表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
369/387

59話 それはそれとして釣りに行こう!のこと

それはそれとして釣りに行こう!のこと




「意外と恵まれてんのかな、我が県は」


「いきなりどしたん?にいちゃん」


 朝の馬房掃除が終わり、一服しつつこぼした。

一緒に作業していた朝霞が、俺の前にコーヒーを置きながら聞いてきた。


「いや、ヘリの人来たじゃん?あの人から隣の県のこと聞いたんだけど……」


 岡部さんとその娘、ヒカリちゃんを搬送したのは昨日。

あの後俺達は高柳運送に戻ってきた。

時間も早かったし、特に用事もないだろうしな。

それに、向こうさんはもっと詳しい……軍隊的な?情報についての聞き取りに忙しいんだろうと思う。

他府県からの避難者なんて、この騒動始まって以来だもんな。

なんたって自衛官だし、岡部さん。


 あ、そういうわけでウチの自衛官組……神崎さんと式部さんは御神楽に残った。

今日か明日には戻るとは聞いているけど。

……ウチのってなんだ?

ここは田中野ベース基地ではないんでござるぞ?

まあいいけどさ。


「なんか、向こう無茶苦茶らしいぜ?自衛隊の八剱基地は壊滅してるし、ゾンビとチンピラまみれみたいだしな」


「ふえー、そんなことになってんの?ヤッバ」


「ヤベーんだよ、それにさ?いきなりゾンビになった連中もむっさ多いんだとさあ」


「エグいねー」


 そうだ、ヤバくてエグいんだよ。


「世界がこうなるまではさ、ウチの県って不便だよなあって思ってたんだけど……こうなってみると、ここって天国じゃねえか?」


「あーね!そうカモ!だって畑いっぱいあるし、山もあるし、川も綺麗だし……海あるし!!」


 朝霞が万歳しつつ、巻き付いてきた。

後半の行動はしなくていいだろ。

もう慣れたけど。


「まあ、ゾンビもチンピラも変な軍隊もいるけどなあ……それにしたって、お隣よりはマシだよなあ」


「んね!食う寝るところ住むところあれば大丈夫だって、死んだ爺ちゃんが言ってたし!」


 いいこと言うなあ。

それについちゃ完璧に揃ってるしな、現状。

最高じゃん……高柳運送。


「欲しいものも特にないしなあ……」


「にいちゃんブツヨクないね!あーしはいっぱい欲しいものあるケドな~」


 この状況でいるもの……なんかあったっけ?


「日焼け止めっしょ?乳液っしょ?もちろん服もかーいいの欲しいし……あ!今度電気屋いこ電気屋!ヘッドスパ的な機械パチってこようよ~!」


「……逞しい過ぎる、この親戚」


 女性は大変だなあ。

こまごまとしたものが必要で……いや、俺も将来を見据えてアレを回収すべきか?

ヘアーをこう、生やすような薬を……!!

平和な時はあんなもんに金を払う気はなかったが、今や100%オフで手に入るし……!!


「パチるって、な~に?」


 にゅっと、倉庫脇から葵ちゃんが顔を出した。

――いかん!!死ぬほど教育に悪い!!

がんばれ俺の脳細胞!!


「――パチるっていうのはね、パチンコ屋さんの倉庫からお菓子を貰って来る行為のことだよ」


「ぱちんこ屋さん? せんせいが大好きだって言ってた!おとなのゲームセンターなんでしょ?」


「たぶんそう、部分的にそう」


 葵ちゃんの担任、中々攻めるじゃないか……

そんなこと小学生に言うなよ。


「あ、葵ちゃんはなにが欲しい~?」


 さすがに空気を読んだ朝霞が、巻き付くのを中断して葵ちゃんを抱っこした。

よし、いいぞ親戚!


