71話 友愛高校襲撃のこと 前編
友愛高校襲撃のこと 前編
詩谷大学で大暴れした後、俺たちは大木くんの拠点へと帰った。
収集した荷物を荷下ろしし、
「今晩は徹夜でいじくり倒しますよぉ~!!」
と言う、ホクホク顔の大木くんと別れて中村家へ。
・・・帰ろうかと思ったのだが。
「折角ですので、久しぶりに友愛へ行きませんか?」
という、神崎さんの言葉で少し寄り道をすることになった。
新たちにも挨拶したいとは思っていたしな。
「・・・しかし、大丈夫ですかね?俺が顔出して」
友愛への道すがら、ついぼやく。
今の俺は人探しをぶっちぎって行方不明の身だ。
・・・あ、いや。
宮田さんがなんかうまい事言ってくれてるんだっけかな?
警察からの依頼で長期任務についてるとかなんとか。
「問題ないかと。それに・・・言い忘れていましたが、田中野さんの探索任務は自衛隊の一部隊員が引き継いでいるはずですので」
「・・・マジで?」
それは予想外だ。
「『ゾンビについては』友愛と秋月総合病院周辺は掃討できたようですし、余裕ができてきたからでしょうね」
・・・考えてみれば、俺たちが龍宮探索を始めてから楽に1カ月以上は経ってるもんな。
療養とかしてたし。
それくらいの時間があれば、警察と自衛隊ならできるだろう。
「『ゾンビについては』ってことは・・・?」
「ええ、ゾンビ掃討が済んだのが悪かったのでしょうね・・・最近は外部生存者との軋轢が問題になっているようです」
・・・外が若干安全になったので、よけいな奴らが元気になったってわけか。
ゾンビ退治も良し悪しだなあ。
「そのまま個人で動いてりゃいいのに・・・」
せっかくゾンビがいなくなったんだ。
俺みたいにしぶとく生きてりゃいいのになあ。
避難所も無限に人を受け入れられるわけじゃないし・・・
ま、これは俺が1人でもそこそこやれるからこその感想なんだろうがな。
子供や老人は大変だろうなあ・・・
この世は不条理である。
こればっかりは誰にもどうにもできない。
目の前で困ってりゃあ、俺が世話を焼くこともできるが・・・全員は無理だ。
「まあ、それなら大手を振って友愛に行けますね」
夜までに中村家に帰ればいいだろう。
どうせ帰り道だ。
・・・ナチュラルに帰ることが確定している不具合。
今回、俺は実家に行けるのだろうか・・・?
「むしろ今までの功績から、大手を振ってもらわなければ困りますよ!」
怒られてしまった。
こればっかりは性分なので許していただきたい。
今までの人生ほとんどこうして生きてきたんだ、今更変えるのはちょいと難しい。
「いやあ・・・ぜ、善処しますよ」
俺はそう答えて、アクセルを踏み込んだ。
「入れろ!!」「開けてくれ!!」「頼む!!頼むから!!!」
「下がってください!」「門に触れるな!!」「無理です!ここは満員です!!」
・・・なんかデジャブぅ。
やってきた友愛高校の正門前に、黒山の人だかりが見える。
彼ら彼女らは声を張り上げ、一様に中に入れろと主張しているようだ。
警官たちが、拡声器片手に必死で叫んでいる。
あ、自衛官もちょいちょい混ざってる。
常駐の人員も増えてるみたいだ。
「タイミング、ちょい悪かったですねえ」
「・・・私がここで暮らしていた時よりも、かなり抗議の人数が増えていますね・・・」
まあなあ。
友愛高校は壁も頑丈だし、ソーラーパネルもあるし・・・おまけに畑もあればヒヨコちゃんもいる。
加えて守っているのは銃器で武装した警察官。
避難所として見れば、かなりの優良物件というわけだ。
明日をも知れぬ生存者からすれば、大層魅力的に違いない。
「・・・どうすっかなあ」
パッと見た感じ、門にたかっている人間は20人くらい。
アレをかき分けて入場するのは、なかなか骨が折れそうだ。
宮田さんたちにも挨拶はしたいが・・・ううむ。
「・・・ぬ?」
正門の後ろに、以前にはなかった足場のようなものが見える。
そこに登った自衛官が、筒状のものを空へと掲げた。
あれは・・・ライフル?
