12話 懐かしい声のこと
懐かしい声のこと
「も、申し訳・・・申し訳ないであります・・・」
荒川家の居間にある大きなソファー。
「一度ならず二度までも・・・二度までも・・・」
そこに座る俺の目の前・・・というか若干下。
「この上はもう腹を切ってお詫びするしか・・・」
そこで、式部さんがそれはもう見事な土下座を披露していた。
「うるるる・・・!」
そして俺を後ろから羽交い絞めにし、肩越しに式部さんを唸りながら睨む朝霞。
・・・なんだこれ。
海からやってきた式部さんに、もの凄い勢いで抱き着かれてから2時間ほど経った。
ギャン泣きしながら抱き着いてきた式部さんは、家からダッシュで出てきた朝霞がどれほど力を込めてもその腕を離すことはなかった。
俺の胸に顔を埋めて泣く式部さん。
ヤンキーみたいな口調でキレまくる朝霞。
新しい遊びか何かと勘違いしたのか、嬉しそうに周囲を跳ねまわるなーちゃん。
肩をすくめるジャックさんといつも通りのねえちゃん。
控えめに言ってカオスの極みみたいな状況だった。
俺は頑張った、超頑張った。
式部さんに抱き着かれつつ、怒り狂う朝霞に『この人は前からの知り合いで無茶苦茶世話になった人だから銃を抜こうとするんじゃない』と必死で呼びかけ。
ねえちゃんに『この人は大恩人だから危険はない』と知らせ。
ジャックさんに『シーイズセルフディフェンスフォース!!アンドニンジャ!!』と叫んだ。
・・・最後のだけ変なノイズが混じったが、どうにかこうにか事態は落ち着いた。
というか朝霞、俺の指示なしに銃を使おうとするんじゃないの。
そうして俺は式部さんが落ち着くまで地面に転がったまま、頭を撫でたり背中をポンポンしたり、小さい子をあやすようにした。
その結果として、式部さんはようやく平静を取り戻した。
そして、居間の床で土下座しているというわけだった。
なお、ウェットスーツの下はいつもの戦闘服であったことをここに記しておく。
「いいんですよ・・・俺の方こそ大見え切ったのに行方不明になっててすいませんでした」
決して床から顔を上げない式部さんに、とりなすように言った。
しかし綺麗な土下座だ・・・ぴしっと一本線が入ったような感じ。
「いえ!いえ!じぶ、自分は、田中野さんがこうしてお元気でいらっしゃるだけで・・・だけで、うう、うううう・・・!」
やっべ、また式部さんが泣きそう。
「し、式部さぐええ」
慰めようとソファーから下りようとしたら、朝霞の腕が首に絡みついた。
お前これは・・・禁断のスリーパーホールド!!
「なにしてんの朝霞」
「ううう~・・・うううう~!」
朝霞は唸るばかりである。
お前なんか先祖返りしてない?
あ、先祖に返ったら猿だから・・・唸るってことはやっぱりお前の前世は犬でござるな?
「お前ねえ、さっきも言ったけどこの人はもうすっげえ世話になってる恩人なわけ。だから危険な人じゃないってば」
「危険だし・・・あーしの女としての勘がそう言ってるし・・・言ってるし・・・」
「その勘たぶん錆びついてるからヤスリかなんかで磨いとけ」
なんのこっちゃもう。
「ねえ、いっくん」
悩んでいると、ねえちゃんが声をかけてきた。
「ええと、その式部さん・・・だったかしら?とりあえず・・・お風呂に入ってもらったら?」
「・・・あ」
そうだ。
式部さんは海からやってきたのだ。
ウェットスーツ越しだから濡れてはいないけど、それでも体は冷えているだろう。
どこから泳いで来たかはわからないが、それでもかなりの時間海の中だったはずだ。
俺としたことが、そんなことにも気付かないなんて。
「式部さん?私は荒川千恵子って言うの、いっくんの従妹よ?」
ねえちゃんが、土下座したままの式部さんの肩を叩く。
「ご親戚、でありますか・・・!こ、これは申し訳ありません・・・ご挨拶が遅れてしまって」
慌てて式部さんが顔を上げた。
その目はゾンビも真っ青なくらい真っ赤になっている。
ギャン泣きしてたもんなあ・・・
「いいのいいの、それくらいいっくんのことが心配だったんでしょう?お風呂が沸いているから入りなさいな」
「で、ですがご迷惑を・・・」
「こーら、女の子が体を冷やすとよくないわよ~?家主の指示には従ってもらいますからね~」
