66話 マイペースな入院患者のこと
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「うい~す……どうもです~……」
「驚くほどに自然体」
チンピラとかゾンビとかと畳んでいる所に迎えに来た式部さん。
彼女の駆る大型二輪によって、徒歩の時とは比べ物にならないほどの速さで御神楽高校に到着した。
それで、ここは校舎1階にある『レクリエーションルーム』って教室。
そこには、街中から回収されてきたベッドが多数収納されており……その中に、大木くんはいた。
臨時の救護所みたいな場所なんかな。
保健室とは別だし。
「どうだ、大丈夫か?」
「じわじわ麻酔が切れてきて地味に痛くて……正直おしっこ漏れそうです」
顔色はまだ悪く、下腹部に包帯がグルグルに巻かれてはいるが……すぐ死にそうって感じじゃない。
尿瓶は用意した方がいいかもしれんが。
「ぐごご……」
そして、大木くんの隣にあるベッドには頭に包帯を巻いた七塚原先輩が絶賛爆睡中だ。
ビルから落下してきた黒ゾンビから大木くんを庇った時に、車体の金具で額を切ったのだそうだ。
傷自体は大したことはないらしいけど、大事を取って治療したとのこと。
今寝ているのは、大木くんの手術の間中起きていたかららしい。
面倒見がいいことで……
まあ、元気でよかった。
「もうおうちに帰りたい……」
「ははは、その体で帰すわけにはいかないねえ」
大木くんのぼやきに、薬品箱を整理していた石平先生が苦笑している。
ここ、他にもお医者さんはいっぱいいるらしいけど……俺が知ってるのはこの人だけだ。
「先生、大木くんはどうなんです?」
「雑菌の付着した鉄パイプが腹部を貫通したんだよ。消毒はしたし抗生物質も投与したけれど……しばらくは経過観察になるね。彼はキミや七塚原くんと違って普通の人間だし」
まるで南雲流の体がおかしいみたいなことを仰る。
「じゃあしばらく大木くんは入院か……ここはいい場所だぞ? なんたって今でも入りたくてたまんない連中が絶賛襲撃なうだしな」
「ううう……四方八方に人の気配がする空間は落ち着かないんですよォ……」
少なくともメンタルは普通の人間じゃない大木くんが、この世の終わりみたいな顔をしている。
通常ヒューマンはむしろ落ち着くんだよ、この環境ってのはな。
「さて……キミの傷も見ておこうか」
俺は大木くんのベッドの近くに座りつつ、上半身をはだけて治療待ちの状態だ。
左肩をしっかり診察してくれるらしい。
「ふむ……式部さんからの申し送り通りだ。綺麗に縫合されているね……ええと、高田くんだっけ?彼の腕は確かだよ。元看護士という経歴も嘘ではなさそうだ」
式部さんにも言われたな、それ。
「こんな状況では得難い医療関係者だね。古保利さんにはしっかり報告しておこうか……いつか連携できるといいが」
腕っぷしオンリーの俺よりも、よっぽど貴重だろうな。
「まあ、キミも含めて泊まって行きなさい。今から帰ると暗くなるだろうし……この曇りようだと今晩は雨になりそうだ」
「すみません、何から何まで」
後で愛車からなにか食うものを回収しておこう。
飯まで出させちゃ悪いからな。
「なあに、気にしない方がいい。風呂だけは我慢してもらうけど、3人とも怪我人だから仕方がないね」
まあ、そうなるか~。
超贅沢だが、毎日風呂に入ってる身からしたらちょっと気持ち悪いけど。
高柳運送が過ごしやすすぎるのが悪い。
悪くないけどもね。
「石平先生~、3階の妊婦さんから呼び出しですよ~……はわわわわ!?」
がらり、と扉が開いて……おや、高山さんだ。
上半身裸の俺にびっくりしたのか、目を白黒させて赤くなっている。
「おっと、彼の診察が終わったらすぐに行くよ」
「はっはいぃ……た、田中野さん、傷が、傷がいっぱい……!」
む、傷がいっぱい?
