表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/387

45話 残る1人の先輩話のこと

残る1人の先輩のこと




「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


目前のネオゾンビが吠えつつ、俺に飛び込んでくる。

ゴリラよろしく手を地面に突き、足の力も含めて加速に全振りって感じだ。


「っしぃい・・・!!」


息を吐き、こちらも飛び込む。

一気に距離は縮まり、瞬く間に一足一刀の間合いに入った。


「ゴォアアアアアアアアアアアッ!!」


元の性別すらわからないほどに鎧まみれだが、忌々しいほど動きが速い。

重そうな図体抱えてる癖にな。


だが。

速度が速いということは・・・!

カウンターの威力はさらに倍率ドンってこった!!


「っふ!」


『魂喰』を脇に構え、体を折る。

低く、低く!


ネオゾンビが両手を前に突き出して跳ぶ。

俺は、その腕を潜る。


「っしゃぁああああっ!!」


吠えつつ、突っ込む勢いを右回りの回転に変換。

低い姿勢のまま刀身を寝かせ、独楽よろしく回る。


空気を斬り裂いた『魂喰』の刃が、豪快な風鳴りを響かせてネオゾンビの右足首に食い込んだ。

食い込む感触を感じつつ、回る。

遠心力と回転運動によって威力を増大させた攻撃は、ネオゾンビの速度と体重をも攻撃力に変換した。


「ガッギャアアアア!?」


ネオゾンビの悲鳴と、足首の装甲板から噴き出す真っ黒な体液。

それを視界にとらえつつ、前方へ抜ける。

両断はできないか!出鱈目な強度しくさってからに!



南雲流剣術、『草薙』



「ギャアウ!?!?」


後方から悲鳴と倒れ込む音。

傷付いた足首で着地に失敗したんだろう。


振り返りつつ刀身の状態を確認。

・・・流石は戦国時代を生き抜いた妖刀。

刃こぼれ一つありゃしない。


「っ!」


前のめりに倒れ込んだネオゾンビに向けて走る。

この隙、逃す手はない!


「ゴウラアアアアアアアアアアアアアアッ!!ッガア!?アァガ!?」


視界の隅で、もう1体のネオゾンビを確認。

丁度腕の振りを最小限の体捌きで避けた後藤倫先輩の両拳が、その顔面に続けざまにめり込むのが見えた。

一撃目で顔面の装甲板が飛び散り、二撃目が剥き出しの肉に突き刺さった。

・・・うん、心配しなくても大丈夫だな!

俺は俺の相手だけ考えとこう!


「ガアア!!アアアアアッ!!」


体液を噴出する足首を庇いつつ、ネオゾンビが立ち上がる。

そして奴はこちらに降り向―――かない!?


「オオオオオオッ!!!!」


なんとネオゾンビはそのまま前方・・・社屋方面に向かって走り出そうとしている。

俺という敵がいるにも関わらず、にだ。

今までこんなことはなかった。

初めてだ。


やはりこいつら・・・理由はわからんが、社屋内の赤ん坊を狙っているのか!?

何がそこまでゾンビを引き付けるのかわからん。

わからん、が!


「―――させるわきゃ、ねえだろが!!」


随分と余裕だな!

『敵』が後ろにいるってのによ!!


足に力をこめ、踏み切って跳ぶ。

跳躍の頂点で、突きの体勢に。


「るうぅ・・・あっ!!」


切っ先に全体重が乗るように、渾身の力で体ごとネオゾンビにぶつかった。

狙いは、首筋!


「ッギィイイッギ!?!?!?」


装甲板と接触した切っ先が一瞬火花を散らし、するりと内部へもぐりこんだ。

間髪入れずに、突き込みの最中で手元を捻る。

突き込まれた切っ先が回転し、骨を削るような手応えがあった。


「うっおぉ!?」


痙攣するネオゾンビの背中側の装甲板が振動。

咄嗟に体を捻ると、胸元を鋭利な装甲板が隆起して掠めた。

あぶねえ!イタチならぬゾンビの最後っ屁か!


避けた勢いで『魂喰』を引き抜き、下段に構え直し残心。


「ッググググ・・・グウウウアアアアアアア!!!」


ネオゾンビが吠えながら立ち上がる。

そして、今度は俺を睨みながら振り返った。


・・・くっそ!突きが浅かった!

