64話 覚悟が決まり始めている一般人たちのこと
「落ち着いてください!」
オッサンを羽交い絞めにしていると、横の路地から声をかけられた。
さりげなくオッサンの体でボウガン連中の射線を塞ぎ、そちらを見て声をかける。
「――落ち着いてるよ、そういうのはこっちの連中の方にそう言ってやってくれ」
路地からは、ひいふう……4人出てきた。
オッサンのお仲間とは違い、顔は隠していない。
安全ヘルメットを被って、布マスクを付けているが全員若そうだ。
「わかっています、こちらでもモニタリングしていましたから」
この集団のリーダーなんだろう、俺とそう歳の変わらない男がそう言った。
見た目はコレと言って特徴がない。
中肉中背で、身のこなしにも武道経験者のような特徴はない。
……ただの一般人、か。
「……オオシマさん、通りすがりの人にやり過ぎですよ」
その男は、俺が羽交い絞めにしているオッサンにそう言った。
「た、タカダ、たす、たすけて、たすけてぇ……」
「嫌ですよ、なんでボクが」
情けない声で懇願するオッサンを、その男……タカダは切って捨てた。
かと思うと、こちらを申し訳なさそうに見てくる。
「とは言っても一応は近所の住民なので、勘弁してあげてもらえませんか?お怪我をなさっているようですので……こちらで治療をさせていただきます。薬品も潤沢にありますし、ボクは元看護士です」
「……ここを去らせてくれればそれでいいんだが」
正直、さっきのビル群に引き返して野宿した方がマシなんだけども。
「やめておいた方がいいですよ、ここいらは野犬が多いんです。もうすぐ日も暮れますし……その、信用されるかわかりませんけど、ボクらは何もする気はありません」
野犬、野犬か……
ゾンビやチンピラよりもよほど厄介だな。
人間の味を知った個体だと、もっと危険だ。
……暗視装置が無い状態で襲われると、不味い。
負傷してる状態だとな……
「さっきのを見て、貴方に喧嘩を売る気なんかないですよ。武装はしたままでいいですから、せめて治療はさせてください」
「……目的は?」
そういうと、タカダはニッコリ笑った。
「――情報です。この状況下では一番大事ですからね……この騒動が始まってから、ボクらはほとんど遠征も出来ていませんので」
……ふむ、まあ信頼も信用もできんがその目に嘘の色は見えない。
この田中野一朗太、女心以外は大体わかる……つもりだ!
「わかった、治療に免じて言うことを聞いてやろう」
「――ぎゃん!?」
オオシマの耳に突っ込んでいた棒手裏剣を引き――安心して弛緩したその股間を、後ろから思い切り蹴り上げた。
悲鳴を上げて、地面を転げ回っている。
「あああが!がああああっ!?」
「命の代わりに金玉で済んでよかったですねえ、オオシマさん。こちらです、どうぞ」
タカダはそう言って俺を手招きした。
彼の後ろに控えている3人は……ライフルを俺の後ろへ向けて牽制している。
「トオル!おい!医薬品ってなんだよ!?お前らそんなもん持ってるなんて一言も――」
御神楽まで行って追い返されたという若者が泡を食って叫んだ。
「――お前らなんかに言うわけないでしょ。一応言っとくけど動いたら全員殺すからね……さ、こちらですよ」
わめく男と、転がるオッサン。
そいつらを尻目にして、俺はタカダの後ろに続くことにした。
・・☆・・
「近所の人間がご迷惑をおかけしました」
案内された場所は、封鎖された道路から先の広い空間だった。
かつては公園だったらしいそこは、畑に煮炊き場、それに風呂っぽい大きなドラム缶がいくつも並んだ生活空間になっている。
彼らは、この公園を中心として周辺を閉鎖して住んでいるようだ。
マスクを取った高田は、やはり俺と同年代くらいだった。
人のよさそうな表情をした、優しそうな青年である。