ああ、そういうことか。
「ああ、大丈夫大丈夫。左肩以外は全部古傷だから」
俺の背中、世界地図みてえになってるからなあ。
この騒動前からあったけど、追加されたのもあるし。
「え、ええ……?あ、ほ、ほんとだ……」
おずおずと寄ってくる高山さん。
式部さんや璃子ちゃんがやるみたいに手で顔を塞いでるけど……隙間がむっちゃ空いてるぞ。
それもう見てるのと変わらんじゃん?
「左肩も、す、すっごい傷……痛くないんですか?」
「慣れた」
「慣れた!?」
麻酔無し縫合とかな!
遺憾ながらな!
逆に麻酔を使われたら違和感があるかもしんない!
「あ、あなたはたしか……詩谷の人!」
そこまで接近して、高山さんは大木くんに気付いた。
そっか、そういえばこの2人って前にも会ってるな。
「あなたはどうしたんですか?す、すごい包帯……」
「ちょっと鉄パイプがお腹を貫通しただけ。ダイジョブダイジョブ」
「大丈夫じゃないですよ!?」
「それはそう。田中野さんなら即治るけど僕は一般ピーポーなので超しんどいよ」
いや、結構余裕あるように見えるんだがね……
あと、俺でも腹部貫通鉄パイプはちょっとしんどいぞ。
「うん、消毒終わり……薬はいつものように神崎さんに渡しておくからね」
「はぁい……」
くそう、俺は永久に信用されんのか!
……神崎さん、様様だな。
「よし、じゃあ行こうかあきらちゃん。キミたちはここでゆっくりしていきなさい……大木くん、トイレ以外ではベッドから立ち上がらない事」
「やろうとしても無理なので大丈夫です、すごく大丈夫です」
その心配だけはしなくてもいいな。
石平先生は苦笑いしながら高山さんと一緒に出て行った。
妊婦さんがいっぱいいるんだな、ここ。
いいことだ……あと何か月かしたらもっと賑やかになるかもな。
「いやー、今回ばかりは死ぬかと思いましたよ。今までに感じた危機感だと、鍛治屋敷親子との遭遇にちょい足りないくらいのレベルですね!」
「そういえばよく生き残れたな、きみ」
あのイカレポンチを相手に会話だけで済んだんだから。
「ひたすら下手に出ましたし、あの連中は僕みたいな弱っちいのには興味ないみたいですし……田中野さんには悪いですけど、歯向かう気ゼロでしたもん。100メートルくらい離れてたら爆弾用意しますけども」
「賢明だな、それが大正解だ」
『勝つ』のが好きな鍛治屋敷でも、さすがに大木くんレベルの一般人……一般人?まで片っ端から殴り倒すわけねえか。
彼には悪いが『何の足しにも』ならんだろうしな。
「でも田中野さんもとんでもないですよ。なんで歩きでゾンビゾーンを踏破するんですか、そのまま適当なビルに籠っとけばよかったのに」
「半分はチンピラゾーンだぞ。それに、この怪我があったからな……住宅街なら屋根伝いに行けるから、そんなに危険じゃない。ゾンビ共は頭ゾンビだし、チンピラもそれよかちょい賢いくらいだしな」
「ハイハイ、ソウデスネ」
なんだそのジト目は。
「まあ、とにかく……お互いに生きててよかったっすね」
「それはそう」
避難所に協力しといてよかったなあ。
住むつもりは毛頭ないけど、こうして緊急避難はさせてくれるし。
「うっし、軽トラから飯取ってくるわ。大木くん何食う?たいていのモンはあると思うけど」
「申し訳ないですが下腹部に穴が空いてるので飯は食えないっす。死にます」
あ、そういえばそっか。
「僕は吹けば飛ぶような一般人なんすよ。南雲流の超合金ボディと一緒にせんでください!」
そのくくりは七塚原パイセンにしか通用しないと思うの。
・・☆・・
校舎から出て、軽トラを探す。
ううむ……石平先生が言うようにむっちゃ曇ってる。
こりゃあ雨になるな、それも結構降るタイプの雨に。
で、軽トラは……よかった、神崎さんが来客用に停めてくれてたからすぐに見つけられた。
超目立つし、我が愛車。
「一朗太さんであります!」
軽トラの次くらいに目立つ俺は、式部さんに発見された。
おや珍しい、自衛隊の人も一緒にいる。
彼女と同年代くらいの男の人だ。
俺が珍しいのか、ちょっと目を見開いている。
「……まさかお帰りになるつもりでありますか? それは駄目でありますよ~? 自分が羽交い絞めにしてでも帰しませんよ~?」
「いえいえ、荷台から食料を取ろうとしてただけですよ……どうも、こんにちは」
式部さんの横にいる自衛官に会釈し、軽トラに向かって歩く。
……なんで当然のように式部さんもついてくるの?
