102話 糖分過多と報告のこと
糖分過多と報告のこと
襲撃者の群れを成仏させ、森山さんがダッシュで図書館に走り出してすぐ。
「も、森山さ・・・森山さぁんっ!!」
その裏手にある入り口から、鷹目さんが飛び出してきた。
その体には、目立った傷はない。
返す返すもよかった・・・攻め込まれる前で。
俺たちも、ちっとは役に立ったかな。
「あああっ!!た、鷹目さぁああああああああん!!!!」
森山さんは、その姿を見てもう一段加速した。
・・・ん?
・・・んん!?
「ライアンさん、森山さんケガしてません?」
「オゥ!?」
鷹目さんに向かっていくその後ろ姿。
左腕の上腕部に、何やら血の跡が見える。
森山さんはライアンさんの後ろにいたはずだから・・・跳弾か何かだろうか?
もっとも、あの走りようを見れば・・・大したことはなさそうだけど。
「鷹目さぁん!」「森山・・・さぁん!!」
2人は、いまだに焦げ臭さの漂う空気の中で・・・まるで体当たりでもするように勢いよく抱き合った。
・・・ここに神崎さんがいれば、きっとそのお目目はキラキラしていたであろう光景だ。
巴さんとかもそうだろうなあ。
2人は抱き合ったまま何やら話し込んでいる。
涙を流しているらしい鷹目さんの目元を、何度も何度も指でぬぐう森山さんが見える。
・・・怪我は大丈夫そうだし、あのままそっとしておいてあげよう。
積もる話もあるだろうしな。
「うんうん、仲良きことは美しき哉・・・これにて、一件落着!」
「本日ハ晴天ナリ!!HAHAHA!!!」
・・・相変わらずこの人は変な言葉ばっかり詳しいなあ。
オブライエンさんもそうだけどさ。
「さーて・・・これからどうしましょっ!?ライアンさん大丈夫なんですかそれ!?」
まじまじと見ると、彼の全身を覆う装甲板には弾痕が所狭しと刻まれている。
これ、貫通とかしてないよな!?
「ノープロブレム!アーマーは無事デス!シカモ下にbulletproof vest・・・アー、ボウダン?ベスト着てます!!」
この上防弾ベストだとォ!?
・・・ちょっとしたバイクくらいの重さはありそうだな。
「デモ少しツカレマシタ!」
そう言うと、ライアンさんは何やらアーマーの中に手を入れてゴソゴソ。
すると、金具の外れるような音がして装甲板がガシャンガシャンと地面に落ちる。
・・・キャストオフ!キャストオフじゃないか!!
これをするためだけに着たいくらいカッコいいな!
「ま、後はここの人たちに任せて休憩しますか・・・ふぃ~・・・」
適当なベンチに腰を下ろし、懐から新しい煙草を取り出す。
横に座ったライアンさんにも、1本すすめる。
「サンクス、センセイ!」
嬉しそうに煙草を咥え、火を点けるライアンさん。
俺たちは、しばし並んで紫煙を空に吐き出すことにした。
なんにせよ、怪我人が出なくてよかったなあ・・・あ、森山さんは別として。
ぶっつけ本番に近い作戦だったが、うまくいってよかった。
「お、うまそうなもん喫ってるじゃないの・・・おじさんにも分けてよ」
気が付くと、いつの間にか太田さんが至近距離まで近付いてきた。
・・・いつの間に。
「太田さん、お疲れ様です。どうぞどうぞ・・・」
俺から煙草を受け取ると、太田さんは隣のベンチにどっかりと腰を下ろした。
「ふぅ~・・・美味いなあ。田中野くん、それに・・・御神楽の駐留軍の人かな?なんにせよ助かったよ、膠着状態だったもんでさあ」
本当に美味しそうに煙を吐き、太田さんは頭をガシガシ掻いた。
「援軍は無理だろうなあ、って思いながらそっちに報告したけど・・・思いのほかすげえのがきたね」
「いやいや・・・あの状態ならいつかは勝ててましたよ、たぶん。そんなに腕が立つのはいなかったですしね」
俺がそう返すと、太田さんは苦笑いした。
「銃持ち相手に接近戦を仕掛ける人の評価はあてにならんなあ・・・横から出てきた時、一瞬田宮先生が助っ人に来たのかって勘違いしちゃったよ」
「はっは、師匠なら1人で全員殺してますね」
それも真正面からな。
