4話 わかりかけてきたこと
わかりかけてきたこと
「んふぁあ~~~・・・よく寝た・・・ここどこおぉ?」
朝の気配に、自然と覚醒。
痛む体を起こす。
・・・昨日よりはマシ、だな。
寝ぼけた頭で周囲を見渡す。
・・・俺の部屋じゃない。
壁には『 酒 池 肉 林 』と書かれた大漁旗のようなものが貼られている。
「朝霞の兄貴の部屋か・・・」
この短い期間で、そのセンスが狂っているということはよーくわかった。
いつかその顔を拝んでみたい。
ので、無事でいることを願う。
そういえばここで寝ろって言われたんだった。
他人の部屋でこれだけ爆睡できるとは、よっぽど体にダメージがあるんだな。
・・・いや、スタンバトンに何故か仕込まれていたGPSのせいだ。
あれでとりあえず自衛隊っていうか式部さんには安否が伝わる。
憂いが一つ消えたからだな、うん。
何故俺の装備にGPSを仕込んだのか甚だ疑問ではある・・・あるが、ありがとうございます。
「うい~す、おじさん起きた~ぁ?」
気だるげにドアを足で開けつつ、朝霞が入ってきた。
「・・・あのさあ、親戚とはいえ俺も男なんだが?もうちょっとこう・・・なあ?」
「めんどいからやーだ。おじさんはやらしー目で見てないんだからいーじゃん」
俺が半目になっているのは、朝霞が下着同然の姿だったからだ。
下は辛うじて短パンを履いているが、上はブラジャーのみである。
「最近マジあちーし。洗濯もの増えちゃうじゃん・・・だからこのほーがいいの」
「嫁の貰い手がなくなっちまうぞ、マジで」
「あー、ジョセーサベツだ。あーしよりしっかりした旦那貰うからいいのー」
それは男性差別ではないのか?
「まあ、その顔なら引く手数多だろうけど・・・」
「だっしょ?結構モテんだよね、あーし」
今まで言及はしていなかったが、朝霞は可愛い・・・というか、綺麗系?かな?
スタイルもいいし。
目はいつも三白眼気味だが、それでも美人だ。
Mっ気のある人間からしたらたまらんだろうさ。
「おじさんは強いっぽいし顔もいかちーし、結構ポイント高いよ~?どう、あーし?」
「今それどころじゃないから」
「まーじめー!」
朝霞はゲラゲラ笑っている。
漁師の家に生まれたからか、ずいぶんとまあ男らしくなっちゃって・・・
おじさんは悲しいぞ。
たぶん親父さんも泣いてるぞ。
「そうそう、朝メシできたって~、行こ行こ」
「はいはい・・・すまんな。もうちょい元気になったら色々手伝うから」
「気にしなくていーのに。おじさん、リチギだね~」
これは性分だからな、仕方があるまいて。
朝霞を追って部屋を出る。
廊下には、魚の焼けるいい匂いが充満していた。
朝から魚とは豪勢だねえ・・・テンション上がってきた。
「嘘だろ・・・嘘だろ・・・」
そして俺は、朝食が並べられたテーブルを見ながら絶句していた。
「どうしたのいっくん?何か苦手なものでもあった?」
「その逆だよ姉ちゃん・・・え、なにこれ?ゾンビ騒動なんてなかった世界線なのここ?」
本日の朝食・・・それは。
白米と干物、味噌汁と漬物・・・さらに。
「卵が・・・卵がある!!!」
「おじさん声でっか!!」
朝霞は笑うが、デカい声も出るだろう。
デラックスすぎるご機嫌な朝食を前にしては、デカい声も・・・出るだろう!?
