8話 竜庭牧場のこと 前編
竜庭牧場のこと 前編
「こっちには来たことなかったなあ」
「まあのう、この先には牧場しかないけえな」
「このトラックでもなんとか通れそうですね」
俺と七塚原先輩、それに神崎さんが思い思いに呟いた。
馬の親子を高柳運送で保護した俺達は、馬房の準備を残りの人員に任せてすぐに中型トラックで出発した。
というか、ほとんど大木くんに任せる形となった。
『任しといてくださいよ!三ツ星ホテルも真っ青な素敵空間を作ってやります!!』
ヴィルヴァルゲやその子供に並々ならぬ思い入れを持つ大木くんは、かつてないほどのやる気を漲らせながらそう言った。
・・・働きすぎて倒れなきゃいいんだがなあ。
今この瞬間にも木材屋との往復作業を続けているんだろう。
ともかくまずは馬たちが座ったり寝たりする空間を作るのが先決だとも言ってたしな。
「大木くん大丈夫かなあ・・・」
「アニーさんたちもいますから、大丈夫だと思いますが」
「のめり込むタイプじゃろうしのう・・・お、そこを真っ直ぐじゃ」
了解っと。
いつもより格段に重いハンドルを持ち、山へと続く一本道を走る。
この手前を曲がれば、いつか行ったライスセンター方面だな。
この先は分岐ナシの、迷う要素はない。
俺達は、あの馬たちがいた牧場を目指している。
第一目標は、生存者や動物たちの確認。
第二目標は・・・というかこっちが本命なんだが、馬の世話に使う用具やら飼料やらを回収することだ。
もちろん、無人もしくは壊滅していることが前提だがな。
もしも生き残りがいれば馬を返還することもやぶさかではないが・・・その可能性は薄いと思われる。
この状況で馬の飼育をしようっていう酔狂な人間が、俺達以外にいるとも思えないしな。
トラックは軽快に走り続け、やがて前方に看板が見えてきた。
『竜庭牧場 あと1キロ』
観光牧場じゃないので簡素な看板である。
この先はまるで山に入っていくような緩い上り坂だ。
竜庭牧場は、山を切り開いて作られた大規模な牧場らしい。
その歴史は古く、俺の爺さん婆さん世代がまだ若い頃に建てられたとか。
「・・・田中野さん、少しスピードを緩めてください」
神崎さんが不意にそう言ってきた。
とりあえず20キロ前後で走るか。
「・・・」
神崎さんは助手席の窓から身を乗り出して路面を確認している。
俺と先輩は邪魔になっても悪いので黙って待機しておくことにした。
ちなみに先輩は運転席の後ろにある仮眠スペース?にいる。
天井に頭がつっかえていかにも狭そうだが、面積的に仕方がないので我慢していただきたい。
「・・・轍が比較的新しいです。ここ数週間に車の出入りがあったのは間違いありませんね・・・角度と深さから見て、トラックもしくはマイクロバス程度の車でしょう」
さすが神崎さんだ。
轍の新旧なんて全然わからんぞ。
浅い深いくらいはなんとかわかるけども。
「ふむ、壊滅しとるっちゅう心配はなかろうが・・・気を付けにゃあいけんの。『元々の』住民とは限らんけえな」
「ですね、俺達みたいに外からやってきた連中かもしれませんし」
それが避難してきた一般人ならさほど危険はないだろうが・・・それ以外なら。
あーやだやだ、鉄火場は遠慮したい所なんだがな。
贅沢は言っていられないけど。
「・・・神崎さん、念のためじゃけえ顔を隠しときんさい。わしらぁ男連中はこのままでええがのう」
「了解しました」
神崎さんは足元に置いた背嚢からゴーグルとマスクが合体したものを取り出してヘルメットに装着する。
牙島時代のアニーさんを思い出す姿だ。
「・・・あ、あの、どうしましたか田中野さん」
「えっ、ああいや・・・やっぱ神崎さんはカッコいいですね!」
「・・・ソウデスカ」
なにやらソワソワした神崎さんにそう返すと、何故か後ろから先輩に叩かれた。
なんでさ。
「・・・すまんのう神崎さん、ポンコツな弟弟子で」
「いいえ、それも美点ですから・・・(もう慣れましたし)」
なんで2人揃ってなにか納得してるんですか。
俺だけ置いてけぼりなんですけど!?
