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27話 コンビニとナンパ集団のこと

コンビニとナンパ集団のこと




「・・・ここどこォ?」


暗闇の中で身を起こす。

はて・・・何故俺は1階で寝ているんだろうか・・・


「・・・ああ、そうかあ」


少しずつ目が慣れてきた視界に、DVDのパッケージが見えた。

ええと・・・昨日はアニーさんたちと映画を見たんだったよな。

風呂に入って歯を磨いた後で。


あんまり悲しい奴を見ても・・・と思ったので。

例の肺がん末期エクソシストの映画を見ることにしたのだ。

アニーさんは未見、キャシディさんは見たことがあるけどまた見たいと言われたので採用となった。

俺、この映画むっちゃ見てるな・・・何度見てもいい映画だからいいけど。


「『・・・そうそう、この腕のタトゥーがカッコよく思えてね・・・危うく同じの入れるところだったわ、危ない危ない』」


的なことを、キャシディさんは苦笑しつつ言っていた。

その気持ちは大変よくわかる。

俺は油性ペンで描いて1回ポーズとって満足した。

その後なかなか消えなくって大変だったけど。


「フムン、ストーリーも役者もいいが・・・やはりロマンスが欲しい所だな」


初見のアニーさんも思う所はあったようだが、おおむね楽しく見れたようでなによりだ。

だからウチの在庫にラブロマンスは・・・そういえばオフクロが持ってたな、豪華客船が氷山にカチコミかます恋愛映画。

アレ見たはずなんだけど長すぎて全然覚えてない。

甲板で最後まで演奏するオーケストラにはグッと来たけどさ。


ともかく、そんな楽しい映画鑑賞タイムを終えて・・・そのまま3人で寝落ちしたんだったな。

別にやましいことは何一つしていないぞ。

え?外人美女2人と一緒に寝た時点でやましい?

・・・そうかな、そうかも。


「ムウ・・・おはよう、イチロー」


そこまで思い出した所で、左隣から声。

アニーさんだ。


「おはようございます、よく眠れましたか?」


一応マットレスは敷いているし、布団は例の最高級品だから大丈夫だとは思うが。


「フフン、いい抱き枕があったから存分にな・・・どうだイチロー?戻ってもこうして寝ないか?」


「子供たちに超悪影響なのでお断りします。緊張して安眠できないし」


とんでもないこと言ってくるなあ、この人はもう。

・・・よく考えたら朝霞とタッグを組んでたまにやられてるような気がするが。

それでもバッチコイ的な感じではない。

もう半分諦めているが、それでも姿勢だけはシャンとしておかないと。


「おやおや、サムライはお堅いことだ・・・待て、本当に『硬い』か私が確かめて・・・」


「ハーイオハヨウゴザイマース」


なにやら手つきに危機感を覚えたので、スッと立つ。

まったく、朝っぱらからホントに・・・


「って、キャシディさんは大丈夫・・・だな、うん」


右側を確認すると、キャシディさんは胸にタオルを抱え込んでスヤスヤと寝息を立てている。

これだけ安眠できれば、怪我の方も大丈夫そう・・・かな?

起こしちゃ可哀そうだし、そっとしておこう。

・・・ん?


「・・・何故、俺のシャツを抱いて寝ているのか」


タオルケットかと思ったらシャツだった!!

しかもそれ、今日洗濯しようとしてた昨日のやつゥ!?

朝霞2号ですかあなたは!?

回収したいが、かなりガッチリ抱きしめているから無理そうだ・・・怪我してるのに力づくってのは、さすがになあ・・・


「・・・見なかったことにしよう、アレは俺のシャツに酷似した毛布の一種だ、きっとそうだ」


「諦めは人生を楽しくするコツだ、大人になったなイチロー」


「へいへい・・・とりあえず顔洗ってきまーす」


腕時計を確認・・・周囲は真っ暗だが時刻は午前8時前。

丁度いい時間だな。

さてと、朝飯は何を食うかね・・・あ、水産センターでもらった干物を庭で炙るか。

ご飯はないけど、干物とサニーレタスで朝食としよう。

公民館まで行けばアルファ米はあるけど、まあいいや。


しっかり飯を食って、友愛で報告と情報共有をして・・・高柳運送に帰ろう。

・・・ん?帰る?

