特別編 大木政宗はどうにかするとすぐに死ぬ
特別編 大木政宗はどうにかするとすぐに死ぬ
「っひ!ひぃ!っふ、うう!っぜ!っひ、はわぁ!」
喉がカラカラだ。
視界はチカチカするし、汗なんかかきすぎてもう全身ずぶ濡れだ。
どれだけ呼吸しても体力は回復しないし、それどころか息をする度に力が抜けていく気がする。
「ば、ぼく、僕はァ!食べ、食べてもおいしくないしィ!性格、悪いしィ!たぶん!栄養もそんなにないですゥ!!」
路地を駆け抜けながら、背後に向けて叫ぶ。
諦めてくれないかなあ!これで!
「ッガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ですよねえええええええええええ!?」
説得は失敗!
僕の背後からは、なんか硬質なモノが地面をひっかく音と・・・そして熱烈なラブコールが聞こえた。
畜生!どうして・・・どうしてこうなった!!
「おのれ!ゾンビぃ!だが忘れるなよ!僕を倒しても第二!第三の!大木政宗が―――!!」
僕の叫びは、住宅街を反響して晴れ渡った空に消えていった。
ああ!叫んだらより一層疲れた!!
僕の馬鹿野郎!
・・☆・・
―――やあ!僕の名前は大木政宗!
そう遠くない未来で政令指定都市2つ分の総人口くらいの登録者を得るであろう、大人気配信者の卵さ!
今日も今日とて、龍宮市内でイイ感じの動画を撮影するべく行動中なんだ!
本日のルートは硲谷を経由して、龍宮市内の南西を攻める予定。
最近新調したブレ吸収機構の力で、素敵な車載動画を撮るって寸法さ!
今まで行ったことのない場所だから、視聴者(予定)の皆様も新鮮な気持ちでご覧いただけるんじゃないかな!
ゾンビがうろつく世界での車載動画なんて、僕ぐらいしか撮影しないだろうしね!
・・・いや、いるかもしれないね。
時として、人間は恐るべき行動力とおぞましい馬鹿さを発揮するのだ。
慢心せず、題材だけじゃなくって内容でも勝負できるようにしないとね!
「到着~!本日のスタート地点、『龍宮市宝玉地区』です!」
エンジンに負けないように声を張り上げ、動画用の録音を開始。
「なんか宝物が眠っていそうな名前ですけど、その由来は龍宮に古くから伝わる竜神伝説から始まっていてですねえ」
ふふふ、このために詩谷中央図書館で郷土史を読みまくった僕に隙は無いのだ!
許可してくれた太田さんは、『南雲流とタメ張るレベルのマイペースだね、キミ』なんて褒められたよ!
・・・うん!褒められてないや!HAHAHA!!
「昔々、とっても昔、この県もといこの国が悪い龍神に支配されていた時代・・・竜頭山の化身であるいい女神様に協力した戦士がいたんですよね」
この県の人には常識だけど、動画は他府県どころか他国の人間も見るしね。
説明はちゃあんとしないと。
・・・後で録音確認して字幕も作らないとね。
復帰した動画サイトに字幕機能なかったら困るし。
「その戦士・・・呼び方に諸説はありますけど、この動画では一般的な『ツルギベタケル』で統一しますね!とにかく、彼は女神サマの援助を得て悪い龍神の一族を1匹、また1匹と討ち果たして行きました・・・無茶苦茶強かったんですねえ」
たぶんジャンル的には南雲流とかああいったサイドの人間だと思うな。
まあ、こっちは神話だからもっともっとスケールがデカいんだけど。
なんかビームとか撃つし、ツルギベタケル。
『宝玉神社』『宝玉饅頭』『宝玉温泉』などの看板を撮影しつつ、30キロをキープして走る。
ここは街の入口だからゆっくり景色を映さないとね~・・・
「その戦いは凄まじく、斬り飛ばされた悪い龍の手足や首、鱗は県内に飛び散りまくったんですよね~。今ではそれに由来した地名がいろーんな所に残ってますよぉ、有名なのだと『牙島』ですね」
田中野さんが封印・・・いやいや、漂流して保護?されてた所だ。
「ツルギベタケルと最後の龍神の戦いは三日三晩どころか3週間続き・・・稲妻を纏って唸る聖剣『御雷』が遂にその首を刎ねた時に、一緒に両断された牙が海に突き刺さって『牙島』になったらしいんですよねえ」
