43話 お手軽最終手段のこと
お手軽最終手段のこと
「ただいま戻りました!」
「ヴァフ!」
「お疲れ様です~」
夜、いつものように外で一服していると暗がりから式部さんが現れた。
なーちゃんも慣れたのか、姿が見えると唸るのを止めるようになった。
「一朗太さん!お久しぶりであります!」
「・・・2日振りなんですが?」
「お久しぶりでありますね!!」
・・・そうかな?
・・・そうかも?
まあ、こっちにいただけの俺と違って式部さんははるばる夜の海に潜って往復したんだ。
移動するだけで大変だし、そう思っても間違いはない・・・かな?
「とりあえずお風呂に入ってくださいよ、もう準備できてるんで」
そう言うと、式部さんは何故か体を硬くさせた。
「じ、自分、臭うでありますか!?」
「いやいやいや、冷えてるだろうって思っただけですよ。大体、今までずっと海の中だったんで臭い要素ないでしょ」
ヘドロの中とかを泳いで来たんなら別だけども。
・・・っていうか、俺いきなり女性に『臭い』とか言うクソ失礼な人間だと思われてるの!?
「・・・とにかくお疲れ様でした、ゆっくり休んでくださいよ」
「了解であります!」
元気を取り戻した式部さんは、ドライスーツを脱いで家の方向へ歩いて行った。
防水リュックどころか、両手に手提げのゴツい袋を持って。
・・・今回も凄い量の荷物だな。
食料は足りてると思うし、武器とか弾薬の類だろうか。
これから『レッドキャップ』とやり合うことになるもんな、あればあるだけいい。
オブライエンさんの部下もちょいちょい戻ってるって聞くし、いざ攻め込むとなったらとんでもない総力戦になりそう。
「・・・そろそろ騒がしくなりそうだよなあ、なーちゃん」
「キュゥン」
寄ってきたなーちゃんは、俺の言葉にかわいらしく首を傾げるのだった。
この子も守ってやらんとなあ。
「これは二等陸曹の分であります」
「・・・これは、よく回収できましたね。正規品ですか?」
「駐留軍からの提供品であります!問題はないかと」
風呂に入ってリフレッシュした式部さんは、俺と神崎さんを伴って倉庫に行った。
さすがに家の中で武器の受け渡しは・・・と思ったんだろう。
俺は何故連れてこられたのか皆目見当がつかないが。
今は、弾丸の入った箱を神崎さんと検分している。
随分神崎さんが驚いているが、普通の弾丸にしか見えないんだよな・・・?
まあ見てもわからんので、ボーっとする。
視界の端っこに、以前とは変わった漁船の姿が見える。
前の廃棄寸前のボロ船とは違い、大分こう・・・うん、沈まなさそうになっている。
アニーさんと朝霞の成果ってやつだな。
これなら島からの脱出も大丈夫だな、たぶん。
「一朗太さん、一朗太さん」
「はいはい」
漁船を見つめていたら、式部さんが寄って来ていた。
いかんいかん、ボーっとしすぎた。
「一朗太さんにもお土産でありますっ!・・・正直、あまりイイモノではありませんが」
眉をひそめて、式部さんは俺に小さい箱を渡してきた。
すげえ渡すの嫌そう・・・なにこれ?
向こうに俺を嫌いな自衛官とかがいて、いやがらせなのか?
「ありがとう・・・ござい・・・?」
とにかく受け取って中を見ると、よくわからないものが入っている。
本当になにこれ?
大きさも形もコンセントっぽいが、何か違和感がある。
「ん~?」
そうだ、どこにも他にコードを差すところがないんだ。
これじゃ充電もできないじゃないか。
っていうか今の状況で電気のコンセントなんかもらっても・・・
それに、差す部分もなんか普通のより短いって感じで・・・
「いって!」
手でいじっていると、指先に鋭い痛み。
コンセントの差し込むところが異様に鋭い、まるで刃物・・・っていうかこれ完全に刃物なんじゃない?
先に行けば行くほど細くなってるし。
「だ、大丈夫でありますか!?」
「ああいや、これくらい平気ですよ・・・ちょっと指を切ったくらいです。舐めときゃ大丈夫です」
紙で指先を切ったくらいのもんだし。
しかし、何故コンセントを・・・
「それで、これは・・・?ただのコンセントじゃないとは思うんですけど」
「はい、コレの名前は『緊急転化予防装置』であります!」
・・・?
