18話 第一回牙島ゴミ掃除のこと
第一回牙島ゴミ掃除のこと
「だ、大丈夫っすかね・・・」
「何がだよ?」
「荒川ん家、やたら強いのがいるんすよ?松本さんなんか金玉片方潰れたって・・・」
ぞろぞろと、『防衛隊』の連中が歩いている。
俺が草むらに隠れていることなんか気づきもせずに、緊張感のない会話を繰り返しながら。
松本・・・ああ。
あのオッサン金玉潰れてたのか。
世の中には酷い事する奴もいるんだなー、物騒だなー。
・・・しかし片方かよ。
まだまだ甘いね、俺も。
もうちょい真剣に・・・いや、オッサンの金玉に真剣に取り組むの、なんか嫌だな。
「心配すんなってユキノブ!なあカラサワさん!」
ユキノブ・・・あの時の童貞野郎か。
ついてきたのか・・・哀れな奴だ。
この若さで死ぬことになるんだからな。
「おう!なんたってこっちにゃあ猟銃があるからなあ!いくら腕が立ったって、銃には勝てねえよ!」
一際偉そうな壮年の男が、手に持った猟銃をこれ見よがしに掲げた。
馬鹿だこいつら。
馬鹿ばっかりだ。
武器ってのは使う瞬間まで隠しとくもんだろうが。
もしくは銃なら構えといて見えた瞬間に撃つとかさ。
俺も威嚇目的にワザと見せつけたこともあったが、この場合では悪手だろう。
「カラサワさぁん!朝霞に当てちゃダメっすよォ?」
別の男が、下品に声を上げる。
「ったりめえだろうが!大事な女だもんなァ?」
「お袋の方もしっかり『使う』んだからよ!そっちにも当てるんじゃねえぞ?」
「ユキノブにも童貞卒業させてやんねえといかんからな!がはは!!」
「ちょっ・・・!ユザワさん!お、俺はそんな・・・!」
「強がってんじゃねえよ童貞!ぎゃはは!!」
・・・はい、もうこの辺でいいんじゃないか?
このまま聞いていると耳が腐りそうだ。
万が一、いや億が一・・・夜の見回りかもしれんと思っていたが、これはもう有罪でいいだろ。
こんな連中がまともに見回りするとか天地がひっくり返ってもありえねえ。
まだかなー、神崎さん。
「あの家もいいよなあ、しばらくみんなでゆっくりするか!」
「いっすねえ~!女付きの豪邸!たまんねえっす!!」
・・・下種がァ。
もう俺が先に突っ込んでやろうか。
そう考えた瞬間だった。
「男はギリ生かしといてよ!目の前で女どもをマワしてやりゃあいいんじゃにゅぅえっ!?」
とんでもなくカスなことを言いかけた猟銃の男。
その後頭部が弾けて、盛大に鮮血が飛び散った。
おそらく額から入った弾丸が抜けたせいだろう。
「・・・えぇ?」
もう1人の猟銃持ちが間の抜けた言葉を吐く。
「あぱぁ!?」
それが、遺言だった。
撃たれた仲間の方を向いた、その側頭部が弾けた。
頭を横に縦断した銃撃は、その衝撃で眼球を片方飛び出させた。
周囲の連中は、返り血や返り脳味噌を付着させたまま電池が切れたように突っ立っている。
「っしぃいい・・・」
―――りぃん
猟銃持ちの2人が地面に倒れ込むのとほぼ同時に、俺は草むらから飛び出した。
周囲に、鈴の音を響かせて。
「え?なに?え?よ、ヨシダさん?」
仲間の唐突な死。
それを受け入れられずにいる一番外側の男に、勢いよく棒手裏剣を投げつけた。
「なに?え?じょ、冗談キツイっすぅうぇば!?」
『返し』付きの棒手裏剣が延髄に突き刺さると、その男は激しく痙攣しながら地面に倒れ込む。
「―――ああ、あ」
それが駄目押しだったんだろう。
「あわ、わあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
「っひ?!ひひ、ひゃあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
「なんっ・・・!?しん、死んで!?死んでェエエエエエエエ!?!?!?」
