20話 『防衛隊』のこと
『防衛隊』のこと
「き、キミ!いくらなんでも暴力はいけ・・・な・・・」
オッサンを蹴り飛ばしたことに周囲の人間は呆気にとられていたが、その中でもいち早く正気を取り戻した男が声をかけてきた。
中肉中背、60手前くらいの眼鏡をかけたオッサンは・・・なにか説教めいたことを口にしようとして俺の体を見て動きを止める。
「ええ・・と、その・・・」
そりゃあ絶句するだろう。
さっきシャツを脱いだことで、包帯まみれの俺の体は白日の下にさらされている。
両腕と胸、それに背中。
それぞれに血の滲んだ包帯だ。
さぞ迫力があるだろうさ。
ちなみに血が滲んでいるのは昨日の大立ち回りでまた傷が開いたからである。
神崎さんにちょっと怒られた。
「・・・それで?」
わざと大袈裟に、刀の鯉口を切るように動かす。
眼鏡のオッサンは初めて存在に気付いたようで、大きく一歩後ずさった。
「『防衛隊』の皆さんが、わざわざこんな南の端っこまで何の用だ?傷に響くから、安静にしておきたいんだが」
オッサンが下がったのに合わせて、わざと大きく音を出しながら一歩踏み込む。
今度は他の連中も下がった。
「それにな、そこに転がってるのはウチの大事な親戚を強姦しようとしてた真正の屑だぞ?俺にもいきなり殴りかかってきたしな」
未だに地面を転がって呻く松本とかいうオッサンを顎でしゃくる。
おーおー、結構いい所に入ったみたいだな。
朝飯が盛大に出てら。
きったね。
後で掃除しとけよ。
「ま、待ってくれ!松本サンはともかく、我々はキミと事を構える気はないんだ!本当だ!!」
眼鏡のオッサンが慌てて喋る。
が、その視線は俺の顔ではなく刀に向けられていた。
目を見て話せよ、人としての基本中の基本だぞ。
その後ろにいる連中を、見るともなく見る。
ひいふう・・・数は、地面のオッサンを抜いて8人か。
年齢層は40代から60代って感じか?
松本のオッサンは見事なビール腹だが、それ以外は日に焼けてガッシリしている。
うーん、みんな漁師かな?
「きょ、今日は少し聞きたいことがあって来たんだが、松本サンが無理やりついて来てこじれてしまったんだよ!」
・・・さっきもそんなようなことを言っていた気がする。
さもありなん。
あのオッサン人の話とか聞かなそうだし。
いや実際聞かなかったし。
「・・・話、ね」
いつでも抜刀できるようにさりげなく右手を動かしつつ、眼鏡のオッサンを見つめる。
「そ、そうなんだよ・・・と、ところで君は荒川サンとどういう関係なんだい?親戚と言っていたが・・・」
やっと脳が正常に働き出したらしいな、向こうさんも。
「俺は千恵子姉さんの従弟だ。俺の親父と姉さんの母親が兄弟でな」
そう答えると、オッサンの目からは幾分か緊張が和らいだように感じた。
「そ、そうなのかい・・・私は柳田と言うんだが、キミは?」
「・・・田中野だ」
偽名を使おうかと一瞬考えたが、調べられた時にややこしくなるかもしれんからな。
本当ならこんな奴らに名乗りたくもないが、相手のフィールドにいる以上こらえておこう。
「ほ、本題はだ。我々の、その、仲間が昨晩から行方不明でね・・・こちらの方向へ連れ立っていくのを何人かが見ていたんだ」
「ふうん、そうかい」
「それで・・・申し訳ないが、昨晩見かけなかったかを聞きたいんだ。人数は全部で18人なんだが・・・」
あいつら出発する時もガバガバじゃねえか。
曲がりなりにも後ろ暗いことをするんだから、もっとコソコソしろってんだよ。
普通はそういうもんじゃないのか?