重い銃声が何度か響き、門前の人々は一斉に逃げ出した。
まさに、蜘蛛の子を散らすってやつだ。
「威嚇射撃・・・ですね」
「以前は説得だけで逃げたのになあ・・・サツバツとしてきてますね、ここも」
門の前から人が消えたので、しばらく待ってから車を進める。
軽トラを視認するなり、警官の動きが慌ただしくなってきた。
「秋月の神崎陸士長です!報告に参りました!!」
先手を打つように、神崎さんが窓から身を乗り出して叫ぶ。
お、久しぶりに仮の階級に戻ったな神崎さん。
そういえば、こっちじゃまだその身分のまま通ってるんだもんな。
「開門します!すぐにお入りください!!」
顔見知りがいたのか、すぐに門が左右に開いていく。
モタモタしていて、さっきの奴らが帰ってきたらまずい。
急いでその門をくぐった。
「ヴォフ!!」
停車するとすぐに、どこかで見たようなシェパードが走ってくる。
んん~?
もしや・・・
「チェイスくん?」
「アゥ!ワォン!!」
どうやら正解だったようで、チェイスくんは嬉しそうに俺に体当たりしてきた。
オウフ、鳩尾ぃ・・・
「や、やあ・・・久しぶり、元気だったかい?」
「ウォン!」
そういえば、秋月から神崎さんの代わりにここに来るようになった隊員さんがいたよう・・・な・・・?
確か・・・り、陸王・・・さん・・・?
うーむ、犬の名前はしっかり記憶しているのになあ。
「ああ、お久しぶりです神崎に・・・陸士長、それに田中野さん」
小走りで近付いてきた自衛官が、神崎さんに敬礼した。
今二等陸曹って言いかけたな。
「お久しぶりです、六郷三等陸尉」
あー!そうだそうだ!
そんな名前だったなあ!
「お久しぶりです、チェイスくんも元気そうで」
手入れの行き届いた毛並みを堪能しつつ、俺も返す。
可愛がられているようだなあ、よかったよかった。
「宮田巡査部長に面会したいのですが・・・」
「はい、いらっしゃいます。こちらへどうぞ」
俺たちは六郷さんに先導され、勝手知ったる校舎内に足を踏み入れた。
ううむ、懐かしい。
「お久しぶりです神崎さん!田中野さん!」
職員室へ入ると、以前と変わらずムッキムキな宮田さんが出迎えてくれた。
校長室へ案内され、柔らかいソファーに腰かける。
「話には聞いていましたが・・・随分と、大変だったようですね」
俺の増えた傷を見て、宮田さんが心配そうに言ってきた。
「はっは・・・いやあ、龍宮は中々にハードですよ」
「そのようですね・・・以前より、お強くなったんじゃありませんか?」
・・・そりゃ顔面の迫力は増したし、結構な死線は潜ったからなあ・・・
のほほん無職マンも、多少は進化しているということなんだろう、うん。
「いやあ・・・そうですかねえ?」
「そうです!」
・・・なんで神崎さんがそんなに自信満々なの。
俺より俺に詳しいとでも言うのだろうか。
「そ、それより・・・なんかここも物騒になってるみたいですねえ」
「・・・ご覧になりましたか」
よし、なんとか話を逸らせたぞ。
「ようやく、備蓄の食料に頼りきりの生活が改善されてきたと思った矢先に・・・困ったものです」
聞けば、ここ数週間で特に酷くなってきたのだという。
・・・周辺の食料を消費し尽くしたのかな?
「行方不明者の捜索も、本腰を入れ始めたのですが・・・このままでは、捜索担当の人員に危害さえ加えられそうです」
あー・・・確かに。
狙われそうだな。
むーん・・・これは困った。
「まあ、今言っても仕方がありませんね・・・それで、龍宮の様子はどうですか?大まかなことは知っていますが、やはり直に聞いてみたいもので」
「はい、少々お待ちください・・・」
それを皮切りに、神崎さんが説明の準備を始める。
おお、メモ帳なんて持ってたんですか。
しっかりしているなあ・・・
「失礼します!うわあ田中野さん!お久しぶりです!!」
ドアが開き、懐かしの森山くんが顔を出す。
以前よりだいぶ日に焼けて、ちょっとばかし筋肉が増えたようだ。
「それに神崎さんも!」
・・・おや?
以前のようなキョドりがないぞ?
・・・彼も成長したということだろうか。
「お久しぶりです、森山巡査」
「お元気そうで何よりです」
軽く挨拶を交わし、森山くんは宮田さんに話しかけた。
「巡査部長、捜索番が戻りました」
「ああ、了解した。・・・すみませんが、少しお待ちいただいても?」
捜索番・・・行方不明者捜索担当の警官のことかな?
