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53話 変わりつつある避難所と、当たりの探索のこと

変わりつつある避難所と、当たりの探索のこと




「……あの、ちょっといいですか?」


 畑仕事の後、汗を拭いていると亮介くんが話しかけてきた。

さっきも思ったけど、前よりだいぶ日に焼けたなあ。


「ああ、帰るまでまだ時間もあるし大丈夫だよ」


 璃子ちゃんと朝霞は他の友達やミチヨさんと一緒に、収穫した野菜を倉庫に収めに行っている。

まだ夕方には早いし、俺はちょいと頑張り過ぎたので休憩中だ。


 ここは、学校の水飲み場。

さすがに水道は復旧していないが、急ごしらえの雨水タンクで手を洗えるようになっている。

人数が多い避難所だけあって、こういう部分はすぐに手が回るんだろう。

なんか、来るたびになにがしかのモノが増えている気がする。


「し、失礼します」


 亮介くんがおずおずと横に腰かける。

ほんと、以前に比べて態度が180度変わったな。


「……田中野さん、以前は、その、申し訳ありませんでした!」


 亮介くんが、やおら頭を下げた。

おおう、なんだなんだ。

い、以前……? 以前……??

ああ!


「……ひょっとして初対面の時に殴ってきたアレ?」


「……はい」


 もはや何もかもが懐かしいな、アレ。

ええっと……テレビ局で撃たれて大怪我してすぐ後だったよな、確か。

あの時は……


「いや、もう謝罪はいいよ。あの場合は仕方ないと思う、俺でも身内があの状態になったら、同じことをするかもしれんし」


 神崎さんが、顔に傷をつけた時の話だ。

俺はもう世界地図レベルで傷まみれだから今更だが、女性の顔に傷はな……

前時代的な考え方だと思うが、俺はそう思う。


 加えて、あの時の亮介くんの心境を考えるとなあ……

だってさあ、親戚のお姉さんがゾンビまみれの中でドンパチやってて、長い事会えてなくて……やっと会えたと思ったらようわからん無職マンと探索に行って怪我しました、だろ?

詳しく話を聞けば納得もするかもしれんが、なあ?

それに、亮介くんは(たぶん)高校生だし、カッとなってもおかしくないだろう。


 今やもうこの世にいないであろう、友愛の原田とは状況が違う。

アイツは話を聞いた後ですら、話を理解しようと……いや、すること自体を放棄していたもんな。

亮介くんは花田さんや弦一郎さんの教育と、本人の資質で違いが出たんだろう。

 

「まあ、色々と反省しただろうし?俺から言うことは何もないよ。この話はここでオシマイ!いいね?」


 ……亮介くん、神崎さんにボディ殴られて失神してたし。

アレだけでプラマイゼロでいいんじゃない?


「は、はい!ありがとう、ございます!」


 手を差し出し、亮介くんとガッチリ握手を交わした。

うんうん、最近見ないほどいい青年になったもんだ。

さっきのアホストーカーにも見習っていただきたいもんだ。


 ……アイツ、改善しなかったら速攻で叩き出されるだろうな。

ここの指揮官3人は甘くないし。

むしろ、現在進行形で発生している男女間トラブルの見せしめ的な感じにされる可能性もある。

残念でもないし、悲しくもないが。


「まあまあ、そう固くなんないでよ。仲直り?ついでにちょっと頼みたいこともあるしさ」


「頼みたいこと……な、なんでも言ってください!」


 なんでもとは大きく出たなあ。

まあ、そんなにとんでもないことは頼まないけども。


「大したことじゃないんだけど……なんか今、避難所で男女間トラブルが頻発してるんでしょ?」


「あ~……はい」


 やはり知っていたか。

表情を見るに……嫌気がさしているって感じか。


「さっきの璃子ちゃんの友達3人、いたろ?別に張り付いて……とまでは言わんけど、なんかトラブルに巻き込まれたりしたら助けてやって欲しいんだ」


「ああ、えなちゃん達ですね。知らない子たちじゃないし、それくらいなら全然……むしろ、普段から気にはしてます」


 亮介くんが力強く頷いた。

おお、頼もしい。

さすが花田さんの息子!


