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133話 死線 後編(第二部最終回)

死線 後編




「じゃっ!!!」


手甲に包まれた右拳が、空気を裂いて俺の顔面へ迫る。


「っしぃい!!」


それを躱す軌道に入りつつ、刀を振る。

鍛治屋敷の拳が耳元を通過する音を聞きながら、振るった刃は奴の肩口へ。


「っはァ!!」


だがそれは奴の左手によって刀の腹を叩かれ、逸れる。

刀を弾いた手が、瞬時に視界の外へ。


「ッ!!」


それを確認することもなく、後方へ跳躍。

目の前を、フック気味の左拳が通過した。


それを見つつ、地面に着地した瞬間に構えを下段にスイッチ。

踏み込みながら、膝を折る。


「ふぅう、う!!」


その場で回転しながら、遠心力で加速した刀が鍛治屋敷の脛に向かう。


南雲流剣術、『草薙』!!


「そいつはもう!」


鍛治屋敷はふくらはぎを腿に跳ね上げる動作でそれを回避。


「見たァ!!」


刀が通過するのと同時に、折った足が凄まじい勢いで射出された。

狙いは俺の・・・右肘!!


素早く刀を手元に引き付けるが、鍛冶屋敷のブーツがそれよりも速く肘を捉えた。

インナーを、ブーツの爪で引き千切りながら蹴りが抜ける。

・・・いってぇ!ちょっと皮膚が抉れた!!

だがここで退けば連撃を許す!


蹴りを放ったことで、僅かにバランスを崩した鍛治屋敷。

俺が斬った足首のせいで、若干踏ん張りが効かないと見た!


「おぉっ・・・!」


至近距離で刀を、引く。

加速距離は、これで十分!!


「りゃあぁあっ!!!」


刃を横に寝かせた突きが、鍛治屋敷の腹に迫る。

内臓、もらったァ!!


「ガアアッ!!」


が、獣じみた反応速度で奴が動く。

刀の下方から潜り込んだ裏拳が勢いよく刀を弾いた。

当初の目標から切っ先は逸れ、コートを掠るだけ。

しまった!焦りすぎたか!!


弾いた瞬間、鍛治屋敷の体が低く沈み込む。


いかん!

後ろに―――!


「ゼヤァ!!」


「っぐ~~~~~~~!?!?」


衝撃と、激痛。

視界が一瞬白くなった。


手甲から伸びた2本の指が、さっき爪を喰らった傷口に突き刺さった。

拳なら躱せただろうが、指を伸ばされた!!


激痛で一瞬動きが止まったその時、左手首が掴まれた。

やばい!

極められると・・・折られる!!


「があああ!!!」


痛む左腕をあえて前に突き出し、捻られるのを防ぐ。

その間に、突きが逸れた反動を使って左足を振り上げ、鍛治屋敷の左肘を狙う。


さすがに安全靴で肘を蹴られるのは嫌だったのか、左手は放された。


お互い後方に跳び下がり、構える。

左手首に、鈍痛。

・・・糞、一瞬遅かったか。

あの瞬間に筋を極められかけてたらしい。


恐るべし、関節技。

手はともかく・・・足を殺されれば、それはこの場合死ぬことを意味する。


刀の間合いで勝負したいのは山々だが、そこは万象千手流。

距離を取ることを許さない体捌きで、俺にそれをさせない。


いよいよとなれば・・・やるしかない、か。

『アレ』を。


右胸は呼吸をする度に鋭く痛む。

鳩尾も同じだ。

蹴られた頬の傷からは、血が溢れているのが分かる。

左肩の傷も、浅くはない。


「楽しいなァ、田中野ォ」


痛みを表に出さないようにしていると、鍛治屋敷が声をかけてくる。

いきなりなんだよコイツ。

俺より重傷っぽく見えるが、どうだろうか。

その態度からは、傷の深さは予想できない。


「全く、全然、楽しくない。こんなことはとっとと終わらせて俺ァ家に帰りたいねえ」


時間を稼いで回復するような傷ではないが、休憩できるに越したことはない。

世迷言に付き合おう。


「始まってからずぅっと笑いっぱなしの癖によォ、嘘ならもっとマシなのをつけや」


・・・笑ってる?

