104話 心の刃を研ぐこと
心の刃を研ぐこと
『あ、そっちにも来たんだねゾンビ配達。こっちもだよ』
いつものように、あっけらかんとした声が通信機から聞こえる。
古保利さんだ。
「そちらもですか、三等陸佐」
『うん、いきなりできの悪い偽物トラックで正門前に乗り付けて来てさあ。コンテナ下ろして逃げてったよ』
あちらにもか・・・
俺は、神崎さんの後ろで腕を組みながらその話を聞いている。
出前白黒ゾンビを片付けた後、神崎さんはすぐに各方面へ連絡をした。
その結果、どうやら御神楽にも同じ手合いが出没したらしいことが分かったのだ。
「それで、そちらの被害は・・・」
『例の新装備が功を奏してね、死者並びに新たなゾンビは無し。20名重軽症ってところかな・・・、ま、生きてるだけで丸儲けってやつだね』
こともなげに言うが、結構な大惨事だと思うの。
新装備・・・前にライアンさんが着込んでた鎧のことだろうか。
『田中野くんもそこにいるんでしょ?そっちはどうやって倒したの?』
神崎さんが、通信機をこちらに渡してくる。
「あー、こっちはバカでかい剣みたいなの持ってるやつだったんですけど・・・七塚原先輩が押さえてる間に、俺が足首へし折って・・・その後脳天を粉々にしました、八尺棒で」
前よりは安定した戦いができたと思う。
ま、七塚原先輩ありきの戦法だけどな。
『・・・いいなあ、南雲流。こっちにも何人か弟子がいればなあ・・・もしくは田宮先生本人』
疲れ切った様子の古保利さん。
弟子といっても、残りの六帖先輩は県外だし・・・師匠は目下何してるかわからんしな。
両方生きてはいると思うが。
「ははは、それでそちらはどうやったんです?」
『前にライアン軍曹が付けてた装甲知ってるでしょ?アレ着た全員で円状に囲んでひたすら銃撃・・・アレなら跳弾でも怪我しないし』
おお、やはりあれか。
壮観だろうなあ・・・パワードスーツ部隊とかかっこいい。
・・・まあ、パワー源は筋力なので誰にでも着れるようなものではないが。
俺は無理だ。
七塚原先輩なら大丈夫だろうが・・・
『あ、そうそう・・・簡易的な電撃装備も試したんだよ』
お!ついに実用化されたのか!
「そりゃすごい!・・・で、どうでした?」
『・・・まずね、使用できる近距離に近付くまでに6人吹っ飛ばされたよ。で、実際に使用した結果・・・効果はアリ』
ああ・・・そうか、スタンガン的なものだもんな。
至近距離まで近付くリスクはあるか。
『だけど即死?はしなかったね。明らかに動きは鈍ったけど・・・結局活動停止までに至近距離から大分ぶち込んだよ』
ふむ・・・白黒は脳内の虫?の防御力も上がってるのか?
それでも、これで多少は楽になったはずだ。
「もっとこう・・・電圧的なものを強力にすればいいのかもしれませんね」
『ま、現状でも十分武器にはなるよ。テイザー銃とかあればよかったんだけどねえ』
あ、ニュースかなんかで見たことあるぞ。
電極を飛ばして使う、遠距離スタンガンだったかな?
確かに便利そうだ。
「しかし・・・今回のデリバリー、やっぱ鍛治屋敷が絡んでるんでしょうかね」
『だろうね。っていうか心当たりはそこだけだ・・・それ以外がいるとは考えたくないよ、僕は』
俺もそうだ。
あんなのが他にもいるとか・・・考えただけで寒気がする。
・・・いないよな?
こっちはもうお腹いっぱいなんだよ!
『あ、ちなみにこっちの白黒はアレだよ、両手が斧になってた。デッカイやつ』
・・・何それ恐ろしい!
『外壁がぶっ壊されちゃったよハハハ。音で他のゾンビまで寄って来るしさ、もう大変』
全然大変そうじゃないが、実際大変すぎるぞソレ。
うちは壁が水路で隔てられててよかった・・・
直すのも大変そうだしな。
『ま、とりあえずお互い無事でよかった・・・あ、それと』
仕切り直すような調子の古保利さん。
おいおい、まだ何かあるのかよ・・・もう嫌ですぞ拙者は。
『『みらいの家』襲撃なんだけどさ、来週とかどう?来れそう?』
・・・一瞬、何を言われたのかわからんかった。
襲撃?襲撃って・・・襲撃だよな?