「ええ、どうぞどうぞ。あ!そうだ・・・少し見て回ってもいいですか?」
この間に、新たちに挨拶しておこう。
俺が役に立つとも思えないし。
神崎さんはこのまま職員室で待っているようなので、俺だけ行動させてもらうか。
さーてと、新たちはどこだろっかな。
農作業は午前中らしいし、今は・・・4時か。
とりあえず運動場に行ってみるか。
新を探すのが手っ取り早そうだし。
「あー!サムライのおっちゃんだ!!」
運動場に行くと、以前から懐かれていた子供たちに声をかけられた。
木製手裏剣を作ってやったメンツだな。
「ようみんな、元気にやってるかー?」
飛びついてくる子供たちにもみくちゃにされつつ、聞いてみる。
でも、顔色や様子を見ればそんなこと聞かなくてもわかる。
・・・大事にされてるようだな。
「げんきー!」「ヒヨコもおっきくなったよー?」「凛ねーちゃんはー?」
ええい、一度に言うな。
俺は某太子じゃないんだぞ!
なぜそのように荒ぶるのか!
静まれ!静まりたまえ!!
・・・ぬ。
そんな風に子供たちと話していると、なんとなーく嫌な視線を感じる。
「ヒヨコかあ、見たいなあ・・・神崎さんは職員室にいるぞ、宮田さんとお話してるんだ」
質問に答えながら、視界の隅で確認する。
・・・見覚えのないオッサンやおばさんが、俺を忌々しそうに睨んでいるのが見える。
ははーん・・・捜索の依頼者だった人達かな?
っていうかそれ以外に考えつかんぞ。
今は引き継がれているみたいだし、文句があるならそっちに言えばいいのにな。
正直、俺一人であれだけの依頼を回せるはずがないのだ。
ま、元から身を入れてやる気はなかったけどな。
・・・とはいえ、警察や自衛隊より俺のような市民の方がクレームも入れやすいんだろうなあ。
変に視線を合わせて絡まれても困る。
あっちの方には目を向けないでおくことにしよう。
「・・・た、田中野さん!田中野さんじゃないですか!」
俺に向かって手を伸ばしてくる子をひょいと肩車していると、後ろから声がかけられた。
「あ!せんせえ!」「やまなかせんせー!」「こんちはー!」
振り返ると・・・新たちの叔母さんである山中朋子さんがいた。
よかった、この人も元気そうだ。
「いらっしゃっていたんですね!お元気そう、で・・・まあ!傷が・・・!」
俺の左目の傷を見て、心配そうに駆け寄ってきた。
「はっは、龍宮でちょいとドジりましてね・・・でも全然大丈夫ですよ、視力にも問題ないし」
・・・斬られた頭の方が大変なんだよな。
主に、頭髪的な意味で。
「あーっと・・・新たちに会いに来たんですが・・・」
「まあ、そうですか!みんな喜びます!姉たちは今なら3階にいると思うんですけど・・・」
お、期せずして場所が分かってしまった。
運がよかったなあ。
そこら中で聞きまくるつもりだったもん。
俺は、ひとしきり子供たちと遊んだ後に、山中さんと一緒に校舎の3階へ向かうことにした。
・・・子供たちの体力は物凄かったので無茶苦茶疲れたが。
肩車のヘビロテは腰にくるもんがあるなあ・・・
すれ違う避難民たちは、俺の顔を見るなりぎょっとしながら通り過ぎていく。
うーむ、軽トラに置いといたニンジャ仮面・・・かぶってくるべきだったかな?
あの後、大木くんが進呈してくれたのだ。
・・・いや、まず門で止められそうな不具合があるな・・・
「そうですか、龍宮はそんなことに・・・」
「ええ、ゾンビも多い上に手強いですしねえ」
道すがら、山中さんに龍宮の現状をかいつまんで説明する。
どうやら、何人か知り合いがあっちにいるようだ。
「心配でしょうけど、あまり行くのはお勧めしません・・・っていうか、やめといたほうがいいでしょうね」
「・・・私たちは、本当に運がよかったんですね」
・・・確かに。
俺も詩谷スタートだったから結構やれたようなもんだしな。
心構えとか、戦い方とかじわじわ身に着けることができたし。
初手黒ゾンビとかだったら、テンパってるまま死んでいたかもしれん。
感謝するぞ、坂下のオッサンよ。
・・・そこだけはな。
「とにかく、ここにいれば安全なんですから・・・待っとく方がいいと思いますよ?」
「・・・そう、ですね。私も、田中野さんみたいに強かったらいいんですけど・・・」
「先生には先生のお仕事がありますよ、そこで頑張ってください」
適材適所ですよ、これは。
人には役割というものがあるのだ、うん。
「ここです」
そう言って案内されたのは、『茶道室』と書かれた教室の前だった。
・・・ほほう、さすがデカいだけあってこういう部屋もあるのか。
入ろうとしていると、ドアが内側から開いた。
「あ、朋子ねえちゃ・・・うわあ!おじさん!」
前よりもさらに日焼けした、見るからに元気そうな新が出てきた。
「おー、久しぶり・・・元気だったか?」
「うん!!」
新は嬉しそうに答えた。
いいお返事だこと。
「ちょっと寄る用事があったもんでな、様子を見に来たんだ」
「そうなんだ!入って入って!!俺、ちょっと今日の分の配給取ってくるから!!」
言うなり、ダッシュで消えていく新。
配給ね・・・時間からして、夕食だろうか?