残った男たちは一斉に悲鳴を上げ、辺り一面は瞬く間にパニックとなった。
手裏剣を放ったまま、足元を蹴る。
こちらに背中を向けている若い男に狙いを付け、柄に手を置く。
「―――どうもこんばんわ!!死ね!!!(小声)」
「いぎ!?」
走り込んだ勢いのまま、横薙ぎの抜刀。
夜の空気を切り裂いた刀身が、蒲鉾でも切るような感触を残して延髄を深々と斬り付けた。
「っふ!!!」
首から鮮血を撒き散らすそいつの背に肩で体当たり。
半ば即死の状態のそいつが、未だにパニックを起こしている群れの中央に飛んでいく。
「っひ!?ひぇ、ひいい!?!?なんっ!?がぎゃああああああ!?!?」
倒れた仲間にしか目が行っていない新手。
そのがら空きの背中を、思い切り斬り下げた。
薄手のTシャツにするりと刃が潜り込み、一拍置いて血が吹き出す。
「いで!?アッツ!?!?ああがああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
即死ではないが、致命傷クラスの傷だ。
満足な設備のないこの場所では、輸血も縫合もできないだろう。
放っておいても死ぬな。
ハイ次。
「っき、気を付けろ!誰かが後ろにゅぃい!?!?!?」
遅ればせながらやっと俺という敵の存在に気付いた中年の男が、こちらを振り向こうとした。
その、振り向いた顔面を上段から斬り下げる。
「あっが!?ああ!!あああああああっ!?!?」
額のど真ん中から顎までを縦に斬られたそいつもまた、吹き出す血を押さえるように手で顔を覆いながら地面に倒れる。
無力化完了。
ハイ次。
「っな!?なんなんだお前ゥ!?!?」
「当ててみな、あの世へご案内する・・・っぜ!」
驚くべきことに質問という反応に出た男の腹を刺して刀を捻り、蹴りながら引き抜く。
「っひぐうう!?あああが!?あああああああああっ!?!?!?!?」
倒れ込んで腹を押さえ、のたうち回る男を視界の隅で確認しつつ周囲を見回す。
さすがにこの段階ともなれば、何人か威勢のいい奴というか喧嘩慣れしている奴は混乱から立ち直りつつある。
見えない銃撃よりも、見える敵を見つけたことで精神が若干安定したんだろう。
「っだらぁこの野郎ォオ!!!」
「ぶっころっぞ!!!!!!」
「オルァアアアア!!!!!」
おっと、威勢はいいが足元が震えていらっしゃるぞ。
死ぬときまでそのままで頼むわ。
後方に跳び下がりつつ、片手で手裏剣を投擲。
「ェンッ!?!?!?」
威勢のいい若い兄ちゃんの喉に、返し付きの棒手裏剣が突き刺さった。
痛い上に抜けないし、無理に抜けば傷口がデカくなって出血死。
かといって抜かなくても遠からず死ぬ。
俺に構うどころじゃないだろうなあ。
「ああああああああああああああああっ!!!」
草刈り用の大型鎌を持った同年代くらいの男が、豪快に叫びながら俺を追ってきた。
重心がブレッブレだな。
俺どころか野良ゾンビにでも苦戦しそうな有様だ。
その後ろからも、5人ほどが手に手に武器を持って俺を追う。
いくら素人でも刃物は刃物。
当たり所が悪ければ大怪我をしてしまう。
まあ、当たる気はないんだがな。
「こおのっ!野郎!!」
大鎌が大きく振り上げられる動きに合わせ、間合いに踏み込む。
まさかこう動くとは思っていなかったのか、男の目が大きく見開かれた。
「っし!!!」
飛び込む勢いのまま、突き。
首を掠めるように放たれたそれは、男の首を4分の1抉りながら突き抜けた。
笛の音のような音と共に、男の首から鮮血がほとばしった。
大鎌を取り落として必死で首を抑えようとする男の股間を蹴り上げ、強制的に地面に転がす。
「カズヤぁ!?てめえよくもてめえ!!!」
続く男は、薪割りに使うような手斧を持っていた。
片手のみのコンパクトな振りで、俺を狙ってくる。
・・・武道の経験はないようだが、速い。
力自慢かな?