いや、うーん・・・俺の実家はここだから・・・いやでも、うーん。


「別荘だな、別荘。高柳別荘・・・」


「どうした?まだ寝たりないようなら私の胸を使うといいぞ?」


「酸欠で永眠しちゃうのでいいです」


ともかくまずは、洗顔だ。



・・☆・・



「こうして見てみると、平和な街なんだがなあ」


朝飯を済ませた俺たちは、軽トラに乗り込んで川沿いを走っている。

今日も素晴らしく晴れ渡っているが、湿気がないのでカラッとしている。


河川敷に点在しているテントの群れから出た人たちが、川辺で何やら作業しているのが見える。

ここら辺はゾンビも少ないのか、龍宮のような緊張感はないようだ。


「そういうものだ。近寄れば悲劇でも遠くから見れば喜劇に見える」


頭の後ろから、アニーさんが何やら格好いいことを言っている。


「イイテンキ~・・・♪」


助手席に座っているキャシディさんは、窓から吹き込んでくる風に目を細めている。

この前は後ろに座っていたが、さすがに怪我人を狭いスペースに入れるわけにはいかない。

アニーさんがそう言ったので、座る場所を交換している。


「この騒動、どうすりゃ終わるのかな・・・」


釣りをしているような人たちを見ながらぼやく。


「ゾンビが絶滅するまでだな。古今の戦争と違って和平が成立する見込みはない、何故なら意思疎通が不可能だ」


「ですよねえ・・・いや、ゾンビに知性が芽生えたらそれはそれで困りますけども」


ノーマル→黒→白黒→ネオと進化?するごとに、奴らは狡猾になってきている。

なってきているが、さすがに知性の獲得までにはまだまだ時間がかかるだろう。

人間が何万年もかかって獲得したものだ、そう一足飛びにされても困る。


「脳は別種の生命体だが、体は人間だ。そうなったら人権問題が大層ややこしくなるからな・・・動物のままでいてくれることを祈るよ、少なくとも私が老衰でくたばるまではな」


・・・この騒動、そんな長いスパンになるのかなあ。

いつ終わるのか見当もつかないが。


「私は、山ほどの親族に囲まれで笑顔で見送られるのが夢なんだ」


「ああ・・・いいですね、そりゃあ素敵ですよ」


考えられる限りで最上級の死にざまだな。

俺も、できるなら最期は畳の上で眠るように死にたいもんだ。


「しかし現状、私はいい親戚も親族もいない・・・ので、まずは子供を作らねばな?んん?頼むぞサムライ」


「ちょっと何言ってるかわかんないだだだだだだ」


み、耳を抓るのはやめていただきたい!

そんなの頼まれても即承諾するわけないでしょ!

どんだけ性欲モンスターだと思われてんだよ俺は!!


「『これだ、我らが未来の夫殿は奥ゆかしくて困るなあ』」


「『しれっとイチローにハーレム作らせようとしてんのね、アニー』」


「『この現状、なおかつこの先においてコイツ以上の男が見つかる可能性は天文学的に低いからな』」


「『んまあ、それはそう。アタシも命を救われてるしね~・・・襲われたら断れないどころか逆に押し倒しちゃうわ!』」


「『遺憾ながら、その可能性がゼロに近いのがなあ・・・』」


「『ね、シャイなんだから』」


俺の耳を解放したアニーさんは、キャシディさんと楽しそうに話し込んでいる。

助かった・・・朝からそういうお話は心臓に悪い。

・・・何故か時々熱の籠ったような視線が送られて来るのが怖いけども。

一体、どういうお話をしてるんでしょうかね・・・聞けば教えてくれるだろうけど、絶対にろくでもないことなので聞かない!聞かないったら聞かない!!


とりあえず、煙草でも喫うか・・・

胸ポッケから1本取り出し・・・取り出せない!?

え?嘘!?空箱だ!!

・・・うわあ、在庫が切れたか。

最近喫う本数が減ったから調達するの忘れてた・・・


高柳運送だと周囲に子供や動物がいるし、なかなか喫えないんだよな。

今は喫煙者しかいないので、気兼ねなく吸い過ぎたんだ・・・!

俺としたことが!


「・・・アニーさん、キャシディさん、ちょっと相談が・・・」


「煙草だろう?ユウアイに行く前に適当なコンビニにでも寄ればいいじゃないか」


見透かされていた!

理解が・・・理解がすごい!

それほど俺がわかりやすすぎるってことでもあるが!!