「冗談に聞こえないねえ・・・ま、田宮先生だからな」
ドラゴンとタイマンして斬り捨てました・・・なんて言われても信じるぞ俺は。
「あ、そういえば・・・最後の槍投げ、ありがとうございます。モンドのおっちゃんから聞いてたけど、凄い槍の使い手ですねえ」
ほぼ一直線に首に突き刺さってたからな。
恐るべき命中精度だ。
「ははは、アレは槍術の技じゃないよ。学生時代は槍投げをやっててね・・・そっちの経験さ」
マジか。
・・・よくよく考えてみればしっくりくるなあ。
「ところで、六帖くんは元気かい?」
「え、ご存じなんですか?」
南雲流槍術部門代表じゃないか。
「彼とはよく他流試合したからねえ・・・6対4で勝ち越してるけど、追い上げられつつあるからなあ」
・・・はいはい、この人もやっぱバケモンですね。
俺なんかいまだに勝ったことねえのに、六帖先輩には。
「最後に会ったのは1年前ですね。この騒動が起こってからは・・・」
前職時代に、出張先でバッタリ会ったのだ。
酷く疲れた様子の俺を見て、腹いっぱい飯を奢ってくれたっけな。
懐かしい。
今や何十年も前のことのようだ。
「ああ、そうかそうか・・・彼、他府県で働いてるもんね」
助教授の仕事は忙しいらしく、中々こっちに帰れない・・・なんて、会ったときにボヤいてたな。
「ま、元気だろうけどさ」
「ですねえ」
俺たちは、ほぼ同時に笑った。
師匠直々に免許皆伝を言い渡されたのだ、先輩は。
そんな人がゾンビや暴徒ごときにどうこうされるとは思えない。
俺でも生き残ってるんだし。
「上から見てたけど、インタビュー相手残しててくれてありがとねえ。適当に治療して尋問するわ」
「あ、じゃあ後で内容教えてくれます?俺の口からも報告したいんで」
色々気になること言ってたしな。
「たぶん、アイツらって誰かに唆されてるみたいですし」
「・・・だろうね」
『こんなはずじゃ』みたいなこと叫んでたし。
しかし、太田さんも気付いていたのか。
「威勢はよかったけどね・・・あのバスの加工技術と、稚拙な襲撃方法のバランスが取れてないしねえ」
そう言われて、装甲バスを見る。
・・・確かに、そうかもしれん。
鉄板は溶接をしたみたいに綺麗に張り付いているし、よく見れば窓に小さい銃眼も見える。
あそこを使っていれば、もう少し戦えたかもしれんのに・・・アイツらは外で戦った。
作成者=襲撃者なら、そんなことはあり得ない。
「ゾンビも寄ってこないようだけど・・・ま、上でくつろいでてよ。煙草、ご馳走様」
太田さんはそう言って、ゆるりと立ち上がった。
これから尋問かな?
「ま、労せずして使い勝手のよさそうなバスが手に入ったのは僥倖かn」
「は、初めて・・・初めて県の!射撃大会で!見た時から・・・あなたを、愛していますっ!!!!!」
・・・何事か言いかけた太田さんの発言を、森山さんのバカでかい声が遮った。
そういうとこは弟そっくりですね・・・
視線を向けると、相変わらず抱き合ったままだ。
お熱いこって。
「ちっ!ちがいますから!私の方が先に!好きになったんですから!!」
負けじと鷹目さんが叫び返している。
・・・なんのマウントなんだ、なんの。
空気まで甘くなってきたような気がする。
周囲の警官たちの視線を独り占めしながらも、お互いはお互いしか見えていないようだ。
・・・まあ、なんだ。
「・・・春ですねえ」
「・・・美しイ光景デス、来て、ヨカッタ」
何を思い出しているのか、ライアンさんは優しい視線を2人に向けている。
「まったくもう・・・公衆の面前で発情してんじゃないっての・・・はは」
口ではそう言いながらも、太田さんはニヤニヤ笑っている。
「甘い甘い・・・コーヒーでも飲みましょうか、ライアンさん」
「ハイ!」
「3階にドリップマシンあるから、好きに飲むといいよ。それこそ1リットルでも2リットルでも」
嬉しいことを言って、太田さんは頭を掻き掻きバスの方へ歩いて行った。
お言葉に甘えるとしよう。
「じゃあ行きましょうかライアンさ・・・」
―――見られて、いる。
背筋に走る寒気を感じながら、後ろを振り向く。