神話ってすごいよね、盛り過ぎ。
実際は・・・たぶん地方豪族の権力争いなんだろうなあ。
んで、ツルギベタケルの一族が女神サマの陣営に味方して戦ったんだろうね。
まさか1人で殺して回ったわけじゃないだろうし。
・・・まさかね。
「とにかく、悪い龍神は皆死んでめでたしめでたしとなりました・・・そしてこの宝玉地区で、ツルギベタケルは女神様から宝玉を賜り、その彼女と夫婦になって末永く幸せに暮らしましたとさ・・・というわけです!」
なんで宝玉だけじゃなくて女神様も貰ったんだろう。
肉食系英雄だったのかな・・・でもよく考えたら神話の英雄なんて肉食系ばっかりだよね。
「まあ、ツルギベタケルはその20年後に復活した龍神と戦ってお亡くなりになるわけですけど・・・とにかく、ここはそう言った由来のある土地なわけですよ」
第二部開始した瞬間に前作主人公を殺す神話、攻めすぎでしょ。
しかもツルギベタケルの娘が次の主人公・・・しかも美人で龍とのハーフ系剣士だし。
時代を先取りしすぎじゃないかなって思うな。
「今日はこの地区のメインストリートを進みつつ、史跡巡りといきますよ~。まずは例の宝玉がまだ安置されているとかいないとかいう噂のある・・・『宝玉神社』へレッツゴー!!」
ここは龍宮市だけど端っこなので、元々人口はそう多くない。
こうしてブンブン走っていても、たまーにゾンビが1匹2匹顔を出すばかり。
それもご老人ゾンビなので追いかけてこない。
平和だけど、油断は禁物だ。
「おやおやおや!アレは・・・『元祖宝玉饅頭』じゃないですか!予定変更!砂糖とか調味料があるかもしれませんね~!」
前もってリサーチしておいた通り、お土産物屋さんが見えてきた。
高柳運送の子供たちと・・・甘味大好き後藤倫さんのためにいいモノを回収しておこう。
あそこ、開店時間は11時だからお客さんゾンビもいないだろうしね。
「ツルギベタケル様~!探索のご加護をお願いしま~す!!」
―――そんな風に、適当にお願い事をしたのが悪かったのかもしれない。
・・☆・・
「ふんぬっ!!」
水路を飛び越え、逃げる。
「ギャバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ひぎい!さっきよりも声が近いよう!!
ヘルメットに装着した鏡で、後方を確認。
僕が走るもんだからガッタガタ揺れるけど、なんとか見えた。
「ゴオオオオオアアアアアアアアアアアアッ!!!」
路地のブロック塀をショルダータックルで破壊しながら追ってくる、『黒ゾンビ』が。
「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」「ッガッガッガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
―――それも、3体。
やめてよね!ただのヒューマンである僕が3体に勝てるわけないじゃないか!!
なんて嫌な〇ェットストリームアタックだよもう!!
奴らは、饅頭屋の・・・たぶん、元従業員。
だって揃いのエプロンの残骸付けてるし。
ウッキウキでドアを開けて内部を確認した瞬間、売り場に佇んでいたんだ。
・・・空気が凍ったよね。
老人ばっかの区画だと思って油断しすぎた僕のたわけもの!!
んで、確認した瞬間にダッシュで逃げたんだけど・・・店内にいたのは『2体』
外に出た瞬間、駐車場に併設してあった多目的トイレから『1体』が飛び出してきた。
トイレと愛車は目と鼻の先。
よって、平均的な足の速さしかない僕は・・・あえなく土産物屋の裏へ逃げざるを得なかった、ってワケ。
その後も逃げながらなんとかバイクの方へ迂回しようとしてるんだけど、なかなか難しい。
黒ゾンビは頭ゾンビだからショートカットとか考えないし、狭い道だとお互いに詰まって引き離せる。
だからなんとか逃げ続けているんだけど・・・正直、もうヤバい。
―――だって僕の体力は有限だから!!ゾンビじゃないから!!
