」

ストレート過ぎて桐山が言葉に詰まっている。

嫌味ではなく純粋な確認のつもりだが、責めているように聞こえたのかもしれない。

鳳巳は肩を竦めただけで会話に入ってこない。

・・・役立たずめ。

「根拠を聞きたいのですが」

「・・・そんなものは無い」

「そうですか。まあ、そうか・・・俺様王子様ですもんね」

人を惹きつけるのが彼等という存在だ。

障害は多い程に恋とは燃え上がるものらしいし。

それを担っても彼等を手に入れたいと考えるのは至極当然。

言い方は悪いが、それだけの価値がある。

桐山は間違ってない。

相手が悪かっただけ。

まあ、その相手というのは自分なのだが。

「佐藤さん、止め刺してやって」

えぇ、嫌なんですけど。

ああ、はい、拒否出来ないんですよねー。

「桐山さんの私生活に首を突っ込む事は無いです」

何様発言している己に呆れて溜息が漏れる。

そもそも、そんな気がない相手に何言ってんだって話だ。

鳳巳は不満げだが、これ以上何と言えと?

難しい顔で考え込むような事じゃないです、専務様。


あの、今日はこの辺でお開きで良いんじゃないでしょうか?







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