16話 まさかの再会のこと
まさかの再会のこと
「うにゃむ・・・」
「こいつは本当に・・・」
相手に届かない愚痴をこぼし、溜息をつく。
そうして、闇に浮かぶ天井を見上げる。
電気もないので真っ暗だが、眠れなくてずっとこうしていたらすっかり目が慣れてしまった。
今では天井の染みまではっきりと見える。
「うぇひひ・・・にいちゃあん・・・」
そして昨日のように朝霞にしがみ付かれている。
その体温は暖かいが、眠気を誘う程ではない。
どうしてくれようか、この夢遊病ワンコ。
式部さんがいないので、今日の朝よりは自由がきくのが救いだろうか。
・・・いや俺も麻痺してるな!?
昼間のアニーさんの爆弾発言から、すっかり夜も更けてしまった。
あの後俺たちは家へと戻り・・・
釣りの時間をエンジョイしすぎたせいでへそを曲げ巻き付くトラップモンスターと化した朝霞に拘束されつつ、魚を捌いたり飯の準備を手伝ったりして過ごした。
ちなみに朝霞には風呂の時間まで巻き付かれたままだった。
『遊んでたんだからあーしもかまえし!一生懸命働いてたあーしをかまえしー!!』
・・・まあ、働いていたことは事実なので構ってやることにした。
途中からなーちゃんも参戦したのでカオスはより加速したが。
朝霞のメンタル、寂しがり屋な大型犬と考えて問題ないような気がする。
あと、絶対に前世はタコと犬の合体魔獣かなにかだ。
そして寝る前にようやく離れてくれたと思ったら、またもや寝ながら突撃されて今に至る。
ちゃんとドアには鍵をかけていたのだが、簡単な構造だったので力ずくで破壊されてしまったのだ。
知らねえぞ、兄貴の部屋の鍵ぶっ壊したなコイツ。
なんちゅうアグレッシブな夢遊病だよ。
「えへぇへ・・・」
その朝霞の、だらしなく開いた口から出た涎で・・・俺のシャツが酷いことになっている、気がする。
あ、違うわコレ朝霞の兄貴のだったわ。
じゃあいいや。
なお、今回は胸の部分に『ドッカンターボ』と書かれている。
兄貴のセンスぅ・・・
「・・・ふぅ」
またも溜息。
寝なければとは思っても、昼間聞いたことが胸の中で渦巻いて眠気を駆逐している。
北にいるヤバい奴らのこと。
そいつらが、胎児を実験に使おうとしていること。
この2つだけでも大変だが、現在俺が気になっていることは別にある。
領国の糞野郎が、生きていること。
生きて、北の連中とつるんでいること。
今までの人生で、ずっと胸の中で燻ぶっていた怒りに火が点いてしまった。
それは今もごうごうと音を立てて、あたかも俺の体を内から焼いているようだ。
ふとした拍子に、顔に出てしまいそうになる。
朝霞やねえちゃんに怖い思いをさせたくないので、しっかりと気を付けておかないとな。
「にいちゃあん・・・リュウグウノツカイは・・・リリースしようね~」
何の夢を見ているのか知らんが、ぐいと朝霞がさらに抱き着いてきた。
とんでもないもの釣ってんな、夢の中の俺。
あんまり美味しくなさそうだ。
「・・・ま、なるようになるか」
仇の生死も、所在もわかった。
しかもアイツが身を寄せている集団は、俺や俺の知り合いにとって最大級の敵と見ても間違いはないだろう。
ならば、いつかはぶつかることになるはずだ。
ミサイルのこともあるし、それは遠い未来ではないだろう。
とりあえずミサイル問題だけでも解決しないと、朝霞たちを避難させることができないからな。
戦闘員の俺達はともかく、2人は速やかに龍宮方面に逃がさなきゃいかん。
北の連中の・・・そう、『研究材料』にされるようなことだけは何としても防がなければ。
胎児を・・・子供を宿せるのは女性だけなのだ。
間違いなく、この島で最も危険な立場にあるのがこの2人だ。
アニーさんや式部さんは、自分のことは自分で守れるからな。
「いつまでもウジウジ考えていても仕方がない、な。俺にできることは現状、チャンバラだけだ」
自分に言い聞かせるように呟き、目を閉じる。
そのためにも、ぐっすり寝て備えなければ。
急な戦闘が発生した時に、怪我で動けませんじゃ話にならんし。
「頑張って寝るか・・・」
「そうだよぉ・・・ねようねよ・・・う・・・」
むにゃむにゃと無意識で同意する朝霞に苦笑しつつ、無理やり眠るためにサクラを数えることにした。
今日は何匹のサクラが出てくるだろうか。
サクラが1匹・・・サクラが2匹・・・
「にいちゃぁん!おはよ!いい天気だよー!!」
「わかったから揺するな揺するな・・・おはよう、朝霞」
サクラを452匹数えた所で眠気が勝ち、気が付くと朝だった。
朝霞は俺の上に乗って、嬉しそうに飛び跳ねている。
・・・朝から随分と絵面がひどい。
これ訴えられたら俺負けるんじゃねえの?
