表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/387

19話 かわいそうな動物園のこと

かわいそうな動物園のこと




「すまんのう、田中野」


「あ!田中野さんじゃないですか!」


神崎さんに巴さんにまつわる3人目の勘違い男の話をしていると、ようやく先輩夫婦が現実に帰ってきた。

ふむ・・・今回は55分か。

新記録樹立だな。

抱き合ったまま、ずうっと2人の世界に入っていたから目を向けるのも恥ずかしかった。

っていうか先輩ずっと抱っこしてたよな・・・改めてとんでもない腕力だぜ。


「どうも、お久しぶりです巴さん」


「どうもー!今日はどうしたんですか?ここにご用事ですか?」


元気いっぱいに尋ねてくる巴さんである。

・・・別々に来たと思われているのか。


身長180ちょいの長身に似合わない、なんというか小動物っぽい感じがある。

ウエーブのかかった髪を腰まで伸ばした、ゴージャスな感じの美女である。

先輩と並ぶと、まさに美女と野獣って感じだな。


「巴、田中野はのぉ、ここに一緒に来てくれたんじゃ」


「あら!そうだったんですか!むーさんがお世話になりました!」


「いえいえ、こっちこそ先輩のお陰で大分助かりましたよ」


苦笑いしながら返す。

ほんと、夢中になると周りが見えないのは夫婦ソックリだよ。

・・・まあ先輩の場合は、悪意にはすごく敏感なんだが。


懐かしいなあ、3人目の勘違い男の時。

ノールック無意識で相手の顔面破壊したからなあ・・・先輩。

警察に囲まれたなあ・・・何故か俺も。

相手がスタンガンやらナイフやら持ってたから無罪放免になったけどさあ。

・・・なんかウチの流派、相手の武装で許されてることが多いな?

俺も何回かあったし。

うん、血の気が多いなあ南雲流。


「ところで、先輩方はこれからどうするんですか?」


気を取り直して聞く。


「家のあたりはゾンビまみれじゃけえな・・・どこか適当な場所を探さにゃいけんのう・・・」


おや、それは初耳だ。


「近くにホレ、『ミモリ』の工場あったじゃろ?あっこの作業員が丸々ゾンビになっとるんよ・・・」


超大手自動車メーカー『ミモリ』かあ・・・

ウチの県は本社じゃないけど、確かに先輩の家の近くに工場があったなあ。

寮付きのすこぶるでかいやつが。

・・・あそこの従業員、どれくらいいるんだろう。

100や200じゃきかなそうだ。


「わたしは、むーさんと一緒ならどこでもいいですね!」


巴さんが先輩に後ろから体当たりをするように抱き着く。


「はっは、わしもじゃ」


先輩も愛おしそうに巴さんの頬を撫でる。


はいはいはい、ご馳走様でござる。

仲がいいなあ、相変わらず。

ふーむ・・・それなら。


「先輩・・・それじゃ、しばらく高柳運送で暮らしますか?」


「・・・ええんか?」


「いいもなにも、こちらにはメリットしかありませんしね」


先輩という戦闘力が加わるだけでとんでもないプラスだ。

一緒に探索に行ってほしいってわけじゃない。

留守番を任せられる安心感がすごい。

斑鳩さん母娘もサクラも安全だろう。

先輩なら俺みたいに銃撃を喰らうこともあるまい。

・・・喰らっても軽症で済みそうなのが恐ろしい所である。


「ねえ、神崎さん?」


「ええ、私からもお願いしたいところです」


神崎さんも同じ気持ちのようだ。


「む!」


巴さんが神崎さんにやっと気付いた。

遅い、遅いよ・・・


「む~っ!」


「あ、あの・・・?」


しばらくの間、狼狽える神崎さんを頭からつま先までじっと見つめた後。


「・・・あなたは大丈夫ね!仲良くしましょ!!」


「え?え、え?」


巴さんは神崎さんの両手を取ってきゃいきゃいしている。

なにこの・・・なに?


「すまんのう、田中野ォ・・・わしゃあええ後輩を持ったわぃ・・・」


「わっちょっと泣かないでくださいよせんぱあだだだだだだ!!!」


感極まった先輩が俺の手を握って・・・握り潰されそう!!!

やめて!!手の甲に物理的に関節が増えちゃう!!!