ちょっと大木くんと似たジャンルだな。
「いや、別に気にしてない。慣れてる」
「外は大変なんですね……あ、コーヒーどうぞ」
公園のテーブルで、さっきのタカダと向かい合っている。
俺に出されたコップは、封を切ったばかりの紙コップ。
そしてポットのコーヒーも、先にこの男が飲んでいた。
毒入りじゃないとアピールするためなんだろう。
「さて……とりあえず先に治療しましょうか。信用できないならカタナ持ったままでいいですよ」
「ああ、頼む」
大きな救急箱を取り出してタカダが立ち上がる。
周囲には銃を持った人間はおらず、珍しい客人である俺を遠巻きに眺める子供たちが数人いるばかりだ。
「子供の前で人殺しはしませんし、さっきも言いましたけど、そもそも貴方をどうこうするつもりもないですから」
全く殺気がない。
これで達人なら、もうとっくに俺は死んでるだろう。
一応、右の袖口に棒手裏剣を隠したままベストを脱ぐ。
っぐ……痛みが増しているな。
「……失礼します」
タカダが包帯を切り裂き、患部を見て息をのんだ。
「これ……どうしたんですか?傷は切り傷ですけど、電気熱傷もしてるんですが」
「色々あったんだ」
一々説明するのも面倒だ。
看護師なら、言わなくてもなんとなくわかるだろう。
「かなり深いですね、コレ。骨の近くまでいってますよ……消毒して縫合するので、麻酔を準備させます」
「いや、麻酔はいい。慣れてるからそのままやってくれ」
気持ちはありがたいが、敵か味方かわからん連中の近くで酩酊するのはリスキーだ。
今まで散々麻酔無し縫合に慣れてるから問題はない。
「慣れてるって……痛かったら言ってくださいね。それでは、始めます」
消毒液の匂いがツンとして、すぐ後に沁みる痛みがやってきた。
痛いがまあ……この程度なら、耐えられる。
俺はそっと奥歯を噛み締めた。
「本当に呻き声も上げなかったですね……」
治療が終わり、タカダは汗を拭いて呆れたような声を出した。
医療関係者だったという言葉に嘘はなかったようで、アニーさんには及ばないまでもかなり手際はよかった。
今は熱を持っているが、もう血は出ないだろうし大丈夫だろう。
治療中にもおかしな様子はなかったし、害意は今の所ない。
本当に、俺をどうこうするつもりはないみたいだ。
「ええっと、今更ですけどボクは高田信弘と言います」
「……山中鹿之助だ、よろしく」
いつだったか名乗った偽名にしておく。
新たち、元気にしてっかな。
今度また顔を出してやろう。
「よろしくお願いします……あの、夕飯とか食べますか?あそこのシチューなんですけど……」
風呂用のドラム缶の横で、炊き出し用っぽい鍋から湯気が上がっている。
「余裕があるならもらおう。無理はしなくていい、一食くらい抜いても大丈夫だ」
「日持ちするもんじゃないんで気にしないでください。ここ、そんなに人数いないんで大丈夫です……おーい、ここに二食持ってきてね~!」
鍋の番をしている女性が、はーいと声を返した。
……緊張している様子はないな、ここの避難所?は安定して運営されてるみたいだ。
「この周辺はどうなってるんだ?ここと、さっきのオッサン連中は別の集まりみたいだが……」
「ええ、元々は町内会で集まってたんですけど……ご存じの通り、あちら側は横暴が服を着て歩いてるような連中でしょう?だから……」
そう言って、高田はさっくりと状況を説明してくれた。
元々『龍宮市八年坂』というこの地区は、幸運にも初手でゾンビ化した人間は少なかった。
なので、まず周囲を車両や崩したブロック塀で封鎖して籠城を開始したんだが……高田が言う通りさっきのオオシマとかいうオッサンの一派が増長して幅を利かせ始めた。
そこから色々あり、結局ここの町内会は3つの派閥に分かれて今に至るのだという。
「もう一つの派閥の連中は大丈夫なのか?」
