126話 男だらけの探索行のこと 前編
男だらけの探索行のこと 前編
「女子会を!したいですっ!!」
大人組+葵ちゃんで朝ご飯を食べていると、巴さんが急に立ち上がってそう宣言した。
・・・朝から元気だなあ。
床でご飯を食べていたサクラも、思わず見上げるほどの声だ。
「じょしかいー?」
「女の子だけで集まってお話したり、お菓子食べたりすることだよ!」
「おかし!」
「・・・お菓子」
きょとん顔の葵ちゃんに、璃子ちゃんが説明をしている。
後藤倫先輩のお菓子に対する反応が早すぎる。
「ええ・・・と?」
神崎さんが困惑したように声を出した。
あ、ほっぺにパンくず付いてる。
「パジャマパーティみたいなものですか?懐かしいですね!」
斑鳩さんが意外と乗り気だ。
向こうのお国の頃を思い出しているのであろうか。
「私達、ここで暮らして結構長くなるじゃないですか?ここらへんで腹を割ってお話して、もっともおっと仲良くなればいいと思うんですっ!」
「でしたら、何故女子限定で?」
「だって男の人たちっていうか、むーさんと田中野さんは元から古い知り合いですしっ!」
言われてみれば。
俺と七塚原先輩は巴さんよりも長い付き合いだしな。
「・・・」
当の七塚原先輩は、巴さんが作った味噌汁を美味しそうに飲んでいる。
我関せずというか・・・この人は巴さんの言うことは全部肯定するしな。
文句なんぞはなから存在しないんだろう。
「子供たちは会議室で映画を見ていてもらって、女の子は休憩室でちょっとお話したらいいと思うんですっ!」
「わたし、はー?」
「葵ちゃんも立派な女の子ですっ!好きな方に行っていいんですっ!」
「じょしかい、するー!」
「いらっしゃあい!!」
・・・どうしようこれ。
いや、別に女子会でもパジャマパーティでも好きにすればいいんだが。
あと『女の子』に突っ込みたいんだが、たぶんそれをすると殺される。
それくらいは、わかる。
「ですが、全員でここに籠ってしまうと監視が・・・田中野さんたちに全てお任せするというのも」
「この前大木くんが取りつけてくれた監視カメラがあるじゃないですかー」
・・・いつの間に!?
大木くんの手によって着々とここが要塞へと変貌を遂げていくぞ!?
休憩室に見慣れないモニターがあると思ったらそれか!
俺はてっきりdvd用の予備かと思ってたよ。
「いいですよ神崎さん、息抜きだって必要でしょう?カメラに加えて俺が屋上で監視してますから。暇ですし」
今日はどこからも連絡はきていないし、予定もない。
煙草の在庫もこの前式部さんと大量に回収したし、他に困っていることもない。
女子会の間くらい、屋上の住人になってもいいだろう。
よくよく考えてみれば、ちょこちょこ外出できる俺たちと違って巴さんはずっとここにいるんだ。
ストレスも・・・溜まっているのかどうかわからんが、好きなようにさせてあげよう。
子供たち用の映画もオヤツも潤沢にあるし、大丈夫だろうさ。
「何言ってるの田中」
と、思ったら後藤倫先輩が肩を掴んできた。
なんでしょうか?
「田中とななっちは強制外出。女子会だから、男子は隔離」
「俺は病原菌か何かですか?」
「この場合似たようなモノ」
ひでえ。
「・・・ここの防御大丈夫ですか?別に探索するのはいいんですけど」
体が鈍るから外出は大歓迎なんだが・・・何かあったら困る。
「大丈夫じゃないと思う?」
ドヤ顔の先輩である。
・・・考えてみりゃ、ここは女性陣だけでも遠近両方に対応できる戦力が揃ってるんだった。
白黒でも来れば別だが・・・塀と電流、爆弾に銃まである。
防衛に徹すりゃ大丈夫すぎるな。
「確かに。じゃあ適当にどっか行きますか先輩」
「おう、物はあればあるだけええけぇな」
そうと決まれば出発の準備をせねばな。
「わふ!」
『おでかけ!!』とでも言いそうな顔のサクラを、璃子ちゃんが抱き上げる。
「サクラちゃんも女子なんだからね~お留守番してましょうね~」
「きゅぅうん・・・わふ・・・」
『ええ~?』みたいな顔のまま抱っこされているサクラである。
だがしばらくすると諦めたのか、『まあいいか!』という顔になった。
我が愛犬ながら順応性の高い事よ。
「で、でも田中野さんたちを追い出すようなことは・・・」
神崎さんは申し訳なさそうな顔をしている。
「いやいや、ここの防衛が大丈夫なら別にいいんですよ神崎さん。お土産持って帰ってきますからね」
「田中野さん・・・」
その時、するすると寄って行った巴さんが神崎さんに何かを耳打ちした。
「にゃ!?・・・そ、そそそそうですか、つ、通信機だけはしっかり持って行ってくださいね!田中野さん!!」
すると神崎さんは何故か大いに狼狽し、急に素直になった。
耳打ちした巴さんは、いつものようにニコニコ笑っている。
・・・ははーん、秘蔵のオヤツ大放出かな?
