125話 懐かしい顔のこと
懐かしい顔のこと
「さて、行くであります」
「お任せします」
「任されたであります!」
兜割を拾ってゾンビ由来の何かの液をゾンビの服で拭い、式部さんの後ろに続く。
ここから先は俺は置物だ。
話し合いは自衛隊に丸投げするでござる。
見るからに怪しい俺という民間人なんざ、話さない方がいいに決まってるもんな。
とりあえずバンダナで口元を覆い、ヘルメットのシールドを下ろした。
「一朗太さんは大活躍でありましたから!ここからは自分の仕事でありますよ!」
ライフルを背負い、胸を張って歩く式部さん。
うーん、頼もしみがえぐい。
・・・ん?
後ろから見ていると、式部さんの戦闘服の袖口にキラリと光る何かが見えた。
なんだアレ?
棒手裏剣・・・にしては細いぞ。
鉄の串っぽいけど・・・
「(千本であります。自分の流派は手裏剣と言えばこれでして)」
俺の視線に何故か気付いた式部さんがぽそりと説明してくれた。
千本・・・棒手裏剣より細く長いやつだ。
確実に急所を狙わなければ、敵に有効打も与えられない代物。
ある程度の重さがある棒手裏剣や、刺さりやすい十字手裏剣と違ってさらに高い技術が求められる。
・・・アレを普段使いしている時点で、技量の高さがうかがえるな。
「(人間用であります。ゾンビは目を撃ち抜くのが一番早いので)」
・・・でしょうねー。
教会の正門までやってくると、門の内側に何人かいるのが見えてきた。
男女様々ではあるが、長袖長ズボンという服装と、プロテクターをその上から着込んでいる点が共通しているな。
戦闘要員かな?
見た感じ若い人が多いし。
武器は・・・何かの棒にナイフや包丁を固定したものと、マチェットか。
この街マチェット多すぎない?
どっかに専門店でもあったのかな。
どうやら見た所銃はないっぽい。
内部にはあるのかもしれないが。
「こんにちは。自分は御神楽高校から派遣された連絡要員の式部陸士長です」
そう言って式部さんは綺麗な敬礼をし、懐からカードを取り出した。
アレは・・・以前に神崎さんが持っていたものを同じか。
顔写真付きの身分証だな。
「あ・・・はい、あの、助けていただいてありがとうございます」
一番近くにいた若い男が、目を白黒させて答えている。
「いいえ。降りかかる火の粉を払っただけですから」
式部さんがにこりと笑うと、その男は顔を赤らめてだらしなく笑った。
同時に、後ろにいた女性の顔が険しくなる。
おいおい、見とれるのはいいけど現在進行形で仲間の好感度下がってるぞ、キミ。
「先日の件について、こちらの責任者の加倉井さんと半沢さんにお話をさせていただきたいのですが・・・入らせていただいても?」
・・・っていうか式部さんのあります口調が消し飛んでるんですけどォ!?
え、なにこの・・・なに?
まるで普通のお姉さんだ!
対外的にはああいう話し方になるのかな?
なんか違和感が凄い。
「あっはい!どうぞ!あの、お茶でもどうでしょうか!?」
「ふふ、ありがとうございます。優しいんですね」
ひええ・・・後ろの女性がもう公共の電波に乗せちゃいけないタイプの顔してるゥ・・・
これが式部さんなりの人心掌握術なのか?
まるで戦国時代のくノ一だ・・・
「いっいえ・・・ど、どうぞ!」
より一層顔を赤らめたその男は、門を開こうとして・・・俺を見て手を止めた。
「・・・そ、そちらの方は?」
うん、どう見ても自衛隊じゃないもんね俺。
物騒な武器をいくつも装備した不審者だもんね。
自衛隊はともかく、はいそうですかとは入れ辛いんだろう。
「ああ、彼は御神楽の協力者です。その身元は自分が保証しますから、大丈夫です」
「え、あ、で、でも・・・」
男の返答に、式部さんが一瞬殺気を放出したのがわかった。
沸点が低い!
「い、いいですよ式部さん・・・なんならホラ、俺バギーの番をしてますk」
「―――そうですか、それでは自分は帰らせていただきますね」
俺がフォローしようとすると、式部さんはとんでもないことを言い出した。
男も目を丸くしている。
「自分は彼に全幅の信頼を寄せていますし、御神楽としてもそうです。その彼を入れていただけないのでしたら、こちらは御神楽との協力を望んでいない、と、判断させていただきます」
口調は先程からの余所行き?だが、その声は冷たく、低い。
もろに殺気を当てられたその男は、あからさまに狼狽え始めた。
あの・・・式部さん・・・?
