48話 大木式新兵器と住宅街のイレギュラーのこと
大木式新兵器と住宅街のイレギュラーのこと
「イチロー、アレが目的地か?」
助手席で双眼鏡を構え、アニーさんが言う。
「たぶん・・・そうじゃないですかね。正確にはその奥ですけど」
俺もまた、運転席で単眼鏡で『ソレ』を見ている。
「ワーオ、ダイギョーレツ!『何があったのかしらね、あそこで』」
荷台から身を乗り出し、運転席の窓に手をかけてエマさんが驚いている。
・・・まあ、アレ見ちゃうとなあ。
ここは、硲谷から少し龍宮方面へ行った場所。
目的地である銃器店・・・『師岡鉄砲店』があるはずの、住宅地の手前だ。
俺達は住宅地の手前にある公園に車を停車させ、目的地の偵察をすることになったんだが・・・
「見た所ブラックはいないようだが・・・何故こんな場所にあれほどの群れが」
アニーさんがそうこぼしたように、視線の先にはゾンビの群れがいた。
何の変哲もない住宅街には、無茶苦茶不釣り合いな状況である。
ここからの距離は300から400メートルってところかな。
こちらに気付かれたような様子は、今の所ない。
「ざっと見ただけでも10や20ではないな、少なく見積もっても50はいる」
「ゾンビ発生当時に運動会でもしてたんか・・・?いや、平日だからそれはないか」
住宅街の一角を占拠したゾンビの群れは、動くことも声を上げることもせずに佇んでいる。
単眼鏡で確認された視界には、老若男女バラエティ豊かな顔ぶれだ。
着ている服も、学生服からスーツ、私服まで・・・統一性がまったくない。
うーん、どういう集まりなんだアレ。
「・・・アレですかね?ここ連日の豪雨で徘徊して・・・たまたまここに来ちゃったとか?」
何故か夜と雨の時だけ能動的に動くんだよな、ゾンビ。
「ゾンビ共にインタビューするわけにもいかんからな、永遠の謎だ」
だよなあ。
さて、それじゃあ・・・どうしよっかな。
ゾンビの群れはいる。
いるが、それだけだ。
分散しているわけでもなく、一塊になっている。
周囲におかわりはなさそうだ。
ここに来るまでも見なかったし・・・だから急に出てきててびっくりしたんだよ。
「お2人ともどうします?銃器店はここ以外にもいっぱいありますけど」
「フムン・・・」
アニーさんは、双眼鏡を下ろしてしばし考え込む。
荷台のエマさんは、『決定は任せる』という感じのジェスチャーをして引っ込んだ。
「とりあえず・・・そうだな、コーヒーブレイクとしよう。天気もいいし、増援の気配もない」
「了解でーす」
落ち着いて1回考えるって訳ね。
こちらとしては特に用事もないし、文句はない。
アニーさんが言うように、今の所雨が降る気配もないしな。
「『エマ、ティーセットを出してくれ。弾薬箱の横にあるボックスだ』」
「『用意がいいわねえ・・・ワオ!クッキーまで!』」
「『リコとアオイが焼いてくれたものだ。働く我々へのご褒美だとさ』」
・・・なんで軽トラの荷台からお茶会セットが出てくるんだよ。
俺の愛車に俺の知らない荷物が載ってるの、なんかもう慣れてきたな。
大木くんがちょくちょく改造してるのも知ってるし。
知らん間にガトリング砲が搭載されてても驚かない自信があるわ、もう。
・・・いや、さすがにガトリングは驚くな。
ともあれ、目的地を前にして休憩することにした。
・・☆・・
「今日も美味いコーヒーだ。アカネはいい豆を調達してくる才能があるな」
「オイシ!『クッキーも素朴でいいわねぇ。あーあ、どんどんタカヤナギウンソーから離れがたくなるわ』」
「『いい男もいるしな。まあ安心しろ、しばらくこの状況は動かんだろう・・・以前コホリから聞いたが、人員の配置転換を行うらしい』」
うーん、コーヒーが美味い。
これは式部さんが淹れたんだろうか。
貧乏舌だが、いい悪いの差はさすがにわかる。
「『あら、なんで?』」
「『・・・どうにも、一部の避難民の様子が気になるらしい。ソレに関して、だとさ』」
「『・・・外部からのスパイってこと?』」
「『いや、それではない・・・女性隊員への態度が問題なんだとか』」
「『あー・・・そういうこと』スケベ、キラーイ!」
「ぶふぉっ!?」
あああ!コーヒーが!コーヒーが!!
