19話 久しぶりの詩谷遠征?のこと 中編
久しぶりの詩谷遠征?のこと 中編
「~♪」
後ろから上機嫌な鼻歌が聞こえる。
キャシディさんだ。
知らない歌だけど、綺麗なメロディだな。
「イチロー!見てみろ!鹿だ!」
助手席のアニーさんは、テンション高く路肩を指差している。
久しぶりのフリーな外出が嬉しいんだろうなあ・・・
しかし、鹿とはね・・・
「はは、鹿は高柳運送の近所でもよく見るでしょって何あれでっか!?」
木々の切れ目にちょいと見えた鹿は、それはもう立派な角を生やした大きい牡鹿だった。
し、〇シガミ様かな?
呪いは受けてないから特に用事はないけども。
まあ冗談はさておき。
最近人間が減ったから、深い森の奥から出てきたんだろうか。
うーむ、ハンターも減ってるだろうから市街地が動物園になる日も遠くはないのかもしれんな。
我が県は精々猪くらいまでしかいないからいいが、熊が出る地域は大惨事になりそうだな・・・
いや、猪でも危ないんだけども。
「えーと、最終的に海に向かえばいいんでしたっけ?」
今回の遠征目的を確認する。
『レッドキャップ』が偵察に来そうな場所を、アニーさんに見てもらうんだよな。
ちなみに現在位置は原野と詩谷の中間地点あたりである。
大木くんのカスタムというには大掛かりな改造によって生まれ変わった愛車は、以前よりも明らかに速度が出ている。
この分だと詩谷にはすぐに入れそうだ。
・・・前と同じ調子でアクセル踏んだら、3倍くらいの加速力だった。
タコメーターに刻まれている数字も、前には印字されていなかった速度帯まで書かれている。
大木くん・・・マジですげえよ、きみは。
「むう、なんだなんだイチロー。こんな美女2人とドライブなんだぞ!?しかも狭い車でだぞ!?」
「うわわわ危ない危ない危ない!?」
アニーさんが俺の頬をズンズンつつく。
頭が揺れるから超危ない!!
「自分で言うのも何だが何やらいい匂いがするだろう!?どうだ、ドキドキしないのか!?お前は老人か!?ああん!?」
「しますします超しますからゆるして!」
「カワイ!」
何故かキャシディさんも後ろから手を伸ばして首筋を撫でてくる。
あひゃひゃ事故る!事故る!!
「キャシディさんもやめろください!仲良く心中する羽目になるからやめろください!!」
「アーン!キュート!」
「ノットキュート!!ノットキュート!!」
俺の懇願は受け入れられることもなく、しばし頬と首をオモチャにされるのだった。
・・・対向車がいなくって命拾いした、本当に。
・・☆・・
「随分と様変わりしたなあ、ここらも」
「人間とは案外しぶとい生き物だからな」
「『やっぱりタカヤナギウンソーが異常なだけで、まあ普通はこうよねえ』」
謎の蛇行運転を何度か繰り返すうちに、愛車は詩谷へと入った。
海に行く前に、とりあえず適当に走ろうということになった。
ので、以前から何度も走っている川沿いの土手を走っている訳なんだが・・・
以前にもあったテントの群れが、大型化というか・・・密集化?している。
前はぽつぽつあった感じだが、今では寄り集まっている感じだ。
やっぱり暮らしていくには何かと水が必要だからなあ。
こうして近くに住んじゃえば手っ取り早くはある。
それに・・・
「フェンスや畑っぽいものまで・・・このままいくとちょっとした集落みたいになりそうだな」
どこから調達したのか、テントの周囲は簡単な金属フェンスが見えた。
対ゾンビ用だろうか。
その内側の畑っぽい場所には、鍬を持った人間がチラホラ見える。
「テントの集合体の距離が離れている個所もあるな。あれは縄張りのようなものだろう・・・人間、3人も集まれば派閥が出来上がるというわけだ」
言われて見ればその通りである。
さらにフェンスの切れ目には、武器のようなものを持った見張りっぽい姿まで。
すっかりコミュニティが出来上がっているようだ。
「こんな時くらい一致団結すりゃいいのに・・・」
「ふふふ、それは中々難しい問題だ。人類が誕生してからいまだに解決したことのない、な」
「世知辛いなあ」
ゾンビっていう明確な敵がいてもこれかあ。