そう言うと、あれよあれよという間に式部さんは立たされた。
「着替えは私のお古で悪いけど用意しておくからね、上がったらご飯もありますからね~」
「わわ、あの、ちょ、ちょっと、あわわ・・・」
そうして風呂場に連行されていく式部さんである。
・・・ねえちゃん、なんというか逆らい難い雰囲気があるからなあ。
母は強し、というやつであろうか。
「い、一朗太さぁん、の、後ほど~」
「はい、ゆっくり温まってくださいね」
脱衣所に押し込まれていく式部さんに、苦笑いで返す。
うーん、先程のしんみりムードが消えてなくなってしまった。
まあ、いいけど。
「随分と親密な知り合いらしい。隅に置けないな、イチロー」
一言も発していなかったジャックさんが、からかうような声色で言ってきた。
他人事だと思いやがって・・・
そして朝霞がまた腕に力を込めた。
死んじゃうからヤメテ。
「んぐぐ・・・自衛隊とは色々縁がありましたからね。あと朝霞、そろそろ俺の意識がブラックアウトしちゃうからステイ!ステイ!」
「むむむぅ~・・・すんすん」
「お前今匂い嗅いだろ!見かけより余裕あんなこの野郎!」
「ちょわぁ!?やめ、やめろし!」
一瞬拘束が緩んだ隙を突き、後ろに手を回して朝霞のほっぺをもにもにと摘まむ。
効果はてきめんで、朝霞は瞬く間に離れた。
・・・ふぅ、空気が美味しい。
「朝霞~、ちょっと式部さんの服選ぶの手伝ってね~」
「ええ?なんであーしも?」
「つべこべ言わないの~、晩御飯は梅干し1個にしちゃうわよ~」
「うぎゅう・・・手伝う、手伝うよォ・・・」
朝霞にとっては凄まじく嫌な脅し。
呆気なく屈した朝霞は、ねえちゃんと一緒に2階の方へと消えていった。
うーん、強い。
やはりこの家最強はねえちゃんだな。
あっという間に片がついてしまった。
「・・・彼女はどうやら安全なようだな。まあ、イチローの知り合いなら間違いはない、か」
2人だけになった居間で、ゆっくり息を吐くジャックさん。
「・・・そう思うならポッケの中のモノはもういらないんでは?」
「用心だよイチロー、用心だ」
そう言いながらポケットから抜き出された右手には、なんだろう・・・見たことのない拳銃?が握られていた。
掌に隠れるほどの大きさで、銃全体がゆるくカーブしている。
あんな拳銃あるのか・・・スパイ映画で見たことがある、ような?
「しかし、よく銃に気付いたなイチロー」
「拳銃とは知りませんでしたけど、雰囲気ですかね。いつもと違ったんで」
式部さんの土下座を見ていたジャックさんは、いつもとは違ってゆるく殺気を纏っていた。
それで気付いたのだ。
「サッキ、というやつか。サムライは勘が鋭くて困る」
「こと戦闘に関しては、先に気付かなきゃ死ぬんでね。あと、たぶん式部さんも気付いてましたよ・・・彼女はホラ、最近珍しいリアルニンジャなんで」
土下座の際に、式部さんの右手に若干の違和感があった。
恐らく千本・・・手裏剣を握り込んでいたんだろう。
あの場でジャックさんがもし敵意を持って動けば、すぐさま反応したに違いない。
「・・・キミの周りは退屈しなくていいな」
懐に拳銃をしまいながら苦笑いをしているようなジャックさんである。
殺気ももうないし、式部さんをどうこうする気はなさそうだ。
「ええ、他にもえげつない仲間がいっぱいいますしね」
「やはり、この島よりそちらはかなり安全そうだ・・・とっとと脱出しよう」
ここは立地以外が最悪だからなあ。
俺も早く体を治さなきゃ。
とりあえず、話も済んだし一服してこようかな・・・
「おっと、今日は禁煙だぞイチロー。ナーチャンと遊ぶのなら外に出てもいいが」
「・・・はぁい」
仕方あるまい。
衛生兵?の指示には従おう。
なーちゃんと触れ合ってリフレッシュしてくるとするかなあ。
なーちゃんと遊ぶことしばし。
窓越しに見ていると、式部さんが風呂から上がって居間に来るのが見えた。
先程と違って血色もよく、落ち着いているように見える。
・・・が。
ねえちゃんに渡されたのか、ジャージのズボンにTシャツ姿になっている。
その胸の部分には、デカデカと書かれた『チ ョ ベ リ グ』の文字。
朝霞の兄貴のシャツじゃねえか!!