「どうしよう、アニーさん最高・・・!」


「馬鹿め、今更気付いたのか?私はいつでもどこでも最高の女だ」


「ワタシモネ!ワタシモ!!」


・・・うん、俺はこの人たちには一生頭が上がらないんだろうな。

何故だかそんな気がする。


ともかく、許しが出たのでカーナビに目を落とす。

えーと、コンビニコンビニ・・・あったあった。

友愛までの間に4軒はあるぞ。

この騒動前は多すぎるって思ってたけど・・・コンビニ社会日本、最高!!

俺のマンドレイクは不人気銘柄だし、どこかにあるだろう!

なかったら別の煙草でもいいしな!


「よし、じゃあちょっと寄り道しますね~」


無いことを認識した途端に喫煙したくなる、これ豆知識。

そんな気持ちを感じながら、俺はアクセルを踏み込んだ。



・・☆・・



「さて、3度目の正直・・・なるか!」


ゆっくり走りながら、目当てのコンビニを道から確認する。

7時から11時くらいまで開いてそうなコンビニである。

さて、今まで2軒のコンビニを通過してきた訳だが・・・今度はどうだ?


ちなみに1軒目は焼け跡に、2軒目は瓦礫の山になっていた。

・・・マジで何があったんだろうか?

暴動・・・いや抗争かな?

詩谷も世知辛くなってきたもんである。


道から見た所、特に気になる箇所はない。

道に面したガラス窓は全部バリンバリンになっているが、中は普通?のコンビニだ。

例によって棚は倒れているが・・・物資はどれほど残っているだろうか。


「俺が言い出したことなんで、行ってきますね」


駐車場の一番端にバックで駐車し、エンジンを切って運転席から降りる。

と、何故かアニーさんが続けて降りてきた。

キャシディさんはそのまま運転席へ。


「バックアップは任せろ。私も喫うから『オアイコ』というやつだ・・・『キャシディ、何かあればクラクションを鳴らせ。敵対的な人間が接近してきた場合はハンドルのボタンで対応しろ・・・中央がフラッシュバンだ』」


「『りょーかい!素敵な車よね、この子♪』」


アニーさんはオートマチック拳銃を構えてついてきてくれるようだ。

・・・ありがたや。


「じゃ、行きますね」


「アイアイ、サムライ」


腰から抜いた兜割を肩に乗せ、コンビニへ向かう。


・・・入り口を含め、ガラス部分は完全に破壊されているな。

外から中へ向かって。

ゾンビ・・・じゃないな、コレ。

鈍器かなんかでやった感じだ。

だってどこにも手形ついてないし。


「割るのは校舎の窓ガラスやコンビニじゃなくて自分ちの窓にしろよな・・・」


ある層に絶大な人気を誇る歌を思い出した。

・・・アレ、普通にチンピラの歌だよなあ。

校舎はともかく、バイク盗まれた被害者のこと考えると正直ぜんぜん共感できない。

ただの窃盗犯じゃん。


まあそれはともかく・・・まずは入り口で止まり、ポッケから取り出した小石を店内に放り込んだ。

床のガラスでバウンドした小石は、金属製の棚に当たってきいんと澄んだ大き目の音を出した。


「・・・いない、か?」


しばらく無言で耳を澄ませたが、俺達の呼吸以外に音は聞こえない。


「ふむ、無人のようだな」


アニーさんとしても気になるところはないようだ。

それでは・・・久々のスカベンジタイムだ!



「調味料以外は全滅か・・・まあいいけど」


まずは煙草ではなく一般商品を物色した。

当たり前だが生鮮食品は影も形もない、カップ麺や菓子類も全滅だ。

だが・・・見逃されたのか、倒れた棚に隠れて見えなかったのか調味料関係は無事だった。

一体型の塩コショウ、ポン酢に醤油・・・それにタバスコや蜂蜜の瓶。

・・・いや待て蜂蜜は調味料じゃないな?

とにかく、封が切られていないし賞味期限もまだ先のものだ。

ありがたくいただいておこう。


「イチロー、この瓶に入っている黒いモノはなんだ?腐っているのか?」


眉をひそめたアニーさんが持ち上げたのは・・・おお!ごはんじゃないけどご飯のお供になるアレ!!


「いや、これは海苔の佃煮ですよ。ねえちゃんの所で食べたパリパリの奴と違ってしっとりしていてご飯に超合うんですよ!」


「・・・これがァ?私には炭のペーストにしか見えんが・・・まあ、イチローがそう言うならコレも持って帰ろうか」


渋々、といった感じでアニーさんがリュックに瓶を入れる。

ふふふ、いざ食べて驚くがいい・・・あ!お茶漬けの元もある!これも回収!!