「お隣でもらってきた卵なのよ~。こっちが干物をおすそ分けしてるから、そのお礼ですって」
「この家の食料事情は高水準だ。私も毎日楽しみにしている」
そのマスクで表情はわからんが、ジャックさんもテンションが上がっているようだ。
「お米は備蓄があるからまだ大丈夫だし、干物はいくらでも作れるからね~。ちなみに朝霞が釣って来てくれるのよ?」
・・・無敵じゃんここ。
やっぱ、ゾンビさえいなけりゃここは天国だな。
チンピラもいるっぽいけどね。
「よかったら俺もついて行っていいか朝霞。釣りくらいなら手伝えるが・・・」
「そーゆーことはせめて腕の包帯とれてから言ってね~」
「そうよいっくん!まだまだ養生しなきゃ!!」
優しさが・・・優しさが苦しい。
いいの?俺そんなに付き合いのなかった親戚なのに、こんなに良くしてもらっていいの?
「・・・いただきます」
色々言いたいことはあるが、兎にも角にも飯を食うことにした。
卵かけごはんが食えるなんて・・・本当に死ななくってよかったあ・・・
「ワフ!」
「おう、おはようなーちゃん」
「ワウ!ワウゥ!」
最高の朝食を食べ、ここ最近で一番の幸せな満腹感を感じている俺である。
庭に出て、昨日のベンチに座って煙草を喫っている。
ストックはまだ3箱あるが、大事に吸おう。
そうしていると、なーちゃんが小屋からのそりと出てきた。
「お前の家族ってマジで最高な。いい家だなあ・・・本当にいい家だなあ、ここ」
なーちゃんの頭を撫でると、振り回される尻尾が空気を切り裂いている。
姉ちゃん曰くとても気難しい犬だそうだが、この様子からは微塵も感じられない。
犬はいい・・・心がどんどん健康になっていく気がする。
毛並みもふわふわだし、いいにおいするし。
「ウーゥ」
ベンチに飛び乗ったなーちゃんが、俺の膝に長い顔を投げ出す。
撫でてー!とでも言うように目が輝いている。
おうおう、いっくらでも撫でてやるともさ。
・・・犬用ブラシ、持ってきとくんだったなあ。
「ここにいたか」
家の方からジャックさんが出てきた。
いつも通りの完全装備である。
「よく懐くものだ。私は2週間かかったぞ・・・撫でさせてもらえるまでな」
なーちゃんが降りた空間に、ジャックさんが腰かける。
「あはは、昔っから犬猫には好かれるみたいで・・・」
「そのようだな、羨ましいことだ」
そう言いつつも、今はなーちゃんを問題なく撫でているジャックさんである。
どうやらこの子、心を開けばダダ甘な性格のようだ。
「ジャックさん、丁度いいから聞いておきますけど・・・俺はこれから何をすればいいですか?」
姉ちゃんも、朝霞もいない。
物騒な話をするにはもってこいだ。
「ふむ・・・そうだな。実行はキミの怪我が治ってからだが、とりあえず目的だけでも話しておこうか」
なーちゃんを撫でる手を止めると、ジャックさんが息を吸い込んだ。
そして、幾分か力を込めて宣言する。
「我々の最終目標は、この島からの脱出だ」
我々って言うと・・・?
「姉ちゃんたちも、です?」
「無論そうだ、おっと・・・もちろんキミも一緒だぞ」
「ワウゥ!」
ってことは・・・荒川一家もまとめて避難するってことか。
「行くアテってあるんですか?」
「あるわけがないだろう。この騒動が起こってから、我々はここにずっといる・・・いるが、ここよりは本土の方がマシなはずだ」
心から忌々しそうに吐き捨てるジャックさんである。
・・・マジで?
個人的に、今の状況なら龍宮や詩谷の方がずっとヤバいと思うんだが・・・?
「追い追い話そうと思っていたが・・・うむ、その一例が『来た』ぞ」
「へ?」
ベンチから背後を振り返ったジャックさんが、うんざりしたような声色を出す。
視線の先は、家の正面にある道路の方向だ。
「ウゥウウウウウ・・・」
なーちゃんまで唸り始めたぞオイ。
まさか・・・!
「ゾンビか!!」
慌てて武器になりそうなものを探す。
畜生・・・掃除が行き届いていて棒一本すら落ちてねえ!!
姉ちゃんマジ最高の主婦!!
