37話 先への備えのこと
先への備えのこと
「田中野さんっ!」
地中から響く正体不明の揺れに体を硬くしていると、家の方から神崎さんが走ってきた。
何故か俺の腰に抱き着いて離れない朝霞の頭を撫でつつ、それを迎える。
「神崎さん、今のって・・・アニーさんは地下での爆発って言ってましたけど」
「ええ、恐らくその通りです。この島の地下空間は広大ですので、ああいった衝撃はわかりやすいんです」
説明を受けていると、ライアンさんが走って家へ向かって行った。
「センセイ!部隊ノホウ!イッテキマス!!」
「了解でーす!」
・・・そういえば今シャツと短パンだしな。
その恰好で上官に会うわけにはいかないだろう。
「シーユーナーチャン!マタ今度!!」
「ワゥウ!バウ!!」
なーちゃんに見送られたその背中は、あっという間に小さくなっていった。
アメフト選手みたいな迫力だな・・・もしくは機関車。
タックルだけで死人が出そうだ。
「平和だと思った瞬間にそれが崩れたなあ・・・」
「アザナエルなんとかってやつだね、にいちゃん!」
何そのラスボスみたいなの・・・もしかして『禍福は糾える縄の如し』か?
それにしても意味は違うが。
「・・・とにかく一旦家に帰りますか」
「そうだな、今すぐどうこうというわけではないだろうが。待機しておこう」
アニーさんが同意し、先に立って歩き出す。
「神崎さん、式部さんは・・・?」
「陸士長は三等陸佐の方へ行きました。私は家で護衛です」
うーん、さすが2人とも行動が早い。
のほほんとしている俺とは大違いだ。
「何はともあれ家に帰るか、ここにいても何にもならんし」
「だねー。ジシンじゃないならツナミもこないし、安心だし!」
・・・正直俺もゾンビよりは津波の方が怖いな。
そんなことを考えながら、俺は神崎さんの背中を追って・・・
「・・・超歩きにくいから離れろ」
「うやぁん」
その前に朝霞をべりっと引き剥がしたのだった。
「揺れたわねえ~、地震なんて久しぶりよ~怖かったわ~」
「むぎゅん」
家に帰ると、庭に出ていたねえちゃんが朝霞を抱きしめた。
不安だったんだろう。
・・・かわいそうだがしばらく地震だと思っていてもらおう。
アニーさんは爆発だと言っていたが、まだ情報は不確定だし。
「・・・アニーさんがとりあえず津波の心配はないって言ってたから、お茶でも飲んで落ち着こうか」
「あらそうなの?アニーちゃんが言うなら安心ねえ」
アニーさんの信頼度すげえ。
というわけで俺たちは家に入り、居間で待機することにした。
「おっと・・・チエコさん、物騒な格好だが我慢してくれ」
「あら~・・・アニーちゃんかっこいいわぁ~」
居間に入ると、完全武装のアニーさんが俺たちを出迎えてくれた。
いつもの迷彩服の各所に、プレートっぽいアーマーが追加で装着されている。
マスクはしていないが、それ以外の部分で肌の露出は一切ない。
「アニーちゃんかっこいい!新しい鉄砲もあるねー!」
「ふふ、駐留軍の物資を提供してもらったんだよ。やはりライフルがあると安心するな」
その言葉通り、以前ネオゾンビに破壊されたものと同じようなライフルを持っている。
銃のことはからっきしだけど、とりあえずいっぱいパーツがついていて強そうではある。
「アニーさん、そんなに警戒するってことは・・・」
「いや、『奴ら』がすぐに来るとは思えん」
『レッドキャップ』ですか?と聞こうとしたら一瞬で否定された。
なんだ、違うのか。
「が、何が起きてもいいように警戒だけはしておく・・・兵士の鉄則さ」
そう言って、アニーさんは綺麗にウインクをした。
絵になるなあ、女優さんみたい。
「にいちゃん見て見て!にいちゃん!!」
「あーはいはいかわいいかわいい」
影響されてか、超へたくそなウインクを飛ばしてくる朝霞を雑に褒める。
璃子ちゃんと同じくらいヘタだな・・・
「とりあえずお茶を淹れるわね~」
ねえちゃんが台所へ行ったのと同じくらいに、神崎さんが持っている通信機が音を立てる。
「こちら神崎・・・はい、はい。了解」
すぐさま神崎さんが対応し、短く会話。
通信はすぐに終わり、俺の方へ向く。
「田中野さん、富士見邸へ来てください。三等陸佐から説明があるそうです」
・・・俺ェ?