「あ、あの、式部陸士長……」
「ご苦労様です、長壁陸士長。自分は少し彼と用事がありますので、これで失礼致します」
サッと敬礼しつつ、式部さんはあります口調をポイ捨てした。
むむむ……この硬い口調から察するに、あんまり仲良くない人なんかな?
「さささ、一朗太さん!自分も選定をお手伝いしますので~」
「うおお?」
柔らかい口調に戻った式部さんは、俺をぐいぐい押しながら歩き出す。
ふむ、付き合うかな。
なんか目が結構必死だし……
「ふう、行ったであります。まったくもってしつこい男であります」
荷台の端から周囲を窺い、式部さんはため息をついた。
「アレな自衛官だったんです?彼って」
2人で歩き出してからも、何か言いたげな顔してたもんな。
立ち去るまで時間がかかったし……ずっと見てて、懐かしき初期の森山君を思い出したよ。
そういえば彼は例の女性と仲良くなれたんじゃろか。
ちょっと気になる。
「自分に恋慕しているようでありますよ。いっそのこと告白でもしてくれれば即断るのでありますが……もどかしいであります」
「ああ、やっぱり。なんかそんな気はして……なんです?」
急にジト目になる式部さん。
「なんでもないでありますよ~……(他人の機微には敏感なのはどういったわけでありますか。自分の事の100倍は察しがいいでありますよ……困るけど困らないであります」
急にぽそぽそ呟いてどうしたんだろう。
別変なことは言ってないんだけど……
「まあ、それは置いておくとして……最近ああいった手前が増えてすこぶる迷惑でありますよ~……100歩譲って避難民の方々は許すとしても、自衛官があれでは駄目であります。ダメダメであります」
あー……最近聞くようになってきた話題だな。
なまじここが安定した避難所だからか、ちょっと浮ついてるんだろうか。
確かに、自衛官が大っぴらに色ボケしたら駄目だよなあ。
「風紀が緩むであります。それになにより……自分にはまったく!まったくその気はないでありますよ!!」
あああ、非常食のササミジャーキー(犬用)のパッケージがぐんにゃりしちまった!
まあ、食えれば一緒なんだがな。
「へえ、今までに何人告白されたんです?」
「10から先は数えるのをやめたであります……まったく、状況も読めないお馬鹿さんには困ったもんでありますよ~……」
おー、モテモテだ。
俺には全く経験がないが、好きでもない相手にモテるのも大変だなあ。
「何故でありましょう? 自分はそんなに浮ついた雰囲気は出していないつもりなのですが……」
軽トラの荷台に体を預ける式部さん。
さっきみたいな冷たい口調で話してるんだろうけどな……
「そりゃあ、式部さんが美人だからですよ。ワンチャン狙いのアホが目を付けるのもわかりま――」
ごずん、と式部さんから音。
……何故、軽トラに後頭部からの頭突きを…?
ヘルメットしてるからいいけどさあ。
「あの……」
「ふ、ふふぅふ、久方ぶりの不意打ちであります……!」
まあ、何故か本人は満面の笑みだからいっか。
「しかし、大丈夫なんですか? 神崎さんとか式部さんみたいな自分でボコボコにできる人はいいですけど……無理強いを断れないような人たちは」
前職のクソ社長を思い出すなあ。
あの時俺が暴れないとどうなっていたか。
権力とか暴力で無理やりっていうのは、男として下の下だと思う。
この状況じゃ権力はほぼ関係ないけども。
「ああ、それでありますか……んふふ」
何故密着してくるんですか!
「……一朗太さんは自分の役割をお忘れでありますか?」
「や、役割……ああ!」
監査だか監視が任務だっていつか言ってたな。
しかし、周囲に人はいないのになぜ密着を……?
