24話 忘れ得ぬ外道のこと 後編
忘れ得ぬ外道のこと 後編
「『ふむ・・・そこまで恨まれる覚えはないのだけど。随分と意気込んでいるねえ・・・まあいいか、別に』」
鍛治屋敷の懐から、領国の声がする。
恨まれる覚えはない、ねえ。
・・・安心したよ、お前が変わらず人間の屑でいてくれてな。
この状況で急に博愛精神に目覚めてたら、1ミクロンくらいは殺す時に悔いが残りそうだったからな。
視界が明滅している。
脳の血管が残らず切れそうだ。
だが同時に、とても・・・落ち着いている。
恨みを抱えて20年以上、もうコイツとの付き合い方にも慣れた。
『忘れる』ことは決してないが、『飼いならす』ことに慣れたんだ。
「『鍛治屋敷クン、信号送ったよ。起動も・・・うん、確認できた。『暖気』も・・・はい、終わったからね』」
「ありがとよ、センセイ。無駄に運動するところだった」
「『いやいや、これくらい・・・次の研究が控えているんでね、これで失礼するから』」
「ああ、りょうか・・・もう切れやがった、忙しねえセンセイだねえ」
・・・通話が終了したようだ。
起動?暖気?
一体何をやらかすつもりだ・・・?
ミサイルはもう残ってないハズ、なんだが。
隠し玉でもあるというのだろうか。
鍛治屋敷は俺の焦りも知らずに・・・両腕をゆるく胸の高さに上げ、構えたまま。
目線だけはずっとこちらへ送っている。
胸糞悪いが、隙だけがない。
「・・・センセイの知り合いだったとはなァ、世間は狭いねェ」
「知り合いじゃねえ、仇敵・・・いや宿敵ッ!!・・・だ」
会話の途中で、鍛治屋敷の後ろから円を描いて飛んできたナイフを弾く。
娘ェ・・・!
「あーんもう!在庫なくなったじゃんかー!田中野ちゃん、弾きすぎだってばぁ!!」
「そうかよ、じゃあそこで・・・親父が死ぬのを眺めてな、ブス」
が、すぐには動かない。
奴らの言葉をそのまま信じるほど、俺も無垢じゃない。
親子そろって、人を騙すのをなんとも思ってない連中だ。
若干日本語に似てる騒音くらいの認識でいいだろう。
「・・・まぁ、今日はイレギュラーってやつだ。さっきも言ったけどよ、お前との果し合いは予定にねえんだわ」
「さっきも言ったが、知るかよ。散々てめえらに引っ掻き回されてんだ、この先も同じようになるのは御免だね」
後方の娘に注意しつつ、重心を前に移す。
機先を制し、真っ向からの唐竹割りでぶち殺してやる・・・!!!
またも、鍛治屋敷のコートの中から音が聞こえた。
今度はさっきのような呼び出し音ではなく、断続的に続く電子音だった。
それを聞き、ヤツが笑みを深くした。
「―――すまねえが時間だ、またなァ田中野」
「逃がすと思って―――!?」
踏み込もうとした瞬間、鍛治屋敷のブーツから爆音と共に白煙が噴き出した。
煙幕か、この野郎!!
『返し』付きの十字手裏剣を、顔目がけて投げる。
だが、いつものように手甲で迎撃された。
まだだ!煙幕が満ちる前に、せめて、一太刀!!
「―――ッ!?」
煙幕の向こうから、投げナイフ!
あの娘!やっぱり打ち止めは嘘だったんじゃねえ、か!
まっすぐ心臓を狙ってきたそれを、弾く。
弾く、が―――!?
一瞬、何かが見えた。
ナイフの柄尻に、なんか、結んで―――!?
そいつが発する閃光を、もろに直視した。
「ッガ―――!?」
咄嗟に片目は庇ったが、もう片方は眩んだ!
畜生、平衡感覚、が―――
ナイフに、閃光弾を結んで・・・性格が悪ィなあ!ドブス!!
「っひひひ!!」
揺らぐ視界に、朱色の手甲。
鍛治屋敷が、煙幕の向こうから拳打を―――ッ!!
「―――舐めるなァッ!!!!!」
片目の視界でも、この距離なら後れはとらない!!
迫る手甲に向け、大上段から『魂喰』を振り下ろす。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
「なにィ!?」
刃が手甲と真正面から打ち合い、火花を散らして食い込んだ。
引、く!