「やあやあ、待ってたよ」
富士見邸の玄関をくぐると、すぐに家の中から古保利さんが顔を出す。
「早速説明するからさ、入って入って」
敬礼を返した神崎さんに続き、俺もお邪魔する。
・・・前に来た時より10倍くらい家が綺麗になってる!
廊下なんかピッカピカだ。
空き家状態から随分と清掃したんだな・・・
ちなみに朝霞やアニーさんはお留守番である。
『私はもう軍属ではないからな。後で仔細をリンかアカネに聞くさ』
と言っていたが、それなら俺も天下御免の無職マンなんだが・・・
最近自分の立ち位置がわからなくなりつつある今日この頃、皆さんいかがお過ごしだろうか。
すっかり綺麗になった廊下を通り、以前通された立派な居間へ。
「うお!?・・・ど、どうも」
前は閉められていた四方の襖が開けはなたれ、広くなった空間には・・・自衛隊と駐留軍が勢ぞろいしていた。
俺以外は全員完全武装の臨戦態勢である。
・・・ちょっとびっくりした。
迫力が凄い。
「ま、適当に腰かけて・・・キミ達以外にはもう伝達済みだからさ」
そう言われたので、適当な所に腰を下ろす。
ちょうどテーブルの前が空いていた。
「サッキブリデス」
「あっどうも」
ヒーローみたいなフェイスマスクでわからんかったが、ライアンさんが隣だった。
えーなにそれかっこいい・・・俺にももらえないだろうか。
若さと戦うニンジャマスクは置いてきちゃったんだよなあ、向こう岸に。
「どうぞ」
「うあっはい!ありがとうござ・・・なんだ式部さんか、安心しました」
目の前にお茶を置いてくれたのは式部さんだった。
「安心・・・ふ、ふふぅふ・・・」
何やら呟きながら、式部さんはどこぞへ行ってしまった。
隣に座った神崎さんから、何故か冷たい視線を感じる・・・あれか?キョロキョロしてみっともないってことだな!
「どっこいしょ・・・少佐のとこも幹部はブリーフィングしてるから、音量小さ目でいこっかね」
対面に古保利さんが腰を下ろした。
言われてみれば、遠くから外国語が聞こえてくる。
ライアンさんがここにいるってことは・・・この人は幹部じゃないのか。
まあ、階級が軍曹だもんな。
日本式に直せばたぶん神崎さんと同じくらい・・・だっけ?
「さてさて、先程の揺れはそっちでも確認してるね?」
「あっはい。アニーさんは地下坑道の爆発だって言ってましたけど・・・」
そう言うと、古保利さんは頷いた。
「そうそう、その通り。さっきのは地下坑道で何らかの爆発物が使用された余波だよ」
使用『された』?
おいおい、そう言うってことはまさか・・・
俺の視線を受け、古保利さんは薄く微笑みながら言った。
「―――お察しの通り、爆弾を使用したのは『レッドキャップ』だ」
・・・やっぱりぃ。
「はい、ちょっとこれ見て」
呆けていると、テーブルに古びた地図のようなものが広げられた。
うわ、なんだろこれ。
やけに年季の入った・・・ああ、ここの坑道図か?これ。
さすが江戸時代から掘ってるだけあって複雑怪奇な構造だな・・・こっちは深さか。
うえ、こんなに深い所まで伸びてるのか、坑道。
「んで・・・ほいほいっと」
恐らくコピーだろう地図に、古保利さんが細い赤ペンで丸を書いていく。
表層の・・・5か所に印がついた。
「これが、今回爆破された箇所ね」
「・・・え?もう把握してるんですか?」
「夜間偵察ついでにセンサー仕掛けといたからさ。それでわかるんだよ・・・発信機が壊れても信号自体はPCに送られて来るからね」
ハイテクだぁ・・・やっぱり電気があるとなんでもできるんだなあ。
生きていくのに不都合は今のところないけれど、便利は便利。
だが俺としてはもう一度味わうと元に戻れなくなりそうなので、極力頼らないようにしたい。
発電機とかソーラー発電でしのいでいきたいものだ。
「どうやら向こうさんは、この坑道についての詳しい地図はないらしい。今回の爆破位置でよくわかるよ」
確かに、俺と朝霞が通ったような道しか爆破されていない。
っていうか、俺もこの地図がなければ坑道が地下に張り巡らされているなんて知らなかった。
あの時はとにかく暗いのが嫌で通り抜けることを優先してたからな、あまり周囲を観察する時間もそのつもりもなかったし。
「っていうことは・・・今回の爆破ってのは『攻撃』じゃないと?」
これが一番気になってた所だ。
爆破って聞いた時、いきなり攻め込んでくるのかと思ったもん。
「ああそうだよ。それに、向こうさんはこっちの存在はまだ知られてない」
「偵察してるのに・・・ですか?」
「はは、これは言ってなかったけど・・・たぶん『レッドキャップ』の人員はそれほど多くはないんだ。見張りやなんかは外から連れてきた人員を使ってるんだよ」
ほうほう、アニーさんや石川さんが言ってた刑務所のやつらかな?