人間ってのは結局、どこまで行っても人間らしい。
「『ホント、イチローと知り合えてよかったわねアニー。私はまだ軍属だけど・・・キリがいい所で除隊しようかしら』」
「『強い強いサムライが面倒な敵をまとめて畳んでくれるだろうから、そう遠い話ではあるまい』」
キャシディさんは何やら物憂げな顔をしている。
何かの心配事だろうか。
俺がもうちょい外国語に堪能だったらいいんだけどなあ・・・アニーさんとは完全に話が通じるけど。
「・・・そういえばお2人とも、いつかは帰国されるんですよね」
今はとても考えられんが、移動手段が確保されれば絵空事ではなくなる。
ゾンビが出ただけで、船やら飛行機やらが消滅したわけじゃないからな。
いつになるかはわかんないけど。
「いや?その予定はないな」
「えっ」
アニーさんが咥えた煙草から紫煙を吐く。
「私は・・・ええと、なんというんだったかな、そうそう・・・『テンガイマキョウ』というやつでな。故郷に戻っても縁者はいないんだ」
「・・・『天涯孤独』です?」
「そうそう、それだ。親は早くに亡くなったし、兄弟とはここ10年は連絡を取っていないな」
・・・天涯孤独じゃないじゃん厳密には。
だけどまあ、なにやら複雑な家庭環境らしい。
っていうか兄弟いたんだ。
「控えめに言ってろくでなしだぞ。この騒動でくたばっていてくれればいいんだがな」
「そ、ソウデスカ・・・」
なんも言えねえ。
無遠慮ムーブで他人のご家庭にクチバシ突っ込むほど恥知らずじゃないしな、俺。
「あ、あー・・・『キャシディさんは、帰りたいですか?国に』」
気まずい話題から目を背け、つたない外国語でキャシディさんに問いかけた。
「ンー・・・『そうねえ、家族が気になるから通信は復活して欲しいけど・・・今すぐに帰りたいってわけじゃないしね。ええっと、アニー!通訳お願い!』」
「フム。家族は気になるがこの状況で帰還は望んでいない、そうだ」
へえ、そうなのか。
ライアンさんなんかは、今すぐにでも飛んで帰りたいんだろうなあ。
っていうか、この国にいる駐留軍の皆さんはみんな大なり小なり帰りたいんだろうが・・・
「ダカラ、カエルトキ・・・イチローイッショ、ネ!!」
「え?ナニ?今俺単語100くらい聞き逃した?」
何故俺が海を越える流れになってるんだ。
「ンフフ」
当のキャシディさんは楽しそうにニヤニヤしながら俺を見ている・・・気がする!
さすがに運転中に振り向いちゃ危なすぎるからな。
「『おいおいいかんなあ、サムライの輸出は禁止されているんだぞ』」
「『あら、それならみんなで移住しちゃう?独り占めはしないからさ。適当な無人牧場でも開拓して面白おかしく暮らしましょうよ!』」
「『・・・フムン、それは魅力的な提案だな。まったくもって魅力的だ』」
何やら盛り上がっている。
地元の話だろうか。
「『ま、今とそう変わりはないでしょうしね。あーそれにしても、怪我治っちゃったからそろそろ原隊復帰かあ・・・・いっそのことタカヤナギウンソーに出張所作ってもらおうかしらねえ』」
かと思えば、キャシディさんは不満気な声を漏らしている。
気分がコロコロ変わるなあ。
ちょっと璃子ちゃんっぽい。
・・・体格が全然違うけども。
とまあ、そんな風に話をしつつ運転しているわけだ。
退屈しなくっていいね。
土手沿いには相変わらずテント街が続いている。
対向車はたまに来るが、特にちょっかいを出されるということもない。
テントの方の人たちもこっちに視線を送ってくるが、それはあまりに好戦的なこの車にびっくりしたからだろう。
対向車も運転席であからさまに目を丸くしている人が多かった。
「アニーさんはマスク装備だし、キャシディさんは外からあんま見えないし・・・車ならそっち方面のちょっかいもなさそうだな」
「フムン、それは・・・我々が魅力的ということかね?」
マスク越しにもニヤニヤが分かるアニーさんである。
こうして始終からかわれていると、さすがに慣れてくるな。
「『天使が2人も乗ってますから、用心もしますよ』」
たどたどしく外国語でそう告げると、何故か2人が息を呑んだ。
・・・ちょっとセクハラというか、キザ過ぎたか?