「ここの避難所が物凄く恵まれてるって、わかってないっていうか……わかろうとしない人が増えてきたんです。この状況で飯が食えて、屋根のある所で眠れて、風呂まで入れるのに十分なのに……」


 驚くほど現状を理解している。

ここからほぼ出てないんなら、変に勘違いしててもおかしくないのに。


「亮介くんはその辺しっかりしてんのな」


「俺は……何度か探索にも出てますから。希望者を自衛隊が選抜して、試験に合格出来たら探索チームに入れるんですよ」


 なにそのゲームみたいな設定。

そんなことが始まってたんか。


「試験って?」


「ええっと……持久力とか、筋力とか、あと組手とかですね。それに合格できたら、自衛官2人に一般人4人の1チームで動くんです」


 なるほど、人員が豊富だからこそできるこったな。


「銃とか持つの?」


「いえ、最近開発されたっていうスタン警棒です。それを鉄パイプにハメて、槍みたいにした奴ですよ」


 あー、なるほど。

充電関係がちゃんとできれば、アレほど心強い武器はない。

ノーマルゾンビ相手には無敵だろう。

それ以上が出てきたら自衛官が対応するだろうし。


「それでその……壊滅した避難所とか、人間同士の争いの痕とか見てるんで……御神楽みたいな場所は天国だってわかってるんです。でも、さっき田中野さんが言ったような連中はそもそも探索に出ないんで……」


「あー、能力不足か」


 何もしないのに声だけはデカい連中、ね。

そいつはなかなか面倒だ。


「いえ……そういう奴も中にはいるんですけど。実技は大丈夫でも面接で不合格になる奴の方が厄介ですね……無駄に力があるんで」


「面接?まさか面接官って……古保利さんっていう人?」


「あ、そうです。俺もあの人に面接されました『花田君くんの息子にしては普通』だって言われましたけど」


 ちょっと寂しそうな亮介くん。

いや……まあ、なあ?

あのお父さんはちょっと……人外側っていうか、なんというか。

師匠とかそっちのジャンルの人間だから……


「ま、まあ、まだ若いんだから大丈夫だって。できることをしっかりやってりゃいいんだよ、うん」


「田中野さんはその、どうしてそんなに強くなれたんですか」


 強い……強い、ねえ。

ふうむ。


「死にかけて、死にかけて、死にかけたからかなあ?……ってのは冗談として、俺は多分『ネジが外れてる』んだと思うよ」


「ネジ、ですか?」


「そそそ、この騒動が始まって初めてゾンビを見た時に――ノーモーションで脳天をぶん殴れるくらいネジが外れてたから」

 しかも、一応とはいえ元知り合いのゾンビをな。

そういえば坂下のオッサン、どっかのタイミングで焼却処分にしなきゃならんなあ。


 自分の場合はどうだったろうか……的なことを考え込んでいる亮介くん。


「それにさあ、人の強さってのはぶっちゃけそう違いはないんだよ。そりゃあ素人相手なら楽に畳めるんだけど……それ以外の場合ってのは基本的に心の持ちようって感じなんだよね」


「心、ですか」


「『目の前のこいつを、必ずぶち殺す』っていう……まあ、物騒な心構えかな? あ!これは俺特有のものだからね? まっとうに強くなりたいんならさあ、花田さんとか、お祖父さんとかに頼めばいいじゃん」


 俺よりもよっぽど教えるのに向いてそうじゃんか。

弦一郎さんなんか『ダイセンセー』だぞ?

花田さんは忙しくて無理だろうけど……弦一郎さんは大丈夫なんじゃないか?