「違う・・・が、ある意味ゾンビよりもタチが悪いな」
いっそのことこのベンチでぶん殴るか・・・なんて考えていると、そう言われた。
ゾンビよりもタチが悪い・・・?
あ、一朗太わかっちゃった。
今まで散々見てきたモノ。
「荒川さぁん!!いるんだろォ!?」
そう、チンピラである。
「・・・松本さん、今日はなんですか?」
玄関のドアを開け、出てくる姉ちゃん。
その顔は、今までと違い・・・冷たいものだった。
「なんですか?はないだろォ!?」
姉ちゃんにそう返したのは、40代くらいの赤ら顔のオッサンだった。
その後ろには、腕っぷしの強そうなの若者が3人。
手には、それぞれ武器を持っている。
全員、ニヤニヤしていてなんかこう・・・腹立つ。
「・・・ここに何の用があるんです?もう『今週分』は渡しているんですが」
毅然とした態度で姉ちゃんは言った。
男4人を前にしても、その態度は揺るがない。
「いやあ・・・それなんだがね、荒川サン?」
にちゃり、という音が聞こえてきそうなほど、オッサンの顔がいやらしく歪む。
うーわ、ぶん殴りてえ。
いつだかの糞社長を思い出すな・・・
「足りないんだよォ・・・アレじゃ」
『今週分』『足りない』・・・か。
うーん、なんとなく話が分かってきたな。
「足りないって・・・アレ以上は出せませんよ?ウチも食べていけなくなりますから」
「・・・あのねェ!俺たちは『防壁』で毎日戦ってんだよォ!?そんな言い方、ないんじゃないかなァ?」
オッサンの顔が怒りで真っ赤になっている。
まずそうなトマトだな、まるで。
「そうだよオバサン!」
「俺たちがアンタたちを守ってやってんだぞ!?」
後ろの馬鹿そうな若者が叫んでいる。
ううーわ、ぶん殴りてえ。
「・・・誰も頼んでいません、そんなことは!!私たちはここに住んでいるだけです!!元々、ここに住んでいるんですから!!!」
姉ちゃんが、それをかき消すように怒鳴り返した。
おお、昔のまんまだ。
怒ると怖かったからなあ・・・姉ちゃん。
「でも感謝はしています!だから食料の提供もしてきました!でも、これ以上は無理です!!」
「・・・あのねェ、荒川さァん」
オッサンは姉ちゃんの肩に手を伸ばしたが・・・スッと避けられて体勢を崩した。
ハハ、笑える。
「・・・お、俺達も鬼じゃないんだ・・・今日はね、そのことについてお話をしに来たんだから」
一瞬怒りに満ちたオッサンの目に、嫌らしい光が宿った。
うしろのガキどももだ。
「・・・なんですか、それは」
姉ちゃんはそれを見て、顔を青ざめて後ずさった。
本能的な恐怖だろう。
「いやねェ・・・それはちょっと、ここではね・・・朝霞ちゃんも交えてお話しできればなァ、と」
「ちょいと家の中で話しましょ!」
「そそ、お茶でも飲みながら・・・ねェ」
・・・はいわかった。
一朗太完全にわかった。
これ以上聞くことは何もないな!
