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12話 迷子の迷子の女子高生のこと

迷子の迷子の女子高生のこと




気合を入れて叫んだものの、ゾンビ共は一向にこちらに注意を向けない。


死ぬほど恥ずかしいんだけど。


畜生そんなに女の肉が好きか。


あっ・・・よく見たら全員男じゃねえか!!

・・・ゾンビに性欲ってあるのかな?



「こぉのっ!スケベゾンビがっ!!」


そうしてても仕方がないので、一番外側にいたやつの後頭部をぶん殴る。

返す刀で、その横のやつも。


そこまで暴れて、ようやく奴らは俺の存在に気付いたらしい。


手を伸ばしてこっちに来ようとした1体の太腿を叩く。

へし折れる手ごたえがした。


地面に倒してからダッシュで距離をとる。

以前使った掟破りの人斬り戦法だ。


今回は足を攻めてみる。

ゾンビはダメージに無頓着だが、さすがに足を破壊されては走れないだろう。

処理するのはその後でいい。

数が多いしな今は。


10体相手の鬼ごっこはリスクが高すぎる。

足を止めるわけにはいかない。


さらに1体の足を払う。

膝を横から殴った。


ゾンビは愚直に後を追ってくるから、型にはめれば多人数相手でもなんとかなるはずだ。

後は俺の体力次第!がんばれ30代!


はい次!次ぃ!!

倒れたゾンビたちは這いずって動くが、スピードは見る影もない。


これでなんとか・・・



「おじさん!後ろッ!!!」



誰がおじさんじゃうおおおおおお!?!?

いでででで!肩を掴まれた!


畜生新手か!!


「さわん・・・なっ!!!」


反動をつけて思いっきりのけぞる。

ヘルメット越しに鼻の砕ける感触がした。

かぶっててよかった!!!!!


反射的に緩んだ手から逃れ、前方へ踏み込む。


「ッシ!!!」

正面のゾンビの喉を突く。

ボウリングのピンめいてすっ転んだゾンビを踏み、そのまま前に。


迫る3体のゾンビの肩、右手、左足を殴りつつ突破!

細かく狙う暇がない!

息が上がってきた。


そのまま夢中で駆け抜け、学生のいるトラックの荷台へ飛び乗る。

中型トラックで助かったぁ!


息を弾ませながら、残ったゾンビを数える。


新手は2体。

元からいたゾンビは立ってるやつが4体、倒れてるやつが4体。


「だっ大丈夫ですか!?」


「だい・・・大、丈夫。ち、ちょこっと、休憩させてね・・・」


屋根の上にいる学生が心配そうに声をかけてきた。

俺にまかせろー!なんて言った手前、たいそうきまりが悪い。


息を整えると荷台に立ち上がる。


追いついてきたゾンビ達の脳天を、スイカ割りよろしく叩き割る。

こりゃあ楽でいいや!


「ヒィッ!?!?!?」


後ろから悲鳴。

ごめんねグロくって。

でも楽だからごめんね。




「・・・ラストォッ!!!」


地面でもがいていた最後のゾンビの脳天を砕く。


あ、ヤバい。

木刀に結構な数のヒビが入っている。


家に予備があるからいいけど。

最中に折れなくてよかったあ・・・


周りを見渡す。

残っているゾンビも新手も打ち止めのようだ。



「・・・ふう、もう大丈夫だよ。」


振り返ってトラックの上の学生に声をかける。


セーラー服の学生が荷台に降りてくる。


あれは確か、市内の私立高校だな、友達の妹が通ってたから見覚えがある。

結構校則が厳しいことで有名なとこだ。

ここからそう遠くない所にあったはずだが・・・


今時珍しく、髪を二房の三つ編みにまとめている娘だ。


「あ、ありがとうございます、おじさん。もうだめかと思ってました・・・本当にありがとうございます・・・」


おじさん・・・まあ学生にとって30代はおじさんだよなあ。

俺も学生時代はそう思ってたし。

仕方ないかあ。



「一緒に食料を探しに来た人達とはぐれちゃって・・・」

うつむきながら彼女が言う。


「一緒に?どこかに拠点があるの?」


「はい、ウチの通ってる高校が避難所になってて・・・」


やはり学校は避難所になっていたか。

思った通りだ。



「ここではぐれたの?」


「それが・・・学校近くのコンビニに行く途中であの、ゾンビに見つかっちゃって。夢中で逃げ回ってるうちにバラバラになったみたいで・・・気が付いたらここに・・・」


「なるほど、何人で行動してたの?」


「ウチを入れて3人です・・・」


ふーむ、このタイミングで探しに行くのは危険だ。

本格的に雨が降りそうだし。

近所にいるならともかく、どこにいるかわからない人間を探すのは難しい。



「あのさ、もしよかったら学校まで送っていくよ。場所は知ってるし。」


「えっ・・・いいんですか!?」


「友達も学校まで戻ってるかもしれないしさ、こんな身なりで怪しいだろうけど・・・」


「い、いいえ!あんなに頑張って助けてくれたんです!おじさんはいい人です!」


「そっ、そう?」


「そうです!」


な、なんちゅうええ娘や・・・ちょっと感動してしまった。

人間もまだまだ捨てたものではないな。

こんな娘を見殺しにするところだったのか・・・危ない危ない。



・・・しかし簡単に信じすぎじゃないかなこの娘。

将来ろくでもない男に騙されないか心配である。



「とにかく車に乗って。雨が降りそうだし、またゾンビが戻ってくるかもしれないから。」


「はい!お、お世話になります!」


運転席に乗った俺に促され、おすおずと彼女が助手席に乗り込んできた。

狭い軽トラだが、彼女が小柄なので余裕はある。


「あ、あの・・・ウチ、雄鹿原比奈(おがはら・ひな)っていいます!」

名乗ってきた。

うわあ・・・最後まで謎のおじさんとして別れたかったが仕方あるまい。


「ご丁寧にどうもね。俺は・・・田中野一朗太(たなかの・いちろうた)だよ。よろしくね雄鹿原さん。」


「はい!田中野さん!」


本名を名乗ってしまった。

微妙に変な名前だから結構コンプレックスなんだよなあ。

何だよ一朗太って、戦国武将の幼名みたいじゃないか。

妹は普通の名前なのに、何故だ両親よ。


まあ先日のアホ2匹の5億倍くらいまともな娘だし、名乗るくらいいいだろう。



・・・いや待て、0になにを掛けても0だったわ・・・



そんなことを考えながら、降り出した雨の中、アクセルを踏み込んだ。








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