美代、トロけた美男子の横で言葉を失う
肌ざわりの良いコットンのシーツが身体を包んでいる。あー、すごい気持ちがいい。この布団、なんかふわふわしているに、全く重くない。おかしいな。こんなだっけ? うちの掛け布団。もっと薄いのに、どしーっん来る感じのような布団のはずだ。
あれれっ。何でしょうか? 目の前にあるこの薄茶色に光る髪の毛?
自分の枕の横に、顔は髪の毛でかぶさって良く見えないが、キラキラするイケメンっぽい物体が寝転んでいる。
ハッとする。
誰? この隣に裸で寝ている方は?
肩から腕にかけて色っぽくありながら、なぜか男らしくも見える筋肉が見え隠れしている。
待て待て?! 誰でしょうねーー。こちらの方は?
あまりにもの緊急事態の為、頭の回線が完全にショートし、おかしくなっている。
部屋の周りの状況を確認する。キングサイズのベット。シンプルでモダンな内装だ。あまり飾りが多い部屋では全くない。この見覚えのない部屋で、見知らぬ男が横に寝ているのだ。
選択は一つだ。
よくわからんが、逃げよう!!
そろーーっとベットを降りようとした。
!!!!!
うわーーーーっ。な、何で私、パジャマ着てんの?しかも、サイズぴったりのだ。
そして、ブラがない。
何でしょうか?この状態。
何だか、前にもこんな事あったよね。自分のアパートで。風邪もひいていないのに、悪寒が身体を駆け抜ける。
訳がわからないが、美代は、この半身裸(想定だ。まだ下の方は未確認だが、そのまま未確認の状態のまま立ち去りたかったのだが)の男から逃げる事を最優先課題とした。
ゆっくりとベットから体を起こしていく。足音を消し、その寝室を抜け出した。
愕然とする。
隣の部屋は、あの見覚えのあるリビングルームだ。蓮司会長のあの部屋。
つまり、連れ込み部屋。
つ、連れ込まれたのか? 私が。
でも、ちょっとおかしい。連れ込まれたのに、なぜか私はパジャマ着ている。でも、ブラ無しという微妙なラインだ。しかも、地味女を自負している私を連れ込むほど、あの会長様は女に困っているとは思えない。
なぜだ。
誕生日で酒に飲まれた部下の介護?
うーーん、他に部屋があるのになぜ、蓮司会長の私室の寝室。全く今の状態に陥った原因が想像つかない。他の部屋のシーツを使いたくないのか? それとも、シーツがまだ生半乾きとか? あり得ないだろう、だって大原財閥ですから!!
特に、今まで男性と何ら経験がない美代は、意味がわからない。
どうやら、あの誕生日会の最中に、やらかしてしまったのだろう、私は・・
あー、まずい。こんな大人だけにはなりたくなかった。酒でまた我を忘れるとは・・
このままリビングルームのドアから逃げようと思っていた。
が、ある事実を美代はまた思い出した。ブラと洋服。
どこにあるのか探しても、このだだっ広いリビングルームにはありそうにもなかった。
もしかして・・・
足音を消して、先ほどの寝室覗き込む。例のイケメン半身裸男(想定)は、まだシーツにくるまって寝ている。そして、サイドテーブルに目的の物体を見つける。
あーー、あるよ。私のブラが!!畳んであるし。自分の洋服の上にきっちりと置かれている。しかも、蓮司が寝ているサイドのテーブルだ。
はあぁーーー、取りに行くの? 私??
意を決して足音を消し、そのサイドテーブルに近づく。よし、あのお方はまだ微動たりともしていない。
自分の手が、あの色気ゼロのブラにたどり着いた瞬間、自分の片腕をぐいっと引き寄せられて、また元いたベットに倒れこんでしまった。
うわぁっ。
ドテンとベットに尻餅したと思いきや、男が腕にもっと力をかけたので、ベットに横向きに寝転んでしまう。
目の前に、起きたての色っぽい最高のイケメンスマイルがあった。
ーーや、やばい。やっぱりこの方でした!!
「おはよう、僕の子リスちゃん。どこへ行くんだい?」
ーー今、イケメン朝スマイルコンテストあったら、間違いなく優勝。蓮司会長、満場一致で優勝ですよっと思う。
「こ、子リスちゃん?!!!え、意味が、あ、お、おはようございます」
なぜかベットにお互いに横になりながら、朝挨拶を交わしている。
「か、会長。今日は、か、会社は??」
「今日は土曜日だ。美代。お前の学校ないだろう?」
「え、あ、残念っ。いや。はい、ありません」
「かわいいな。やっぱりお前は・・」
「へほっ?」
美形から受ける褒め言葉は、まるで外国語のように意味がわからない。
「蓮司会長、なぜ、私はここに?」
「お前が酔っぱらってそのまま寝たんだ。お前はもう酒は禁止だ。飲むな。あ、俺の前だったら、多少ならいいかもな」
「すいませんでした。ごめんなさい。こんな泊まらせていただいてしまって!!」
ーーなぜ一緒に寝ていたのかとか、パジャマなのかが恐ろしくて聞けない。
「そっか。よかった。今日は、俺に付き合ってもらえないか?」
「へっ?」
「デートしよう!」
「はぁ? デート?」
「俺は、美代と普通のデートがしたい。どうだ?」
「え?」
ーーあの、これって断れるの? しかも、意味が全くわからない。
「あの、デートっていうのは?」
「男と女が一緒に何かをするんだ。交際前に行うのが重要だ。後でも、構わんらしいがな」
その説明の仕方があまりにも雑なので、もしやと思った事を口にする。
「え?もしかして、蓮司会長、デート未経験ですか?」
頭掻きながら、照れる会長がいる。こくんと頷いている。
「幻滅したか?この年までデートなんてした事がないなんて・・」
「え、あまりにも意外過ぎて、何をどう考えていいか、わかりません。だって、いつも女に囲まれてイチャイチャしているじゃないですか? え、待ってください!!デートってただ男と女が出かけることじゃないですよ。会長、その辺わかってます?」
「わかってる。お前はわかってるか?」
「!!!一応は・・わかっていると思います」
「あと、お前は勘違いしているようだが、俺は他の女とはイチャイチャしていない。あっちが勝手に寄ってくるんだ」
「はーーっ。そうかもしれませんね。会長ぐらいの美形のレベルってそうなんですね。すごいとしか言えないですね」
「でも、お前が一人に絞れというから、それからはなるべく襲われないように配慮はしているぞ」
「え?私はそんな事、言ったでしょうか?」
蓮司が美代の肩まで伸びた黒髪触る。その仕草でさえ、艶っぽいのは美代はずるいと思った。
「言ったよ。前にパジャマを着替えさせた時にな・・」
「え?えええええ?えええーーーーー!!」
すると突然、蓮司が美代を真剣に見つめた。
「美代。こんなベット中ですまん。リスでない、土屋美代に告白する。お前が好きだ。愛している。付き合ってくれ、俺と」
「・・・・」
美代は身体が金縛にかかったように動かなかった。