・・・というわけで、先輩は暫定的にうちで暮らすことになった。

巴さんは荷物もそんなにないので、準備もすぐに済んだ。


「お待たせしましたぁ!」


小さいナップザックを背負った巴さんが、俺たちに合流してくる。

会社の人たちとの別れも済ませてきたようだ。

まあ・・・巴さんにとって先輩が一番だからな・・・

名残惜しくもなさそうだ。

寂しくはあるんだろうが、先輩と暮らせる嬉しさの方が大分勝っている感じだな。


よし、じゃあ最後に動物園エリアに行って山中さんを探そう。

それで今回の目的はクリアだ。


「むーさんの腕、久しぶり~」


「巴は相変わらずやわいのう・・・」


「むーさんはカッチカチ~!」


先輩と巴さんは腕を組んで楽しそうに歩いている。


「仲が良くてうらやましい限りですな」


独り身の寂しさ・・・はそんなに感じないなあ。

やっぱり俺は、そこらへんの感受性が絶滅しているらしい。


「そうですね!そうですね!」


神崎さんも楽しそうで何よりである。

殺伐とした毎日なので、こういうのを見ると心が洗われるようだなあ。


中央センターを出るべく歩いていると、視界に奈良橋の姿が。

ベンチに座って項垂れている。

何いっちょ前にショック受けてんだよ気持ち悪いな。


「あーっ!」


巴さんが急に大声を出した。


「奈良橋くん!」


まさか声をかけられると思ってなかったのか、奈良橋がビックリしたようにこちらを見る。


「ほら!見てください!むーさんはちゃあんと迎えに来てくれましたよ!」


「あ・・・え・・・」


先輩と組んだ腕をぶんぶん振り回して巴さんが満面の笑みで言う。

奈良橋は何とも言えない表情だ。


「それじゃあ、さよならです!」


「あ・・・はい・・・」


「わたし、キミのことほんっとに大嫌いでしたけど・・・むーさんが来てくれて嬉しいので許してあげますね!!」


「・・・ぁ」


もう何も言えない奈良橋にそう言うと、巴さんは幸せそうに先輩に抱き着いた。


すげえ、言葉だけでトドメを刺したぞ。

もう奈良橋のライフはゼロどころかマイナスである。

強く生き・・・なくても別にいいわあんな奴。


さらに項垂れた奈良橋を放置し、俺たちは歩く。


「あの、奈良橋ってのとなんかあったんですか?」


理由は知ってるけど一応聞いておこう。


「そうそう、聞いてくださいよォ!あの人、むーさんはもう死んでるとか迎えに来ないとか会う度に言ってきたんですよォ!!」


「ああ・・・なるほど・・・」


そうやって攻めようとしていたわけか・・・

下種め・・・やっぱり右手首くらい破壊しておけばよかったかな・・・


「結構仲良くしてたつもりなんですけど、奈良橋くんはわたしのこと嫌いだったんですね!わたしも、むーさんのこと悪く言う人は大っ嫌いですけど!!」


・・・よかった。

あのアホの気持ちは一切届いていない。

わかっていたことだが。


「・・・どこにも変な人間ってのはいますからねえ、先輩」


「・・・ほうじゃの、田中野」


「・・・そうですね、大変ですね、はい」


俺たち3人は大人なので流すことにした。


巴さん・・・昔っから自分への好意に疎いというか・・・

というよりも先輩以外の男性に一切そういう感情がないというか・・・

バレーへの情熱が、先輩への愛情にそのまま変換されたのだろうか・・・?



中央センターを動物園エリア方面に向けて出る。

遠くに檻が密集した空間が見える。

管理棟ってのは・・・あの奥にちょこっと見える建物かな?


・・・懐かしいなあ。

一部を除いて全然変わっていない。


「動物、いませんねえむーさん・・・」


「ああ、ほうじゃのう・・・」


・・・薄々わかっていたことだが、檻の中に動物の姿はない。

『アフリカゾウのサチコ』という看板の先にも、寂しげな空間が広がっているだけだ。

高校生の時に見た光景が切なく思い浮かぶ。

・・・これはやはり、考えていた通りの結果かもしれんな・・・


「巴さん、動物園の人たちと避難してきてから会いましたか?」


「う~ん・・・わたしもこの前避難してきたばっかりだから・・・わかりません」


それに、先輩のことが心配でそれどころじゃなかったんだろうし。


なーんか、中央センターの避難民とは距離を感じるんだよな。

先輩たちが抱き合っている時に周囲の人に聞いても、そっけない感じだったし。

独立して運営してるのかな?