「じいちゃんに……」


「俺、稽古だと手も足も出ないよあの人には。正直フィクションに片足突っ込んでるぞ、弦一郎さん」


 なお、実戦のことを考える気はない。

どこをどう探しても、俺が神崎さんのお祖父さんと真剣に殺し合うビジョンが出てこないからだ。


「まあ、そういうわけで……女の子たちのことは頼むね。俺も俺で……」


「にーいちゃあああああん!たっだいまああああああっ!!」


 校舎の方から朝霞が走ってくる。

その後ろからは璃子ちゃんも。

どうやら、作業が終わったようだ。


「――前に言ったように、神崎さんのことは必ず守るからな。それこそ、俺が死にかけても」


 立ち上がりつつ、亮介くんに笑う。

彼は、何とも言えない表情で俺を見ている。


「じゃ、今後ともよろしく」


「……はい、よろしくお願いします」


 俺を見つけて加速する朝霞に苦笑しつつ、飛びつかれてもいいように身構えた。



・・☆・・



「『凛の見る目は確か』か……本当に、本当にその通りだよ……じいちゃん」


「ん?なんか言った?」


「いえ、なんでもないです……なんでも」



・・☆・・



「みんなあ!またね~!!」


 軽トラの窓から身を乗り出して、璃子ちゃんが手を振っている。

その視線の先は、学校の玄関前で見送りをしてくれている……友達3人、ミチヨさん、高山さんに、亮介くんだ。


「元気でね~!」「また来てね~!」「お腹出して寝ちゃためだよ~!!」


 その声を聞きながら、アクセルを踏み込む。

バックミラーの中の亮介くんは、深々と頭を下げていた。

……いろいろ頼むぞ、若人よ。


「開門!」「どうぞ!出発なさってください!」


「はい!お世話になりましたー!」「あじゃじゃす!」


 門の両脇に立つ自衛官2人に挨拶をしつつ、愛車は御神楽を出発した。

荷台に隠された荷物入れには、収穫に協力した返礼としていただいたトウモロコシがどっさりである。

帰ったら醤油塗って焼こう。

人数分は楽にあるし、子供たちも喜ぶだろうなあ。

もちろん!俺も喜ぶが!!



 市街地を走り抜け、見通しがよくなったので会話を再開する。

不意のゾンビとか不意のチンピラがいるかもしれんからな、気を抜いては駄目だ。

いくらこの車が頑丈でも、いきなり囲まれたらえらいことになりかねない。


「うっし、帰りに無人コンビニでも冷やかして帰るか!」


「いいねいいね!コンビニ大好き!」


 まあ、嫌いなやつはいないだろ。

便利だし。


 友達と別れて若干テンションが低くなっていた璃子ちゃんが元気になる。


「にいちゃんがいれば無敵……だけど!あーしらが気をつければ超無敵だし!いこいこ!」


 ほう、朝霞もわかってきたじゃないか。

やっぱ、モンドのおっちゃんが言うように外に出して正解だったかもしれん。

可愛い子には旅をさせよ、だ。

……いや、これは違うか。


 さて、そうと決まれば場所の選定だ。

御神楽の近所では物資を回収したくない。

奪い合いみたいになっちゃうしな。

教会周辺も駄目だ、半沢神父に迷惑がかかっちまう。

となると……


「璃子ちゃんのホームグラウンド、硲谷一択だな」


「住んでただけでそこまで詳しくないんだけど……」


 でも俺や朝霞よりは詳しいじゃん?


「っちゅうてもそんなに詳しい立地とかを聞くわけじゃないよ。そうだな……周囲に人が集まるようなところが少なくて、騒動前はこう……儲かってなさそうなコンビニとかがいいな!」


「む、むしろそういう所こそ知らないんだけど……あ、知ってるカモ!」


 ホラ知ってた。

流石地元民。


「『トワダストア!』」


 ……聞いたことないコンビニだな?


「トワダのおばあちゃんって人がやってた駄菓子屋を、息子さんがカイソーしたコンビニなんだよ!」


 カイソー……ああ、改装ね。


「ゼーキンタイサク?だから儲からない方がいいんだって誰かが言ってた!田んぼの真ん中にポツンって建ってるの!」


「この状況下だと最高の立地じゃん、やったぜ」


「トリホーダイだね!にいちゃん!」「全品100%オフだよおじさん!!」


 璃子ちゃんと朝霞が器用にハイタッチしている。

俺が言うのもなんだが、逞しくなったもんだ。

この状況ではいいことしかない!


