18話 久しぶりの詩谷遠征?のこと 前編
久しぶりの詩谷遠征?のこと 前編
御神楽で一泊してから、丁度一週間後。
「どうですかこれ!控えめに言って・・・かなりの自信作ですよ!」
「なにこれすごい」
高柳運送の駐車場に、軽トラが停車している。
たぶん、俺の愛車なのだろう。
・・・たぶん。
「車体前方、側面、下部に追加装甲板を配置!ガラス類は耐衝撃フィルムで保護!エンジンもボアアップした新品に積み替え・・・足回りも強化してます!!」
そこにあったのは、まさにゾンビ映画とかに出てきそうな装甲板に包まれた軽トラだった。
いつだったか中央図書館に攻めてきた装甲バスにちょっと似てるな。
っていうか・・・
「あの、大木くん。このトゲは何?」
ナンバープレートを完全に覆い隠す勢いで生えている鋭いパーツを指差す。
なんていうか、完全に牙だ。
殺意高めの。
「いわば衝角ですね!材質は装甲板と同一なんで、かなり頑丈ですよ!戦車と装甲車以外なら喧嘩しても勝てます!!」
「じゃあ・・・この装甲板の隙間にちょいちょいある丸い筒は?」
そこを指差すと、大木くんはよくぞ聞いてくれた!とばかりに凄まじいドヤ顔を披露。
「ミサイルサイロ・・・は無理でしたけど、大木式グレネードを発射します!機構は圧縮空気式で、射程距離はたぶん100メートルです!!」
「・・・たぶん?」
凄まじく嫌な予感がする。
「あはは・・・どうにも出力が安定しなくって・・・でも最低30メートルは飛びますよ!」
「・・・自爆とかしない?」
「その危険性も鑑みて、現在使用停止中です!」
「じゃあこれ、ただの飾りか・・・だったらなんでつけたの?」
「その方がカッコいいからですよ!がはは!!」
・・・悔しいがちょっとわかる。
無骨な感じがカッコいい。
「ちなみに荷台の側面にも同じものが2つ付いてますよ、後方に射出します。そっちは飛距離は問題ないんで、運用可能です!追いかけてきた車両を粉々にできますよ!!」
「なんて物騒なマ〇オカートなんだ・・・」
しかしまあ、この短い期間でよくもまあ・・・
大木くん、マジで天才過ぎる。
この状況下では本当に救世主だ。
目の下に濃いクマを作り、目だけはギラギラしている大木くんを・・・俺は尊敬のまなざしで見つめている。
・・・でもちゃんと寝ようね?
馬関係の設備からこっち、ずっと動き回ってないか?
そのうち過労死しちまうぞ。
朝から大木くんが凄いハイテンションでやって来たので何事かと思ったが、コレを見てしまうと圧巻だなあ。
修理を依頼してからまだそんなに経っていないというのに、よくもまあこんなものを作ったもんだ。
脱帽である。
俺はこういう、クリエイティブな才能が皆無だからな。
純粋に凄いと思うよ。
「とりあえず明日あたり試運転しましょ!僕も一緒に行きま・・・すん・・・で・・・」
「おいおいおい寝るな寝るな。いや、寝てもいいけど駐車場で寝るのは流石にロックすぎるぞオイ」
糸が切れるように地面に倒れた大木くんを掴み、なんとか立たせようとする。
が、筋肉も関節も存在しないとばかりに全く足に力が入っていない。
こいつ、どんだけ無理したんだよ・・・とりあえず仮眠室に放り込んでおこうか。
「安心したら・・・眠気が・・・世界規模で・・・攻めて・・・」
「わかったわかった、ホレ運んでやるから」
全身の力があっという間に抜けていく大木くんを慌てて背負い、俺は歩き出した。
・・・すげえ機械油くせえ!?