「くっそォ・・・!こうなったらやるしかないか!!ぶっつけ本番!!!」
腹を括るしかない!
僕には近接格闘スキルは生えてないんだから!!
怖いけど、少し速度を緩めて直線の道に出る。
途端に、後ろから足音が大きく聞こえてきた。
ひいい、怖すぎ!!
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
れ、冷静になるんだ、冷静に・・・距離を、測る!
『コレ』の有効射程は・・・10メートル!だけど5メートルまで我慢する!!
先頭の黒ゾンビがぐんぐん迫る。
息を吐き・・・吐き切って止める。
ベルトのバックルに付いたリモコンに手を伸ばし、ボタンを長押し。
「『―――システム、戦闘モードに移行します』」
某ロボットゲームから引っ張ってきた音声と一緒に、電子音。
よし、起動成功・・・!
走りながら、身構える。
そしてもう一度ボタンを・・・今度は3回クリック!!
「『起動承認、確認。トリガーをあなたに』」
それを聞くなりボタンを1回クリック。
面倒臭いけど、こうしないと誤爆が怖いからね!!
「『―――ファイア』」「ぐむぅう!?!?」
「ギャッ!?ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?!?」
背中に、衝撃。
うあ、これ、想像以上・・・!?
衝撃吸収マットを挟んでるのに、反動がすっごい!?
っていうかいだだだだだだ!?!?
折れてないよね!?僕の肋骨折れてないよね!?
倒れないように必死で足を動かし、後方を鏡で確認。
「―――こ、効果、大なり!!!!」
さっきまで元気に僕を追いかけていた黒ゾンビ。
奴は顔面を柘榴よろしくグズグズにしつつ、仰向けに倒れている。
その後ろから2匹が追いかけてくるけど、倒れた同胞に躓いてこけた!やったね!!
「よ、よぉーし!『大木式ドラゴンブレス零号』は成功だ!!」
『大木式ドラゴンブレス零号』
これは・・・僕の背中に張り付けた簡易的なクレイモア地雷である。
僕の探索用の服は、野球のキャッチャー装備を流用したものだけど・・・背中部分には審判が付けている胸の部分を移植してるんだよね。
その上に、高柳運送でも使ったような地雷ユニットを取り付けたってワケ。
こっち側にはそんなに衝撃が来ないような設計になっていたけど、念のために防御しておいてよかった・・・
チンピラやゾンビに背中を掴まれた時用の、最後の砦的な装備である。
ちなみに弾丸はパチンコ屋の廃墟から回収したものなので、それこそいくらでもある。
本来のクレイモアなら有功射程は100メートル以上なんだけど、さすがにそこまでの威力だと僕の背中が大惨事になる可能性があるからね!
今の衝撃だけでも大変だし!
「威力は・・・十分、と」
倒れた最初の黒ゾンビは、地面で痙攣しているけどまだ起きる様子はない。
逃げる時の装備としては有効だね!
別に殺しきるのが目的じゃないし!
人間相手ならオーバーキルだけどね!
「ゴオオオオアアアアアアアアアアアア!!」「バアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
まだ2匹いたよねそうだよね!!
ゆっくり戦果を確認する暇もナッシング!!
再び足を叱咤激励し、逃走を再開する。
・・・『大木式ドラゴンブレス零号』には致命的な弱点が1つある。
面積的な問題で・・・単発仕様だってこと!!
この状況では絶望的ですゥ!!
腰の上に付けたら突発的ぎっくり腰で死ぬかもしれないし!
「う、お、おおおおおっ!!」
他にも武器はあるけれど、まずは距離を取らないと!
神崎さんや式部さんみたいに百発百中なら別だけど!
僕のエイムパワーは一般人クラスなので!
外した瞬間に死が確定するので!!
頑張れ僕の足!
龍神第一高校マラソン大会、3年連続3位の実力をもう一度僕に!!
伝説のブロンズコレクターであり僕の大好きな馬!『グッドシスター』よ!
我に力を!!
「ガガアアアアアアアッ!!」「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「うにゅあああああああああっ!!!」
交通標識に手をかけ、強引にカーブ。
うっわ!階段あるじゃん!!