殺しきれてなかったか!!

ネオゾンビ、やっぱり黒なんかよりも格段にしぶとい!


「ガアアアアアアアアアアアッ!!」


右足首を歪に折り曲げ、体液を漏らしながらもネオゾンビが走り出す。

つくづくデタラメだな、ほんとに!!


だが上体はブレブレ、速度も落ちた!

このまま何度でも同じことを繰り返し―――何ィ!?


「ゴオオオオオッアアアアア!!」


ネオゾンビの右足首に装甲板が纏わりつく。

出来損ないのイガグリみたいに変形したそれで、奴はなんとサッカー選手のようにアスファルトを蹴りつけた。


「っちぃ!!」


その蹴りによって装甲板は破損。

イガグリの棘とアスファルトの破片は、こちらへ向けて殺到する。

そんな戦い方まで覚えやがったか!!


左側に踏み切りつつ、フリーにした右手で脇差を抜刀。

棘を躱しながら、それを斜め前に放り投げる。


「舐める、なァ!!」


空中で回転する脇差の柄頭。

それを、『魂喰』の鍔で弾き、飛ばす。

これは『春雷』ではなく―――!



南雲流剣術、奥伝ノ一『飛燕・落葉(らくよう)』!!



『春雷』と違い、鍔で斜め方向の力を与えられた脇差は揺れながら不規則な軌道で飛ぶ。

不自然なブレで軌道を読みにくくし、相手の動揺を誘う『飛燕』だ。


「ギィイッガ!?!?!」


刺さる軌道ではなく、斬る軌道で飛んだ脇差がネオゾンビの顔面を斬りつけた。

それによって装甲が残らず破壊されることはないが、視界を塞いで片目を潰した。


―――この機を、逃すか!


「ふぅう・・・!!」


息を整えながら脇差の後を追うように走り込む。

『魂喰』を、大上段に振りかぶって。

コイツなら、できる!

このタイミングなら!!