甘味の魔力は絶大だからなあ、抗えぬのも無理はあるまいて。
「むぅ」
なんか睨まれた!
どうやら違うようだな。
空気の読める無職である俺は、それ以上何もしないことにした。
自室に戻り、装備を確認。
どこに行くとも決めていないから、臨機応変に対応できるようにしとかないとな。
脇差と兜割、それに拳銃と手裏剣。
『魂喰』はどうしようかな・・・ううむ、持っていこうか。
何が起こるかわからんし。
手裏剣は在庫が心もとないな・・・まだ材料はあるけど、あれば調達してこようか。
神崎さんと一緒に作るって約束したことだし。
「行けるか?」
のそりと七塚原先輩が顔を出した。
先輩の準備は八尺棒と手裏剣だけだからな、一瞬で終わる。
銃は使わないのかと以前聞いたことがあったが、『いらん』と即座に言われた。
まあ、あのクソデカ手裏剣で事足りるだろうし、当然か。
手裏剣の射程以上の遠距離となれば、適性がなければ当てることすら難しいし。
「いつでも。どこ行きましょうか?」
「それなんじゃけどな、釣具屋を探そうや」
「釣具屋?」
「おう、今度子供らぁを釣りに連れて行くんじゃろ?丁度ええけぇ、準備しときたい」
あー、そういえばそうだった。
最近バタバタしてて完全に忘れていた。
鍛治屋敷の件もあるが、準備だけはしておいて損はあるまい。
っていうかアイツの第一目標は俺なんだから、俺が外に出れば避難所は安全だろう。
いきなり吹き飛ばすなんてしないはずだ。
「了解っす。じゃあ龍宮方面に足を伸ばしますかね」
「おう」
大まかな目的地はこれで決まった。
女子会がどんくらいの時間やるかは知らないが、精々ゆっくりすることにしよう。
「というわけで行ってきますね」
「はい、あの、お気をつけて」
駐車場までついて来てくれた神崎さんが、申し訳ないように言う。
「気にしないでくださいってば。神崎さんも息抜きが必要ですよ、息抜きが」
「ですが、それでは田中野さんが・・・」
「俺は勝手気ままに生きてるだけで息抜きができる能力持ちなんでね」
「・・・ふふ、そうですか」
「そうですよお」
油断しろとは言えないが、肩の力を抜くくらいは許されるんじゃないかな?
「神崎さんはいつも責任感があるし、超絶有能ですからね。頼りにしてますけど、たまにリフレッシュしないと倒れちゃいますよ?今日は何も気にしないでのんびり女子会しちゃってくださいよ」
「え・・・あ・・・う、は、はいぃ・・・」
褒められ慣れていないのか、神崎さんは顔を赤くして目を白黒させている。
貴重なカラフル神崎さんじゃないか!久しぶりに見たな。
おかしいよな、こんなに有能なのに褒められ慣れていないなんて・・・
今まで周りにいた連中、目が腐ってるんじゃなかろうか。
もしくは神崎さん以上の有能がひしめいていたとか。
・・・後者の方が恐ろしいな。
首都は化け物の巣窟かなにかですか???
「では、行ってきま・・・」
「おはようございます!」
行こうとしたら、正門から聞き馴れつつある声が聞こえた。
「今日もいい天気でありますね!一朗太さん!あ!二等陸曹!おはようございます!!」
「おはよう式部さん、いい天気ですね」
「ええ、おはよう陸士長」
ライアンさんの代役こと式部さんが、ニコニコと敬礼してくる。
だいたい3日に1回くらいのペースで来てるな。
子供たちにも好かれているから、こちらとしては何の問題もないが。
「おや?その恰好は・・・もしかしたら探索でありますか?」
ガチガチに武装した俺を見てすぐさま式部さんが言った。
軽トラも出してるし、七塚原先輩もいるしな。
「おお、式部さんじゃなあか。今日も元気じゃのう」
「七塚原さん!おはようであります!」
元々面識のあった先輩と式部さんは、ここ何日かですっかり顔見知りになっている。
巴さんは何故か『むっふっふ~春ですよ~』と言いながらよくハグをしている。
あの人春好きすぎだろ・・・あと半年以上は我慢していただきたい。
「ええ、ちょっと適当に行ってこようと思いまして」
「この鉄火場で適当に探索できるのは流石でありますね!一朗太さん!」
・・・なんか遠回しに馬鹿だと言われている気がしないでもない。
そう思っていると、なにやら式部さんがもじもじし始めた。
「あ、あのお~もしよろしければ~じ、自分もご一緒しても・・・」
「紫見っけ」
「ひゃわ!?」
するりと出てきた後藤倫先輩が、その両肩を掴んだ。
紫・・・苗字が式部だからか?