畜生!!段差この野郎!!!
「ふうう!!うううう!!あああああっ!!!!」
二段飛ばしで階段を駆け上がる。
ここで追いつかれたら死―――
「ガギャアア!?」「ガッガ!?」
―――は?
足を緩めずに背後を確認すると、そこでは黒ゾンビたちが盛大にすっ転んでいた。
なんで・・・ああ!この階段狭いもんね!
ごっつんこしちゃったのね!把握!!
「ありがとう!グッドシスターッ!!」
今はもう天国へと旅立ってしまった推し馬に感謝しつつ、懐に手を突っ込む。
その内側に吊り下げてある爆弾を掴み、2本持つ。
振り返りながら、スイッチを押す。
「『―――Ready』」
「―――南無阿ブッダ!!」
今まさに起き上がろうとしている黒ゾンビ2体の頭上に、頼もしい爆弾が飛ぶ。
あっやっば!高く投げ過ぎた!!
反射神経を総動員して腹ばいになったと同時に、轟音。
「ひぎゃあああああっ!?!?!?」「ゲギャアアアア!?」「ガギャアアアアアッ!?」
ひいい!めっちゃ近くに破片が刺さった気がする!!
『全方位無差別くん』じゃなくって『指向性粘着くん』にしとけばよかった!!
「んに、んにゃろっ!!」
涙目で起き上がりつつ、下方を確認。
おーよしよし!イイ感じに針鼠ゾンビになってる!!
「『プラズマスパーク』!キミに決めたっ!!」
両腰にマウントしていたガチャガチャカプセルを引き千切り、お互いにガツンと打ち合わせる。
こうしてから・・・3秒で起動!!
「ほりゃあ!!」
宙を飛んだカプセルが、破片まみれになった黒ゾンビの背中に落ちる。
そして―――
「ッガ!?!?」「ッグ!?!?」
内部の放電装置が作動。
人間なら昏倒するレベルの電流が流れた。
黒ゾンビ2体は弓なりになって痙攣し、くたりと倒れ込む
・・・電流、ヨシ!今日もご安全に!!
これで大丈夫・・・だと思うけど!希望的観測は死につながる!!
即撤退!!
安全第一に撤退!!
歩きたい所だけど新手が来るかもしれないから階段を同じように駆け上がり―――
「なんとか生き残ったあああああああああっ!?ごめんなさいっ!?」「ギャッガ・・・!?」
登り切った所にいたお爺ちゃんゾンビに、咄嗟に右パンチを叩き込んだ。
僕のパンチ力はクソ雑魚ナメクジだけど、右拳には電極がマウントされている!!
拳を握り込むと―――通電する!!
「『ドラグーンブロウ』!起動!!っぎゃあああああ!?!?」「ィギ!?!?!?」
僕・・・僕にも電流が、電流が逆流、逆流・・・!
しび、痺れるゥ!
も、もっとグローブの、漏電対策、しとくべき、だった!
・・・な、なんとか落ち着いてきた。
致死レベルの電流設定に、しとかなくてよかった・・・ノーマルゾンビなら、これで死ぬ?し。
「あっが、ぬ、ぬぐぐ・・・競歩くらいで逃げ、逃げるぞ・・・」
四苦八苦しながら、後ろ腰からスタンバトンを引き抜いて伸ばす。
起動させ、なんとか足を動かして・・・僕は逃走を開始した。
・・☆・・
その後は何度か老人ゾンビと遭遇したけど、問題なく処理。
いつだったか田中野さんは『老人虐待してるみたいで嫌だなあ・・・』って言ってたけど、僕にしてみれば敵は弱ければ弱いほどイイ。
一般人ですからね!
まあ、そんなわけでなんとかかんとか元の土産物屋まで戻ってきたんだけど・・・だけど・・・
「すんげー!ナニこのバイク!」「いかちーじゃん!おいタケシ!鍵ぶっ壊せよ鍵!」「慌てんなって、任しとけよ~!」
駐車場にある愛車を囲んで騒ぐ、どこに出しても恥ずかしくないチンピラの一団。
数は・・・8人。
僕が来た時にはなかった、趣味の悪いカラーリングのワンボックスが停まっている。
うん、控えめに言っても・・・善人には見えないね!
