5話 新ジャンル親戚娘とメインクエスト発生のこと
新ジャンル親戚娘とメインクエスト発生のこと
「兄ちゃん!お布団干すし!」
「おう、サンキュ」
「兄ちゃん!一緒に釣り行くし!」
「おう、行く行く」
「兄ちゃん~!ひぐっ!あーしの代わりに玉葱切ってぇえ~」
「おう、任せとけ」
「兄ちゃん!お風呂沸いたし!」
「おう、すまんなって待てお前なんで全裸なんだ馬鹿やめろ服を着ろォ!!!」
「やーだ!やだし!!一緒に入ろ!!」
「やだし!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・一朗太、疲れたぁ」
豪華で広い風呂に浸かりつつ、ため息と弱音を天井に向けて解き放った。
「懐きすぎでしょあのギャル・・・」
無論、1人で風呂に入っている。
もう包帯も取れたし、介助の必要はない。
親戚として、年上の男として断固拒否したのだ。
朝霞が美玖ちゃんくらいなら喜んで一緒に入ったのだが・・・いや、こう言うとまるでド変態だな、俺。
あのいけ好かないチンピラ共をボコしてから、何日か経った。
俺の予想に反し、報復の気配はない。
案外根性ねえなあのカス共。
「ふいぃい~」
檜のいい匂いがする湯船を堪能する。
・・・儲かるんだなあ、漁師って。
いったいいくらかかるんだよ、こんな風呂作るのに。
「地下水脈・・・最高!!」
俺がこうしてゾンビパニックの最中でも風呂を楽しめる理由。
それは、チイ子姉ちゃんの家がブルジョワだからだ。
水道の他に、この家には牙島の地下深くから湧き出ている地下水が使えるのだ。
毎日の料理や洗濯、そして風呂もそれでまかなえているとのこと。
しかも飲める。
こりゃ無敵だね。
ちなみに風呂は薪でも沸かせる方式だ。
金持ちって最高。
姉ちゃんたちが小奇麗な理由もこれでわかった。
ゾンビとチンピラさえいなけりゃ、ここは正に天国だ、いやユートピアだってのに。
神様って案外残酷ゥ。
・・・待てよ、このゾンビまみれの状況から考えるに案外どころじゃねえな。
神よてめえ!許さねえからなあ!!
体が大分よくなったので家の周囲を散策してみれば、デッカイ畑まであった。
季節の野菜が問題なく育っている。
・・・最強じゃんこの家。
ここまで立地がいいとカスに家ごと狙われそうなもんだが・・・この島、大体がこれらの設備は標準装備らしい。
だから問題ないとのこと。
ブルジョワだ・・・ブルジョワ島だ・・・
「傷の具合はどうだ?」
「うおわ!?」
風呂場の窓から声がする。
庭からジャックさんが話しかけてきているようだ。
「え、ええ・・・大丈夫ですよ。まだ痛みますけど、とりあえず肩は動きます」
「デタラメなサムライだ・・・」
どこか楽し気に笑うジャックさんである。
あのね、サムライ=化け物みたいな図式やめてね?