「・・・いや、悪いが心当たりはない。この通り怪我人なんでな、昨日も発熱でウンウン唸ってたんだ・・・変わったことはなかったな」
俺がシャツをわざわざ脱いだ理由はこれだ。
『どっからどう見ても怪我人ですよ?18人をどうこうするなんてできませんよ?』と視覚情報でアピールする。
さっきはオッサンを蹴り飛ばしたが、それでもこのレベルの怪我人+女2人が大勢の男をどうこうするなんざ無理があるだろう。
神崎さんとアニーさんの存在をこいつらが知らない以上、そう思うはずだ。
「た、確かに酷い怪我だね・・・一体何があったんだい?」
「龍宮市街で面倒に巻き込まれてな。半死半生で漂流して流れ着いた所がここってわけだ」
嘘は言っていないぞ、嘘は。
「あっちはそんなことになっているのか・・・」
柳田を始め、何人かのオッサンたちが顔を青くしている。
この島は『比較的』平和だからな、さぞショックだろう。
普段なら年上には心中ではさん付けするんだが、こいつらは松本のオッサンたちの手綱も締めておけない無能連中だからな。
敬称を付けるつもりはない。
「なあキミ、向こうに家族がいるんだが・・・どんな状況なんだ?」
1人のオッサンが真剣な顔で聞いてきた。
俺が向こうから来たと知って気になったのだろう。
「・・・山ほどのゾンビに、トチ狂った生存者の群れだな。控えめに言って地獄だ・・・運よく避難所に保護されていれば大丈夫かもしれんが、厳しい」
「そんな・・・」
オッサンは絶望的な表情で黙り込んだ。
嘘をつく理由もないし、慰めてやる間柄でもない。
俺にしてみればそれでも紳士的な対応だろうさ。
「ううう・・・うぞ、嘘、だ!!」
地面に転がっていた松本が、ようやく言葉らしきものを捻り出した。
「コイツは、怪我なんて、して、ないんだ!!アイツラを、油断させて・・・だまし討ちにしやがったんだ!!!そうに、違いねえ!!」
へえ、惜しい所を突くじゃないか。
実際間違ってはいない。
その可能性を初めて認識したのか、オッサンたちの目の色が若干変わった。
よせやい、そんな目で見るなよ・・・抉るぞ。
「はいはい・・・これで満足か?ええおい?立ってるだけでも辛いんだぜ、こっちはよ」
おもむろに包帯を勢いよくほどく。
怪我をしたところが外気に触れて少しこそばゆい。
・・・明るい所で見てみると、我ながらグロい傷の数々だ。
赤く盛り上がった皮膚。
それに、生々しい縫い跡。
「っひ!?」
柳田が声を上げ、全員がさらに後退した。
さっきまで地面に倒れつつも威勢のよかった松本まで目を見開いている。
なにせ胸の傷はまだ変色しているし、新鮮な縫い跡もある。
古傷もあるからさぞ迫力があるだろう。
しかし、ヘタレめが。
そんなんでよく『防衛隊』だとかほざけるな。
ゾンビの方が100倍はキッツイだろうが。
「・・・おい、これで満足か?俺ァ包帯を取り換えてとっとと寝たいんだけどな」
「あ、ああ・・・す、すまない。我々はもう戻るよ」
2人のオッサンが絶句したままの松本の腕を取り、立たせている。
・・・ようやくお帰りか。
もう二度と来ないで欲しい。
「もし、何か思い出したら知らせてくれ。我々の本部はここから北にしばらく行ったところの公民館だ」
「ああ、わかった」
未来永劫何も思い出さないと思う。
だが、それはそれとして本拠地は覚えておこう。
俺とて事を構える気はサラサラないが、情報は貴重だしな。
万が一あっちがトチ狂ったら先制攻撃でボッコボコにしてくれるわい。
「ああ、最後に一つだけ・・・よければ、『防衛隊』に入るつもりはあるかい?キミのような腕の立つ人は歓迎したいんだが・・・」
そらきた。
流石はアニーさん。
慧眼である。
「・・・この傷が完治してからだな、そういうことを考えるのは」
「そ、それもそうか・・・それじゃ、我々はこれで」
思った以上にすんなりと帰ってくれるようだ。
できればもう来ないでいただきたい。
包帯作戦、うまくいったようだ。
最後にもう一度非礼を詫びると、柳田たちは元来た道を引き返した。
松本は腹が大層痛むらしく、肩を貸されながらも悲鳴を上げて歩いている。
1度だけ振り返って俺を睨みつけたが、軽く抜刀の仕草を見せると慌てて目を逸らしていた。
・・・アイツ1人じゃ何も出来なそうだが、馬鹿はどこにでもいるからなあ・・・この先も注意しておこう。
いっそのこと、昨日の連中みたく攻めてきてくれれば、問題なく全員畳んでやるんだが・・・たぶんそういうことはなさそうだな。
「さてと、これで終わりかな?」
奴らが見えなくなるまで玄関に立ち、別動隊がいないかどうかも確認する。
・・・あ!アイツらゲロの始末して帰ってねえ!
