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6話 出立準備のこと

挿絵(By みてみん)


朝霞ちゃんはこんな感じ・・・ということで今回も始まります。

出立準備のこと




「ふう・・・落ち着くなあ、やっぱり」


相変わらず朝から暑い空気の中で、そう呟く。

着込んだ服が暑さを何倍にも増幅してくれるが、背に腹は代えられない。


「・・・ねえちゃん、器用だよなあ」


視線を下にずらす。

以前から着ていて、鍛治屋敷のアホのせいで胸の部分が吹き飛んだ硬化インナー。

その破損個所は、ウエットスーツのような布でしっかりと補強されていた。

姉ちゃんには足を向けて寝れないなあ、部屋の間取り確かめとこ。




朝霞に護身術を教え始めてから何日か経った。


元から運動神経がよかったらしい朝霞は、俺のつたない指導にもかかわらずいくつかの技を習得している。

前にヤバいおっさんたちが来た時に2階から飛び降りた身のこなし、思い返してみればアレは中々いい動きだったしな。

・・・年頃の女子高生には過ぎた技術だが、こんな状況なので喜ばしいことだ。


何度も言うが、俺みたいなおっさんと違って朝霞は美人だ・・・中身に疑問は残るが。

もし男どもに捕まれば、死ぬより辛い目に遭うかもしれない。

それを回避するためなら、金玉の1つや2つ、余裕で砕けるように鍛えておかないとな。


さて、そして俺である。

まだ体は本調子とは言い難いが、全身を包む痛みのオーケストラは鳴りを潜めた。

ジャックさんは『サムライとは・・・すごいものだな』と、よくわからない納得をしていたが。

もう面倒臭いから誤解は解かないでおこう、うん。


というわけで、俺は庭で以前のように完全武装している。


まあ、防弾ベストはボロボロだし兜割もないのだが。

それでも最低限の格好はつくだろう。


「・・・また世話になるぜ、相棒よ」


腰に差した『魂喰』の柄をポンと叩く。


―――りぃん


澄んだ音が、耳に届いた。


・・・もう慣れた。

深く考えないことにしよう。

コイツが有能なのはよくよくわかっているからな。


鍛治屋敷の時も、それ以前も。

どれだけぶん回しても、叩き斬っても。

刃こぼれ1つついてないという、異次元の切れ味と頑丈さを両立しているとんでもない刀だ。

間違いなく、俺の人生でこれ以上の業物に出会える機会はないだろう。

・・・いや、おっちゃんの倉庫にはまだまだとんでもないものが眠っているかもしれないが。

まあいい、深く考えるのはやめておこう。


「おはよ~にいちゃ・・・かっけー!!!」


おうおう、朝から元気だな。

朝霞が庭に下りるなり、目を輝かせて寄ってきた。


「おはよう朝霞。いい朝だな」


「うん!はぇ~・・・」


ニコニコしながら朝霞は俺の周りをグルグル回っている。

そんなに珍しいか?


「兄ちゃん!この腕のヤツなに~?」


「お?これは棒手裏剣だ。ねえちゃんのおかげで補充できたからな」


「シュリケン!激アツじゃん!」


倉庫に眠っていた用途不明の金属棒を加工したものだ。

金床とハンマーがあったから楽に量産できた。

残念ながら鉄板はなかったので十字手裏剣はないけども。

グラインダーはあったから、これからの探索で見つかればいいな。


「パね~、兄ちゃんかっけ~」


語彙が小学生並みなんだが?

こいつ外見は立派なギャルの癖して趣味が完全に男の子なんだよなあ・・・

ま、とっつきやすくはあるんだが。


「ここのおかげで大分体も良くなったからな、そろそろ恩返ししとかないと」


「兄ちゃんリチギ~!気にしなくてもいいのにぃ」


「そんなわけにはいかんだろ、お前らに何かあったら親父に殺されちまう」


「んにゅ・・・へへぇ、あーし的にもポイント高いよそれ!」


頭をガシガシ撫でると、朝霞は猫のように目を細めた。

ここ数日ですっかり慣れたらしい。

稽古の度に撫でてたからなあ。

なんか体格も年齢もまるで違うのに、なんか美玖ちゃんを思い出す。

俺の生存、向こうに伝わってりゃいいんだが・・・

頼むぞGPS、動いててくれよ。


「あ、ご飯できたって!」


「おう、行くわ」


暑いので防弾ベストを脱ぐ。

さーて、今日の朝飯はなんだろなっと。



本日の朝食は味噌汁と卵かけごはん、それにサラダと鯖の干物だった。

いやあ、カス共のことがなければここに永住したいね。

だが俺は帰らねばならんし、姉ちゃんたちも避難させねばならん。

とかくこの世は住みにくい。


「それで・・・どうだ、調子は」


相変わらずマスク姿のジャックさんが聞いてくる。

思春期の子供との距離感がバグってるお父さんですか?

