72話 進む作戦と、関係のないスカベンジのこと
※『無職マンのゾンビサバイバル生活 欲求に忠実なソロプレイをしたら、現代都市は宝の山でした』は角川BOOKSより絶賛発馬中!
書き下ろし短編あり、加筆修正あり! 何より神奈月先生の美麗イラストあり!
よろしくお買い上げの程をお願いします!
※SNS等で感想を呟いていただけますと、作者が喜びます。
『いやー、まいったよ。無茶苦茶ゾンビ多いや』
無線機越しに、ちょっと疲れた様子の古保利さんの声が聞こえてくる。
後ろの方がガヤガヤしてるから、屋外なんかな?
今は昼前だから……休憩なんだろうか?
「あの、話してて大丈夫なんですか?」
『あー大丈夫。今はね、改造したアラームに群がってくるゾンビの群れに延々海水をぶっかけて感電させてるところだから』
この前見た映像では消防車だったけど、今はまた違うやり方なんだな。
あれから3日は経つんだけど、まだまだ鉄火場が続いていそうだ。
『もうね、凄い数だわ。表だけじゃなくて、駐屯地の建物内にもギッシリいるみたいでさあ……中でガンガン暴れてる音と気配がすんごいのよ』
「白黒とか、ネオはいますか?」
『数的に考えたらいるとは思うんだけど、今のとこ何故か黒しかいないんだよね……ゾンビの進化条件に僕たちも知らない何かがあるのか、もうお手上げだよ……ま、対処するにはいいんだけどもねえ、あいつら野生の獣くらいの知能だからさ』
駐屯地も大変だな……のほほんとしてるこちら陣営としてはちょいと心苦しい。
まあ、だからって手伝えって言われても役に立たんのだから。
『そうそう、『慈愛会』のことは式部ちゃんから聞いたよ。どう考えても怪しいけど、今はこっちで手一杯だからさあ……急なことが起こるまで、石川氏を抑えておいてくれない? 一応、軽い偵察だけは指示しといたから、式部ちゃんに聞いてね』
「すいません……何から何まで」
『いいよいいよ、変なのは早めに対処しとくに限るからね。おっと……』
何やら無線の向こうから話しかけられているようだ。
『うん、うん、了解~……そいじゃ、ぼちぼち頑張りますか。ま、そういうことで~……古保利、通信オワリ』
ぶつん、と無線は切れた。
向こうは大変みたいだな……
急に通信してくるから何事かと思ったぞ……現状報告ってやつか。
「向こうは大変でありますな~」
で、式部さんだ。
彼女は高柳運送の社屋部分で、俺の前に座ってニコニコしている。
「大丈夫なんですかね?」
「ふふぅふ、現状の最高戦力を派遣しておりますので……大丈夫じゃないと終わりであります!」
なんだ、その後ろ向きな自信は。
……まあ、それだけ信頼してるってことなんかな。
「あー、そういえば軽い偵察ってどんなのですか?」
「静音ドローンによる偵察であります。うまいこと試験運用のものを回収できましたので、それを使用するのであります」
なるほど、ドローンね。
最近は便利になったもんだなあ。
俺がガキの頃なんてそんなもんなかったぞ。
「お茶よ~♪」
ねえちゃんがポット片手にやってきた。
一緒に持ったお盆には、煎餅らしき物体……手作りだろうな、やったぜ。
「2人でお仕事の話?」
「式部さんはお仕事だけど、俺は別に……かな?」
今の所アクションを起こす予定はない。
情報が出そろわないとな。
ちなみに石川さんも単独で突っ込むことが無いように、定期的にここへ顔を出してくれる約束になっている。
あの人は子供たちにすっかり『魚のおじちゃん』として大人気だからな。
……子供さんのことで、辛い部分もあるだろうが……定期的に来てほしい。
この前、夜に言ってたことが心に残っている。
「あら、じゃあいっくんは今日暇なの?」
「基本的に1年中暇でいたいよ、俺は」
そう言うと、ねえちゃんは近くの机に荷物を置いて手をポンと叩いた。
「じゃあねえ、ちょ~っとお願いがあるんだけど。聞いてくれない?」
ねえちゃんが、俺にお願い?