ふざけんな!
・・・後で水でもぶっかけておこう。
「にいちゃあん、もうだいじょぶ?」
玄関の中から朝霞が声をかけてきた。
「おう、みんな帰ったぞ」
答えた瞬間に、玄関が勢いよく開いた。
「おっつかれ~えええぇ!?にいちゃんがセクシーだし!?」
「どっちかというと痛々しいが正しいだろ。これにセクシーを感じるお前の将来が心配だわ俺は・・・触るな触るな」
朝霞は俺の傷がない所をペタペタ触りまくっている。
やめなさいはしたない。
「すんすん・・・汗もかいてるしお風呂はいろ!そのあとホータイ巻き直してあげるかんね!」
「そいつはありがたいが嗅ぐな嗅ぐな・・・一緒に入らんぞ?」
「やーだしー!」
・・・やっぱりコイツの前世は犬だと思う。
『ふえー、なんかそっちも大変ですねえ』
「ぶっちゃけ、どこに行っても似たようなもんじゃないかな」
テーブルに置かれた通信機から懐かしい声がする。
「で?そっちは変わったことないか大木くんよ」
『うーん・・・原野周辺は別に何もないですねえ』
あの後朝風呂と洒落こみ、包帯を巻き直してもらった後・・・俺は久しぶりに大木くんと通信で話している。
今日はたまたま高柳運送にいたらしい。
定時連絡をしたら出たのだ。
璃子ちゃんたちはプール中のようで、遠く楽しそうな声が聞こえてくる。
なお、朝霞はいつものように風呂に突撃をかましてきた。
もう諦めて背中を流してもらったが・・・神崎さんの目が怖かった、すごく。
傍から見ればJKと入浴だからな・・・訴えられたら負けると思う。
「周辺は?ってことは他は違うのか?」
『はい。特に詩谷なんですけど・・・街に人が増えてますね』
マジか。
ゾンビが減ったか、それとも慣れたのか?
「そんなにゾンビが減ったのか?」
『いいえー、ゾンビは相変わらずウロウロしてますよ。たぶん各々の備蓄食料が減ったんで、なりふり構わずに外に出るようになったんじゃないですか?物資の奪い合いで人死にも頻繁にあるっぽいですよ~』
大木くんはなんてことないように言うが、中々に地獄めいてきたな。
『友愛なんかは畑が軌道に乗ったみたいなんで受け入れ人数を増やしてるみたいなんですけど・・・まあ、焼け石に水ですよね~』
「そりゃあな。いくらあそこがデッカイ避難所ったって限度があるわな」
『ですです。襲撃とか、避難民のフリして乗っ取ろうって連中も増えてきたみたいで、比例して自衛隊の人が増えましたし』
「うわあ・・・」
人の心のすさむこと、麻の如しというやつだ。
諦めて畑でも作りゃいいのに・・・
限りある資源の奪い合いは死亡フラグだぞ。
「畑が無理なら釣りでもしてりゃいいのになあ」
『あー・・・釣りはですね、いいポイントを巡って殺し合いが頻繁に発生してまして・・・釣り場を占拠するような集団もいますよ』
「・・・急に世紀末めいてきたな?」
海の方は大丈夫だろうか?
