5話 新規ご近所さんのこと
新規ご近所さんのこと
今日も今日とて暑い。
そろそろザーッと雨でも降ってほしい所だが、お天道様は俺の願いなどガン無視で元気である。
こんな陽気に外を探索して熱中症になってもつまらないので、俺はいつものように屋上で稽古兼周辺の偵察を行っている。
古保利さんから急な連絡もないし、休める時に休んでおかないとな。
そして、いつもなら1人だが今日は可愛らしいお客さんが2人いる。
葵ちゃんとカイトだ。
大き目の双眼鏡を1つずつ持ち、俺の横で仲良く偵察をお手伝いしてくれているのだ。
・・・まあ、偵察というか動物ウォッチングというか・・・暇つぶしみたいなもので緊急性はない。
駐車場からは子供たちの楽しそうな声がする。
今日は暑いのでプールだ。
まあ、毎日そうなんだが。
熱中症は怖いしね、こういう所で対策しとかないと。
引率は璃子ちゃんや朝霞がやってくれているので大丈夫だろう。
昨日泊まったエマさんとキャシディさんもいるし。
・・・あの人たち帰らなくてもいいのかな?
まあいいか、子供たちも喜んでるし。
じゃあ葵ちゃんたちが何故ここにいるかというと・・・息抜きだ。
2人は子供たちの中では年長で、まとめ役っぽい立ち位置にいる。
えーっと、たしかカイトが小学2年生で・・・葵ちゃんが3年生だったかな?
ともかく、年長の彼女たちは日頃彼女たちなりに気を張っているようなのだ。
大人も大勢いるが、やっぱり子供たちの中ではお姉ちゃんお兄ちゃん。
俺達にはわからない気苦労もあるのだろう。
というわけで、いつも大変な2人にはたまにこうして子供たちから離れてリラックスできる時間を提供することにした。
高柳運送は他の避難所と違って子供を遊ばせておく余裕なんて・・・むっちゃあるしな!!
仕事を割り当ててもいないが、率先して働いてくれるのが心苦しいけども。
だから、俺達大人が率先して遊ばせてやるのだ。
他の避難所なんて知ったことか、ここは俺の第二の城である!(借家)
・・・第一の城?そりゃ詩谷の実家だよ。
今度様子を見に行きたいもんである。
「おじちゃーん、キツネさーん」
おっと、考え事をしていた。
「お、昼から出てきたか。どこ?」
「でんしんばしらの、よこー」
葵ちゃんの声に従って単眼鏡を向ける。
田んぼのあぜ道か・・・あ、いたいた。
確かに雑草に隠れるように、キツネの家族がいる。
ひいふう・・・4匹ね。
たぶん、おかあちゃん1匹と子供3匹だな。
前からここらへんで見かける家族かな?
「かわいいね~」
「だなあ、家族みんなで幸せそうだ」
じゃれつく子狐を舐めて毛づくろいしている母狐を見て、俺の顔はほころんだ。
「せんせー!たぬき!たぬきもいる!はんたいがわー!」
今度はカイトが叫んだ。
たまに剣術もどきを教えてるからって、無理に先生呼びしなくてもいいのにな。
だけどかたくなにやめてくれないから仕方がない。
ええっと・・・いた。
あっちは5匹・・・家族か。
「ケンカするかなあ?」「だいじょぶかなあ?」
葵ちゃんとカイトは心配しているが、まあ大丈夫だろう。
「心配しなくても大丈夫さ。人間が減ったから食うものもいっぱいあるし、縄張りだってむっちゃ広いんだ・・・わざわざ喧嘩なんかしないよ」
俺がそう言った通り、母狐と母狸は田んぼを挟んで視線を合わせ・・・両方特に警戒もせずに視線を外した。
やっぱりな。
お互い子供を抱えて、無益な争いは望まないらしい。
俺達人間より野生動物の方がよっぽど賢いぜ。
「ほんとだー」「せんせーすげー!」
「全然すごくないだろ。すごいのは2匹のおかあちゃんだ・・・喧嘩は腹が減るだけで何の得にもならんってこと、両方知ってるのさ」
俺がそう言うと、2人は感心したように溜息をついた。
「そとのおとなはだめだな~」
「キツネさんたちのほうがかしこい、ねー」
子供たちは今まで散々な目に遭っている。