引き―――斬る!!
南雲流剣術、奥伝ノ五『鋼断』―――!!!
「っぐぅ!?っち、この代償は、高いぜェ!!田中野ォ!!!!」
手甲に斬り込んだ刃が数ミリ動き、内部の拳に到達した。
した、が。
そこまでだった。
最大速度に到達していたはずの拳打を瞬時に停止し、鍛治屋敷の拳は引かれた。
そのまま、奴は獣のように後方・・・煙幕の濃い部分へ跳躍。
なんて、反射神経ッ!!
「首ィ!洗って待ってろォ!!」
気配が、遠ざかっていく。
畜生・・・逃がしたか!!
「そいつはこっちのセリフだ!!三下がァ!!!!」
煙幕の中で、遠ざかる気配に向けて吠えた。
もう、少し先も見えない。
「田中野ちゃーん!またブスって言ったねェ!!パパにも怪我させたし・・・死んじゃえっ!!!」
煙幕の向こうから、娘の声。
初めて、ほんの少しだけ殺意が乗っていた。
背筋に寒気が走り、咄嗟に後方へ跳ぶ。
ほぼ同時に、さっきまでいた所のアスファルトが銃声と一緒に歪に弾けた。
アイツ!銃まで持ってやがったか・・・!不味い!!
「死ね!死ね!しーねっ!!」
僅かなコッキングの音と、銃声が交互に聞こえる。
その度に、跳び下がった直後の地面が円状に爆ぜる。
たぶん、散弾銃・・・!!
今は煙幕で向こうからも見えてないだろうが、これはヤバい!
ここには遮蔽物がないんだ!ともかく移動して当たらないようにしなければ!!
「そこォ!・・・なんてね~!!」
「―――っ!?」
狙いが、正確になってきてやがる!?
煙幕が晴れつつあるってのか!!
その時、風が吹いて煙幕の一部が晴れた。
遮蔽物の上に登り、俺に向けて散弾銃を構える娘が見えた。
俺から見えるってことは、向こうからも―――
「あはははは!みーっけ!田中野ちゃん見っけェ!!!」
獰猛に笑った娘が、俺に散弾銃を向けた。
後ろに、いや横に、跳ばなければ―――
まずい、これ、当た―――
「『―――アタシのサムライに何すんのさ!!この腐れ〇〇〇!!!!』」
娘は瞬時に、遮蔽物の向こうに隠れた。
それとほぼ同時に、銃声が断続的に響く。
遮蔽物に、あっという間に無数の弾痕が刻まれていく。
今の声、キャシディさん!!
無事だったのか、よかった!!!
「『ちょっとおねーさん!言葉遣い悪すぎ!!』」
「『手癖も行動も悪いクソガキよりはマシでしょ!!!』」
お互いに何かを怒鳴り合っている。
キャシディさんは銃を撃ちながらこちらへ走ってきているようだ。
「ちぇ~・・・田中野ちゃーん!まったね~!今度はキッチリ殺してあげるからね~!!」
煙幕の向こうから、癪に障る声が聞こえた。
「そん時がてめえらの命日だ!クソ不細工!!」
俺の煽りも空しく、娘の返答はなかった。
・・・親子そろって逃げ足も速いな、畜生が。
「イチロー!ダイジョブ!?」
キャシディさんが追いついたようだ。
正面の気配も消えたし、振り返る。
「キャシディさんこそ大丈夫―――じゃない!?何してんすか!?」
俺の命を救ってくれた彼女は、前に見た時より何倍も痛々しい姿だった。
頭には血の滲んだ包帯が乱雑に巻かれているし、何より左腕が血塗れだ。
もう出血は止まっているようだが、縫合の跡が見える。
くそ、マイクロバスの爆発に巻き込まれちまったのか・・・!
「ダイジョブ!チリョー!オワッテル!!」
俺を元気づけるようにキャシディさんは笑顔だが、出血の影響か顔色が凄まじく悪い。
左手の出血か・・・助けは本当にありがたかったけど、そっちの体も心配だよ!
俺の横に並んだキャシディさんは、無事な右手に持ったライフルを腰だめにして煙幕へ銃撃。
扇状に銃口を動かして薙ぎ払っているが、当たった様子もない。
・・・逃げやがったな、鍛冶屋敷・・・!