「・・・後詰は無しだ」
俺の様子から何かを感じたジャックさんが、低く呟く。
「いいんですか?アイツら」
「よくはない、が・・・我慢することも無かろう」
「・・・では行ってきます」
「ああ、頼む。これがキミに頼みたいこと、その1だ」
お墨付きも得たので、ベンチから立ち上がる。
・・・左腕はまだ使えんな。
使えんが・・・別に、どうということはない。
「おっと、最後にもう1つ・・・アサカの教育に悪い、殺すな」
「・・・報復とかあるんじゃないですか?」
ああいう手合いは徒党を組むとややっこしいぞ。
叩けるときに叩いておかにゃ。
「いや、その線は薄い。『あちら』にも話せる奴はいる・・・そして、その話せる奴は・・・アイツらを疎ましく思っているからな」
ふむん。
ジャックさんはこの島の情勢に詳しいようだな。
仕方あるまい、今回は従おう。
命の恩人だしな。
「ジャックさんは来ないんですか?」
「私はここに『いないことになっている』・・・それに、インファイトはからっきしだ」
「了解です」
それでは、リハビリついでに暴れますかね。
報復に来たら・・・その時にざっくりやりゃいいんだし。
「やめてください!入らないで!!」
「まあまあ・・・そう言わずにいだああ!?」
オッサンの顔面に分厚い週刊漫画雑誌が直撃した。
俺ではない。
2階の窓から、朝霞がぶん投げたのだ。
「ゴラ!うちの母さんに何してくれてんだし!!変態!!」
・・・威勢のいいことであるなあ。
「てめぇアサカァ!なにしてくれてんだ!!」
若者の一人が吠える。
「うっせェユキノブ!!とっととそのカス持って帰れよ!!こっちまでイカくせえんだよ!!ばああああか!!!!クソ童貞!!!!!!」
「っ!?なんっ!!?!?」
おーおー・・・口が悪いこと。
あの小さくて可愛かった子が・・・
おじさん悲しい。
けど頼もしい。
「うっぐ・・・このガキャア!!」
顔を覆って蹲っていたオッサンが立ち上がった。
もう血管切れてんじゃないのってくらい真っ赤だな。
「いい歳してヤることばっかかよ松本のジジイ!!部下のヤリチンと童貞連れてとっとと帰れし!!!」
言いつつ、朝霞は窓からひらりと跳び下りてきた。
おっと、これ以上はいけない。
どうやら頭に血が昇っているようだな、朝霞も。
「・・・もういい、話はナシだ。お前ら・・・好きにしr」
「させるわけねえだろ」
きったない覚悟を決めたオッサンが喋る前に、割って入る。
思わず乱入者に、4人がこちらを向いた。
「なんっ!?・・・だ、おまえ・・・」
俺を怒鳴ろうとしたオッサンの語尾が縮んでいく。
おいおい、女以外に強く出れないのか?
ま、おおかた俺の傷にビビったんだろうがな。
「どーもどーも糞野郎。俺はここの親戚でね・・・大事な大事な従妹とその娘に何してくれてんだ」
呆気にとられている間に、オッサンたちと姉ちゃんの間に体を滑り込ませる。
ゆっくり動くのがコツだ。
急ぐと、向こうが反射で暴れるかもしれんからな。
「なっァ・・・こ、困るなァ荒川サン!!よそ者を勝手に・・・!!」
「勝手に、なんですか!?可愛い親戚の子を住まわせて何が悪いんですか!!」
俺ではなく、姉ちゃんに返すとは。
っは、情けない。
「朝霞、後ろにいな」
「う、うん・・・」
その隙に、朝霞を姉ちゃんの所まで下がらせる。
よし、これで後顧の憂いはなくなった。
「・・・あ!松本サン!コイツ怪我人ですよォ!!」
後ろの・・・さっき童貞呼ばわりされてた男が嬉しそうに叫んだ。
それが、なんだ?