「朝だぞ2人とも・・・オゥ、コレは失礼した。続けてくれ」
「待って待ってアニーさん誤解だから待って!あとなんですかその卑猥なハンドサインは!!」
ドアから顔を覗かせたアニーさんが、この上なく楽しそうにニヤニヤししている。
ここ数日でこの人に対する評価が180度変わったわ。
見かけは綺麗なお姉さんなのに、中身は結構愉快だぞ。
「なら早くすることだ、ミソスープが冷めてしまう」
「アニーちゃんおっはよ!行く行く~!にいちゃんも早くして―!」
「ぐぇ」
俺の上で一層強い反動を付け、朝霞はベッドから飛び降りると小走りで廊下へ出て行った。
「ほらハリアップ、寝坊助さん」
「はいはい・・・」
ニヤニヤしているアニーさんに軽くイラっとしつつ、俺は朝飯にありつくために体を起こした。
「あれ?式部さんは?」
ねえちゃんの味噌汁に舌鼓を打っていると、式部さんの姿がないことに気が付いた。
あの人が寝坊するとは考えられない。
え?昨日の朝?
・・・知らない子ですね?
「む、聞いていなかったか?ミス式部は昨日の夜に龍宮へ一旦帰還したぞ」
器用に味噌汁を啜りながら、アニーさんが返してきた。
「帰還ってどうやって・・・あ」
「来た時と同じように、夜に紛れてな。ある程度まで行けば迎えが来るらしい」
水中スクーターとやらを使ったのか。
海中では波の影響はあまりないらしい。
あれ?
船なんかなくてもそれ使えばみんな逃げられるんでは?
「・・・といっても、素人には無理だぞ?暗闇の海中を少ない情報で単独潜航しなければならんからな」
どうやら顔に出ていたらしい。
アニーさんは苦笑しながら窘めてきた。
・・・よく考えればそうだ。
真っ暗な海の中を潜るなんて・・・うん、無理。
怖すぎる。
暗がりから超巨大鮫とか飛び出してきそう、B級映画だと。
「ここで集めた情報を持ち帰り、武器や物資をまた持ってくるつもりだと聞いた。キミは聞いて・・・ああそうか、アサカに巻き付かれてそれどころではなかったようだな」
「アニーちゃん!あーしをタコの化け物みたいに言わないで欲しいし!!」
「いや間違ってはないだろ」
「にいちゃんまでそういうこと言う!?ひどいし!!」
嫌なら巻き付くのを止めるんだな。
なんだあの巻き付き方。
かなり力を入れないと外せないんだぞ。
後藤倫パイセンの関節技と大差ない。
「ねえちゃん的にどうなのさ?男に巻き付いたままベッドインする娘は」
「元気があっていいことだわ~」
俺にどんぶり飯をよそってくれたねえちゃんは大層いい笑顔を見せた。
・・・母親ァア!!
「もちろん相手がいっくんだからよ~?このままウチの子になっちゃう?」
「なっちゃわないなっちゃわない。犬の子拾うみたいに言わないでくんない?」
「ももむ!!むむんむい!!まみゃみゃみゃっも!!!」
「―――朝霞、口にものを入れて喋らないの」
なにやら興奮していた朝霞だが、ねえちゃんに言われた瞬間に黙った。
この母親、強い!