「ストップストップ!『もう、逃げました!でもありがとう!助かりました!!』」
「ッチ・・・!『遅かったのは残念だけど、イチローが無事でよかったわ・・・セクシーな傷は増えてないようね!』」
激怒しています、っていう顔で煙幕を睨むキャシディさん。
そこらへんで、煙幕が晴れてきた。
・・・漁港には、鍛治屋敷親子の姿はもうない。
逃げられた、か。
糞が!!
「・・・このままこうしてても仕方がない、か」
・・・気持ちを切り替えよう。
奴らは去った。
なら、俺がやるべきことは・・・吹き飛んだマイクロバスによって生じたかもしれない怪我人の救助だ。
とにかく、被害状況を把握しなければ。
バスが爆発した以上、例の電波妨害装置も壊れたはずだ。
友愛から救援が来るだろうし・・・それを待ちつつここの手伝い、だな。
「キャシディさん、避難所に戻りましょう。怪我人を助けなきゃ」
「ガッテン!」
その返事を聞きながら、晴れつつある煙幕を見る。
鍛冶屋敷親子は、もうどこにもいなかった。
遠くの方に、港が見える。
こんな時でも、海は綺麗・・・ん?
「なんだ、あれ・・・」
港の入口の海面に妙なものが見えた。
風もないのに、盛大な水飛沫きが上がっている。
まるで、船でも走っているようだ。
だが、海上には何もない。
―――そこまで考えて、先程の領国の言葉を思い出した。
「『信号』・・・『起動』・・・『暖気』・・・!?まさか!!」
「イチロー?」
あの海面の下に、何かある!
いや、何かじゃない・・・俺はアレをによく似たモノを見たことがある!
『戦争映画』で!!
「まさか魚雷・・・ッ!!キャシディさん!!避難所の方まで戻りますよ!!!」
「キャッ!?『ワオ、大胆!』」
キャシディさんの無事な右腕を掴み、後ろを見つつ走り出す。
水面下の航跡はぐんぐんと港に近付いてくる。
かなりの速度だ。
アレがマジで魚雷なら、爆風や破片がこっちまで及ぶかもしれない!
せめて、遮蔽物的なものの影まで逃げなければ!!
「クッソ!だだっ広い空間が憎い!!」
マイクロバスの残骸までは、まだ遠い。
あの速度から逆算すると、とても間に合いそうにない!!
だが、諦めずに走るしかない!!
しかし、そんな願いも空しく・・・魚雷?の航跡はもう岸壁に接触寸前だ!!
「畜生・・・!『キャシディさん、ゴメン!!』」
「『ワオ!ワオワオ!!』」
もう間に合わないと判断し、キャシディさんの手を引っ張って俺の前へ。
そのまま、抱きしめて押し倒す。
頭や左腕に衝撃を与えないように気を付けないと!
・・・俺は五体満足だが、キャシディさんは怪我人だ!
これ以上傷つけるわけにはいかない!
なにやらワオワオ言っているキャシディさんを庇いつつ、港方面を見る。
もう、航跡は接触寸前で―――
「―――なにィ!?」
海面が、爆ぜた。
いや、あれは・・・海中から、何かが飛んだ!?
「なんだっ!?アレ・・・!!」
水飛沫を上げつつ、海中から筒状の物体が飛び出した。
円柱形に安定翼を取り付けたようなそれは、魚雷と言うよりミサイルに見える。
ゆるい放物線を描き、その物体が地面に胴体着陸。
火花を散らしつつ、10メートルほど滑って止まった。
「・・・爆発は、しない・・・のか?」
「『ンフフ、役得役得』」
キャシディさんを寝かせたまま、起き上がる。
何か呟いているが、気にしている時間はない。
陸に打ち上げられた謎物体は、爆発する様子がない。
「・・・『レッドキャップ』め、ミサイルが駄目だったら今度は魚雷かよ・・・潜水艦でも持ってんのか?」
一体どこから発射したのか。
古保利さんたちが監視しているハズじゃなかったのか・・・いや、今は気にしても仕方がない。
今は水産センターと合流しなければ。
「・・・キャシディさん、すみません」
「『いいのよ?もおっと延長してもいいのよ・・・あら、何あれ?魚雷かしら』」
キャシディさんも魚雷に気付いたようだ。
さっきまでの笑顔は消え去り、すかさずライフルを構えながら立ち上がる。
さすがエリート兵士だ、切り替えが早い。
「『あいつら、とんでもないものを作ったわね・・・不発みたいだし、そこはよかったけ・・・ど・・・!!』イチロー!アレ、ウゴイテル!!」
「動いてる!?」
再び目を向けると、確かにあの魚雷が細かく振動している。
いかん、時間差で爆発するのか―――!?
