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デートの巻 弍

お昼は同じく中華街で食べた。モールはその後でいうことになった。


なんだかすごく変な感じだ。だって本当のデートみたいだ。相変わらず蓮司は、通り過ぎていく女性達から熱い視線を受けているが、やっぱりこのチャイナタウンという、ある意味異世界の空間が、二人の距離を縮めていた。


「いろんなレストランがこの町にはあるけどな、カジュアルか正式かどっちがいい? 美代」

「あのー、申し訳ありませんが、出来るだけカジュアルでお願いします」

「せっかくだから、ここチャイナタウンで食べるか?」


返事代わりににっこりしながら美代が頷いた。先ほどからいろんな中華のお店を見ているので、匂いなどにつられてちょっと食べたくなっていたのだ。


「いい店を一軒知っている」


そして、蓮司につられて、一軒のちょっとそこそこいい感じ中華のお店に入った。高級までとはいかないが、飲茶で大繁盛しているようだった。


店の外には人がたくさん並んでいた。


「悪いな。ここの料理を食べさせたいんだが、ここは予約が出来ない店なんだ。最初からデートとしては減点だとは思うが、一緒に並ぶのも一興だろう?」


「超、意外すぎて、びっくりです。会長ってこういうところには来ないと思っていました」

「あーー、見かけで判断するなよ」


しばらく並んでいたが、ウェイターの一人が蓮司を見た瞬間、慌てて中に入りだれかを連れてきた。急いで出て来た30代くらいの男が蓮司をこれまた見た瞬間、叫び始めた。


「え!やっぱり!!!ウォンが兄貴が来てるっていうから。うそだろ?って言ったんですけど。ほんまに兄貴じゃないですか?お久しぶりです。え、そちらは?まさか?」


「龍、久しぶりだな。今日はお前の料理をこいつに食べさせたくてな」

「ひぇー、そんな大層な料理じゃないですけど、まあ、気持ち込めて作ってます」

「いいじゃないか?それで美味くて人気なんだろう?」

「ありがとうございます。そう言ってくださると嬉しいばかりです。あれ、珍しく真田さん、いらっしゃらないんですか?」

「あー、そうだな。あいつは留守番だ。デートにあいつまで一緒というのは変だろう?」

「!!!!」

「なんだ。その驚き様は?」


龍と呼ばれる人は驚きのあまり、声が出なかったようだ。


「す、すみません。兄貴。驚き発言すぎて腰が抜けそうですが、デート??兄貴が??こ、こちらのお嬢さん、もしかして、その兄貴のコレ、ですか?」


龍さんが小指を立てて、蓮司にかざす。


「なんだ。それは? まあ、俺の連れだ。よろしくな」

「信じられない。兄貴がデートだなんて。マジですか?」


頭が角刈りで厨房から出て来たような料理人の格好の龍と呼ばれる青年は頭をぺこりと下げながら、美代に挨拶をした。


「えーと、あ、まあ、よろしくお願いします。姉さん」

「え、あ、姉さんではないですが、土屋美代と申します。 初めまして、龍さん?」

「美代。一応、龍はここのオーナーシェフだ。昔ちょっとな、色々あって知り合ったんだがな。なぜかいつも兄貴って呼ぶんだ。龍、もうやめないか? その呼び方」

「あー、兄貴は兄貴です。俺の命の恩人ですから。並んでいただいて申し訳ないです。どうぞこちらに、すぐ用意するので」

「え、いいんだ。龍。順番を待つ。悪いがな、中ではちょっと静かな場所だけお願いしたい」

「あ、兄貴ーーーーっ。普段の兄貴はなんでそんなに謙虚なんですか?すご過ぎます。でも、怒った時も知っているで、別人ですね~~。ハハハハハッ。あ、すいませんです。しゃべり過ぎました。わかりました!!早く客にうまいもん食べさせてみんな速攻に追い出します!!」

「あ、なんだそれは。それはまずいだろ、龍。俺は美代が隣にいれば、それでいい。待つのは構わん。たぶん、美代も横入りとかは性に合わない性格だ。そうだろ?美代?」


余りにも自然なやりとりに美代が驚いている。


「もちろんです。みなさん待っているなら、待ちますよ。それだけ美味しい料理を楽しみにしていますから」


その言葉を聞いた龍と呼ばれている男は、感極まった表情を浮かべて、「わかりました。いち早く追い出してみせます」といって店内に消え去った。余りにも、嵐のような人だったので、美代が放心している。


「どうした?」

「あんまりにも、なんて言うか?自然で・・蓮司かい、いや、蓮司が・・」

「そうだろ?俺も普通の人間だからな。特にな、あの龍に会ったのは俺がまだ高校生だったしな・・長い付き合いだな」


余り待たない間に、店内に入ることができた。やはり思った通り、個室に案内された。超でっかい丸テーブル、たぶん10人は軽く座れそうなテーブルに隣同志で座った。適当に好きな物を注文し、お料理出てくるのを待った。本当は、飲茶もカートごと来るらしいのだが、龍さんがお願いしますから、最初から注文してくださいと懇願される。どうやら、龍さんが、兄貴に他の人が取れるような物は出したくないっと言われたせいらしい。別個で兄貴専用で全部作りますと言って聞かなかったので、それじゃー、欲しい物をこちらから注文しますと言うことになった。


ようやく落ち着いて蓮司と話せるようになる。


「龍さんって、蓮司か、いっ、いや蓮司の事が大好きなんですね」

「ふふふっ。危なかったな。美代」


蓮司の大きな手が美代の頭を撫でる。


「あーー、まあ好かれているかもな。あいつは根が真面目だ。しかも、俺が大原の跡継ぎってわかってもな、態度が変わらない少ない知人のひとりだ」

「そうなんですか? あの、やっぱりみんなその、変わるんですか? 知っちゃうと?」


あえて会長っと言うことは言わなかった。無表情だが、何かを思い出すような蓮司が美代を見る。


「ああ、そうだな。変わるな。それが良い事なのか悪い事なのか、当の昔にその価値観は俺からなくなったはずだが、お前に聞かれると、なぜかクるな」


黙っていた美代が顔を雲らせる。


「・・・変人!!」

「なっ、美代。いきなり、変人とは!」

「悪いことに決まっているじゃないですか? 悲しいことですよ。意地っ張りです。蓮司は!!」

「お前は!!」

「お前呼ばわりなんて、100年早いです。そういう悲しいことをそうやって、かっこよく仕舞い込んで、忘れたふりをするなんてですね、意地っ張りのカッコつけです」


蓮司が目を点にさせ美代を見つめた。正直、美代は言い過ぎたと思っていたが、ここで蓮司に激昂されても、今日は無礼講と言う印籠がある。言ってやるわよっと言う気持ちが優った。


突然、蓮司が俯いた。怒られるのかと思い、ちょっと身体が震えた。しかし、小刻みに身体を震わせているには、蓮司の方だった。


「あははははっ。サイコーだ。美代。なんでお前は、俺を心から悶えさせるんだ?」


え?っとした表情で、美代は困惑していた。


「美代、料理食べたら、二人だけにならないか? やっぱりデートの醍醐味はベットの上だろう?」

「え、ちょっと!!それは!」


腰をぐいっと引き寄せられる。


「外で初めてはマズイだろしな」


硬直した美代がその時動いた。


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