「余所見すんな。事故るで」
「アッハイ」
理不尽・・・理不尽じゃない?
だが俺は何も反抗せずに、重いハンドルを握るのだった。
・・・藪蛇、藪蛇。
「門は・・・特に問題ありませんね」
神崎さんが、目の前にある頑丈そうな門を見る。
『竜庭牧場』と書かれた看板が取りつけられたそれは、見たところ目立った損傷はない。
あれからしばらく走り続けると、木々の切れ目からお目当ての牧場が姿を現した。
広大な敷地が、山々の隙間にでーんと切り取られたように鎮座している。
「すごい規模だったんだなあ・・・知らんかった」
原野よりも山深い場所にこんな大規模な牧場があるなんて。
「ここら辺は標高のお陰で夏も若干涼しいしのう・・・馬は寒さにゃあ強いが、暑さには弱い。牧場を作るとすりゃあ、絶好の立地よ」
確かに高柳運送よりも涼しい気がする。
窓から吹き込んでくる風が明らかに冷たい。
「へえ、馬って暑いの駄目なんですか」
「ほうよ、熱中症で死ぬこともあるしのう。特にサラブレッドは品種改良された高速種じゃ、元々の野生馬よりも繊細じゃけえな」
ふうむ、そうなのか。
熱中症は怖いな・・・子供たちも合わせて気を付けとかなくちゃいけないなあ。
まあ井戸はあるし川も近い、定期的に水浴びとかしとけば大丈夫だろう。
馬たちにも水・・・だけじゃ駄目だから、塩も必要だな。
そこらへんに岩塩の鉱床とかないかなあ・・・
「ここにいる住人が安全かそうでないかはまだわかりませんが・・・数はさほど多くなさそうです。見てください、奥の方の放牧地を」
神崎さんが指差す方向を見る。
・・・いや、これと言ってなんてことはない普通のだだっ広い原っぱの敷地なんですが。
「・・・草が生えっぱなしじゃな。なるほど」
先輩は1人で納得している。
あの・・・なんで・・・?
「定期的に馬を放牧しとりゃあ、食って草も短くなるじゃろう?放牧地にゃあ馬が食える草が植わっとるもんじゃけえな」
「あ、なるほど」
「それがあれほど伸び放題になっとりゃあ、馬が死んだか逃げたか・・・そのどっちかじゃろう」
牧場の様子を見るに、大規模な襲撃があったようには見えない。
でも・・・
「それに、馬の姿が見えません、鳴き声も。これ程の規模の牧場だというのに、これほど静かなのは・・・」
神崎さんの声に不安そうな雰囲気が加わった。
今は顔色がわかんないからな、察するしかない。
確かに異様なほど人気がない気がする。
今は昼間だから外で作業する人がいても不思議じゃないのに・・・
まるで、ぽっかり生き物だけ消えたみたいな不気味さがある。
「ほうじゃのう、こりゃあきな臭いで・・・ぬ」
「・・・む」
開けた窓から風が吹き込んできた。
俺が体を硬くしたと同時に、先輩も今までの雰囲気から一変した。
「きな臭い、どころじゃないですね・・・先輩」
「おう、嫌な予感が当たったのう」
遅れて神崎さんが気付いたらしい。
マスクをずらして鼻を露出している。
「田中野さん、七塚原さん、これは・・・」
「―――ええ、血の臭いがします。それも、大量の」
風に乗って俺たちに届いたのは、すっかり嗅ぎ馴れた臭いだった。
「・・・かすかに腐敗臭もしよる。気を引き締めにゃ、いかんな」
先輩がそう言いつつ、足元に置いていた八尺棒を握り締めた。
トラックを門の前まで移動させた俺達は、全員降車した。
備え付けてある来客用のインターホンを押すが、案の定電気は通っていない。
「わしらぁが前に出る。神崎さんは後方から目を光らせといてくれ」
「了解しました、お任せください」
門に手をかけた先輩に、神崎さんがライフルを油断なく構えて安全装置を外した。
「先に中の様子を確かめにゃいけんな。トラックは置いていくで、小回りが利かん」
「了解です」
兜割を引き抜き、片手に持つ。
俺の様子を見た先輩が、門にかけた手に力を入れる。
「あっ手伝いまs」
「ぬうううう・・・!!!」
平時には明らかに電動で開くだろうデカくて重そうな門が、先輩の片手によって重々しい音を立てて開いていく。
・・・嘘でしょ。
なんで片手で動くんだよ・・・さすが先輩だぜ。
勢いのついた門はゆっくりと、だが完全に開いた。
「臭う、の」
「ええ」
敷地に踏み入れたことで、より一層臭いが濃く、強くなった。
間違いない、ここで大量に何かが死んでる。
門から一直線に続く道の向こうには、いくつかのコンテナめいた建物群があり、その後ろには大きい厩舎。
さらに厩舎の後ろや横は広い放牧地になっている。
厩舎の近所にはまた別の大きい建物がいくつもある。
居住地や倉庫とかそういう感じなんだろうか。
・・・ここは、高柳運送からさほど離れていない場所だ。
ゾンビがいるなら駆除するし・・・もしも危険な人間が隠れているようなら。
どちらにせよ、『駆除』しないとな。
「・・・左前方、おおよそ10時の方角。今何か動きました」
神崎さんの声に視線を動かす。
あれは・・・たぶん事務所か?
