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69話 潜入!詩谷大学のこと(後編)

潜入!詩谷大学のこと(後編)




なし崩し的に大多数のゾンビを片付けてしまったので、探索に戻る。


「うえ、歩きにくい・・・」


ぼやく大木くんの声を聞きながら、ゾンビが折り重なる階段を上がっていく。

帰るときに困るから、両脇に避けておこう。


「ちなみに大木くん、各階には何があるんだ?」


「えーっと・・・なんだったっけかなあ・・・1階と2階が実験用の部屋が多くて、3、4階が工学系だったと思うんですけど」


ふうむ、あまり心躍るものはなさそうだ。


「ただ、薬品の中でも劇物指定されてるものは4階にまとめてあるはずですよ」


「へえ、そりゃいいな。本命は4階で片が付きそうだ」


「危険性の低い薬品は街中でも容易に手に入りますしね」


俺たちは話しながら階段を上り、2階へたどり着く。

その途端、何とも言えない悪臭が襲い掛かってきた。


「うえええ・・・あ、田中野さんアレアレ」


大木くんが指差す方向には、半開きになったドア。

ライトで照らした壁には、『レク室』と書いてある。

そしてその室内には・・・腐って原型をとどめていない人体の成れの果てがチラホラ見える。


「あそこに逃げ込んだけどドアを破られた・・・ってところかな?」


口呼吸を意識しながら呟く。

鼻呼吸よりはましだが、それでも凄まじい異臭だ。

人間が腐った臭いってのは、慣れないなあ・・・

いや、慣れたくもないんだが。


「そのようですね、破られたドアにバリケードの痕跡が見受けられます」


あ、確かに。

板が打ち付けられた跡が見えるな。

いくら雑魚でもゾンビはゾンビ。

数の暴力の前にはひとたまりもなかったようだ。


「あそこでよく自習したなあ・・・あの様子じゃ自販機も全滅でしょうし、先に進みましょっか」


元より食料には興味も無いしな。

ここでわざわざ探すより、原野なり硲谷で探す方がいい。

空き家(意味深)がいっぱいあるんだし。


俺たちは2階を探索することなく3階へ向かった。

気配もなかったしな。



「・・・いるかもですね、この先」


「確実にいる、気配がするし」


「気を引き締めて、行きましょうね」


3階への階段は、机や椅子を敷き詰めたバリケードで固められている。

正確には2,5階から先だ。

乱雑に積み上げられたバリケードには、多数の血液が付着している。

何の血か知らんが・・・まあ大体はわかるが。


「とりあえず俺と大木くんでどかすか。神崎さん援護よろです」


「了解しました、お任せを」


「アイコピー!」


油断なく拳銃を構える神崎さんの前で、俺と大木くんはしゃがんで作業を開始する。

バリケードが無事残ってるってことは、この先には生存者がいる可能性が高い。

人かゾンビかはわからんが、何かの気配はするしな。


「よっと、よろしく」


「あいさー」


中腰だと腰にくるなあ・・・どんだけ鍛えても何故そうなるんだろうか。

もっともっと筋肉を付けないと駄目なんだろうか・・・?


「撃ちます」


うおお薬莢が降ってきた!