「なんだよォ!!なんなんだよォお前はァア!!!!」
振りは早いが、直情的で軌道が読みやすい。
しかも毎回力任せだから、瞬く間に息が上がり始めている。
「このぉ!このぉ!!こっ・・・っがぁああああああああああ!?ああああああああああ!!!」
縦振りを躱しざまに小手を斬る。
「えっ」
軽く腱を斬って無力化するつもりだったが、刃は手首の半分ほどを切り裂いて抜けた。
・・・『竹』どころか『松』ランクの切れ味を想定していると切れすぎるな、『魂喰』
さっすが悪人限定の妖刀。
容赦がない。
「聞いてねえ!こんなの・・・こんなの聞いてねえよおおおおおおおッ!!!!!」
「馬鹿野郎逃げるな!敵は1人しかいねえんだぞ!!」
「だったらてめえが突っ込めばいいんじゃねえかよ!!ホラ行けよ!早く!!早く!!!」
後方の集団では早くも統制がガバガバになりつつある。
馬鹿じゃねえの、まだ10人以上いるのに情けないなあ。
・・・まあ。
この期に及んで『敵は1人』なんていう認識なら、統制も何もあったもんじゃねえな。
「俺はもう抜けっる!?」
たまらず逃げようとした男の右足が撃ち抜かれた。
太腿だ。
出血死必至だが、即死ではない。
「っぎ!?あああっ!?だずっ!?だずげ!?ああああ!?ぎゃあああああああああああ!?あああああああああっ!?!?」
地面に倒れた男の両手両足に、1発ずつ順番に弾丸が撃ち込まれていく。
どれもこれも助かりはしないが、即死もしない位置だ。
容赦がない。
周囲の男たちは救助もせずただただ茫然としているか、喚きながら走り去ろうとしている。
うーん、仲間とは一体。
神崎さんとはたぶん違う。
・・・これは、アニーさんの銃撃か。
レイプ犯まがいの相手は本当に嫌いらしい。
俺がそうなる心配は皆無だが、怒らせないようにしないとなあ。
「どけ!!そこどけってんだ!!!」
そんなことを考えていたら、新手がやってきた。
顔面は蒼白、呼吸は乱れに乱れ、涙まで浮かべている。
銃よりは刀の方が勝ち筋だと思ったのだろう。
「まあ、ゆっくりしてけよ。お茶は出せないが」
相手の得物は・・・なんだアレ?
銛・・・か?
マグロとかを捕る時に使えそうな代物だ。
全体は長く、先端の部分は鋭い。
まともに当たれば強力な武器になるだろう。
まともに、当たれば。
「しねえええっ!!しねええええええええ!!!!」
驚くことに、男は銛を大きく振り上げて俺に向かってくる。
・・・えっ?投げないの?
もしくは突かないの?
じゃあもうただの棒でいいじゃんそれ・・・
「あああああああっ!!!」
「っふ!!」
勢いだけはある振り下ろしに、横薙ぎの斬撃を放つ。
かつ、という軽い音。
銛の持ち手は、驚くほどアッサリと切断された。
「あああああ・・・あ?」
切れた先端は明後日の方向へ飛んでいき、軽くなった銛のせいで男は完全に体勢を崩した。
「っぎ!?」
その横を通り抜けつつ、がら空きの胴を払う。
何かが噴出するような水音を響かせ、男は倒れる。
「来る来る来るって!!」
「馬鹿下がるな!下がるなよ!!」
「じゃあお前が行けばいいだっろ!?あぎゃああああ!!!足ぃいいいいいいい!!!」
「ああああ!!もう何なんだ!!なんなんだよぉお!!!!」
仲間を何人も斬り殺した俺が迫るのを見て、残りの連中は大騒ぎだ。
なんとか逃げようとした奴らは、1人また1人と足を撃ち抜かれて転がる。
あ、今頭撃たれたな・・・あれは神崎さんだろう。
完全に戦意がバイバイし始めているなあ。
俺の仕事はそろそろなくなりそうだ。
「なあおい!み、見てくれよ!!」
と思ったら1人の男が武器をこれ見よがしに捨てた。
そのまま両手を上げ、俺に向かって走ってくる。
「な!武器はない!降伏だ!降参だ!たのむ!助けて!助けてくれっ!!」
見た所隠し武器はない・・・か。