・・・はぇ?
いきなり何の話だ?
何がスケベだって?
「イチロー、違うぞ?キミがスケベだとかそういう話ではない。むしろもっと煽情的になっても我々は困らんがね」
断固として突っ込まないことにする。
・・・じゃあ何のことだろう。
「以前に風呂覗きの話を聞いたろう?それが最近エスカレートしつつあるようだ」
「・・・はぁ?」
たしかに聞いた覚えがある。
キャシディさんたちが風呂を覗かれて、ブラシでボコボコにしたとかなんとか。
「また覗き・・・ってことですか?見下げ果てたモンですね」
なんとも、懲りないアホがいるもんだ。
「いや、さすがにその方面ではない。簡単に言うとナンパだ、ナンパ」
「ナンパ」
「余裕ができて余計なことを考える連中が増えてきた、ということらしい。平和が続きすぎるのも考え物だな。」
・・・はあ、マジか。
そんなことしてる場合じゃないだろう、今は。
「色気づいた学生でもあるまいに、余暇の時間にしつこく絡まれる隊員が増えているようだ。お互いに納得づくならいいがね・・・ま、こんなふうに問題になるということは、わかるだろう?」
「・・・断られても懲りないお馬鹿さんがいたってことっすね」
本当に、何考えてんだ。
平時じゃないんだぞ。
「存在が身近だからか、特に警察関係者の被害が多いらしいぞ。駐留軍は外国人ばかりだからあまり絡まれないらしいが、それでも限度はある・・・更にだ、ソレに付随して今度は『内部』でも浮ついているらしくてな」
「『内部』ってまさか・・・関係者の男もですか?」
「成立したカップルもいるらしいがな。コホリ曰く『こんな状況下で嫌がる相手にナンパなんて何考えてるんだ。ナニがとは言わないが本当に切り落としてやりたい』だとさ」
「ヒエッ・・・」
なんか、古保利さんなら本当にやりそうな気がする。
それでなくても大規模な作戦を控えてるのに
「これ以上は、部外者である私には詳しく教えてもらえなかったがね。まあ、とにかく空気の引き締めを図る為に人員の配置をいじるらしい」
「オバカサン、オオイネー『下半身でモノを考えるようなサルは、さすがにゴメンだわ』」
・・・むむむ、安定した避難所ってのもそれはそれで問題なのか?
贅沢な悩みだけど。
「『イチローとかムガ、マサムネあたりを見てると麻痺するわよね。みーんな紳士だもの』」
「『むしろ、イチローにはもう少し獣になって欲しいものだ』・・・なぁ?」
「前半はまるでわかりませんが・・・なんか目が怖いんですけども」
外国語はサッパリだが、なにか不穏なものを感じる。
・・・しかしまあ、古保利さんたちも大変だなあ。
「高柳運送は最高の場所だ、ということだよ。ふふふ」
「『本当にそうね!その話からして、滞在も伸びそうだし・・・最高よ!乾杯!』」
何故か2人はコーヒーカップで乾杯してる。
・・・今の話のどこに喜ぶ要素があるというのだろうか。
まあ、楽しそうだからいいけどさ。
「そういえば、男女間のもつれ問題というかそういうの、他の避難所は大丈夫なんですかねえ」
秋月にしろ詩谷の友愛や中央図書館にしろ、俺の知ってる所はバッチリ安全だから・・・逆に平和ボケしてないといいんだが。
「ミヤタもハナダも無能ではないし、私は会っていないがオータという指揮官もそうだろう?なんとかなるだろうさ・・・なんとかならなければホラ、実力で・・・な?」
「すごく納得した」
・・・よくよく考えれば、やらかしたら外に放り出される環境下だもんな。
宮田さんは優しいけど、以前の原田の件もあるし・・・『そういう』線引きはキチンとできる人だ。
避難所に悪影響な人物だと判断したら、即刻切り捨てることもできるだろう。
え?花田さんに太田さん?