あのおじさんたち4人は元気にしてるかなあ・・・
まあ、あの避難所にはマグロ包丁装備のクソ強漁師さんがいっぱいいるらしいから大丈夫だとは思うが・・・
「そういう大木くんは大丈夫なのか?」
『へへへ、バイクを強化したのが裏目に出てむっちゃ狙われます・・・』
だろうな。
見るからに便利そうなバイクだもん。
盗人にはさぞ魅力的に見えるだろうさ。
『まあでも、装甲を強化したんで車と喧嘩しても勝てますし・・・爆弾も大活躍してるんで大丈夫ですよ』
・・・頼もしい限りである。
『龍宮は前とそう変わりないですね。元から秩序崩壊してましたし』
「『みらいの家』が消滅した上にヤクザもいないしな・・・やりたい放題だろうなあ」
『逆にゾンビの方が多いんで、よく食い殺されてるの見かけますよ。白黒はいないですけど黒は見かける機会が増えましたね~』
おいおい、めっちゃ進化してんじゃん。
大丈夫かな龍宮・・・
『おじちゃん、おじちゃーん!』
おわ?
葵ちゃんの声がする。
プールは終わったのかな?
『おとと・・・いらっしゃい葵ちゃん。んじゃ、代わりますね~』『ありがとー、おにーちゃん!』
しばらくガサゴソと音がして、葵ちゃんの声が近くなる。
『えへ、げんきー?』
「おう、むっちゃ元気だぞ。帰りが遅くなって悪いなあ」
声だけ聴けば元気そうだ。
向こうは平和で何よりである。
『あのねー、おにーちゃんがすっごいおおきなプール、作ってくれたんだよ~』
「うわ、いいなあ。おじちゃんも泳ぎたいな~」
『おじちゃんがかえってくるまでに、もっともっとおよげるようになってるからね~!』
「そいつはいいなあ、でも風邪ひかないように気を付けるんだぞ~」
「うん!あのね~、きのう美玖おねーちゃんがね~」
そこからしばし、俺は葵ちゃんとの会話を楽しんだ。
途中カイトや他の子供たち、それに璃子ちゃんも合流して中々の大所帯になった。
サクラも『早く帰って来てくださいよォ!!』みたいな声で参戦していた。
ううむ、早く帰りたいのは山々なんだよな・・・
ミサイルさえなければなあ。
「背中はあーしが巻くかんね!」
「はい、では腕は私が・・・」
「あででで朝霞キツイキツイって!お前俺のチェスト低く見積もりすぎだって!!」
「あはー、ごめん!」
賑やかな通信が済んだ後、朝霞たちに傷の消毒と包帯を巻いてもらっている。
俺としては神崎さんだけでも良かったのだが・・・朝霞が強硬に主張した結果である。
有り余る元気で包帯をギッチギチにするのが困りものであるが。
「にいちゃんがあんだけ脅せば、松本のオッサンも来ないだろうし平和だし!」
「それでそんなに機嫌がいいのか」
どことなくウキウキしている朝霞。
よほどあのオッサンが嫌いらしい。
いやまあ、好きなやつはいないだろうが。
「っていうかあのオッサン、この騒動が起こる前からあんなんだったのか?」
「そーだよー!サケグセは悪いし絡むし説教するし!そのくせいやらしい目で見てくるし!・・・周り中から嫌われてたけど、今はもっと嫌われてると思うし!」
なんとも、ヘイト要素の権化みたいなオッサンだな。
ちょいと絡んだ俺でも容易にその理由はわかるけども。
「でも、その割にはなんちゅうか、発言力ありそうな感じだったな」
「・・・アイツさ、お偉いさんの家系なんだよね~。アイツ自身はむっちゃ屑でアホだけど、それ以外の人はいい人だからさ~・・・なんてーか、オメコボシ?」
ふむ。
権力者の身内かあ・・・そりゃあ面倒臭そうだ。
柳田が御しきれていない理由もなんとなくわかってきた。
世界がこうなったら家柄もクソも関係ない事なのに、結構影響されるもんなんだなあ。
「お父さまもお兄さまも立派な人たちなのにねえ・・・それをかさに着ているのよ」
オヤツの何かを盆に載せて、ねえちゃんがこちらへ来た。
ほう・・・今日のオヤツは自家製のパンでござるか?