どうやらゾンビがいたようだ。

消音された発砲音が連続して聞こえる。


「・・・残敵、ありません」


どさりどさりと何かが倒れる音が聞こえ、しばらくすると静かになった。

ふう、終わったか。


「撤去されていないバリケードがあるのに、内側にゾンビがいたってことは・・・?」


「中で発症して無茶苦茶、ってことですかね~。なむなむ~ん」


だろうなあ。


「神崎さん、生きてる人間っぽいのいます?」


「ライトで確認していますが・・・見える範囲のすべてのドアが破られています」


ああ、そりゃ駄目かもな。

ま、とにかく撤去だ撤去。


「えっさ」


「ほいさ」


・・・この掛け声初めて使ったな。

結構楽しい。

後のことも考えて、両脇に撤去しとかないと。


ふれあいセンターのバリケードと違ってすぐに撤去できるな。

なんというか、ただ置きました感が強い。


「よっしゃ、撤去完了」


後半から神崎さんも手伝ってくれたから早く済んだぞ。

3階部分に到達すると、神崎さんによって成仏させられたゾンビが折り重なっている。

この暗いのに、よくもまあ頭を撃ち抜けるもんだよなあ。


「目を狙うのがコツです、ズレても頭部には当たりますので」


・・・明日使えないトリビアがこの世に生まれてしまった。

何に使うのか、大木くんがメモを取っているのは見なかったことにした。

マジで何に使うんだよ・・・


3階部分を偵察する。

・・・見える範囲に動くものはいない。

念のため適当な音でも立てておくか。


足元に転がっていた空き缶を、奥に向かって投げる。

暗がりの中に飛んでいった空き缶が、からんからんと反響音を響かせる。


「・・・ァァァァァ」「ォゥォォォォ・・・」


・・・上、か?

この階じゃない事だけは確かだ。

階段を伝って、4階から聞こえてくる。


「4階からですね」


神崎さんのお墨付きも頂いた。

道も確保したし、いよいよ本命に乗り込もう。


また階段を上る。

どうやら、バリケードは3階部分だけだったようだ。

あそこだけで大丈夫だと思ったのか、それとも作る前に崩壊したのか。

死人とゾンビに口なし・・・ってやつだな。


「・・・たぶん(登ったところにいますね、援護よろしくです)」


「(了解)」


兜割を握り、一気に4階に躍り出る。


暗がりの中に、ゾンビが2体!


「ァア!?」


走る勢いを乗せ、まずは首を薙ぐ。

そのまま壁に叩きつける。

兜割と壁にサンドされたゾンビの首が、ぼきりと折れた。


「っふ!!」


お仲間?をやった俺に気付いたゾンビが動き出す前に、その腹に蹴りをぶち込んで吹き飛ばす。

廊下の奥からこっちにくる気配がする。

時間をかけてはいられんな。


吹き飛び、床に倒れたゾンビの顔面を叩き割る頃。


「グルウウウウウ!!!」「ガアアアアアアアアアアアアア!!!」


暗がりから走り出るゾンビが2体!

うし、かかってきなs


「ァ」「ッォ」


・・・神崎さん早撃ち凄いですね。

優秀な援護要員だなあ。


「・・・おかわりはナシ、かあ」


「なんでちょっと残念そうな顔してんですか・・・」


いや、なんつうか・・・なあ?

まだまだいけそうだったのに・・・なんか考え方が師匠っぽくなってる気がする。

いかんいかん、俺はあんなバトルジャンキーじゃない・・・ハズ!


「まあいいか、じゃあとっとと本命を・・・なんかこの階だけ今までと違わない?」


間取りが大分違うな。

階段の前に広い廊下があって・・・でっかい部屋と、おまけみたいな小さい部屋がある。


「ああ、ここはさっき言った劇物用の薬品倉庫と機械室だけですから」


へえ、この空間で2部屋のみか。

贅沢な使い方だな。


「しっかし・・・暗いなあ。電気のありがたさを再認識できるわ」


「あー・・・右側の突き当りの窓、開けてください。学生ホールからは死角になってるんで」


「ういー」


ライトで周囲を照らす。

・・・どうやら、さっきのゾンビで最後のようだ。

何の気配もない。

念のためにまた落ちていた空き缶を投げてみるが、やはり反応もない。

あれで、ここにいたゾンビはカンバンかな?