珍しいな……
・・☆・・
「このメンツで行動するの、珍しいですねえ」
「そうですね……確かに、その通りかと」
「心が躍るでありますな~」
愛車の車内。
運転手は俺、助手席には神崎さん。
そして後ろのスペースには式部さん。
社内の自衛隊率が高い。
天気はちょっと曇っているが、急に振りそうな雰囲気ではない。
今日も今日とて我が愛車は快適である。
さて……こうして車を走らせているのは、ねえちゃんの『お願い』によってだ。
目的地は、硲谷と龍宮市街の中間地点。
そこにある……手芸専門店。
ホームセンターと一緒になった店舗で、1階がホームセンターで2階に手芸店とか服屋とかがあったはずだ。
買い物に入ったことはないが、幹線道路沿いなので場所はよく知ってる。
で、なぜ手芸店かというと……目的は布類やボタンとか色々。
ねえちゃんと斑鳩さん、そして巴さんが子供たちの服やら布団やら……とにかく色々作りたいらしい。
これから夏も本番だし、既製品もあるが……子供は成長するもんな。
心安らかに生活できるなら、サポートは万全にしてやりたい。
七塚原先輩でも誘おうとしたら、式部さんと神崎さんが一緒に来てくれると言ってくれた。
緊急用の連絡に無線機を所持しているので、自由行動しても問題ないらしい。
柔軟性が高い、有能な方々だなあ。
「一朗太さんはお優しいであります」
「俺以外も、皆ですよ。神崎さんも式部さんも、とっても優しいお姉さんじゃないですか」
「ほ、ほほう……やりますね、一朗太さん!」
何が?
「ねえ神崎さん? そうですよね……何か窓の外に面白いものでも?」
何故こちらを見ないのですか。
「い、今そこにキジがいまして……美味しそうだな、と」
俺には見えんが……流石の動体視力だなあ。
さあ、急ぐわけじゃないけどそれなりに急ごう。
なんか……微妙に雨降りそうだし。
走ること20分少々。
放置車両と放置ゾンビがたまにいる道を走り、何事もなく目的地に到着した。
巨大チェーン店、『キョーナン』
いつ見ても不死鳥のマスコットが間抜けな顔をしている。
……アレ、グッズとかも人気なんよな。
世の中分からんもんだ。
「駐車場にはそれほど車両がありませんね……」
「で、あります。ゾンビ発生はここの始業前だったのでしょうな」
ここ、11時開店だからな。
それならいるとすれば店員ゾンビだけ……と、油断はしない。
この騒動が始まってしばらく経つから、移動してきた個体もいるはずだし……もちろん、チンピラが根城にしている可能性もある。
駐車場の一番端に、乗り込んだらすぐに発車できるように軽トラを停める。
以前の愛車なら隠していたが、これは大木くんによって過激すぎる盗難防止装置があるので気にしない。
「行きますか。とりあえず2階から攻めて、余裕があるなら1階の店舗も物色するってことで」
「了解です」「了解であります!」
車から降り、登山用の大容量リュックを背負う。
コイツは体に固定できるから、動きを阻害しにくくて便利だ。
七塚原先輩が調達してきたのを借りている。
それ以外の装備は左腰に『魂喰』、右腰に兜割……そして、リュックに固定した脇差。
完全武装ってやつだな。
「ふふぅふ、どうでありますか我らの服装は?」
「これなら女性だと気づかれないかと……」
そう言う2人は、ジェットタイプのヘルメットの下にサングラスとマスク。
体の方は、ダブッとしてはいるが動きやすそうな格好だ。
要所要所はしっかりベルトで締めているみたいだしな。
だが……
「あー、声を出さないと大丈夫だと思います。似合ってますよ、ははは」
だがその……2人ともスタイルが良すぎるし、出るところはその、出ている。
今の状態なら大丈夫だが、動くと服が体のラインをクッキリ出してしまうだろう。
セクハラになりそうなので、俺は黙秘するがな。
こうしていても始まらないので、俺達は駐車場を歩き出した。
このまま外を歩き、スロープ経由で2階部分の駐車場に行く。
そこから、直接店内に入るつもりだ。
1階からだとちょっと目立ちすぎるからな。
全面ガラス張りだし、ここ。
「(撃ちます)」
神崎さんが持つサイレンサー付きの拳銃が火を噴き、駐車場をうろついていたゾンビが頭を撃ち抜かれて倒れた。
「(こちらも、であります)」
倒れた音に反応した後ろのゾンビは、式部さんが射殺。
問題なく成仏した。
うーん、遠距離だと俺の仕事がない。
しばし、沈黙。
……周囲に敵はいないな、よし。
移動しよう。
クリアリングを繰り返し、2階部分への出入り口へ。
だが……そこはこじ開けられていた。
「(すん……ヴッ! な、中に生きている人間の臭いがするであります……)」
隙間から鼻を突っ込んだ式部さんが、涙目になって震えている。
そんなに臭いのか……
「(どうします? このまま突入しますか?)」
「(田中野さん、まだ敵とは決まっていませんよ……服の下で常に拳銃を構えておきますので、このまま行きましょう)」
……我ながら殺伐思考に陥ってるな。
反省しないと。
それでは侵入……うぐ、臭い。
これは……死体とかじゃなくて、長いこと風呂に入っていない人間の臭い、か?