「ああ、そっちは女性と子供が主になっています。派閥が3つと言ってもまあ……2つと1つ、ですかね……向こうはとにかく乱暴者が多くて、隔離してるような感じです」
ふむ、なるほどね。
通りすがりの俺の荷物をどうこうしようとした連中だ、女子供相手にはもっと高圧的だろう。
「それで……俺に何が聞きたい?治療の礼になんでも話すぞ」
全部真実を話すとは限らないがね。
だが、世話になった以上それなりに真摯には対応してやる。
「そうですね、それでは詩谷方面についていくつか聞きたいんですが」
「……御神楽のことじゃないのか?」
驚いた、てっきりさっきの連中みたいにそっちが目的だとばかり。
「自衛隊に警察、軍隊が守ってる避難所の情報に興味はありませんよ。向こうの連中はそんなこともわからないみたいですけど……御神楽とはいつかは連携でもできたらいいな、とは思ってますけどそれは今じゃないです」
高田は苦笑した。
……若くして避難所の運営?顔役?をしているだけあって、そこらへんは考えられるらしい。
さっきのオッサンはどうなんだと一瞬思ったが……まあ、似たような連中が集まってるんだろう。
「ここから詩谷に働きに行っていた方が何人かいまして、それで安否を確認したいんですよ。差し支えなければ避難所の場所なんかを教えていただけるとありがたいんですけど……」
「……向こうの避難所も満員で入れないと思うぞ?」
「ああ、食料その他については今の所困っていませんので。備蓄の食料に加えてそろそろ栽培も軌道に乗りそうなんですよ」
……たしかに、周辺の人たちは清潔感のある格好をしているし血色もいい。
「わかった。俺が知っている避難所は友愛高校、中央図書館、それに水産センターだ」
どこも警察その他がガッシリ守ってる避難所だ。
ここの連中がライフルを持っていても、さすがに多数のマシンガンには敵うまい。
ここを脱出したら、一応向こうへ注意の連絡を入れておこう。
「ああ!やっぱり詩谷にも大きな避難所があるんですね!」
高田が喜んだ時、湯気の立つシチューが運ばれてきた。
おお、具がゴロゴロでむっちゃ美味しそう……野菜も多いんだな、ここ。
「行儀が悪いんですが……うん、今日も美味しい!」
高田が両方の皿から一口ずつ口に運ぶ。
毒見のつもりなんだろう。
「どうぞ、熱いうちに」
「すまん、ご馳走になる」
懐からマイスプーンを取り出し、手を合わせて食事を始めることにした。
ン……市販のルーだろうが美味い!
高柳運送でも食いたいなあ、これ。
・・☆・・
「いやあ、本当にありがとうございます!天気がいい日に何人か派遣してみようと思います、今までは何の情報もなかったので大助かりです!」
「確実な情報じゃないからな、そこは気を付けてくれよ」
高田には俺が知っている避難所のことや、最近増えだした変なゾンビのことを教えておいた。
心から信用したわけじゃないが……ここの子供たちの表情がよかったからな。
大人はともかく、子供ってのは感情を隠すのが苦手だ。
どれだけ言い含められていても、本当にここがヤバい避難所だったらその表情にはどこか陰りが見えるはずだ。
それが微塵も感じられなったってことは……まあ、ここはマシな場所らしい。
『魂喰』もずっと静かだったしな。
「それでもありがたいです。近所の連中がご迷惑をかけたのに、ありがとうございます……」
「気にすんな。そちらこそ近所にあんなのがいて同情するよ」
最悪ジャンルのご近所さんだ。
あ、そういえば……
「……しかしいいのか、さっき医療品の情報とかが伝わったが」
あの若者の反応からして、面倒ごとの気配しかしないぞ。
「ああ、ご心配なさらず」
しかし当の高田はニコニコした表情を崩さず。
「いざとなれば――」
周囲に視線を走らせ、子供がいないのを確認した後。