遠くのビルの上に、人影が2つ見えた気がした。
素早く懐から単眼鏡を取り出した時には、もう・・・そこには誰もいなかった。
「鍛治屋敷・・・か」
どこか確信しつつ、呟く。
まるで刺すような、殺気の視線。
・・・アイツだろう。
アイツであってほしい。
じゃなきゃ、他にも厄介なやつがいるってことになるじゃないか。
「センセイ・・・?」
俺の様子を見て、心配そうにライアンさんが声をかけてきた。
「ああ、いや・・・気のせいでしょう。ささ、コーヒー飲み放題と洒落こみましょうか」
・・・ここで、仕掛ける気はないらしい。
以前のように、見に来ただけだろう。
と、なるとだ。
襲撃者は、鍛治屋敷に唆されたってことか。
いつかの友愛高校のように。
装甲バスの異形をもう一度見つつ、俺はゆっくりと図書館へ向けて歩き出した。
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「・・・へ、気付きやがった。見かけほど間抜けじゃねえらしいや」
「おっきい傷あったねえ、アイツ。パパほどじゃないけど」
「・・・おい、アイツの目、見たか」
「目?ううん、見てない。どしたの?怖い顔しちゃって」
「あの長巻の女より、六尺棒の男より・・・気に食わねえ」
「・・・パパ?」
「似ても似つかねえのによ・・・爺に瓜二つじゃねえか、目だけは」
「ふぅん・・・目がねえ」
「気に食わねえ、気に食わねえ、気に食わねえ・・・」
「ちょっと、パパ大丈夫?」
「うるせえよ・・・あの気に食わねえ目から、まず抉ってやらあ・・・!その時が楽しみだぜ、へ、へへ、へへへ・・・」
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「ど、どうですか皆さん・・・お味の方は?」
「おいいしいですっ!毎日飲みたいですっ!!ねえ!?そうですよねえ皆さん!!」
「・・・ヤミー」
「美味いですよ、ええ」
「ま、毎日だなんてそんな・・・えへ、えへへ」
図書館の3階。
そこの、大きなソファーに腰かけている。
以前に来た時は、ここで色々聞かれたんだよなあ・・・
そんなことを考えながら、何故か一粒たりとも砂糖を入れていないのに甘く感じるコーヒーを啜っている。
「あの、お怪我の具合は・・・?」
「鷹目さんの巻いてくれた包帯のお陰で元気百倍ですよ!!もう明日にでも治るでしょうね!わはは!!」
「あう、そ、そんなあ・・・えへへ」
目前では、先程成立したバカップルの濃厚なイチャりが繰り広げられている。
なんか腹までいっぱいになってきたぞ・・・
添えられたクッキーが食える気がしない。
胸やけで死んでしまいそうだ。
3階へ上がり、コーヒーを飲もうとしたのだが・・・
遅れて合流した鷹目さんが淹れると言い出して、この結果である。
甘ぁい・・・やっぱりほんとに甘いよこのコーヒー・・・
七塚原先輩基準で考えてたからなあ・・・あと2時間くらいはあのままだと思っていたが、存外に復活が早いらしい。
切り替えが早くていいが、そのノロケを至近距離で浴びる俺たちはしんどい。
しんどいが・・・まあ、2人ともいい人なのでそれは嬉しい。
「オカワリ、プリーズ」
「はいっ!」
奥さんを思い出しているんだろうか。
優しい表情でおかわりを頼むライアンさん。
この人もなあ・・・
一体いつになったら国に帰れるんだろう。
まだまだ先になりそうだ。
海をまたぐのは大変だなあ・・・不憫だ。
「いやあ!鷹目さんのコーヒーはおいしいですねえ!田中野さん!!」
「うまいもんだなあ、うまれてはじめてのんだ」
圧が強い森山さんを受け流す。
肩を組むな肩を。
まずいなんて答えたら殺されそうである。
美味いけどさ。
熱さすら精神が凌駕したのか、森山さんはごくごくとコーヒーを流し込んでいる。
・・・もっと香りも味わえよ。
せっかくいい豆っぽいのにさ。
「おかわり!鷹目さんおかわりです!」
「はいっ!」
・・・しかしまあ、銃を撃ってる時とはまるで違うな。
