47話 新米騎手と遠征計画のこと
新米騎手と遠征計画のこと
車とも、バイクとも違う風切り音を立てて漆黒の馬体が走る。
「さあ4コーナーから直線コース!ヴィルヴァルゲが先行勢を射程圏にとらえている!」
休耕田の土を後方に巻き上げ、地響きも高らかに。
「先頭サガミブライドだが、ヴィルヴァルゲ馬なりだ!ヴィルヴァルゲ馬なりでもう先頭に並びかけようとしている!」
俺の横で、母親に憧れるような目線を送っている我が子に『こうやって走るのだ』と見せるかのように。
「200の標識通過!これは強ぉおい!!これは強いヴィルヴァルゲぇ!!2番手はサガミブライド!イヤサカヒナギク!」
周囲には人間どころかゾンビもいない。
いるのは俺達と・・・畦道の脇から『なんだなんだ』と顔を出しているキツネの親子ばかりだ。
「向かい風を切り裂いて、どうだこの強さヴィルヴァルゲェエエエエエエエエッ!!」
だけど俺は、何の変哲もない休耕田に・・・確かに芝のコースと、彼女が過去に走り抜けたゴールを見た気がした。
「もう1頭だけ、役者が違い過ぎました!!とんでもない強さです!これがヴィルヴァルゲです!!恐れ入りました!ぐうの音も出ません!!・・・とまあ、どうですか田中野さん!アツいでしょう!?!?」
「ああうん・・・すげえ臨場感だな、ほんと。そしてよく覚えてるよなキミも」
・・・まあ、それは大興奮しながら隣で当時の競馬中継を叫んでいた大木くんのせいでもあるんだろうが。
多芸多才すぎるだろ。
「当たり前でしょう!?贔屓の馬のレースはほぼ丸暗記してますよ!ちなみに放送局やラジオテレビのバージョン違いも網羅してます!!」
「すげえ才能」
競馬好きすぎでしょ。
毎回馬券買ってたんじゃないのか?
「そういや・・・それだけ詳しいならさぞ儲かってそうだな?」
「ウッ」
そう聞くと、大木くんは地面に受け身も取らずに倒れ込んだ。
痛くないの?結構雑草が生えてるんだが。
それどころか顔面からいってるんだが。
「っふうぅう・・・いいですかぁ田中野さん・・・競馬はね、浪漫なんです、浪漫」
顔面を地面にくっ付けたまま、大木くんが低く唸る。
「浪漫」
「一番人気だとか、二番人気とかそういうんじゃないんですよ・・・好きな馬を応援して、その上お金がもらえたり、もらえなかったり、もらえなかったり、もらえなかったりする浪漫なんですよ・・・」
「もらえてなさすぎだろ大丈夫か」
どうやら大木くん、絶望的にギャンブルに向いていないようだ。
以前言ってた単勝11倍とかいうのはマジでまぐれ当たりだったらしい。
「いいんですよ僕は・・・僕は馬券じゃなくて見果てぬ夢と浪漫を買ってたんですから、競馬場で」
・・・競輪で借金まみれになった大学の同級生みたいなこと言い出したな、コイツ。
あ!同時に思い出したけど三浦の野郎貸した2万結局返さずに卒業しやがった!!
生きて会えたら取り立ててやる!!
今はそんなに現金の価値ないけど!!
「ふぅ」
「あっ復活した」
懐かしい友人・・・友人かあいつ?の顔を思い出していると、大木くんが復帰した。
「さて・・・ヴィクトリアマイルは終わったんで次は・・・日本ダービーにしときましょっか!!」
「待て待て、ちょい休憩だ休憩」
慌てて興奮する大木くんを制止。
「馬の方はピンピンしてるからいいけど『騎手』は休ませないとまずいだろ・・・見ろよあの惨状」
「あっ・・・僕としたことが」
俺の指差す先を見て、大木くんが我に返った。
「おーい!!戻ってこーい、おかあちゃん!!上の『騎手』が死にそうだ!!」
手をメガホンの形にして呼びかけると、遠くの方で足を緩めていたヴィルヴァルゲがこちらを振り返った。
彼女は自分の背中・・・『騎手』の方へ軽く首を向けると、納得したようにゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「ぶるる!」「わふわふ!」「バウ!」
おっと、ゾンちゃんが迎えに行った。
サクラとなーちゃんも続く。
3匹は連れ立ってヴィルヴァルゲの周りをグルグル回り、なんかこう・・・某宇宙世紀ロボの付属兵装みたいな感じになって帰ってきた。
「・・・ブルル」
「ようお帰り、どうだ?久しぶりに背中に人を乗っけた感想は」
汗をかいているが、特にそれほど息を乱していないヴィルヴァルゲに声をかける。
そりゃあな、この休耕田はでっかいけど競馬場に比べたら狭すぎるもんな。
本人・・・本馬的にはちょいと物足りないかな?