襲撃・・・うん、理論は知ってる。
「・・・バイトの面接じゃないんですから!!!!」
『はははは』
俺は、苦し紛れにそう突っ込むことしかできなかった。
「実感がわかんなあ・・・どうだソラ」
「みぃい」
「面倒だし嫌だしやりたくないけど・・・枕を高くして寝るためには仕方なかろうなあ」
「まぁお!みぃいぁ!!」
「・・・飯の時間にはまだ早いぞ」
「んみぃい!めぇおぉう!!」
いつもの屋上。
俺は、腹の上にソラを乗せて寝転がっている。
しっかりと栄養のあるミルクを子供たちが与えただけあって、ソラはぐんぐん大きくなっている。
今にも飢えて死にそうなファーストコンタクト時の面影は、もうない。
活発な性格らしく、社屋内を毎日大冒険している。
今は出せるのは庭までだなあ。
サクラと違って、迷子になったらたぶん帰れないだろう。
小さな可愛い爪で、俺のベストをばりばりといじっている。
「おいおい、爪研ぎはだーめ」
「んみぃい!!」
釣り用で頑丈とはいえ、ビリビリにされそうだ。
首根っこを掴んで持ち上げると、空中でジタバタ暴れている。
なにしてもかわいいってのは、動物の子も人間も一緒か。
「来週かあ・・・武器、用意しとかんとなあ」
ばたつくソラを再び腹に戻すと、今度はモソモソとベストの隙間に潜り込まれた。
はは、くすぐったい。
「大木くんに爆弾頼まなきゃ・・・あ、いや室内戦だから下手したら俺が死ぬな」
ベストの隙間から首だけを出し、ソラが大きく口を開けて欠伸をした。
サクラもよくやってたなあ、それ。
最近はデカくなってきたからあんまやらんけども。
先程の通信は、襲撃の決行日を決めたというものだった。
現在、龍宮市中心部にある『みらいの家』本部。
24時間体制で見張られているが、今に至るまで一切の動きを見せていないらしい。
死に絶えでもしてくれたら楽なんだが、ガラス越しに生きた人間・・・信者が動いているのは確認できるそうだ。
が、奴らは全く外部へ出ていないそうだ。
あそこ・・・『龍宮コミュニティセンター』だ。
地上12階、地下3階。
目の前には広い公園を有する、我が県でも屈指の広さを誇る建物である。
普段はなんかよくわからん会議とか・・・あと、なんちゃらサミットの会場にもなってたなあ。
「立派な要塞に仕立ててくれちゃってまあ・・・」
古保利さんからの通信では、外部が大分様変わりしているらしい。
本拠地の建物からぐるりと、高さ3メートルほどの有刺鉄線で公園を囲っているらしい。
しかもその公園の敷地内には・・・番犬のつもりか、多数の黒ゾンビが確認されている。
偵察隊の目の前で、ノーマルゾンビが共食いを繰り返してそうなった、らしい。
そして・・・肝心の建物内部は全くの未知数。
御神楽高校に残されていたパンフレットによると、屋上には大量のソーラーパネルがあり、さらに風力発電機も完備。
緊急時用の発電機も多数、大浴場もあるらしい。
食料については・・・屋上に植物園のような施設があるらしいので、そこで育てているのかもしれない。
そしてなにより、あそこ元々は龍宮市でも最も大規模な避難所の一つでもある。
備蓄食料も、かなりの数が残されていただろう。
あいつらのことだ、元々いた職員さんは多分皆殺しにされていることだろうし。
・・・ふうむ、籠城には最適の場所だな。
前に古保利さんが言っていた通り、内部にどんな爆発物があるかわからないので砲撃は無理だ。
鍛治屋敷が噛んでいる以上、カミさん手製の爆薬が山ほどありそうだ。
そんなもんが爆発すれば、近隣のゾンビも押し寄せていくるだろう。
なんたってあそこは、間違いなくわが県において人口が最も多い区域だ。
いかに百戦錬磨の兵士たちとて、その物量には耐えきれなかろう。
撃てばなくなる銃弾と違って、あっちは無尽蔵の体力があるしなあ。
