34話 なんとか丸く収まったこと
なんとか丸く収まったこと
「―――おっと、彼の言うことは間違っていませんよ」
『防衛隊』の連中とにらみ合っていると、不意に俺の背後から声がした。
・・・古保利さんだ。
「やあどうも、ご無沙汰しています・・・『防衛隊』の皆さん」
今までどこにいたのか。
まるで影からでも出てきたように、気が付けば俺の周囲には古保利さんとその部下たちがいた。
その数、4名。
気配が読みにくい・・・マジで。
加えて古保利さん以外は一切肌を露出させていないので、男か女かもわからん。
・・・暑くないのかねえ?
「こちらのカメラに全て記録してあります。よろしければデータを提供しますが?」
俺の横に進み出た古保利さんは、ハンディカメラを軽く持ち上げた。
・・・全然気付かなかったんだけど。
っていうか随分前からいたんですね。
「か、カメラ・・・カメラ、だって?」
自衛隊の乱入と、向けられている銃を見て・・『防衛隊』の連中は総じて殺気を霧散させた。
その中にいる、柳田が呆けたように呟く。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って・・・ください。カメラで録画してた、ってこと、ですか?」
つっかえつっかえ、柳田は絞り出すように呟いた。
「はい、だいたいの事の起こりから最後までをね」
なんてことはないように、古保利さんが返す。
「ちょっと・・・!ちょっと待てよオイ!?」
柳田の横にいる年かさの男が、それにかぶせるように叫んだ。
「じゃ、じゃあなにか!?アンタらは・・・松本たちが殺されるのをずうっと見てたってことか!?」
「―――はい、そうです」
古保利さんの声は小さいが、全員にしっかり届いていた。
「な、な・・・」
それを受けて、柳田の口が開く。
足は震え、顔色は蒼白だった。
「何故です!?なんで止めてくれなかったんですか!?人が、人が殺されているっていうのに!?」
柳田の絶叫。
他の連中も同じようなことを思っている表情だ。
あーなるほど、そういうことね。
その前にミチヨさんが殺されそうになっていたんですがそれは。
威嚇目的だろうが、鉄パイプがぶち当たったらただでは済まない。
・・・でも、俺が何を言っても藪蛇にしかならないから黙ってようかな。
こういう交渉?っぽいのは古保利さん大得意そうだし。
古保利さんはしばし黙り、口を開いた。
「―――何故、我々がそんなことをする必要が?」
「・・・はぁ?」
柳田は予想外の返答に、呆気にとられた表情。
「・・・そもそもですね」
古保利さんが再び話し始める。
「近隣住民に少し聞き込みを行いましたが、『防衛隊』の・・・特に松本氏の一派の評判は最悪ですよ」
え、偵察以外にそんなこともしてたのこの人たち。
働き者だなあ・・・
「ゆすりたかり、物資の過剰な強奪・・・若い娘さんに乱暴を働こうとしたり、ひどい時には無理やり家に押し入ったという話まで」
・・・やっぱり徹頭徹尾クズじゃないか。
生かしておく理由がマジで見つからない。
「最近はさらにエスカレートし、物資の供出を断ったら殴られたというお話もありましたね・・・あなた方はそれを把握されていますか?特に柳田さん、『一応』あなたはこの集団の取りまとめ役でしょう?」
古保利さんは『一応』に力を込めて言った。
しっかり運営できてないのがバレバレだな。
「っそ、それ、は・・・」
突きつけられ、柳田が口籠る。
視線は左右にせわしなく振られ、定まることはない。
この反応・・・知ってて放置していたな。
「かの松本氏が地域の有力者の家系だからといって、流石に横暴が過ぎますね。それに、いいですか?今回、初めに襲い掛かったのは彼らですよ?」
沈黙が満ちる。
柳田以外の面々も知っていたのか、どんどん元気がなくなっていく。
さっきまでの様子とは大違いだ。