まあ、『騎手的』には地獄だろうが。
「そして新進気鋭の荒川朝霞ジョッキー、生きてるか?」
「・・・うぇ、うぇえ~~~~・・・い・・・う、うぷ!」
「ウワーッ!?やめろ吐くな吐くんじゃないとりあえず降りろ降りろ!ダービー馬の背中でゲロ吐くんじゃない!!」
「ひ、ひどい・・・し・・・」
ヴィルヴァルゲに装着された鞍の上。
そこに座り・・・じゃなくてもう半分しがみ付いて手綱をなんとか握りしめている朝霞。
とりあえず、オレは可及的速やかに朝霞を救出することにした。
なお、乗られている方のヴィルヴァルゲはやっぱり『この子大丈夫かしら・・・?』みたいな感じだった。
優しい。
・・☆・・
朝霞は、この前振り落とされてからすっかり乗馬に目覚めてしまったらしい。
竜庭牧場から回収してきた各種用具の使い方、そして馬の乗り方。
それらを大木くんや七塚原先輩に聞いたり、大木くんが保存していた馬のドキュメンタリー番組なんかを見て勉強し・・・なんと、1週間もしないうちになんとか乗れる程度にはなった。
まあ、ちょっとヴィルヴァルゲが本気を出しかけたくらいのスピードで死にそうになってるけども。
それでも、ズブの未経験からの出発だから恐ろしい才能ではある。
「・・・ヒヒィン」「・・・ひん」
「あ~・・・?だいじょぶだいじょぶ!もうジューデンしてっから元気だし!ヴィルママもゾンちゃんも休んで休んで~!」
で、現在。
あの後、なんとか鞍上でのマーライオン朝霞への進化をキャンセルさせた俺は・・・馬2頭の引率を大木くんに任せて一足先に朝霞を背負って倉庫へ帰還。
水を飲ませて冷たい床に寝かせ・・・ようとしたら膝を枕にされたので諦めて今に至る。
大木くんの先導で帰ってきたヴィルヴァルゲ母娘は、馬房の柵の上からこっちに顔を突き出している。
「ホラ水飲め水、今日も暑くなりそうだからな」
「ブルル」
俺の声に2頭は水を飲みにバケツの方へ行った。
ちなみに以前の小さいモノではなく、近所の農家さんの廃墟から持ってきたデッカイのに取り替えてある。
これで何度も水汲みに行かなくてよくなった。
「しかし朝霞、なんだかんだで上達したよな。今日は最後まで鞍から落ちなかったし」
「トーゼン!・・・って言いたいけど、ヴィルママが気にしてあんま速度出してなかったかんね~・・・ミジュクモノだし~・・・」
ヴィルヴァルゲ、ほんとに賢いな。
さすが、騎手に馬群から抜け出す道を教えたとかいう伝説があるだけはある。
「でも、いきなりでダービー馬に乗れるなんてお前もすごいぞ。俺なんかミニチュアホースにも乗れる気がしないし」
そう言って頭を撫でると、朝霞が痙攣した。
「ウェヒヒ・・・それほどでもないし・・・ふひ」
コイツちょっと褒めると無限に調子に乗るな。
俺もその気があるし、やっぱり親戚だなあ。
「見ててねにいちゃん!あーし、バッチリ乗れるようになったら一緒に乗せてあげっから!」
「楽しみに待ってるよ、よろしく」
「うぇひ・・・」
もう一度頭を撫でると、また朝霞は変な鳴き声を上げた。
・・・でも、俺が乗っても大丈夫なんだろうか。
体重とか。
聞きかじりだけど騎手ってすごい体重制限あるんじゃなかったか?