と、いうわけで。
作戦としては正面から大部隊で侵攻すると同時に、背後から最精鋭で構成された小規模部隊を送り込むとのこと。
御神楽の避難民の中に、コミュニティセンターの保守点検をしていた人がいるらしく、その人からの情報を元にしたそうだ。
なんでも、有事の際に避難できるように地下通路があるそうだ。
本来は政治家の避難通路らしい。
精鋭部隊はそこを通り、施設の地下3階に潜入。
正面の部隊が陽動している間に内部で大暴れし、二方面から攻勢を仕掛ける・・・そうだ。
・・・なんだかいつかの市民ホールを思い出すな。
なお、俺たち南雲流は当然ながら地下侵入組である。
ま、当然か。
正面の方にいても役に立たないからね、しょうがないね。
『前にも言ったけど、僕は使えるものは何でも使う性分だから。キミたちがいいなら、思う存分助太刀してもらうよ』
古保利さんはそう言ったが、俺たちとしてはこちらから頼んで参加したいくらいだ。
この地上からあの胸糞悪い集団を消滅させられるなら、喜んで参加する。
八尺鏡野さんは、相変わらず民間人を参加させる件について難色を示していたそうだけど・・・
『ここだけの話ね。八尺鏡野警視は大層優しい方だからね・・・矢面に立つのは自分たちだけでいいって考え方なんだ。これ内緒ね?バレたら僕ハンバーグにされちゃうから』
とのことである。
うん、なんとなくわかる。
というわけで・・・明後日に御神楽に集合し、作戦の最終確認を行うことになった。
「とりあえず今日はお休み・・・お前はとっくにお休みか」
頭の中を整理するために考え事をしていたら、ベストの中でソラがお昼寝の体勢へと移行した。
うんうん、寝る子は育つ。
サクラもよく寝てたもんなあ。
「わふ」
噂をすればシャドウ、サクラが階段を上がってこっちへ来た。
「おうサクラ、どうだ?一緒に昼寝と洒落こまないか?」
「きゅん!」
サクラは寝転んだ俺に駆け寄ると、俺の上に乗・・・ろうとしてソラを発見、広げた腕の上に伏せた。
かしこい。
「今度の大規模ゴミ掃除が終わったらいっぱい遊ぼうな・・・また釣りにでも行くか?」
「ひゃふ!」
サクラを撫でながらソラを・・・じゃない空を見上げる。
胸と腕に感じる人間より高い体温。
俺の瞼はあっという間に激重になり・・・すぐに眠気が襲ってきた。
今日は何もない日だし、ゆっくりしよう。
「ふあぁあ~~~~、よく寝tうおっ」
夢も見ずにぐっすり寝て清々しい気分で目覚めた瞬間、周囲の状況に気付く。
「お、屋上が・・・テーマパークに」
寝起きなので自分でも何を言っているのかわからん。
俺の周囲には、子供たちが転がって寝息を立てている。
どういう状況だ、これ。
おっと、起こさないようにしないとな。
「むにゃふ・・・うふふぅ、むーさぁん・・・」
子供だけじゃなかった!
ちょいと離れた場所では、七塚原夫妻が幸せそうに眠っている。
俺の丁度横では、葵ちゃんがサクラを抱きしめてスヤスヤと寝息を立てていた。
その横には豪快な寝相を披露している璃子ちゃんもいる。
反対側では、眠るカイトの胸の上でソラが大の字になっている。
いつの間に移動を・・・
「パパぁ・・・」
何か幸せな夢でも見ているんだろう。
そう呟く葵ちゃんの頭をそっと撫で、俺は皆を起こさないように気を付けながら忍び足で移動した。
「あら、もう起きられたんですか?」
1階まで下りると、斑鳩さんと神崎さんが優雅にお茶を楽しんでいた。
「ええ、あの・・・屋上のアレは?」
流れるように俺にもお茶が提供される。
うっま。
紅茶もいいな・・・
「璃子が起こしに行って・・・そのまま寝ちゃって、その後様子を見に来た子供たちも・・・という状態ですね」
斑鳩さんがまるで子供でも見るように俺を見て微笑んでいる。
ミイラ取りがミイラに・・・!