「・・・そうよ、一朗太ちゃんは私を守ってくれたの」
鳥小屋から出てきたミチヨさんが参戦した。
死体だらけでとんでもない状況なのに・・・わざわざ出てこなくてもいいのになあ。
ミチヨさんは俺の横に立ち、柳田をじっと睨みつけている。
「松本さんたちの振る舞いはどんどんひどくなっていったわ。私は年寄りの一人暮らしだからいいけれど・・・木下さんの所なんて、『娘が大事ならいうことを聞け』なんて言われて・・・お酒や貴金属を根こそぎ持っていかれたって聞いたわ」
「うっ・・・」
さすがに古くからの地元民に糾弾されるのはこたえるのか。
柳田たちは言葉に詰まっている。
「もしここに孫が一緒に住んでいたらなんて考えると、震えが来るわ。男のあなたたちには考えつかないだろうけど・・・女にはね、死ぬよりも辛い事っていうのがあるのよ?あの人たちはそれを脅しに使って横暴を働いたの、わかる?・・・島を守るなんて、あの人の頭にはなかったのよ」
滔々と語るミチヨさんの迫力に、男どもが気圧されている。
「だ、だが加賀サン、いくらなんでもこれは・・・そこの兄さんも、これだけ腕が立つならもう少しやりようがあった・・・そうだ!あったハズなんだ!!」
後半はまるで自分に言い聞かせるように、柳田が声を荒げた。
これで勢いづかれちゃたまらない。
今度は俺が出よう。
「・・・それで?どうしたらよかったってんだ?・・・まさか全員程々に殴り倒して、更生すんのを期待しろってのか?」
渦中の俺が発言したことで、何人かがこちらを睨む。
わかっちゃいるけど、それでも憎いのだろう。
こちとら慣れっこだ。
その程度の眼力に怯むほど、浅い人生は送ってない。
「・・・笑わせんな。俺は詩谷でも龍宮でも、こいつらみたいな手合いを何人も見てきた・・・殺された人も、何人もな」
市民会館のランドセル。
建設会社の死体袋。
『ふれあいセンター』の・・・姉弟。
殺意を込めて、生き残りを睨みつける。
鎖骨にヒビを入れてやった男が、痛みを忘れたかのように動きを止めた。
「・・・こいつらは反省しない、更生しない。今こうしておとなしくしてんのも、俺や自衛隊が強くて怖いからだ、絶対に勝てないからだ・・・俺らがいなくなれば、また同じことを繰り返す。何度でも、何度でもだ」
手裏剣を手に喰らった男が、少しでも俺から距離を置こうと悲鳴を上げながら地面を後ずさる。
「だから俺は容赦しない。十把一絡げのクズともを何匹叩き殺そうが・・・後悔もしない」
それ以外の後悔なら飽きるほどしてきた。
零れ落ちた命を、何度も見てきた。
「俺は、こいつらによって被害を被るかもしれない人間の方が大事だ・・・だから、殺した」
目の前で襲ってきたならなんとでもなる。
だが、何かの間違いで戦闘要員がいない時に攻め込まれでもしたら・・・それこそ悔やんでも悔やみきれない。
「・・・おい、よく考えて発言しろよ?それによっちゃ・・・てめえらまとめて、刀の錆にしてやるからな。必ず、必ずそうしてやるからな」
鯉口を切り、抜刀。
再び外気に触れた『魂喰』の刀身が怪しく光る。
わかったんだろう、連中にも。
俺がためらいなく『殺せる』ことが。
その証拠に、さらに連中は距離を取った。
猛獣から逃げようとするように。
「私が以前、皆さんに言ったことを覚えていますか?」
古保利さんが続ける。
「せめて『防衛隊』の名前らしく、防衛だけをしていていただきたい・・・私は、そう『お願い』したはずですがね」
俺の前に進み出たその背中から、殺気が放出された。
「現状はどうも、違うようですな」
気温が下がるような錯覚。
それほどの、殺意。
「彼は・・・田中野さんはですね、我々の貴重な『現地協力者』です。今までも、彼の活躍によって得られたものはとても多い」
・・・ほめ過ぎじゃない?
俺そんなに大したことしてないぞ?