魚雷の振動が大きくなる。
・・・いや、爆発する感じじゃない。
アレは・・・!!
「まるで中の何かが動いて―――!!」
『魂喰』の柄を握り直した、その瞬間。
魚雷の内側から、黒いモノが飛び出した。
それは、大型犬ほどの大きさの―――黒い塊、いや、『膨らんだ胎児』だった。
脳裏に、牙島での光景が蘇る。
ネオゾンビの腹を破って出てきた、黒い胎児。
アレの、サイズだけデカくしたようなやつだ。
「『10年くらいお腹にいたら、ああなるのかしら―――ねっ!!』」
キャシディさんが、腰だめに構えたライフルを発砲する。
銃声が響き、空中の胎児から火花が散る。
「『この距離で貫通しないなんて―――!?』」
宙を舞う胎児は、両手両足を使って綺麗に着地。
相変わらず着弾し続ける銃弾をものともせず、こちらを見た。
そう、『見た』
眼球すら存在しない、真っ赤な目で。
そこには、まぎれもない『殺意』があった。
「キャシディさん!バックアッププリーズ!インカミン!!」
「ガッチャ!!」
いまだに射撃を続けるキャシディさんに叫び、前に出る。
・・・アレは、ここで殺さないといけない!!
あんなものが水産センターに飛び込んだら、大惨事になっちまう!!
殺意を向けてるんなら好都合だ!
こっちにこい!俺に来い!!
「来いやァ!!成仏させてやらァ!!!!」
俺の大声に反応するように、胎児は口を開く。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
甲高い声で咆哮するなり、奴は肉食獣のように4本足で走り出した。
速い!まるで犬だ!!
「南雲流、田中野一朗太―――参るッ!!!!」
俺もまた、地面を蹴って走り出した。
八相に構え、走る。
大地を疾駆する胎児との距離は、瞬く間に埋まりつつある。
・・・それにしてもなんて速度だ!
ハイハイなんて生易しいモンじゃねえぞ!?
「ギッギイイイイイイイイイイイイイイイギギギギギギギ!!!!」
耳障りな声を上げながら、胎児は両手で地面を叩いた。
それだけで、その軽そうな体は斜めに射出される。
狙いは、俺だ。
・・・良し、キャシディさんは眼中にないな!!
「『ハグは禁止よ!お客さん!!』」
キャシディさんは驚くべき正確さで射撃を続けているが、胎児にダメージを与えている様子はない。
近付いてきたので見えてきたが、胎児の体表面は薄いタイル状の装甲で覆われていた。
それが、ライフル弾を弾いて・・・いや、逸らしているらしい。
ネオゾンビに勝るとも劣らない装甲強度だ。
「アギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!!!!」
胎児が両腕を伸ばし、至る所から鉤爪状の装甲が伸びる。
クソ!そんな所までネオゾンビと一緒かよ!!
「しぃいい・・・っは!!!」
疾走の勢いを乗せ、胎児に向けて『魂喰』を振り下ろす。
頭部を狙った一撃は、腕から伸びた装甲によってガードされた。
―――重いッ!?
俺の両腕に伝わる衝撃は、とても見かけ通りの重さから生じたものではない。
コイツも、黒ゾンビ以降みたいにミチミチに筋肉が詰まってやがるのか!!
「―――おおおおッ!!!」
が、押し切る!
ここで退いて、噛みつかれでもしたらお陀仏だ。
「ぬぅうううあっ!!!」「ガッギャアアアアア!!!」
全力で振り切ると、装甲が斬れた。
そのまま切っ先が胎児の頭部に直撃し―――弾き飛ばす。
「っぐ・・・滑る、か!」
刃が食い込まなかった!
なんだあの頭部の装甲・・・!!
胎児は弾き飛ばされ、地面に落ちて転がる。
「グルウウルルルルウルウウウッルウ!!!!!」
そして、人間には不可能な受け身の取り方をして、跳ね起きた。
・・・四肢の関節が異様に柔らかい。
そこは、胎児本来の柔軟性を活かしているのか・・・!