そう言えば前に大木くんからそんなことを言われたことがあったっけなあ。


「元々こういう男前な顔なんだよ、ほっといてくれ」


「抜かせェ・・・お前、戦うのが楽しくて楽しくてたまらねえんだろう?結局のところ俺とお前は同じ穴の狢なんだからよ?」


・・・?

おかしいな、そんなに強く頭とか殴ってないつもりなんだが。


「そんなの当たり前だろうが・・・」


そう言いかけて、いつかの言葉を思い出した。



『他のみんながね、おじさんを悪い人だって言っても・・・私は、ずうっとおじさんの味方してあげるね』



『・・・田中野さんは、違いますよ。鍛治屋敷とは。たとえ、皆がそうだと言っても・・・田中野さん自身がそうだと言っても、私だけは『違う』って言いますからね』



・・・どうやら俺は、得難いいい人たちに囲まれているらしい。

有難くって涙が出そうだね。


「・・・はは、はははは!!」


急に笑い出した俺を、怪訝な顔で見つめてくる鍛治屋敷。

おかしくなったとでも思っているのだろうか。

はは、そんなの最初っからおかしくなってるっての。


「同じィ?馬鹿にしてくれたもんだなあ・・・確かに俺もお前も人殺しのケダモノだけどよぉ・・・」


息を吸い、吐く。


「一緒にしてほしく、ねえなあ」


納刀し、居合の体勢へ。


「お前と違って俺には他にも楽しいことが山ほどあるし、やりたいことも山ほどあるんだ・・・ありがたいことに、こんな俺を心配してくれる人たちもいる」


居合姿に師匠との過去の記憶が蘇ったのか、鍛治屋敷の殺気が一段と濃くなる。


「誰彼構わず噛みついて吠えまくる、加齢臭のオッサンとは違うんだよ・・・馬鹿野郎が」


正直、俺としてはそう変わりがあるとも思えないがな。

思えないが・・・璃子ちゃんや神崎さん、美玖ちゃんたちが俺をそう思ってくれてるんなら・・・

俺は、『そう』なろうとおもう。

―――せめて、誰かの前だけでも。


集中する。


体の調子から考えて、そう長い事戦える状態じゃない。

動けば動くほど血は流れ、傷は悪化する。

まだ重篤な傷を負っていない今・・・持てる力のすべてを出しきる。

これで死んでも、悔いがないくらい・・・しっかりと。


「・・・」


俺の考えと表情で悟ったのだろう。

鍛治屋敷も構えを変えた。

右手を引き、左手は胸の高さで真っ直ぐ伸ばしている。


俺の狙いが居合であるように、奴の狙いは溜めに溜めた右正拳だろう。

・・・いや、ひょっとしたら違うかもしれんが。

構うものか。


じり、と体重を前方に移動させる。

踏み切る、準備のために。


奴は、一度見た技には凄まじい反応速度を見せる。


・・・なら『コレ』は初見のはずだ。

この、どう見ても見かけは居合にしか見えない技は。

師匠は驚くべきことに奴を居合オンリーで倒したというし、これは予測できんだろう。

なにせ、俺もまだ一度も使ったことがないからだ。

道場以外では。

稽古の時も、外から見られることを想定して室内でしか使っていない。


問題は俺がしっかり成功させられるかだが・・・ま、そこは心配しても仕方がない。

しくじりゃ、死ぬ。

いつものことさ。


一言も発さぬまま、俺達はじりじりとすり足で距離を詰める。

お互いが、お互いの必殺の間合いへ入るために。


1分経ったか、30分経ったかもわからない。

吹きすさぶ風の中、お互いに構えを取ったまま時だけが過ぎていく。

肩の傷から流れた血が腕を伝い、地面にぽたりと落ちた。