「それとなく周囲を監視しておりますし、目に余るようであれば古保利三等陸佐にご報告であります。あのお方は自分ほど優しくありませんので、ご愁傷様であります」
古保利さんだもんなあ……
「周辺への索敵、偵察任務が優先して割り当てられることになるでありましょうなあ……女性を口説く元気がなくなるほど」
ああ、そういう罰則になるのか――
「――この状況で好かれてない相手を口説けるほど元気ってことだからねえ。そんな有り余ってるパワーは有効的に活用させていただくよ、うん」
「ひゃあっ!?」「あだっ!?」
にゅ、と。
荷台の脇から古保利さんが顔を出した。
それと同時に、びっくりした式部さんが抱き着いてきて……ヘルメットが!俺の顔面に!!
とても痛い!
「おおっと、お邪魔だったかな?」
「あああ、申しわけありません!一朗太さん!!」
「い、いえいえ」
邪魔ではないが痛い顔面を、慌てて撫でてくれる式部さん。
冷たくて気持ちいいのでよしとする。
「やっぱり、平和過ぎるのも困りものですか?」
「か弱い避難民にとっては最高だけどね……守る側の緩みは致命的だよ」
荷台にもたれた古保利さんは、煙草……じゃなくて葉巻に火を点けた。
「おや珍しい」
「探索の時に見つけてね……中々乙なもんだねコイツも。大量にあるから花田くんにも送っておいたよ。円滑な人間関係の秘訣だね」
へえ、探索で……探索?
「……指揮官自らが、探索を?」
「皆様総出で止めているのですが、まったくおやめになっていただけないであります。困ったモノでありますよ」
おお、式部さんの貴重なジト目だ。
「はっはっは、僕は現場主義なの、現場主義。探索のついでに色々いいものも拾えるしね~……あ、田中野くんそこの缶コーヒーもらっていい?無糖のやつ」
目敏いなあ、別にいいけども。
「はい、どうぞ」
「最近すっかりコーヒー中毒でねえ……ありがとう、はい代金」
古保利さんはニコニコとして受け取り、真新しい煙草を放ってきた。
おお、マンドレイク!
「ね?こういうのが役に立つんだよ……探索の成果だね、ふふふ。さーて、僕は会議に出なきゃだけど、式部ちゃんはフリーだから面倒見てあげてね~?」
そして、葉巻をふかしながら歩き去る古保利さん。
フリーダム……指揮官の癖になんてフリーダム……
「面倒見てもらう側なんだよなあ、俺」
「見るであります、見るでありますよ~!」
式部さんのテンションが大変お高い。
「このような場所でなければ、自分の手料理を披露するのでありますが……さすがにここでは無理でありますなあ」
「ははは、また高柳運送でお願いしますよ」
何から何までお世話されそう……介護老人にはまだ50年ほど早いな。
俺もしっかりせんと。
「む、この缶詰賞味期限が切れているでありますよ」
ええ?スーパーじゃなくて民家とかで回収した奴かな、どれどれ……
「ああ、つっても1ヶ月くらいなら大丈夫……」
「駄目であります!新しいものを進呈するのであります!」
か、返して……悪いから!悪いから!!
・・☆・・
「その豪華な夕食は僕への精神攻撃ですか?別にいいっすけども」
「いや違う……違うの……」
病室?へ戻って夕食。
大木くんがニヤニヤしているが、俺は悪くない。
「式部さんがね、どんだけ悪いって言っても聞いてくれなくて……」
「ok把握。そりゃ仕方ないっすね」
本日の夕飯。
自衛隊式保存食一食分……よりも多い!