ふわっとしすぎ。


「ええ、気になるのは胸骨くらいですかね・・・ジャックさんのお陰で、脱臼した腕も元通りですし」


変にはまると後遺症が残るってのも聞いたことがあるし。

ジャックさん様様だな。


「・・・縫った傷に化膿の兆候もなく、治癒も早い・・・顔色も良い、と。ふぅ・・・規格外だな、イチロー」


何かを諦めたように天井を見上げるジャックさんである。


「それで、『できそう』か?」


そして、すぐさま俺に視線を向けてきた。

その目は見えないが、鋭い視線を感じる。


「敵にとんでもない達人とか、10メートル級のゾンビ魔人でもいなけりゃ・・・何とかなりますかね」


「・・・ふふ、ははは!」


ジャックさんはもう爆笑である。

外人さんらしい大袈裟なリアクションである。


「パねえ~!兄ちゃんかっこよすぎぃ~!!」


朝霞まで何故か大爆笑である。

おい!Tシャツしか着てないんだからそんなに足を上げるんじゃない!!

あああもう!見えてるっていうか全開じゃん!!

戻って来い羞恥心!!!


ねえちゃんは『あらあらうふふ』とでも擬音が見えるほど微笑ましそうだ。

メンタルが・・・メンタルが強い!!


「nice find・・・」


何事かジャックさんが呟いている。

すいません!お米言語はちょっと・・・!


「・・・それでは、働いてもらおうかイチロー」


「ええ、おまかせください」


足踏みしていたが、ようやく踏み出せそうだ。

俺の、いや俺たちの脱出ミッションが幕を開ける。



「さて、それでは当面の目的地を説明しておこう」


しばらくして、ジャックさんはテーブルにいつかの地図を広げた。

例の赤線が引かれているものだ。


「現在地がここなのはわかっているな?」


南側集落の一点を指すジャックさん。

海岸線が目と鼻の先だからわかりやすい。


「第一目標は・・・」


青いペンに持ち替えたジャックさんは、地図の西側に丸を付けた。

『西側集落』と書かれた場所だ。

縮尺の適当な地図だが、主だったものはこれでも確認できる。

西側集落にあるのは・・・漁港、消防署、そしていくつかの商店。


「牙島西漁港の区域にある、ここ」


青い丸の一点にペン先が置かれる。

それと同時に、ジャックさんはデカい本を足元から拾い上げる。

詳細な地図本だ。


「・・・これだ」


テーブルの上に本が置かれ、該当のページが開かれた。

かなり精密なその地図に目を落とす。


「ここが、目的地だ」


ジャックさんのグローブに包まれた指先が指し示した場所には、周囲の家々よりも大きな四角が書かれている。


「『大山造船』・・・なるほど」


海に面したその場所には、そう書かれていた。


「ここで、ウチの倉庫にある船に不足したパーツを探してもらう」


「パーツっていうかエンジンでしょ?それ以外にもあるんですか?」


「当たり前だ、その他にも細々したパーツが不足していたり、老朽化で使い物にならないものもある」


おおう、これは思ったより大変そうだな?

っていうかエンジンなんかどうやって運べばいいんだ・・・?


「とりあえず行きは徒歩だ。帰りは・・・恐らくあるだろう船でパーツを運搬して欲しい」


なーるほど。

たしかに船があれば大荷物も・・・っておい。


「あの・・・その船で脱出すればいいのでは?」


俺は天才かもしれん。


「無理だ。漁港内にある原動機付きの大型船は軒並み使えないか、漁に出ていて戻ってきていない」


・・・そんなに甘くない、か。


「何でそんなことを知ってるんです?」


「この家に避難してくる時に偵察済みだ。だからイチロー、キミにはここで手漕ぎのボートを探してもらう」


手漕ぎかあ・・・そりゃ外海には出れませんわ。


「しかし手漕ぎとなると積載量も少ない。何往復かしてもらう必要がある」


「いや、別にそれはいいんですけど。海はゾンビも出ないのでむしろ安全ですし」


あいつら泳げないもんな。

・・・黒ゾンビとかはわからんけども。

あ、でも筋肉って重いから浮かないか。

窒息すりゃ脳の謎虫も死ぬだろうし・・・死ぬよな?