「――皆殺しにすればいいことですから」
そう、表情を変えずに呟いた。
あいかわらず殺気は、ない。
「……随分と、過激なんだな」
各所の武器を再確認するが、高田からは一切の害意を感じない。
「ボクはこれでもここの責任者ですからね。助けるべき相手とそうじゃない相手は選びますよ……ここの仲間と、何より子供たちが危険にさらされるなら……気は進みませんが、まあやるしかないでしょう」
そう言った高田の目には、確固たる決意を宿していた。
……へえ、虫も殺さないような顔してんのに。
やるじゃん、コイツ。
「もっちゃん、ちょっと」
遠くに立っていた男が、高田に呼ばれて寄ってきた。
さっきライフル持ってた連中の1人だな。
俺に軽く頭を下げたその男に、高田が聞く。
「オオシマんとこ、どんな感じ?」
「今はいねえけど、さっきまで馬鹿みてえにドローン飛ばしてた。罠とか抜け道とか、たぶん探してたんだと思う」
「わっかりやすいなあ……子供ら全員、ヒメばあちゃんとこに避難させといて、あそこ防音室あるし。たぶん今晩あたり来ると思う、薬のこととかワザとバラしたし」
「おうわかった、銃持ちは全員集めとくわ……ようやくだな」
そう言って、男は再度頭を下げて小走りに去って行った。
……ここの戦闘要員って、みんなあんな感じなのかね。
ちょっと覚悟が決まりすぎてる。
「俺のせいかな、そこはすまん」
一応、謝っておく。
微塵も悪く思っていないけども。
まさか歩いてるだけでこんなことになるとは思わないじゃないか。
「お気になさらず、特にここ2、3か月は完全に仮想敵でしたし」
「そうなのか……」
おいおい、平和に見えて随分と殺伐としてんなあ。
「こっちには旦那さんが行方不明になってる奥さんとかが何人もいるのに、あいつら無料の風俗嬢とでも思ってんのか本当に屑……ああ、すいません」
「いや、今のでなんとなくわかった。たぶんだけど、向こうに女性っていないんだろ?」
「いないですし、こっちには向こうから逃げてきた女性陣も多いですよ」
……うん、よくわかった。
女、女ねえ……いや、気持ち自体はわかるんだが……わかるんだが、今はそんな状況じゃないだろ。
ほんと、脳味噌が下半身に装着されてるタイプの人間は困る。
オッサンってのは全員性欲が強いのかね。
「……まあ、わかってるようだから何も言うことはない。俺は部外者だしな……ただ、下手に情けをかけると後が怖いぞ」
俺のカッコいい顔の傷みたいにな。
「――今まで散々経験しましたから、大丈夫ですよ」
高田は、そう言ってにこりと笑うのだった。
コイツ……やっぱり芯から覚悟が決まりすぎてやがる。
こんな人畜無害の顔をしてるのに……よほど修羅場を潜ったんだろうか。
まあ、いいか。
俺にはそもそも関係ないし……この分なら、子供たちがかわいそうになる事態は避けられそうだ。
それなら、まあ、いい。
・・☆・・
「――始まったか」
公園のジャングルジムのてっぺんに腰かけて一服していると、遠くの方から銃声が聞こえてきた。
『家を解放するので中で寝てください』と言われたが、ここで寝ると許可してもらったんだ。
さすがに、室内で襲い掛かられたら死ぬかもしれんしな。
高田が妙な人間じゃないのはなんとなくわかったが、さすがに全幅の信頼を寄せるほど付き合いも長くない。
……いや、ベクトルが違うだけで妙な人間ではあるな、アイツも。
周囲が真っ暗になって来たので最後に一服でもするか……と思っているとこれだ。
向こうさん、マジで攻めてきたらしい。
思考が単純すぎるぞオイ……
「……いや、ひょっとしたらもっと前から一触即発だったのかもな」
パンパンに張った風船みたいな状況だったのかもしれん。
そこに俺という異分子が迷い込んできたので、一気に情勢が動いた……とか?