とりあえず片っ端から殺して回ってただけで。
「さて・・・対してそちらは何をしていましたか?」
「配下の暴走を止められず、地域住民に恐怖を与えた」
「それどころか、知っていてそれを放置していたフシさえある」
「どうですか?」
指を折りながらの古保利さんの言葉に、連中は何も答えられない。
「そして、さらにもう一つ」
今までで一番冷たい声。
「―――何故、住民から船を奪った。答えろ」
先程までの敬語も消え去り、まるで敵に対するように古保利さんは言った。
「っそ、それ、は・・・」
柳田は答えようとするが、口が開閉するだけでそれ以上言葉は出ない。
「住民によると、そちらが接収した船で漁を行っている様子はないそうだ。ただ係留しているだけ・・・さあ、何故だ」
・・・マジか。
ただ分捕っただけだってのか。
「答えろ。住民から逃亡の足を奪ったのは・・・何故だ」
こいつらはたぶん中央地区のミサイルについては知らない。
それどころか、『レッドキャップ』のことも知らないだろう。
知っていれば、ミサイルによる無用な犠牲を出さないために・・・と言えるが、今に至るまでその答えはない。
「それ、は・・・」
柳田も、他の奴も、何も言えない。
わからないんじゃない、答えたくないだけだろう。
「・・・言いにくいなら俺が当ててやろうか。『養分』を逃がしたくなかったんだろ?この島で船を奪えば、自分たちに従うしかなくなるもんな?」
俺がそう口を挟むが、反論はなかった。
それが、図星だという証拠だろう。
・・・松本は勿論この集団のガンだったが、こいつらも同じ穴の狢だったってことだな。
自分たちの生活のために、住民をこの島に押し込む・・・そういう考えか。
・・・反吐が出る。
松本だけが悪目立ちしていたが、なかなかどうして・・・こいつらも強かだな。
「はあ、呆れてものも言えねえな。情けねえ・・・大の大人が寄ってたかって、やってることはチンピラとそう変わりねえな」
正義面してる分、それよりもなお悪い。
「そんな体たらくなのに、俺に『防衛隊』に入れ~なんて言ってたのか。新参者には仕事を押し付けやすいもんなあ?」
俺を最前線で働かせて、自分たちはのうのうと暴利でも貪る気だったのかな?
初めはマジで防衛してたんだろうが・・・壁と電気っていうイージーモードでどんどん腐っていったのかもしれん。
「・・・ともあれ、我々がそちらに要求することは変わりはない」
古保利さんが再び参加してきた。
「どうにもうまく伝わっていなかったようだから、もう一度言うぞ・・・『防衛』だけしていろ、そして・・・こちらの邪魔はするな」
「・・・っ!!」
柳田が、雷にでも打たれたように跳ねる。
「わかったか?我々の、邪魔を、するな。加えて、他の住民に迷惑を、かけるな」
小学生にでも説明するように、区切って話している。
「っひ・・・」
「―――返事ィッ!!!」
古保利さんが鋭く声を張り上げると、柳田以外の全員も跳ねた。
「っは!はい!!はいいぃい!!!」
顔面は蒼白な上、目からボロボロと涙を流しながら・・・柳田は絶叫した。
他の連中も、必死に首を縦に振っている。
・・・古保利さんの大声、すげえ迫力。
さすが指揮官・・・俺までビビりそうになったぜ。
「・・・やあ、それはよかった」
柳田の態度を見て、古保利さんの口調が元に戻った。
にこやかな雰囲気だが、それが逆に恐ろしい。
「それではお帰りを・・・おっと、散らばった『ソレ』は持って帰ってくださいね」
「・・・へ?」
呆けたような返事をした柳田に、古保利さんは続ける。
「ここに放置されても迷惑ですしね・・・身内の始末は、身内でどうぞ。おや?私の言っている言葉、理解できましたか?」
「っは、はい!はい!!わかりましたっ!!!」
首を痛めそうなほど強く頷きながら、柳田は慌てて指示を出し始めた。
周囲の連中も、すぐさま動き出す。
・・・初めからこれくらい毅然とした態度を取ってれば、松本も増長しなかっただろうになあ。
悔やんでも、後の祭りだろうが。
それから、『防衛隊』は松本たちの死体と生存者を回収して逃げるように帰って行った。
よほど恐ろしかったんだろう、凄まじく手際が良かった。
「また、近いうちにそちらへ伺います・・・少し、『お話』しましょうか」
そう言った古保利さんに、何の返事を返すこともなく。