七塚原先輩とか『馬が心配じぇけえわしは絶対乗らん』って言ってたな。
戦国時代の馬とは違ってサラブレッドだしな。
極限まで無駄を削ぎ落して速度に特化した存在だからなあ・・・
ま、俺はともかく子供たちは乗せてやりたいな。
ヴィルヴァルゲも子供相手ならゆっくりしか動かないと思うし。
「すひゃ・・・」
「嘘だろもう寝た。〇びた君かな?」
朝霞がダッシュで夢の中に旅立ったので、何故か倉庫にあったアウトドア用の枕と膝を素早く交換した。
ササっとやらんと無意識で巻き付いてくるからな、コイツ。
・・・たぶんこの枕、後藤倫先輩の持ち物だな。
「お、朝霞ちゃんもう寝たんすか」
大木くんがおが屑を一輪車に満載してやってきた。
馬の新しい寝床か、マメにやるなあ。
「寝つきが良くってね・・・あ、そうだ大木くん、ちょっと馬のことで聞きたいことがあるんだが」
「―――なんでも聞いてください。ヴィルヴァルゲのインブリードですか?初年度産駒ですか?シュターレバイターの歴史ですか?それとも主戦騎手の―――」
「近い早い情報量が多い!!」
急に早口になるなよビックリするから!
ホラ見なさい!キミの後ろから付いてきたサクラが俺の足の間にハマって動かなくなったじゃん!
大丈夫だからなサクラ~、闇は噴き出してないからな~・・・
「・・・いや、サラブレッドって結構足が繊細なんだよな?なんかこう・・・折れたりしたら大変だからさ、気を付けておこうかと思って。そういう事故?というか怪我した馬のことを教えて欲しいんだが・・・」
七塚原先輩がいるから大丈夫だとは思うが、俺もそういう情報くらいは知っておきたいんだ。
何が起こるかわからんからな、現状。
ここが平和だからたまーに忘れかけてるけど、今はゾンビ天国なんだし。
「・・・うぐ、ううう!うううぐぐうぐう~~~~!!!!」
「なんだお前!?」
大木くんが突如床に綺麗に正座したかと思うと、両目から大粒の涙を流し始めた。
えっ・・・怖っ。
「きゅん!?きゅぅ~ん!わふ!あぉん!!」
サクラも驚いたようで大木くんに体当たりしながら頬を舐めている。
そりゃあビックリするよな。
「ど、どうしたんだよ、おい」
慌てて肩に手を置く。
「・・・数々の、数々の予後不良、で、ターフを去った悲劇の名馬たちを、おも、思い出し、思い出してつい・・・ううう・・・なんで、なんで死んじゃったんだよォ!メテオプリンツぅ!!シチセーオリヒメぇ!!ゴゼンシズカぁああ!!!」
大木くんは五体投地の体勢で泣きわめき始めた。
サクラはすごい勢いで逃げた。
なんかこう、トラウマスイッチを押してしまったらしい。
・・・っていうかそんなに馬死んでるのか、事故で。
「・・・あの、前に言ってたゾンちゃんのオヤジさんも怪我で早死にしたのか?」
「うううう!シュターレバイターは種付け後に大動脈破裂で急死ですう!!平たく言えば腹上死みたいなもんですううううう!!!!」
「あっ・・・うん、そっか。悲しいなあ」
まあ、可哀そうではあるよな。
有名な馬ってむっちゃ種付けするって聞いたことあるし。
そりゃあ疲れもするだろう、特に牡馬は。
牝馬はいくら有名でも1年に1回しか産めないんだし。
「・・・落ち着いたので説明に移ります、そもそも予後不良って言うのは―――」
「うわあ!?急に落ち着くな!?」
目が真っ赤になった大木くんによって、馬の怪我についての講義が始まった。
その危険性と、かつてレース中に亡くなった馬たちの濃いエピソードも合わせてのものだった。
あまりの悲劇の連続、周辺の人々の嘆き、騎手の後悔。
俺も思わず目頭を熱くさせてしまった。
特に・・・足が折れているにも関わらず、落馬した騎手を心配して最後まで寄り添ったという悲劇の名馬の話は心に来るものがあった。
・・・気をつけよう、とても。
なお、途中から起きてきた朝霞と暇らしく参加した璃子ちゃんはそれを聞いてギャン泣きした。
そして馬2頭に縋り付いてしばらく離れなかった。
ゾンちゃんは不思議そうな顔をしつつ、璃子ちゃんに抱き着かれながら俺のシャツをしゃぶり続けていた。
なんでさ。
・・☆・・
「むっちゃ降るじゃん・・・梅雨は終わっただろ、もう」
大木式ギャン泣き講義が終わり、夕飯を食べた後。