それが、合図だった。



示し合わせたように、一斉にスピードを上げる。

俺は『霞』で、鍛治屋敷も似たような動きで。

距離は、一瞬で一足一刀の間合いに入った。


「オォオ!!!!!!!」


俺の居合を潰すために、鍛治屋敷が超至近距離に踏み込む。

同時に、拳から出るとは思えないほどの風鳴りを伴った右正拳が放たれた。

居合ならば、もう抜かなければ間に合わない。


―――だが、これは居合の技では、ない!!


鯉口を切った左手を鞘に固定したまま、体を右に捻る。

体が半身になり、左肩が前に出る。


「っぐぅう!!がああっ!!!」


穴開きの左肩で、鍛治屋敷の右正拳を迎撃する。

ごぎん、と体内に音が響いた。

外れたか、肩が!

クッソ!わかっちゃいたが死ぬほどいてえ!!


俺が思わぬ行動に出たことで虚を突かれ、一瞬だけ鍛治屋敷が止まった。

このチャンス・・・逃すつもりはない!!


「っしゃあ!!」


「っがぁあ!?!?!?」


居合の要領で抜かれた刀の柄頭が、鍛治屋敷の鳩尾に音を立ててめり込む。


「ふうう・・・うう!」


それを押し込みつつ、腰を捻る。

極小の空間で、刀身は鞘から抜け出る。


「ぬうん!!」


「っご!?!?」


刀を握ったまま腕を一瞬引き、右正拳の要領で再び鳩尾を殴りつける。

二撃目によって、僅かに鍛治屋敷が体を折る。


「っしいいいぃい・・・!!!」


そのまま。

その場で。


「おぉお・・・りゃあああああああああああああああ!!!!!!!!」


鋭く、独楽のように回転した。


「~~~~~~~~っ!?!?!?!?」


零距離での斬撃が、鍛治屋敷の腹を確かに切り裂いた。



南雲流剣術、奥伝ノ六『繚乱旋風(りょうらんつむじ)



日本刀は、引かねば斬れない。

この技は超至近距離での打撃で動きを止め、体の回転をもって斬撃に十分な威力を乗せる。

要は胴体狙いの『草薙』のようなもんだ。


後方に体を投げ出し、転がるように退避。

恐らく脱臼している左肩が死ぬほど痛いが、無視する。


「ぐう・・・が、ああ!あああ!!あっ・・・!!!ぐぐ・・・!!!」


腹を押さえて鍛治屋敷が唸っている。

きつく抑えられた腕の隙間から、びしゃびしゃと鮮血が地面に落ちる。

浅手では、ない!

内臓が零れれば儲けものだが・・・クソ!腹筋バリアのおかげかそこまではいかんか!


だが、これでは動けまい!

俺だって軽傷じゃないんだ、ここで!止めを!刺す!!



「―――パパぁ!!」



別方向からの、殺気。

悲鳴と銃声が一緒に聞こえ。

背中に、熱を感じた。


「っぐ!?」


なに、が―――!?

背中に、何か刺さった!?


「田中野さんっ!!前ぇっ!!!」


神崎さんの声に、我に返る。



鍛治屋敷が、目前に。



そして、ピンポン玉くらいの何かが宙に、浮かんで―――


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!」


鍛治屋敷の拳が、そのピンポン玉を俺の胸の中心に拳で叩き込んだ。

まずっ―――!!!



爆音。



衝撃。



浮遊感。



背中に、衝撃。



空。



海。



橋の欄干。



「―――ッ!!!!!!!」


いつの間にか刀を落としていた右手を伸ばす。

橋の上から放射状に伸びる、金属製のワイヤーをなんとか掴んだ。

危うく海に落ちる所だった!