が、オッサンは馬鹿だった。
「・・・オイ!はしゃいでんじゃねえぞ小僧がァ!!ヨソモンがァ!口出してんじゃねえ!!!」
急に元気になり、俺に凄んできた。
そこらの一般人にはそこそこ効くだろうが・・・ゾンビに比べりゃ、チワワみてえなもんだな。
「・・・一応、無駄だろうが、言っとくぞ?」
子供に言うように、オッサンにゆっくり喋る。
「回れ右して、そのまま帰れば―――」
言い終わる前に、オッサンは俺の顔面を殴り付けようと動き出し―――
「いぎゅん!?!?!?!?!?」
思い切り股間を蹴り上げられて白目を剥いた。
うぇ・・・いつものブーツじゃないから感触がキモい。
あーあー・・・それに、口開けたまんまだから舌まで噛んでやんの。
「・・・人の話は最後まで聞けよな」
「あぎ・・・あ・・・あぁあ・・・」
そしてオッサンは、重力に従ってアスファルトと熱烈なキスをした。
「はへ・・・?」
呆気にとられた童貞に話しかける。
「オイ、とっととこの粗大ごみ持って帰れや」
その物言いが気に入らなかったのか、別の男が動いた。
手に持った鉄パイプを、振り上げる動き。
喧嘩慣れしているんだろう、その動きには迷いがない。
「っだらァッコノ!!!」
謎言語を吐くそいつに、踏み込む。
「ッチ!!!」
「へぅぎ!?!?」
人差し指と中指を鉤爪状に折り曲げた右拳が、正確に喉を突きながら通り過ぎる。
咽て動きを止めたそいつの顎を、戻った裏拳で撃ち抜いた。
「ひゃば・・・が?」
呼吸を阻害された上に脳まで揺らされ、そいつは寝入るように膝から崩れ落ちた。
「さあて、これでゴミが増えたなァ・・・っと!!」
「ひぎぇえ!?」
目を丸くした童貞の喉を、がしりと掴む。
「よう、クソ童貞」
ぎちり、と力を込めた。
動こうとした残り1人にも、視線を送る。
「―――ゴミ、持って帰れるよなァア・・・?」
これ以上余計な事したら折るぞ、とばかりに・・・俺は右手に力を込めて言った。
「兄ちゃん!一朗太兄ちゃん!」
「・・・はいはい、なんざんしょ」
・・・暑い。
「これお茶!お茶ね!!」
「見ればわかる・・・」
「飲んで!飲んで!!」
「もう4杯目なんだけど・・・」
・・・暑過ぎる。
「・・・朝霞、ひっつくのやめないか?」
「やだし!!!」
いいお返事ぃ・・・
やだしって何だよ新種の言語か?
「たすけてねーちゃん・・・」
台所に立つ姉ちゃんに視線を送る。
「なぁに?まだお煎餅いるのいっくん?」
「いらなぁい・・・あのね、朝霞をね・・・」
「ふふ、朝霞ったら・・・」
微笑ましそうに見るのをやめてくれませんかねえ!!
母親ァ!娘さんの距離感バグってんぞォ!!!
あの後、馬鹿どもは這う這うの体で逃げていった。
『今度顔出しやがったら全員の金玉砕いてニューハーフにしてやるからなァ!!!』
と怒鳴ったらさらにスピードを上げて。
結局、オッサンともう1人は意識不明のままだったので、仲良くおんぶして帰って行った。
逃げ足だけは一級品だな。
これで一件落着・・・だったのだが。
朝霞が俺の後ろで少し震えていたので、怖かったのだろうと思って声をかけたところ。
『・・・か、かっけえ!!カッケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!』
後ろから抱き着かれた。
ああ・・・懐かれた。
それはもう、すごく懐かれた。
昨日まででも懐かれたと思っていたが、どうやら陽キャの懐きはあんなもんではなかったらしい。
「兄ちゃん!あーしにも喧嘩教えてよ~!」
ソファに座った俺に、まるで美玖ちゃんのように抱き着いてくる朝霞。
いつの間にか呼び方がおじさんから兄ちゃんにランクアップ??してるし・・・
・・・年齢を考えなさい!!
「あのなあ!年頃の女が男に跨るんじゃねえ!」
「やーだ!やだし!!」
やだじゃない!!
そして上下に揺れるんじゃない!
傷が痛むだろうが!!
「・・・どうだイチロー、我々がここを逃げ出そうとした理由がわかったろう?」
「呑気にお茶を啜っていないで助けてくれませんかね!?我怪我人ぞ!?」
「あれほど動けるなら大丈夫じゃないか?」
このガスマスク野郎!!
表情は見えないけどニヤ付いてんのはわかるんだぞコラ!!
「兄ちゃん!疲れたでしょ!?後で背中流してあげるし!」
「いらねえ!ちっとは恥じらいを持て!!」
「やだし!!!」
・・・どうやら、ここは思った以上の鉄火場のようだな。
さっきのカスを思い出しながら、俺は朝霞の上下運動による痛みに顔を顰めた。