「もうここには来ない!あんたたちに手出しはしない!だから―――」
斬りやすくて助かる。
「なん・・・なん、で・・・」
両手を上げてくれたおかげで丸出しだった首をさくりと薙ぐ。
鮮血を噴出しながら、そいつは絶望を露にして前のめりに倒れた。
「悪いが、人間以外の言葉はサッパリなんだ。すまんな」
こいつらは俺や神崎さんたちが強いから下手に出ただけだ。
もしタイミングが合えば、何度でも同じことをするだろう。
許す道理、義理もない。
え?改心する可能性・・・知らない言葉ですね。
「ダイゴぉ!?この野郎!この野郎!!なんで殺したァ!?武器なんて持ってないのに!!!」
死んだ奴の友達か何かが、遠巻きで俺に吠えた。
「知るかよ。ウチに攻め込んで大乱交やろうとしてた屑にだけは言われたくねえなあ」
言いつつ、血振りをして進む。
「・・・っ!!こ、殺すつもりはなかったんだよ!!」
俺の次なるターゲットになることに気付いたのか、そいつは金属バットを握りしめて後退する。
威勢がいいのは最初だけだったな。
「抜かせ。わかってたんだろ?それが女にとって『殺すよりも酷い事』だってのは」
刀の峰を肩に担ぎ、ゆっくりと近付く。
また逃げようと走り出した何人かが、銃弾によって倒れ込むのが見えた。
「運が悪かったな。たまたま俺や仲間みたいなのが、たまたまあそこにいただけのことだ」
この島で生き残った他の女性陣には運がよかったのかもしれないが。
こいつらだけが屑じゃないかもしれないが、それでも絶対数は減らせただろう。
「な、た、頼むよ・・・ま、魔が差したっていうかさ・・・な?」
―――かた、かた
担いだ刀から振動が伝わる。
「だ、だって俺達さあ!ゾンビと、ゾンビと戦って島を守ってるんだぜ!?」
―――かたかた
「ふぅん?それで?」
「それ・・・だ、だから、ちょっとくらい・・・その、美味しい思いをしたっていいじゃねえかよ!!なあ!!!!」
「知るか。守るのが嫌ならとっとと逃げればよかっただけのことだろ」
「・・・っ!!」
「どんな言い訳しようが、徹頭徹尾てめえらは塵屑だ」
―――りぃん
同意するように、鈴の音が響いた。
絶句し、金属バットを握りしめる男にさらに近付く。
刀は、定期的な振動を肩に伝えている。
「っひ、人殺し!!ひとごろしいいいいいいいいいい!!!!!」
やけっぱちになったのか、男は出鱈目に金属バットを振り回しながら突進してきた。
「―――そいつは、言われ慣れてる」
「あっ・・・がが、ひゅ、ごぼ・・・」
真っ直ぐに突き出した切っ先は、男の口内を蹂躙して反対側へ突き抜けた。
捻らずに引き抜く。
立ったまま何度か痙攣したあと、男は崩れ落ちて二度と動くことはなかった。
「世の中、女子供に厳しくて困るなあ」
―――りぃん
男を処理して見れば、残りの人間はほぼ死ぬか死にかけの状態で地面に横たわっていた。
神崎さんもアニーさんも、すげえ腕前だなあ。
・・・これ俺いる?
寒気がした。
残敵を警戒するのをやめて息を抜いた瞬間のことだった。
その感覚に身を任せて、体を折る。
頭上を、何かが回転しながら飛び越えていった。
「―――っ!!」
そのまま姿勢を戻さず、体を回転。
刀を構えたまま振り返る。
再び投擲物。
体を捻ると、脇を植木鉢めいた物体が土を撒き散らしながら飛んでいった。
投げた相手はどこだ!?
―――いた!
正面、闇に同化するような黒い服で誰かが立っている。
クソ、伏兵か!?
アイツらも多少は頭が回るらしい・・・!
そう考えた時、そいつはぬるりと踏み込んできた。
上体が揺れず、左右にブレない。
重心は一定、だが速度は速い踏み込み。
これは・・・武道経験者!それも、かなり『慣れ』ている!
「っふ!」
正中線を狙って手裏剣を放つと、奴は手を僅かに振ってそれを『弾いた』
金属音!・・・手甲か!