ゾンビじゃない人間のパーツが散らばる廊下を歩く。

うっぷ・・・締め切った室内だから悪臭が凄い・・・


突き当りにたどり着いたので、重いカーテンを開ける。

うおっまぶし。

ついでに窓も開けておこう。

この悪臭耐えられ・・・なくはないけどうっとうしいし。


ふう・・・吹き込む風が心地いい。

陰鬱な気分がリセットされるなあ。

振り返ると、廊下の惨状が目に入ってもう一回リセットされたけども。

廊下一面血塗れじゃないか・・・結構な人数がここで死ぬかゾンビに食われたんだな。

ゾンビにも変わったんだろうけど。


「どうだ、明るくなったろう」


「・・・何ですかそのお札に火を点けるオッサンみたいな雰囲気」


どんな雰囲気だよ、わかるけども。

・・・俺もあれくらいブルジョワになりてえもんだわ。

でも根が貧乏性だから火は点けれないけど。


「とりあえず薬品庫から確認しましょっか」


「わかった、後ろにいろよ」


神崎さんと目くばせし、俺がドアに手をかける。


・・・重いな。

鍵はかかっていないが、『何か』がもたれかかっている。


目で合図をし、ドアを引きながらそのまま引く方向へ避難する。

ずるり、と人影が廊下に倒れてきた。

・・・発砲音が聞こえない。


「死体か、これは」


「・・・しかも自殺ですね」


苦悶の表情で目を見開いたまま事切れた男性だ。

喉を掻きむしった後が生生しく残っている。

手には、ラベルが剥がれかけた薬品瓶が握りしめられている。


「うーわ、松田先生だ」


「知り合い?」


「文学部の助教授ですよ・・・慣れない薬で自殺しようとしたんですねえ」


遺体から薬瓶を取って眺める大木くん。


「もっと苦しまずに死ねる薬なんて、山ほどあったのになあ・・・錯乱してたのかなあ」


その顔は、少しだけ寂しそうだ。


「何にせよ、お世話になりました・・・あなたの明治文豪の性生活の講義、面白かったです」


大木くんはそう言うと、いつもよりしっかりと手を合わせていた。

・・・何それ俺も受講したい。


「さてさて、薬品庫はこれで安全確認できましたね。次は機械室です」


気を取り直した大木くんに連れられ、大きい扉まで行く。


「あ、鍵がかかってますね・・・」


「任せておきなさい、万能鍵開け機またの名を筋肉の出番だ」


いつも通り、鍵を破壊して扉を開ける。

うーん、やはり筋肉・・・筋肉はすべてを解決する・・・


ライトで薄暗い室内を照らす。

雑多なコードやPC、それに何に使うか全くわからない機械類が雑然と置かれている。

人やゾンビの気配はなく、静まり返っている。


とりあえずまた学生ホールから見えない位置のカーテンを開ける。

太陽光の素晴らしさを感じていると、大木くんが一台の機械を調べている。

バカでかいオーブントースターみたいな・・・ああ、あれが3Dプリンターってやつか。


「それがお目当てかい?」


「ええ・・・保存状態も最高っていうか、ゾンビ騒動の間誰も使ってないみたいですね」


そりゃなあ、電気も使えないし。

それに、この状況下で何を3Dプリントしろというのだろうか。


「これが・・・こうで、ここが・・・ああ、これでバイパスしてんのか・・・」


ぶつぶつと呟きながら、大木くんは持ってきた工具を使って何やら作業をしている。

邪魔しても悪いし、窓際で一服しておこうか。


「神崎さん、どうです一服」


「はい、ご一緒します」


神崎さんと無駄話をしながら一服し、しばし休憩。


「いい景色ですね・・・」


そう言われて窓から外を見る。

おお、詩谷市が一望できるぞ。

さすがに俺の家は見えないな。

友愛高校は先っちょだけ見える。


「こっから見れば、とてもゾンビで世紀末してるとは思えんなあ・・・」


「そうですね、本当に・・・」


柄にもなくしんみりしてしまった。

俺だってたまにはセンチメンタルなグラフィティをすることもあるのだ。


「あ、僕薬品回収しますんで、ごゆっくり~」


いつの間にか作業を終えた大木くんが、部屋から出ていく。

3Dプリンターは、いつの間にか運びやすいように解体されていた。

コードや部品はまとめられ、段ボールに入っていたり結束バンドで縛られている。

うーん、仕事が早い。


「・・・お言葉に甘えますか、はいどうぞ」


ベストから缶コーヒーを取り出して神崎さんに渡す。


「ふふ、そうですね。ありがとうございます」


2人して椅子に座ってまったりする。


ああ、なんかいいなあ・・・この空気。

何も話さなくても気まずくない・・・思えば神崎さんとも結構長い付き合いだ。

あまり気を遣わなくていい異性の友人なんて、滅多にいないからな。

後藤倫先輩?