どれほど、『中身』を注ぎ込んだのか。
恐ろしいまでに、『人体の操縦』が上手い。
「っふぅうう・・・!!」
構えは下段に、そして切っ先を引く。
息を吐きつつ、呼吸を整る。
今の俺じゃ、あの顔面の装甲を『断ち切る』のは難しい。
ならば・・・『貫く』しかない。
最速の速度で、最適な個所を!!
「『っち・・・弾切れね!どのみちこの子じゃ無理だし・・・こっちに賭けようかしら!』イチロー!ウゴキトメテ!!」
後方から、ガシャンと音。
キャシディさんがライフルを捨てたらしい。
同時に、拳銃のコッキング音。
・・・ライフルは弾切れか。
「期待しないでくださいよっ!!」
俺がそう返すと、胎児は再び身を沈めて跳躍の姿勢。
・・・操縦は上手いが、やはりまだ『技』はない。
一番威力の高い攻撃を繰り返す・・・まるで野性動物だ。
「・・・来い!」「ガッガギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
胎児が跳ぶ。
さっきよりも速度は、二割増しってところか!
「っしぃい・・・!!」
踏み込む。
奴に、真正面から!!
「ガバアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
胎児の開いた口が、耳まで裂ける。
耳どころじゃない、後頭部までが裂けて・・・ほとんど頭が二分割だ。
しかも、明らかに口じゃないところまで乱杭歯のような装甲が出現した。
あんなので噛まれちゃ、肉どころか骨まで持っていかれちまう!
踏み込みながら引いた切っ先を、瞬時に突き出す。
発生する全ての力を、『魂喰』に、乗せる!!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!」
吠えながら放った突き。
間違いなく、今の俺に放てる最高最速の突き。
「ッガッバ!?!?!?」
それは、狙いを寸分も違わずに―――胎児の口の中心へ突き進む。
途中発生した両腕の装甲を、貫きながら。
南雲流剣術、奥伝ノ二『瞬』
火花を散らしながら、完璧なタイミングでのカウンター。
空気を貫いた『魂喰』が、胎児の口を突き進んで後頭部から抜けた。
衝撃が両肩に襲い掛かり、肩の関節が悲鳴を上げる。
「『―――あなたってホンット素敵よ!!』」
胎児の動きが止まった瞬間、その左目が爆ぜた。
キャシディさんが恐るべきタイミングと正確さで弾丸を撃ち込んだのだ。
「ェウッ!?!?ガッガガガガガガガ!!!!」
「んなァ!?」
胎児は口を刀が貫通したまま、その衝撃を利用するようにずるりと逃れた。
―――完全に喉を貫いたのに、まだ動くか!?
この野郎、生命力まで一級品ってか!!
刀から逃れた胎児は再び地面に降り立ち、跳躍の予備動作。
「オボオオオオオ・・・ギャアアアッ!!アアアア!!!!」
その裂けた口からは大量の体液が漏れているが、残った右目から未だに殺意は消えていない。
・・・上等だ、動きが止まるまで何度でもやってやる!!
そう、決意した瞬間。
空気が震えるような、凄まじい轟音が響いた。
俺の目前にいた胎児は、側頭部を何かにぶん殴られたように震わせて横へ吹き飛んだ。
・・・は?
「バ・・・ッガガガガ!?ガァア・・・!?!?」
横へ吹き飛んだ胎児の体から、轟音が響く度に装甲が弾け飛ぶ。
弾け飛びながら、胎児は転がっていく。
何度目かの轟音の後、ボロ雑巾のようになった胎児は動くのを止めた。
呆気に取られていた俺の耳に、聞き馴れたエンジン音。
「しっかり運転しろ!!照準がブレるじゃないか!!!」
そして、聞き馴れた声。
横を見ると、かなりの速度で疾走する愛車が見えた。
「『アニーめぇ・・・一番おいしいとこ、持ってくんじゃないっての』」
キャシディさんが何事かぼやいている。
走る愛車の運転席には、何故か蒼白な顔色の森山くん(弟)が。
「タリホーッ!!騎兵隊の到着だ!!」
そして、荷台から身を乗り出し・・・バカでかいライフルを天井に固定して連射しているアニーさんの姿があった。
・・・こんな時だというのに、輝くような笑顔だった。
素直に美人だと思う。