「よっしゃ、それじゃあ大まかな場所を打ち込んでくれ!」


「おっけー……ええと、近くに神社があってー……向かいの田んぼの奥に郵便局があってー……」


 璃子ちゃんがカーナビを操作している。

縮尺の大きい画面に切り替えた画面が、明らかに田舎っぽい立地へ進んでいく。


「うーん……たぶんここだと思うケド、地図に入ってない……」


 指し示された場所は、明らかに田んぼの真ん中だ。

四方には何の表示もなく、道が一本あるばかり。


「これだけ何もないトコなら大丈夫だろ。行ったらすぐにわかるだろうし」


 とにかく目的地設定をし、そちらへ向かうことにした。

どうせ帰り道だ、なにもなければ別の場所を探そうか。


「じゃ、行くか」


「出発!」「シンコー!」


 璃子ちゃんたちのハモりに合わせ、アクセルを踏み込んだ。



・・☆・・



「アレか」


「アレっしょ」


「アレアレ!」


 あれから30分程走り、田んぼ地帯へやってきた。

璃子ちゃんが言ったように、四方を草がぼうぼうの田んぼに囲まれた……コンビニ?がある。


『トワダマート』


そう、簡単に書かれた看板がかかっているその建物。

普通のコンビニよりも一回り大きく、店舗の半分が半分解放されている。

っていうか半分は駄菓子屋だ。

コンビニと駄菓子屋が合体した感じの建物だな。

改装したのが凄くわかりやすい。


「璃子ちゃん、何人くらい勤めてたかわかる?」


「ん~……トワダのおばあちゃんは駄菓子屋の方にいっつもいたよ。コンビニの方は……息子さん夫婦?とバイトが1人か2人……じゃない?夜に来たことないからわかんないや」


 まあ、規模からいってもそんな感じか。


「わかった。これから駐車場の一番手前に止めて様子を見る、その後俺が出るから……2人は待機な」


「わかった!」「リョーカイ!」


 いい返事を聞きつつ、徐行速度でコンビニに接近する。

……音は聞こえているハズだが、特に動きはない。

駐車場にも車はない。

璃子ちゃんが言うように、流行ってなかったようだな。


 駐車場に停車、エンジンを切る。

見える範囲に、ゾンビはいない。


「朝霞、俺が降りたら運転席に移って武器持ってろ。何かあったらまずクラクション、人間が接近してくるなら……クラクションの横、このボタンを押せ」


「コレなんだっけ?」


「側面から大木くん特製の閃光手りゅう弾が出る。クッソ眩しいからボタン押した瞬間に目を閉じろ」


「……オーキさん、マジぱねえ」


 それには完全に同意する。

彼は一体どこまで進化するんだろうか。

もう俺にもわからん。

来年の今ごろにはロボットとか作ってそう。


「じゃ、行くわ」


 兜割を持って素早く運転席から出る。

即座に朝霞が移動し、真剣な顔で拳銃を持つのが見えた。

よしよし、教えた通りにしっかりしてんな。

これなら安心だ。


 まずは、駄菓子屋方面へ足を向ける。

店はシャッターを半分ほど開けた状態だ。

距離を開けて立ち、落ちていた石をそこへ投げる。

がしゃ、と音が鳴った。


「ガアアア!!アアアアアアッ!!!」


 奥の方から声がし、バタバタと足音が聞こえる。

これは……1体、か?


「グルウウッ!ッガアアアアッ!!」


 おっと、何かに躓いたな。


 しばらく待っていると、壮年の男ゾンビがシャッターの下から這いずりながら出てきた。


「っし!!」「ガ!……ァアッ……」


 シャッターの下から頭が出た瞬間に、兜割を振り下ろす。

何処から見てもノーマルなゾンビだったので、一撃で頭蓋を砕いて無力化。 

しばらく息を殺し、後続がないのを確認してシャッターを開ける。


 おー、あるある。

昔懐かしい店内の至る所には、これまた懐かしい駄菓子の群れが。

どうやらここは開店しようとした時に……自然発生でゾンビになっちまったんだな。

ううむ、ほんとゾンビってワケわからん。


 まあいい、内部を確認するか。

……腐臭はない。

ということは人間の死体はないな。


「お邪魔しますよっと」


 声をかけるが、店舗奥の住居スペースから返事はない。

畳敷きの部屋が見える……トワダのおばあちゃんとやらの住んでた所かな。

土足で失礼っと。


 8畳ほどの空間だ。

端の方に畳まれた布団がある……おばあちゃんのモノだろうか。

あとは机やなんかがあるな、生活空間って感じ。


 奥の方に扉がある。

どうやら、コンビニと駄菓子屋は内部の住居で繋がっているらしい。

近付いて、兜割で強くノック。

……物音、ナシっと。


「っふ!」


 鍵がかかっていたので、物理的に鍵を開けることにした。

……窓が閉め切られているのか、中は真っ暗だ。

ヘルメットのライトをつけ、内部を確認する。


 ……キッチンと、ダイニングテーブルが見える。

ここは食堂か?