「う~ん、とぉ……」


 葵ちゃんはしばし考え込み。


「――おさかな!」


 そう言った。


「お魚……とな?」


 ちょっと予想外過ぎる。

てっきり服とかお菓子とかだと……あ、それらの在庫は潤沢すぎるんだった。


「うん!ソラくんに、かんづめじゃないおさかなあげたい!」


 ええ子や……なんちゅうええ子や。


「――オイ聞いたかソラ。キミも何か感想はないのか?」


 馬房の柵の上で寝そべっているソラに問いかける。


「めぇおぉう!みゃあ!」


 ……とりあえず『おさかな』という単語を認識していることだけはわかった。

明らかにいつもよりも声が高いし。


「わわわ」


「ゴロゴロゴロゴロ……」


 ソラが柵から飛び降り、葵ちゃんに飛び掛かって頭を擦り付け始めた。

ほほう、お前……わかっていらっしゃる。


「しかしお魚、ね」


「行っちゃう?海行っちゃう?」


「海は突発的にヤベー軍人が生えるから駄目」


「そーだった、こっわ……」


 海は避けたい……自衛隊が確保している港は安全だろうけど、地味に遠い。

詩谷の水産センターって手もあるが、不確定要素は避けておきたいしなあ。


「いや待てよ、朝霞がさっき言ったじゃん……海も川もあるって!」


 ウチの水路にも魚はいるが、ここに手を出さなくてもいい所があるじゃないか!


「『1号溜池』が!!」



・・☆・・



「美玖ちゃ~ん、釣り行かない?」


「行くー!!」


 車から降りると、店から飛び出してきた美玖ちゃん。

俺の第一声に、それは元気よく答えた。


「唐突に来るよな、おめえ」


「自由な無職、田中野一朗太です」


 モンドのおっちゃんが、あきれ顔で出てきた。


「……で、釣りぃ?剛二郎に聞いたがよ、海にゃあ変なのが湧くらしいじゃねえか」


「あ、聞いてるんだ。いや海じゃなくて、『1号溜池』だよ」


「あー……成程、前に言ってたなァ。あそこならいいか」


 『1号溜池』

ここからほど近い山の中に、水不足に備えて作られた溜池だ。

作った当初は予算が余っていたらしく、こんなクソ田舎には珍しい程巨大なものだ。

そこに、違法な釣り人たちが目を付け……いつの間にかブラックバスを大量に放流。

ブラックバスちゃんたちは元気に増え続け、今に至る。

普段ならさして興味はなかったが、この状況では……貴重なたんぱく源となる!!

活かして持って帰れば、高柳運送周囲の水路に入れておけるしな!

フハハ!勝ったな!!

なにに勝ったか知らんけども!!