「ぐう、っが!ああ!ああ、あ!!!!」


まだ体は吹き飛ばされる軌道を描いている。

必死でワイヤーを、掴む。


まるでターザンのように、何度か左右に揺れた後・・・やっと俺は止まった。


耳鳴りと、視界の揺れが酷い。

・・・どうやら、爆発で危うく海に叩き落とされるところだった、らしい。

咄嗟に後ろへ跳んだのがよかったのか、どっこいまだ生きている。

ギリギリ、だが。


橋の中央にほど近い場所では、鍛治屋敷が膝を折っているのが見える。

俺に爆弾ごと正拳を叩き込んだその右手は、ボロボロの火傷まみれだ。

コートも所々が破れ、満身創痍の様相。


視線を下げる。


防弾チョッキと硬化インナーは円状に弾け、露出した胸の中央が火傷と裂傷でひどい有様だ。

恐らく麻痺しているので痛みはないが、どう見ても軽傷ではない。

鉤爪、飛ばした後で助かったな・・・

息をすると、違和感が凄い。

・・・折れたな、肋骨。


「ご、ぁぱっ」


何か声を出そうとしたら、せり上がってくる血を盛大に吐いた。

たいそう苦しい。

息もまともに、できん。


「―――貴様ァっ!!!!」


ブチ切れた神崎さんが、軽トラの影から盛大にライフルを連射している。

狙いは、鍛治屋敷のジープだ。

銃弾は全て命中しているが、防弾仕様なのかなんなのか、さほど効いている様子はない。


娘は・・・後方に退避している。

腕を押さえているように見えるから・・・神崎さんに撃たれたな。

アイツ・・・なんか投げやがったな、あの時。

確認はできないが・・・たぶんジムの時のようなナイフだろう。

頭、狙われなくてよかった。

いや?神崎さんが撃ってくれたから狙いが逸れたのか。

さすが大天使カンザキエル・・・


っていうか横槍が来るとは思ってなかった。

親父を助けようとか、そんな人間的な感情を持ち合わせているとは思わなかった。

腐っても、親子か。

・・・そのまま腐ってりゃよかったのによお。


「いい格好、だなあ、田中野ォ・・・」


立ち上がった鍛治屋敷が、ぼたぼたと血の跡を引きながらゆっくりと歩いてる。

まだ動けるのかよ、畜生め。


「だろ?ごいづば・・・いい、ばじょ、だぜ」


気の利いたことでも言ってやろうかと口を開くが、出るのは濁音交じりの言葉と血ばかり。

盛大に出るねえ・・・肺とか大丈夫かなこれは。


「田中野さんっ!!」


鍛治屋敷の動きを見て、神崎さんがこちらへ走ろうとした瞬間。

地面に飛来したナイフが音を立ててはねた。

娘の方か!


「ぐるなっ!!ごっぢに・・・ごぼ!!ガバ!!」


一度血の塊を飲み込み、喉を鳴らす。

ぐう、気持ち悪い。


「娘がすまねえな・・・やんちゃ、盛り・・・でよ」


鍛治屋敷はまだ近付いてくる。

何がヤンチャ盛りだ、あれもうそんな年じゃないだろ。


「親がアレだと・・・子もアレだって言うしな、仕方ねえよ」


お、クソ痛いけど声が出た。

やったぜ。


「ま、あきらめて・・・死ねや」


あらら、どうやら俺を生かして帰す気はないらしい。

娘がすまんから仕切り直しで~みたいな展開にはならないっぽいな。


鍛冶屋敷は今も押さえている腹からの出血で、ズボンまで血が沁み込んでヒタヒタだ。

アレ腹膜までいってないか?傷。

もうちょい鋭く回れたらなあ・・・アレで出血死狙えたのに。


ずる、と右手が滑る。

あー・・・握力が弱くなってきた、なあ。

左手は肩がアレだから、手は動いても腕が上がらない。

ワイヤーは欄干の外にある。

跳んで戻るには、距離が足りない。


こうしている間にも、鍛治屋敷がじりじりと近付いてくる。


「体がしんどいからよ、コレでいいか」


そして、地面に転がっている『魂喰』を手に取った。

お前人の愛刀を!やめろ!