「ま、俺には関係ない」
もし何かあるなら助太刀しようか、と言ったら断られたし。
『問題なく対処できますから、ご心配なく』ってな。
やっぱり、前から入念に用意してたんだろうなあ……
――りぃん
……む。
急に鳴るじゃん、相棒。
ってことは……
「っは、っは、うぅ、が、ああ……」
できるだけ抑えた足音と、抑えきれない息遣いが聞こえてきた。
音を立てないようにジャングルジムから飛び降り、影に身を潜める。
「っはあぁ、あ、ふ、うぐ……」
しばし後、荒い息遣いと一緒に公園へ誰かが入ってきた。
「ちくしょ……ノブのやつ、なんてこと……仲間じゃ、なかったんかよ」
怪我をしているらしい足を引き、その男は公園のドラム缶へ寄っていく。
そして、溜まったままの水に顔を突っ込んでゴクゴクと飲んだ。
……それ、風呂か洗濯用の雨水だって聞いたんだが。
腹壊すぞ。
「っぶは!……ガキどもは、たぶんヒメジマの、ババアんとこだな。バカにしやがって……後悔、させてやる!オオシマさんの、仇だ!」
お、あのオッサン成仏したんか。
南無阿弥陀仏。
金玉どころか命まで失う羽目になったな。
そしてこの男は……ああ、アイツか。
「た、たぶんあの男もそこだろ、アイツを人質にすれば御神楽に……入れる!」
独り言が多いなあ。
考えてること全部筒抜けじゃねえかよ。
しかし、やっぱりそうか。
この勘違いマン、まだ諦めてなかったのかよ……
あと、百万歩譲って俺を人質にしても絶対入れんぞ。
お前だけ脳天撃ち抜かれて死ぬぞ、たぶん。
「これで、やっとミキコと――」
「――よお、色男」
声をかけ、立ち上がりながら脇差を放り――『飛燕』で飛ばす。
「――『お返し』がまだだったな。ちょいと太いがまあ、利子付きだと思って勘弁してくれ」
振り向いた男の腹に、鍔元まで脇差が埋まった。
お返ししないといけない連中はまだ2人残ってるが、まあ……もう死んでるだろ。
「なん……嘘……おぁ……あ……」
男は何事か呟いた後、口から大量の血を吐いて地面にぶっ倒れた。
骨がない場所とはいえ、切っ先が貫通するとは思わなかったな。
性根同様、体も柔らかいのかもしれん。
「こっちに逃げたはず……あ!」
おっと、さっきのもっくんだかふっくんだかが走ってきた。
倒れた男から脇差を引き抜いている俺を見て、一瞬緊張している。
「……すんません、手を煩わせて」
「いや、別にいい。こんなもん物の数にも入らん」
だが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
やっぱりメンタル強すぎだろ。
「俺が言うのもなんだが、随分慣れてるんだな」
血振りをして死んだ男の服で刀身を拭き、納刀。
へえ、良いシャツ着てんな。
ひと拭きで綺麗になった。
「……そう、すね。慣れたくないっすけど」
男は苦笑いをして……引き金から指を離した。
「でも、子供たちの方が大事なんす。だから、やるしかないんすよ」
「だな。優先順位ってのは大事だよな」
俺も積極的に殺す気はないが、自分や子供たちの脅威になるなら容赦はしない。
「もっちゃん!」
高田と、その他の戦闘要員も走ってきた。
「山中さん、お怪我は!?」
「ないよ。この程度ならウチで飼ってる豆柴の方が百万倍は強い」
最近のサクラ、運動能力がむっちゃ向上してるからな。
なーちゃんと無限マラソンしてるからかねえ?
「い、犬を飼ってるんですか?」
「最高の癒しキャラだぞ。ウチの家には小さい子もいるからな……他の避難所でも、ヒツジやらヤギやら飼ってるところも多い」
そう言い、公園の遊具……基部がコンクリのドームになっている滑り台に向かう。
アレが本日の寝床だ。
段ボールも貰ったし、この陽気なら風邪をひくこともないだろう。
「朝になったら出ていくよ、一晩世話になる」
「いいえ!こちらこそ申し訳ありません……お腹が空いたら、中に吊ってある干し柿食べてください!」
マジか、もう干し柿作ってんの?
もうシーズンなのね……
「何から何まですまんね、それじゃおやすみ」
背後を警戒しつつ、中に入る。
おお~!本当に干し柿がいっぱいある!
これは高柳運送でも作った方がいいな、子供たちも喜ぶし。
中に腰を下ろして観察していると……男たちは死体を片付けて帰って行った。
本当に淡々としてるな……ここらへんも、結構な修羅場があったんだろうねえ。
「ふわぁあ……寝よ」
壁に体重を預け、いつでも抜けるように『魂喰』の柄に手を置く。
残り少ない煙草の本数を考えながら、俺は目を閉じるのだった。
明日は御神楽に到着するといいなあ……
・・☆・・
「ノブ、あの人は……」
「うん、やっぱ手を出さなくって正解だ。たぶん俺ら全員で束になっても敵わないよ、あの人」
「あの馬鹿みたいにデッカイ脇差をビュンビュン振り回すんだもんな……変なヒトでなくってよかった」
「子供のことニコニコしながら見てたからね、そこは大丈夫でしょ」
「ご近所さんだったらよかったのになあ……」