結局缶詰は取り上げられ、あれよあれよという間にこれが用意されたわけだ。
断ろうとすると最終的に涙目になるんだもん……どうにもできんよ、俺には。
ちなみに彼女は『お風呂の日であります~♪』と言いながらスキップで消えていった。
毎日風呂に入れてる俺ってやっぱり恵まれてるわ。
「ぶっちゃけ、ここへの貢献度からしたら問題ないんじゃないですか? 田中野さん無茶苦茶働いてますよ、今まで」
「……そうかもしれんが、なんかこう……自分で回収したものじゃないから心苦しくてな」
「スカベンジ根性が身に染みてますねえ。ま、僕もそうですけどね……」
お互いに自分のことは自分で何とかすることに慣れちまってたからな……
「ま、マジで大丈夫なんでモリモリ食ってくださいよ。点滴のお陰か知らないですけど、全然お腹空かないんですよねえ」
点滴って高カロリーって聞いたことあるしな。
それでは食うか……
「ぐお~……ぐが~……」
そしてパイセンはまだ寝ている。
危険が迫れば即座に起きるんだろうが……ここは安全すぎる場所だしな。
「あー、式部さんもそうなんすね。僕もそんなマジマジ見てないですけど、確かに浮ついた雰囲気は感じますよ」
美味しいミリメシを平らげつつ、さっきの話をする。
「やっぱそうなんか」
「ここはまだマシじゃないすか?友愛とか中央図書館の方が酷いっすよ」
詩谷もうそうなんだなあ。
「ほら、森山さんカップルいるでしょ? あの人たちって遊撃隊みたいな感じで避難所回ってるんですよ……んで、その……滅茶苦茶仲いいでしょ?」
「うん、まあ……」
避難民が口から砂糖吐いてないかどうか心配になるからな。
今爆睡してる七塚原夫婦くらいナチュラルにイチャついてるもんな、いつ見ても。
「あの雰囲気に当てられちゃったっていうか……お互い好き同士のカップル成立はいいんですけど、そうじゃない人もいるっていうか……ねぇ?」
「ラブラブも良し悪しってわけか……」
ままならんなあ。
「ゾンビがワンサカいるってのに、そんなことは基本後回しでいいだろ……」
「(あなたはそろそろ逃走経路が全て塞がれそうですけどね、追っ手が増えまくってて)」
「お?何?」
「……ええっと、この前川でワニが泳いでるの見ましてね。あれってペットショップから逃げたんですかねえ」
ワニか。
……美味いのかな?
「……あ~……田中野さん、その~……女性、のことなんですけど」
大木くんは一瞬俺から目を逸らし、話を振ってきた。
急に何だ?女性?
おいおい、大木くんが女性の話をするなんて今晩はゲリラ豪雨になるかもしれんぞ。
「こほん……神崎さんと式部さんって、どっちが美人さんだと思いますか?」
……はぁ?
お前そんなもん……
「両方ジャンル違いの大美人だよ。お前ソレ『カレーとラーメンどっちが強いですか』みたいな質問だぞ」
「で、ですよねえ~? ちなみにどんなジャンルで?」
食いつくねえ、大木くんよ。
まあこんな場所じゃなきゃできない話だからな。
男同士だし、付き合ってやろうか。
「神崎さんはずばりクールビューティーってやつだな。基本的にいつでも有能だけど、たまーにわたわたしたり、武術の話なんかしてる時は子供みたいで可愛いんだよな。あれがギャップ萌えってやつなんかね~?」
「ほ、ほほう!これは予想以上ですよ!じゃあじゃあ、式部さんも!式部さんも!!」
急にテンションが上がったなコイツ。
知らんぞ腹の傷開いても。
「式部さんは……アレだ、ミステリアスな美女枠ってやつか? でも人当たりもいいし、子供にも優しいし……いい人だと思うよ。神崎さんもそうなんだけど、笑うと子供っぽくて可愛いと思うぞ。でも2人とも災難だよなあ、あれだけ美人だと変な男も湧いてくるだろうしなあ」
「ですね!ですねえ!……ふぅ」
なんだこいつ、急に落ち着いて。
「あ、興奮したら傷がむっさ痛いっす。すんませんそこの棚にある痛み止めくださーい」
「言わんこっちゃねえ……」
急に顔色が悪くなった大木くんに、俺は慌てて薬を探すのだった。
「(ご満足いただけましたかねぇ……覗き美女2人には)」
「おい、なんだって?」
「いだだだ、薬!薬プリーズ!ハリアップ!!」
「はいはい……」
テンションが乱高下しすぎだろ、まったくもう……
・・☆・・
「か、可愛い……可愛いなんて、そ、そんな……」
「えへへぇ、大美人なんて……他の誰に言われてもなんとも思いませんが、一朗太さんに言われると格別でありますなあ……えへへへ」