うーん、いい匂い。
「・・・そのご立派な身内はどうしてるんだ?」
「お父さまは去年亡くなったわ。お兄さまは・・・たぶん避難所を運営していたんじゃないかしら?この前式部さんの映像で見た、小学校がそれだったはずよ?」
おおう・・・あの小学生ゾンビまみれになってた小学校か。
そりゃあ・・・生存は絶望的だな。
「アイツ、前からあーしのこともヘンな目で見てたけど・・・絶対かあさんが本命だし!オヤジが帰ってこなくなってから露骨に家に来るようになったんだから!」
「それは・・・わかりやすいなあ」
ねえちゃんは困ったように眉をひそめて笑っている。
いやこれは・・・ねえちゃんには珍しい強い嫌悪の表情だな。
ねえちゃんは底抜けに優しいが・・・あのオッサンはその閾値を越えて嫌らしい。
さもありなん。
「私がお父さんと結婚する前にも散々言い寄られたの~、それどころか結婚してもよ~・・・生理的に無理だわ~」
「なんとも、見下げた男ですね!情けない!!」
腕の包帯を巻き終わった神崎さんが、声に嫌悪を滲ませて賛同した。
神崎さん的にもギルティらしい・・・当たり前か。
「おおこわいこわい、そんな男が相手では絶対に顔を見せられないな」
ソファーに寝転がって読書をしていたアニーさんもそれに乗っかる。
ちなみに読んでいるのは朝霞の兄貴所有の少年漫画だ。
忍術っていうかもはや魔術めいたそれを使う忍者漫画である。
海の向こうでも大人気の作品らしい。
ニンジャは国境を超えるなあ。
・・・いかに漫画とはいえ、日本語で書かれたそれを問題なく読めるアニーさんがすごいな。
「アニーちゃんなんか絶対にロックオンされるし!綺麗だしおっぱい大きいし!」
「ははは、怖いなあ」
アニーさんはニヤニヤ笑っているが、目だけは笑っていない。
・・・コワイ!!
「・・・カンザキサンも、気を付けるし」
「え、ええと・・・そ、そうですか?」
神崎さんは目をぱちぱちしている。
きょとん顔をすると一気に幼く見えるな。
2人の間に何があったのかは知らないが、朝霞の態度が若干軟化している。
以前のように攻撃的になることはあまりない。
・・・本当に何があったんだろう。
1日で変わりすぎだぞ?
「アイツマジでおっぱいばっか見てくるし!サイアクだし!!」
「そ、そうですか・・・」
「こんなもの、重いだけでこちらにとっては何の益にもならんのにな・・・男としてそこをどう思う?イチロー」
アニーさんはニヤニヤ笑いを一層濃くして・・・その、寝転がったままセクシーなポーズをとった。
くそう!この人は本当に・・・!!
何をしても絵になるなあ!美人このやろ・・・女郎!!
・・・そして俺に振らないでください頼むから。
コラ!朝霞も目をキラキラさせるんじゃないの!!
胸見られるの嫌いだって言ったばっかりだろ!!
ヒィ!なんですか神崎さん俺は無罪です!!