なあにそれえ。
なんか強そうな名前だな。
「ここにボタンがあるの、わかりますか?」
式部さんの差すところを見ると、コンセントの横部分にボタンのような部位がある。
ふむ、確かに。
なんだろう・・・アレか?ここを押すと刃が射出されるとか?
「想像したくはありませんが・・・一朗太さんがもし!もしゾンビに噛まれたとします!」
嫌な前提条件だな。
・・・待て、『転化』防止装置?
「その箇所か周辺にコレを・・・根元まで突き刺します。そうするとロックが解除されるので、ボタンを長押しするであります!」
ってことは、これは・・・
「そうすると、傷の箇所に極短期間電流が流れるであります!!」
なるほど、確かにあまりイイモノじゃないな。
ゾンビの原因である謎虫は電気に弱い。
それは、この前の黒とか白黒でも明らかだ。
完全に想像だが、ゾンビは噛むことで謎虫を人体に流し込み、『感染』させるんだろう。
敦さんが噛まれた時、俺は指を斬り落とすことでそれを阻止したが・・・なるほど、これが有効なら指を切る必要がないのは確かだ。
本当に効くなら、だが。
「・・・効くんです、これ?」
「噛まれる場所が首から下、そして噛まれてからの時間が短ければ短いほど確実にゾンビ化を阻止できる・・・とのことであります!」
マジか。
そう断言するってことは・・・おいおいまさか。
「ち、違うであります!作戦行動中の友軍で試験したであります!民間人を実験対象にはしていませんっ!!」
俺の表情から何を考えたのか悟ったのか、式部さんが手をぶんぶん振って補足してくれた。
安心した・・・まあ、自衛隊がそこらへんで人体実験したとは思えないからな。
・・・いや、隊員を使うのも人体実験か?
この件については考えるのをやめよう、そうしよう。
「でも、ありがとうございます。これがあれば手足を斬り落とさなくて済みそうです」
ゾンビ相手に胴体を噛まれることはほぼないだろう。
噛まれるとすれば、手足のどこかになる。
敦さんにしたように斬り落とせば、その場で死ぬことはないだろうが・・・その後が大変だ。
手を失えば刀を振るのが大変だし、足ならそれ以上。
それどころか、場所によっては失血死の危険が伴う。
そう考えると、この装置は頼りになる。
「・・・急いで取りに戻って正解でありましたね、二等陸曹」
「ええ、田中野さんのことですから本当に実行しかねませんし」
お2人はなにやら顔を突き合わせて頷き合っている。
失敬な、まず噛まれないように立ち回りますってば。
そこらへんのゾンビに噛まれるほど柔じゃない。
「・・・とにかく、それは肌身離さず携帯してほしいであります!」
「わ、わかりました。式部さんだと思って大事にしますよ」
「ひょっ・・・!?」
あまりに勢いよく言われたので、冗談で返したところ式部さんが雷に打たれたみたいに振動した。
さすがにコレと同一視されたら怒るかな?
「・・・じ、じぶ、自分は三等陸佐のところに報告へ行きます!行くであります!!それではっ!!!!」
式部さんは凄まじい勢いで荷物を整理すると、あっという間に倉庫から飛び出して行った。
・・・この時間でも仕事するのか、本当に熱心だなあ。
緊急会議でもあるんだろうか。
「っひ!?」
神崎さんがすごく怖い顔をしている!!
ナンデ!?
・・・あ!腕足斬り落とすなんて発言したからか!
「あ、あくまで最後の砦ですからね!まず噛まれないように気を付けますから!」
「・・・そうですか、それは、よい心がけです、ええ」
神崎さんは溜息をついた。
・・・許された、のか?
「と、ところで神崎さんの持ってる銃弾って何か特別なモノなんですか?」
この話題は不味いのでなんとかそらさなければ。
それに、気にはなってたから嘘ではない。
「これですか?これはホローポイントと呼ばれる特殊弾です」
ん~?
なんか映画とかでよく聞く名前だな。
聞くけど、詳しくは知らない。
「なんか聞いたことはありますね・・・アレですか?こう・・・当たった瞬間に爆発とかするんです?」
それなら超強そうだけど。
ゾンビもイチコロだな?
「ふふ、そんなものがあったらよかったのですが・・・残念ながらこれはそれほど派手な代物ではありませんよ?」
神崎さんはすっかり機嫌が治ったようで笑顔を見せた。
ふむ、じゃあ通常よりちょい強い程度の銃弾なのかな?