言わずもがなである・・・南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
「折角のティータイムにつまらん話をしてしまったな。イチロー・・・なにかこう、面白い話をしろ」
「今世紀最高のキラーパスを受けた。俺は若手芸人じゃないんですけど?」
その後は普通の話をしながらコーヒーを楽しみつつ、丁度いいのでスマホを使って周辺の地図を確認するなどして過ごした。
来た道とは違うが、近所にケーキ屋があるらしい。
さすがに卵とかは無理だが、砂糖や小麦粉あたりは回収できそうだな。
ヒヨコちゃんたちも大きくなってきたし、ケーキが食えるようになる日も遠くはなさそうだ。
・・☆・・
「すまないイチロー、どうするか考えると言ったが、初めから答えは決まっていたのだよ。さっきのはコーヒーブレイクの為のカワイイ言い訳だ」
一服し終わると、アニーさんは荷台に積まれたボックスをいじりつつそう答えた。
自由人だなあ・・・ま、俺もだけど。
「まずはこれを試そうか、エマの分もあるぞ」
そう言ってアニーさんが取り出したのは・・・銃、ではない。
太い筒に握り手と引き金をくっつけたようなそれは・・・
「グレネードランチャーってやつですね」
名作映画で、未来から来たサイボーグがポシュポシュ撃ってたやつだ。
リロードする時に2つに折れるのがカッコいいんだよな。
「試すのは弾丸の方だ。ホラ」
続いて出てきた弾丸は、なんというか・・・
「お手製っぽい・・・」
「そうとも、大木メイドだ」
なんでも作るなあ、ほんと。
3Dプリンターを手に入れてからやりたい放題だよな、大木くん。
助かってるからもっとやってほしいけど、過労死だけには気を付けていただきたい。
動画撮影、装備作成、それに馬のお世話。
・・・死ぬんじゃないのォ?
「銃弾を回収しに来てそれ以上に消費していては駄目だからな。コレで遠距離から数を減らす・・・うまくいけば、だがね」
「ダメナラ、イチロー!タスケテ、ネ?」
「のーぷろぶれむ、とらすとみー」
2人はランチャー片手に荷台に乗る。
ここから攻撃するようだ。
・・・結構遠くまで届くんだな、アレ。
精密射撃をする必要がないからかね?
「さて・・・どうかな」
なんか板?みたいな照準器を引き出して狙いをつけ、まずアニーさんが弾丸を発射。
ぽしゅ、というちょっと気の抜けた音が響く。
続いて、軽い炸裂音。
なんかショボいな?
もっとこう・・・ドッカーン!って感じじゃないの?
アニーさんが何度か同じことを繰り返すも、やはり景気のいい爆発音はしない。
・・・不発続きか?
大木くんの発明品にも不可能があるんだなあ。
単眼鏡を取り出し、着弾地点を確認。
「あれ?爆発・・・してない」
特にゾンビが吹き飛んでいる様子はない。
大木くんの爆弾、失敗作か?
・・・いや?なんか変だ。
「・・・ゾンビが、濡れてる?」
晴れているのに、何体かのゾンビと、その下の地面が濡れて光っている。
奴らはこちらには気付かず、反射で動いているばかりだが。
「『エマ、中央にドンピシャだ。そのまま撃て』」
「ラージャ!」
続いてエマさんが撃つ。
同じような音が響くが、やはり爆発は・・・あ!?
一体のゾンビに何かが衝突したかと思うと、そいつは急に叫びながら痙攣。
周囲の何体かも同じようになりつつ、地面に倒れ込んだ。
・・・あの反応、まさか。
「・・・電気ショック、ですか?」
「正解だイチロー、後で頬に採点をくれてやろう」
何がどうなったかはわからないが、あの反応は電気を流されたゾンビのものだ。
でも、どうやって・・・?
「私が先に撃った弾丸には食塩水が入っている。エマの方には簡単な電極を組み込んだスタンユニットが入っていて・・・というわけだ」
食塩水?
あ、電解質ってやつか!