お話・・・ねえ。
何だろうなあ。
「・・・ふう、疲れるねえ。余所行きの態度は」
首の後ろをトントン叩きながら、いつものように古保利さんは笑った。
目の前の庭には、もう死体は残っていない。
「助かりましたよ古保利さん。俺だけじゃ、ああまで見事に撤退させられなかったですし」
最悪、もう何人かぶち殺さなきゃいけな所だった。
明らかに殺意を向けてきた奴も何人かいたしな。
「いやいや・・・こっちこそ傍観しててごめんね。キミなら大丈夫だろうと思ってさ」
「ははは、まあ・・・あの程度の相手ならどうやったって勝てますからね」
戦術もない、ただの馬鹿の集団だったしな。
むしろ初めから古保利さんたちが出てきてたら、余計にこじれていた気さえする。
・・・っていうか、俺が松本をぶち殺すのを待ってたのかもしれんなあ。
あり得る・・・が、別に思う所はない。
むしろ横槍を入れずにいてくれて感謝すらしている。
「あと、申し訳ありませんミチヨさん・・・その、怖かったでしょう?」
続いて、ミチヨさんに頭を下げる。
庭で大立ち回りだもんなあ・・・死体はなくなったけど、血の跡やなんやでえらいことになってる。
帰るときに綺麗にしておこう。
「まあ、人が死んでいるから・・・『ありがとう』とは言い辛いけれどね」
ミチヨさんは困ったように笑った。
そりゃそうだ。
『よくやった!これからもバンバン殺せよな!!』とか言い出したら逆に心配しちゃうし。
苦笑できるだけで十分だろう。
この人も、存外肝が据わっているな。
「でもね、一朗太ちゃんがいなかったらと思うと・・・震えてきちゃうわ。だから、ありがとうね・・・助けてくれて」
・・・あの時、鉄パイプを振り上げた男が本気でミチヨさんを殺そうとしていたかはわからない。
だが、相手は老人。
男の力で殴れば、どうなっていたかはわからんのだ。
相手にそのつもりがなくても・・・冷静さを失った状態では不幸な事故だって起こるかもしれない。
『防衛隊』と『ミチヨさん』
その両者を天秤にかければ・・・いや、かけるまでもない問題だ。
俺としてはあの行動が間違っていたとは思わない。
「世知辛いことだけれど・・・死んだあの人たちに同情できるほど、私は優しくないの。酷いと思うだろうけど、私にとっては鶏や畑の方が大事なのよ」
「・・・いや、別に普通のことだと思いますけどね」
自分を害しにやってきた人間を許せるってんなら、歴史に残るレベルの聖人だと思う。
普通の人間じゃあ、どだい無理な話だ。
俺?どうかとは思おうが・・・ゾンビを殴って成仏させたくらいの気持ちしかない。
我ながらネジが外れているとは思う。
思うが、別に後悔もしていない。
「あの人たちも今までの横暴のツケが回ってきたんでしょうね・・・そう思うことにするわ」
「ははは、そうですよご婦人。あんなのは野良犬にでも噛まれそうになったとでも思えばいいんです」
古保利さんが朗らかに話しかけた。
随分と日本語の上手い野良犬ですね・・・ま、それがいいか。
「我々や田中野くんは、いわばそう・・・『暴力装置』ですから。彼の言葉を借りれば・・・『餅は餅屋』といった所でしょうね」
言い得て妙、だな。
「とにかく、今回の一件であちらさんも懲りたでしょう・・・これからは無理な徴収もなくなるはずですよ。通常の範囲の食料であれば、この島の環境なら十分賄えるはずですし」
「そっすね、なくならなかったら・・・まあ、公民館がこの島から消えるだけでしょうね」
古保利さんに続き、俺もミチヨさんにそう言った。
さすがに、あの松本がいなくなった今・・・そこまでの馬鹿はいないだろう。
他に発言力がある奴がいるとも思えないし。
「カリスマ皆無っぽい柳田ですけど、そこだけはしっかりしてもらわんとね」
「あの人はねえ・・・昔っから人の顔色を窺ってばかりで、いつも貧乏くじを引かされていたわねえ」
おやおや、あの性格は昔から変わりないのか。
あの年までそうなら、この先もきっと変わらないだろう。
精々、俺達に迷惑をかけないように細々と生きていってほしいものだ。
「さてさて・・・それじゃ、お掃除して帰りますか」
古保利さんは軽く手を上げる。
背後の隊員さんたちが一斉に動き出し、散らばった物やなんかを掃除し始めた。
うお、行動がお早い!
しかもここに至るまで一言も喋ってないし・・・ほんとに人間かな?