そりゃ、新人の下っ端がやる仕事だもんな・・・見張りって。
特に、こちらに軍隊がいるって気付いてないならなおさらだ。
「そんな『素人』にさ・・・気付かれるわけないでしょ?僕たちがね」
凄まじい自信を感じる・・・まあ、そりゃ当たり前か。
隊長を始め、ニンジャスキルのレベル高そうだもん。
「とまあ、そういうわけで・・・今回の爆破は攻撃を目的としたものでも、中央地区と南地区を分断する目的でもないんだ」
「なんだそれはよかっ・・・んん?」
じゃあ・・・なんで?
え?攻撃でも妨害でもないなら・・・え、ほんとになんで?
「・・・こっからはこれからの話も絡んでくるからね、バンバン行くよ」
古保利さんはそう言って、いつの間にか背後にいた部下さんに手で合図。
すぐさま、テーブルの上にいくつかの写真が置かれた。
なにこの緑色ばっかの写真・・・
あ、これアレだ。
神崎さんとかの使ってる暗視カメラから見たっぽい画面だ。
「彼らは『隔離』のために今回の爆破をした」
古保利さんの差す1枚を見た時に、体温が下がった。
「これは、生き残った暗視カメラから送られてきた映像を切り取った物だね。・・・見覚えがあるだろう?」
―――そこに写っていたのは、坑道にミチミチと詰まったゾンビの群れだった。
色までは判別できないが、それでもわかる部分はある。
「・・・最低でも、黒か」
画像のゾンビは、体の各所に装甲板がくっ付いている。
そう、写っている全部のゾンビに・・・だ。
「向こうで何らかのトラブルがあって、それを隔離するために・・・中央地区側の入り口に相当する部分を爆破した、ということですね」
俺の横から写真を同じように覗き込み、神崎さんが漏らした。
なるほど、そういうことか。
「そうそう、たぶんそういうことだよ。田中野くんさあ、中央地区の病院の件覚えてる?」
「・・・ああ、なんか病院中に黒ゾンビが詰まってたあの・・・って」
「たぶんさ、そこ由来なんじゃないかなあ、こいつら」
・・・どうにかして病院の黒ゾンビを誘導して坑道へ誘い込み、爆破したって流れか。
くっそ、こっちに人がいないと思ってスナック感覚で不法投棄してくれやがって・・・!
許さねえぞ『レッドキャップ』!!
「・・・それで、坑道がゾンビパーティなのはわかりましたけど・・・その、これからどうするんです?こちら側も爆破して完全に封鎖するとか」
あっちが塞がったんなら、何かの拍子にこちらにワッサーって出てくるかもしれん。
〇キブリみたいに。
「いや、それは悪手だ。奴らがこっちに気付く」
・・・あ~!
そりゃそうか!
爆薬なんてそこら辺の一般人が持ってるものじゃないもんな。
そんなことしたら『普通じゃない人間』が南地区にいまぁす!って言うようなもんだな。
『・・・えっ?』
脳内大木くんの疑問は無視する。
キミは普通の人間じゃないだろ!いい加減にしろ!!