サクラが寄り付かなさそうだな・・・起きたら風呂に叩き込もう。
「ひひん」
途中、仔馬が心配そうにやってきた。
おかあちゃんのヴィルヴァルゲは、馬房の中でくつろいでいる。
すっかりここに慣れてくれたみたいだな。
ちなみに、まだ名前は決まっていない。
喧々諤々の議論の真っ最中である。
・・・そろそろ決めてやらんと、名無しで定着しちまうぞ。
「おう、大木のにいちゃんは死ぬほど疲れてるからゆっくり寝かせてやろ・・・おいやめろ!やめなさい!!」
「うわあ・・・空気が青臭ぁあい・・・」
「ぶるる!ひんっ!」
彼女なりのねぎらいのつもりか、仔馬は大木くんの顔面をベロンベロン舐めている。
もう半分夢の中にいる大木くんは、それを甘んじて受け入れていた。
窒息するからやめたげてよお!?
・・☆・・
「なるほど、オーキは大したエンジニアぶりだな。外見はヒョロヒョロだが、技術者としては素晴らしい」
「ヒョロヒョロとか言わないであげてもらえませんかね・・・?」
大木くんを仮眠室に放り込んで戻ると、アニーさんが新生軽トラを興味深そうに眺めていた。
彼女的には筋肉がない男は興味がないらしい。
「とても好戦的で素晴らしい造形だな。これならそこらの車両など敵ではない」
「評価ポイントが世紀末」
なんで戦う前提で考え・・・まあ、この状況下じゃ仕方ないけども。
「それで?ドライブはいつにするんだ?んん?私とのドライブデートは」
「決定事項のように捏造される予定!?」
前からそんなこと言ってたなこの人・・・本気だったのか。
「まあ、そっちも大本命なんだが・・・純粋に周囲の土地関係を把握しておきたいのだよ。特にウタヤシをな」
「詩谷を?なんでまた」
龍宮市ならわかるが、詩谷?
「リュウグウの方は各種軍隊の防備も充実しているし、なによりコホリ達が絶賛警戒中だ。私が敵側なら、それほど警戒されていないウタヤ方面から・・・攻める」
「・・・奴らが、『レッドキャップ』が攻めてくるってんですか?あっちは島中黒ゾンビまみれなんですよ?」
奴らの総数がどれほどかは知らないが、それでも1000人や2000人ってことはなかろう。
たぶん多くて数百人とかのはずだ。
スカウトしたチンピラや受刑者を含めてもな。
そんな数で、黒ゾンビでまみれた島を脱出できるとも思えない。
それに、北地区に停泊している船は自衛隊とかがしっかり監視しているはずだ。
「おいおいイチロー。リンやアカネがどうやって牙島に来たのか、もう忘れたのか?」
「あっ・・・海中!?」
そうか、潜ればいいのか。
たしかに、ゾンビは泳げない。
水中なら安全に行動できるな。
・・・っおい!?
「じゃ、じゃあ潜ってこっちに攻めてくるってむむむ!?」
勢い込んだ俺の口に、アニーさんがチョコレートを突っ込んできた。
にっが!?こ、これはカカオが9割くらいの体にいいお菓子・・・!?
「ふふふ、まあ落ち着け・・・んにっ!?・・・苦いなコレは」
アニーさんは俺に突っ込んだチョコと同じものを齧り、ちょっとびっくりしている。
知らなかったのか・・・
「・・・ハズレだな、これ。ええと、何の話だったかな・・・ああ、そうか」
口直しとばかりに煙草を咥え、俺に向かってぴこぴこ。
はいはい。
それにライターで火を点けると、アニーさんは煙を吐き出した。
「ふぅう・・・こちらの偵察や警戒を想定すれば、海中といえども行動できるのは夜間に限定される。さらに、夜間の潜航行動はそこらへんの一兵卒にできるようなもんじゃない、ましてやただのアウトローなどは海の藻屑になるのがオチだ」
あー・・・そういえばそうか。
神崎さんとか式部さんみたいなフィジカルエリートじゃないと無理だな。
なら、全員でいきなり攻め込んでくるのはナシか。
「恐らく、来ても少数での偵察任務が精々だろう。勝てる算段が付くまでは少なくともそうするだろうさ・・・『隊長』なら」
憎しみ満タン、って顔のアニーさん。
『隊長』に向ける恨みはとんでもなさそうだ。
元は仲が良かったんだろうか。
可愛さ余って憎さなんとやら・・・みたいな?
「―――おい、不愉快な妄想をしているなイチロー。私はあんな男とベッドを共にしたこともなければ、欲情したこともない」
・・・そんなに顔に出てたの俺!?