我々は全員清潔生活なので忘れかけているが、避難所以外ではこうなんだよな、普通は。
風呂に入らなくても死にはしないんだし……冬は死ぬかもしれんが。
「(俺が先頭で行きます。2人は後ろから)」
「(はい)」「(つ、ついて行くでありましゅ……)」
式部さんが鼻のダメージから抜け出せていないが、音を立てないように自動ドアを開いて店内へ。
正面に地図がある……『手芸・夢工房』は……やった、一番手前にある。
この臭気に、中にいるかもしれない推定人間。
とっとと目的の物を回収してずらがろう。
がらん、とした店内。
誰もいな……いるな、これ。
2階の奥からだ。
声をかけるべきか……と、思いつつ歩いていると。
「な、なんだお前らは!?」
服屋から、男が出てきた。
手に持っているのは……ゴルフクラブか。
後ろの2人に手で合図をし、前に出る。
「物資回収だ。そこの手芸屋から布類を回収しに来たんだが……いいか?」
相手は40代後半くらいの、おじさん。
服も体も……こう言ってはなんだが、薄汚れている。
臭いの元はこの人か。
「ぬ、の……? な、なんでだ!?」
「なんでって……ソイツで服やら布団やらをこさえるんだよ。冬に備えてな」
……動く、気配。
奥の紳士服売り場と、その奥の100円ショップに何人かいるな。
「ほ、本当に……手芸屋だけが、目的なのか!?」
「欲を言えば食料も欲しいが……贅沢は言わんさ、ここはアンタらが先に見つけたんだしな」
ここで『食うのに困ってない』って言うと相手の目の色が変わる経験は今までもよくした。
なので、こう言っておく。
……身なりが清潔なのはどうしようもないがな。
む。
ぞろぞろと後ろから人が出てくる。
ひいふう……8人か、結構いたな。
全員男か……うん、警戒はしておこう。
俺じゃなく、神崎さん達のために。
「手芸屋だけなら、好きにしろ。だけど、それ以外は駄目だ!」
「はいよ、了解。ありがとうな」
後ろの2人に振り向くと、了承するように頷いた。
「(今の所銃は見えませんが、発砲の気配があれば即座に撃ちます)」
頼もしいね、神崎さんは。
それじゃ、回収役は俺と式部さんにしておこうか。
「それじゃ、ササっと物色させてもらうよ。ありがとうな」
「あ、ああ……」
しかし、最近にないちゃんとしたコミュニケーションだな。
たまには殺伐展開がなくてもいい。
見られまくっているが、平然と手芸屋に入店。
は~……色々部品があるねえ。
皆目見当がつかんなあ。
「(一朗太さんはとにかく布をお願いするであります。ロールごと持っていきましょう……自分は細かい部品や糸を回収するでありますよ)」
「(了解でーす)」
神崎さんは入口付近で、いかにも物色している雰囲気を出しながら警戒態勢だ。
ここの人間たちは良い悪いが未知数だからな……サッと回収してサッと帰ろう。
手芸屋はここだけじゃないし。
さて……色の指定はされていないので、何にも使えそうな淡い色使いのものを回収していこうか。
いかに登山用バッグとはいえ、無限の容量はないし。
女の子用にピンクというか、桜色っぽいのを。
男の子は青かなあ……ま、どっちも回収すればいいか。
式部さんは部品とかをザラザラ回収している。
彼女のリュックも大きいし、今は神崎さんの分も持ってるから、かなりの量を回収できそうだ。