「見なさい美玖ちゃん、荷台に積まれたこの数々の……便利用品を!!」


「うわ、すっごーい!」


 荷台には、釣れた魚を入れるクソデカクーラーボックス、釣竿10本、ルアーが無数にタモも完備。

大木くんお手製の酸素供給機が組み込まれた超クソデカ水槽もある。

本当に、彼には足を向けて眠れないな。


「すごい道具だね、いらっしゃい」


 中から敦さんがのそりと顔を出した。

あ、丁度いい所に。


「敦さん、コレ……うおお、重、コレどうぞ!謎のハイブリッドゾンビが持ってたバトルアックスです」


 以前に鉄砲店で襲ってきたハイブリッドゾンビが持ってた斧だ。

やっぱり高柳運送では誰も使わないしいらないと言われたので、ここへ持ってきた。

俺は重すぎて武器にするにもアレだし、七塚原先輩には八尺棒があるし。


「おお、これはいいねぇ。ちょっと重いけど、木の伐採にもってこいだよ」


 敦さんはそれをひょいと受け取って、軽く素振りしている。

さすがの膂力……猪くらいなら真っ二つにできそうだな。


「おじさん、今日はおじさんだけなの?」


 軽トラに誰も乗っていなかったのに美玖ちゃんが気付いた。


「ああ、朝霞が付いてくるって言ってたんだけど……」


 高柳運送の子供たちをいつか連れてくる時の為に、今回は下見のつもりだった。

だから、もしもの時に動けそうな朝霞と一緒に行こうとしたんだが。


「テンションが上がり過ぎて……なんか足挫いちゃって、アイツ」


「えぇ!?だ、大丈夫なのォ!?」


 ウッキウキで準備中の朝霞は、馬房に追加された寝藁に足を取られて足首をグネった。

アニーさんの診断の結果、重傷ではないがお留守番ということになった。

軽く引くくらいしょげてて、少しかわいそうだった。

せめて土産を持って帰ろう。


「大丈夫大丈夫、今度は一緒に連れてくるよ」


「そっか、よかった!」


 と、いうわけで……早速行こうか。


「おっちゃんも来る?」


「おう、車を出すぜ。由紀子ちゃんたちも連れて行ってやろう……敦くん、留守は任せたぞ」


「はい、お義父さん」


 敦さんも来るたびに日に焼けて逞しくなってんなあ。

日頃の狩猟の成果だろうか。

ガタイだけなら、七塚原先輩といい勝負だぞ。

性格が優しすぎるから、絶望的に対人戦に不安が残るけど……まあ、その場合は美沙姉が対応するからいいか。

バランスの取れた夫婦だなあ。



・・☆・・



「お元気そうですね、狩の調子はどうですか?」


「はい、この前はキジを仕留めました」


「そりゃ凄い、すっかり一人前のハンターですね」


 明らかに予算の足りていない舗装路を、軽トラが行く。

バックミラーには、おっちゃんの運転する青色の軽ワゴン車が見える。

どっかで調達してきたんだろうな……よく走りそうないい車だ。


 今回の釣りに同行する人員は、美玖ちゃん、比奈ちゃん、由紀子ちゃん。

そして助手席に座っている小鳥遊さんだ。

レオンくんは散歩の気分ではなかったらしく、おばちゃんの膝の上で丸まっていた。


「そんな、ほめ過ぎですよ」


 ころころと笑って、元気そうだ。

この人も、初めて会った時とは比べ物にならんほど生き生きしてるな……

そういえば、お母さんは行方不明なんだよな。

おっちゃんが宮田さん経由で探してはいるが、確定的な情報が出るまでは俺も喋るなと言われている。

どうにか、無事に生き残っていてくれればいいんだけど。

ままならんなあ、色々。


「田中野さんのお住まいはどうですか?今度はどんな動物が増えるんだろう、って美玖ちゃんが言っているんですよ?」


「ははは、住んでないですけどキツネとタヌキはむっちゃ増えましたよ」


 ゾンビや人間がいないと、野生動物が増える。

鹿なら問答無用で肉にするが、あいつらはそのまま放っておくことにしている。

大木くん曰く、全然美味しくないらしいし。

他にも食うものはあるから、無理する程のことでもない。

……七塚原先輩は、ヒヨコちゃんが狙われないように気を付けているが。

鶏舎がどんどん立派になっていくんだよなあ。


「あの」


「はい?」


「……今度また、お邪魔してもいいですか?」


 小鳥遊さん、なんか恥ずかしそうだな。

会いたい人でもいるんだろうか。


「いつでもどうぞ!みんな喜びますよ、特に小さい子たちなんかが」


 小鳥遊さん、保育園の子供たちに人気だもんな。

この前来た時なんか小さい弓のおもちゃまで持ってきてくれたし。

ふふふ、あの子たちから将来のロビンフッドが産まれるかもしれんな!


「まあ、よかった!」


 小鳥遊さんはぱあっと顔を明るくした。


「あの、私……昔から馬が好きなんです。だからその、あの母娘にもまた会いたいなあって……も、もちろん子供たちにも会いたいですよ?」


「なるほどなるほど」


 会いたいのは人ではなかったか。

たしかに、前に来た時にめっちゃゾンちゃん撫でてたな。

ベロッベロにされてたなあ……


「これは、小鳥遊さんの流鏑馬が見れる日も遠くないですねえ……みんな喜ぶぞぉ」


「そんな!私なんかが……」


 そんな風に謙遜しているが、なんかやってみたそうな雰囲気を感じるぞ。

正直でござるな~……



 そんな話をする間に、目的地へ到着した。

『立ち入り禁止』と書かれたフェンス。

その前に、まず車を停めた。


「行ってきます、怖いのが出たら援護をよろしくです」


「はいっ!任せてください!」


 一応、荷台には小鳥遊さんの弓を積んでいる。

それが活躍しないのを祈るばかりだ。


 兜割を掴んでドアを開ける。

ほぼ同時に、向こうの車からおっちゃんも出てきた。

相変わらずの木刀装備だ。

アレで無茶苦茶強いんだから、頼もしい。

向こうの助手席で、由紀子ちゃんがこちらへ手を振っている……ライフル持ってない!?