電気を通しやすい液体ってやつだな、中学の理科で習ったような気がしないでもない。
つまり、先に電気を通しやすい液体をぶちまけといて・・・しかる後電撃攻撃ってわけか。
はー・・・よく考えたもんだ。
もうSFじゃないか。
「ランチャーのシェルに収まるサイズの電極ユニットでは、通常は威力が足りない。かといって威力を上げるようにするにはあまりに課題が多い・・・そこで逆転の発想というわけだ」
「『海に行けば塩水は無料で手に入るしね!マサムネはたいした発明家よ!』」
「ただ近距離でぶん殴るかぶった斬るしかできないわが身としては、雲の上の話だぁ・・・」
俺の感心をよそに、2人は同じことを繰り返す。
単眼鏡の視界では、ゾンビが面白いように痙攣して倒れていく。
密集している状況なので、まるで将棋倒しだ。
痙攣ゾンビが倒れかかると、同じように倒れていく。
うーん倍々ゲーム。
「おっと、これで売り切れだな」
「ザンネン、アトチョット!」
どうやら打ち止めのようだ。
アレだけいたゾンビたちは、集団の端っこの方がチラホラ生き残っているばかりである。
「電極ユニットは人体に突き刺さる形状になっている。後で回収しておこう・・・リサイクルは大事だ」
グレネードランチャーを片付け、アニーさんはライフルを取り出した。
「この距離なら問題あるまい。残敵の数からしてワンマガジンで済むな・・・『エマは温存しておけ』」
「ラージャ!」
言うなり、荷台で膝立ちになったアニーさんのライフルが火を吹く。
サイレンサーで消音された銃声が響く度、残ったゾンビが頭を撃ち抜かれて倒れていく。
・・・1発も外してない、すげえ。
「・・・よし、見える範囲は片付けた。オーキのお陰で楽に済んだな・・・それでは進もうか」
新しいマガジンを装填しながら、アニーさんがウインク。
何をしても絵になる人だなあ。
「急な接敵があるかもしれん、我々はこのまま荷台で警戒しておく。頼んだぞ運転手」
「任せてください・・・まあ、目と鼻の先ですけども」
荷台に2人を残し、運転席に乗り込んだ。
どっかに隠れてる個体がいるかもしれないから、気をつけないとな。
・・☆・・
公園を去り、住宅街まで徐行。
さっきまであんなに元気?だったゾンビの群れは、揃って地面に倒れ伏している。
近付く軽トラの音に気付いたような素振りを見せ、起き上がろうとするゾンビが何体かいたが・・・荷台の2人のどちらかが即頭を撃って無力化していた。
頼もしさがすごい。
拡大したカーナビの画面を見つつ、運転。
・・・出る前に確認した時も思ったけど、今回の目的地は本当に住宅地のど真ん中にある。
ゾンビゾーンを抜けると、その先は行き止まり。
そこがこの住宅街の中心部だ。
一番家が密集している区画に、『師岡鉄砲店』はある。
「・・・あれかな、たぶん」
住宅街の奥に、雑居ビルが見える。
年季の入った古いやつだ。
ここから見える範囲では・・・おそらく3階建てかな。
住宅地の間ににょっきり生えている。
これは、住宅の方が後から建てられたっぽいな。
元々ここらは山が近いから、猟師さん相手に商売してた感じかな。
ゆっくり進みながら、周囲も確認。
今の所、おかわりゾンビはなさそうだ。
この先は袋小路なので、ある程度進んだところで一旦停車。
道で切り返し、バックの形で進む。
だいたい、店から10メートルくらいの所で完全に停車。
あんまり近すぎると何かあった時に困るからな。
エンジンを切り、運転席から出る。
ちなみに今日の装備は兜割、脇差、『魂喰』と各種手裏剣。
服はいつもの防弾チョッキ・・・ではなく、以前おっちゃんに借りた・・・貰った?着込みを釣り用ベストとインナーの間に着ている。
防弾チョッキよりも重いが、体にフィットしているのでさほど動きに支障はない。
「じゃあ、これからは先に立ちます」
「ああ、よろしく頼むよ。後ろは任せておけ」
「『イチローのカワイイお尻は絶対に守るわよ!』」
・・・キュートなヒップって言った?
いや、絶対に聞き間違いだな。
そんなこと言わないだろ、普通。
兜割を抜き、目的の店へ。
両開きのガラス戸の横に、小さい『師岡鉄砲店』という木札がかかっていた。
あまりに地味すぎる。
これなら地元の人間はともかく、地図もない通りすがりには見つけられまい。
普通の家の表札レベルだぞ。
「開きます」
敷地に入り、ドアに手をかける。
案の定鍵がかかっていたので、後ろの2人を振り返る。
「じゃ、壊しますね」
アニーさんが頷く。
鍵は結構大掛かりな感じなので、ガラスの方をぶっ壊すか。
1階部分の窓は鉄格子がガッチリ嵌まっているので、これが一番早いだろう。
兜割を引き、息を吸う。
「―――っふ!」
短く踏み込み、ガラス戸の中心を突く。
切っ先が少しばかりの抵抗を感じ、ガラスを貫通。
引き抜き、今度は振りかぶって適当な所をぶっ叩く。
蜘蛛の巣状のヒビが入り、簡素な住宅街にガラスの割れる音が響く。
動きを止め、残心の体勢のまま周囲を窺う。
風の音と、鳥の声・・・と、異音。
「上だ、来るぞ!」
アニーさんの声に頷き、3人で敷地から撤退。
割れたガラスの奥から、バタバタと足音が響く。
この感じ、理性のある動きじゃない!
「ギャアアアアアアアッ!!」「グアアア!!アアアアアアアッ!!」「グルグウウウウウウウ!!」
数は、たぶん3体!