「っしぃいい!!」


どん、と踏み込んで勢いを乗せる。

全身全霊を込めて加速した一刀が、真っ向唐竹割りの軌道でネオゾンビの額に食い込んだ。


「があああああああああああああああああああっ!!!!」


肩を入れ、筋肉が軋むほど力を込める。

僅かに斬り込んだ切っ先が、竹を裂くように肉へと侵入。

三寸ほど食い込んだ刀身は、鼻を両断しながら火花を纏って顎先から抜けた。



南雲流剣術、奥伝ノ五『鋼断』



「ッカァ、ハ、ァア・・・」


息を漏らし、ネオゾンビの体が弛緩した。

顔面の切断面から体液が一気に噴き出す。

その返り血を避けながら、後方へ跳び退いて残心。


「くっ・・・!」


・・・畜生、腕がまだ痺れるか。

『魂喰』の性能に俺の腕が追いついてないってことだな。

南雲流の劣等生だから、まだまだ精進が足りんか。


俺の目の前で、ネオゾンビが顔から地面へ突っ伏す。

それを確認し、刀身を手の内で旋回。

血振りをしつつ突きの構えに移行し、逆手に握りを変えてすかさず倒れたネオゾンビの延髄を突き刺す。


もはや声すら上げず、軽い痙攣を起こしてネオゾンビは永遠に静かになった。


「ふう・・・っはあ・・・」


止めていた息を吐く。

一気に全身から汗が噴き出すが、相変わらずの豪雨が一気に体温を下げる。

・・・なんとか、なったか。


ネオゾンビはネオゾンビだったが、あの棘弾幕以外はさほど脅威じゃなかった。

天蓋ゾンビほどの防御力も知能もなかったし・・・ネオゾンビでも強弱はあるんだろうな。

咆哮っていうか例の変な攻撃も、ゲロも吐いてこなかったし。


もっとも・・・以前の刀装備ならそれでも大変だっただろうが、そこは謎の妖刀『魂喰』

異次元の切れ味のお陰だ。

後でキッチリ手入れしておこう。


「未熟者めが・・・めが・・・」


セルフエコーをかけた後藤倫パイセンの声が響く。

首を回すと・・・首から上がグズグズになったネオゾンビの死体の上に立っている。

拳だけでアレかよ、バケモンめ。


「動揺しすぎ、攻め手が増えたからって慌てない・・・こら乳首しまえ、セクハラ」


「・・・ちょっとは心配してくださいよ、先輩」


「死んだら心配してやる」


「そんなご無体な」


装甲板が掠ったシャツは盛大に破れ、確かに乳首どころか腹筋まで見えてしまっている。

紙一重で避けたつもりだったが、シャツ一枚読み損ねたな。

俺もまだまだ、だな。


「・・・新手はぁ!?」


とりあえず社屋に声をかける。


「後はノーマルばかりだ!安心・・・おやおやおや!少し見ない間にセクシーになったなイチロー!」


『素敵!雨に濡れてたまんないわよ!キャシー!カメラ用意しといて!!』


『いくらなんでもネジ外れすぎじゃない?雨のせいで発情したっての?・・・まあ、用意はするけど』


アニーさんが訳の分からんことを言い、それに続くエマさんがなんか興奮している。

キャシディさんはそんな2人の後ろから、貴重なジト目を披露している。

色々言いたいことはあるが、まあとりあえず危機は去った・・・ようだ?


「道の方からも新手はナシであります!残りのゾンビは大木さんの電撃で処理可能でありま―――あわわわわっ!?」


屋上の式部さんが情報を補足してくれたが、何故か慌てて引っ込んでしまった。

・・・なにこの、なに?

まあいいか。


「とりあえずお風呂入る。寒い寒い・・・もちろん一番風呂は私、田中は震えて待っているがいい」


「はぁい」


後藤倫先輩はさっさと社屋へ歩き出す。

まさか一緒に入るわけにもいかんしな、レディファーストだ。


おっと、その前に・・・ネオゾンビを駐車場の端に寄せておくか。

このままじゃ社屋からも死体?が丸見えだし。

子供たちの教育に悪すぎる。

晴れたら外に捨てに行こう。


「残敵処理クラーック!!消化試合ライトニィング!!!南無、サンダー!!!!」


ロボットものめいた謎の技名を叫ぶ大木くんの声を聞きながら、俺は『魂喰』を鞘に戻した。

・・・南無サンダーってなんかゴロがいいな。



・・☆・・



「った、たなかのしゃん・・・ど、どうぞ」


「ああどうもどうも」


3体のネオゾンビを適当に移動させ・・・重すぎたので七塚原先輩に手伝ってもらった・・・後、倉庫へ戻った。

なんか震えてる神崎さんが替えのシャツとタオルを持ってきてくれたので、有難く受け取る。

顔が真っ赤ですよ、風邪ですか?


・・・本音を言えばパンツとズボンも着替えたいが、さすがに女性の前で丸裸になるわけにもいかんしな。

もはやボロ布と化したシャツを脱ぎ捨てて上半身をタオルで拭く。


「うう、さむさむ」


戦闘が終わってアドレナリンが切れたのか、急に寒さが襲い掛かってきた。

都合がいいことに、お産の時用のお湯を沸かした竈がまだ残っているので適当に火を熾して温まるとするか。


「あ、た、田中野さん、私にお任せください」


神崎さんが率先して動いてくれるようだ。

ポケットから着火剤を取り出しつつ、炭を取りに行ってくれる。

随分顔が赤いが、まさか俺が半裸だからか?

これはいかん、訴えられる前にシャツを着よう。


「そ、そういえば田中野さん・・・今回も素晴らしい手際でした!」


「いやあ・・・後藤倫先輩に比べたらまだまだですよ、油断もしましたし」


言いつつシャツを着る。

ふう、ひと心地ついた。


「ですが、以前に比べて『鋼断』使用後の反動が少ないように見受けられます」


・・・よく見てんなあこの人。


「んまあ、さすがに慣れもありますし・・・今回のネオゾンビがそれほど『ネオ』って感じじゃなかったのも原因の1つでしょうかね」


「なにか、そう思い至った理由がおありですか?」


言いつつ、薪に火を点ける神崎さん。


「うーん、以前の奴・・・特に天蓋ゾンビほど頭が良くなかったし・・・それに、あのサッカーキックには驚きましたけどゲロも超音波もナシでしたからね」


同じネオゾンビでも段階というか、レベルがあるんだろうか。


「ひょっとしたら『なりたて』に近い存在だったのかもしれません。たとえて言えば・・・そう、オタマジャクシからカエルになった尻尾付きのヤツと、尻尾がなくなった完全体のヤツ・・・みたいな?」