あの子も逞しくなったもんだ……


「新しい轍は無ェな。さすがにこの騒動が始まってからは釣り道楽もいねえらしいや」


「周囲にも車はないし、いたとしてもそんなに数はいないね……っていうか由紀子ちゃんに銃持たせたんだ?」


「おう、あの子なら大丈夫だろ?誰彼構わず撃ちまくるような性格じゃねえし……ありゃな、剛二郎が俺にって融通してくれたんだよ。いらねえからくれてやったんだ」


 ああ、なるほど。

警察、結構潤沢に銃器持ってるもんな。

ヘタな連中に渡るよりかは……ってことなんだな。


 おっちゃんと周囲を確認し……フェンスへ向かう。

ここは周囲をぐるっとこれで囲まれている。

なので、破損していなければ最高の立地なわけだ。


「比奈ちゃんには?」


「あの子は体がちいせえからな……体格に合うのがねえだろ」


 たしかに……あ、そういえば。


「前に銃器店から空気銃回収したんだよ、6丁あるからどう?」


「お、そいつはいいな!あの子も何か役に立ちてえって言ってるから……敦くんの狩りを手伝ってもらうのもアリか」


 アレなら反動もないし、軽い。

暴発の危険性もないし……いいかもな。


「ウチにはそんなにいらないから、皆の許可が取れたら今度持ってくるわ」


「おう、ありがとうよ。前払いとして……猪半分の燻製ハム持って帰れ」


「最高じゃないか!」


 銃よりも、よほどありがてえや!


 さて、フェンスだ。

入口は簡単な鍵がかかっているが……おっちゃんを見る。

頷いたので、兜割を振り下ろしてぶっ壊した。

金属音が山中に響く。

しばし耳を澄ませ、音を探る。

……鳥の声と、風の音しか聞こえない。


「よっしゃ」


 フェンスを開いて侵入。

だだっ広い敷地には、詰所のような小さい2階建ての建物がポツンとあるばかり。

その他には、すり鉢状の巨大な溜池。

誰も手入れしていないので雑草が伸び放題だが、精々俺の膝あたりまで。


「あそこの詰所を確認するか」


「了解」


 そこ以外は見晴らしがいい。

向こう側のフェンスまでバッチリ見える。

『何か』がいるとすればあそこだけだ。


 寄っていくと……うん、普通の事務所だな。

1階部分の窓は、カーテンで見えない。

2階は……外階段で登っていく感じだな、窓はない。


「ほいっと」


 足元の石を拾い上げ、強めに投げる。

ガラスが割れた。


「ギャガアアアアアアアアアアッ!!」


「いたね」「ああ、美玖の教育に悪ィから中でやっちまうか」


 おっちゃんがズカズカ歩いて行き、入り口を軽く蹴破った。

そのまま、クリアリングもせずに入っていく。


「2匹だ!ボウズは上見て来いっ……とォ!!」


 入口の闇の中から、ごぎんと音がした。

もう仕留めたのか、早いなあ。


 外階段を上る。

くたびれた階段が、ギシギシと音を立てた。

半分くらい登ったころ、2階から声が聞こえる。

……中にいる、な。


「っふ!」


 階段を上り切った所のドアを蹴破る。

そうすると、中からいつのもゾンビシャウト。

数は、1つ。


「ガアアアッ!!」


 元気な声に反して、のそのそと影が動く……ああ、お爺ちゃんゾンビだ。

作業服を着ているから、ここの管理人かなんかだったんだろう。


「南無阿弥陀仏ッ!!」「――アッ」


 踏み込みつつ、上段からの打ち下ろし。

老眼用っぽい分厚い眼鏡ごと、脳天を叩き割った。

残心しつつ気配を探るが……おかわりの気配はない。

どうやら、中は倉庫のようだ。

ワイヤーやら工具やらがまとめてある。

あまり役に立ちそうなものはないな。


「おっちゃん、終わったよ!」「おーう、こっちもだ!爺さん2人、成仏させたぜ!」


 ここの管理してるの、全員老人だったのかな。

まあ、どう考えても忙しそうな職場じゃないし……噂の天下りって奴だろうか?