・・・あの人はホラ、先輩だから。

あと一手先も読めないから緊張するし。


「・・・釣りに行きてえ」


「・・・明日とか、どうですか?高柳運送のみんなにお土産ができますよ?」


・・・確かに。

それくらいのんびりしても許されるかもしれん。

おっちゃんの所から肉ももらえるし、子供たちもきっと喜ぶだろう。


「いいですね、じゃあ明日朝一で釣りに行って・・・その後ニワトリを受け取って帰りますか?」


「忙しい1日になりそうですね、ふふ・・・楽しみです」


神崎さんも嬉しそうだ。

釣りを気に入ってもらえてよかったなあ。

クーラーボックス、充電しとかなきゃな。


「大漁、大漁~!」


登山用みたいなリュックサックをパンッパンにしながら、大木くんがニコニコで帰ってきた。

背中から、ガラスがこすれるような音が聞こえてくる。


「・・・大丈夫なのか、そんな雑な運び方して」


「気密は保たれてますし問題ありませんよ!帰ってすぐに地下の倉庫に入れる予定ですし」


ふむ、まあ専門家?が言うなら問題ないんだろう。


「じゃあプリンター持って帰るか。この段ボールでいいんだよな?」


「はい!緩衝材も入ってるので多少乱暴に扱っても大丈夫ですよ」


「私も、お手伝いしますね」


何が何やらわからんものばかりだが、大木くんの顔を見る限り大漁なんだろう。

荷物はコンパクトにしたとはいえかなりの分量だ。

・・・何度か往復する必要があるな。

無理して一気に運んで落っことしでもしたら目も当てられない。

俺たちは手分けして、荷物を運ぶことにした。




「ふい~・・・こ、これでラスト、ですねえ」


「・・・無理せんでも俺たちに任せてくれればいいんだぞ?」


「い、いいええ・・・駄目です!できることは、やらないと・・・!です!」


変に真面目だなあ。

息も絶え絶え、汗だくの大木くんが俺の後ろで段ボールを担いでいる。

神崎さんは心配そうに、銃を構えて護衛してくれている。


何往復かして荷物を運び、今回で運び終える。

あまり肉体派ではない大木くんは大分しんどそうだが、それでも頑張っている。

まあ、それもここで終わりだ。

・・・帰りは俺が運転してやろうかな。


後ろの大木くんを心配しながら、1階へ着く。

これを運んじまえばラスト・・・なんだが。


「大木くん、そのまま待機。休憩しといて」


「ふぁ、ふぁいぃ・・・」


大木くんが座り込んだ音を聞きながら、俺も荷物を床に置く。


「・・・いますか?」


「ええ、さっき一瞬陽の光が陰ったんですよ・・・ゾンビか人間か、とにかく誰かいます」


神崎さんに小声で告げ、兜割を抜く。

ゾンビだったら楽でいいんだけどなあ・・・



「俺の車に何の用だ」


出てすぐの所にいたのは、残念ながら人間だった。

今まさに、運転席の扉に手をかけようとしている。


ぼさぼさの髪に、やつれた顔の男だ。

目だけが異様に光っている。


そいつ以外にも、トラックを遠巻きに見ているのが何人か。

男女ともに、見るからに不潔な感じだ。

どうやらシャワーとかの気の利いた施設は利用できない環境らしいな、ここは。


「・・・」


「俺の、車から、手を、放せ」


無言の男に兜割を突きつけ、区切って話しかける。

俺の後ろでは、神崎さんがいつでも撃てるように銃を向けてくれているはずだ。


「・・・」


俺の顔を睨みつけた男は、何も言わずに後ずさりして集団の所まで下がった。

なんか言えよ、感じ悪いな。


「(神崎さん、大木くんと俺の荷物、積み込んでください)」


「(了解です)」


小声で話し、俺は運転席を背にして集団に相対する。

後ろで動く気配を感じながら、兜割に加えて左手で脇差を抜く。

それを目にしても、集団は黙りこくるばかりで動こうとしない。

・・・不気味だな。


武器は・・・木刀や鉄パイプなどの近接用のものばかりだ。

銃はない。

男も女も、一様に黙りこくったまま逃げようともしない


「・・・けよ」


と、急に先程の男が口を開いた。

だが、音量が小さすぎてまともに聞こえない。


「なんだ?すまんけどデカい声で言ってくれ」


そう言うと、その男は急に頭を掻きむしり始めた。


「連れてけっていってんだよ!俺たちを!!」


「・・・は?」


急に喋ったと思ったら、何を言いだすんだ?


「ひ、避難所に連れてけ!!いつ、いつまで、待たせんだよっ!!む、無能が!!!」


・・・俺の姿、警察や自衛隊に見えるか?