「っと・・・よし、まだ動く」


懐からスマホを取り出して電源を入れる。

旧型とはいえ流石タフなアウトドア仕様だ。

海水にどっぷり浸かっていてもちゃんと動くか。

持っていてよかったし、鍛治屋敷の爪射出にやられなくて重畳だ。


地図アプリを立ち上げ、造船所をマークする。

これで問題ない。


「これで道案内は大丈夫ですね・・・ですけどジャックさん」


「どうした」


「いえ、俺は根っからの文系人間なんで・・・エンジンはともかく、不足したパーツの目利きなんてのはできないんですけど。ジャックさんがついてきてくれるんですか?」


これがネックだ。

さすがにエンジンは大きささえ間違えなければ大丈夫だろうが・・・細かい部品はとんとわからんぞ?

ジャックさんが来てくれるのなら問題ないが。

そう思っていると、彼が口を開く前に朝霞が言ってきた。



「あーしがついてくから大丈夫!」



・・・は?

何言ってんのお前。


「ああ、アサカがいれば問題ないだろう」


「いやちょっと待て」


思わず敬語が吹き飛ぶほどの衝撃だ。


「チンピラはいないけど、ゾンビがわんさかいる所に朝霞を連れて行けるわけないでしょうが!」


この人も何考えてるんだ。


「だが現状それ以外の方法はないぞイチロー」


「・・・ジャックさんはどうするんですか」


若干の怒りを滲ませつつ、ぶっきらぼうに言う。

さすがにこれを黙って見過ごせるほど馬鹿じゃない。


「私はここの防衛と船の整備をせねばならん。チエコさんだけを残して行くこともできない」


・・・ぐう。

そう言われると・・・

確かに、ここの防衛にジャックさんは必要だ。

今はとんと来ないが、またこの間みたいなのが来る可能性は高い。

俺がいれば全員成仏させられるだろうが、それでは探索には行けない。

それに、船の作業も俺にはできん。

指示してもらえれば別だろうが。


「少し前から、アサカに訓練をつけているだろう?アレはこれを見越していたんじゃないのか?」


おいおいおいなんつう誤解だよ。


「・・・アレはあくまで自衛、対チンピラの技術であってゾンビ相手のものじゃないですよ」


「ならばキミだけで行くかね?私としてはそれでもいいが」


「兄ちゃん!」


朝霞が俺の肩に手を置く。


「あーしね、ガッコ卒業したらオヤジ手伝おうと思ってたの!だから船のパーツのことなんかはわかるし!」


・・・マジで?

ごめん、それは予想してなかった。

進路のこととかしっかり考えてるんだなあ・・・


「ちょわぁ!?なんで撫でるの!?」


「なんかすまん朝霞、お前は光のギャルだよ・・・」


どこぞの闇のギャルとは大違いだよ本当に・・・

お前はそのまま立派になってくれ・・・


「わ、わけわかんねーし!」


しみじみした気持ちで頭を撫でてしまった。

不意打ちには弱いのか、朝霞は顔を真っ赤にした。


「そ、それにあーしもちょっとは運動できるし!兄ちゃんにメイワクかけないし!!」


声高に主張する朝霞だが、その運動能力は『ちょっと』レベルではない。

機転も効くし、素直だし・・・何より動きが鋭いのだ。

これは生来のものだろう・・・たぶん喧嘩も強かったんじゃないかな。

神崎さんや式部さんなんかの超一流とは流石に比べられんが、この前のチンピラとは一線を画す存在であるのも事実なのだ。


「・・・朝霞」


肩に置かれた手に、手を重ねる。


「ひゃう」


なんだその声。

おい、だからなんで俺からいくとそんなになるんだ。


「ついてくるんなら・・・俺と男とおと・・・いや、俺の言うことを絶対に聞け」


「うぇい」


あぶねえ、男と男の約束するとこだった。

っていうかなんだその返事は。


「いいな?俺が逃げろと言ったら逃げろ」


「うぁい」


・・・ほんとにこれ聞いてる?