我ながら説明がドヘタクソではあるが、そんな感じとしか言いようがない。

これだって確信があるわけでもないしな。


神崎さんがこちらに振り向き、腕を組んで考え込んだ。


「『脳』の問題でしょうか・・・?やはり、黒以上のゾンビは積極的に駆除する必要がありますね」


「ですね。謎虫に『合流』されたらどんどん手が付けられなくなりそうだ」


さすがに大規模駆除は警察とか自衛隊にお任せするしかない。

電撃装備とかで効率的に、大人数でやってもらわにゃ。


今回は何とかなったが、天蓋ゾンビクラスに5体くらい同時に襲われたら死を覚悟するぞ。

・・・あれは1体でもキツかった。


そもそも、剣術自体が装甲ゾンビ相手に不向きなんだよなあ。

破壊力なら七塚原先輩の棒術がベストだし、リーチと対応力なら・・・


「・・・絶対に無事でいるハズの六帖先輩とかかなあ」


「以前お話されていた南雲流の方ですね!そんなに凄い使い手でいらっしゃるんですね!!」


「え、ええまあ」


神崎さんの目がキラキラしている!

ブレない!いつも通り!!


「六帖先輩はすごいですよ、確かに。槍術の免許皆伝ですし・・・あの人の突きは特にヤバいですね」


「そんなに!そんなにですかっ!!」


近い近い近い!

もうくっついてる!胸が!!

そんなに近付かなくても聞こえるでしょ!?!?