「・・・それにね、こちらの坑道まで塞ぐと攻め込む時に不便だからね」
「あっそうか・・・でもルート潰れてません?」
俺がそう聞くと、古保利さんはもう1枚の古い古い地図を取り出した。
「大丈夫、侵攻にはこのルートを使う予定なんだ」
その地図を前の地図に重ねている。
・・・今の坑道の下に、網の目のように古い坑道が走っているのが分かる。
うわー3D迷路じゃん、これ。
「明治初期に使われていた坑道さ、古いけど頑丈そうだから今回の爆破でも崩落はしていないだろうね」
言いつつ、古保利さんは重なった部分の一部を差す。
「ここが入り口なんだけど、こちらからも爆破した場合・・・侵入口が潰れちゃうんだよね。だから爆破は二重の意味で無し」
「ほうほう・・・でも、この侵入口?部分にゾンビが入っちゃったりしたらどうするんですか?」
「そこは大丈夫。こちらでも確認したけど、新しい坑道と古い坑道の入り口は厳重に封鎖されてるからね・・・いくらゾンビの力でも開けないよ」
ふむ、それなら安心・・・なのか?
あ、でもそれなら・・・
「・・・あの、それだとこっち側の入り口からゾンビ出てきません?」
「出てくるねえ」
やっぱりじゃん!!
「西とか東とかに分散しないんですか?」
「いやあ・・・残念ながら、爆破された坑道はここへの直通部分しかないんだよねえ」
・・・神様ってマジで性格悪いと思う。
じゃあなにか?坑道の中のゾンビくんたちは全員ここに出てくるってのか?
「・・・この先の話って、ひょっとして」
恐る恐る聞くと、古保利さんは苦笑いし。
「そう、南集落側の坑道でゾンビを迎え撃ち・・・殲滅する。ははは、久しぶりに鉄火場だよ」
全然嬉しくなさそうに、そう言った。
「おっと、もう一つ・・・銃火器の使用は不可。やあ、縛りプレイってやつだよね・・・国民的大人気RPGでよくやったなあ」
「ゆ、勇者1人プレイです?」
「どっちかというと転職なしの遊び人プレイかなあ」
「・・・地獄!!!」
なんでそんなことになるんだよ・・・あ。
「音で『レッドキャップ』に気付かれるから・・・ですか?」
「そそそ、流石に大火力武器は音がデカいし消音できないからね。使えるのは精々拳銃やライフルだけど・・・相手が黒か白黒なら・・・ねえ?」
豆鉄砲レベルだな。
前見た式部さんみたいに目を撃ち抜けば別だが・・・それが許されるほどの少数じゃないだろう。
「こちらが使える有効的な装備は以前使った電気シールド、改造スタンバトン・・・そこら辺が主だね」
ああ、『みらいの家』の本拠地のアレか。
確かにアレなら黒も白黒もいけるだろう。
「加えていくつか持ち込んだ質量武器ってところかな。平たくいえばハンマーとか」
うわーお、原始的。
まあ、俺が言えたことじゃないんだけども。
「・・・俺も手伝いますよ」
「・・・神崎ちゃんとか式部ちゃんに殺されそうだけど、お願いしたいねえ。人員が圧倒的に足りないんだ、今も増援の要請をしてるんだけど・・・夜にならないと動けないし」
たしか、自衛隊は8人。
それに駐留軍は20人だよな。
・・・相手が何体いるかわからんが、確かにカツカツだ。
「僕の部下のうち4人、少佐の部下4人は偵察と警戒に回さなくちゃいけない。『レッドキャップ』が動くかもしれないし、あの『防衛隊』への抑えの意味も込めてね」
・・・つまり戦えるのは20人ってことか。
俺みたいなの1人でも多少は役に立ちそうだな。
『防衛隊』・・・ねえ。
古保利さんや俺があれだけ脅せば動かない・・・と思うが。
思うが・・・ああいう異次元のアホは何をしでかすかマジでわからん。
特に、俺は恨まれてるしな・・・損得勘定抜きに襲い掛かってくる可能性もある。
「とにかく今晩を乗り越えれば増援の予定もあるけど・・・それでも警戒はしないといけないんだ。病み上がりの田中野くんには悪いけど・・・」
「いやいや何をおっしゃる。こんなもん縫ってあるんで完治と一緒ですよ・・・やらなきゃならんことは、やります」
もうそろそろ傷も引っ付く・・・んじゃないかと思う。
っていうか家で寝ていられる状況でもないだろ。
南集落がゾンビまみれになったらミチヨさんとかほかのご老人とかが大変なことになる。
・・・『防衛隊』?