安直すぎる・・・
「暇ならこっち。今日は女子会だから」
「っじょ!?女子会、で、ありますか!?あああ!ちょっと、ち、力が強いであります!!」
見る見る社屋へと先輩に引かれていく式部さん。
「一朗太さん!一朗太さあん!お、お気をつけて~!で、ありますぅう~~~!!」
・・・式部さんまで加わるとなれば、ここの防備は安全そのものだろう。
部外者を巻き込んで申し訳ないが、まあ・・・現状確認の任務だから問題はない、のかな?
式部さんが社屋へ消えたのを見つつ、呆気に取られている神崎さんに向き直った。
「・・・では、行ってきます」
「は、はい。2人ともお気をつけて」
苦笑いする神崎さんに手を振り、軽トラに乗り込んだ。
「あ、お疲れ様です~今日は朝から探索ですか?え?僕?まあいいですけど、暇ですし」
高柳運送から出た所で丁度大木くんを見かけたので、なんか声をかけてみた。
今日は気軽な探索になる予定だからな。
もし何かあっても十分守り切れるし、何より彼には爆弾という心強すぎる武器がある。
それに今日は女子会らしいので、挨拶に行ったら大木くんも侵入者判定されるかもわからんし。
「おっまたせしましたー!」
「オイちょっと待てなんだそれ」
しばらくすると準備を終えた大木くんがバイクに乗ってやってきた。
やってきた・・・の、だが。
「ふっふっふ・・・毎晩寝ずに昼寝して制作した改造バイクです!名付けて『ドラグーン大木式』!!!」
・・・そのバイクは、元となったのは自衛隊のバイクだということはわかる。
わかるが、その外見は今までのそれと一線を画していた。
「猟銃程度なら貫通しない追加装甲に加え!各種ナビシステムを完備!燃料タンクの増設で航続力も大アップ!です!!」
以前は存在しなかった背もたれや、ハンドルガード。
ホイールカバーすらある。
簡単に言えば・・・ピザ屋の配達バイクを100倍好戦的な見た目にしたような感じ。
各所は分厚い鉄板で保護され、後部には以前見たリヤカー的なものがそれも鉄板マシマシで付いている。
「どうですか!『ドラグーン大木式』!!」
「あーうん、すげえかっこいい、すごく」
「はっはっは!そうでしょうそうでしょう!!」
制作能力は折り紙付きだが、やはり大木くんのネーミングセンスは独特のものがあるなあ。
水を差してもいけないし、黙っておこう。
「子供らぁが好きそうじゃのう」
「マスクマンライダー大木が始まっちゃいますねえ!こまったなあ!!」
微塵も困っていなさそうではある。
あの改造人間マスク、視界が狭くていざ運転すると結構大変そうではある。
スタントマンはすごいなあ。
「じゃあ後ろからついて行きますんで、どこへなりと行きますよ~」
ということなので、俺達は出発することにした。
2階の窓からカイトたちが手を振っていたので、振り返してアクセルを踏み込んだ。
さて、行きますかね。
硲谷を通過して、龍宮市内に入った。
このまま真っ直ぐに行けば御神楽方面となる。
「御神楽の縄張りで物資の取り合いになるとアレなんで、東の方に行きましょうか。西には教会があるし」
「ほうじゃのう。半沢さんらぁにも迷惑になったらいけんしな」
先輩も俺とボランティアによく行ったしな。
あちらのこともよく知っている。
子供大好きな先輩は、とにかく子供がかわいそうなことになるのは避けたいようだ。
なんなら畑の拡張すら手伝いそうである。
「ですね」
右にウインカーを出すと、後ろの大木くんが手を振るのが見えた。
「あっち方面には何か目ぼしい所ってありましたっけ」
「・・・あれじゃ、リューグーパークに行く途中に複合施設があったはずじゃ。スーパーやら映画館やら合体した」
「あー!ありましたねえ!たまーに映画見に行ったなあ」
「わしも月1で巴と行っとったのう。夫婦割引デーがあるけぇ」
ヒュー!お熱い!!