「・・・ほう、ほうほう。我が生徒の成長は著しいな・・・教師として鼻が高い」
アニーさんは満足そうに腕を組んでいる。
「『なんてアンブッシュ・・・!イチローは直球で来るのを忘れていたわ・・・!!素敵よ、素敵!!』」
「おわわわわ」
そして何故かキャシディさんは俺の肩をもんできた。
いきなりだとビックリするからやめていただきたい!!
・・☆・・
土手地帯を抜け、軽トラは快調に市外へと入った。
・・・快調過ぎるが!?
大木くんのカスタムによって、明らかに調子がいい。
トップスピードも伸びてるし。
ふと、以前テレビ局でひどい目に遭ったカーチェイスを思い出す。
あの時はスポーツカーに追い回されて死にかけたが、この軽トラなら結構いい勝負できるんじゃなかろうか。
装甲も比べ物にならんほど頑丈だし、体当たりを仕掛けられても問題ないだろう。
「通い慣れた道だなあ・・・とりあえず友愛高校に寄りますね、現状報告もしたいし」
「ああ、問題ない。この方面の指揮官と顔を合わせておきたいからな」
海へ行くのはまだだ。
先に友愛高校へ寄っていくことにした。
現在の詩谷市内の情報とかも知っておきたいしな。
あと、新たちにも会いたい。
特に何か聞いていないから、変わらず元気なんだろうけど。
「『リュウグウに比べて人口も少なそうねえ。厄介なゾンビも少ないらしいし、暮らすには最適ね』」
キャシディさんは興味深そうに外を見ている気配がする。
龍宮とはまた違う風情でも感じるのかな。
「ほう、あれか。立派な門だな」
アニーさんの言う通り、友愛の門が見えてきた。
・・・以前より明らかに頑丈になっている。
こっちの治安も世紀末してんなあ。
前は道からすぐにアクセスできていたのに、今はワンクッション置くように・・・内側にも新しい門が設置されている。
なるほど、一回入ってもヤバい奴だと発覚したら、2つ目の門を開けずに周囲から蜂の巣にでもするんだろうな。
よく考えられている。
『そこで止まりなさい!この避難所は満員で受け入れはしていません!!』
近付いていくと、内部から拡声器越しの声が響いてきた。
それに対し、俺はカーナビの横に付いている機械を口まで持っていく。
『こちらは宮田巡査部長の許しを得ています。名前は田中野一朗太です』
天井のあたりから、増幅された俺の声が響く。
・・・そう、これも大木くんの付け加えてくれた外部拡声器だ。
軽トラの天井、装甲板の隙間にスピーカーが設置されているのだ。
・・・マジで至れり尽くせりだよなあ、足を向けて寝れないぞ。
『・・・確認します!そこでお待ちを!』
どうやら今の門番は俺のことを知らないらしい。
森山くんはいないようだ。
しばらく待っていると、門が自動で開いていく。
周囲に俺たち以外の車がいないので、すぐに開けたようだ。
『お入りください!車は来客用駐車場までお願いします!』
『ありがとうございます』
俺ももう一度答え、アクセルを踏む。
そして開いた門を通って入場した。
「・・・警官は普通の練度だが、たまにいるジエイタイは中々だな。視線の配り方も申し分ない・・・何かあれば即座に発砲できるようにしている」
「『屋上にいるスナイパー2人、いい腕してそうね。死角を補い合う最適なポジションに付いてるわ』」
自衛隊員は花田さんが選抜した人員だろうから、そりゃそうだろう。
あの人が半端な援軍を派遣するとは思えないからな。
ガラガラの駐車場に停車し、エンジンを切る。
うーむ・・・持っていくものは兜割と脇差でいいか。
内部ではそうそうドンパチは起こらんだろうし、この2つなら何が起こっても対応できる。
手裏剣もあるし。
『魂喰』はお留守番だな。
「連絡を受けたので来てみたら・・・お元気そうでなによりです」
軽トラから降りると、なんと宮田さんが出迎えてくれた。
相変わらず強そうである。
「ご無沙汰してます、そちらもお元気そうで・・・変わりはありませんか?」
デカい手と握手をしつつ聞いてみる。
「ゾンビについては・・・黒い個体が少し増えているくらいですか。問題なのは襲撃者の増加ですね」
「マジすか。来る途中で生存者コミュニティを見かけたんで、そっち方面は安定してるかと思ったんですが・・・」
詩谷でもチンピラが増えてるのか。
自給自足風味で暮らしてりゃいいのになあ。
「詩谷・・・というより、龍宮方面からの流入者が増えているようです」
「龍宮から?そりゃまた、なんでです?」
遅れて軽トラを降りたアニーさんたちが、校舎を興味深そうに眺めている。
「・・・龍宮の襲撃者やゾンビから逃れて、こちらで同じような行動をしていると推測していますね」
「あー・・・なるほど」
確かに龍宮は黒ゾンビがワラワラいるし、ここに比べりゃ頭ヒャッハーな連中も多い。
瀧聞会やみらいの家は壊滅したが、それでもまだ小規模な武装集団がいるっぽいし。
・・・鍛治屋敷が武器を横流ししまくってんじゃねえかな。
「とりあえず詳しいお話は中でしましょう。秋月から輸送されてきたモノがありますので、新鮮な牛乳でもいかがですか」
「いいんですか!うわあ、来てよかったなあ!」
花田さんとこの牧場、軌道に乗ったみたいだな。
新鮮な牛乳なんて久しぶりだ・・・一瞬で喉が渇いたぞ!