「てめえ・・・鍛治屋敷かあ!!」
今度は前と同じ轍は踏まん!
確実に斬撃を叩き込んでやる!!
「・・・すまねえ!!!!」
・・・へ?
「落ち着いてくれ、田中野さん!!」
この声は・・・石川、さん?
「荒川さん家の方から騒ぐ声が聞こえて、俺ぁてっきり『防衛隊』の奴らだと思ってよ・・・」
決まりが悪そうに闇から出てきたのは、黒い作業着のようなものを着込んだ石川さんだった。
手には鉄板を加工したグローブのようなものをはめている。
さっき手裏剣を弾いたのは、アレか。
デキる人だとはおもっていたが・・・想像以上の腕前だったな。
最近多すぎてマヒしてるけど、飛来する手裏剣をさばけるってだけでかなりの手練れだもんな。
「怪我、ねえかい?すまねえなあ・・・植木鉢投げちまって」
「ああ、いや・・・こっちこそ手裏剣なんか投げてすいませんでした」
血振りをして懐のタオルで刀身を拭って納刀。
俺も頭を下げた。
「いいってことよ・・・おお!こりゃあ盛大にやったじゃねえか」
石川さんは俺の背後の惨状を見て歯を剥いて笑った。
これだけのものを見て笑うとは・・・石川さんも修羅場をくぐってきたんだろうな。
詩谷からここまで1人で来れるくらいなんだから、当然か。
「トチ狂って攻めてきたもんでね、全員魚の餌にでもしようと思って」
「そりゃあいい!漁場が肥えるぜ!」
冗談に乗っかるのはやめていただきたい。
魚が腹を壊すかもしれんので、奴らのなれの果ては適当な所に埋めるつもりだ。
「思った通り、田中野さんは『使える』なあ。あの時、馬鹿2人が喧嘩売らなくてよかったぜ」
「・・・ソウデスネ」
2人並んで惨状を眺める。
少しの間に何人かが追加成仏しているな。
五体満足なのはいない・・・か?
「―――にいちゃあん!」
朝霞の声がする。
空耳かな?
玄関から出てきた朝霞が、小走りに近付いてくるのが見えた。
馬鹿!まだ出てくるやつがあるか!
「おい朝霞まだ出てくるな!危ない!」
俺がそう言った時、死体の1つが動いた気がした。
「あさかああああああああああああああああっ!!」
頭を撃ち抜かれた死体の下から、いつかのクソ童貞がナイフを持って飛び出してきた。
仲間の死体に、隠れてたのか!
クソ!暗いから見逃した!!
朝霞との距離は近い。
アニーさんが撃てないかもしれない!
神崎さんの方からは、垣根があって狙いにくい!
俺が走っても、間に合うかどうか・・・!
「朝霞、逃げ―――」
走りながら朝霞に指示を飛ばそうとして、思い直す。
逃げても奴の方が速い、なら・・・!!
「―――甲冑組手!!『根狩』!!!!」
その声を聞いた朝霞が、クソ童貞に向かいながら瞬時に体を折った。
低く、低く。
地面に擦れるように。
「アサカぁあ!!てめえ!!てめえだけっは!?あ、あぎゃああああああああああああ!?!??」
地面すれすれに踏み込んだ朝霞の長い足が、伸びる。
クソ童貞の足を越えて向こうへ。
そして、瞬時に踵ごと足を払いながら戻ってきた。
南雲流甲冑組手、『根狩』
低く踏み込んで敵の足を前に向けて払い、後頭部から地面に引き倒す技。
本来はその後首を脇差ないし懐剣で突くが、相手は薄着。
「ぎゅん!?!?」
クソ童貞は硬い地面で後頭部を強打。
弓なりになって痙攣している。
「できたし!にいちゃん!あーしできたしーっ!!」
無意識か、ワザとか。
クソ童貞の腹を思い切り踏み付けながら、朝霞は嬉しそうにこちらへ走ってくる。
ブンブンと振り回される尻尾が見えるようだ。
「よーしよし朝霞ー・・・この馬鹿野郎!!!!!!!!!!!!!」
「ひゃん!!」
俺は、とりあえず褒める前に朝霞の脳天に拳骨を落としたのだった。