ライオン、虎、カバ、キリン・・・

歩きながら見る檻は、その全てががらんどうだった。


「仕方のない・・・ことなんでしょうね、これは」


悲しみを含んだ声で、神崎さんがこぼす。


「そうですね・・・そうなんでしょうねえ」


・・・人間の食料にも苦労する状況なんだ。

動物に回す食料なんか、あるはずがない。

なまじ俺の周りが恵まれているから忘れてかけていたが、今は厳しい状況だからなあ・・・

俺だって、サクラ程度なら面倒も見れるが・・・さすがにゾウやカバは無理だ。


何とも言えない気持ちを抱えて、無言で歩く。

無人の檻が立ち並ぶエリアを抜けると、やっと目の前に管理棟の入り口が見える。

門番だろうか、警官が2人立っている。


「ご苦労様です、私は・・・」


いつものように自己紹介を神崎さんに任せる。

適材適所、適材適所でござる。

ありがたいことでござるなあ・・・


「そうですか、お入りください・・・ですが、職員の方々はその、大分消耗していらっしゃいますので」


「お声かけには、十分注意なさってください」


神崎さんの説明を受けた2人の警官が、口々に言う。

・・・ふむ、やはり思っていた通りのようだ。


警官に会釈し、入り口をくぐる。

・・・静まり返った内部は、薬品のような臭いがする。

物音はあまりしない。


カツンカツンと、俺たちの足音だけが廊下に響く。

とりあえず職員の人を見つけて、山中さんの安否を確認しないとな。


そんなことを考えていると、廊下の端のトイレから男性が出てきた。

『リュウグウパーク』と印字された作業着を着ている。

飼育員の方だろうか。


「あの、すいません」


声をかけると、男性はゆっくりとこちらへ振り向いた。


「・・・なんでしょうか」


俺と同じくらいだろうか。

その目の下には深いクマがあり、全体的に覇気がない。

まるで死人のような顔色だ。

かなり疲れているようだな。


「あの、ちょっと聞きたいことがありまして・・・」


「・・・死にましたよ」


「・・・は?」


急にとんでもない答えが返ってきたので、思わず聞き返してしまう。

死んだ?一体誰が死んだって言うんだ?