床には荷物が散乱しているが、血痕や肉片はない。

足元に転がっていたガムテープを拾い上げ、奥へ投げ込む。

ごんごんと音が響くが、それだけだ。

とりあえず、ここを経由してコンビニに抜けようか。


「誰かいませんか~!」


 少し大きめな声を出してみるが、反応はない。

……開店準備中にあのオジサンがゾンビになったとしたら、残りの家族は何処へ行ったんだろう?

処理するのが忍びなくて、どっかへ逃げたのか?


 住居からコンビニに繋がる扉を見つけた。

分厚く、重そうだ。

……声や音がコンビニに届いていない可能性があるな。


 鍵を捻って開け、音を出さないように開く。

……いたぁ。


 扉の奥、コンビニのバックヤードに人影が2つ。

制服を着て、前後にゆらゆら揺れている。

どう見てもゾンビだ。

他には……ライトで照らすが姿はない。

よし、行っちまうか。


「――っし!!」


 室内に踏み込みつつ、近い方にいたバイトっぽい若い男のゾンビの脳天に兜割を振り下ろす。

脳天を完全に捉えた一撃は、即座にそいつを無力化した。


「ァギャアアアアアアアッ!!!」


 残る若い女ゾンビがこちらへ振り向き、吠える。


「るぅ、あっ!!」「ッガァ!」


 その開いた口に、兜割を突き入れた。

切っ先が喉を貫いた瞬間に、捻る。

ごぎ、と手に感触が伝わる。

頸椎を破壊できたな。


「……」


 倒れた2体のゾンビを観察。

それぞれ1回ずつ頭をぶん殴ったが、反応は無し。


「……よし」


 おかわりは無し、だな。

これだけ暴れたのに何の反応もない。

朝霞たちを呼びに行くか。


 コンビニの店内を通りつつ、ブラインドを開ける。

駐車場に停まっている愛車の助手席から、すかさず璃子ちゃんがライフルを向けてきた。

……が、相手が俺だと気付くと狙いを外し、何のつもりか超ヘタクソな投げキッスを放ってきた。

お詫びのつもりかな?



「ゾンビは全部片づけたぞ。他の誰かに目を付けられる前に積めるだけ積んで帰ろうぜ」


「やった!タイリョーだねおじさん!」


「取り放題だし!取り放題!」


 ライフルを持った璃子ちゃんと、拳銃を持った朝霞が嬉々として降りてきた。

浮ついてはいるけど、油断はしていないな。

引き金に指もかけてないし、いつだったか神崎さんが教えた通りにしている。


 璃子ちゃんはライフルを構え、上体を揺らさずに歩く。

朝霞も同じように、周囲に注意をしながら俺の横を歩いている。

……子供って、知らん間に成長するんだなあ。

教師陣がいいのもあるんだろうが。


「まずはコンビニから物色しよう、2人ともいるもんは片っ端から回収しろよ」


「「うぇえ~~い!」」


 朝霞の影響か、揃って変な返事を返す2人。

スキップでも始めそうな勢いだ。

テンション高いな、気持ちはわかるけども。



「はいおじさん!コレの中身はずぇったい見ちゃ駄目だからね!」


「はいはい」


 物色中の璃子ちゃんが、凄まじく厳重に梱包された段ボールを渡してきた。

たぶん……生理用品的なアレだな。

俺は何も言うまい。

それくらいの空気は読める。


「にいちゃんにいちゃん!カニの缶詰むっちゃある!最高!!」


「おー!当たりだな!」


 奥の方から朝霞の喜ぶ声が聞こえる。

ここ、マジで流行ってなかったんだな。

かなりのものが手付かずで残っている。


「朝霞おねーさん見て見て!真空パックの中華料理がこんなにー!」


「アガるー!マジアツいっしょ!!あげみざわ~!」


 謎の言語で盛り上がる2人を微笑ましく見ながら、とりあえず段ボールを積み込むことにした。

これを積んだら駄菓子を回収しに行こう。

今日は最高の探索だったなあ。

……おっと、もちろん煙草も確認しておかないとな!!ハハハ!!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 大木くんは、ロボット作ってそうってか本人が既にネコ型ロボット並になってる気が(笑)
[気になる点] なんか、もしかして書籍化決まったのかなって、読み返した上で最初の頃と今の書き方を見てて感じた。
[良い点] ホント自然発生型ゾンビはどう発生したのか… [気になる点] まあトワダばあちゃんゾンビいなくてよかった
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