たしかに締め切られたカーテンが動いた。
電気は来ていないし、あの事務所の窓は開いていない。
だとすると、中に何かいる。
「いつでも撃てるようにだけ、しておいてください」
俺はそう言い、先輩の後について歩き出した。
血の匂いは、どんどん濃くなっている。
「だ、誰だ!?」
もう少しでたどり着く・・・というあたりで、事務所の窓が開いて男が顔を出した。
上下繋ぎの作業服を着た、50代ほどのおじさんだ。
手には、威嚇のつもりなのか大きな草刈り鎌を持っている。
いきなり先輩みたいな大男が近付いてくれば慌てもするだろう。
「ここは私有地だ!あんたらいったい何の用事だ!?」
「すまん!わしらあは自衛隊に言われて周辺の案内をしとるもんじゃ!!」
おじさんの声にかぶせるように、先輩が大きく声を張り上げた。
案内・・・?いやまあ、そう言った方が説明も楽だしな。
嘘ではない、嘘では。
「自衛隊・・・自衛隊だって!?」
おじさんは驚いて声を上げると、俺達の後ろでライフルを構える神崎さんに気付いて目を丸くした。
「はい、神崎二等陸曹です。周辺区域の偵察に派遣されています」
神崎さんは即座に先輩の嘘に乗った。
ライフルを持ったまま片手で軽く敬礼したその姿に、おじさんが少しだけ体の力を抜く。
「自衛隊の方でしたか・・・ありがたい!この騒動で難儀していまして・・・」
「ええ、最近情勢も安定してきましたのでやっと偵察任務の許可が下りました」
流石国家公務員、自衛隊の信頼度は抜群だ。
・・・まあ、俺達が怪しすぎるだけかもしれないがね。
先輩は八尺棒だし、俺は兜割と脇差、それに日本刀まで持っている。
どう考えてもカタギの人間には見えないだろう。
「それで、少しお話をお伺いしたいのですが・・・」
「ええどうぞ!入ってください・・・あっ!少々お待ちを!鍵を開けますので!!」
おじさんの顔が引っ込む。
「田中野、少しだけわしに任せてくれ」
「はい。・・・何かありましたか?」
「勘じゃ、勘」
先輩の小声に、俺もまた小声で返す。
何か考えがあるんだろう。
「神崎さん、よろしゅう頼むの。ほんのちょっとじゃけえ」
「了解しました」
「どうぞ!入ってください!」
俺達の密談が終わったその後にしばらく待たされ、やがて扉が開いておじさんが顔を出した。
・・・なんかちょいと違和感がある。
なにかはわからんが。
兜割を腰に戻し、脇差をいつでも抜けるように調整した。
狭い範囲だとコイツが頼もしいからな。
プレハブに入ると、そこは本当に事務所のような空間だった。
10畳ほどの空間に、オフィス用品が並んでいる。
室内にはさっきのおじさんと、若い男が2人。
「どうぞ、おかけになってください」
おじさんが指し示す場所には来客用らしき大きなソファとテーブル。
配置から言えば、扉から入ってすぐにテーブルがあって、後ろの壁際に事務机やらがある。
「ありがとうございます」
神崎さんがそう言ってマスクを外すと、後ろにいる若者2人が表情を変えた。
隠しているつもりらしいが、目にいやらしい光が宿るのが見えた。
・・・ふうん、違和感追加だな。
一般スケベ住人かもしれんから、確定ではないが。
神崎さん美人だからなあ、男なら仕方ない・・・か?