さすがにアレなので、肩を掴んで少し離す。

嫁入り前の娘さんが・・・まったくもう。


「まずね、俺は今まであの人の本気の突きを避けられたことがほぼ皆無です」


「えっ」


神崎アイがまんまるになった。

かわいい。


「マジで『起こり』が見えないんですよ、突きの。そんなに速いようにも見えないのに、気が付いたら槍が喉元に『置かれて』るんです」


俺も大分修羅場をくぐったので、今ならわかる。

あの人の突きは、体幹のブレが極度に少ないんだ。

上下左右のブレが。


だから、目が、脳が錯覚を起こす。

歩法の『霞』みたいにな。


「しかも威力だってすごい。六帖先輩、木槍で畳を貫通させるんですよ・・・しかも3枚」


「そ、それは・・・」


絶句する神崎さん。


「ちなみに師匠は5枚です」


「にゃ、にゃんと・・・」


猫化する神崎さん。

あの爺さんはもはや異次元の存在なので驚くほどでもない。


「・・・まあとにかく、六帖先輩はここよりも人口密集地で働いてますけど無事だと思いますよ。いつか会えたらいいなあ・・・いや、絶対会えるな」


ここまで話して、あることを思い出した。


「ええと、その方はこちらにご両親がいらっしゃるとか、そういうことですか?」


まあ、普通はそう思うよな。

だが違う。


「・・・神崎さん、『龍頭山遺跡』ってご存じですか?」


「え?たしか・・・国の指定する遺跡だったような。リューグーパークのさらに奥にあるハズですよね」


おお、ここの出身でもないのに詳しい。

さすがエリート自衛官。


「そうですそうです、歴史の教科書にも載ってる有名な遺跡です。遠くから見るだけなら一般公開されてますよね」


小学校の遠足で行ったなあ。

住居の痕跡とか、石造りの石棺のレプリカとか見たな。


「で、六帖先輩なんですけど・・・大学で考古学の助教授やってるんですよ」


いつだったか璃子ちゃんに話したな、これ。

彼女の志望校でもある、国内でも有数の大学で教鞭を執っている。

ちなみに俺はそこを落ちた。

考古学じゃないけどな。


「は、はあ・・・」


神崎さんは首を傾げている。


「先輩の一番力を入れている研究対象が、『龍頭山遺跡』なんですよ」


「え?あの場所は確か・・・その、発掘が」


神崎さんが何かに気付いたようだ。


「そう、あの遺跡は国がガチガチに発掘を禁止している場所で、一流の研究者でもここ60年くらい許可が下りてない」


あそこはやんごとない方々に関係する重要なモノなので、あんな辺鄙な場所にも関わらず機械警備や警備員がわんさか配置されている。

遊びで忍び込もうとしたらものすごい勢いで通報される。

実際、中学の同級生がされてた。

・・・高遠のアホ、元気にしてっかな。


「まさか・・・その」


『マジですか』みたいな目線の神崎さん。


「―――ええ、六帖先輩は絶対このゾンビ騒動のドサクサに紛れてあの遺跡を調査しにここへ戻ってくるはずです。断言できます・・・あの人は理知的だし、優しいし、助教授だからもちろん頭もいいけど・・・」


苦笑いしつつ、続ける。



「―――ある意味南雲流で一番アホなんです、あはは」



死ぬほど世話になっている大恩人で大好きな先輩だが、こればっかりは曲げられない事実だ。


六帖先輩は、超ド級の『研究バカ』だ。

人付き合いも幅広いし、子供たちにも大人気だけど。

こと研究に関してはいきなり凄いアホになる。


「他府県ですけど、断崖絶壁の上にある遺跡を調査する時に1人で命綱ナシでアタックしたり、学会だかの時期に寝食忘れすぎて栄養失調で死にかけたり、外国のなんとかって遺跡の調査の為に現地入りして遭難したり、しかもそこの現住民族とマブダチになって酒盛りの最中に捜索隊に発見されたり・・・まあ、エピソードには事欠かないんですよ」


璃子ちゃん、ゴメン。

以前はここまで詳しく言ってなかったけども・・・


六帖先輩もネジ外れ側の存在だ。


俺とは別の、人間として大事なネジが外れてる。

それは間違いない。


「・・・ベクトルがそれぞれ違うだけで、南雲流ってやっぱり変な集団だわ・・・うん・・・」


なんとなく座り込んでしまう。

現実を直視してしまった。

師匠からしてアレだもんな、ウチ。


「あ、あの・・・!い、いいことですよ!この状況下でもブレることのない精神構造はとても貴重だと思います!」


慰めるように肩を優しくさする神崎さんに、俺は力なく笑い返すことしかできなかった。

・・・元気かなあ、六帖先輩。

・・・元気だろうなあ、うん。


パチパチと燃え始めた炭が、やけに優しく見えた。

・・☆・・



どこか



「・・・ハックション!!!!」


「うわっ!?センセ、風邪ですか!?やっぱり昨日ウチだけ毛布つこうてしもたから・・・」


「いやいや、大丈夫だよ滝野瀬(たきのせ)クン。少し鼻がムズムズしただけさ」


「せ、せやけど・・・ねえセンセ、センセのキャンピングカーなんやからやっぱりベッドつこうてくださいよ~、ウチ、気にしませんよって!」


「駄目だよそれは、私は先生だからね。生徒を優先するのは当たり前だよ」


「い、いやその・・・ウチとおんなじ布団で寝てもええですよ・・・っちゅうことなんですけども」


「なおさら駄目だね。嫁入り前の女性と同衾などと、聖職者としてあるまじき行為だ・・・もちろん嫁入り後でも駄目だが」


「・・・はぁ~い(センセのいけずぅ・・・)」


「さて、ガソリンは調達できたことだし・・・一気に距離を稼ぐよ滝野瀬クン!なんとしても今年中には龍宮に到着したいものだね!」


「はい!センセ!」


「ふふふふ・・・本命は龍宮だが、待っていろよまだ見ぬ立入禁止遺跡たちよ!これを機に全部発掘調査してやろうじゃないか!!」


「ホント、ゾンビが出るようになったのに元気ですねえ、センセ」


「あんなモノにかかずらっている暇はないのだよ!私には!!それでは出発だ!!!」


「ふふ・・・声でっか!あはは!」



・・☆・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 六帖先輩はてっきり高級ゾンビ化して登場すると思ってました。
[良い点] 珍しい神崎さんの(無自覚)セクハラ! この後女性陣はエマさんの撮った写真で盛り上がるんでしょうねぇ。 [一言] 滝野瀬クンも小柄で爆乳なのでしょうかw
[一言] 師匠は、異世界でよろしくやりまくってるのに、弟子はニブチンばっかしかw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