蓮司の狂愛 嵐の夜 一
稲妻が大地を這う。
地響きがするような轟音が稲光とともに起こった。
もう寝苦しい夜には間違いないらしい。携帯の電源は非常用のため100パーセントにしてあった。でも、どこかの地域では避難勧告が出るぐらいの豪雨のようだった。
降りしきる雨や風の音の中、しばらくの間、眠たさと微睡みを行ったり来たりしていた。どのくらい寝ていたのか定かではなかった。
ゴンゴンっと強い音で、誰かが美代のオンボロアパートのドア(いえ、これだけはなんかゴージャスなのだが)を叩く音がした。
最初は風が何かのイタズラだと思い、無視をした。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
今度は物凄い音だ。
間違いない。
誰かが来たのだ。
もしかして、消防団とかの人だろうか? 避難勧告とか出たのだろうか? 布団から這い上がり、部屋の電気つけた。ドアスコープを覗く。目に入ってきた光景に驚きすぎて、ドアから後ずさりをして離れた。
「……美代、開けろ!」
ドスの効いた低音が響いた。
声を聞いただけで身体が熱くなる。
「か、会長っ!なんで……ここに……」
「……開けろ、美代、ぶち破るぞ。それでいいのなら、構わない」
こんな頑丈なドア、どうやってぶち破るのだろうか?でも、この最高に不機嫌な会長ならやりかねない。恐る恐るドアの鍵を開けた。
バンッという物凄い音とともにドアが開いたのだが、それよりも会長のずぶ濡れの格好に唖然とした。
ドアのところには、この嵐が連れて来たかような大男の悪魔が、黒いコート、スーツ、靴、髪の毛、全てがずぶ濡れで立ちすくんでいた。足元には水溜まりができるほどの濡れようだった。だが、傘らしきものが見当たらない。
な、なに?
悪魔? バンパイヤ?
色香と殺気が混じり合う切れ長の目線が美代を獲物を捉えるように睨んだ。いつもの甘い優しい蓮司は全くいない。目線を合わせるだけで、心も身体も全て殺されてしまうような、強烈で獰猛な視線だった。腰から下にうまく力が入らない。いつもの様子と全く異なる蓮司に美代は慄いた。震えながら問いただす。
「か、会長、あの傘も差さずに、どうしたのですか?」
「……ど、どうしただと?」
蓮司の目に野獣のような光が射す。美代も、今、自覚した。今の言葉、完全にフラグ立ってしまったらしい。
ま、まずい? なんか言っちゃった?
静かに蓮司がそのドアから入り、何も言わずにドアの鍵を閉めた。
え、何で鍵をしめるの?と、思っていたら、玄関口でどんどんとコートやら、なにやら蓮司が脱ぎ出した。その冷静に見える行動が美代をもっと不安にさせる。
「か、会長、何故、お脱ぎになるのでしょうか? あのーー、着替えでしたら、お風呂使ってください」
すでにネクタイをほどき始め、シャツさえも半分脱ぎ捨てた蓮司が美代を見つめた。美代は何か嫌な予感しかせず、後ずさりをする。
「お前、ふざけた事を言ってたな………」
シャツを完全に脱ぎ捨てた半身裸の蓮司が、美代ににじり寄る。
美代の部屋は狭い。
完全にもう後ろへと引けなくなる。足の踵が壁際に当たった。
美代は背中にオンボロアパートの部屋の壁を感じる。
「何だ、美代、どうして逃げる?」
鋭い眼光が美代を睨みつける。気がついたら、蓮司の腕の間に挟まれていた。獲物を捕獲した肉食獣はその匂いを確かめるように、獲物に近づく。
迫ってくる蓮司の顔をうまく見ることができない。身体が拒否していた。
「だって、会長が、近づいて、くる、、から、、」
ふっと、笑う声が聞こえた。
「自分のものに近づいて、何が悪いんだ……」