山中さんに言われるまま、室内へ。
ふむ、玄関みたいな所で靴を脱いで・・・なるほど、中は広い和室になってるのか。
20畳以上はありそうな広い室内が、いくつかの区画に区切られている。
まさに、避難所って感じだな・・・やっぱり俺は家がいいな。
ストレスたまりそう。
「あら朋子、早かったわね・・・まあ!田中野さん!!」
その区画の1つ・・・窓際の区画に入ると、山中さんが声をかけてきた。
しかしややこしいな・・・心の中では妹さんの方を朋子さんと呼称しよう。
「お久しぶりです、山中さん。お元気そうで何よりです」
「お陰様で・・・なんとかやれています!」
俺に駆け寄るなり、手を握って涙ぐむ山中さん。
「田中野さん!」
奥の座椅子に腰かけていた志保ちゃんも、俺に気付いて立ち上がる。
最後に見た時より、ふっくらとしていて血色もいい。
よかった・・・あの時は痩せすぎなくらいだったからな。
「や、志保ちゃん。元気そうで・・・おいおい無理しないで」
志保ちゃんは器用に片足でケンケンしながら義足を装着し、早歩きでこっちに来た。
慣れてるのか知らんが、見ているこっちは冷や冷やするなあ。
「お元気ですか!手紙、届きましたか!?」
「おおう・・・げ、元気元気。手紙もありがとうねえ、大木くんが届けてくれたよ」
元気になった反動か、随分と押しが強い。
パワーが有り余っている感じだ。
「そうですか!よかったです!」
「もう、志保落ち着きなさい・・・田中野さん、ゆっくりできるんでしょう?座って座って」
意外にも押しの強い山中さんに言われ、畳に腰を下ろす。
ふう・・・日本人にはやはり畳だな。
お茶をもらいながら話をしていると、新が息を弾ませて帰ってきた。
その手には、夕食分だろう保存食が山と積まれている。
4人分だから結構多いなあ。
今の今まで忘れていたヘルメットを脱ぐと、対面の志保ちゃんが顔を青くする。
「た、田中野さん、傷が・・・傷が増えてます!」
お?
前髪で隠れていて見えなかったのかな?
宮田さんはすぐに気付いたのにな。
「ええ!?おじさん大丈夫!?」
新が俺の正面にわざわざ回り込んできた。
「大丈夫大丈夫、ちいとばかし強いのと喧嘩しちゃってなあ・・・さらにイケメンになっちまった」
・・・ぶっちゃけ、服の下に比べればこんなもんかすり傷である。
視力に影響もないし。
「うわあ・・・龍宮って怖い所なんだね」
「それはマジでそう。状況が落ち着くまで絶対外に出るんじゃねえぞ新」
「う、うん・・・」
あっちには子供を嬉々として殺して回る外道もいるしな。
こっちに来なけりゃいいんだが・・・いや、来る前に皆殺しにすりゃいいのか。
「それより、手紙で読んだけどモンド・・・中村のおっちゃんとこによく行ってるんだって?」
話を強引に逸らす。
「あ、うん!おのおじいちゃんすげえや!むっちゃくちゃ強いんだよ!!」
ほう、もう稽古つけてもらってんのか。
おっちゃんも子供好きだからなあ。
特に美玖ちゃんと同じくらいの・・・しつけがしっかりしている子供は。
その点で言えば、新は合格点だろうさ。
「この子ったら、毎回中村さんにご迷惑を・・・」
「いいんですよ別に。ボケ防止みたいなもんでしょ・・・おっちゃん、嫌いな人とは話もしないんで」
「へへへ、すじがいいって褒められちゃった!」
「おー、そりゃすげえ。その調子でバンバン稽古して強くなるんだぞ」
「うん!」
強くなって、家族を守ってやるんだぞ。
あの避難所で冷たくなっていた子供を、つい思い出した。
それを誤魔化すように、新の頭をガシガシ撫でた。
・・・ああは、なってほしくないな。
「レオンもあそこの皆さんに大分可愛がっていただいているようで・・・」