「っていうか、ジャックさんも入ればいいのに・・・男同士でしょう?」
「申し訳ないが、私は1人が好きなんだ。キミの10倍は酷い傷があるしな」
・・・そうまで言われれば仕方があるまいて。
傷なんか気にしないが・・・本人が嫌だって言うんだからなあ。
「それにしても、毎日アサカが大変だな」
「すりこみ喰らったカモくらい懐かれてるんですけど・・・こんなオッサンのどこがいいのやら」
朝霞は最近、どこへ行くにもついてくる。
そしてその後ろには何が楽しいのか、なーちゃんまでついてくる。
大型犬2匹に懐かれている気分だ。
「・・・父親や兄弟がいなくて寂しいんだろう。かわいそうじゃないか」
「ジャックさんも半分くらいお兄さん属性獲得しましょうよ、っていうかして」
「すまんが私に父性はこれっぽっちもない。元より、こんなガスマスク男では不足だろうさ」
「・・・とりゃいいのに、そのマスク」
「いたいけなティーンエイジャーに消えぬトラウマを植え付ける趣味はないよ、イチロー」
・・・どんな顔なんだ一体。
そこまで言われれば逆に気になるんだが。
「まあいい、丁度いいのでここで計画を話しておこう」
ぎし、という物音から察するに、ジャックさんは座り込んだらしい。
「計画っていうと・・・脱出のですか?」
「ああ、キミも本調子に戻りつつあるようだしな・・・驚異的な回復速度だが、事実は事実として受け止めよう」
そんな人をプラナリアみたいに・・・まだ治ってないんだがな。
「最終目的がここからの脱出だということは、覚えているな」
「ええ、本当に・・・この家は最高だがこの島は糞だ」
「はは、同感だ」
ここに至るまでの何日間かで、俺はジャックさんからしっかりと説明を受けた。
この島の、状況を。
ここ牙島には、3種類の生物がいる。
『ゾンビ』『チンピラ』そして『人間』
・・・チンピラは人間ではないので、こうして分ける。
あんなもん、猿よりタチが悪いわ。
それで、だ。
ここ、南側の地区は比較的人間が多い。
彼らは、いつぞや聞いた塀と電気柵でゾンビの進行を食い止めている。
食い止めているのだが・・・
最近『人間』から『チンピラ』へ鞍替えする奴らが多数出てきた。
『守ってやってるんだから』
『戦ってやってるんだから』
『だから』
『もっと寄越せ』
というわけである。
元々は消防団だかで構成されていた南側の『防衛隊』と名乗る連中。
そいつらは、非戦闘員から食料を分けてもらっていた。
もちろん、とんでもない量ではない。
元々食料的に恵まれているここは、分け合っても余りある物資がある。
が、それが狂った。
最近になって、その要求量や内容が変わり始めたという。
最低限の食料から、タバコや酒などの嗜好品。
家々に保管されていた武器になるようなもの。
どこで使うのか知らないが、貴金属。
日に日に要求は苛烈になり・・・そして一部の奴らはこの前姉ちゃんたちにしたように、女を求めている。
今の所悲惨なことは起きていないようだが・・・それもいつまでもつか。
現に、この前のオッサンたちは元々ここいらに『回収』しにくる面子ではなかった。
いつもはもう少し『話の分かる』連中が来ていたらしい。
向こうの内部で、何かが起こったらしい。
まがりなりにも保たれていた最低限の『秩序』が、崩壊を始めている。
『ぜってーユキノブの奴が唆したんだよ、アイツあーしに5回振られてっから根に持ってんの』
とは、朝霞の言である。
モテるんだなあ、朝霞。
『モテ男気取りのスカしたクソ童貞だかんね。ないないない、マジないわー・・・アレとヤんならそこら辺のゾンビに跨った方がマシだし!!』
・・・発言が過激すぎておじさんは大変悲しい。
『あーしの処女は!んなに安くねーし!!!』
・・・あのね、もうちょっとこうね・・・恥じらいとか慎みを持とう?
お願いだから。
あのリューグーパークのかわいいかわいい朝霞ちゃんは一体どこへ旅立ったのか。
おじさんは大変ショックである。
・・・閑話休題。
というわけで、この島は絶賛モラル崩壊進行中というわけだ。
恐ろしいことに、北のチンピラはもっと過激らしい。
ジャックさんも良くは知らないようだが。
出会う前にとっとと脱出しよう、そうしよう。
彼が言うように、朝霞の教育に大変よろしくない。
・・・もう、手遅れのような気がしないでもないけれど。
「脱出には船を使う」
「そりゃそうでしょうね」
現実に帰ってきた。
「イチローも見ただろう?あの倉庫にあったやつだ」
「・・・あのボロ船ですか?」
俺が寝かされていたドックに鎮座していた船かよ。
あれ、どう控えめに言ってもウン10年は動いてないですよって感じなんだけど。
「あれしかないんだ、もう一隻はチエコさんの旦那さんが乗ったままだしな。あの船はここの先代が使っていたものだそうだ」
あー、そういうこと。
「・・・近所にないんですか?誰も使ってない船」
「とっくに『防衛隊』に接収されているよ。アレはあまりに古く、動かないから見逃されている」
・・・動かないのォ?