ねえちゃん、ちょっとそれは・・・いや?
あのシャツ、俺が着ていたものより明らかに小さい!?
ってことは・・・ねえちゃんの私物!?
なんてこった!あのセンスは荒川家のDNAに刻まれているものだったのか!!
道理で朝霞も時々変な柄のシャツ着てるわけだよ・・・
「落ち着きました?式部さん」
「あ!一朗太さん!いいお風呂でありました!最高であります!」
庭から戻ると、いつもの式部さんだった。
風呂のリラックス効果ってすげえ。
「元気になってよかったですよ。ともあれ・・・お久しぶりです」
怒涛の展開だったので、ここらで仕切り直しておこう。
手を伸ばすと、式部さんは嬉しそうに握手をしてきた。
「暖かいであります・・・どうやら幻覚でないようで・・・はい、お久しぶりであります!」
何を疑っていたのか。
それでも式部さんは、嬉しそうに俺の手を強く握りしめていた。
「あらあら、元気になってよかったわぁ」
「・・・」
ねえちゃんと無言の朝霞が、キッチンから大きな鍋を持ってやってきた。
「何から何まで、お世話になります・・・申し遅れました。自分は、陸上自衛隊龍宮仮設本部所属、式部陸士長であります!」
式部さんはねえちゃんに向かってしっかり立つと、ほれぼれする程キレッキレの敬礼で挨拶した。
「まあ、格好いいわぁ~。私はさっきも言ったけど荒川千恵子、そしてこっちが・・・」
「ぅう、あ、荒川、朝霞、です!」
鍋をテーブルに置きながら、朝霞は渋々挨拶をした。
ねえちゃんが何を言ったのか知らんが、さっきよりは大分マシになったなあ。
「・・・にいちゃんの妹です!」
というのもつかの間、朝霞は一瞬で俺の背後に回り込んで背中にしがみ付いた。
くるしい。
っていうか勝手に家系図を書き換えるな。
「なんと!一朗太さんの妹さんでありましたか!お兄様には日頃から大変、大変お世話になっておりまして・・・」
「違うから、従妹の子だから」
「めんどいから妹でいいじゃん!」
「めんどいで戸籍を改竄するなよまったく・・・」
その様子を見ながら、ねえちゃんはニコニコ笑ってもう一つの鍋をテーブルに置く。
ふわりと漂う味噌の香り。
・・・おお!夕飯は魚介の味噌汁・・・いや、味噌鍋か!
島で採れる魚や貝が、所狭しと詰め込まれている。
超美味そう。
「とりあえずご飯にしましょ!詳しい話はその後でもいいじゃない!」
ねえちゃんの鶴の一声によって、俺達は食事に取り掛かることにした。
昼から何も食べてないのでもう腹が減る減る。
死ぬほど運動したしな。
「にいちゃん、あーしがよそったげるね!・・・はーい!どうぞ!!」
「有難いけど何だその量はおい。日本〇話じゃねえんだぞ・・・零れるから!零れるから!!」
表面張力ギリギリじゃないか。
皆の分もあるんだぞお前・・・
「ははは、甲斐甲斐しいなアサカ」
ジャックさんは楽しそうである。
いつものように、口元だけマスクをずらしている。
・・・鍋だからゴーグルむっちゃ曇ると思う。
不便じゃありません?
ラーメンとか食う時大変そうだな。
「随分と仲がよろしいでありますなあ・・・かわいらしい妹さんですね、一朗太さん」
「あー!?ななななんだよ!ほめ、褒めてもなんも出ねーし!」
「いかん零れる危ない危ない危ない・・・!」
式部さんに褒められた朝霞は、顔を真っ赤にして茶碗を振り回す。
馬鹿やろうお前!食い物粗末にすんな!!