「サチコも、ゴンタも、ユカリも、みんな、死にましたよ」


ブツブツと、誰に聞かせるでもないように男性は話す。

この名前って・・・


「あの、えっと・・・」


「なんですか!これ以上何が知りたいんですか!!」


男性は俺を睨みつけて叫ぶ。


「ああそうですよ!みんな、みんな死んでしまいましたよ!殺しましたよ!!一生懸命お世話したみんなは!満足ですか!満足ですかこれで!!」


ゆらりと寄ってきた男性が、俺の胸倉を掴む。

動きかけた先輩と神崎さんを手で制す。


「何が食料の無駄だ!何が安全のためだ!勝手に、勝手に避難してきた癖に!!」


男性は見開いた目からボロボロと涙を零している。


「お前らなんかより!あの子たちの方が大事だったんだよ!!それを・・・畜生、畜生!!うあああああああああああ!!!」


男性は、俺の顔を何度も何度も殴る。

こんな殴り方じゃ拳が痛いだろうに、それでも殴る。

ちなみに俺の方はほぼノーダメージだ。


視界の隅で、先輩が神崎さんをなだめ、さらに巴さんが羽交い絞めにしているのが見える。

・・・無茶苦茶怒ってるな、神崎さん。

うわあ、心配かけちゃってるなあ。


「落ち着いてください、ね?」


その手を受け止め、目を見て噛んで含めるように言う。


「俺たちは、ここの職員の山中さんを探しに来たんです。本当ですよ」


「・・・え?」


「山中美登里さんです、ご存じですか?」


「山中・・・さん、を?」


「そうです、息子さんと娘さんの知り合いなんですよ、俺。知ってます?新と志保ちゃんって言うんですけど・・・」


「あ・・・」


恐らく正気を取り戻した男性は、俺の胸倉を掴んでいた手をほどくと、よろよろと後退して廊下の壁に背中をぶつけた。

そのままずるずると、床に座り込んで顔を覆う。


「あ、ああ・・・僕、僕はなんてことを・・・」


「まあまあ、お気になさらず・・・動転なさっていたんでしょうから。俺以外にはやらないようにしましょうね」


俺はしゃがんで声をかける。


反撃も制圧もできたが、なんというか・・・あまりに悲しい顔をしていたのでその気も失せたのだ。

言葉の端々から、血を吐くような悲しみが伝わってきた。

なにか、とても辛いことがあったんだろうなあ。

なんとなくわかるけども。

わかりたくもないけども。

それに、パンチもたいした威力じゃなかったし。


「それで、山中さんはどちらに?」


俺の顔を見た男性は、廊下の奥を力なく指差す。


「この、突き当りの部屋にいらっしゃいます・・・あの、ぼ、僕は・・・」


「ああ、ありがとうございます。みんな、行きましょうか」


「ほうじゃのう・・・」


謝罪の言葉を待たずに立ち上がり、先輩たちに言う。

先輩は何とも言えない顔をしているが、話に乗ってくれた。


「す、すみませんでした・・・」


座り込んだままの謝罪。

男性は、廊下にぽたぽたと涙を零している。


「・・・あんたがそんなんじゃ、サチコちゃんも浮かばれないぞ」


「・・・え?」


「しんどいだろうけど、頑張れ」


そう言って、俺たちはその場を後にした。



「田中野さん、大丈夫ですか?」


神崎さんが心配そうに聞いてくる。


「・・・動物の、名前なんですよ」


「え?」


「さっきの人が言ってたの、全部ここの動物の名前だったんです」


ここに来るまでの檻に書いてあったのを、殴られながら思い出した。


「じゃあ、殺したっていうのは・・・」


「そういうこと、なんでしょうねえ」


勝手に避難してきて、とも言っていたな。

何か、避難民との間で軋轢でもあったんだろうなあ。

食料とか安全とか言ってたし。


「それに、あんな顔した人殴れませんよ。まあ、武器でも持ってれば別ですけど」


「・・・田中野さんは、やっぱり優しいんですね」


「何をおっしゃる。こんなもんただの気まぐれですよ・・・虫の居所が悪ければ挽肉にしてたかもしれませんよ~?」


「ふふ、そうですね」


・・・なんか知らんが機嫌が治ったみたいでよかったよかった。


「んっふ~、ふっふっふ~」


巴さん、なんですかその顔は。

満面の笑みじゃないですか。


「春ですねえ、むーさん」


「春じゃのう、巴」


もうすぐ梅雨だぞ。

何言ってんだこの夫婦は。

首を捻りながら廊下を進む。


廊下の突き当りに『獣医室』と書かれた部屋があった。

・・・ここかな?


軽くノックすると、中から「はい」と返答があった。

女性の声・・・山中さんかな?


「すいませーん、お邪魔しまーす」


声をかけながら入室する。


ほほう・・・動物病院なんか行ったことないけど、いかにもって感じの部屋だな。

そこそこの広さの室内には、医療器具やライトなんかが雑多に置いてある。


「あの、何か御用ですか?」


室内には白衣を着た女性が一人。

眼鏡をかけた優しそうな人だ。

目元に疲れが見える・・・かなり憔悴しているようだな。

・・・山中姉弟のおばさんによく似ているな、この人で間違いないだろう。


「こんにちは、私は田中野一朗太と申します。山中美登里さん、ですか?」


しっかりと名乗る。

こういうのは第一印象が大事だからな。


「はい、そうですが・・・」


怪訝そうに女性・・・山中さんが答えた。

よし!見つかった!