旦那さんもさぞ尻に敷かれていたことだろうなあ。
そんなことを考えていると、玄関の方からどんどんとノックの音がした。
「ねえちゃん、俺が出る・・・アニーさん」
「見えないところから狙っておこう」
話が早くて助かるね。
さて、こんな朝早くから誰だろう。
『防衛隊』の連中か、それとも・・・
兜割だけを掴み、俺は玄関に向かった。
後ろからは、アニーさんが音を立てずについてくる気配がした。
どん、とまた玄関が叩かれる。
さほど強い勢いではない。
電気のこともあるので、チャイムはどの家も切ってあるからこの形になったのだろう。
以前の『防衛隊』のような連中ならもっと強く叩くし叫ぶだろうし、ひょっとして近所の人が来たのだろうか。
「どなたですかー!?」
そう言うと、ノックが止んだ。
そりゃあな、いきなり知らない男の声が下からビックリしたんだろう。
しばしの無言の後、向こうから声が帰ってきた。
『えーっと、アンタは誰だ?荒川さんとこの息子じゃないだろう?』
扉越しでくぐもってはいるが、男の声だ。
曇りガラス越しに見える姿は、1人。
結構ガタイがいいように見える。
・・・何か、両手に抱えているな。
「ああ!俺は荒川千恵子さんの叔父の息子だ!それで、あなたは!?」
『そうだったのか!いや、大漁だったからおすそ分けでもと思ってね・・・俺ァこの先の辻井の息子だ!』
辻井さん・・・この前遠征した時に家の前を通ったな。
「あらあら、ガンちゃんじゃない!いつも悪いわねえ・・・いっくん、開けてあげて~、あの子は大丈夫よ」
いつの間にか後ろにねえちゃんがいる。
声につられて来たのだろうか。
「最近詩谷から帰ってきた子なの!いつもお魚を分けてくれるいい子よ~」
ねえちゃんがそう言うなら、変な相手じゃないんだろう。
まあ、別に怒鳴ったり押し入ろうとしてくるわけじゃなかったしな。
だが、用心のためにいつでも兜割を抜けるようにしつつ鍵を開ける。
「いやあ、すみません・・・詰問みたいなっちゃって・・・」
ドアの向こうに、朝日の中に立つ男が1人。
やはり、かなりガタイがいい。
がっしりとした筋肉が全身を覆っている。
釣り人のような格好をして、頭には大きい帽子をかぶっていた。
「いいんだよ気にしなくてよ、最近物騒だからなぁ」
抱えていた発泡スチロールを地面に下ろし、その人は歯をむいて笑った。
うお、でっかいブダイだなあ・・・釣りかな?
いや、腹に刺し傷がある・・・素潜りかな?
ただの善意の隣人だったようだ。
この殺伐とした世界では本当に珍しい。
「よぉ兄さん、アンタ・・・どっかで会ったことねえか?」
ブダイに見とれて顔を見ていなかった。
慌てて顔を上げ、その人と視線を合わせる。
・・・うん?確かにどっかであったことが・・・あるような?
そう思っていると、その人は帽子を脱いだ。
あ!その坊主頭・・・それに正直カタギに見えない迫力のある顔・・・確か!!
「・・・ひょっとして石川さん、ですか!?」
「そうだよ!そっちは・・・木下さんだったな!たしか!!」
きのしたぁ?
・・・あっ。
・・・その偽名で完全に思い出した!!
このゾンビ騒動が始まって本当にちょっとしたころ。
詩谷のホームセンターで会った石川さんだ!!
俺が成仏させたチンピラ、タケとリキの上司だか先輩だかの!!
たしか、知り合いを探すって言って詩谷を出て行ったってアイツらが言っていたが・・・?
「改めまして、田中野一朗太って言うんです本当は・・・あの時はその、警戒して偽名を・・・」
「いいっていいって、さっきも言ったけど物騒だからな!仕方ねえや!」
庭のベンチに座り、石川さんと話している。
おっと、なーちゃんも俺に体重をかけながら参加しているな。
もうちょっと待っててな、後で遊んでやるから。
「しっかしこんな所で兄さん・・・田中野さんと会うとはなぁ!世間は狭いねえ!」
「俺もビックリですよ」
ほんと、事実は小説より奇なり・・・ってやつだ。
正直、生きて会えるとは思ってなかった。
「髪型と体つきに見覚えはあったんだけどよ、顔は随分と強そうになったもんだな!」
「いやはは・・・お恥ずかしい」
むっちゃ顔に傷増えてるもんなあ。
俺もあの時点ではまさかこんな顔面になるとは予想できなかった。
「あの時は気のせいかと思ったが・・・改めて、あの馬鹿2人が喧嘩売らなくてよかったぜ。今の田中野さんを見ちまうとなあ!あいつらくらいなら瞬殺しちまいそうだもんなあ!!」
「・・・ソウデスネ」
すんません、あの2人は瞬殺したので確かにこの世にはいないです。
いやでも、絡んできたから殺したのであって俺は悪く・・・悪くないな?