お!よく見たら床に結構落ちてるじゃん!インスタントコーヒーのスティックとか!

おおお!棚に半分潰されているが柿ピーの大袋が何個もある!!ハハハ!腹に入れば何でも一緒だ!

いや~、やっぱスカベンジは楽しいなあ!


「(まるで少年のような表情だな・・・ふふ、コレもまたよし、か)」


なにやらアニーさんがニコニコしながら手伝ってくれる。

スカベンジの楽しさは国境を超えるんだなあ・・・!


そして、本命の煙草だ。

やはり覚悟はしていたが、レジ裏の棚は全て空に・・・なってない!マンドレイクだけ!!

不人気銘柄万歳だ!!


「やったー!これで寿命が延びる!!」


「厳密に言えば縮むんだがな」


うん、それはそう。

でも喫えないと発狂して死ぬかもしれないから・・・この騒動が始まって外に出る決意をしたのが、そもそも喫えなくて死にそうだったからだし。


「イチローの煙草は好きだがね、どうやらこの国では不人気らしいな」


「ありがたいことですなあ・・・」


言いつつ、ホクホク顔でカートンを回収。

うっは・・・!6カートンもあるじゃん!!

これでしばらく困らないなあ!!


「バックヤードも確認しときましょっか。何かの在庫があるかもしれませんし」


「飲み物の棚の裏もな。封を切っていないペットボトル飲料は長持ちする」


あ、そっちもあったか・・・アドバイスをくれる人がいるって助かる。

俺一人だけなら気付かなかった。


「久しぶりに蒸留酒が飲みたいものだ・・・リュウグウに帰るまでに酒屋を物色せねばな」


そういえばアニーさんお酒飲むんだっけ。

ウチだと・・・七塚原先輩と大木くんくらいしか飲んでないな。

斑鳩さんも飲めるらしいが、その姿は見たことがない。


「ふふ、ヒモノは何の酒にでも合う素晴らしい食物だ」


アニーさんなら、アジの開きでワイン飲んでてもオシャレに見えそうだ。

なんというか、映画のワンシーンみたいに。



「タイリョウタイリョウ!というやつだな!」


バックヤード周りを物色した結果、追加の煙草、干菓子、エナジーバー、栄養ドリンク・・・そして倒れたコンテナの下から酒類を回収できた。

アニーさんはワインの瓶に口付けしてニコニコである。

結構残ってたな・・・二度と来ることもないから根こそぎ回収しておこう。

愛車の荷台スペースはまだまだ空きがあるし。


「オーキが作ってくれたコンテナは衝撃吸収機能もあるからな、タオルでも巻いておけば大丈夫そうだ」


「俺の知らない機能が愛車に搭載されてる・・・!」


大木くん、本当に毎日寝てる?

不眠不休で作業しまくってない?

・・・馬の件も含めて、彼の体調が心配である。

精神的には安定していると思うがな。


「大木くんが過労死しなきゃいいんだがな・・・」


「睡眠導入剤を使用しているようだから眠れてはいるようだが、過度の服用は身体に悪影響だからな。私からも釘を刺しておこう」


「・・・マジで!?」


大木くん睡眠薬なんか飲んでたのか!?

・・・以前の元婚約者の件、まだ尾を引いているのかな。

それにしても、アニーさんは付き合いも浅いのによく気付いたな。


「私はそういう方面に少しだけ鼻が利くんだ・・・だが、今の服用ペースならさほど問題はあるまい。馬や子供に触れる環境は、セラピーにはもってこいだ」


「・・・大丈夫ってことですか?」


「さて、心の問題は根が深いからな・・・だが、今のオーキなら問題はあるまいよ。ストレスとは無縁の顔をしているしな」


まあ、それはそうだが。

・・・俺が心配してもしかたないが、それでも気にはしておこう。

大木くんには多大な恩があるからな。


「そうですね、それは確かに―――」



クラクションが響いた。



俺達は、それを聞くなりバックヤードからすぐさま飛び出した。


「私が前に出るからな!愛しの酒はキミに任せた!!」


「うおわっ!?」


アニーさんが俺の前に出つつ、酒やら何やらが詰まったザックを放り投げてきた。

割れる!割れる!!


慌ててリュックを保持する俺を尻目に、アニーさんは身を低くして入り口から走り出た。


「動くな男ども!!体重を軽くされたいか!!!」


そのまま、何度か発砲している。

ゾンビじゃなくて人間か!俺も急がないと・・・!!