ともかく、これで目的地は決定したな。
あそこなら何でもあるだろうし、周囲は人家もあまりない。
郊外あるあるだ。
以前行った時はリューグーパーク関連でゴタゴタしていたから丁度いい。
「まあ、変なのがおったらまとめてのしゃあええじゃろ」
「ですねえ」
話が早くて助かる。
こちらを攻撃してこなけりゃそのまま。
もし敵対してきたらのしイカにしてやろう。
「で、釣具屋ってそこにありましたっけ?」
「あったような・・・気がしないでもないのう」
まあ、なかったら別の所に行けばいいか。
時間はあるし、売るほど。
咥えた煙草に火を点け、アクセルを踏み込んだ。
あそこにはペットショップもおもちゃ屋もあったし・・・みんなにお土産を沢山持って帰れそうだ!
道中これといって何か起きることはなく、お目当ての場所に到着した。
映画館を含む二階建ての横に広い施設の前には、これまた大量の車を収容できる広い広い駐車場がある。
「おー、ここには僕も来たいと思ってたんですよ」
駐車場に車を停めると、横に停車したバイクから大木くんが降りてきた。
「でもここって結構デカいでしょ?ゾンビも多そうだなって考えてやめにしたんですけど・・・今日はアレですか?お2人で500体ずつくらい倒す気なんですか?」
「先輩や師匠じゃないんだからそりゃ無理だっての」
「わしも一息には無理じゃのう。その数なら1週間はかかりそうじゃ」
できるのか・・・(困惑)
いや待てよ、7で割れば・・・確かに、先輩なら無理ではなさそうだな。
ノーマルゾンビだけならだけど。
「未だに原因はサッパリわからんが、ゾンビパンデミックが発生したのって朝の10時くらいなんだよ。で、ここのオープンって何時か覚えてる?」
「えーと確か11時半・・・ああ、なるほど!」
というわけだ。
オープンしていたなら大勢の人がそのままゾンビにクラスチェンジしていただろうが、始業前なら従業員しかいなかったハズ。
その説を裏付けるように、だだっ広い駐車場にはほとんど車の影がない。
正面の方にぽつぽつあるのは、開店を待っていた人か、従業員の車だろうか。
「駐車場に人影は無し・・・と。先輩、内部はどうすか」
「ここからじゃあちと遠いのう。見た限りじゃあ、動くもんはなーが」
「後方警戒と爆破はお任せくださいね!」
先輩はいつものように八尺棒を肩に担ぎ、自然体だ。
大木くんは・・・何その恰好。
キャッチャーのプロテクターは相変わらずだが、全身にベルトのようなものが巻かれている。
背負っているのは・・・折り畳み式の弓か何か?
「内訳はですね、ええと・・・金属片爆弾が10、普通の爆弾が20、ナイフと・・・あとスリングショットですね」
戦争でも始めるつもりかよ。
俺よりよっぽど破壊力が高いじゃないか。
っていうか・・・
「スリングショット?ってなんだ?」
そう聞くと、大木くんは背負っていた弓を外してカチャカチャ組み立てた。
手甲と弓が合体したようなそれを、慣れた手つきで左手に装着し、固定。
ほうほう、器用だなあ。
「ようはパチンコですよ。こうして安定させて撃てるから威力も射程も十分です・・・人間相手には」
そう言うと、大木くんはにやりと笑った。
「弾丸は普通のパチンコ玉ですけど、威力は結構ありますよお。小動物や鳥なんかは簡単に頭蓋骨が砕けますし、人間でも痛みで動きが中断しますしね」
言いつつ、実演するようにポシェットからパチンコ玉を取り出し、装填。
ぐいと弓を引き・・・30メートルほど先の放置車両に向けて発射した。
ばちゅん、という音がして、車のガラスにはまるで銃弾が命中したような痕が刻まれる。
おお・・・すげえ。
「滑車を使って軽くしてますけど、以前のこの国じゃあ間違いなく逮捕される威力があります。僕は神崎さんみたいに狙撃の腕前はないので・・・数でカバーです。予備弾はざっと500発は持ってきてます」
矢を持ち歩くよりは軽いですしね、と大木くんは笑った。
「一応ゾンビ用にスタンスティックもありますけどね。近距離ゾンビはお2人に基本お任せします・・・後は肩のカメラくらいですかねー?」
どうやら今回の探索も撮影するようだ。
「もちろん声は消しますしモザイクもかけますんで」
・・・いろんな意味で隙が無い。
足手まといにはならなさそうだ。
俺が誘ったんだから、そもそも足手まとい扱いをするつもりはないんだが。
「了解、じゃあ行こうか」
「おう」
「アイアイサー!」
そうして、即席野郎Aチームは駐車場から店に向かって歩き出した。
ちょいと短いですが、分割なのでこんな感じで。