自衛隊が秘密裏に開発したサイボーグだって言われたら信じちゃうぞ、俺。
「おっと、じゃあ俺も・・・」
乗り遅れるわけにはいかないので、こちらも行動を開始した。
「またいらっしゃいね、一朗太ちゃん。いつでも来ていいのよ」
「はーい。あ、後で朝霞が洗濯物取り込みに来るんで、ゆっくり寝ててくださいね~」
「ええ、そうするわ」
縁側に座るミチヨさんに見送られ、俺は家に向かって歩き始めた。
庭はすっかり綺麗になって、あの惨劇があったことなどわからない状況だ。
・・・惨劇を引き起こした張本人が言うと、何やら変な感じだなあ。
古保利さんたちは掃除が終わるや否や早々と撤収したので、道を歩くのは俺1人である。
人死にがあったとは思えないほど、のどかな風景である。
「やあ。お帰り、イチロー」
おや、もう1人追加だ。
道端の木陰からアニーさんがひょいと顔を出す。
「ただいまですアニーさん・・・神崎さんたちは?」
「2人して精のつく食事を作ると張り切っていたぞ。私はまあ・・・散歩かな」
精のつく・・・また燻製が食えるのかな?
ミチヨさんにお煎餅はいただいたが、それでも腹が減ってくる。
『運動』したしなあ・・・
神崎さんのことだから、てっきりどこかで見物でもしていると思っていたが・・・
あの程度の相手には苦戦すらしないと信頼されていたのかもしれんな。
・・・普段使わない技を使ったことは内緒にしておこうか。
藪からドラゴンが出てきてしまう。
「うわあ!そうですか、そりゃあ楽しみだ」
並んで歩き出すと、アニーさんが嬉しそうに話しかけてきた。
「・・・ふふ、どうやら随分と『ご活躍』だったようだな?」
この人もどこかで見ていたんだろうな。
なんとなく想像できる。
「ええまあ・・・ちょっと、『ゴミ掃除』をですね、頑張りまして」
「それはいいことをしたな。女をただの肉穴としか認識していない害獣なぞ・・・ゾンビよりもよほど質が悪い」
に、にくあな・・・
アニーさん、日本語上手いけど過激だなあ。
よほどああいう手合いが嫌いらしい。
まあ、好きな女性はいないと思うけど。
「また、頭数減らしちゃいましたけどね・・・『肉壁』の」
「なあに、この世で一番始末が悪いのは『有能な敵』よりも『無能な味方』だよ。今日土に還った連中は後者だ」
なるほどね。
たしかにそうかも。
『レッドキャップ』とぶつかった時にちょっかいかけられたりしたら、死ぬほど面倒臭そうだ。
・・・アイツらが『味方』のカテゴリーに入るかどうかは甚だ疑問ではあるけども。
歩きながら煙草を咥え・・・ようとすると、横から綺麗な手が伸びて来て攫われてしまった。
アニーさんはそれを咥え、俺に向かってぴこぴこと動かす。
・・・言ってくれりゃあ普通にあげるのに。
「ん!ん~~~~~ッ!!」
ニヤニヤしながら何事か呻くアニーさんである。
・・・はいはい、火ですね。
分かっておりますとも。
ライターを着火して差し出すと、『うむ、それでよい』とでも言いたげな顔でアニーさんが息を吸い込む。
「ふぅう・・・美味いなぁ、イチローの煙草は」
「マイナーな市販品ですけどねえ」
「何を言うか。いい男に火を点けてもらう煙草は極上なんだぞ?・・・死んだグランマがよく言っていたんだ」
・・・えらく豪快なお祖母さんをお持ちなようで。
いい男・・・いい男ねえ。
強い男なら若干・・・ほんの少し・・・当てはまるかもしれんが。
「さいですか。じゃあ俺もいい女から煙草をもらえるように頑張りまにゅん!?」
言い終わるよりも早く、俺の口に煙草がねじ込まれた。
ちょっと!はしたない・・・はしたないですわよアニーさん。
「じゃあこれはご褒美だ。・・・ははは!夢が叶ったなあ、イチロー!」
まるで少女のように笑ったアニーさんは、ウインクをしてさっさと歩いていく。
・・・うーむ、オサレだ、所作の全てが。
俺は一生かかっても勝てそうにない・・・
これ間接キスの最上級だな・・・という、中学生みたいなアホなことを考えつつ。
俺は、何やらいつもよりいい匂いがする気がする煙草をおっかなびっくり楽しんだ。