まあ、最初のミイラは蘇ったようだが。
「田中野さんは本当に幸せそうに眠りますから」
神崎さんも笑っている。
俺そんなにアホみたいな顔で寝てるんですかいっつも・・・
「ま、今日は天気もいいし・・・しばらく寝かせてあげましょうかね」
「ええ、そうしましょう」
クッキーを俺にすすめながら、斑鳩さんは感慨深そうに呟いた。
「本当に・・・ここの子供たちを見ていると、今外が大変なことになっているのを忘れてしまいそうです。みんな、幸せそうで」
確かに。
子供たち、最近は随分リラックスしてくれているようだ。
はじめは大変だったが・・・その心の傷が少しでも癒えてくれるといいな。
「今更ですけど、ここに拾ってもらってよかった・・・お二人とも、重ね重ねありがとうございます」
斑鳩さんは、そう言うと深々と頭を下げた。
「あの時にここにたどり着けなかったらと思うと・・・」
「いやいやいや、それは斑鳩さんがここまで逃げてこれたからですよ」
「そうです!璃子ちゃんのために頑張ったから逃げてこれたわけですし・・・」
俺と神崎さんは慌てて言った。
ううむ・・・背中がこそばゆい。
俺は行き当たりばったりでやってるだけなんだからなあ。
「それに、神崎さんがいなかったら俺なんてとてもとてもイタァイ!!!!」
神崎さん!急な脇腹抓りはおやめください!!
「・・・田中野さぁん?」
コワイ!目がコワイ!!
「いやぁ!あれですね!2人で頑張った甲斐がありましたよねェ!神崎さぁん!!」
「そ!そそそそうですよ!そうですよ田中野さん!!」
えっなんでそっちがキョドるの!?
さっきまで怒っていたのが嘘のようだぞ神崎さん。
「ふふふ・・・やっぱり、ここへ来れてよかったです」
斑鳩さんは、そんな俺たちを楽しそうに見ていた。
・・・釈然としねえ!
しばし後、来週の作戦について斑鳩さんにも話す。
「ここの防衛はお任せください、しっかりと留守番、してますね!」
斑鳩さんからは頼もしい返事が返ってきた。
・・・確かに、斑鳩さんの射撃の腕前はすごい・・・らしい。
遠距離狙撃に関しては、神崎さんが太鼓判を押すレベルだ。
『猟師の経験でしょうか・・・狙いを付ける才能が凄まじいです。集中力もいいですし』
流石猟師さん・・・じゃない!
翻訳家だった!
「お願いします。秋月からも応援が来てくれますし」
神崎さんがそう言っている。
お、またチェイスくんたちが来るのかな?
子供たちも喜びそうだ。
「私は当然!行きますが・・・よろしいですよね?」
やたら『当然』に力を入れながら神崎さんが俺を見てくる。
「いや・・・当然でしょう?相棒じゃないですか」
何を今更。
行ける時には一緒に突っ込むって約束したじゃないか。
「よい心がけですね!とても!いいです!」
満面の笑みの神崎さんである。
すっげえ嬉しそう。
そんな俺たちを、斑鳩さんは微笑ましそうに見つめていた。
・・・なんかあれだな、死んだ婆ちゃんを思い出す目線だな。
「あーっ!おじさんたちだけオヤツ食べてるぅ!」
起きたのか、璃子ちゃんがやって来た。
「あら、もういい時間ね・・・璃子、子供たちを起こしたらオヤツにしましょう。今日はクッキーをたっくさん焼いたのよ?」
「わーい!ママのクッキー大好きっ!!」
璃子ちゃんはダッシュで屋上へ向かって行った。
・・・おいしいと思ったらこれ、手作りだったのか。
斑鳩さん、才能がマルチすぎる不具合。
八尺鏡野さんとは別方面で、デキる女だなあ。
「クッキーと聞いて」
(人間を素手で解体)デキる女後藤倫先輩もやって来た。
神出鬼没であるなあ。
「ちょいあ」
「ぃぎ!?」
脇腹に貫き手はやめていただきたいっ!!
何が気に入らなかったんや!!
「お、ついに突撃ですね・・・悪は滅んだ!」
「滅んでないってば」
起きた子共たちがオヤツを食べ終わったころ、ふらりと大木くんがやって来た。
今日は詩谷まで行ってきたようだ。
満喫しているなあ。
手土産というか、実家に生えてたというサニーレタスをどっさり持って帰ってくれていた。
おおお・・・ついに実ったか!
早速晩御飯にしよう!!
そのまま齧りたいけども!