「随分といいものを探してきたみてぇだなあ」


「おいやめろよ・・・刀が腐ったらどうしてくれるんだ」


鍛治屋敷は刀を逆手に持ち、ゆっくりと槍でも持つかのように持ち上げた。

投げるつもり、らしい。


「―――やめろ!!田中野さん!!田中野さん逃げて!!逃げてェ!!!」


神崎さんがたまらず走り出た所で、足にナイフが突き刺さるのが見えた。


「ぅあ!?っぐ・・・田中野さん!田中野さぁん!!」


そのまま倒れ込んだ神崎さんは、娘を銃撃。

娘の方は、またジープの影に隠れる。


「おいやめろこのブス!!神崎さんに指一本触れるんじゃねえ!!殺すぞ!!!」


ジープに叫び、神崎さんの方を向く。


「神崎さん!軽トラに乗って!逃げてください!!」


「い・・・や!嫌です!嫌です!!」


鍛治屋敷が投擲の動作を止め、面白そうに俺を見ている。

何見てんだ殺すぞ。


「いいから乗れ!!おい鍛治屋敷!そして娘ェ!!それっくらいは遺言代わりに許してくれてもいいだろう!?」


そんなつもりはさらさらないが、ブラフも飛ばしておく。


「おう、冥土の土産に許してやらあ・・・(しおり)、もうやめとけ」


「はーい・・・田中野ちゃぁん、ごめんねぇ。でもブスはちょっと許せないかなー・・・っと!」


飛来したナイフが、右腕に突き刺さる。

なにしやがるコイツ!ただでさえヤバい握力が・・・ぐああ!?


「田中野さぁん!?」


右手がまた少し滑る。

・・・急がな、ければ。


「・・・はーい!車に、乗った、乗ったァ!!早くゥ!!!」


神崎さんが足を庇いながら起き上がり、車のドアを開ける。

こちらを振り向いた顔は、涙に塗れていた。

それでも、目には力があった。


・・・どうやら、気付いたようだな。

俺がまだ、あきらめたわけじゃないってことを。


「エンジン!エンジンかけて!・・・鍛治屋敷ィ!!わかってるだろう、なあ!?」


「・・・元よりテメエを殺せりゃ文句はねえよ。逃げるなら、追わん」


「そう、かよ」


嘘だねェ!?

殺すって顔に書いてあるぞ!?


「神崎さぁん!!」


運転席に乗り込み、エンジンをかけた神崎さんと目が合う。

彼女は、何かを堪えるように頷いた。

そんな顔しないで。

また会えますって。


「ちょっと遅くなるんで!夕飯は!いらないですからねえ!!皆によろしく!!!」


最後の挨拶とでも思っているんだろう。

最初の頃のニヤニヤが戻った鍛治屋敷は、何も言わず黙っている。

・・・そうやって!いつまでも余裕ぶっこいてろってんだ!!


「お土産たっくさん、持って帰りますんで~!!」


右手にありったけの力を込める。

ギチギチと、拳が軋む。


『死ぬ、と思った時には案外なんとかなるもんじゃ。何故なら目前に敵がおる・・・急に空から飛行機が落ちてくるでもあるまいし、いくらでも手はある』


いつかの、師匠の言葉。


『たとえ死ぬとしても、のう?せめて相討ちが最低限じゃ・・・最上?それは完勝よ』


息を、吸い込む。


『手が一本でも残っておれば、戦える。何無理じゃと?馬鹿たれ、それだけの稽古は・・・もう既に積んでおるよ、小僧』


タイミングを計る。

海面に視線を落とし、鍛治屋敷に目を見せない。

あくまで、力が尽きかけているように。



『―――目にもの見せてやれ、一朗太』



頭の後ろから、師匠の声が聞こえた気がした。



「さぁて・・・そろそろ」


ふらつく足で投擲の体勢に入ろうとした鍛治屋敷を見て。


―――俺も、動く。


「ぬ、うぅう!!」


片手懸垂の動きで、体を上に引っ張り上げる。

その勢いを維持したまま、振り切るように手を離す。

上に、向かって。


「―――!!」


鍛治屋敷が持った刀を、慌てて振りかぶる。

俺がこうまで動くとは、予想していなかっただろう!!