腹の底から響いてくるような声でいわれる。それだけで、美代の背筋に電流が流れるような感覚がくる。立っているのがギリギリだ。顎をクイっと上げられた瞬間、会長がこういう行為の達人だと思い知る。
美代の身体を壁に押しやり、逃げ場のないような状態で美代を野獣は食べ始めた。
自分の口元から考えられないような卑猥な音が聞こえる。飴玉でもなんでもないのに、蓮司は美代の口を全て食らうような勢いだ。
胸に差し迫る苦しさを紛らわすように、抵抗し、息の狭間に声を出す。
「私……か、会長のもの、で、は、ない!」
蓮司はキスを落とし続けた。彼が口の中を駆けめくり、息さえも難しい。今までのキスも何度も慌てていたのだが、今回のは、そんなものではなかった。
喰われて食べられてしまうような、野獣が捕まえた獲物を骨の髄まで食べ尽くしてしまうような、荒々しく、濃厚で、獰猛なキスなのだ。
「わからせてやる……お前は俺のもんだ……」
本気が入った蓮司を止めるものは何も無い。ただただ、美代はされるがまま、蓮司を受け入れた。彼が身体から発する熱でさえも美代をクラクラとさせる。
すでに美代は全身に鳥肌が立つような感覚で、動けない。このまま正常な状態に戻れることは出来ないと思う。
「あ、あぁ、あ、、、、はぁ、許して、、、」
甘い吐息が自分から漏れてしまう。恥ずかしさに顔を赤らめ、ぐっと押しやってみたが、そんなことは一向に無視され、キスは止まらない。蓮司は全く自分の腕の中にあるものを離しはしなかった。美代が抵抗すればするほど、蓮司はもっと美代を攻めた。美代は初めて男の力を感じた。前は手で口を隠せるくらいの余裕があったのに、強靭な肉体はビクともしない。今まで、デートなどで、キスされていたが、いかに蓮司が甘く、優しく、自分の力を抑えながらしてくれていたのかを実感した。そんな違いもなぜかもっと自分を切なくする。
「美代、ダメだ。許せない………」
蓮司の言葉が美代に響いた。キスは美代が失神しそうなほど続いた。その行為が当たり前であり、まるで何かの掟を破ったものを罰するかのように、美代に有無を言わせないで美代をどんどんと追い詰める。しまいに、美代は自力で立てなくなった。腰に全く力が入らず、ズルズルとお尻が地面に落ちていく。もう、外の嵐の音など美代の耳には届いてなかった。荒々しい男の息遣いが美代を狂わせる。そして、女の思わず漏れてしまう甘い吐息と、やめてと懇願するか細い声が蓮司を奮い立てた。
とうとう、蓮司も美代に合わせて、膝をつき、美代の感じやすい部分を知り尽くしているように貪りつく。二人はキスしながら座り込んでしまう。
すでに完全ユデダコ状態、トロンとした高揚した美代の顔を見て落ち着いたのか、それとも美代がくだらないことを言うのを諦めたのに満足したのか、蓮司の口づけが緩やかになる。
「美代、お前には………聞きたいことが山ほどある」
蓮司の前髪の毛の先から、一滴の雫が滴り落ちた。
雫が美代の首元に落ち、下へと流れていく。その感覚にぞくっとしながら、目の前の猛獣と対局しなくてはならなかった。失っていた意識を多少戻して、聞き直す。
「な、なに? 何ですか?」
口角を上げて、ニヤリとした会長が美代を見つめる。
蛇に睨まれた蛙のように美代は動けない。
「まず、なんだ? あの電話の留守番は?」
耳元で怪しく囁かれる。
「え、あの、あ、、、そこ、ダメ、え?留守電?」
「ああ、お前、俺の留守電に、何か冗談でも入れなかったか?」
低音のボイスが耳元で響いた。
「ヒィイ!!か、噛むの禁止です!!ダメっ!」
「ああ、噛むのはダメなのか。わかった」
今度は生温かいものが耳元から首筋へと流れる。
思わず口から吐息が漏れる。不可抗力だ。ひえーーーんっ。もうだめだ。完全に会長の言いなりだ。