なにせ『みらいの家』に避難所を襲撃されて、大人たちが殺し合いをしている所を目撃しているのだ。
立派な大人たちは、そこでみんな殺されてしまった。
残ったのは、人の命なんてカスとしか思ってないようなキ〇ガイ宗教団体だけ。
ここに来てからも、何回もチンピラに襲撃されている。
大人を懐疑的に見るようになるのは仕方ない。
野生動物の方がよっぽど平和的に見えるのだろう。
「そうだそうだ、大人だからって偉いわけじゃないんだ。間違いもするし悪くもなる・・・お前たちは優しくって強いちゃんとした大人になってくれよな」
この子たちを俺に託して死んでいった、あの警官を思い出す。
彼の死に際の一言も、そんな感じだった。
「みんなが大きくなるまでは、おっちゃん達が頑張るからな。なんの心配もしないで毎日遊んだり畑仕事したり、好きなようにしてりゃいいんだよ」
せめて、ここだけでもな。
国中にいる子供たちは無理だが、せめて。
「やさしくってつよいって、せんせーのことでしょ!」
「おじちゃんたちみたいに、なればいいのー?」
「・・・さあ、どうだろうなあ。それも含めてゆっくり考えて大きくなりゃ、それでいい」
2人の向ける視線があまりにも眩しくて、俺は苦笑いしながら誤魔化すように頭を撫でた。
いささか乱暴だったが、2人は嬉しそうに目を細めた。
・・・俺は間違っても立派な人間じゃないけど、それでも。
子供たちが大きくなる手助けくらいは、できるだろう。
いや、それくらいのことはしないとなあ。
死人の頼みは、断れないもんな。
―――りぃん
「あは、タマちゃんがうれしそう!」
「いまりぃんってわらった!」
「・・・ははは」
テーブルに立てかけた『魂喰』を見て2人が笑っている。
・・・そうなのだ。
今までずうっと幻聴だと思い、最近では受け入れつつあるあの鈴の鳴るような音。
それが子供たちには、俺と同じようにハッキリと聞こえている。
きっかけは、俺がここに帰って来た次の日のこと。
葵ちゃんが不思議そうに発言したのだ。
『おじちゃん、かたなのすず、取っちゃったのー?』
俺が『?』という顔をしていると、他の子供たちも口々に言ってきたのだ。
『ほんとだ!』『せんせーがたたかいに行くときには、りんりんなってたよ!』『おとした?おとした?』
どうやら子供たちは、俺が『魂喰』に鈴でも付けてると思っていたようだ。
それくらい、はっきりと聞こえていたらしい。
『あれ?マジじゃん!にいちゃん、新しいの探しに行こうよ!あーしも行く!』
『待って朝霞おねーちゃん!私何個か持ってるよ~!』
・・・朝霞と璃子ちゃんにも、どうやら聞こえていたようだ。
慌てて高柳運送の全員に確認したところ、なんと全員が聞いたことがあるという。
よかった・・・俺の脳がおかしくなったわけじゃないらしい。
・・・よくない!!
えっなにこの刀は・・・あ、そっか妖刀か。
『妙な気配はしとったが、子供らあに何か悪させんならええじゃろ』
『子供好きな刀なんですねっ!私も仲良くなれそうです!』
・・・主に七塚原夫妻の順応力が高すぎる不具合。
しかし、他のみんなも全然気にしてなかったようだ。
『今更だろうイチロー?大量発生した謎のゾンビに比べたら、綺麗な音を出す子供好きのカタナくらいなんでもないじゃないか・・・勝手に動くわけでもなし』
という、アニーさんの言葉に俺もなるほどと納得してしまったのは事実だが。
確かになあ・・・同時多発的に発生した謎虫に比べたらなあ・・・
『だから何?喋ったら教えて田中』
とは後藤倫パイセンのコメントである。
・・・動じねえなあ、この人。
『子供に害を成すようなものを、中村先生がお譲り下さるわけはありませんから』
神崎さんはそう言って微笑んでいた。
・・・そういえばそうだった。
あのおっちゃんがそんなもの出すわけはない、か。
ていうか譲られたわけじゃないんだけどね!?