っていうか手が速いなアイツら。
「エンジンがないからな。それに年式も古い」
「・・・もういっそそこら辺の木でも切って筏でも作ります?それか、エンジンだけどっかから調達してくるとか」
「駄目だ、潮の流れが強すぎる・・・ここを脱出するには、エンジンと頑丈な船体が絶対に必要だ。素人作りの筏にエンジンを乗せても波で粉々になる」
・・・俺、ここに流れつけたんですけど。
「本土から島へ来るのは簡単なんだ。だが、島から出るのは厳しい」
あー・・・だから橋があるのか。
おかしいと思ってたんだ。
龍宮からそんなに離れていないのに、なんであんな橋架けてるのかって。
「ってことはアレですか?まずは船を修理しなきゃならん、と?」
「そうだ、心躍るだろう?まるでビデオゲームだ」
確かにちょいとワクワクすんな。
まさにRPG的だ。
「時限付きだがな」
そうだったぜ畜生。
「・・・いっそのことヤバい連中をこう、サクッとやってからとか・・・?」
「魅力的な提案だがそれは本当の最終手段だ。人道的な意味ではないぞ?『駒』が減ればゾンビ共に防壁を突破される可能性が高くなる・・・分の悪い博打だ」
カスでも肉壁くらいにはなるっつーこと、か。
迫りくるゾンビの中で船のパーツ探し&修理とか、控えめに言って地獄だわ。
「『防衛隊』では幸いなことに・・・『まだ』先日のような連中は少数派だ。まがりなりにも話が通じるうちに、キミには動いてほしい」
動く、ね。
「ってことは船のパーツって・・・」
答えの分かりきった質問をする。
ジャックさんは、一拍置いて口を開いた。
「―――そうだ。ゾンビの領域にある」
ええ、ええ、わかってましたとも。
わかってましたとも、さ。
「兄ちゃぁん!風呂なげーし!のぼせてんの~!?」
その声と共に、風呂の扉が豪快に開いた。
「服を着ろ馬鹿!!!!!!!!!!!!!!!」
「やだし!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
やだじゃないの!!
どうすんだよこの空気!!オイ!!
さっきまで元気だったシリアスさんが死んでいらっしゃるぞ!!!!
「・・・まあ、とにかくは養生することだな。ははは」
楽しそうなジャックさんの声が、遠ざかって行った。
あの全身戦闘服マスク野郎・・・!
見てろよ!いつか・・・いつかそのマスク引っぺがしてやるからなァア!!
「どーん!!!!」
「かけ湯をしろせめて馬鹿あああああが!?いっだ!?死ぬゥウ!!!!」
広すぎる風呂に飛び込んできた朝霞の、肘が俺の鳩尾にクリーンヒットした。
ラッキースケベでも困るのに、ラッキー肘鉄はただただ痛い。
風呂上がりの俺は、ソファーにだらしなく体を投げ出して呟く。
「姉ちゃん、朝霞の恥じらいがどこ探しても存在しないんだけど」
「あらあらいっくん。女の子は元気ならなんでもいいのよ~?」
駄目だこの母親。
思春期の娘を持つ親の大事な部分が根こそぎ存在しない。
いくら親戚とはいえ30代男の風呂に女子高生が突撃してんだぞ。
「ふふふ、朝霞が元気になってよかったわ~」
俺の目の前に、よく冷えた麦茶がことりと置かれる。
この家は太陽光発電システムも完備しているので、氷を作るくらいは楽勝なのだそうだ。
「お父さんたちがいなくなっちゃって、朝霞も私もずうっと落ち込んでたの。寂しいのよ、あの子」
・・・それを言われると、なあ?