俺が持っていた分と合わせて、リュックを2つ無理やり背負う。

それをしっかり固定してから、兜割を持って外へ出る。


こちらから見て、軽トラの向こう側・・・そこに、何人かの人影がある。

アニーさんはそいつらの足元に何発か撃ち込んだようで、その集団は足を止めている。


「ま、まま!待って!待ってよオネーサン!!」


「下がれ!車から!!」


集団の中から比較的若い声が聞こえたが、アニーさんは待つつもりがないようだ。


「武器を持ったまま!女の乗った車に近付くんじゃない!!死にたいか!!」


さらに駄目押しとばかりにアニーさんは発砲。

集団の足元から跳弾の煙が上がり、そいつらはさらに体を固くした。


・・・見た所10代後半から20代前半って感じの連中だ。

数は・・・8人か。

こんな状況でも髪を染めるというポリシーを持っているようで、動物園のオウムよろしく色鮮やかな髪をしている。


手にはそれぞれ鈍器を持っており、銃は・・・持っていないがクロスボウ持ちが2人いるな。

しっかり矢が装填されている、油断はできない。


「キャ・・・アーユーオーケー?」


名前を呼ぶのは不味い。

アニーさんが牽制してくれている間に、軽トラに到着。

運転席のキャシディさんは片手に銃を持ったまま、目線をこちらへ向けて微笑んだ。


「ダイジョブ!」


何もされてないようだな、よかった。


「ナンパ、キラーイ!」


ナンパ?

ああ、そういうことか。

美人さんだもんなあ・・・

あいつら、来るなって言っても近付いてきたに違いない。


軽トラの車体に隠れつつ、リュックを下ろして荷台へ入れる。

あ、これがアニーさんの言ってたコンテナか・・・一応入れておこう。

これで身軽になったから、いつでも戦えるぞ。


「う、運転席のオネーサンが怪我してたから、心配してやっただけなんだよォ!!」


集団の中からまた声がする。


「はん、いらぬオセッカイだ!とっとと家に帰ってコイてろ小僧!」


アニーさんの口が悪い、超悪い。

一体連中の何が気に入らないんだろうか。

まあ、俺も好きな部類の連中じゃないが。


「荷物、積み込みました!」


俺が声を上げると、アニーさんは構えを崩さずに答える。


「よろしい!荷台に乗れ!私は助手席に!・・・さあ!我々は帰路に就く!そちらも帰れ!!」


荷台にのふちに手をかけ、飛び乗る。


俺の姿を確認した連中が目を丸くしている。

男がいるとは思ってなかったのか?