ちょっと・・・?
「先程の彼の行いをご覧になりましたか?ゾンビのほとんどを無力化したのは彼です。ある意味ここを救った彼を入場させないのは、何故です?我々が2人組だということはおわかりですか?」
「あ・・・え・・・」
「自分と彼は御神楽の責任者から正式に依頼を受けてここに来ています。そちらとしても昨日の時点で連絡要員が派遣されるというのはお聞きのはずですよね?」
「あぅ・・・」
もはや声すら出せない男に、式部さんが畳みかけていく。
なんか相手がかわいそうになってきた。
「じゃ、じゃあせめて武器を・・・その、こちらに預けて・・・」
「何故です?あなた方は彼が誰彼構わず武器を振り回すような人間だと?ここを救ったのに、ですか?」
あの・・・俺は問題ないんですけど。
後で返してくれるんだったら全然・・・
兜割と脇差を渡しても、拳銃と手裏剣はあるし・・・
っていうかアレですからね?向こうさん俺と初対面ですからね?
信頼もクソもないんですが・・・
可哀そうな男はもう半泣きである。
後方の集団もワタワタするばかりで助け船も出さない。
せめて助けてやれよ・・・
それにしても、なんで式部さんこんなに怒ってるの!?
もしかして結構本能で行動してます!?
式部さん式部さん、スコシオサエテ・・・
・・・なんか前にも神崎さんがこんな感じになったことあったな?
「―――入っていただきなさい」
すると、落ち着いた老人の声が聞こえた。
杖をついた老人が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
あの人は・・・
「身を挺してここを守ってくれた方々を、邪険にしてはいけないよ」
右足が悪いのか、少し引きずりながら歩く老人。
その優しそうな顔に、見覚えがあった。
幾分歳は取っているけど、間違いない。
バンダナを外し、ヘルメットを脱いで小脇に抱えた。
外気に晒された俺の顔を見て、門番たちが目を見開いて一歩下がった。
うん、傷まみれだもんね俺。
そりゃ怖いわ。
「半沢さん、ご無沙汰しています。多少傷は増えましたが・・・覚えてらっしゃいますか?」
そう言って頭を下げると、老人・・・半沢神父が目を丸くした。
「キミは・・・田中野くんじゃないか!無事だったのかい!?」
「ええ、なんとか。田宮十兵衛の末席の弟子、田中野一朗太です」
どうやら覚えてくれていたみたいだ。
ちょっと嬉しい。
「本当に懐かしいね。確か最後にウチに来てくれたのは3年ほど前だったかな?みんな!彼は私の恩人のお弟子さんだよ。危険はないからすぐに通してあげなさい、私が保証する」
「ありがとうございます」
鶴の一声ならぬ神父の一声というやつだろう。
呆気ないほど簡単に門は開かれ、俺達は入場を許された。
半沢さんは気持ち速足で俺たちの前に来る。
「若い者たちを許してやってくれないか。最近ここいらは本当に物騒でね・・・みんなピリピリしているんだよ」
「いいえ、気にしていません。こちらこそ大きな声を出してしまい、申し訳ありませんでした」
式部さんは申し訳なさそうに深々と頭を下げている。
「この状況下じゃ無理もないでしょう。あ、それで・・・武器、預けましょうか?」
俺が続けて言うと、半沢さんは苦笑いした。
攻撃でもされれば別だが、これくらいは大丈夫だ。
あの若い奴らはここを守りたいだけだろうし。
「ははは、田宮さんのお弟子さんなら素手でも大暴れできるだろう?いらないよ」
あのそれ後藤倫先輩だけの特徴っていうか・・・あ、七塚原先輩もできるな。
いやたぶん六帖先輩もできるな。
俺以外全員できるな?
「さ、教会にどうぞ。お茶くらいは出せるから」
そう言うと、半沢さんは俺たちを先導するように先に立って歩き始めた。
「(・・・申し訳ないであります。我を忘れかけたであります・・・)」
それに続きながら式部さんが呟くので、苦笑した。
「(いいですよ気にしなくて。行きましょ行きましょ)」
「ひゃん!?」
元気づけるように肩を叩くと、式部さんは小さく悲鳴を上げた。
しまった・・どうも助けた時の感覚で中学生扱いをしてしまう。
訴えないでください!!