「あのですね、実は・・・」


俺は、これまでの経緯をざっくり順を追って説明することにした。


山中姉弟を助けたこと。

友愛高校で保護してもらったこと。

そこには叔母の朋子さんもいること。

姉弟には知らせずに探しに来たこと。


わかりやすくまとめられたと思うが・・・


「ほ、本当ですか!?本当に新と志保、それに朋子まで無事で!?」


効果は抜群で、さっきまでの憔悴具合が嘘のように山中さんは元気になった。


「はい、本当です・・・信じられないかもしれませんが・・・」


「すみません、山中さん。私は神崎凜二等陸曹と申します」


おっと、神崎さんも助け船を出してくれるようだ。

身分証片手に、山中さんに敬礼している。


「田中野さんの言っていることは真実です。私もご子息たちと少し付き合いがあります、お元気な様子でしたよ」


「そ、そうです、か・・・」


山中さんは感極まった様子で嗚咽を漏らし、堰を切ったように涙を流し始めた。


「あ、ありがとうございます田中野さん・・・ありがとうございます・・・!!」


俺の手を握り、号泣する山中さん。


「いえいえ、新たちが頑張ったおかげですよ。2人で一生懸命頑張って生き抜いていたから、俺が見つけられたんですから」


謙遜じゃなくて、これは事実だ。

あの日まで生きていてくれたから、助けられた。

早い段階で諦めたり、死んでたりしたらそもそも俺はここに来てすらいないだろう。


「いっぱい褒めてあげてくださいよ、山中さん」


「はい・・・!はい・・・!!」


その先はもう声にならない様子だ。

随分張りつめていたんだろうなあ・・・

巴さんのこともあるけど、ここに来れてよかった。



山中さんはしばらく泣き続け、ようやく落ち着いたようだ。


「それで・・・どうします?詩谷に帰りますか、山中さん」


頃合いを見計らって本題を切り出す。


「は、はい・・・!連れて行ってくださるんですか!?」


山中さん、さっきとは打って変わって元気になったなあ。

母は強し、ってやつかな。

俺の周りにはそんな人たちが多いなあ。


「ええ、そろそろ報告に帰る頃合いだなって思ってたんで・・・よろしければ、一緒にどうぞ」


「はい!・・・はい!!」


「荷物の関係で一泊してから向かうことになりますけど、それでいいですか?」


先輩夫婦を一旦降ろさないといけないしな。

山中さんにも風呂に入ってもらってリフレッシュしてもらおう。


「大丈夫です!すぐに荷物を整理してきます!車もまだ動くはずですので、後ろを付いていきます!」


そう言って、山中さんは奥の部屋に走って行った。


おお、車があるのはありがたい。

俺の軽トラ、もう荷台しか載せられる所ないもんなあ・・・・

先輩たちは荷台に乗ってもらうことになりそうだ・・・




「なるほど、こうくるのか」


「ええ天気じゃのう・・・」


俺は、軽トラの荷台で過ぎ去る景色を堪能しながら一服している。

先輩も空を見て楽しそうだ。

後ろには、ぴったりとこちらに付いてくる山中さんの車が見える。

獣医さんって儲かるんだなあ・・・俺でも知ってる高級車じゃないか。


リュウグウパークを離れ、現在は硲谷の入り口あたりまで戻ってきた。

神崎さんも安全運転だが、この速度ならあと20分くらいで帰れるな。



運転は神崎さん、そして助手席には巴さんが座っている。

当初は、先輩夫婦に荷台に乗ってもらう予定だったのだが。


「神崎さんとお話したいですっ!」


という巴さんの発言によりこの状態になった。


当の巴さんは、何やら楽しそうに神崎さんに話しかけているのが見える。

・・・まあ、いいか。

2人とも楽しそうだし。


「・・・感謝するぞ、田中野」


「・・・なんですか急に。いいんですよ気にしなくて」


先輩が俺に頭を下げてくる。


「おまーと神崎さんのお陰で、巴に会えた・・・わしゃあもうこれ以上何もいらんわぁ」


「・・・あのですねえ、先輩なら1人でもたどり着けたでしょうに」


「神崎さんがおらにゃあ、ああまですんなり入場できたかもわからんけぇな」


ま、確かにそれはそうだな。

しかしこそばゆいなあ、もう。


「なんでも手助けするけえな、わしに言うてくれよ」


「ああもう・・・わかりました、わかりましたよぉ」


俺はやりたいようにやってるだけなんだってば・・・

・・・しかし、神崎さんはこんなちゃらんぽらんな俺によくついてきてくれるよな。

むむむ、愛想をつかされないように気を付けよう。

・・・具体的に何に気を付けたらいいのかわからんが。


「・・・ぬ」


お?

先輩、どうしたんだろう。

急に六尺棒なんか持ったりして・・・


「・・・いかん」


視線の先を見ると、山中さんの車か?

いや、その後ろに・・・おや、普通に走ってる車なんて久しぶりに見たなあ。

3台並んで接近してくる。


「・・・嫌な予感がするのう」


単眼鏡を取り出して見る。

普通の乗用車だが・・・特にこれといって・・・


・・・あ。


「山中さん!前に!前に出てください!!」


後続の山中さんに手を振り、身振りで軽トラの前に出ろと示す。


「神崎さん!変な車が来ます!山中さんを前に出します!!」


同時に、運転席に叫ぶ。


「後方3台!武器アリ!!」


「・・・了解ッ!!」


開いた運転席の窓から、神崎さんの声が返ってきた。


さっき見た時、助手席の人間がハンマーを握っているのが見えた。

何をする気か知らんが、用心しなければ!


「来よるぞォ!田中野!!」


山中さんの車が加速すると同時に、後方の車列も加速した。

・・・畜生!

後は帰るだけだと思ったのになあ!!


俺は、うんざりした気持ちで引き抜いた拳銃の残弾を確認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 矢張りこういう時には細い鉄パイプを使った 対車両用の撒菱を作って置かないと 大木君に頼んで乗用車用トラック用の 撒き菱作ったら?大木君の技術力が無いと 作れないよ? BB弾を撒く装置も良いか…
[一言] 動物園スタッフも避難民もどっちが悪いとかの話じゃないから難しいなぁ スタッフの錯乱具合からして避難民側が強引に間引きしたのが伺えるし、それが溝をさらに深くしてる感じ ここまで派閥化が進んでる…
[一言] 一太郎、お前人のこと言えないぞ 鈍いんだからな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