っていうか男女の関係だったのかな~とか考えてないんだが!?
「部隊の指揮官として、尊敬はしていたがな・・・その評価も、今や地の底だ。もしくは太陽系の外あたりかもしれん」
「な、なるほど」
やっぱり古巣に未練はなさそうだ。
まあ、そりゃ襲われそうになったんだからなあ・・・当然だな。
今まで仲間だったのに、急にそういう対象として見られたんだもんなあ。
「まあとにかく、だ。そういう理由で、奴らが偵察するならウタヤの方だろう?私は腐っても元隊員だからな、そういう場所を仮定する手助けくらいはできるぞ?」
「デートデートって言ってるわりに、そこらへんはちゃんと考えてたんですねあいだだだだ!?」
「生意気なサムライめ!そんなに私の胸で窒息死したいか!?ああん!?」
アニーさんが俺の頭を抱えて胸に押し付ける。
柔らかい!でも痛い!息が苦しい!おまけに灰が落ちてくる!!
ゆるして!!
「アニーちゃんがまーたイチャついてるしーっ!!」
がっちり極められていることに四苦八苦していると、朝霞の声が聞こえた。
きた!メイン親戚きた!これでかつる!!
「あーしもー!!」
「ギュン!?」
かと思ったら、朝霞の奴は俺の背中から巻き付いてきた。
おまっ!?
拘束が激しくなっただけじゃないか!?
「むめめめ!!!もももも!!!!(普通に酸欠で死ぬから助けて!ヘルプミー!!)」
「ンンっ・・・!なんだ、積極的じゃないかイチロー・・・ふふふ」
違う!!より状況が悪化している!!
どうすりゃいいんだ!!
「バウッ!!」「わんっ!!」
「ひゃん!?」
うお!?急に朝霞の圧力がなくなった!?
しめた!後ろに逃げる!!
「ぶっはぁあ!?」
地面に尻もちをつき、酸素を思うさま吸い込む。
・・・た、たすかったぁ・・・
「わう」
サクラが心配そうに俺を見ている。
「バウ!ワウワウ!」
「ひぃん!なーちゃんごめんて~!」
そしてその後ろでは、朝霞がなーちゃんに押さえつけられて・・・というか上に乗られている。
「おやおや、淑女たちを怒らせてしまったかな?」「ひゃん!わう!」
アニーさんがサクラをひょいと抱き上げると、彼女は抗議するようにかわいく吠えた。
頼りになるワンちゃんたちだ・・・本当に助かったぞ。
「仕方あるまい。まだ日の高いうちからやり過ぎたな・・・お嬢さん、一緒にお昼寝でもいかがかな?」
「わふ!」
「ふふふ・・・それではまたなイチロー。ドライブの件、考えておくのだぞ」
アニーさんがサクラを抱っこして去って行く。
何をしてても絵になる人だな。
・・・窒息はもう勘弁してほしいが。
いい死に方としては上位にランクインすることは確実だろうが、ここで死んだらただの間抜けになってしまう。
アニーさん対策、何か考えようかな・・・エマさんとかキャシディさんもそうだけど、あちらのお国の方々のスキンシップは少々激しすぎるのだ。
アレが普通・・・ってことはないだろうけど。
彼女たちが特殊なんだろうけども。
「にいちゃぁあん、たすけてぇえ・・・」
「なーちゃん、朝霞を枕にして寝てもいいぞ~」「ワォン!」
「ひどいしーっ!!」
なーちゃんにもみくちゃにされる朝霞を無視しつつ、俺は新しい煙草に火を点けるのだった。
あ、そうだ。
軽トラの内部も確認しておかないとな。
前とどう変わったのか確かめておかないと。
「にいいちゃぁあん・・・」
何も聞こえない。
なーんにも聞こえない!
・・☆・・
「なにこれ」
そして、再び俺は頭を抱えている。
場所は軽トラの運転席だ。
「・・・だめだこれ、大木くんが再起動するのを待つしかないな」
以前とまるで様子が変わっているのである。
ほんとに元愛車かこれ?