「少し手狭で申し訳ないが・・・どうぞ、かけて」
門番たちを残し、3人で教会に入る。
その内部は、以前来た時と大分様変わりしていた。
ステンドグラスやらでっかい救世主様の十字架、それに壇なんかは変わらないが、あれほどあった長椅子が残らず撤去されている。
それがあった空間には、救難物資の段ボールが雑然と積まれ・・・普通のテーブルや椅子が並んでいた。
壁際には門番たちが持っていたような武器が並べられている。
バットに即席槍、鉄パイプに鉈やマチェット・・・やはり銃はないらしい。
隠しているんだろうか?
「では、お言葉に甘えて」
適当な席に腰を下ろす。
式部さんは俺の隣に腰かけた。
「少し待っていてくれないか、今からお茶を・・・」
「父さん!俺がやるから座ってて!」
半沢さんが動こうとすると、先程式部さんに睨まれていた男が慌てて奥へ走っていった。
父さん、だって?
え、神父さんって結婚して大丈夫だったんだっけか?
「ああ、あれは義理の息子・・・とでも言うのかな?ウチの孤児院出身の子なんだよ。好きに呼べばいいと言っていたら、みんなに父さんと呼ばれることになってねえ」
あー!なるほど!
そういえばあったあった。
こことは少し距離が離れてるけど孤児院が!
「何度かボランティアに顔を出しましたね、そう言えば。それじゃあ半沢さん、かなりの子だくさんですね?」
「はは、ありがたいことだね。最近では義理の孫やひ孫もいるんだよ」
「大家族どころか一族じゃないですか、いいですねえ」
半沢さんは恥ずかしそうに笑っている。
この人の人徳だろうなあ。
なんかこう、漫画や映画では優しそうな孤児院経営者って絶対裏の顔があるもんだけど・・・この人は違うと断言できる。
何故かって?
師匠と知り合いだからだよ。
あの爺さんが悪人と友達付き合いしたり、弟子を巻き込んでボランティアしたりするわけないじゃん。
判断基準が師匠なのは、俺がそういうのを全く察せないからだけどな。
・・・鍛治屋敷くらいわかりやすければさすがに察せるけどな。
式部さんはニコニコしながら嬉しそうに俺たちの話を聞いていた。
・・・あの、調査とかしなくてもいいんですか?
半沢さんと懐かしい話で盛り上がっていると、さっきの男がお茶を盆に載せて戻ってきた。
その後ろにも、もう1人いる。
「すみません、遅くなってしまって・・・少し畑をいじっていたものですから」
そう言って申し訳なさそうにしているのは、50代くらいに見える優しそうな女の人だ。
その言葉通り、体のあちこちに畑っぽい黒土が付着している。
ここにも畑があるのか・・・まあ、当たり前か。
生きていくなら生産せにゃならんし。
ここは大所帯っぽいしな。
調達だけでなんとかなる規模じゃないだろう、ここ。
「加倉井さん、先日はどうも。式部陸士長です」
式部さんが頭を下げる。
「あら、あなたは昨日会議室にいた方ですね」
・・・上層部との会議に混ざってたのか、式部さん。
やっぱりただの隊員じゃないな、うん。
わかってたけど。
「はい、昨日では詰め切れなかった話をさせていただきたいと思いまして」
「ありがたいわ。私たちはこの騒動からこっち、ほとんどここに籠っていたから・・・外の情報ならなんでも欲しいの」
加倉井さんはそう言い、お茶も飲まずに式部さんと話を始めた。
さて、こっからは俺の出番はないな。
お茶をいただこう・・・うまー。
パックじゃない紅茶なんて珍しいな。
斑鳩さんのに勝るとも劣らない味だ。
そんなに詳しくないけど、かなりいい物だろう。
式部さんたちの邪魔にならないように、俺は半沢さんと引き続き話そうかな。
「ここ、敷地広いですけど・・・人員は関係者ばっかりですか?」
そう聞くと、半沢さんは少し顔を曇らせた。
「うん、少しは近所の人たちもいるけどね・・・それ以外はもうほとんど・・・あの、ゾンビになってしまった」
ここ、人口密集してそうだもんなあ。
えらいことになったんだろう。
噛まれれば倍々式に増えるしな、ゾンビ。
鼠より質が悪い数の暴力だ。
「そうですか・・・お察しします」
「幸か不幸か、孤児院の子たちも職員も行事でこちらにいたからね。もしそうじゃなければ・・・考えたくもないな」
「ですねえ。俺の・・・詩谷の方はそれほどでもないですけど、龍宮じゃ人口も違いますし」
ここがなんとか避難所めいた状態に落ち着くまで、かなり大変だったんだろうなあ。
俺は初め1人だったから結構お気楽にやってこれたけど。
半沢さんは頷きながら紅茶を一口飲み、こう続けた。
「そうだね・・・、まさか近所の人たちがいきなりゾンビになるなんてね・・・」
・・・なに?