「それで、どうやってここまで来たんですか?」
腹いっぱいになって落ち着いた頃、俺は式部さんにそう切り出した。
居間にはねえちゃんたちが全員揃っている。
朝霞は相変わらず警戒するように俺に引っ付いている。
暑いからやめていただきたい。
「龍宮の港からボートで海上に出まして、ちょうど中間地点あたりからは水中スクーターで潜ってきたであります」
水中・・・スクーター?
駄目だ、水中を疾走する新聞配達のバイクを幻視してしまう。
絵面が面白すぎる。
「今は外に置いていますが・・・アレです、スクリューユニットにハンドルがついたものであります!ダイバーが使っているのをテレビなどで見たことがあるのでは?」
「あー、なるほど。水中スクーターって言うんですか、アレ」
ドキュメンタリー番組とかで見たことあるな。
あとスパイ映画ではお馴染みのガジェットだ。
俺もちょっと使ってみたい。
「でもなんで船でそのまま来なかったんですか?夜といってもGPS信号があるから暗くてもなんとかなったんじゃ?」
「この島周辺は海流やその他の状況が特殊でして、水上よりも水中の方が安定して近付けると考えたのであります。それに、上陸地点にゾンビや敵対的な人間がいる恐れもありまして・・・発見される可能性を限りなく排除した結果であります」
ほうほう。
さすがエリート自衛官様。
よく考えていらっしゃるものだなあ。
海流の件とか俺全然知らなかったもん。
っていうかここに来たのも突発的な事故だしな。
「あ、そうでありました!荒川さん、ここで荷物を広げさせていただいても・・・?」
「あら、どうぞ。気にしないで」
「ありがとうございます!」
式部さんが、例のでっかいリュックサックを庭から持ってきた。
正確には、でっかいリュックサックに入っていた一回り小さいリュックサックだけど。
ややこしいな、マトリョーシカか?
防水仕様のようで、濡れている様子はない。
それでも大きなタオルを床に敷き、汚れないように気を遣っている当たりしっかりしているなあ。
「まずはこれであります」
ごと、とフローリングに置かれたのは。
「おお・・・持ってきてくれたんですか!」
我が懐かしき相棒、兜割だった。
・・・やったぜ。
これで鬼に金棒だ!
「一朗太さんがいらっしゃるなら、これは必要ですから」
式部さんははにかんで答えた。
それを聞きながら、俺は兜割を掴む。
ああ・・・やはり手に馴染む、最高だ。
謎鉄棒くんよ、申し訳ないがキミはもうお役御免だ。
だって重すぎるもん。
「ふわあ、にいちゃん・・・なにそれ?」
朝霞の目がキラキラしている。
やっと元の調子に戻ってきたな。
「おう、これは兜割って言ってな・・・えーと、敵の頭を叩き割る武器だ」
「かっけー!」
・・・説明は間違っていない、はずだ。
「ふふぅふ、次はこれであります」
式部さんはリュックから・・・衛星電話を取り出す。
「救援物資ではありませんが、連絡をお願いするであります。まずは御神楽へ・・・と」
式部さんは慣れた手つきで電話を操作し、俺に手渡してきた。
何度かの呼び出しの後、聞き馴れた声が耳に届く。
『こちらミカグラ、首尾はどうだい?式部ちゃん』
「古保利さん、お久しぶりです!」
『お、田中野くんじゃん。まあ元気だと思うけど・・・元気?』
古保利さんはいつも通り、とらえどころのない声だ。
「ええまあ、また縫い跡が増えましたけど五体満足ですよ。そちらは?」
『いつも通りだよ。ゾンビの掃討に敵対者の無力化・・・世はなべて事もなし、だねえ』
さほど離れていたわけでもないが、それでも何事もなくて安心する。
『鍛治屋敷の方も動きはないかな。神崎二等陸曹から報告は受けたけど・・・死んでると思う?』
「長脇差の切っ先が目に突き刺さった所までは確認しています。だけど死んだかどうかは・・・刺さった速度からして、脳に到達してるとは思うんですが・・・」
『鍛治屋敷だもんねえ。まあ警戒は怠らないようにしておくよ、そっちはゆっくり体を治してね』
「はい、ありがとうございます」
こっちはこっちで大変なんだが、わざわざ言うまでのこともない。
どうせ後で式部さんが報告するだろうし。
『他の皆には僕から伝えておくよ・・・式部ちゃんに代わってもらえるかな?』
「はい・・・式部さん、どうぞ」
式部さんに電話を戻す。
報告をしているのを横目に、兜割を確認。
・・・うん、前から何の変りもない。
やはり使い慣れた武器が一番だ。
「にいちゃん、見して見して~」
すっかり元気になった朝霞に持たせてやる。
「おっも!重いし!でもかっけー!」
目をキラキラさせ、楽しそうではある。
微笑ましいな。
「一朗太さん、一朗太さん」
報告が終わったらしい式部さんが、再び電話を差し出してきた。
報告といっても来たばかりだし、さほど話すこともないのだろう。
「お?古保利さんがまだ何か―――」
言い忘れたことでもあったのかな?