神崎さんはライフルから手を放してソファに座る。
一見武装解除したようだが、俺達から見える範囲の後ろ腰にはいつもの拳銃がある。
何かあれば即座に引き抜けるような状態だ。
「お連れの2人は・・・」
「わしらはええ。じゃけど、ちいと聞きたいことがある」
おじさんの誘いを断り、先輩が口を開いた。
「はい?なんでしょう?」
さっきとは大違いの態度だ。
まあ、自衛隊の連れだもんな。
だけど神崎さんの格好が迷彩服だからって信用しすぎじゃない?
ああ、ライフルがあるからかな?
「いや、大したことじゃなあ。わしゃあ八千代田の『楽座農園』の者なんじゃけど・・・」
「は、はあ・・・」
先輩が嘘の身分を名乗る。
八千代田ってのは秋月よりもさらに奥にある町だ。
農園の名前は聞いたことがないが・・・
「おじさんはここでもう長いんか?オヤジの代からここにゃあ屑野菜を卸しとるが、会ったことがあるかのう?」
「ああ、私は他府県での牧場勤務が長くってね。ここに配属されたのは今年の4月なんだよ・・・着任早々大変だよ、本当に」
『竜庭牧場』は、ここだけではない。
先輩からの聞きかじりだが、本社は他府県にあるし同じ名前の牧場も全国にある。
ここの経営者は国内でも有数の資産家なのだ。
ここの牧場は競走馬関連のもので、しかも繁殖牧場らしい。
つまりは、母馬と仔馬のための養育場みたいなもんだ。
本格的な訓練やなんかをする場所はまた別らしい。
スケールのデカさに聞いた当初はビックリしたもんだ。
「ああ、そがいでしたか。ところで佐山さんはお元気にされとりますか?前にお目にかかった時はお孫さんの写真を見せてもらえましたが・・・」
「いや・・・その、彼はこの騒動で亡くなられましてね。私たちもなんとか生き残るだけで精一杯で・・・」
「なんとまあ、そりゃあご愁傷様です。ほいじゃあ、あん人が可愛がっとった『ブレスファウンテン』の親子は元気にしとりますか?」
なにやら今度は馬の話が始まった。
なんか縁起のよさそうな名前だなあ。
「・・・ええ、ええ、あの親子なら元気にしていますよ!馬は我々にとって財産ですからね!!」
先輩から殺気が放出され―――それからの動きは一瞬だった。
先輩は即座に踏み込むと、立派なテーブルを思い切り蹴り上げた。
そのテーブルは恐ろしい勢いで飛び、壁際でニヤつく若者2人に激突。
オフィス用品も巻き込んで崩落を引き起こした。
「えっ?なぁがっ!?」
そして呆気に取られたおじさんに肉薄し、その鳩尾を素早く殴りつける。
どむ、とまるでタイヤでもぶったたいたような音が響く。
「―――動くな!!」
神崎さんは立ち上がりながら拳銃を引き抜くと、壁際でテーブルに挟まれた男2人にそれを向けた。
・・・動くなって言ったけど、たぶん動けないと思いますよ。
2人とも白目剝いてるし。
テーブル、胸にぶち当たってたもんなあ・・・即死してなきゃいいけど。
「っま、まで、な、なに、なにを・・・おぶっ!?」
先輩のパンチを喰らって前のめりになり、床に吐しゃ物を撒き散らしていたおじさんは、その首を掴まれた。
窒息しないような握り方だが、逃げることもできない。
「笑わすなや」
先輩は床にしゃがんでいたおじさんを片手だけで引っ張り上げ、音を立てて壁に押し付けた。
「ひ、ひぎ・・・!?」
至近距離で先輩の殺気を浴びたおじさんは、さっきまで真っ赤だった顔色を一瞬で蒼白に変えた。
「八千代田に『楽座農園』なんちゅう場所は無い、ここに佐山っちゅう人間もおらん」
「っなぁ・・・あ・・・」
先輩の手に力が籠り、おじさんは壁に沿ってさらに上へ押し上げられた。
足が宙に浮いている。
「極めつけはのう・・・『ブレスファウンテン』がおるんはここの牧場じゃなあ・・・別の馬主の馬じゃけえ、当たり前じゃ」
あ、そうなの。
何もわからんかった。
「仮にもこの牧場で・・・いやこの業界で働いとったならどれもこれも常識じゃろう?・・・さあ、おまーは、どこのどいつじゃ」
「げひぃっ・・・!?」
ほんの少しだけ先輩の握りの種類が変わった。
今までと違い、気道を締める動きだ。
「あがっ・・・!?」
「答えい、おまーはどこのどいつで、ここにおった人らあはどうなった・・・!!」
先輩が尋問する間に、詳しく室内を観察する。
さっき感じた違和感・・・あれはいったい・・・
・・・あ!!