今度、おっちゃんにも音が聞こえているかどうか聞いてみよう。
この刀のもっと詳しい謂れとかも。
そう俺は決意したのだった。
というわけで、『魂喰』は子供たち含め住人全員に受け入れられている。
だが『たまばみ』というのは呼びにくいそうでもっぱら『タマちゃん』と呼ばれているが。
・・・急に国民的人気アニメの飼い猫みたいになったな、相棒よ。
「あ、ここ汚れてるー」
葵ちゃんがタオルで鞘を拭っている。
埃が付いていたようだ。
気付かなくて申し訳ない。
「タマちゃん、きれいね~」
「ちがうよ!つよそうっていったほうがよろこぶよ~」
「きれいでもいいでしょー?」
「うーん・・・せんせー!どうなの!?」
「さあなあ・・・どっちでも喜ぶんじゃないか?なあ?」
子供2人に優しく持たれている『魂喰』に問いかけてみた。
さっきのように音は鳴らなかったが、その姿はどこか喜んでいるように見えた。
「本当は、俺の腰なんかじゃなくって床の間に飾られてる方がいいんだろうけどなあ・・・お前も」
コイツが斬るような外道なんていない方が、子供たちが過ごしやすい世界だと思う。
たぶん、『魂喰』も。
これを打った迅雷先生も。
そう望んでいることだろう。
だが、現状はそうもいかん。
俺も、コイツも。
斬るべきものは斬らねばならんのだ。
「タマちゃん、あついからかげにはいりましょうね~」
「したにタオルしこーよ、葵おねーちゃん!きれーなの!」
・・・この子たちが安全に過ごすためなら、なあ。
何人だって、何百人だって刻んでやらあ。
そうだろう?相棒。
「なんにも、いないねえ」「ねー、むししかいない」
「そんなに一生懸命探さんでもいいぞ、目も疲れるだろ?ホラ休憩した休憩した。なんならサクラと泳いできてもいいぞー?」
その後も飽きることなく偵察を続ける2人に、そう声をかける。
熱心過ぎるだろ・・・子供ってもっと飽きっぽい感じじゃなかったっけ?
真面目というか、まだ強迫観念でもあるんだろうか。
子供なんだから、働かなくても捨てたりしないってのに・・・
「あ!おーきのおにいちゃん!」
「ほんとだ!おーい!おーい!」
その声に見てみれば、硲谷方面からこちらへ向かってくる大木バイクの姿が。
へえ、まだ昼過ぎだってのに今日は帰って来るのが早いなあ。
子供たちが手を振っていることに気付いたのか、大木くんはこちらを見て片手を振っている。
おいおい、バイクなのに大丈夫かよ。
あ、でも前に片手でも操作できるよう改造したって言ってたな・・・器用なこって。
彼のバイクに連結されている荷台には、なにやら鉄板や部品の姿が見える。
・・・大分多いな、まるで廃品回収業者だ。
ひょっとして、俺の愛車を修理改造するための部品も含まれてるんだろうか。
ううむ、頭が下がるぜ。
「おーい!おー・・・うわあああ!?」
カイトが叫んだ。
大木くんはこっちに手を振るのに夢中になるあまり、左折するべきポイントを通過してそのまま街路樹に突っ込んだ。
街路樹は音を立てて揺れた。
・・・うおおい!?大丈夫かアレ!?
助けに行こうと座っていた椅子から身を起こすと、街路樹が音を立てて真っ二つに折れた。
結構な速度で突っ込んだもんな、マジで大丈夫だろうか。
「・・・大丈夫そうだな」
折れた街路樹の下からバイクがバックして出てくる。
俺達の方を見ると、大木くんは恥ずかしそうに頭を掻いてもう一度手を振り、家の方へ向かって走り出した。
バイクに目立った傷や歪みは見えない。
・・・マジで頑丈だな、あのバイク。
牙島に行く前より凶悪な装甲が追加されてるし。
「すごいねえ」「かっこいい!」
子供たちも安心したようだ。
気を取り直した様子で、双眼鏡を構え直した。
・・・そろそろ3時だなあ。
オヤツでも何か調達してくるか。
再び見えるものを楽しそうに言い合っている子供たちを見つつ、俺は甘いモノを探しに行くことにした。
「ハイ!」
「どーも、キャシディさん」
1階まで下りると、キャシディさんがオフィスでくつろいでいた。
軍服の上着は脱いでおり、もはや見慣れたタンクトップ姿である。
だが、腰のホルスターにはいつでも抜けるように拳銃が入っている。
リラックスしていても、油断しているわけではなさそうだ。
子供たちの方へはエマさんが行っているようで、プールの方から楽しそうな声が聞こえる。
・・・水着、着てるんだよな?