いきなりゾンビに?
それはわかるが、ほとんどだと?
「噛まれて、ゾンビになったんじゃないんですか?いきなり、何の前触れもなくほとんどが?」
「そうだよ。詩谷の方とは違うみたいだね・・・一体何が起こっているのか」
半沢さんは力なく笑った。
・・・なんかここだけゾンビ比率バグってるような気がする。
神崎さんが言ってた駐屯地も、せいぜいいきなり『変わった』のは半数くらいだったはずだ。
なんでそんなに偏ってるんだ、ここ。
ううむ、わからん。
この騒動が始まってから、わからんことだらけだ。
多少わかっても、その都度謎が増えていく気がする・・・
「そうだ、田宮さんとは会ったかい?もちろん無事だとは思うけど」
・・・この人も安否を気にしないタイプの人だった!
まあわかるけどさ。
何度も言ったが、あの化け物か物の怪みたいな師匠がゾンビごときにどうこうされるわけがないのだ。
「いえ、俺も北の方まではまだ足が伸ばせていなくて・・・でもまあ、師匠のことだから大丈夫でしょう」
やっとこさ中心地に入れたくらいだもん。
その先は未だ未知の領域だ。
ゲームで言うと、地図が灰色とかになっているエリアだ。
「そうかい・・・まあ、田宮さんは元気だろうけど」
俺もそう思う。
出された手作りクッキー的なものに手を伸ばそうとして、視線に気付く。
教会の入り口を見ると、何人かの子供たちがこちらを覗きこんでいた。
小学生から中学生ぐらいの子供たちだ。
その目に敵意はなく、純粋な好奇心を感じる。
外から来る客なんて珍しいんだろう。
目が合ったので手を振ると、小さい子たちが一斉に物陰に隠れた。
凄い速さだ!かくれんぼでは無敗に違いない。
「ああすまない・・・あの子たちは人見知りでね」
「いやいや、自分の人相が悪いってのは重々承知ですから」
我ながら迫力のある顔面してるしな。
「・・・やっぱり」
隠れた小さい子たちをあやしながらこっちを見ていた中学生くらいの男の子が呟いた。
どうしたんだろう?
それが呼び水のように、その周りの同年代っぽい子たちも口々に呟いた。
「田宮のお爺ちゃんに投げ飛ばされてた人だ!」
「ちっちゃいお姉さんに関節技かけられてた人だ!」
「ライオンみたいな頭の人に振り回されてた人だ!」
「六帖せんせーに気絶させられてたおにいさんだ!」
・・・よく覚えてるなあ!
余興でやった演武のことをよお!
しかも俺が負けたところばっかり!!
負けてばっかりじゃねえか俺!!!
「おや、随分な人気だねえ」
人気・・・人気かな?
「田宮さんや六帖くんはよく来てくれたからね、あの頃の子供たちはよく覚えているよ」
師匠は無償出稽古。
六帖先輩は・・・なんだろう、ボランティア講師とかかな?