人間相手なら普通の銃弾でも大丈夫だと思うが・・・対ゾンビ用かな?
「これは通常の弾丸よりも貫通力を落とす代わりに、体内で潰れて開くような構造になっています」
・・・超物騒なやつじゃん!?
えっ、中で弾丸が潰れるってこと?
・・・コワー。
「貫通する銃弾は跳弾や誤射の危険性がありますが、これなら相手の体内で止まりますから。ストッピングパワーも強いですし」
なるほど。
ゾンビ相手には確かに効果的かもな。
人間相手でも脅威ではあるが。
前に撃たれた時にそんな弾丸だったら死んでたと思う。
鎖骨どころか肺も粉々になりそう。
「これは拳銃用ですが、黒個体や特異個体でも目や口に撃ち込めば効果が見込めるかと」
簡単に言うけどそれ無茶苦茶難易度高くない・・・?
と、思ったが神崎さんや式部さん級の腕前なら問題ないか。
今まででも散々それやってるの見てきたし。
「じゃあ、今までの弾丸とは違うんですね」
「はい、今まで使用してきたのはフルメタルジャケットと言われる貫通力の高い弾丸ですから」
・・・脳裏で鬼軍曹が新兵を怒鳴りまくってる映像が出力された。
アレってその弾丸から名前取ったのかな。
久しぶりに見たいけど、下ネタまみれだから女性陣と一緒には見れないよなあ・・・
前半部分と後半部分の温度差で風邪ひきそうになるけど。
「ともかく、これでさらに田中野さんのお役に立てます!」
貴重なドヤ顔神崎さんの出現だ。
いつもはクールビューティーだから新鮮味がある。
でも知り合った当初と比べると出現率上がってるんだよなあ。
俺も、少しは信頼されてきたってことなのかね?
「・・・何か見当違いなことを考えていませんか?」
「いえいえいえ、神崎さんって頼もしくて美人で完璧だなって」
「しょ、しょうでしゅか・・・!んんっ!!」
舌噛んだのかな。
痛そう・・・
アニーさんにいつも言われるので、俺も気のきいたセリフを話そうと努力してるんだが・・・
なんかいつも失敗しているような気がするな?
アニーさんには『よくなっているぞ』と言われるんだが・・・ニヤニヤもしているし。
ま、とにかく有用な装備もいただけたし・・・よかったのかな。
あれ、でもこれって電気が流れるんだよな?
・・・乱戦中に使ったら動きが止まって別のゾンビにガブー!!とかにならんだろうか。
ありえる。
気を付けないといけないことに変わりはないな・・・
「・・・ゾンビの首に突き刺してスイッチ入れても効きそうだよなあ」
「田中野さんはもう少し防御のことも考えてください・・・殺される前に殺せばいい、などと思っていませんか?」
図星である。
だって南雲流っていうか師匠がそうなんだもん・・・
受け太刀が基本存在しないんだもん・・・
「・・・神崎さん俺のこと把握しすぎじゃないですか?」
観察眼が凄い。
流石は敏腕自衛官ってことか。
もしくは武術大好きか。
「と、当然でしゅ・・・相棒ですから!」
また噛んだぞおい。
舌大丈夫ですか?
「・・・もう遅いし、寝ますか」
「私は拳銃の整備をしてからにします。おやすみなさい、田中野さん」
「はい、おやすみなさい」
そう言うや否や拳銃をばらし始めた神崎さんに手を振り、俺は家に戻ることにした。
さて、この電気コンセントくんはどこに持っておこうかな。
ズボンのポッケだと転んだら突き刺さりそうだし、無難に上半身のどこかかなあ。
「もおおう遅いし!あーし待ってたんだかんね!!」
そして部屋に戻ると頬を膨らませた朝霞がいた。
ベッドの上で自分の枕を抱え、パジャマまで完備である。
コイツはもう・・・
「待ってなくていいっていうかお前は自分の部屋で寝ればいいうわぁあ!?」
「ご案内だし~!」
国産名作ホラー映画のように、俺はあっという間にベッドに引きずり込まれた。
それと同時に巻き付かれた。
朝霞・・・後藤倫パイセンに関節技習ったら化け物みたいに強くなりそうだな・・・
俺はほぼ組技は教えていないのに、この始末だ。
「んふ~、すんすん」
朝霞はご満悦である。
コイツの性癖ガバガバじゃねえか。
「匂いを嗅ぐんじゃないの!」
「すんすん」
最早否定すらしねえ。
無敵かコイツ。
「まったくもう・・・手のかかる親戚だよ、ホント」
胸に顔を押し付ける朝霞を撫でる。
そうすると、その顔はすぐにだらけきったものへと変わった。
子供かよ・・・もう。
「ふぁふぅう・・・すぴ」
そして一瞬で寝た。
どれだけ眠かったんだよ・・・
寝つきが良いにもほどがあるぞ。
健康的でなによりではあるが。
「〇び太くんかお前は・・・ふわぁ」
俺もつられて眠くなった。
・・・まあいいや、寝よ寝よ。
明日も、も~っといい日だといいな・・・ハ〇太郎・・・
「・・・チロー、おい、イチロー」
アニーさんの声がする。
なんかちょっと笑ってない?