「前方で相手します!お2人は警戒を!」
「了解!」「『カッコいいとこ、見せてよね!』」
広い空間まで下がり、兜割を正眼に構える。
さあ、来い!!
「ガアアアアアアアアッ!!」
まず初めにビルから飛び出してきたのは、右腕が異様に肥大化した若い男のゾンビだ。
その右腕には、黒い装甲板がまばらに付着している。
・・・黒の『なりかけ』か!こういう状態のもいるんだな!!
なりかけは吠え、俺目がけて飛び掛かってくる。
跳躍の勢いで、その右腕を効率的に叩きつける動作―――こいつ、このまま放っておくと白黒とかネオに進化するかもしれん!
「南雲流、田中野一朗太―――!」
こちらも同時に踏み込む。
俺に向かって振り下ろされる、その右腕に兜割を沿える。
装甲と接触した兜割が火花を散らしつつ、力を逸らす。
振り下ろしの勢いに逆らわず、下方向に加速させ―――円を描いて攻撃を空振りさせる。
「―――参る!」
空振ったことで大きく開いた脇腹を、兜割で殴る。
手に、骨の砕ける感触。
お互いの速度がそのまま破壊力になった形だ。
「ッゲェウ!?!?」
呻き、動きを止めるゾンビ。
その腹を蹴り付け、後方に距離を取りつつ大上段に振りかぶる。
「っしゃぁっ!!」
着地した瞬間にまた前に跳び、間合いに入ると同時に兜割がゾンビの脳天にめり込んだ。
ゾンビが痙攣し、首が胴体方向へ歪に動く。
「っは!」
柄尻を胸に叩き込み、ゾンビを吹き飛ばす。
またもバックステップし、下段に構えつつ残心。
吹き飛ばされたゾンビは、玄関に激突。
上半身をビル内へ倒し、くたりと動きを止めた。
・・・よし、新手が来る前に1体無力化!
「右に寄れイチロー!」「応!」
アニーさんの声に従うと、デカい銃声。
玄関の奥から俺へと走り寄ろうとしていた女のノーマルゾンビが、両目の間をザクロよろしく弾けさせて後ろへ倒れ込む。
・・・例のクソデカリボルバー、今日も持ってきてたんですか。
女ゾンビは倒れた後、一度大きく痙攣した後に沈黙。
これで、残りはたぶん1体。
「・・・?」
が、新手は来ない。
相変わらず声は聞こえてくるが、奥から一向に向かって来る様子がない。
どっかで引っかかってんのか?
・・・困ったな、閉所でゾンビと格闘したくはないんだが。
「ガアアアアアアアアアッ!!オオオオオオオガアアアアアア!!」
「―――ッ!?」
声が一気に近くなった!?
だが玄関の奥からじゃない、これは―――!!
「『3階!!』」
エマさんの声が聞こえたと同時に、3階部分の窓枠が歪んで内側から吹き飛んだ。
「ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そこから顔を出したのは、全身を装甲で覆った・・・『白黒』のゾンビ!!
まさか!ハイブリッドか!?
さっすが龍宮!ゾンビまで多種多様だなオイ!!
「行儀の悪い出迎え、だ!!」
アニーさんが後方で発砲。
重々しい銃声が響く度に、顔面の装甲板が剥がれていく。
が、角度のせいか有効打になっていない。
「飛び降りてきます!2人とも後退してください!!」
「っちい!殺しきれなかったか!」「ラジャラジャ!」
顔面を軽量化されたそいつは、そのまま飛び出す。
陽光に反射する装甲と、手に持った―――
「何だその斧!?」
大木でも切り倒せそうな斧を持ったまま、ソイツは地響きを立てて着地。
「グゥルルル!!ゴウラアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
そして、こちらを睨みつけながら・・・両手でしっかりと握った斧を『構えて』吠えた。
「―――上等ォ!!かかってこいやァ!!!!」
俺は、兜割を旋回させて八相に。
一歩、踏み込んだ。
・・☆・・
「・・・何か今、田中野さんが物凄く格好いいことをしている気がしたのですが」
「はて?一朗太さんは四六時中物凄く格好いいのではありませんか?」
「それな!シキブサン話わかってんね~!あ!オーキさんもっとクッキーいる?」
「ア、イタダキマス・・・オイシー、スゴクオイシー・・・(何故僕はこの砂糖空間に迷い込んでしまったんだろう、田中野さんが悪いわけじゃないけど田中野さんが悪い!!)」