「それで・・・あのお2人のことなんですが」
「あっ」
やべえ、紹介すんの忘れてた。
正体不明の軍人2人だもんな、そりゃ警戒するか。
「えっと、あの人たちは龍宮の・・・」
アニーさんをどう説明するか悩んでいると、当の本人がやってきた。
キャシディさんも一緒だ。
「こんにちは、彼女は日本語が少し不得手なもので・・・代わりに私が説明します。彼女はグレイスン曹長、龍宮市の御神楽高校を拠点とする駐留軍の軍人です」
「コニチハー!」
進み出たアニーさんがそう説明し、流れるように宮田さんと握手。
「私はアニー・モーゼズ、駐留軍の元中尉です。そこの田中野さんに危ない所を救われまして、今は彼の拠点で警備兵の真似事などをしています」
「これはご丁寧に・・・日本語がとてもお上手だ。私は宮田巡査部長ともうします、一応ここの責任者です」
・・・いつもイチローイチロー呼ばれてるから違和感が凄い。
「『そして曹長、よろしくお願いします。御神楽といえばオブライエン少佐の部下ですな?いつもお世話になっております』」
「『あら、あなたの英語も大変お上手ですよ。今日は彼に車を出してもらって、周辺地域の偵察任務に従事しているところです』」
・・・宮田さんの英語うっま。
上手すぎて何言ってるか皆目見当もつかねえ。
まあ自己紹介なんだろうけど・・・っていうか俺の周りの人間、バイリンガルが多い・・・多くない?
今からでも勉強するべきだろうか・・・
「ではみなさん、どうぞ中へ」
そんなことを考えながら、俺達は宮田さんの誘導に従って校内へと足を踏み入れた。
・・☆・・
「おじさん!」
「おーう、元気そうだな」
職員室から出た所で、探していた新にバッタリ会った。
以前よりもさらに日焼けして、健康的な体形になっている。
ここの生活にすっかり慣れたようだ。
「久しぶり!今日はどうしたの?仕事?」
「仕事といえばそうなんだろうなあ・・・龍宮の兵隊さんを連れてきたんだ」
アニーさんたちは、現在職員室で会議の真っ最中である。
通信機を使って御神楽の上層部も交えてだ。
牙島の作戦行動の報告やらこの先の行動予定なんやらを話すらしい。
超うまい牛乳をご馳走になった後、俺は許可を取って散策することにしたんだ。
避難所や軍隊同士のお話じゃ、役に立たないからな。
というわけで新たちを探しに出たんだが・・・目的が一瞬で果たされてしまった。
「新はどうだ?変わりはないか?」
「うん!おれの植えた野菜もそろそろ収穫なんだ!畑仕事って楽しいね!」
おお・・・すっかり逞しくなって・・・
俺よりよほど立派じゃないか。
「モンドのおじいちゃんに、いつも稽古してもらってて・・・あ、とりあえず部屋に来てよ!姉ちゃんたちも喜ぶよ!」
「あー、それならお邪魔しようかな」
「来て来て!今日は仕事休みなんだー」
・・・新、小学生なのに仕事熱心だなあ。
この若さでワーカホリックにならんといいが・・・
「ただいま!母さん姉さん!おじさんが来たよー!」
新の立派さに感じ入りながら階段を上り、以前も来たことのある茶道室にやってきた。
室内に入ると、前よりも立派な仕切りがあった。
ふむ、避難生活が長くなることによるストレスの緩和とかだろうか。
・・・やっぱり俺は集団生活は無理だなあと再認識。
高柳運送?あれはもうみんな身内みたいなもんだから・・・
「あら!田中野さん!」
「田中野さん!お久しぶりですっ!」
新が声をかけると、奥から志保ちゃんと山中さんがやってきた。
叔母の朋子さんの姿はない。
仕事中だろうか。
「志保ちゃんも元気そうでよかったねってうわわ、落ち着いて落ち着いて」
志保ちゃんは俺を見るなり、義足を装着せずにケンケンでやってきた。
前からやってたけど、速度上がってない?