「ええっと、そういえばチイコ姉ちゃんと知り合いだったんですね」
とりあえず話題を逸らそう。
誰も幸せにならない。
「ん?おお、千恵子さんにはウチの死んだお袋が世話になってよお・・・いいご近所さんだったんだ。俺がこっちに戻って来てから、せめてもの恩返しってやつで魚くらいは差し入れさせてもらってんだ」
田舎特有の密なご近所付き合いってやつか。
俺があんまり得意じゃないやつだな。
「あー!イワおじさんじゃん!おっすおっす~!」
朝霞が窓を開けて庭に出てきた。
「おう朝霞ちゃん!今日も朝から元気じゃねえかよ!シャツくらい着ろってんだ!!」
「暑いからいいの!!」
「よくないに決まってんだろ!!石川さんももっと言ってやってください!!」
ブラジャーに短パン一枚という格好で出てきた朝霞は、そのまま俺の膝の上にするりと腰を下ろした。
「イワおじさんとにいちゃんしかいないんだからいいじゃーん!ね!なーちゃん!」
「バウ!」
なーちゃんは『いや駄目でしょ』みたいなニュアンスで吠えたが、朝霞は気にしていないようだ。
気にしろ。
「まったくもうこいつは・・・そして何故俺の膝に座るんだお前は」
「にいちゃんは高級な椅子みたいなもんだし!」
これ褒められてんのか?
それとも遠回しに馬鹿にされてんのか?
「ガンちゃん、おにぎり握ったから漬物と一緒に持って帰ってね~、玄関先に置いてあるわよ~」
そしてねえちゃんがいつものような調子で声をかけてきた。
マイペースぅ・・・
「これは、どうも!いつもすいませんね、千恵子さん!」
「気にしないでいいのよ~、こっちもお魚ありがとうね~」
ふむふむ。
朝霞やねえちゃんの反応からして、石川さんは信頼に値するご近所さんのようだ。
まあ、前に詩谷で会った時もこの人は変な感じじゃなかったけど・・・
「そういやよ、田中野さん」
石川さんが低い声で尋ねてきた。
「あんたのその傷、もしかしてウチの馬鹿2匹がこさえたんじゃ・・・」
「いやいやいや、コレは別口ですよ。あの2人にはあれからとんと会ってないんですよ、ちょいと龍宮で長くうろついてたもんで」
「・・・そうか、ならいいんだ。あいつらはしつけのなってねえガキでよぉ、性根を叩き直してやろうと思ってたんだが・・・あの後逃げられてなあ」
「逃げられた?」
あれ?
あいつらは石川さんが消えたみたいなことを言ってたんだが。
「おう、目を離した隙によくねえ仲間とつるんで強盗まがいのことしてやがったんでな。説教したら仲間ァ呼んで喧嘩売ってきやがってよ、全員ぶん殴ってやったんだが・・・次の日に消えててなあ」
・・・石川さん、あいつら全員ボコボコにしてたのか。
なるほど、あいつらみたいなチンピラが自分から殴られましたなんて俺に言うわけないもんな。
これで納得だ。
しかし龍宮に行ったハズの石川さんがなんで牙島に・・・?
それに家と苗字も違うし・・・
気にはなるが、会ったばかりで聞くことでもないか。
いつか聞けたら聞こう、うん。
「俺も龍宮で探してるやつがいたもんで、詩谷から離れることになっちまったんだ。人様に迷惑かけてねえといいんだがよお・・・」
未来永劫大丈夫だと思う。
どこかの野犬とかゾンビに美味しくいただかれるか、雑草の肥料として活躍してるんじゃないかな。
「おっと、長居しちまったなあ・・・それに顔馴染みが生きてて嬉しいぜ。ここいらで何か困ったことがあったら言いな、力になるぜ」
「やーどうも、よろしくお願いしますね」
ご近所にまともな人間がいるとわかっただけで嬉しい。
少しだけ朝霞たちへの危険度が減ったな。
「おおっと、そうだそうだ」
ベンチから立ち上がった石川さんは、何かを思い出したように振り返った。
「最近『防衛隊』の連中が調子に乗っててよぉ、若い娘さんにちょっかいかけてるみてぇなんだ。ここは千恵子さんに朝霞ちゃんがいるからよ、気を付けるんだぜ」
それを聞くと、俺ではなく朝霞が元気よく答えた。
「だいじょーぶ!そいつらならにいちゃんがきんたま蹴り上げて泡吹かせて追い払ったし!」
こら!はしたないですわよ朝霞!!
せめて金的とか股間とか言いなさいな!!