「・・・俺は避難所の人間じゃないぞ」


「・・・はぁあ!?」


頭を掻きむしりすぎて手に血が付いた男は、目を剝いて吠える。


「じゃ、じゃあ避難所はど、どこなんだよ!!なんで誰も、誰も助けにこねえんだよぉ!!!」


「・・・皆自分のことで手一杯なんだよ、自分で探せ。車だって物資だってそこら中に落ちてるんだから」


ことここに至っても、まだ他力本願なのか。

こいつら、本当に元大学生か?


「・・・説教、説教すんじゃねえ!!」


「説教じゃないよ。アドバイスってんだよこれは・・・じゃあいいか?俺はもう帰る」


「(準備完了です、いつでもどうぞ)」


神崎さんの声が聞こえた。


「ま、待てや!そ、そのトラックゥ!おいてけ!今運んだ食料もだ!!」


「・・・嫌だね。それに食料じゃない」


喚く男。

その背後の集団から、何人かが殺気立った顔でこちらへじりじりと近付いてくる。

・・・結局こうなるのかよ。

おかしいだろ、まだまだ物資はあるってのに、なんで俺から持っていこうとするんだ。

短絡的にもほどがある。


「おい!!!」


ついにこっちに来ようとした男に向けて怒鳴る。

男は、弾かれたように動きを止めた。


「二度は言わねえぞ・・・それ以上、こっちに、来るな・・・死にたくなけりゃ、な」


二刀を上段に大きく振り上げ、凄む。

ここまで言って駄目だったら・・・もう知らない。

他人にこれ以上優しくしてやる義理は、ない。


「ひ、避難所・・・避難所は、どこだ?」


「どこも満杯だとよ。おとなしく物資を回収して、ここに籠るか安全な場所を探すんだな」


教えてやる義理もないし、教えた所でどうせ入れない。

態度も悪すぎるしな。

子供じゃあるまいし、大学生なんだから少しは自分の頭で考えろってんだ。


「う、うう、ううう・・・」


震え始めた男。

その背後の一人が、木刀を強く握りしめた。


「うるせえ!うるせえうるせえ!!説教すんなああああああああああ!!!!」


何が癪に障ったか知らんが、木刀男は猛然と俺に向かって走り始めた。


「・・・警告はしたからな」


震える男を突き飛ばし、木刀男が俺に走り込んでくる。


「ああああああ!!あああああああg」


見え見えの大振りを放とうとする、その握り手を殴りつけて弾き。


「っふ!!」


がら空きの喉を脇差で切り裂いた。

ぱっくりと開いた首の傷から血を噴出させる男の、その胸を蹴りつけて倒す。


「~~~~っ!!!!~~~~~!!?!?!?!?!?」


首を抑え、声にならないひゅうひゅうという悲鳴を上げながら男はのたうち回り・・・永遠に静かになった。


「・・・まだやるか?」


震えていた男は、それを見て目を見開いた。


「え・・・ええ・・・なんで、なんで・・・?」


「何でって、殴り掛かってきたからだろ。来るなって言ったのにな」


「あ、あああ、ああああ・・・ああ、あああああああああああああああああああああ!!!!!」


男は、地面に転がっていた木刀を手に取ると・・・俺に向かって走ってきた。


「サトシのかた、かたきいいいいいいい!!!!」


・・・そうなると思った。


バタバタと走り込んできた男に合わせ、脳天に兜割を振り下ろす。


「げっびゅ!?」


男はくぐもった悲鳴を上げ、目玉を飛び出させたまま大地に沈む。

時折けいれんをしているが・・・遠からず死ぬだろう。


残りの集団は、まるで死んだかのように静まり返っている。

顔色は真っ青だ。

俺を睨んでいる奴も多いが、かと言ってかかってくる勇気もないらしい。

さて・・・どうすっかなあ。

あっちから来てくれれば喜んで返り討ちにしてやるんだが・・・


「(新手です)」


後方からの声。


学生ホールの入り口が開き・・・中からぞろぞろと人が出てきた。

おお・・・ちょいと、多いかな。

ひいふう・・・乱暴に数えても、40人はいるぞ。

こりゃ、隙を見て強行突破かなあ。


俺たちに向かって歩いて来る集団を見ながら、俺は仮面の内側で苦笑した。

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― 新着の感想 ―
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