確かそんな活動してるってどっかで聞いた気がする。
あの人も大学の仕事あるのにフットワーク軽いよな。
お兄さんお姉さんが俺と顔見知りだと知って安心したのか、子供たちが教会に入ってきた。
「おじちゃん、あそぼー」「暇なのー」「ねーねー」
どの子たちの表情にも、暗い影はない。
・・・どうやらこの避難所はまともに運営されているようだ。
「こらこら、この人はお仕事でここに来たんだよ。迷惑をかけちゃいけないよ」
そう半沢さんは言うが、ぶっちゃけここでの仕事はもうないに等しい。
専門的なことは式部さんに丸投げしたし。
「いいんですよ半沢さん。俺は・・・うーん、護衛?みたいなもんですから」
「そうかい。南雲流の護衛付きなら安心してどこへでも行けるね」
「はははご冗談を・・・ちょっと遊んできていいですか?座りっぱなしだと体が鈍っちゃって」
「勿論いいけれど・・・うん、悪いねえ」
お許しも出たので、子供たちに向き直る。
人数は・・・10人ってところか。
「ようみんな、おじさんは田中野って言うんだ。さて・・・何して遊ぶ?」
そう声をかけると、子供たちは顔をぱっと輝かせた。
「やきゅう!」「サッカー!」「すもう!」「らぐびー!」
「オーケーわかったとりあえず話し合いだな」
立ち上がる俺に纏わりつく子供たちに苦笑しながら、外へ向かって歩き出した。
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「まあまあ、子供たちったらあんなに嬉しそうに・・・悪いわねぇ」
「田宮さんの弟子はみんな子供好きだからねえ、師匠からしてそうなんだから。・・・子供たちもそういうのを感じるんだろう」
「ええ!いちろ・・・田中野さんは素晴らしい方ですから!」
「・・・そのようだねえ」
「ふふ、本当に」
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「お疲れ様であります」
「いやあ・・・どうも・・・お話終わりました?」
「はい!有意義な情報交換となりました!ここの避難所は優良協力先となりそうであります!・・・大丈夫でありますか?」
周囲に人がいないからか、あります口調に戻った式部さんが話しかけてきた。
閉鎖空間に閉じ込められてフラストレーションが溜まりに溜まっていた子供たちと遊び倒した俺は、庭のベンチに腰かけて煙草を喫っている。
いやあ、三角ベースに八の字、手つなぎ鬼に天下・・・久しぶりに小学校時代の遊びをやりまくったから疲れた。
子供たちは夕飯の準備があるからと、名残惜しそうに去って行った。
「黒ゾンビを相手にするより疲れますよ」
「ふふぅふ、で、ありますか」
ベンチに腰かけた式部さんが、どこからか缶コーヒーを手渡してきた。
「無糖ですが」
「ありがとうございます、むしろそれがベストですよ」
甘いコーヒーってなんか苦手なんだよな。
甘いのが飲みたきゃココアにするし。
式部さんにお礼を言って受け取り、プルタブを開けた。
「で、どうですかここは?」
「・・・あの外壁ならば、特異個体以外には問題なく対処できるであります。追加で有刺鉄線と電流をアドバイスしておいたであります」
「ですよねえ。銃があればもっといいんですけどねえ」
「銃には抵抗があるご様子でしたが、襲撃者の件もあるので使用を強く推奨しておいたでありますよ」
流石式部さん。
ここの弱点を即見抜いていたか。
「一朗太さんもお聞きになったと思いますが、ここ周辺の住人は何故かほぼ全てが一斉にゾンビ化したであります。危険ですが、その分人間にを気にする必要は今のところないであります」
「確かに、それは不幸中の幸いですね」
頭ゾンビな人間より、ノーマルゾンビの方が楽に処理できるしな。
特に防衛については。
この前の御神楽みたいに、内部に入り込んで崩壊を狙う・・・ってのはやってこないし、ゾンビは。
「この先の商店街に、銃器販売店があります。そこの場所を教えておいたであります」
「俺が行って調達してきてもいいですけど?」
半沢さんは知らない間柄じゃないし、別にいいけど。
「駄目であります。できる人員がいるならそちらにやってもらうであります・・・一朗太さんはちょっと、いやかなり優しすぎるであります」
言葉の刃がカウンターで俺のメンタルに!!
「もっとご自分を大切になさるべきであります!一朗太さんは高柳運送のことと、ご自分の安全を第一にお考えになるべきであります!」
神崎さんみたいなこと言うじゃんこの人・・・
「ぎゃふん」
「ふふぅふ、さて・・・今日の所はここでの仕事は終わりであります。本当にありがとうございました」
どうやらこことは連絡を取り合う程度の関係になりそうだな。
自分のことは自分でできる大人組はどうでもいいが・・・子供たちと半沢さんには安全に過ごしてもらいたい。
「しかしドライブも終わりでありますかー、名残惜しいでありますなあ」
外出は気分転換にもなるしなあ。
ちょっと外が物騒すぎるけども。
「じゃあ帰りにコンビニにでも寄りますか?ちょっと煙草の在庫が心もとなくて」
「行くであります!行きまくるであります!!」
急にテンションの上がった式部さんを見つつ、俺は短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けた