瞬時に右手を後ろ腰に回し、脇差を抜く。


鍛治屋敷が刀を投擲。

陽光を反射して、『魂喰』が飛ぶ。


抜いた脇差を前に持ってくると同時に、落とす。


「おぉ・・・りぃやあ!!!!!」


半回転する脇差の柄頭を空中で蹴り飛ばす。

放たれた矢のように、脇差が飛ぶ。


俺が、初めてできた奥伝。

師匠に、初めて褒められた技。



南雲流剣術、奥伝ノ一『飛燕』!!



空中で『魂喰』と接触した脇差が、それでも速度を緩めることなく疾駆。


「っぐ!?」


「っか!?!?」


弾道のズレた『魂喰』は俺の左腕上腕を貫通し―――



―――脇差は、鍛治屋敷の右目に音を立てて突き刺さった。



「あ・・・ご、の、や・・・」


呻きながら仰向けに倒れていく鍛治屋敷。

ざまみろ!!そのまま死ね!!


俺もまた、重力に従って真下へ落下する。

青々とした海へと。


軽トラの運転席の神崎さんに親指を立てて笑った瞬間、もう橋の裏側が見えた。


ここの高さは10メーター未満。

海は深い。


やりきった思いで意識を薄れさせながらも、両足から海へ入るように心掛ける。



衝撃。


そして海水の匂い。


落下の勢いでかなり潜ってしまった。

足元は、底すら見えないほど深い。


・・・さて、物語ならここで終わりだが、俺は生きねばならん。

帰らなきゃ、ならん。

生きて、しっかり、自分の足で!!


薄れる意識を取り戻すために、まずは『魂喰』を一気に引き抜く。

一瞬で意識が戻った。

痛すぎてもう死にそう!!


それを持ったまま、水面へ向けて腕を・・・あ!左腕動かねえ!!どうしよう!!!


右手で我武者羅に水を掻き分け、水面を目指す。

もがくたびに全身に激痛が走るが、丁度いい気付けだ畜生!

だが、流れが微妙に速い!だから海は嫌いなんだ!!


死にそうなくらい息苦しい。


水面に、影が見える。


船の底の、ような。



浮上し、それになんとか手をかけたあたりで、瞼が急に重くなってくる。

駄目だ、安心したら、死ぬぞ!!


「ごっは!ぐう・・・があああっ!!!」


右手を浮遊物の縁にかけ、体を持ち上げる。

・・・持ち上がらない、もう、力が出ない。


ロープのようなものが手に触った。


それを握りしめた所で・・・俺の意識は闇に沈んだ。



目を閉じる時に、誰かに呼ばれたような気がした。

これにて、第二部は終了です。


この続きは第三部となります。

お待ちください。


今年も『無職マン』を応援いただき、誠にありがとうございます。

来年もよろしくお願いいたします!


それでは、そう遠くないうちにお会いいたしましょう!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 手に汗握る展開 [気になる点] 普通は死ぬけど右眼に刺さっただけで死は確認されていない [一言] 南雲と千手の格付けは済みました
[気になる点] そもそもクズ相手にわざわざタイマンはる必要あったのか?自衛隊に応援出して貰って拠点も守りつつ橋も攻撃できただろうに。 水着調達の時にそのまま親子で襲ってきたほうが展開に無理がなかったか…
[良い点] 決着に飛燕を繰り出す展開に目を剥いた ああお見事なキメにございました天晴…
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