なんか上の空じゃない?


「・・・あのなあ、緊張するんなら俺は南瓜かジャガイモだと思って聞けよ?」


「こんなカッコいい野菜いないもん・・・」


いつもの口調はどこへやら、あの遊園地を思い出す素直さだ。

あらやだ趣味が悪すぎるわこの子。


「大人をからかうんじゃないの」


「違うもん・・・兄ちゃんカッコいいもん・・・」


・・・調子が狂うなあ!もう!!


「あーうん、わかったわかったよ」


「にゃぶ」


乱暴に頭を撫でて、手をどかす。


「・・・とにかくだ、一緒に行動するんなら言うことはしっかり聞けよ?」


「ま、まかしといて!これでもゾンビは何度かボコしたことがあるし!!」


赤い顔のまま、フンスと気合を入れる朝霞。

ほう、ゾンビを成仏させたことはあんのか。

相手が人間じゃないなら・・・それならいけるか?


考えを中断し、ねえちゃんの方に顔を向ける。


「・・・ねえちゃん、あの」


こちらを見るねえちゃんは、いつもと同じような優しい笑顔だ。

思えば、親をすっとばして未成年の娘を鉄火場に連れて行こうとしている鬼畜じゃねえか俺。

俺が親ならボッコボコにするね。


「なあにいっくん?私が反対すると思ったの?・・・馬鹿ね、必要なことだっていうのはわかってるのよ?」


だが、返答は予想しないものだった。


「いっくんなら朝霞を無事に連れて帰ってくれるでしょう?私、なーんにも心配してないわ」


その態度に、嘘はない。

俺への全幅の信頼すら感じる・・・


「それとも違うの?」


優しいその目線は、それでいてとんでもなく強い。

これに応えなきゃ、男じゃないな。

唾を飲み込み、俺もそれに応じる。


「・・・いや、嫁入り前の可愛い親戚だ。俺が死んでも・・・いや、死にかけても五体満足で返すよ」


「みゃう・・・」


朝霞さんその変な鳴き声やめてくれません?

またシリアスさんが死んじゃったんですけど?