「朝から随分と刺激的な格好だな?いいから起きろ、ミソスープが冷めるぞ」
ん~まだ真っ暗じゃん?
アニーさんも俺と朝釣りに行きたいのかな?
・・・それになんかあったかい。
あといい匂いがする。
布団でもかぶったままなのか?
「・・・おはようございます」
あれ?布団・・・じゃないなこれ?
どこからどければいいんだ?
「うゃあん・・・にいちゃぁん・・・」
何故か頭の上の方から朝霞の声がする。
「ホラ起きろ、プレイボーイ」
「あで・・・・ファッ!?」
なにか硬いもので頭をはたかれ、完全に目が覚めた。
これ、これは布団じゃ・・・ない!!
「にいちゃんがダイタンだし・・・バッチコイだし・・・」
「むわーっ!?」
縋り付く朝霞を振り払い、無理やり頭を引き抜く。
クリアになった視界に、ニヤニヤ笑うアニーさんが見えた。
そして・・・
「なんでぇ・・・あと6時間くらい寝ようよぉ・・・」
ビロッビロに伸びたTシャツを着て、半分眠った朝霞。
「おや、起きたな。朝からお盛んなことで」
「風評被害!風評被害ですよ!!」
俺はどうやら朝霞のシャツの内部に頭を突っ込んでいたようだ。
どういう寝相だよ・・・
朝からアンラッキースケベをかましてしまった・・・
朝霞が起きる前で助かったな。
「朝霞、起きろって。朝飯だぞ~」
「みゃみゅぃい・・・抱っこしておふろつれてってぇ・・・」
「そのまま水風呂に沈めていいならやる」
さすがに一発で目が覚めるだろうしな。
殺人事件に発展しそうだからやらんけど。
「おや、それは魅力的な提案だ。明日は私をそうして起こしてくれ」
「アニーさんも乗っからないでくださいよ・・・まったく」
朝から疲れるぜ。
ねえちゃんの飯を食って英気を養うとするか。
アレがあれば一日頑張れるな。
なお、朝霞は足を掴んで引っ張ることにした。
したが、途中で服がまくれ上がって大変な状態になったところで・・・別の部屋から出てきた神崎さんに見つかった。
性犯罪者を見るような視線はやめていただきたい。
冤罪!冤罪でござる!!
朝霞!!お願いだから下着をちゃんと付けてくれ!!
もう一緒に寝てやらんからな!!
「先程三等陸佐から連絡がありました、朝食後に来てもらいたいそうです」
おいしい朝食を食べた後、神崎さんがそう言ってきた。
ちなみに目玉焼きとサラダ、それに味噌汁という内容だった。
今がゾンビ騒動中だなんて信じられないな?
「へえ、古保利さんから。何か緊急事態・・・じゃないですよね」
「ええ、それならすぐに来いと言うはずですから」
だよな。
というと・・・この先の作戦とかそういう感じだろうか。
式部さんも昨日から帰っていないようだし、それっぽいな。
また、鉄火場が始まるってわけか。
望むところだ。
片っ端から地獄に送ってやる。
「・・・にいちゃんが急にイケメンになったし!」
朝霞が目を輝かせて寄ってきた。
どうした急に。
「なってないなってない、即刻眼科に行け」
「ひどいしー!」
シリアスに盛大に水を差されながら、俺は食後のコーヒーを楽しんだ。
さてさて、今度は何が始まるのかね。