にわかに空が曇り始めたかと思うと、あっという間に土砂降りの雨になった。
「このところ異常気象が続きますね。例の予定もなかなか進んでいないようです」
一緒に皿を洗っていた神崎さんが、窓を見ながら呟いた。
たしかに、変な天気が多いよな。
「まあ、今は赤ん坊もいないからゾンビが攻めてくることもないですし」
「田中野さん、不確定情報を鵜呑みにしてはいけませんよ。例のゾンビが本当にソレに誘引されたかはまだわかりませんので」
「あっはい、そうですね・・・」
いかんいかん。
裏付けが取れたわけでもないのに、信用しすぎたら足元をすくわれるな。
「やっぱり神崎さんは頼りになるなあ、うん」
「ほ、褒めても何も出ましぇんよ!あああっ!?」
神崎さんは盛大に手を滑らせ、拭いていた大皿が地面に落下・・・する前に指で挟んで確保していた。
おお、いい反射神経だ。
「・・・ま、まったくもう・・・とにかく、油断は禁物ですから」
「はい、肝に銘じますよ」
気を取り直し、残りの皿に取り掛かろう。
まずは片付けだ。
「・・・甘酸っぱいなあ、甘酸っぱくてジャムになりそうな空気を感じるなあ」
暗がりからニヤニヤしているアニーさんがやってきた。
その鼻鈍ってますよ。
「ハイ皿です、そこの棚によろしくお願いします」
「フムン、雑に扱われるのも癖になってきたな・・・ゾクゾクする」
なんか、空恐ろしいことを言いながら棚に皿を戻すアニーさんである。
でも動作がテキパキしているのは流石だと思う。
「そうだイチロー、明日出かけないか。デートだ」
「へえ、何を回収しに行くんです?」
「近所に猟師向けの銃器店があるとオーキから聞いたのでな、材料を回収しようと思って・・・少しは動揺しろ、なにか腹が立つなキスしてやろうか」
「やめて!大皿が割れちゃうからやめて!!」
何が気に入らなかったのか、アニーさんが凄い力で抱き着いてきた。
動揺したら喜ぶし、動揺しなかったらこうしてちょっかいかけてくるし・・・無敵だろこの人。
「ああ、もちろんハナダとコホリにも確認を取ったぞ。我々が使う分には問題ないとのことだ」
「・・・ソウデスカ」
急に無表情になった神崎さんがコワイ。
しかし、根回しも完璧だなアニーさん。
「ウチはデキる女性がいっぱいいて凄いなあ・・・俺も、もっと頑張らんと」
「駄目です!無理はなさらないでください!!現状で十分ですので!!」
「そうであります!そうであります!!」
急に出てきた式部さんにまで怒られた。
『俺がもっと頑張る=死にかける』みたいな、なんとも嫌な方程式が出来上がりつつあるな!?
違いますから!死にたくないですから!!
「わうう!わう!」
「サクラお前まで!?俺の信頼度isどこ!?」
犬にすら怒られる俺は一体何なのだろう・・・
皿を棚に戻し、抱っこしたサクラに喉を甘噛みされながらそんなことを考えるのだった。
・・・だから!おとうちゃんの急所を噛むんじゃない!
亡き者にしたいのか娘よ!?
・・☆・・
「天気は上々、チャンスが転がっていそうだ」
「なんかカッコいい事言ってる・・・」
「おや知らないのか?私はいつ何時でも格好いい女なのだよ」
「おみそれしました・・・」
昨日の雨でどうなるかと思ったが、今日の天気は快晴。
夏の陽射しが眩しい上に、昨日の雨のせいで若干蒸し暑い。
湿気は刃物の天敵・・・錆びないように刀の手入れをしっかりしておかないとな。
「『アタシがいないとこで面白い事するんじゃないわよ』」
「『何言ってんのよ、ウタヤに遠征した時は一緒に寝たんでしょ?今回は譲ってもらうから精々養生してなさいな!』」
「『・・・〇〇〇〇!!』」
「『はしたないわよキャシー・・・ホラ、ジェシカがむっちゃ睨んでるからやめなさい!リコの教育に悪いってさ!』」
「『ヒエッ・・・ジョーク!ジョーク!』」
豪雨によって、なんかちょっと綺麗になった愛車に乗り込む。
向こうの方ではエマさんとキャシディさんがキャッキャしてる。
仲いいなあ・・・あぁ!?
斑鳩さんがキャシディさんのケツを平手でぶっ叩いた!?
一体何があったんだ・・・?
「では、行きは私が助手席、帰りはエマが助手席だな」
「いや、俺がどっちも荷台でいいのでは?」
「idiot!それでは楽しくないだろう」
俺なんで怒られるの・・・?