そう思って電話を耳に当てる。
『おじさあん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「ウワーッ!?!?!?!?耳が死ぬゥ!!!!」
ハンズフリーにしていないにもかかわらず、電話から大音量の叫び声。
り、璃子ちゃんか・・・?
『生きてる!?!?ケガしてない!?!?!?ご飯食べてる!?!?!?!?』
「生きてる!!ケガしてる!!お腹いっぱい!!!!!」
次々と放たれる質問に脊髄反射で返す。
み、耳が・・・
あと生きてなかったら返事できないでしょうに。
「・・・し、心配かけたねえ、璃子ちゃん。そっちはみんなどうだい?」
『だ、大丈夫、こっちは、みんな、みんな元気いい・・・ひぐ、う、うう、うわあああああああん!!!!』
あらあら、泣いちゃった。
心配してくれてたんだろうなあ。
電話越しに響く泣き声に、胸が詰まる。
早く帰ってやらんとなあ。
他の子供たちも、サクラも心配しているだろうし。
『―――お電話、代わりました』
璃子ちゃんの鳴き声が遠ざかり、聞き馴れた声。
「神崎さん」
『はい、神崎です・・・田中野さん、お久しぶりです』
いつも通りだが、少し声色が嬉しそうだ。
神崎さんにも心配かけたんだろうなあ。
「・・・いやあ、夕飯までには帰るつもりだったんですけどねえ」
『本当ですよ、随分と遅くなっていますね・・・ふふ』
「みんなにもお土産持って帰るんで、なんとか許してくれませんか?」
『はい!お待ちしていますね・・・これほど待たせるのですから、期待していますよ?』
悪戯っぽい感じの声。
・・・参ったなこれは。
ここの鉱山で金鉱石でも掘り当てないと許してもらえないかもしれないぞ。
『なんにせよ、ご無事でなによりです。本当に、本当に・・・』
小さく、鼻を啜る音がしたような気がする。
『はい、サクラちゃん・・・お父さんよ』
『わう!!わうわう!!ひゃん!!ひゃおん!!!』
「うお!?」
今度はサクラか。
「サークラ、お父ちゃんちょっと出張してたんだ。もうちょっと待っててくれな」
『わう!!わおぉん!!ぎゃん!!』
『許しませんよォ!!』みたいなニュアンスの声が耳に響く。
これは帰ったらしばらく張り付かれることになるだろうなあ・・・
『これで連絡は確立されましたので、明日からこちらでも色々サポートできると思います。田中野さん、また明日』
「はい、みんなにもよろしく」
そう言って、電話は切れた。
「一朗太さんは大人気でありますから!みんな一日千秋の思いでお帰りを待っております!」
電話を受け取った式部さんが胸を張る。
俺への信頼が重いよ・・・重い。
なんにせよ、とっとと体を治してパーツ集めに奔走しなければならんな。
あれ?パーツ・・・?
「あの・・・式部さん。式部さんが途中まで乗ってきた船をここに呼んで、それで脱出すればいいんじゃ・・・?」
わざわざパーツを集めるまでもないだろう。
だってそこに完成品があるのだから。
灯台下暗し・・・じゃないな?
ええと、カモネギってやつじゃない?この状況。
やったぜ!これで牙島脱出だ!!
「ああ、それは無理であります。この島に一定距離まで近付くと、もれなくミサイルで撃たれるであります」
・・・は?
俺は頭が真っ白になった。
おまけ
「あ、そうだ。なんで式部さんがこの島に来ることになったんです?」
「二等陸曹とのじゃんけん17番勝負の結果であります!熾烈な戦いでありました・・・!」
「はえー・・・」