「ちょっとしたアイドル扱いですもんね、レオンくんも無茶苦茶人懐っこいし」
レッサーパンダというか・・・なんか変わった犬くらいのイメージになりつつあるからな、俺にとっては。
「可愛いですよね、レオンくん!ふふ、膝に乗ってくれるんですよ」
「いいよなー、撫でさせてはくれるけどさ、膝に乗るのは姉ちゃんと母さんと美玖ちゃんだけなんだよ?」
「そいつは羨ましいなあ」
・・・俺も入ってるんだけどな、その中に。
何故なのかは不明だが。
「志保は読み聞かせの手伝いもしてくれるし、ここに来てからどんどん元気になっていくわね」
朋子さんが嬉しそうだ。
そういえばそんなことも手紙に書いてあったなあ。
あのまま団地に置いておかなくて本当によかった。
姉弟では移動もできないし、軽く詰みになりかけてたな。
「それもこれも、田中野さんが私たちを助けてくれたお陰ですよ!」
志保ちゃんや、背中が痒くなるからあんまり俺を褒めないで・・・
たまたまだから、たまたま・・・
「あはは・・・おっとと、そうだそうだ」
懐から十字手裏剣を取り出す。
「新、お前にこれをやろう」
十字手裏剣を4枚手渡す。
これなら練習はいらんからな。
棒手裏剣はちょいと難易度が高い。
「もしもの時の、護身用だ。わかってるとは思うが・・・」
「家族が危険なときにだけ、使う!」
「よし合格・・・ま、ここには警察がいるから心配はないと思うがな」
近接用の武器・・・木刀はおっちゃんの所で見繕って、渡すかどうかはおっちゃんに任せよう。
俺がやったやつ、結構ぼろいしな。
・・・おっちゃん、どうか出世払いで頼む。
「大事にするね!おじさん!」
「あのなあ・・・消耗品をあんま大事にすんな、使える時には必ず使え」
「あ、そっかあ・・・」
子供相手の贈り物としてはかなり物騒だが・・・母親も止めてないしいいだろう。
璃子ちゃんなんかライフル振り回すんだし。
手裏剣くらいは・・・まあな。
「すいません山中さん、いざというときの保険くらいに考えといてください。お守りみたいなもんですよ」
「いえ・・・わかっています、今がどういう状況なのかは」
山中さんにも思う所はあるだろうが、なんとか飲み込んでくれたようだ。
あ、リュウグウパークの壊滅・・・いや、言わないでおこう。
知ってもどうにもできんしな。
あそこに未練もないだろうし。
「いやー、しっかしいい部屋だな、ここ。眺めがいいなあ、志保ちゃん」
またも話を逸らす。
「風通しもいいんですよ!これから暑くなりそうなので、嬉しいです」
あー・・・そう言えばクーラーないもんな。
ないっていうか・・・使えないもんなあ。
これから夏になると厳しくなるな・・・俺は水風呂にでも入ろうか。
どれどれ、話にも上がったし眺めを堪能するか・・・
「・・・なんだありゃ」
立ち上がって窓まで行くと、眼下・・・正門の外に人だかりが見えた。
さっきと同じ手合いか・・・と思ったがどうにも様子がおかしい。
「・・・っ!」
車のドアを加工したような盾を持った一団が、警官たちとにらみ合っている。
おいおい、随分と気合の入った奴らだな!
「すいません山中さん、俺ちょっと行ってきます。新!ここで家族を守るんだぞ!!」
「えっ!?」
「う、うん!!」
狼狽しながらも、力強く頷いた新。
それを横目で見つつ、俺は茶道室を走って飛び出した。
ブーツのゆるみや、刀の状態を確認しながら階段を駆け下りる。
さっきの盾集団・・・
なにか、嫌な予感がする。
二段飛ばしで階段を駆け下りていく。
そんな中であった。
耳をつんざく、爆発音が聞こえてきたのは。
・・・畜生!嫌な予感程よく当たるんだなあ!!
奥歯を噛み締めながら、俺はひたすら走り続けた。