知らん、むしろ死ね。
「・・・ありがとう。じゃあすまないけど、さっそく準備にかかってほしい・・・時間的な猶予はあまりないんだ」
「了解しました」
聞くことは聞いたので、早速戻って準備をする。
まあ、兜割とスタンバトンだけなんだけどね。
防弾チョッキは必要ない・・・っていうかないし。
「・・・あ」
立ち上がりかけて、ふと思い出した。
「あの、まだ先方がどう言うかわからないんですけど・・・助っ人に心当たりがあります」
「・・・へえ?ここにそんな人が残ってるとはねえ。あ、でも生半可な人はかえって足手まといになっちゃうんだけど・・・田中野くんが考えるほど黒ゾンビは弱くないんだからさ」
「超実戦派空手『貫水流』の達人なんですけど」
「採用!!何をしてもいいから連れて来て!!必要なら僕が土下座でもなんでもするから!!!頼むよ!!!」
古保利さんの目の色が変わった。
この状況下で、近接格闘スキル持ちは貴重過ぎるからな。
まあ、いきなり言ってOK貰えるかは微妙だけど・・・
「まあ、期待しないで待っててくださいね」
俺はそう言うと、周囲に一礼して居間を出た。
石川さん、家にいるといいんだけど・・・
「おう、いいぜ。任しときな」
「即決だあ・・・」
富士見邸を出発し、家で装備を整えてすぐに向かった石川・・・もとい辻井邸。
庭で釣りの仕掛けを作っていた石川さんは俺の装備を見て目を丸くし、その説明も兼ねて今までの顛末を軽く話した。
それで、これからゾンビがワッサー出てくるんかもしれないんで助太刀を・・・と話し始めた瞬間、まさかの即OKであった。
「あの揺れはやっぱりそうかよ。『北』の連中も余計なことばっかりしやがんなあ・・・待ってな田中野さん、準備してくっからよ」
自分で納得するや否や、石川さんは仕掛けをそのままに家へ入って行った。
判断も行動も早いなあ・・・凄い人だ。
しかし、石川さんの実家もデッカイなあ。
広い庭に、歴史を感じる重厚な蔵まである。
・・・代々続く漁師さんだっけ?
そりゃあ息子に継いでくれっていうわけだわ、これ。
一服しながら石川さんを待つこと数分。
「おう、待たせたな」
「いや全然待ってな・・・えぇ!?」
足音がしたので振り返ると、さっきとは装いの変わった石川さんが立っていた。
動き易そうな作業服の上に、自分で鉄板を加工したような急所を覆う鎧チックなものを着ている。
そして、両手両足にはさらに鉄製の手甲と脚絆。
これは、溶接とビス止めによってもっと頑丈そうだ。
頭にはフルコンタクト空手の試合で使うようなヘルメットまで。
・・・すげえ、実戦派って感じ。
「田中野さん用にポン刀の一振りもありゃよかったんだけどな・・・すまねえ、こっちにゃサイとトンファーしかねえんだわ。あれはゾンビ相手じゃ厳しいだろ」
「いやいやいや・・・そんなん借りても使いこなせませんし」
サイってアレだろ?
緑色のニンジャ亀の誰かが使ってた・・・本来は急所やツボを押して戦うんだっけ?
慣れる前に死にそうだからいらないや。
トンファーは言わずもがな。
後藤倫パイセンならノリノリで使いこなしそうだけども。
「そうかい?じゃあ行こうか」
「誘った俺が言うのもなんですけど・・・いいんですか?」
あまりにも決断が早すぎる。
ありがたいけど、義理で参加するんなら危ないから・・・
「ここで一働きすりゃあ、自衛隊の連中の覚えもめでてえだろう?田中野さんを疑ってるわけじゃねえがよ、本番のカチコミにゃあ絶対に混ぜてもらわねえと・・・だからな」
そう言って石川さんは、手甲の左右の拳をがちんと打ち鳴らした。
空中に、火花が飛ぶ。
・・・そういうことなら、俺が何か言うこともない。
「・・・んじゃ、やりましょうかね。前哨戦っすよ」
「おおよ。ゾンビ風情に足止めされるわけには・・・いかねえなあ」
歯を剥いて笑う石川さんを見ながら、俺もこれからの戦いへ向けて気を引き締めた。