あの人の長身ナイスバディに合う在庫ってあったっけか?
考えても仕方ないことだがな。
まさか確認しに行くわけにもいかんし。
「私もいるんだが?子供に偵察をさせるとは、中東の紛争地帯を思い出すなぁ」
背後からアニーさんがしなだれかかってきた。
「人聞きの悪い事言わないでくださいよ。遊びみたいなもんです、遊び」
明らかに胸を押し付けてくるその動きをかわしつつ言い返す。
人を少年兵を酷使する無法司令官みたいに・・・!
少年兵は絶対に使用せんぞ!俺は!!
・・・璃子ちゃん?
ああえっと、その・・・あの子は母親が許可したから、いい、かな?
「あ、そうだ。キャシディさん・・・『足の具合はどうですか?』」
「ダイジョブ!ゼン・・・チ?トゥーウィーク!!」
全治二週間、か。
・・・軽くね?
ヒビが軽かったんだろうか?
それともこの人がクッソ丈夫なんだろうか。
たぶん両方だな、うん。
「ダカラ、ヨロシク!!」
「・・・なにがです?」
前後の文脈が繋がってないんだが?
俺は天上天下唯我独尊さんじゃないのでそれだけ言われても皆目見当がつかないんですけども。
「ああ、忘れていた。彼女は治るまでここの防衛を補佐しつつ療養する・・・エマはそのついで・・・護衛だ」
今ついでって言ったでしょ!?
アニーさん、そういうことはもっと早く言っていただきたかったんですけど・・・
「オブライエン少佐からの許しは出ているし、食料も携行しているから問題は・・・なんだ?ひょっとして嫌なのかイチロー?」
うお!?言葉が通じないはずのキャシディさんがなんか悲しそうな顔をしている!?
雰囲気で察したんだろうか、これはマズい!
「そんなわけないじゃないですか!キャシディさんもエマさんも大歓迎ですよ!子供たちもよく懐いてるし!!」
「だろう?『ほらキャシディ、イチローはいつまででもいて欲しいと大歓迎だ。なんなら除隊してここに住むかね?』」
不安そうなキャシディさんにアニーさんが何事か言う。
すると、一転して満面の笑みを浮かべたキャシディさんは片足で立ち上がるなり俺に体当たりしてきた!
「アリガト!ダイスキ!」
「ヌワーッ!?挨拶は!挨拶はもう十分です!もう十分ですからッ!!」
彼女は流れるように俺の頬へ何回か『挨拶』すると、感極まったように抱きしめてきた。
ちょっとの間滞在を認めただけでこの反応・・・よっぽどここが気に入ったのかしら?
あだだだだ!?
なんで頬を抓るんですかアニーさん!!
「イチロー、お前を気に入ったんだ、彼女たちは。二度と間違えるんじゃあ、ない」
「ハイ・・・」
なんで何も言ってないのに把握されて、何も言っていないのに怒られるんだろうか。
理不尽であるが、俺には何もできない。
無職は無力だ。
・・・うん、出会った初日に危うく美味しくいただかれかけたしな。
彼女たちが俺にその・・・好意?好感?を持っているのは流石の俺にもなんとなくわかる。
どうしよう。
今までの人生で外人さんに好かれたことなんかないから何もわからん。
「・・・イチローはイチローのままでいい。そのままでな」
アニーさんはキャシディさんに抱きしめられた俺の頭を優しく撫でた。
「別にどうこうしろとは言わんよ。今はそれどころではないからな・・・屑共をあらかた一掃したら改めて考えるといい」
通常のニヤニヤ笑顔ではなく、とっても優しい笑顔を浮かべてアニーさんは言った。
「さて、キャシディ・・・『御開帳というやつだ!』」
「うお!?」
「ワッツ!?」
かと思えばアニーさんは急に俺の前髪を掻き分けた。
何なんですか急に!?
一手先が読めねえよホントにこの人!!