というわけで、駐車場に腰かけて無駄話に勤しんでいる。
「防衛は任せてくださいよ!爆弾むっちゃ作っときますんで!」
「・・・帰ってきたらここも吹き飛んでました。みたいなことにはならんようにな」
「南雲流総出でミンチにされそうなのでそこは空気読みますってば」
いや・・・空気とかそういうのじゃないと思うけど・・・まあいいけど。
「それで、すまないんだけど・・・前にもらった金属片がバーッて出る爆弾、もう少し貰える?お礼はするよ」
「え、あんなもんでいいんですか?あれそんなに威力ないですよ?」
「威力あったらビルごと俺が死ぬだろ」
「あっそっかあ・・・」
なんか微妙に抜けてるんだよな大木くん。
俺が言えることじゃないんだけど。
「ふうむ・・・アレって結構作るのめんどいんですよねえ」
あら、そうなのか。
それじゃああまり多くは頼めないな・・・
「100個くらいで勘弁してくれませんか?」
「キミは俺を〇ュワちゃんかなんかだと思ってるのか」
持っていけるわけないだろそんな数!
十分すぎるわい!!
「了解でーす・・・頑張ってくださいよ田中野さん、これで龍宮も少し綺麗になりますね!」
「だといいなあ・・・」
まだまだいそうだな、変なやつら。
「ま、我ら南雲流も異常といえば異常なんだがね」
「自覚あったんすね・・・」
「キミもだぞ」
「それはそうでしょ」
・・・お、おう。
まあ、自己分析は正確にできていて安心するな、お互い。
「ぶっちゃけここにいる分にはある程度平和ですからね・・・田舎最高!!僕は世界がまともに戻るまで引き籠りますよ~!」
「わふふ」
「いらっしゃいサクラちゃん!ほーら高い高いー!」
「わん!わん!」
きゃいきゃい騒いでいる俺たちにサクラが寄って来た。
大木くんのノリノリ高い高いによって、大層嬉しそうにしている。
・・・ここはいい。
頼れる仲間、可愛い動物、元気な子供たち。
この生活を守るためなら・・・そりゃあ敵は叩いて砕くさ。
俺がやらなくても誰かやるだろうが・・・しかし、これは俺がやらねばならん。
そう思って、俺は静かに拳を握りしめた。
「・・・田中野さんがたまにやるそのすっげえ怖い目、子供が見たら泣きますからね。トラウマもんですよそれ・・・気を付けてくださいね」
「・・・おう」
・・・それキミが言う!?
そんなこんなで一日は過ぎ・・・
何故か深夜に目が覚めた。
傍らのサクラは、丸まってスピスピ熟睡中である。
寝ようと思ったが、何やら寝付けない。
別に明日早起きする用事もないので、夜更かしでもしようか。
サクラを起こさないように、そうっとベッドから出た。
兜割を抱えて屋上に出る。
満点の星空の下で、俺は深夜の稽古をすることにした。
・・・さすがにこの時間なら誰も来ないだろう。
・・・来ないよな?
そうっと振り返るも、人の気配はない。
・・・ふう、杞憂だった。
「鍛治屋敷・・・出てくるかな」
ふと、気になる。
『みらいの家』と奴は協力関係にあるっぽいが・・・襲撃の時に横槍を入れられると面倒だな。
「いや、ないな」
考えて、否定する。
「正々堂々・・・ではないけど、奴は出てこない」
奴は、南雲流に強い恨みを持っている。
そんな奴が、わちゃわちゃ乱戦している最中に挑んでくるわけがない。
俺たちを殺すことを、他の誰かの尻馬に乗ってやるようなタマじゃなかろう。
自分の手で、徹頭徹尾息の根を止める。
奴の根幹には、恐らくそういう思いがあることだろう。
・・・違ってたら、それはそれだ。
乱戦であろうと果し合いであろうと、奴の始末は俺がつける。
あんな全方位愉快快楽殺人魔が闊歩しているなんて、子供たちの未来に・・・ひいては俺の未来にも支障が出るし。
「しかし、とりあえず今は・・・」
びゅん、と夜の空気を兜割が切り裂く。
「『みらいの家』・・・だ、な!」
振り下ろしから斬り上げに繋げつつ、俺はそう呟いた。
その後のことであるが。
しばらく稽古していた所、物音に気付いた神崎さんに見つかってしまった。
『気合があるのはいいことですが、休養はしっかりと取ってください』
という小言に、俺はすいませんと頭を下げることしかできなかった。
※次回投稿、1週間程度空きます。
申し訳ありません。
このメッセージは、次回が投稿され次第削除いたします。
エタるつもりはありませんので、これからも無職マンをなにとぞよろしくお願いいたします!