まあいい、これで後顧の憂いは消えた。

これからは、楽しい楽しい釣りの時間だ!



「むほほ、釣れる釣れる。最高だなここ!」


 竿をしゃくりつつ、リールを巻く。

この引きは間違いない!ブラックバスだ!!

まあここにはブラックバスしかいないんですけどねっ!!


「よっしゃあ!いいサイズ!!」


 一気に引き上げると、緑色の水面に浮かぶ魚体!

よしデカい!持って帰れるぞ!!


「おじさん!タモ~!」「サンキューッ!!」


 美玖ちゃんが嬉しそうに差し出してくれるタモを受け取り、暴れ始めたバスをすくった。

ここは溜池だからな、足を踏み外すと危ない。

安全マージンを取らねば!


「おっきいね~!」


 美玖ちゃんが見る前で、ビチビチ暴れるそいつをクーラーにぶち込んだ。

中には水が入っているから、このまま生かしておこう。

ちょっと泥くさいからな、バス。

ここの水も緑色だし。


「よーし交代!頑張れ美玖ちゃん!」


「はーい!」


 『1匹釣ったら交代』というルールなので、美玖ちゃんと代わる。

竿はいっぱいあるのでそんなことをしなくてもいいのだが……まあ、美玖ちゃんがこうしたいと言ったからな!

別に急いで釣らないといけないってわけでもないしね!


「うわー!フィッシュ!フィーッシュだよ比奈ちゃんッ!!」


「坂下先輩ッ!タモですう!!」


 少し離れたところで、由紀子ちゃんが興奮している。

その横では比奈ちゃんがタモを持って飛び跳ねている。

楽しんでいるようでなによりだ。


「刺身で食えねえよなあ、川魚は」


「駄目だよおじちゃん、ブラックバスには寄生虫もいるんだから!」


 その反対側には、おっちゃんと小鳥遊さんのペアがいる。

刺身は無理だよおっちゃん……そしてたぶん不味いよ。

一応はスズキの仲間だけど、泥臭いしなあ。

そして小鳥遊さんの言う通り、ブラックバスにはリスクがある。


「寄生虫って、どんなのかな?」


「ガクなんとかっていう目に見えないくらい小さい虫だよ。口にえげつない棘がいーっぱい生えてて、それで噛みつくんだ」


 図鑑か何かで写真を見たが、B級モンスター映画に出てきそうな顔面をしていた。


「こわい!」


 美玖ちゃんが縋り付いてきた。

怖がらせちゃったかな。


「はっはっは、みんなにいるわけじゃないし……熱に弱いから加熱すると死んじゃうんだ。美玖ちゃん、よく覚えておきなさい……昔の偉い人は言いました、『万物はだいたい揚げれば食える』」


 冷凍も効果的なんだろうが、現状は加熱一択だ。

死んじゃえばゾンビの謎虫と違って、ただのたんぱく質になっちまうし。


「白身魚だから、から揚げにしても焼いても美味いぞ~!」


 ちょいと強めの味付けをしてやれば、問題なく食えるしな!

まあ、泥吐きとかをすればもっと美味く食えるがね。


「というわけで、頑張って釣ってくれ美玖ちゃん!」


「はーいっ!」


 美玖ちゃんが元気を取り戻し、元気よく竿を振った。

スプーンがきらりと輝いて、水面に消えていく。


 ああ、毎日こうして生きていきたいもんだな……なんて、しみじみ思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハッキリ言ってブラックバスは背中の空気袋と 身の間にある脂肪と マグロの大トロの部位を取ると食えるよ? ともかくブラックバスの脂は臭いよ?油を処理して 置けば美味しく食えるよ?キヤっチ&リリ…
[一言] 『万物はだいたい揚げれば食える』なんて暴力的なんだ、、、
[一言] ブラックバス、昔に友人が釣ってきて バターソテーにして食わしてくれたなぁ。 白身で味自体は淡白、ハーブ塩があればなお 美味かっただろうな。 泥臭さもなかったような。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