当のキャシディさんは、何故か俺の目を真っ直ぐ見たまま動きを止めている。
・・・なんですか?傷が派手で驚いたんですか?
「『ワオ・・・綺麗な目ね。深い海の底みたい・・・吸い込まれちゃいそう』」
「『いいものを持っているだろう我らの侍は?ふふふ、ここにいれば毎日見放題だぞ?見物料は尻でも乳でも見せてやればいい』」
何やら2人は俺から離れて相談中である。
・・・あの、日本語でおK。
絶対ろくな話題じゃないだろ。
それくらいはわかるぞオイ。
しかしアニーさん、さっき俺を手助けっていうかフォローしてくれたんだな。
俺が対人関係ガバガバなのをよくご存じでいらっしゃるよ。
助かった・・・
「そうだ、イチロー」
アニーさんは俺を見てサムズアップ・・・じゃない!すげえ卑猥なハンドサインだソレ!!
「考えすぎてムラムラしたら、いつでも私のベッドへ遊びに来るといいぞ!!」
「俺の中でアニーさんへの好感度がこの瞬間にマイナスになったんですけど」
「なんだなんだ!今日は随分とSだな!興奮するじゃないか!!」
・・・無敵だわ、この人。
未来永劫絶対勝てない。
俺は乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。
色々あって随分と疲れたが、当初の目的通りオヤツを回収して屋上への階段を上る。
台所にいた斑鳩さんはアニーさんたちとの騒ぎが聞こえていたようで、
『元気があって大変よろしい!ですね』
という、なんか小学生の通信簿みたいなコメントと共にクッキーを出してくれた。
今朝焼いたらしい、準備のいい事である。
・・・コメントについてはノーコメントである。
あと、何故かぬか漬けをかき回していたねえちゃんも本当に嬉しそうな顔をしていた。
・・・もう何も考えない。
まあ、そんなこんなでオヤツは入手した。
冷蔵庫で冷えていた麦茶もだ。
2人とも喜ぶぞ。
「ただーいまー、オヤツの時間だぞ~!」
屋上のドアを開けて言ったが、返事がない。
パラソルの下のテーブルにも姿がない。
・・・んん?どこ行った?
駐車場に行くにはオフィスを通らないといけないから、外には行っていないと思うんだが・・・
アレか?2階で昼寝でもしてるんだろうか。
・・・あ、いた。
端っこの方で2人して固まって何かを見ている。
俺の声も届いていないようだ。
何か珍しいモノでも見つけたのだろうか。
テーブルにクッキーと麦茶を置き、近付いてみる。
「よお、なんか珍しいもんでも見つけたのか?」
「あ、せんせー!」
カイトが振り返ってこっちを見た。
その顔は紅潮していて、なんかすごい興奮してるな。
「おじちゃん!おじちゃん!!」
遅れて葵ちゃんもこっちを振り返った。
おお、こっちも普段にはあるまじきハイテンションだ。
「オウフ」
葵ちゃんはこっちにダッシュしてきて、俺の腹に体当たりしてきた。
み、鳩尾が・・・!
「ど、どしたの葵ちゃん」
「あっち!おうまさん!おうまさんいるー!」
・・・逢魔さん?
なんかすげえ強そうな名前だな。
自衛隊か警察にそんな人いたかなあ?
俺が留守の間に新しく派遣されてきた人だろうか?
単眼鏡を取り出し、葵ちゃんが何度も指差す方面に向ける。
あっちは小学校跡地の方で、休耕田しかない場所だったはずだけど・・・
あんな所に人がいるのかな。
「ウッソだろ!?お馬さんおるううううううううううううううううううう!?!?」
「そういったじゃんせんせー!」
「おうまさん!おうまさん!」
単眼鏡の視界に、競馬中継でしか見たことのない生き物が映った。
「お馬さん・・・お馬さんナンデ?」
そこには、風に吹かれる畑でのんびりと草を食む2頭の馬がいた。
親子だろうか、小さな馬が母馬らしき大きな馬の横で寝転んでいる。
・・・えーと、青鹿毛っていうんだっけ?たしか。
真っ黒でかっこいい馬だな。
「・・・でもなんで?」
未だに状況が受け入れられない俺は、はしゃぐ子供たちの声を聞きながらまたもそう呟くのだった。