ミシン類は高柳運送にあるし、ここのは持っていかなくてもいいだろう。
それにしても、全くの手つかずって状況だな。
下のホームセンターには寝具もあるし、奥の服屋には既製品も山ほどある。
わざわざここのを使うまでもないって感じだろうか。
無人だったら色々物色したかったが……ない物ねだりだ。
さーて、回収回収っと。
リュックをパンパンにして、店から出る。
……ちょいと距離が近付いてるな。
先に神崎さんたちを行かせた方がいいな。
「どうも! これで冬を越せそうだよ、ありがとう!」
一番近くにいるおじさんに元気に声をかける。
俺に注意を惹き付け、女性陣を先に出口へ――
「な、なあアンタ。近所に避難所があるのか?」
おっと、質問か。
「いや? 俺達は家に住んでるんだよ」
「ど、どこから来たんだ?」
ふーむ。
「詩谷だ。そこの北からな」
これくらいは言ってもいいだろ、住所全然違うし。
「そ、そうか……なあ、俺達はずっとここにいるんだが……避難所の情報を知らないか?」
避難所、ね……
「うーん……大きい施設が避難所になってるって噂は聞くんだがな。今のとこ、3人暮らしが性に合ってるからなあ……」
あからさまに拒絶するよりも、この程度がいいだろう。
確定的な情報は何も出してないし。
む?
なんで神崎さんたちがビクッとしたんだ?
俺が情報を変に漏らすんじゃないかって心配してるんだろうかね?
気を付けよう、嘘へたくそだし、俺。
「そ、そうか……」
「力になれんですまんな。それじゃ、俺達はここで」
なんかがっかりしているおじさん達を尻目に、入り口まで戻る。
追って来る雰囲気はないな……ふう。
思っちゃいけない事なんだが……襲ってくる方が楽だと、一瞬考えてしまった。
いかんな、これはいかんぞ一朗太。
あまりに脳内が殺伐としすぎているぞ、猛省せねば。
・・☆・・
「平和裏に解決できたであります! 一朗太さんの話術のおかげでありますね!」
「さすがです、田中野さん」
「えええ? いやいやいや……」
再びの、愛車。
結局心配したような襲撃は最後まで無く、俺達は無事に車に乗り込んで発車することができた。
いやあ……なんか謎の緊張をしてしまったな。
「まあ、好戦的な奴らじゃなくてよかったですよ。別に会う奴会う奴片っ端から殺して歩きたいわけじゃありませんしね」
おっと、路地から野良ゾンビが出てきた!
だがパワーアップした愛車の装甲の前に、ぐしゃっとなって吹き飛ぶ。
大木くんには足を向けて眠れんなあ。
「それで、よくわからんのですけど今回の量で大丈夫ですかね?」
戦利品は荷台に隠されたボックスへ収納済み。
結構な量になったから、大丈夫だとは思うが。
「はい、これだけあれば大丈夫でしょう。また必要になれば、その時に回収すればいい話ですし」
「手芸屋は他にもワンサカありますからな~。別にあそこでなくてもいいであります……臭いですし」
ああ、本当に臭かったなあそこ。
俺も再訪はしたくないなあ。
「ここら辺はノーマークなんで、コンビニでも回って帰ります?」
まだ天気は持ちこたえてるしな。
「いいでありますね!」「行きましょう」
自衛官の許しも出たので、帰りながらコンビニに寄るか。
ふふふ、このカーナビにはコンビニを表示できる機能があるので楽勝だ。
文明の利器って素敵だぜ~!