ま、まあいいか。
というわけで、本日の遠征先はアニーさんが昨日言っていた銃器店だ。
硲谷と龍宮市の境目、そこにあるらしい。
我が県は害獣駆除に力を入れていたので・・・というか田舎だったので・・・銃器店が結構あるのだ。
熊は出ないけど、猪と・・・観光客が餌付けしまくったので鹿がむっちゃ多い。
この状況では肉がいっぱいあってありがたいけども。
ゾンビの謎虫が人間にだけ感染?するタイプで本当に良かったよ・・・
なので、我々が回収しようというわけ。
龍宮の古保利さん曰く、『下手な武装勢力やチンピラに回収されるより百万倍マシ』とのこと。
それはわかる。
俺のように近接格闘ならある程度の修練や心構えが必要だが、銃はそれこそ心のネジさえ外れていれば指一本で撃てるわけだし。
至近距離で頭をぶん殴るよりかはよほど楽だ。
俺?・・・今更である。
「『エマー!置いていくぞ!』」
「『あーん待って待って!じゃーねキャシー!行ってきまーす!!』」
「『覚えてなさいよこの・・・っひ!?ジェシカストップ!まだ何も言ってないからストップ!!』」
「『はしたない言葉は極力避けましょうね?特に・・・子供がいる場ではノーよ?』」
「『アイアイ、マム!』」
わちゃわちゃしている間にカーナビをセット。
・・・マジでこの住所なの?住宅街しかないけどここ。
小規模な商店街すらないぞ。
地域に密着した銃器店・・・なんかやだな。
だけど、目立たない場所なら見つかっていない可能性もある・・・あるよな?
「『お待たせ!行きましょ!』」
エマさんが荷台に乗り込・・・うわぁ!?
「なんすかそれ!?持っていくんですか!?」
エマさんはでっかい機関銃を持ち込んでいた。
それは・・・ベトナム帰還兵がヘリから取り外して基地でぶっ放してたヤツ!
戦争にでも行くんですか!?
回収する銃弾より消費する銃弾の方が多そう・・・
「備えあればウレシイな、というやつだよイチロー。例の新型用だ、ノーマルはライフルか拳銃で十分だからな」
「微妙に違うけど大意では合ってる・・・」
「『あっても困るモノじゃないしね~!』」
エマさんはニコニコしながら荷台へ乗り込んだ。
木の棒でも持ってるくらいの軽やかさだ。
さすが装甲兵(仮称)・・・
シートベルトを締めていると、神崎さんと式部さんがやってきた。
なにやら表情が暗い。
「・・・皆さん、くれぐれもお気をつけて」
「・・・油断大敵、でありますよ」
心配されてんなあ。
大丈夫ですって、そうそう大怪我なんてしないですから・・・と言いたいが、なんか怒られそうなので言わない。
「はい、夕飯くらいには帰りますよ」
「お待ちしているであります!今日の夕飯は鹿肉を親の仇のように使用したカレーであります!」
・・・絶対に帰って来よう。
なんだそのご馳走。
「それに、七塚原さんの作られたプチトマトもサラダにしますよ」
・・・死んでも帰って来よう。
そっか、もう結構赤いと思ってたが遂に食べごろか!
素晴らしい夕飯だ素晴らしい。
「『アニーさん、くれぐれもお気をつけて』」
「『ふふ、カワイイサムライの後ろは任せておきたまえ・・・2人とも、そう睨まないでくれ。ジャンケン17番勝負の勝者の権利だよ、これは』」
「『なぜ私はあそこでチョキを出したでありますか・・・』」
会話が早口で聞き取れない!
まあ、ゆっくり喋られてもネイティブ発音はとんとわからんのだが。
「じゃあ行ってきますね・・・」
2人に声をかけていると、璃子ちゃんがやってきた。
今日も元気そうだが、なんか顔が赤いな?
風邪の引きはじめだろうか?
「ね、ね、おじさん!お土産よろしくー!」
「・・・銃器店に行くんだが?」
「カワイイ散弾銃・・・とか?」
なんだそれ。
ピンク色とかなのかしら。
それともマズルフラッシュが虹色になるとか?
「あー・・・探しとく。まあ、なくても帰りにコンビニかスーパーに寄るから期待してて」
「わーい!ポテチ!ポテチ食べたいな!」
「しけってるんじゃないのさすがに・・・」
カワイイ銃器は絶対にないと思うけども。
っていうかポテチに関しては、いずれできるであろうジャガイモを揚げた方が美味いし体にいいんじゃないのか。
さて、晴れとはいえ昨日のこともある。
いつ天気が崩れるともわからん。
とっとと出発するか。
エンジンをかけると、軽トラにあるまじき重々しい音が響く。
うし、今日も絶好調だ。
「それでは・・・出発!」
「北北西に進路を取れ、だな」
「山に激突するんですが?」
皆に見送られながら、俺はアクセルを踏み込んだ。