すり替えられてたって気付かねえぞ。
「・・・すべてのスイッチに触るのが恐ろしすぎる。自爆ボタンとかありそう」
前と一緒なのは、精々アクセルにブレーキ、それにクラッチくらいのものだ。
ハンドルは・・・あるが・・・
「『爆』と『電』ってなんだよ・・・うお!?クラクションの部分に『閃光』スイッチまで!?」
以前のハンドルとはちょっと違う、どちらかというとスポーツカー仕様めいたそれには・・・無数のボタンが配置されている。
どれもこれもろくでもなさそうな代物だ。
うん、大木くんに聞くまで誰も乗らないように鍵をかけておこう、そうしよう。
ないとは思うが、子供が乗って誤作動でも起こしたら高柳運送が灰になる可能性すらある。
「ひん」
「うおっ!?・・・どうした、水か?」
変わり果てた愛車で黄昏ていると、開けていた窓から仔馬が顔を突っ込んできた。
「ぶるる」
「あばばばばばばば」
喉が渇いたのかと思いきや、仔馬は俺の顔をベロベロ舐める。
・・・そういえば、動物が人間の顔を舐めるのは塩気があるからだって聞いたことあるな。
岩塩的な物も探した方がいいんだろうか。
「ひひん」
「遊んで欲しいのか?はいはいわかったよお姫様」
顔を舐めた後、仔馬は俺のシャツを噛んで引っ張る。
ここでこうしていても何にもならんし、遊んでやるとするか。
そういえば馬って・・・どうやって遊ぶんだろうか。
まあいいか、とりあえず撫でまわしてやろう。
ブラシも専用のを持ってきたんだしな。
とりあえず、愛車からは出ることにした。
・・・説明書でもあればいいんだがなあ。
・・☆・・
ひとしきり仔馬を撫でたりブラッシングしたりした。
途中からなーちゃんが乱入したり、何故か朝霞が乱入したりという珍事はあったが・・・おおむね仔馬は満足そうだった。
今はヴィルヴァルゲと一緒に馬房でのんびりと立ったり眠ったりしている。
母親の方もすっかりここに慣れたようで、初めのころのように警戒している姿は見られない。
少しは俺達を信用してくれたのだろうか。
俺はともかく、七塚原夫婦は甲斐甲斐しく世話をしているし、当然といえば当然かな。
先輩たち、本当に馬が好きなんだなあ。
そういえば隣の休耕田はすっかり様変わりをし、今では立派な放牧地へと変貌している。
ここにいるのが得策だと理解したのか、馬たちは逃げる素振りすら見せない。
ここから放牧地へ移動する時なんか、引き綱を用意しなくても横を歩いておとなしくついてきてくれるし。
「おはようございまう」
「まだ寝てていいんだぞ、晩飯の時間くらいに起こすから」
「んにゃ、いいです。これ以上寝ると夜眠れなくなって生活リズムガバガバになっちゃうんで・・・」
で、そんなことをしていたら大木くんが起きてきた。
まだ3時間くらいしか寝ていないけど大丈夫なんだろうか。
足元フラッフラだけど。
「なら丁度いい、慣らし運転の前に魔改造された運転席周りの説明が欲しいんだけども・・・」
「あ~・・・忘れてましたよ。ちょっと待ってくださいねー」
大木くんはフラフラのまま軽トラに乗り込み、ダッシュボード辺りを探っている。
あそこには何も入っていないはずなんだが・・・?
「はいこれ、説明書ですよ~」
「マジであった!?」
大木くんは手作りっぽい小冊子を片手に戻ってきた。
さっきは冗談で思ったけど、本当に作ってたのか・・・
なんというマルチな才能・・・
「っちゅうても特に特殊な機構とかそんなにないんですけどね、そんなに時間なかったんで・・・」
「・・・ハンドルまわりの謎スイッチは?」
「えーっと・・・後方向けのグレネードと閃光弾、それと車体に電流流すスイッチです」
・・・グレネードはさっき聞いたけど、残り2つは初耳なんですが。
時間云々言ってるけど、この短期間でよくもまあ・・・
コイツ本当に・・・味方サイドでよかった・・・!!