「がははははは!!そうかよ!!がははははは!!そいつは痛快だ!!!」
石川さんはもう爆笑である。
嬉しそうで何よりです。
「ははは・・・そうか、田中野さんがいりゃあ安心だな!よかったなあ朝霞ちゃん、色男の兄貴ができてよお!!」
「うん!!にいちゃんは最高のイロオトコだし!!」
「がはははは!!!」
朝霞の返答に、石川さんは笑いながら去って行った。
褒めすぎでしょ、朝霞。
「いいご近所さんがいてよかったなあ、なーちゃん」
「バフ!ワウ!!」
突っ込む気も失せてしまったので、近くにいたなーちゃんを撫でてお茶を濁すことにした。
「あーしも褒めて褒めて!!」
「シャツを着たら超褒めてやる」
「着てくるしーっ!」
朝霞はすごい勢いで家へ入って行った。
単純なことであるなあ。
「お前の方が賢いかもしれん、ある意味では」
「キュ~ン・・・」
『そうかな・・・そうかも』とでもいうような表情で、なーちゃんは困ったように首を傾げていたのであった。
「イシカワだったか。彼は数少ないまともな住人の1人だよ」
家に入り、お茶を楽しんでいるとアニーさんが言ってきた。
前から知っていたのか。
「マスク姿で挨拶したことがある。『この家の人間に不義理を働いたらぶち殺す』と凄まれたよ、ははは」
「へえ、言葉は荒いけどいい人なんだなあ、やっぱり」
アニーさんまでそう言うなら、石川さんは警戒しなくてもよさそうだな。
「ここら一帯がさほど『防衛隊』の被害を受けていないのは彼のお陰でもある。以前に10人ほど殴り倒したらしいからな、この前のキミの一件もあって・・・さらに安全度は跳ね上がったようだ」
俺の活躍?も少しは役に立っているようだ。
よかったよかった。
オッサンの金玉様様であるな。
「・・・もう満足したか、アサカ?そろそろ仕事にかかるぞ」
「うぇ~い!充電カンリョー!だし!」
俺の膝に頭を預けて撫でられていた朝霞が跳ね起きた。
撫でる度にふにゃふにゃになっていってたからな、人間に戻れるか不安だったがテンションはマックスらしい。
「おっと、イチローは留守番だ。倉庫で作業している間、家の警備をしっかり頼むぞ」
「すいません、お役に立てず・・・」
「その分は戦闘で返してもらうからいいさ。しっかり体を治しておけ、サムライ」
「にいちゃんは絶対アンセーだかんね!ニートしててニート!!」
ニートは絶対安静の類義語ではないぞ朝霞よ。
いろんな人に怒られるからその使い方はやめようね?
そうして2人は倉庫で作業をするべく家を出て行った。
むーん、手持無沙汰だなあ。
「ねえちゃん、家のことで何か手伝いって・・・」
「いっくんは前にたっくさん働いたから一日中寝ててもいいからね~」
ニート通り越して寝たきりじゃねえかよ!!
・・・なーちゃんのブラッシングでもしてようかなあ。
運動したら怒られそうだし、傷に響かない筋トレくらいにとどめておこう。
なーちゃんと遊んだり、飯の手伝いをしたり昼寝をしたりしていたらあっというまに夜になった。
何の危険もない、大変に平和な1日であった。
などと、締めようとしていたら庭先で気配がする。
いつかのように波打ち際方面で音がし、しばらく待っていると足音。
兜割を握って警戒していると、またもや潜水服姿の何者かが闇からぬっと現れた。
あれってウェットスーツじゃなくてドライスーツって言うんだってな、式部さんに教えてもらって一つ賢くなったぜ。
「どうも式部さん、もう戻ってきたんで・・・す、か」
酸素マスク的なモノとゴーグル的なモノを乱暴に剥ぎ取った人影は、俺に向かって猛然と走り出す。
「たなかの・・・たなかの!田中野さあああああああん!!!!」
「ウグーッ!?!??!?!?」
再びの良質タックルで、俺は地面に押し倒された。
いきができない!しぬ!!
「お元気そうで・・・なにより、なによりです!うう、うううううう・・・!!!」
酸欠で死にそうな俺の腹に顔を埋め、涙声で話しているのは・・・神崎さんだった。
アイエエエ!?ミガワリ!?ミガワリナンデ!?!?
「また新しい女だ!!まーた新しい女だしっ!!!」
俊敏に庭までダッシュしてきた朝霞の怒声を聞きつつ、俺は式部さんにしたように必死で、泣きわめく神崎さんをなだめていた。
傍らではなーちゃんが『またか』というような少し呆れた顔をしていた。