・・・なんだよもう!!
ゾンビかチンピラかどっちかにしといてよ!!
なんでこんな外れに遠征してくるんだよ!!
龍宮中心部に行きなさいよ!そして喰われて死になさいよ!!
「はー・・・ポチチっとな」
ヘルメットにマウントしたカメラ。
その下部分に追加したリモコンを操作する。
「『―――コソ泥確認、天罰覿面』」「っは?おいコイツ喋っ~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?」
「タケシ!?タケシ大丈夫がああああ~~~~~~~ッ!?!?!?!?」
「あああ!どうしたんだよシュンヤあああっがああああああああああっ!?!?!?!?」
スゴーイ、アホの連鎖感電だ。
あっという間に3人が痙攣しながら倒れ込んだ。
・・・明らかに感電してるのに、なんで素手で触りに行くかなあ。
僕としては楽でいいけどさ。
続けてリモコンを操作。
愛車に連結された荷台・・・その側面が弾けた。
「なんっ―――」「っひ―――」「まぶっ―――」
僕の背中にマウントされたのとは違う、本格的なクレイモアが炸裂した。
中身はパチンコ玉、錆びた釘、ガラス片等々。
威力は折り紙付きだ。
残る5人のうち、3人は場所が悪かった・・・いやよかったこともあって即死。
あとの2人は運がいいのか悪いのか、両足を吹き飛ばされて喚き散らしている。
ううむ、人間相手にはオーバーキルだね。
「っだ、大丈夫かみんなァ!?誰がこんなひでえことを―――」
おっと、ワンボックスからもう1人出てきた。
仲間思いのいい青年ですね!
「誰だァ!!出て来い!出てきやがれ!ぶっ殺してやr―――あ、が、えぇ、へ?」
そんないい青年の胸に、組み立て式クロスボウから放った矢が突き刺さった。
呆けてそれを見ている間に、追加の矢ががお腹の真ん中にイン。
駄目押しに放った三射目は、顔を狙ったのに喉に刺さった。
あいつらが騒いでいる間に準備しといてよかったぁ。
「あば、っが、っご」
青年はしばし痙攣し、糸が切れたように倒れ込んだ。
・・・観察なう。
よし、おかわりはいないな!
「ああ、った、たす、たすけ・・・」「い、医者ァ、いしゃ・・・」
「すいません今ちょっと切らしてまして、そこにないならないです~」
謎の生命力を発揮している生き残りをスルーし、お土産屋にカムバック。
結構大きい音がしたから、ゾンビが来る前にササっと探索して移動しようっと。
餡子・・・は無理だろうけど、砂糖や豆は根こそぎ回収するぞ~!
干菓子もあるだろうから、それもね!
・・☆・・
駐車場にバイクを停め、神社に向ける。
人気がないのも相まって、なんか神秘的だ。
ゾンビもいないし。
・・・ただ単に田舎だからだと思うけどね。
「はーい、アレが霊験あらたかな宝玉神社ですよ~!さっき話したツルギベタケルと女神様が祀られています!」
お土産物屋からは大量の砂糖、大量の小豆、大量の蜂蜜や各種調味料を回収できた。
苦労した甲斐があったってモノだね・・・ありがたいありがたい!
「この神社は大願成就、恋愛成就、夫婦円満、子宝祈願などに効果があるとされていますね~」
盛られてるなあ、神社。
ヤサイカラメニンニクマシマシチョモランマって感じ。
・・・まあねえ、ツルギベタケルと女神様ってラブラブだったらしいし。
第二部主人公以外にも、なんと子供が確認されているだけでも15人!もいる。
うーん、産めよ増やせよ地に満ちよ。
ちょっとカメラを止める。
「社務所探索するかな・・・お守り、持って帰ってあげよう」
さすがに無料で持って帰るとすっごい罰が当たりそうなので、ゾンビ騒動以来一切使用していないお金を置いて行こう。
え?じゃあ通常の探索の時はって?