「ふふ、じゃあお預けしようかしら。でもねいっくん、あなたも無事に帰って来るのよ?」


ねえちゃんは、何て事のないように微笑んでいた。


「ああ、わかった」


「心配しないの!牙島の女は強いのよ~?私は元詩谷の女だけど、強いわよ~?」


・・・アレか。

母は強し、ってやつかなこれは。

勝てそうにないなあ。

こればっかりは。



「・・・じゃあこれは、朝霞に預けておく」


「ひょえ!?」


ねえちゃんからの許しも出たので、懐から拳銃を取り出してテーブルに置く。

弾丸は全部で20発。

鍛治屋敷相手に使う暇がなかったから、損失はない。

メンテはしたから問題なく使えるだろう。


一瞬ジャックさんが反応したが、OKなようだ。

まあね、そっちはもっとデカい銃器を持ってるんだろうし。

今更小口径のリボルバーなんか使うつもりもないだろう。


「使い方は俺が教えてやるが・・・これはゾンビ用じゃない、人間用だぞ」


「にん、げん」


朝霞が目を白黒させる。


「使い所は俺が指示する。いいと言うまで絶対使うな・・・コイツの音はゾンビを呼ぶぞ」


「で、でも兄ちゃんは・・・?」


「俺か?手裏剣と刀でなんとでもなる。人間相手ならこっちの方が速い」


わざわざ使うまでもないしな。

朝霞の攻撃手段は多い方がいい。

俺なら速攻で懐に飛び込むが、拳銃を持っていれば牽制にもなるし。

余計ないさかいは回避できるだろう。


「わかった・・・」


そう言って朝霞は、恐る恐る拳銃を手に取った。

あ、忘れてた。

ベストの内側のホルスターも渡さないと。


ホルスターを外し、これもテーブルへ置く。

これがないとしっかり持っておけないからな。

大事な時に掴み損ねましたとか、最大の死亡フラグになりかねない。


「俺のもんで悪いが、これを使え。調節可能だからお前でも問題なく使え・・・オイ何してんだ嗅ぐな嗅ぐな犬かお前は」


「だいじょぶ!いい匂いだから!」


「そう言うことじゃないんだよ馬鹿野郎それ返せ!」


「やだし!!!!!!」


「あらあら」


・・・渡さない方がよかったかもしれん。




「・・・ふぅ」


吐き出した煙が空に消えていく。

色々心配なことはあるが、それでも煙草は美味しい。


庭の隅っこで、なーちゃんが丸まって昼寝している。

煙草を喫っていると絶対に寄ってこない、かしこい子である。


「横、いいかな」


「どうぞ」


ジャックさんがベンチに座ってきた。


「・・・1本喫います?」


「もらおう」


新しいのを1本差し出すと、ジャックさんはマスクだけを外してそれを咥えた。

・・・口元には傷がないなあ。

髭も生えてないし、結構几帳面なんだな。


「・・・私とて、子供を巻き込むのは不本意なんだ」


煙草に火を点け、美味そうに吸ったジャックさんが台詞と一緒に煙を吐く。

その声には、隠しきれない苦々しさが宿っていた。


「だがな、現状これしか方法がない。私はね、あの親子を一刻も早くここから脱出させてやりたいんだよ」


「チンピラ共、そんなに尻に火が点いてるんですか?」


あの程度の相手なら、攻めてきたら俺でもなんとかなるとは思うんだが。


「あんな塵屑はどうでもいい」


ジャックさんが切って捨てる。

チンピラじゃないてことは・・・ゾンビが『防壁』とやらを越えそうなのかな?


「イチロー、私の出自が気になるだろう?」


「・・・ジャックさんの素顔の次くらいには?」


軽口を叩くと、ジャックさんの口元が柔らかく弧を描いた。


「宗教的な理由でな、素顔を晒せんのだ」


「この前は傷って言ってませんでしたっけ?」


やっぱり傷なんてないんじゃないか。


「ああ・・・そうだったな、ウッカリしていた」


「設定がブレちゃ駄目でしょ、ジャックさん」


ジャックさんが笑い、俺も笑った。

楽しそうな空気が気になるのか、なーちゃんが尻尾をフリフリしてこちらに来たそうにしている。



「―――『北側』の連中がこちらを飲み込もうと、近々動く」



笑いが引いたくらいに、ジャックさんはそう呟いた。

北側・・・ゾンビゾーンを挟んだ島の反対側。

ジャックさんが無法者って言っていた連中か。


「奴らの戦力では『防衛隊』はひとたまりもない。防壁も、あっという間に崩壊するだろう・・・だから、時間がない」


お互いに煙草を喫い終わったのを確認してか、なーちゃんが俺の膝に突進してきた。

それを優しく撫でながら、俺は続きを待つ。


「私が『防衛隊』を殺すなと言った理由はな、少しでも『肉壁』として役に立ってもらうためだよ。奴らの大半は見下げ果てた屑共だ、せめて死に際くらい有効に活用せねば・・・な」


底冷えのするような冷たい声で、ジャックさんはそう吐き捨てた。

彼個人は大層恨みがあるようだ。


俺は『防衛隊』には何の恨みもないが・・・いやちょっとはあるか。

まぁ、ねえちゃんや朝霞たちに比べてどっちが大事かと聞かれればそれは明らかである。

優先順位は、揺るがない。


「・・・この短い時間で、キミが立派な人間だということはよくわかった。今回の作戦が無事に終われば、全てを話そう・・・それでいいか?イチロー」


「いや別に、話したくないなら気にしないでいいんですけど?俺も無理に聞くつもりもないんで」


そう言うと、ジャックさんはしばし沈黙してまた笑った。


「ふふふ・・・そういうキミになら、全てを話そう。嫌だと言っても無理やりな」


「えぇー・・・」


苦笑いしながら、俺は煙草を・・・

なーちゃんが見ているから、今はやめておこうか。

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― 新着の感想 ―
[一言]  漁師なら朝霞には最新型のシャークスーツで 防護させよう!要は鎖帷子で最新型はチタン製で 硬い軽いのでウエットスーツの浮力で水に浮くそうですよ? 昔はステンレスで重かったそうで、最新型は 着…
[良い点] 口元出して喋ってるのに違和感感じない声… 性別はミスリード狙いかな? [一言] ゾンビ、島脱出、物資収集…How to surviveってゲームを思い出しますねぇ(・∀・*)
[一言] あー…ジャックさん。 南雲流は元からバケモノクラスだらけですけど。 最近思うのが、田中野さんはサムライってよりかは南雲流を修めた島津って思った方がしっくりくる位なんですよ…。
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