こんなん『レッドキャップ』にいたらウチの県壊滅するだろ。
鍛治屋敷のカミさんもいるんだし。
「あ、でも電流は今封印中ですよ。出力が安定しなくてバッテリーが一瞬で死ぬんで、外付けのやつに改造するつもりです・・・すいませんね」
「普段使いしない機能だから全然かまわんが」
「え?電流結構便利ですよ?盗み目的のチンピラとか即死するんで」
「普段使いしてるんか・・・」
のほほんと外出しているように見えて、意外と修羅場を潜っているらしいな大木くんは。
そういえば鍛治屋敷を遭遇して生き残ってもいたし。
危機察知能力はかなり高いなあ。
「自衛隊関係が許してくれれば、屋根にキャノン砲とか付けたいですけどねえ・・・さすがに砲関係は3Dプリンタでは作れないんで」
「キミは俺の車をどうしたいんだ」
「30メートル級の複合合体ゾンビとか出たら役に立ちますよ」
「その時は〇ンダムとか〇ルトラマンの出現に期待するわい・・・そういうのは戦車とかが先でしょ、出番は」
「南雲流秘奥義ビームサーベルとかないんですか?」
「ねえよ」
そんなもんあったら鍛治屋敷も即輪切りにしてるっての。
それにしても、大木くんとの会話はなんか漫才感あって楽しいな。
「ま、適当に読んどいてくださいよ・・・今はそんなに危ないものは積んでないんで」
「この先搭載するかもみたいな含みはやめてくれないか・・・ちなみに候補は?」
「地上用ロケットブースターとか格好よくありません?」
「やめてくれないか・・・」
市街地でそんなもん使ったらロケットどころかお星さまになっちゃうだろ。
「いやあ、最近次から次へとインスピレーションが湧いて湧いて・・・ふへへへ~」
大木くんは照れくさそうに頭を掻いて、近くに寄ってきたソラをひょいと抱き上げた。
「ソラくん用に10メーターのキャットタワーとか作ろうかな~?それとも滑り台かなあ~いだだだ!!ノウ!!やめて!!アイアムサレンダー!!」
「フシャー!!」
そのまま愉快そうにクルクル横回転しつつ、キレたソラに連続猫パンチを喰らっている。
うーん、自由人。
人生超楽しそう。
・・・俺もその端くれだが、大木くんはこの状況にバッチリ順応しつつも大いに楽しんでるよなあ。
前にも思ったが、さぞ平時では生きにくかったに違いない。
「次は何をつっくろうかな~!!」
頬にソラの爪痕を付けても、大木くんは心から楽しそうに笑っていた。
・・・幸せそうで何よりである。
・・☆・・
「さあ、行くぞイチロー!」
「タノシミ!!」
「知ってた・・・いや知らないな!?なにこの状況!?狭い!!軽トラが狭い!?」
翌日。
俺は新生軽トラの運転席で頭を抱えていた。
デジャブぅ・・・!
「おやあ?こんな美女を2人も侍らせているスケベの顔ではないなあ?どうしたどうした?」
「ドウシター?」
濡れ衣・・・濡れ衣でござる!!
軽トラの助手席には、いつものようにニヤニヤ笑うアニーさん。
そして・・・
「『作戦行動以外での外出なんか久しぶりね!愛してるわよイチロー!!』」
後ろのスペースに、キャシディさん。
どうしてこうなった・・・日本人が俺以外いないじゃないか。
「・・・田中野さん」
外から神崎さんが声をかけてくる。
本来は助手席に乗るのは彼女だったはずだが、急な予定とやらでキャンセルになった。
責任感からか、苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「同行できず、本当に心苦しいですが・・・心苦しいですが!くれぐれも!くれぐれも!!お気をつけて!!」
「は、はい!」
目が怖い!すごく怖い!!
「ははは、安心しろリン。イチローの安全は私に任せておけ!」
「・・・はい、本当に、よろしくお願いします・・・」
どん、と胸を叩くアニーさんに・・・神崎さんは何故かジト目で答えた。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
神崎さんにそう言い、エンジンをかける。
以前と比べてかなり重々しい音がして、車体が震える。
・・・大木くん、すげえなあ。
仔馬に手を舐め回される大木くんを遠くに見ながら、俺は神崎さんに手を振りつつ軽トラを発車させた。
さあ、行くぞ・・・久々の詩谷だ!
楽しそうに何事かを話し合う外国人2人の声を聞きながら、新生愛車のハンドルを握った。