・・・人間はずるい生き物なのですよ、ドゥフフ。
「ええっと・・・神崎さんと式部さん、それにアニーさん達には恋愛成就・・・一応朝霞ちゃんにも。七塚原さんには子宝祈願で、斑鳩さん達には家族円満・・・子供たちには健康的なアレにしとこうかな」
恋愛成就多すぎでしょ、高柳運送はどうなってんだ。
モテモテ無職さんめ・・・おのれ!特に羨ましくない!
マジで羨ましくない!!
僕なら絶対逃げる!!
何で気付かないんですか田中野さん!!
ちゃんと動いてます!?脳!!!!
「あー・・・そうだ」
後藤倫さんは・・・どうしよう。
恋愛成就なんて渡したら、その瞬間に僕の肩が引き抜かれてもおかしくない。
恐ろしすぎる。
うーん・・・
「田中野さんと同じ大願成就にしとくか、うん。無難に・・・無難にね」
無難最高。
恋愛お守りは個別にこっそり渡すとしようか。
衆人環視の中で神崎さんなんかに渡したら、照れ隠しで僕の命が消えかねない。
社務所に行く前に、お賽銭を入れる。
二拍一礼をして、しっかり祈る。
「ツルギベタケル様・・・田中野さんが彼女たちの気持ちに気付く・・・か気付かないかはともかくとして、誰も死なずに末永く幸せになりますように、お願いします。それと、高柳運送のみんなが幸せになりますように・・・」
どうせ使わないので1万円ほどぶち込むことにした。
みんな幸せが一番。
子供たちや、もちろん動物たちも。
え?僕・・・?
ハハハ!僕は既に自由の化身で十分に幸せだから!!
神の助けなど不要だ!!フハハハ!!
・・・ごめんなさい!安全面だけはどうかよろしくお願いします!!
大木政宗はなんかあるとすぐ死んじゃうので!!
それだけはお願いします!!
・・☆・・
波乱万丈な探索を終え、なんとか原野に帰ってきた。
まあ、あの後は何もなかったけどね!
というわけで、高柳運送にご挨拶。
「大木さんですか」
「あ、神崎さん。どうもどうも」
門を開けた所に神崎さんがいた。
「―――戦闘ですか、火薬のにおいがします」
うは、さすがエリート兵士さん。
すぐに気づかれちゃった。
「バイク泥棒を成仏させただけですよ・・・というわけで、お土産でーす」
「あ、ありがとうございます・・・まあ、お守りですね。これは・・・!?!?!?!?!?」
紙袋に入ったお守りを確認すると、神崎さんは落雷に遭ったように動きを止めた。
うーわ、顔が真っ赤ですよ。
こうなると学生かってくらい初心なんだよね~。
・・・先は長そうだ。
「ガンバッテクダサーイ」
「にゃ、な、にゃにを・・・しょ、しょんな・・・」
急に萌えキャラみたいになった神崎さんをその場に残し、バイクを押して社屋へ向かう。
「甘味の材料の配達ですよ~」
「カメラ小僧!でかした!!」
玄関前にいた後藤倫さんは、僕が見た中で一番嬉しそうだった(当社比)
オマケ
式部茜の場合。
「おや、これは・・・宝玉神社のお守りでありますね!ありがたく頂戴するであります!!」
アニーの場合。
「フムン・・・恋愛のタリスマン、か。ふふ、下着に忍ばせておこう」
エマの場合。
「『ワオ!これで押し倒しても大丈夫って訳ね!・・・え?違うの?なーんだ。でもありがとう!貴方にもいい相手が・・・いらない?そ、そう・・・』」
キャシディの場合。
「『へえ、日本のタリスマンか・・・カワイイわね!これだけを身に付けて突撃すればいいのかしら?え?違うの・・・ふうん。じゃあ下着も付けて・・・え?それも違う・・・?ムムム、難しいわね』」
斑鳩璃子の場合。
「ねえねえ!なんで恋愛ジョージュじゃないの!?私だって大人なんだからねっ!ちょっと!おにーさん!なにその優しい目は!むきーっ!!」
荒川朝霞の場合。
「ほーん・・・子宝の方ないの?あ。ともちん用かあ、なら仕方ないし。え?あーしの相手?そんなもんにいちゃんに決まって―――」
・・・僕が考えるより何倍も、田中野さん包囲網は恐ろしいことになっているのかもしれない。
くわばら、くわばら。