「『エンジン始動!駐車場を出たらすぐにフラッシュバン!追跡の目を潰す!』」


「『了解ッ!!』」


キャシディさんがエンジンをかける。

重々しい駆動音が駐車場に響いた。


「ちょっ!待てよ!そこ!そこのコンビニはウチのシマなんだ!勝手に持ってくんじゃねえ!!!」


たった今思いついたようなことを言ってんな、連中はなんとか俺たちを行かせたくないようだ。

正確には女性陣をだろうが。


「とま、止まれェ!!」


後列にいたクロスボウ持ちが、アニーさんにソレを向け。

引き金を―――


「誰に照準してんだ!てめえ!!!」


引ききる瞬間に、俺の放った棒手裏剣が肩口に突き刺さった。

発射された矢は、アニーさんを逸れて駐車場の縁石に着弾。

きんと音を立ててはね返った。


「っぎぃい!?ああ!!あああああっ!!!いっで!!いでええ!!!」


『返し』付きの手裏剣が突き刺さり、悶絶する男。

その横のクロスボウ持ちが、すぐさま俺の方へ照準を向ける。

へえ、思い切りがいいな。

『慣れて』やがる。


「こっの!野郎ォ!!!」


引き金が引かれる。


「っしぃい!!!」


振り下ろした兜割が、飛来した矢を叩き落とす。


っは、狙いが甘い甘い。

ご丁寧に胴体の真ん中狙いやがって、楽勝だ。


「・・・は?」


クロスボウの男が、信じられないモノを見るような目をしている。

銃弾ならともかく、不意打ち以外の矢に当たるほど鈍っちゃいないんだよこっちは。


「撃ったな、小僧ォ!!」


アニーさんが吠えると同時に、先程とは違う銃声。

今の一瞬で持ち替えたらしい、いつものリボルバーが吠えた。


「っぱァ!?」


俺に矢を放った男は、鼻の下に銃弾を喰らって吹き飛んだ。

顎から下がズタズタになったな・・・即死だ。

ま、さっきの矢が万が一当たってたら致命傷だからな、仕方ない。

攻撃には反撃を。

目には目をってやつだ。


「あ、ひゃ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


「マッジかよッ!!マジかよぉ!!!」


「やや、やめて!!やめでえええええええっ!!」


残りの連中は、すぐさま踵を返して走り出した。

撃たれた男と、手裏剣を喰らった男を放置して。

・・・逃げ足が速いな、さっきの暴力への思い切りといい・・・逃がしちゃまずい連中かな。

ああいう手合いはここで潰すに限る。


「キャシディさん、奴らを追いかけて―――」


「耳を塞げ、イチロー!!」


「はえ?」


いつの間にか荷台に飛び乗っていたアニーさんは、さっき俺がリュックを入れたのとは別のコンテナを開き―――水産センターで大活躍した例の対物ライフル?を取り出した。


「『この世に、貴様らの居場所などない―――死ね!!!』」


「おっわ!?!?」


荷台のふちにそいつをマウントするなり、続けざまに引き金を引くアニーさん。

コッキングすると、冗談みたいに馬鹿デッカイ空薬莢が出てくる。

耳が!!耳が死ぬ!!!


慌てて耳を塞いで連中の方を見―――うわぁ。


とんでもない近距離で銃撃を喰らった男の、首から上が千切れて吹き飛んだ。

胴体に喰らった男は、内臓を大穴からぶちまけて倒れる。

肩口に喰らった奴は、腕が根元から吹き飛んだ。


・・・なんちゅう、威力だよ。

じゃあ、コイツを喰らっても形が残ってた例のゾンビはやっぱ、とんでもなく硬かったんだな。


「・・・ふぅ、う」


アニーさんが放った銃弾はキッカリ人数分。

さっきまで喚いていた連中は、そろって大地に献血をして動かない。

・・・いかに逃げ足が速いといっても、さすがにライフルには敵わなかったらしい。


「・・・お疲れ様ですアニーさ、ん?」


ライフルを置いたアニーさんが、俺の胸をペタペタと真剣に触っている。

なんですか?


「怪我はない、か。飛来したボルトを斬り払うとは・・・ふふ、出鱈目だな」


どうやら傷がないかを確認していたらしい。


「あんな素人の矢になんて当たりませんよ、これでも専門家ですからね。それにしてもいいんですか?ライフルの弾使っちゃって」


別に殺したことはどうでもいいが。

下がれって言っても下がらなかった上に、俺達に向けて矢まで撃ってきたからな。

平和だった日本じゃともかく、今の世紀末状態なら抵抗即排除だ。

撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ・・・そんな台詞があったな。


「予備はまだまだまーだあるから大丈夫だ・・・殺したことについては何も言わんのだな?」


そんなにあるんだ、予備。

こっわ。

一体どこから調達してきたんだか・・・キャシディさんたち経由でオブライエンさんから貰ったのかな?


「何を今更、攻撃してきた時点でやむなしでしょ。それにアニーさんがそう判断したんなら、俺としちゃ文句ないですから」


「・・・ふ、ふふ。そうか、そうか・・・ふふ」


アニーさんは軽く目を見開き、照れ隠しのように顔を背けた。

餅は餅屋だからな。

軍人さんが殺さんと駄目!ってなった相手なら何かがあるんだろうさ。


「・・・片付けはアイツらにやってもらいましょっか。キャシディさん!ゴー!」


「ハーイ!!」


軽トラが駐車場から出る。

俺とアニーさんは荷台のままだが、この場は早く離れた方がいい。

なぜなら―――バラバラになった男達に、遠くからゾンビがダッシュしてくるのが見えたからだ。

綺麗に『掃除』してくれそうだな、うん。

チンピラ連中よりも、よっぽど役に立ちそうだぜ。



・・☆・・



「おっと、そういえば私を撃とうとした男から守ってもらった礼を忘れていたな」


「おっとォ!?いいですから!気にしなくていいですからァ!!」


「だーめーだ、そら、おとなしくしたまえ、頬で勘弁してやるから」


「ヤメロー!シニタクナーイ!!シニタクナーイ!!!」


「『人に運転させといて楽しそうなことしてんじゃないわよ!!こらー!!』」

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[一言] まあ、生身の人間がバレット喰らえば何処に当たっても 50口径ならショック死するよ?手足に当たっても 失血性ショックで簡単に死ぬよ?!
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