ずるいぞ、姉ちゃん。
「それに、最近は・・・この前みたいな人たちが家に来ることも多くなったしねえ」
「・・・俺、そこに関してはここに来れてよかったと思ってるわ」
もしかしたら、大事な親戚が死ぬよりひどいことになっていたかもしれんからな。
「昔から道場に通ってたことは知っていたけど、いっくんすっごく強いのねえ。何したのか全然見えなかったわ~」
「はは、平時には何の役にも立たん技能だけどね」
「今は違うからいいじゃないの~、あら、お湯が沸いたわね~」
姉ちゃんはそう言うと、楽しそうにキッチンへ消えていった。
なお、今晩は素麺らしい。
新鮮な魚介から出汁を取った一級品の気配がする・・・なんかもうめんつゆの匂いからして違うもんな。
・・・まあ、いいか。
色々とツッコミどころはあるが、美味しいご飯で気持ちを切り替えていこう。
「兄ちゃああぁん、髪乾かしてぇ~」
「わかったから服を着なさい朝霞!!!」
「着てるし!」
「パンツ以外も!!」
「めんどいし!」
「・・・垂れるぞ(※聞きかじり)!!!」
「・・・マ!?それは困る~!!!」
・・・何がとは言わんが、垂れるのは嫌らしい。
幾ばくかは乙女心が残っているらしいな・・・朝霞にも。
「お待たせ兄ちゃん!」
「下着以外も着なさい!!!」
「やーだ!!」
・・・本当に残ってるのかな、乙女心。
「まったくもう・・・お前は少し男との距離間をだな・・・」
「サーセンサーセン」
「驚くほど謝罪の意思が感じられない」
美味すぎる素麺をたらふく食った後、庭で涼んでいる。
そうしていると、さすがにTシャツを着た朝霞がついてきた。
・・・結局飯食ってる時はずっと下着だったな、コイツ。
今も兄貴用っぽいでっかいTシャツのみではあるが。
ちなみに胸には大きく『テクニシャン』と書かれている。
やっぱここの兄貴センスおかしいわ。
「バウ!」
「おーよしよし・・・今度体洗ってやろうか」
犬小屋から出てきたなーちゃんが突撃してきたので受け止め、撫でる。
臭くも汚くもないが、定期的な入浴は犬にもいいらしいからな。
サクラみたいにほぼ毎日ってのは流石に珍しいが。
「兄ちゃん」
「ん~?」
朝霞が声をかけてきた。
「よく考えたらあーし、お礼言ってなかったポイ?この前さ、あんがとね」
ぺこり、と頭を下げる朝霞。
この前って言うと・・・ああ、あいつらのことか。
「気にするなよ、大事な親戚の貞操の危機だったもんな」
「ほんそれ。兄ちゃんいなかったらえっらいことになってたと思う」
いつもとは違い、朝霞の顔色は少し青い。
普段の言動から結構なギャルさを感じるが、それでもああいう風に男にその・・・欲望の目を向けらることはなかったのだろう。
そりゃそうだ、平時だったらあいつらは性犯罪者だもんな。
「だからさ、ほんっと、あんがと・・・ございました」
「・・・はは」
その申し訳なさそうな顔を見ていると、不意に記憶が蘇ってきた。
リューグーパークで遊んだ時、俺が買ってやったアイスをはしゃぎすぎて落としてしまった朝霞を。
あの時の泣き顔と、今の表情が少し似ていた。
・・・なお、あまりに悲しそうなのでその後5段重ねアイスを新たに買ってあげた。
朝霞はおおいに喜び、全力で食べ、見事に腹を壊した。
そして俺が姉ちゃんに怒られた。
「朝霞はきちんと感謝できるいい子だなあ」
どっかの大木くんの元関係者である闇のギャルにも見習ってほしい。
まあ、二度と会いたくないのでどうでもいいけど。
「ちょわっ!?やめ、やめろし!!」
「やだし!」
思わず美玖ちゃんたちにするように頭を撫でると、朝霞は顔を真っ赤にして手を払った。
そして俺もすっかりやだしに染まってきたな・・・
あっちに帰っても思わず口に出しそうだ。
神崎さんに凄い顔されそう。