若者2人がいた辺りに、黒い物体が落ちている。
あれは・・・!
「無線機だ!神崎さん、こいつらどっかと連絡を取ってたんだ・・・!」
神崎さんに声をかけつつ、俺達が来た方とは逆の窓に走る。
閉まっているカーテンを揺らさないように注意しながら端に寄り、そっと覗き込む。
厩舎の方向から、10人の集団が歩いてくる。
どれも男で、中の3人が手に銃らしきものを持っている。
あれは・・・猟銃!
「こっちに10人来ます!うち3人は猟銃っぽいものを持ってる!!」
そう叫ぶと、神崎さんがすぐに俺の横へ来た。
すぐに場所を譲る。
「・・・狩猟用の散弾銃ですね。ここから狙撃します、タイミングはお任せください」
頼もしい神崎さんの声に頷き、各種装備の最終点検をする。
「結局ここでもドンパチかあ・・・頼むぜ相棒」
『魂喰』の柄をぽんと叩く。
今回も大活躍することになりそうだな。
「―――10人の後方にも増援を確認!数、およそ20!!」
「了解!・・・先輩!」
「ひぃひ・・・はははは!!!」
先輩の方を向くとおじさん・・・オッサンが宙に浮いたまま急に笑い出した。
どうした急に。
こわっ。
「お前らはもう終わりだよ!う、腕自慢だろうが、数にかなうもんかァ!!」
「おう、そがあか」
オッサンが顔を歪めると、さっきの人のよさそうな顔から一変して人相が悪くなった。
「舐めてんじゃねえぞ小僧ども!『瀧聞会』敵に回してよ、生きて帰れると思ってんのか!?ああん?」
・・・随分と懐かしい名前が出てきやがったな。
鍛治屋敷に壊滅させられたと思ってたが、まだ生き残りがいたのか。
マジでゴキブリといい勝負じゃないかな。
「後方20名のうち、5名が銃器を所持!・・・おそらく密造のアサルトライフルです!!」
マジか。
意外と充実してんなあ、装備。
「聞いたろうが!?おい!今すぐ手ェ放せってんだよ木偶の棒!!今降参すりゃあ命だけは助けてやるァ!!!」
急にオッサンが元気になったが、そんな見え見えの嘘に引っかかるわけないだろうが。
さっきの若造2人の反応を見るに、神崎さんに限っては『命だけ』は助かるかもしれんがね。
そんなことをさせるつもりはサラサラないけども。
「田中野ぉ、神崎さんの射撃に合わせてわしらあは裏から回るで」
「うっす、了解です」
俺達が一切動じていないのを見て、オッサンの声が大きくなる。
「っふ!ふざけんじゃねえぞオイ!歯向かうつもりだってんなr」
ごぎ、と鈍い音がした。
おっさんは先輩に喉を握り潰されて、目を限界まで見開いた。
「こはっ!?あ、ごぉお・・・!?!?」
「ふざけとるんは、おまーじゃ」
痙攣し、力が抜けていくオッサンに先輩が顔を近づける。
「ご丁寧に自己紹介してくれてすまんのう・・・おまーらは、片っ端からわしらあが皆殺しにしちゃる」
もう一度、今度は枯れ木が折れるような音が響く。
頸椎を捻り折られたオッサンが白目を剥き、息を漏らして全身を弛緩させた。
ひええ・・・片手で首って折れるんだァ・・・
「馬にも、子供らあにとっても厄介な相手をはよう見つけられてえかったのう」
オッサンの死体を床に放り捨て、先輩が歯を剥き出しにして笑う。
「やるで、田中野」
「ええ、やっちまいましょう」
俺も、来る戦いに備えて『魂喰』を抜刀した。