「・・・」
ベストアンサーは沈黙。
何を言ってもとんでもないことになる未来が見えるからだ。
「・・・なーちゃんあーそぼー!」
「バウ!!」
「あー!にいちゃんが逃げたぁ!」
換気のために空けた窓の隙間から、その長すぎる鼻を出していたなーちゃんに俺は突進することにした。
君子危うきに近寄らず。
俺は君子ではないが、それくらいはわかるのだ。
「おう、千恵子さんに聞いたけど『防衛隊』の馬鹿どもが来てたんだって?」
なーちゃんにボールを無限に放り投げる遊びをし終わったころ、ひょっこり石川さんが現れた。
一緒に食べるはずだった昼食は、色々ごたついて中止になっていた。
ひょっとすると夕食を一緒にすることになったのかもしれんな。
「そうですよ、マジで駄目ですねアイツラは」
「がはは、田中野さんもそう思うかい?」
「あの松本とかいうオッサンを野放しにしてる時点で大幅減点ですよ」
ベンチに座り、2人で煙草をふかす。
なーちゃんは俺たちが煙草を取り出した時点で風上に退避済みだ。
うーん、かしこい。
「松本はなあ・・・ゾンビが出てくる前から評判が最悪だったが、ここへきてさらに下落してるみてえだなあ」
元はこの島の住人だった石川さんにとっても、そうらしい。
朝霞もそう言ってたし、徹頭徹尾屑なんだろうなあ。
「アイツ、俺の所には絶対来ねえからなぁ」
「おや、知り合いですか?」
石川さんとはジャンルも何もかも違う人種に見えるのだが。
「なあに・・・ちょいとな。何度かぶん殴ったことがあるからよ」
・・・そういう意味での知り合いだったのか、納得。
「てめえの家がすげえだけだってのに、アイツはそれが自分の評価だと勘違いしてんだ。もっとも・・・すげえって言っても、こんな狭い島の中だけなんだがなあ」
石川さんは顔をしかめて紫煙を吐いた。
「あー、たまにいますね、そういうやつ」
まさに、虎の威を借るキツネだな。
キツネほどかわいらしいご面相ではないけども。
「だろ?おまけに女癖も相当ひでえ・・・俺が知ってるだけでも、何人か被害に遭ってら」
「・・・屑ですねえ」
「1回頬骨と肋骨にヒビ入れるくらいぶん殴ったんだけどな。それでも治りゃしねえ・・・ありゃあ、死ぬまであのまんまだな」
石川さんの知り合いが被害に遭ったんだろうか。
その時を思い出したのか、その腕には筋肉が浮き出ていた。
「だけどよ、忌々しいことに鼻だけはききやがる・・・昨日混ざってなかったのも多分それだ。首尾よくいったら合流でもするつもりだったのかもしれねえな」
「うわ、面倒くさいですねえそれ・・・いっそのこと1人で俺を殺しに来れば、喜んで返り討ちにするんですがね」
「1人ぃ?がはは、ないない。アイツは徒党を組まねえとなんにもできねえ情けねえオッサンだよ・・・今回ので手下の数が減ったから、そうそうトチ狂うこたぁねえと思うがな」
ふむ。
面倒臭いが、それならしばらくは大丈夫・・・か?
「あっそうだ、俺『防衛隊』に勧誘されたんですけど・・・石川さんはどうですか?」
「1回だけ誘われたぜ。『松本を殴り殺してもいいんなら入ってやる』っつったら二度と来なくなったけどなあ」
あ、俺もその条件にすりゃよかった・・・
まあ入るつもりはさらさらないので断り続けるが。
「それにしてもよ、昨日増えたあの別嬪さんはなんだい田中野さん?アンタのいい人かい?」
「そんなんじゃないですよ・・・向こうにいる時から世話になってる相棒ですよ、相棒」
そう言うと、石川さんはにやりと笑った。
「へへへ、ジャックの野郎も野郎どころかとんでもねえ別嬪さんだったしなあ・・・いいねえこの家は、華があって」
・・・確かにこの家、俺しか男がいない。
ジャックさんもといアニーさんが貴重な男性だと思ってたんだけどなあ・・・
「羨ましいぜ、田中野さんよ」
「・・・そう言うならここに越してきますか?たぶんねえちゃん即OK出しますよ」
「俺ァ1人が性に合ってるんでね、謹んでお断りするぜ(・・・馬に蹴られる気はないからな)」
石川さんは何事かぼそりとつぶやいたが、何を言っているのかわからん。
もっと大きい声でしゃべっていただけませんか?
俺は溜息と共に紫煙を空へ吐き出すのだった。
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「(オイマジかよこの兄ちゃん、あんだけ熱烈に視線向けられて気付きもしてねえぞ・・・あの姉ちゃんも苦労するね、こりゃあ)」