「は~い! ここは俺達のシマで~す!」
「お兄さんの車凄いね~! ちょっとよく見せてよ~!」
「逃げようなんて思うなよ! こっちにゃあ銃があんだからな――」
アクセル全開。
頭の悪そうなチンピラを即座に撥ね飛ばす。
そいつは、馬鹿面のまま吹き飛んで縁石に後頭部を強打。
くたりと弛緩する。
「と、トシヤぁ!?」
「なんっ、なんてことしやがんだ! 殺してや――!」
散弾銃を慌てて向けてこようとしたチンピラが、助手席の窓から手を出した神崎さんに額を撃ち抜かれた。
はあ……嫌になる、安心したらすぐこれだよ。
「しゃーない、掃除すっか」
帰りながら当たりを付けた、駐車場の広いコンビニ。
青いシマシマが特徴のそこへ入場すると、店内からワラワラと……小汚いチンピラが出てきた。
駐車する場所を物色しようと速度を落としていたのが災いし、通せんぼするように前に出たので――撥ねた。
だって全員武器持ってたし、明らかに襲おうとしてたし。
「神崎さんたちは銃持ちだけ対応してください。正面の2人撥ねたらスピンさせて停車させるんで」
「はい、お任せを!」
神崎さんの返事にあわせ、再びアクセルをベタ踏み。
何のつもりか、ボンネットをバットで殴ろうとしてきた1人を撥ね、逃げるもう1人を同じように撥ねた。
「ぎゃっ!?」「ああぎぃ!?」
素敵な悲鳴を聞きつつ、ブレーキしながらハンドルを切る。
愛車は豪快な横滑りをして、今撥ねた2人を荷台の側面でもう一度吹き飛ばした。
そのまま停車し、運転席から飛び出す。
「てめえ――ふっざけんな!」
「どこのチームだ、ぶっ殺してやるゥア!!」
おお、仲間が4人無効化されたのになんて士気だ。
4人が、俺に向かって走ってくる。
その後ろで散弾銃を構えようとした1人は――すぐさまヘッドショット。
頼りになる天使たちですこと!
一番距離の近い男に、棒手裏剣!
喉に突き刺さり、体を折ったソイツの脳天に――兜割を振り下ろす!
後頭部を砕き、無力化。
「うらぁあああああああ!!」
やたら威勢のいい2人目には、十字手裏剣。
胸に刺さって動きが止まったので、胸に突きを入れる。
「――っが!?」
肋骨の隙間に突きが入り、兜割が刺さったままそいつは倒れる。
「んのやらああああああああああ!!!!」
ハンマーを振り上げ、殴りかかってくる男。
そいつには――『魂喰』の抜き打ちをお見舞いする。
大きく振り上げたハンマーが振り下ろされるよりも早く、刀身が胴を抜いた。
内臓が噴き出るのを確認しながら、前に出る。
「ヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
これだけ仲間が死んでるのに、やる気満々でナイフをぶん回しながら走ってくる金髪。
後ろ腰から引き抜いた脇差を放り――蹴る!
『飛燕』で飛ばした脇差は、男の胸に深々と突き刺さった。
最後に残った1人は、かかってもこずにヘラヘラしている。
……あの腰のふくらみは、ひょっとして銃か?
「あひゃっ」
スローな動きでそいつがポッケに手を突っ込んだ瞬間、眉間に穴が空いた。
にやけ面を張り付けたまま、そいつは仰向けに倒れた。
……なんだったんだ、アイツ。
さて次は……みんな死んでる。
神崎さんたちの銃撃の成果だ。
しばらく待つが……気配は、ナシ。
これで打ち止めか。
「しかし、妙な連中だったな……」
投げた武器たちを回収していく。
弱いくせになんか、変というかなんというか……今までにない妙な連中だった。
半分ゾンビにでもなってたんだろうか?
「あー! 一朗太さん、一朗太さーん」
連中の死体を物色していた式部さんが、何かを持って走ってくる。
「これでありますよ、コレ」
これって……注射器?
「こちらにも、同じものが! パッケージもありました!」
神崎さんも注射器と……小さい袋? を持ってきた。
中には、ザラメみたいな物体が……あ、まさか。
「恐らく、覚醒剤でありますな~……これは、少々厄介であります」
式部さんは、そう言って苦笑いするのだった。