「ていうかお前・・・風呂場に突撃すんのはいいのに撫でるのはNGとかどうなってんだ情緒」
「あーしがするのはいいのっ!!」
かわいい理不尽であるなあ。
「バウ!ウォフ!!」
『私も!私も!!』みたいな顔でなーちゃんが太腿に突撃してきた。
はは、可愛い奴め・・・だがサクラとは体格が違うので地味に衝撃がでっかい。
ボルゾイ・・・恐るべし。
だがやはりデカい犬もいいな、うん。
小さくても大きくても犬はいい。
「と、いうわけでだ」
「ほえ?」
ひとしきりなーちゃんを撫で回し、立つ。
「色々思うところもあるが・・・まあ、こんなご時世だ」
「はえ?」
目を真ん丸にしている朝霞の肩に手を置く。
「南雲流の喧嘩、教えてやろう」
そう言うと、朝霞の目はすぐさまキラキラと輝いた。
・・・うわあ・・・神崎さんに似てるゥ・・・
「さて、じゃあまずは・・・俺の腕を本気で掴んでみろ」
興奮している様子の朝霞の前に立ち、両手を差し出す。
まずは俺が女性役をする。
「女性が襲われる時ってのは、だいたいが腕を掴まれるもんだ。力に力での対応ってのは難しいからな、男女間だと余計に地力に差があるし」
「えー、でも兄ちゃん超力強いじゃん。あーしじゃ勝負になんないって」
「いやいや、そこが狙い目なんだ・・・相手はお前が女だから見くびる、そこがポイントなんだよ」
そっかなあ?などと言いながら、朝霞は俺の手首をしっかり掴んだ。
「で、だ。この状況で・・・お前ならどうする?」
「んー・・・なんとかこう、うまいことやって腕を外してみる?かな?」
「はは、だけどそれより確実な方法があるぞ・・・まずはこうする」
言いつつ、俺は腕を自分の方に軽く引っ張る。
当然、朝霞は自分の方に腕を引き寄せようとする。
「はい、これでおしまい」
「・・・へ?まだなんにも始まってないじゃん」
きょとん顔の朝霞に告げる。
「下見てみろ、下」
「下・・・わひゃ!?」
俺の膝が、朝霞の股間にギリギリ触れない場所で止まっている。
「南雲流徒手、『根断』って技だ」
簡単な技だ。
上半身に相手の注意を引き付けつつ、体裁きで膝を股間にねじ込むというもの。
「いいか朝霞、お前は女だからピンとこないかもしれないが・・・非力でも相手が男ならこれだけで勝てる」
体捌きによって膝を入れる、つまりは体重移動。
自分の体重が、そのまま相手への攻撃力に変換されるんだ。
「そ、そなの?」
「ああ、男の最大の弱点・・・それが金玉だからな」
「きんたま」
朝霞は顔を真っ赤にして繰り返した。
・・・おい、自分じゃ童貞とか処女とか言ってたくせになんで金玉で赤面するんだお前は。
よくわからんなあ。
「勿論、男女関係なく大打撃になる急所は他にもある。眼球、鼻の下、脇、脛、顎なんかだな・・・」
「きんたま」
「今は金玉の話はしてないだろ、戻って来い」
繋がれたままの手で頬をぺちぺちしてやる。
「うぇ、うぇ~い」
何だその返事は。
深夜帯のコンビニバイトじゃねえんだぞ。
「・・・とにかく、これからお前にある程度の護身術を教え込む。あくまでも暫定的なもんだ・・・俺、素手の技はあんまり得意じゃないしな」
最低限、自分の身を守れる手段を。
相手がそこらのチンピラなら、問題なく半殺し・・・というか、戦意喪失させられるくらいの奴をな。
この子に何かあったら、俺は落ち込む。
そりゃもう落ち込む。
だから、外道技でもなんでも教え込んでやる。
・・・ウチの流派、そういうのが豊富でよかった・・・
「金玉以外でも、ここからできる技はあるぞ?まずは頭突きだろ?それから肘を・・・」
「うん!うん!!」
キラキラした目のまま頬を赤くさせ、それでも熱心に聞いてくる朝霞。
結構いい生徒になりそうだな・・・と、俺は思った。