体付きも健康そうになってきたから、身体能力が上がったのかもしれん。
「わぷっ!?す、すすすすみません・・・!」
「ほらほら、慌てない慌てない」
勢いがつきすぎた志保ちゃんを抱き留める。
・・・ふむ、絶対に口に出さんが体重も増えたな。
いいことだ・・・前はもうガリガリだったもん。
「おじさんビクともしてない!すっげえ・・・あははは、姉ちゃん顔真っ赤~!」
「あ、新!!す、すいません田中野さん・・・!」
「なんのなーんの」
志保ちゃんに肩を貸しながら、新たちの割り当てられているゾーンに入る。
そこまで広くはないが、家族3人が暮らすには十分な広さ・・・なのか?
高柳運送基準で考えちゃうからよくわからん。
「田中野さん、お茶を・・・」
「お母さん!私がやるから・・・!」
座るとすぐに、志保ちゃんがお茶を淹れ始めた。
気にしなくてもいいのにい・・・
「本当に姉ちゃんはおじさん大好きだからな~・・・」
「新ァ!?」
新の言葉に、志保ちゃんが盛大にティーパックをばら撒いてしまう。
・・・お茶っ葉じゃなくてよかったなあ。
「ふふふ・・・すみませんね田中野さん、子供たちが」
「いえいえ、子供は元気が一番ですから・・・2人とも元気そうで安心しましたよ、もちろん山中さんも」
「ええ、お陰様で」
山中さんはニコリと笑っている。
子供たちは後ろでワチャワチャしている。
「田中野さんこそ、大丈夫なんですか?噂だと龍宮の方は大変なことになってるって・・・」
この避難所でもそこらへんは知られているんだな。
噂システムってすげえなあ。
・・・出所はどこなんだろうな。
「うーん・・・まあ、詩谷よりかは過激ですけどね。でもアッチには頼れる自衛隊や警察、駐留軍の皆様がいるんで・・・俺がそうそう鉄火場に出ることはないですよ、一般人ですし」
「ふふふ、一般人ですか・・・ふふ」
山中さんはおかしそうに笑った。
一般人だもん・・・一般人だもん・・・
「田中野さん、どうぞ!」
そんな話をしていると、お茶が置かれた。
同時に、周囲の気配を確認する。
・・・入り口は閉まってるし、周囲は無人だな。
よし。
「ありがとう志保ちゃん。それじゃあこれはおじさんからのお礼だぞ~」
ベストの内側に隠しておいた各種スティックをテーブルに出す。
1人1個ずつあるな、大丈夫だ。
今日はチョコバーじゃなくて、グラノーラバーとかいう体によさそうな代物である。
「田中野さん、悪いですよ・・・」
「そこらへんに生えてたんでお気になさらず、むしろ食べて証拠隠滅していただきたいですなグフフ」
「まあ・・・」
「(わーい!ありがとうおじさん!)」
空気を読んで小声で喜ぶ新であった。
かしこいぞ。
・・・逞しくなったなあ。
それからは、お菓子を齧りつつ世間話に花を咲かせた。
ここでの生活も慣れたようでなによりだ。
定期的にレオンくんにも会えているようだし、この家族はもう大丈夫だな。
名残惜しそうにする家族と別れを告げ・・・ようとしたところで、探しにやってきたアニーさんたちと鉢合わせしてちょっとワチャワチャしてしまった。
志保ちゃんが『どうやったらそんなに胸が大きくなるんですかっ!?』とアニーさんに詰め寄っていたのが印象的だった。
「サムライは手が早い。これはアレだな?アオタヤキというやつだな?」
青田を焼くとかどんな蛮族だよ・・・
おまけ
歓談中の1コマ
「ね、ねえおじさん・・・美玖ちゃんってさ、かわいいよねえ・・・」
「・・・頑張れ、超がんばれ新」
熊に食い殺されないように頑張るんだぞ!
お互い好き同士だったらおじさんも援護射撃してやるからな!!