こうして見るとやはり友愛の森山くんそっくりだ。
そういえば、あっちの方の恋の行方はどうなったんだろう。
ほんのちょっとだけ気になる。
しかし・・・一体いつまで俺はここにいればいいんだろうか。
周囲では警官が忙しく走り回っている。
襲撃者の尋問とか武器の回収、ゾンビへの警戒なんかもせにゃならんしな。
俺たちは戦闘で活躍したから休んでいいとは言われているが・・・
どうにも居心地が悪い。
屋上で一服してくるか・・・2時間くらい。
それくらいあれば、目の前の幸せカップルも多少は落ち着くだろう。
落ち着いて欲しい。
「・・・ふぅ、ご馳走様。ちょいと屋上で一服してきます」
「センセイ!オトモシマス!!」
ライアンさんも腰を浮かす。
・・・どうやら同じ考えだったようだ。
いや、ひょっとしたら家族を思い出して辛くなったのかもしれんが。
どうせ、尋問の結果が出るまではここを動けんのだ。
ゆっくりさせてもらおう。
屋上に逃げていた避難民も、もうおらんだろうし。
キャッキャしている2人に手を振り、俺たちは屋上へ向かうことにした。
「・・・煙草がうめえですなあ」
「・・・ハイ」
案の定、屋上はがらんとして誰もいなかった。
以前来た時のように洗濯物が干されているということもなかったので、のびのび気兼ねなく喫煙できるな。
人の目がないのをいいことに、俺たちは地面に背中を預けて寝転んでいる。
青空に流れていく雲と、紫煙。
うーん、平和って最高。
「ヨカッタデス、森山サン」
「ひたすら飛ばした甲斐がありましたねえ」
心のどっかに、温かい気持ちがある。
ふふ、少しは俺のトラウマも解消できたかな。
過去には戻れないが、未来を紡ぐことはできる。
人の命は地球の未来・・・とは、よく言ったものだ。
何の台詞だったっけか、これ。
まあいいや。
「センセイモ、元気ソウデ・・・ヨカッタデス」
「へ?」
「運転シテル時、ツラソウデシタ」
・・・そんなひでえ顔してたんだろうか。
顔に出るからなあ、俺。
「・・・いい人には、幸せになってほしいですからね」
「ソウデスネ!」
どこか満ち足りた気分で、紫煙を吐き出す。
コーヒーも美味かったが、煙草もいつもより美味い気がする。
精神的なものだろうか。
それからは2人揃って沈黙し、ひたすら煙草を楽しみ・・・少しづつ眠くなってきた。
傍らを見れば、ライアンさんは既に眠っている。
・・・あれだけの重装甲で戦ってたんだもんな、そりゃあ疲れてるだろう。
まだまだ日は高いし、俺も少し、眠ろうかな・・・
「ふあぅ・・・」
欠伸をしたとたんに、瞼が一層重くなってきた。
煙草の火を消し、俺は眠気に身を任せることにした。
これは、夢だろうか。
いつか見た草原に、いつか見た少女が立っている。
その足元には、やはりいつか見た犬と・・・よく見ると走り回る猫の姿も見える。
子猫たちと・・・アレは、母猫だろうか。
少女は俺の方を見て、少し恥ずかしそうに微笑んで・・・小さく手を振った。
相変わらず体が動かせなかったが、そんなに嫌ではなかった。
少女の足元にいた綺麗な猫が、こちらに向かって鳴くのが見えた。
「―――随分お疲れだったんだねえ」
目を開くと、太田さんがこちらを見下ろしている。
「・・・今、何時です?」
「3時のおやつ前・・・ってとこかな」
・・・結構寝ちゃったな。
あわてて体を起こす。
ぐおお、背中がばきばき鳴る・・・コンクリの上で寝たからだなあ、これは。
横を見ると、ライアンさんはもういなかった。
「お仲間の外人さんなら、裏庭で子供たちと遊んでるよ。大人気さ」
ありゃ、起こしてくれればよかったのに。
「センセイは大活躍して疲れてるから寝かせてやってくれ、だってさ」
「ありゃりゃ」
疲れてるのは俺だけじゃないだろうに・・・
座って肩回りのストレッチをしていると、太田さんも横に座ってきた。
「よっこいしょ・・・丁度いいからここで話そうかな」
その懐から自前の煙草を取り出し、太田さんが火を点ける。
「田中野くんさ、『ヨロズヤ』って名前に心当たり・・・あるかい?」
ビンゴ。
やっぱそうだったか。
「やはり噛んでましたか、鍛治屋敷が」
「例の爆弾夫婦か。友愛の宮田から報告は受けていたけど・・・」
「尋問の結果ですか?」
「ああ、といっても複雑な話じゃあない」
煙を吐き出し、太田さんが続ける。
「襲撃者曰く、急に接触してきて話を持ち掛けられたんだそうだ・・・その内容はいたってシンプルなもんで」
がぎ、と太田さんはフィルターを噛む。
「『これを使って、どこでもいいから避難所を潰してくれればいい。成功したら、より強力な武器を渡す』・・・だと、さ」
真っ直ぐ前を見つめるその目には、怒りが渦巻いている。
「馬鹿にしたもんだよねえ、ホントに。理解できない思考だ、もっとも理解する気もないけどさ」
「一体何を考えてんだ、あの馬鹿ども・・・」
俺も、思わずこぼす。
「何も考えちゃいないさ、アイツらは。ただただこの状況をひっかきまわしたいんだろう・・・夫婦そろって、イカれてる」
だろうなあ。
相変わらず理解はできないが・・・まあ、そうなんだろう。
「奴らはお山の大将になりたいんじゃない。好きに暴れる手駒を眺めているのが楽しいんだろう・・・以前の爆破事件だって、明確な主張やイデオロギーがあるわけじゃない」
「ただ、殺したいだけ・・・はは、そりゃあ今の状況は願ったり叶ったりでしょうね」
奴らは人間じゃない。
ゾンビよりも、もっと恐ろしい・・・別の何かに成り下がったってわけか。
いや、ひょっとしたら既に成り下がっていたんだろう。
「タチが悪いことに、アイツらは根無し草だ。防御を固めるくらいしか打つ手がないってのが、面倒くさいね」
これからも、奴らは決して矢面に立たずに動くんだろう。
それに、唯一例外があるとするならば・・・
俺を、殺そうと現れる時しかない。
「その目、何か心当たりがあるね?」
さすが太田さん、鋭い。
「はは、どうにも・・・奴らは南雲流に恨みがあるみたいで」
「あ~・・・田宮先生が何かやったんだね?」
理解が早くて助かるなあ。
「師弟二代を九分殺しにしたみたいです」
「うあ~、惜しい!あと一分じゃないか」
警官にあるまじき発言である。
「・・・それじゃ、始末は君たちに任せようかな。警官としては忸怩たる思いだけれど・・・今の戦力ではろくに偵察部隊も出せない」
「お気になさらず、避難民の安全の方が大事ですから」
守るものが多いって、大変だ。
・・・最近は俺もそれに片足を突っ込みつつあるが。
「そう言ってもらえると、助かるよ・・・お礼と言ってはなんだけど、各所への報告はこちらでやっておこう」
「それはありがたい」
「それにいくばくかの食料と・・・拳銃弾も進呈するよ。宮田から聞いてるからね」
ありゃりゃ、そこまでしてもらわんでもいいのに。
「・・・高山の娘を助けてくれたお礼さ」
「そっちとも、お知り合いでしたか」
「うん、義理の弟だからね」
「へぇ!?」
全然似てな・・・あ、義理か。
「妹が高山に嫁いだんだ。あきらは可愛い姪っ子だよ・・・10年前に妹が死んでから、あまり付き合いはなかったけどね」
「ああ、なるほど」
そういえば、母親の話題は聞いたことなかったな。
写真に写ってたのも父子だけだし。
・・・それにしても、世間って狭いなあ。
「両親ともいなくなるなんてね・・・この騒動が終わったら、できるだけのサポートはしてやるつもりだ」
そう言うと、太田さんは立ち上がった。
「森山は置いてっていいよ・・・っていうか1人じゃ絶対にここを離れない!って言ってたからね」
・・・さもありなん。
2人一緒じゃなきゃ、テコでも動かんだろうしな。
「今後の身の振り方も含めて、八尺鏡野警視と相談さ・・・あの人苦手なんだよねえ、気が重いなあ」
その背中に中間管理職の悲哀を滲ませつつ、太田さんは階段を下りていった。
もう少し休憩したら、俺も帰り支度をするとしよう。
裏庭の方から、ライアンさんと子供たちの楽しそうな声が聞こえる。
それを微笑ましく思いながら、俺は煙草を・・・あ、ない。
そういえば在庫確保してなかった・・・




